説明

蛍光顕微鏡法におけるレーザー照射システム

表面上に整列または堆積した微視的対象の同定または分類を可能とする自動化収集およびイメージ解析のための装置および方法を開示する。そのような対象、例えば、検出可能に標識された希少標的細胞を磁気的または非磁気的に固定し化し、時間遅延積分イメージング(TDI)に付す。CellTracksRのようなイメージサイトメトリー分析へのTDI技術の導入は移動する対象を非常に高い感度および信号対ノイズ比で撮像することを可能とする。TDIカメラ技術に濃縮希少細胞のデュアル励起および多重スペクトルイメージングを付加することは、サイズ、モルホロジーおよび免疫発現型分類に基づき、撮像された希少細胞の検出、計数、分別およびキャラクタリゼーション用の高速システムを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、2006年5月12日に出願された米国仮出願第60/800,258号を基礎とする優先権の主張を伴う。
【0002】
本発明は、概略、対象のイメージ、より詳しくは、二次元平面に分布した体液から得られた細胞のごとき対象の部分的サブイメージから再構築されたイメージをスキャンし獲得するための装置および方法に関する。より詳しくは、本発明は、照射が関わる蛍光顕微鏡およびフローサイトメトリーに適用できる。
【背景技術】
【0003】
血液1mLあたり一つのガン細胞の頻度で存在するかもしれないガン患者の血中上皮由来の循環ガン細胞の同定および計数は、例えば、CellTracksR システム(Immunicon Corporation, Huntington Valley, PA)における磁気的濃縮およびイメージサイトメトリーを用いて検出されてきた。磁気的手段による上皮細胞濃縮と組み合わせた多重パラメータフローサイトメトリーとの組合せを用いることによって、健常者と乳ガン患者との間で、「循環細胞」の個数における顕著な差異が見つかった[Racila et al., Proc. Nat. Acad, Sci. 95, 4589-4594, 1998]。いくつかの研究において、そのような「循環腫瘍細胞」(CTC)は次の特徴:上皮細胞マーカーサイトケラチンに対して陽性、白血球マーカーCD45に対して陰性、核酸ダイでの陽性染色および細胞に適合する光散乱特性を発現するイベントとして定義される。検出されたイベントの細胞としてのモルホロジー確認およびさらなる分子的証拠がフローサイトメトリー法では欠如しているが、検出された希少なイベントが本当に一次腫瘍に由来する腫瘍細胞であることの確認が明らかに必要である。手動方法における異なるオペレーター間の細胞分類の本質的な誤差を低減するために自動イメージ解析システムが導入されているが、予備的な細胞濃縮を行わないそのような先行技術は、依然として、本来的に感度が欠如している。細胞分析用に、いくつかの自動細胞イメージングシステムが記載されている、あるいは市場で入手可能である。Chromavision, ACISTMによって開発されたこのシステムすなわち自動細胞イメージングシステム[Douglass et al., 米国特許第6,151,405号]は、自動コンピュータ制御顕微鏡および/または保健医療専門家の目視により観察されたサイズ、形状、色相、および染色強度によって、調製された細胞の微視的調査による色彩パターン認識を用いる。このシステムは、顕微鏡スライド上の細胞調査を用い、組織断片用に設計されている。Applied Imaging Corp.のSlideScanTMまたは MDSTM[Saunders et al., 米国特許第5,432,954号]が、自動化インテリジェント顕微鏡であって、細胞すなわち「対象」を色彩、強度、サイズ、パターンおよび形状を検出し、次いで、視覚認識および分類するイメージングシステムとして記載されている。ACISシステムに対して、このシステムは蛍光ラベルを検出する能力を有し、さらなる能力を備えている。しかしながら、これらおよびその他の現在利用可能な方法は、血中循環細胞のごとき希少イベントの正確な分類および判定に対して十分な感度ではない。
【0004】
かくして、イメージングシステム[米国特許出願10/612,144号]は、比較的速い速度で蛍光信号を検出するように開発され、標準フローサイトメトリーと同程度に作動する。このシステムは、免疫磁性粒子でまず標識することによる細胞の分離に基づく。これらの粒子は、当該標的細胞上に見出される特徴的な細胞表面抗原に特異的なモノクローナル抗体に結合したコロイド状常磁性粒子である。標的細胞集団に十分に結合したら、磁場で免疫磁性粒子−細胞コンプレックスをチャンバーの上部にまで上昇させ、そこで、細胞はニッケル線間に整列する。上皮細胞接着分子(上皮細胞接着分子;EpCAM)に対するモノクローナル抗体で上皮由来細胞を標的する場合、赤血球その他の非標識細胞はチャンバーの上部ガラス表面に上昇する標識細胞と分離する。これは既知の体積であるから、細胞の個数は容易に決定される。赤色ダイオードレーザー(635nm)を楕円ビームとしてニッケル線とともにチャンバー上に集光する。ニッケル線からの反射を整列細胞上のレーザービームのトラッキングおよびフォーカシングの信号として用いる。試料チャンバーをX−YステージでY方向に移動させ、レーザーを一度に一つのラインでスキャンする。整列細胞を一つずつ照射し、発光蛍光を光電子倍増管で測定する。この設計の利点は、標的細胞のみがチャンバーの観察部分の内面上に整列し、第1の分析が完了した後、整列細胞を容易に移動させることができることである。いずれの利点も、極度に小さな標的細胞の母集団でも、磁気的濃縮後、米国特許出願第10/612,144号に記載されたイメージングシステムで測定し得ることを保証する。多重標識実験により作成された蛍光データからの散布図を用いて希少イベントを選択する。チャンバーの観察部分の内面に整列した細胞で、細胞の下方にある流体を置換し、細胞をさらに分析し得る。
【0005】
先行技術は、例えば、25フレーム/秒のフレーム速度の標準フルフレーム型電荷結合素子(CCD)カメラに基づく。細胞を移動ステージまたはスキャニングミラーでスキャンする。このカメラで得られたイメージを互いに足し合わせて細胞の完全イメージを形成する。欠点は、スキャンするとき、レーザーが細胞の小領域のみしか照射しないことである。それゆえ、細胞全体を撮像するために、対象(すなわち細胞)をスキャンする必要があることである。十分なフォトンを獲得し、細胞の移動によるブレを防止するためには、ゆっくりとスキャンする必要がある。結果として、その時点で発光された全ての蛍光フォトンは無駄になる。そのカメラは、25fpsおよび40Mhzの高速読み出し速度にて、512×512ピクセルの読み出しに対して、総時間の約16%の間閉じている。
【0006】
蛍光顕微鏡法およびフローサイトメトリーに関して、レーザーでの照射はガウシアンビームプロファイルを使用して行われることが大半である。ガウシアンプロファイルから、撮像に有用な均質照射を有しているのはビームのほんの少量である。
【0007】
したがって、本発明は、CellSpotterTMシステムのごときイメージサイトメトリック分析に関連するように伝統的なCCD技術を向上させること、および血液その他の流体中のCTCのごとき、希少な標的種の検出、計数および正確な分類を可能とすることを追求する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
非特許文献1:Racila et al., Proc. Nat. Acad, Sci. 95, 4589-4594, 1998
非特許文献2:Tibbe et al., Nature Biotech. 17, 1210-13, 1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、Tibbeら[Nature Biotech. 17, 1210-13, 1999]によって記載されたように、CellTracksR分析システムのようなシステムに新規撮像能を適用することを可能とする装置および方法を向上させる。Tibbeによって記載され、また本発明の開示にあるその装置および方法は、他の標的対象にも適用し得る。しかしながら、主たる適用は、血液から希少細胞の迅速な免疫磁気的選択、その後の単離細胞の自動整列および自動イメージ解析である。
【0010】
本発明は、細胞の検出、分類および計数用の新規走査イメージング診断システムを提供し、それは体液由来の磁気的標的細胞を収集し整列させる十分に自動化された手段を含み、ここに、そのような収集された細胞は、異なる蛍光ラベルで標識された非標的細胞から標的を差別化する少なくとも一つの免疫特異的蛍光ラベルも有する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、新しいTDIスキャニングおよびイメージング技術を米国特許出願10/612,144号のイメージングシステムのごときシステムに組み込んで、高品位蛍光イメージを獲得し得る。ここに記載され特許請求される発見は、先行技術のシステムおよび方法に対して、希少細胞の検出、計数および分類に大きな向上をもたらした。非常に低頻度の細胞、いわゆる希少イベントの十分な検出は、細胞の損失を回避すべく最小限の試料ハンドリングが必要である。さらに、そこから希少細胞が分離され濃縮される体積は、検出感度を増強し得る程度に大きくなければならない。開示した新規技術の開発および適用で、今や、特定イベントの蛍光イメージを得ることができ、高度に正確な同定をもたらし、かくして、本発明のシステムを体液中の希少イベントの検出にとって強力なツールとする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】回転ディフューザーおよびマイクロレンズアレイを備えたビームホモジナイザーが導入された米国特許出願第11/344,757で議論された時間遅延積分システムにおけるホモジナイザーの位置を描写する概略図。
【図2】回転ディフューザーと組み合わせて矩形ホモジニアス・プロファイルを形成する一対のマイクロレンズアレイからなるビームホモジナイザー(Suss-MicroOptics, Neuchatel,Switserland)の概略図。
【図3】アクリジンオレンジを用いる均質層:(a)回転ディフューザーで減少されたコヒーレンス長。(b)回転ディフューザーなしで、コヒーレント光源の干渉ために生成された、フーリエ面での周期的構造。(c)走査方向に対して垂直な照射プロファイル。
【図4】矩形レンズアパチャーによって形成され、顕微鏡対物レンズのフーリエ面に一杯になり、CCDの検出領域とマッチする照射領域を生じるフラットトッププロファイル。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、蛍光顕微鏡法とビームホモジナイザーとを組み合わせて、レーザーで試料を照射する。ビームホモジナイザーは自動化蛍光顕微鏡法にとって特に有用である。
【0014】
照射領域を小領域にして、検出領域(CCD)のサイズに正確に適合でき、試料を不必要に漂白することがない(収集領域のみが照射される)。
【0015】
このホモジナイザーでの照射の均質性は、HBO照射のような他の方法よりもよい。ホモジナイザーは、可視波長領域全域(300〜850nm)に対して用いることができる。HBOと比較して、ビームホモジナイザーはレーザーを用いるが、より高いパワー密度が達成できる。このシステムのもうひとつの利点は、ビームプロファイルがレーザーの位置アライメントにおける小さな変化に対してあまり敏感でないことである。フローサイトメトリーにおいてガウシアンプロファイルの小さな部分を用いて、均質照射を得る、それゆえ、ほとんど照射パワーは用いられない。ビームホモジナイザーで、ほとんどすべての光を用い、無駄にしない。本発明は、小さな変動に対してあまり敏感でないホモジニアス・プロファイルおよびレーザーアライメントを提供する。
【0016】
Racilaら[Proc. Nat. Acad. Sci. 95, 4589-94, 1998]は、免疫磁気的標識、その後のフローサイトメーターでの免疫発現型解析を含む連続ステップを用いて血液から乳ガン細胞を分離する方法を記載した。米国特許出願第10/612,144号に記述したように、このイメージングシステムは、個々の細胞を免疫発現型分類および蛍光イメージの提供によるそれらの同定の確認が可能である。この手順は、全血にスパイクされた乳ガン細胞、SKBR3の培養細胞の検出によってテストされた。
【0017】
米国特許出願第10/612,144号に開示されたイメージングシステムは、フレーム速度25Hzの標準モノクロ監視用電荷結合素子(CCD)カメラで構成され、手動ゲイン調節を有する[米国特許出願第10/612,144号]。光ビームに取り外し可能なミラーを挿入してこの配列を用いて、コンパクトディスク(CD)対物レンズによって捕捉された蛍光を、単なるピンホールの代わりにCCD上の球面色消しレンズ(f=150mm)によって集光する。このCD対物レンズは、単一の非球面レンズからなり、現行のCDプレイヤーに用いられているものと同様に、波長780nmにて回折制限スポットサイズが得られるように最適化されている。このレンズの好ましい開口率(NA)は0.45で、レンズ径が4mmで、楕円形状のイメージが2つの円柱レンズによって作成され、それらのレンズは個々の焦点長の2倍より僅かに長い距離で置かれている。楕円焦点の短軸は4μm(FWHM)に設定され、それは細胞の直径よりも短く、いかなるときも唯一の細胞に焦点を制限する。長軸はNi線間隔よりも長い。Ni線上に集光された光は反射され、フィードバック制御に使用される。Ni線は0.5mm厚ガラス基板上に置かれる。ガラス基板を通して、CD対物レンズでレーザー光(635nm)をNi線上に集光することは、非均質レーザー焦点を生じる。
【0018】
イメージングシステムは、スライド上への遠心堆積を用いるサイトスピンシステムで通常観察されるように、細胞にストレスを与えたりひずませたりしない磁気的収集法に基づく。ゆえに、磁気的に整列された細胞はその本来の三次元形状および体積を維持する。ここに記載する装置および方法を用いて、細胞の共焦点イメージも獲得し得、したがって、細胞内の蛍光ダイの3D分布のより正確な測定を可能にすることによってイメージ品位を向上させる。
【0019】
測定イベントの完全イメージ(完全イメージとは組み合わされた複数のデジタル化サブイメージからなる再構成イメージと定義される。)は、位置情報の獲得によって得られる。以前に測定されたイベントのイメージ獲得の前に、そのイベントを試料チャンバー上に再配置される。その結果、各サブイメージのX−Y試料座標のごとき位置情報が必要である。Y方向の位置情報を得るため、マグネットおよび試料チャンバーの双方を移動させるステージが解像度0.2ミクロンを有するエンコーダに取り付けられている。特定イベントのサブイメージのライン番号を測定してX方向の位置情報を与える。エンコーダ信号は、ライン番号とともにメモリーに保存され、各サブイメージにつき光電子倍増管(PMT)から測定された信号と結合する。この様にして、全ての測定サブイメージイベントを試料のX−Y位置と関連付け、索引を付ける。
【0020】
特定のイベントまたはサブイメージが測定された場所に戻すため、レーザー焦点は現在のライン番号から特定のイベントが測定されたライン番号を差し引いてものと同等のラインの数分シフトする。同時に、ステージは特定のエンコーダ位置に向かってY方向に移動する。エンコーダ信号を得るための代替的な方法はNi線にプロファイルを付加して位置を記録することである。このアプローチは、さらに、試料を移動させるための著しい簡便かつ安価なステージの使用を許容する。さらに特記すべきは、Ni線を用いて細胞を整列させ、その細胞が対応するエンコーダ値で測定されるライン番号で再配置される間、本発明のイメージングNi線すなわち磁性線の存在に依存せず、細胞または着目する他の蛍光対象が存在するかまたは堆積し得るいかなる表面をも用い得る。スキャン方向のエンコーダデータのみが、保存され取り込まれたサブイメージの再構築に必要である。
【0021】
レーザー焦点の特定位置での強度プロファイルは、回転ディフューザーおよびマイクロレンズアレイ(SUSS-MicroOptics)の付加により非均質である。それゆえ、レーザー焦点での均一照射は、レーザー走査顕微鏡[Corle, TR, Confocal Scanning Microscopy and Related Imaging Systems, Academic Press, NY, 1995]で行われるように、ビーム中の光学部品の移動で細胞表面を横切ってレーザーでスキャンすることによる均質強度プロファイルで得られる。米国特許出願第10/612,144号のイメージングシステムにおいて、この方法による均一照射はフィードバックの損失を生じ、今度は、それが、X方向の位置情報の損失を生じる。強度プロファイルはY方向の焦点スポットイメージの個々のピクセル強度を足し合わせた後に得られる。10ミクロン間隔のNi線で、合算した強度プロファイルはライン間隔を横切って±6%の強度偏差を有する。この焦点を通って細胞を移動させれば、細胞がレーザー焦点を通過した後、細胞の全体がほとんど同一の照射を受ける結果となる。この方法を用いて、サブイメージの総和に基づく整列細胞の完全高品位蛍光イメージを得る。
【0022】
マグネットおよびチャンバーは、焦点を通って細胞をY方向に移動させるステージ上に配置する。特定細胞の完全イメージを得るために、特定のサブイメージが測定されたラインにレーザー焦点をシフトし、ステージを10mm/秒の速度で対応するエンコーダ位置に向かってY方向に移動する。細胞位置までの距離が25ミクロンになったら、ステージを5μm/秒に減速する。
【0023】
フレームグラバーカードはCCDサブイメージを25Hzで捕捉し、これらをメモリーに保存する。各連続サブイメージにおいて、細胞の異なる部分を照射する。なぜならば、スキャニング方向のレーザー焦点は細胞径よりも小さいからである。サブイメージ捕捉と共に、エンコーダ位置を読み取り、双方をコンピュータメモリーに保存する。全部で40ミクロンをスキャンし、それは各々が150×250ピクセルの200枚の捕捉サブイメージに相当する。互いに平均0.2ミクロンシフトしている。これはCCD表面上で2.63ピクセルに相当する。エンコーダ値を用いて、捕捉サブイメージを、相関付けられたエンコーダ値×2.63の差に相当するピクセル数分シフトし、次いで、それを合計すなわちまとめる。Y方向のサブイメージ解像度はエンコーダ解像度(0.2ミクロン)に依存する。X方向の解像度は、X方向に記録されたイメージにおけるピクセル数(0.07ミクロン/ピクセル)によって決定される。どちらの解像度も回折限界よりも小さい。それゆえ、当業者は、撮像光学系ではなく、エンコーダまたはカメラによって最大イメージ解像度が決定されることを理解するであろう。
【0024】
本発明のイメージング光学系の積分成分はイメージ全体の照射の均質性である。かくして、10ミクロンの間隔で置かれたNi線間に整列するように磁気的標識細胞と同一平面上に置かれた濃蛍光ダイ溶液の薄層で、プロファイルのこの均一性を評価する。このダイ層を、前記の通り、5μm/秒でスキャンし撮像する。蛍光ダイの均一層のため、照射が均一であれば、均質な蛍光イメージが期待できる。
【0025】
CCDの応答性は波長に依存し、デジタル数(DN)で表示される。Delsa Eclipseラインスキャナーは、可視領域における高い量子効率のため、高い応答性を有する。この応答性は、典型的には、センサーの各列において0dBにつき1950DN/(nJ/cm)である。
【0026】
いくつかのノイズ源がCCDカメラには存在する。主要な源は、読み出しノイズ、フォトンノイズ、および暗電流ノイズである。これらのノイズは、イメージングアレイ、読み出しレジスターおよびアウトプット構造に起因する。フォトンノイズは、フォトンがCCDに入射し、シリコン層内部で光電子に転換されることと定義される。これらの光電子は信号を含むが、あるポイントでフォトン到達速度のゆらぎの統計的変動を保持している。読み出しノイズはCCD上の電子信号を定量するプロセスにおいて発生する不確実性をいう。暗電流ノイズは熱発生電子の統計的変動に起因する。これらの電子は熱変動によってCCD材料から生じる。これら全てノイズ源が、信号対ノイズ比(SNR)として表現される全信号の質に寄与する。
【0027】
TDIなしのイメージングシステムにおいて、SNRは撮像スキャン速度を低下させて特定イベントのサブイメージを大量に捕捉することによって向上させて、より良い信号対ノイズ比を得る。しかしながら、イメージスキャン速度を低下させると、APC標識SKBR3細胞のイメージ品位には向上が観察されない。撮像スキャン速度の限界は、ダイ分子の光脱色速度によって決定される。SKBR3を二回目にスキャンするとCCDカメラでは蛍光が検出されず、ほとんどのAPC分子が、一回目のスキャンですでに光破壊されていることを示している。したがって、スキャン速度の低減は検出された蛍光信号に差異をもたらさず、蛍光バックグラウンドを増大させるだけであろう。したがって、最適なスキャン速度は個々のダイの特性に依存し、各蛍光ダイによって異なる。それゆえ、信号対ノイズ比を向上させるためには、より速くスキャンするのがよい。一方、25Hzのフレーム速度のカメラを用いたとき、5ミクロン/秒より速いスキャン速度は解像度の損失を生じる。なぜならば、捕捉イメージは0.2ミクロン以上離れるからである。より高いフレーム速度のCCDカメラが、解像度を損失させずにより速くスキャンするために必要である。標準監視用CCDカメラをより感度の高いカメラに置換することもぼんやりと染色された細胞のイメージングを可能にする。
【0028】
本発明で記載されるTDIカメラ付きのイメージングシステムにおけるSNRは、カメラ、総積分時間および積分中にCCDにヒットする信号フォトンの量に依存する。これらの信号フォトンは細胞に付着した蛍光ダイから生じる。蛍光信号フォトンの総量はこれらのダイについて一定ではなく、ダイの脱色による減少した総時間により低減する。その結果は、遅いスキャン速度(長い積分時間)にて集まったほとんどの蛍光が高いSNRを生じる。しかしながら、1秒あたり発光されるフォトン数が非常に少なく、暗電流が低いSNRを生じる電荷分布を支配する場合、スキャン速度は遅すぎるであろう。
【0029】
その結果、スキャン速度は最大SNRを得るために用いる特定のダイに調節すべきであろう。典型的な状況は、本発明のTDIイメージング装置で最高のSNRを得るために蛍光インジケータを用いる場合、試料ステージに対してY方向の最適スキャン速度を決定することであろう。SNRの依存性は脱色速度、レーザー照射および倍率に対してであろう。
【0030】
低いスキャン速度にて、SNRは速度の増加とともに向上する。SNRは照射パワーの増大とともに向上する。フォトンの総量が暗電流フォトンの量よりも多くなったとき、最大SNRが得られる。したがって、スキャニングが遅すぎる場合、SNRは減少し、蛍光発色団によって発光されるフォトンの率は十分には高くない。
【0031】
元来のイメージングシステム[米国特許出願第10/612,144号]は、いくつかの蛍光ラベルに対する励起源として赤色レーザーダイオードを用いる。エンコーダを用いて、細胞の位置情報を得、整列細胞を再配置する。
【0032】
TDIイメージング装置付きのCellTracksは、全ての赤色励起可能ダイおよびそれらのダイの発光を、使用できるダイの量を拡張し、さらに離れた発光スペクトルを有するための別の緑色レーザー(532nm)と共に、内包する(図1を参照)。この緑色レーザービームはビームエキスパンダーによって4倍に拡張される。円柱レンズで、楕円スポットを作り、CD対物レンズで集光した後、2つの焦点面を生じる。緑色レーザー光を反射し、赤色レーザー光を通過させるダイクロイックミラーを用いて2つのレーザー光を合わせる。緑色レーザースポットは赤色レーザースポットとオーバーラップする。色消しレンズをCDレンズと置き換えて、ビーム内で組み合わさった赤色および緑色レーザー光に対して同等の焦点面を得る。これは、ビームが平行に走ることを可能にする。ミラー/2色性ミラーの組合せを用いて、CCD上の異なる位置に赤色蛍光、その後緑色蛍光を投影する。次いで、PMTまたは、本発明でのごとくTDIカメラで蛍光信号を測定する。緑色蛍光をCCDの左側領域に投影し、赤色レーザー励起からの蛍光はCCDの右側領域に投影する。
【0033】
TDIカメラを用いたイメージに必要な倍率は位置エンコーダおよびカメラの解像度に依存する。好ましいエンコーダは、0.2ミクロンの解像度を持つHeidenhein MT 2571である。このエンコーダは0.2ミクロン毎にTTLパルスを発生し、TDIカメラおよびパルスのトリガーとして用いられ、ひとつのTDI行シフトをもたらす。
【0034】
矩形ピクセルイメージを達成するために、Y方向のピクセルサイズはX方向のピクセルサイズと等しい。各パルス後、TDI行をCCD上で、対応距離lp=13ミクロン分移動する。これは、この構成に対して、倍率13/0.2=65をもたらす。別の倍率を用いるため、カウンターを用いる。このカウンターは、エンコーダの1、2、4、6、・・・パルス後に、1TTLパルスを与える。このカウンターで、以下の倍率を用い得る。
【0035】
エンコーダを用いるとき、設定はある倍率に制約され、対象の動きとTDI行のシフトとが同調することを保証するように補正されることがきわめて重要である。ステージの倍率とカメラとのミスマッチがイメージのピンボケをもたらす。倍率が大きすぎるか小さすぎる場合、イメージは、それぞれ、前方または後方に引き延ばされる。倍率が同調している場合、X−Yステージの速度は変化するがカメラの最大および最小ライン速度によって限定される。カメラの最小ライン速度は約100Hzであり、0.01秒のライン時間および全TDIステージにつき0.96秒の総露出時間に相当する。エンコーダを用いない場合も、ライン速度およびX−Yステージの速度はある倍率に対して固定値を有する。
【0036】
イメージ解像度、特に横方向の解像度は、波長、焦点距離および入射径に依存し、全て対物レンズの回折限界で限定される。本発明で検討されている対物レンズのひとつはSony CDピックアップシステム(KSS-210ARP)である。このCDシステムのアキュレータを焦点距離f=3.8mm、開口率NA=0.45、および開口径D=4mmで用いる。CDレンズは720nmで作動するように設計され、それゆえ、他の波長に対して球面かつ色消しの収差を生じることが予想され、それは解像度を低下させる。
【0037】
エンコーダの解像度はM=65で0.2ミクロンであり、CCD列をシフトして、照射は常に2つのピクセルに広げられて、イメージに対して0.4ミクロンの解像度を生じる。この解像度は、光学的限界よりも高く、光学的解像度によって限定される。
【0038】
X方向において、スキャニング方向とTDI行との間のミスマッチが解像度の低下をもたらす。細胞の動きはTDI行と平行であるべきである。Y方向において、倍率のミスマッチもオーバーラップするピクセルによるピンボケ効果で解像度の低下を招く。
【0039】
収集および照射効率はレンズの集光力(NA)によって決定される。本発明において、ピックアップアキュレータ内でCDレンズを色消しレンズと置き換える。この色消しレンズは7.5mmの焦点距離および6.5mmの入射開口を有している。NAは約0.27である。立体角は色消しレンズで0.21であり、CDレンズの立体角0.72と置き換える。色消しレンズを緑色レーザーにも用いて、同一の焦点距離を有するようにする。しかしながら、色消しレンズの立体角はCDレンズの立体角よりも非常に小さい。立体角は収集した光の強度に比例するので、CDレンズは色消しレンズよりも効率的である。色消しレンズは、(フォトンの照射および収集の双方に対して約15の因子で)感度が制限されるが、第2のレーザーを付加するにはより簡便であり、システムのトラッキングおよびフォーカシングを可能とする。開口率(NA>0.5)のより高いNAを有する色消しレンズが好ましい。これはより高いSNRおよびより高い解像度をもたらす。本発明も顕微鏡対物レンズの使用を検討するが、このタイプの対物レンズはトラッキングおよびフォーカシング機構の変更を余儀なくする。
【0040】
蛍光発光のイメージングおよびスペクトル分離のため、プリズムまたはフィルターの組合せを用い得る。ダイクロイックミラーの使用の代わりに、CCDの前にプリズムを挿入する。直視プリズムでは、屈折角は波長に依存し、屈折角は光の入射線とほぼ平行である。蛍光がスペクトルオーバーラップなしで分離されているイメージを得るために、スペクトル分離は最大細胞サイズより大きく分離するのに十分大きくなければならない。例えば、最大細胞サイズが20ミクロンの場合、APCとPEとの発光は約100nm離れており、発光のバンド幅は約10nmであって、X方向に2ミクロンのピクセル解像度をもたらす。かくして、より小さな発光スペクトルのダイが0.7から約1ミクロンの光学的解像度を得るのに必要である。ダイクロイックミラー/ミラーの組合せも用い得、これによって、光波長側パスフィルターおよびほぼ平行なミラーを用いて、蛍光発光を2つの別個の領域に分離し得る。例えば、緑色レーザーで励起したPEの発光は、フィルター表面で反射するが、APCの発光はフィルターを通過し、ミラーで反射する。
【0041】
CellTracksのごときイメージングシステムへのTDIイメージングの付加は、スキャニングミラーおよびフルフレーム型CCDでの解析と比較して、良好なイメージ解像度および向上した信号対ノイズの方法を提供する。10秒程度のTDIイメージング以下で1ラインを撮像する時間分、スキャン速度も速める(1.5mm/秒の速度)。以前の方法はこの時間でたった1つの細胞を測定するだけであろう。デュアル励起レーザーで、1を超えるダイの蛍光発光を撮像することが可能である。同一の吸収スペクトルを有するが異なる発光スペクトルを有するダイは、互いに近接する発光を有し、これらのダイを撮像するためには狭いバンド幅のフィルターが要求される。
【0042】
レーザースポットを通過するときに同一光量で各細胞を照射するために、イメージ・サイトメーターには試料の均質照射が重要であり、一方、非均質照射はCCDを通って検出された蛍光信号に変化を生じる。試料の不必要な漂白を防止し、信号収集を最大限にするために、照射領域もCCD検出器のサイズと正確にマッチすべきである。これを達成するためには、図2に示すようにビームホモジナイザー(Suss-MicroOptics, Neuchatel, Switserland)を使用する。それは、回転ディフューザーと組み合わせた一対のマイクロレンズアレイから構成され、矩形ホモジニアス・プロファイルを形成している。
【0043】
図3に示すように、レーザービームのコヒーレンス長を低減して2つのマイクロレンズアレイでの干渉効果を防止するために、ホモジナイザー前に回転ディフューザーが必要である。マイクロレンズは周期的構造から構成され回折格子のように機能し、周期ΔFPで、フーリエ面におけるスポット径δxの回折スポットを生成する。
【0044】
【数1】

【0045】
第1の矩形マイクロレンズアレイLAは、入射ビームを次のマイクロレンズアレイLAに集光し、複数のポイント源を生じる。図4に示すこれらすべての矩形レンズアパチャーをフーリエレンズ(顕微鏡対物レンズ)で撮像し、フーリエ面に重ね合わせて、矩形フラットトップを形成する。このフラットトップのサイズは下式で定義される。
【0046】
【数2】

【0047】
第2のレンズアレイのレンズアパチャーが一杯になってレンズ間のクロストークや不明瞭な境界のフラットトッププロファイルを生じない限り、2つのマイクロレンズアレイ間の距離をわずかに変化させることによって、フラットトップのサイズを調節できる。フラットトップサイズは異なる顕微鏡対物レンズを用いることによっても調節できる;これは有用であるが、対物レンズの焦点距離は倍率にほぼ反比例し、異なる倍率で顕微鏡対物レンズを用いるとき、CCD検出器のサイズとマッチする照射領域を生じる。図3に示すように、アクリジンオレンジの均質層を用いて、走査方向に直角なビームプロファイルを決定する。得られたプロファイルは約200×200ミクロンである。
【0048】
本発明のスキャニングおよびイメージングシステムは前記の好ましい具体例に限定されないことは、当業者にとって明白であり、前記したように、これらの改良を含む本発明の好ましい具体例は、本発明が多くの分野および細胞診断および一般的な特定の標的種に対するアプリケーションに採用されることを可能にすることが分かった。以下の実施例は本発明を具体的に例示するが、それによって範囲は限定されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的部分を分析イメージングする方法であって、
(a)前記標的部分を含有する疑いのある試料を取得し;
(b)前記標的部分を蛍光発色団で標識し;
(c)前記標的部分を収集面に向けて操作し;
(d)前記収集された標的部分を、ビームホモジナイザーを有するレーザーで照射し、ここに、照射は前記標的部分を通して均質であり;次いで、
(e)前記標的部分を蛍光顕微鏡法によって撮像し、ここに、前記蛍光顕微鏡法がホモジニアス蛍光イメージを発生させることを特徴とする分析イメージング方法。
【請求項2】
前記標的部分が、細胞、サブ細胞成分、核酸およびタンパク質よりなる群から選択される、請求項1の方法。
【請求項3】
前記操作が、前記標的部分に特異的な磁性粒子で磁気標識することによってなされる、請求項1の方法。
【請求項4】
磁気標識された粒子をNi線間に整列させる、請求項3の方法。
【請求項5】
前記撮像がサブイメージの成分解析である、請求項1の方法。
【請求項6】
前記サブイメージが時間遅延積分によって獲得される、請求項5の方法。
【請求項7】
標的部分を分析イメージングする装置であって、
(a)試料チャンバー;
(b)前記標的部分を撮像するための収集面;
(c)ビームホモジナイザー手段を有するレーザー、ここに、前記ホモジナイザー手段は前記標的部分の均質照射を提供し;
(d)前記標的部分を撮像するためのカメラ;および
(e)コンピュータ
を含む装置。
【請求項8】
前記標的部分を前記収集面に向けて操作することができ;前記標的部分のサブイメージの蛍光を捕捉することができ;前記サブイメージを再結合させて、前記標的部分の完全イメージを構築することができる、配列手段。
【請求項9】
前記照射手段が蛍光である、請求項8の装置。
【請求項10】
前記カメラがモノクロ電荷結合素子である請求項8の装置。
【請求項11】
前記標的部分が細胞、サブ細胞成分、核酸およびタンパク質よりなる群から選択される、請求項8の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−537021(P2009−537021A)
【公表日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−510964(P2009−510964)
【出願日】平成19年5月3日(2007.5.3)
【国際出願番号】PCT/US2007/010727
【国際公開番号】WO2007/133465
【国際公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(309021320)ベリデックス・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー (7)
【氏名又は名称原語表記】Veridex,LLC
【Fターム(参考)】