説明

蛍光X線分析による被膜分析方法及び装置

【課題】 メッキ被膜の微量成分検査等において、分析目的元素が被膜又は下地のどちらか又は両方に含まれているかを迅速に判別する方法を提供する。
【解決手段】 被膜のみに含まれている分析目的元素から発生する2種類の特性X線ピーク強度測定値の強度比n(=Bp/Ap)及び下地のみに含まれている分析目的元素から発生する2種類の特性X線ピーク強度測定値の強度比m(=Bb/Ab)が被膜の膜厚に応じて変化する関係を表す関係式を用いて、膜厚が既知のとき、膜厚に対応するnとmを被膜及び下地について関係式により求め、nとm及び2種類の特性X線ピーク強度測定値A(=Ap+Ab)とB=Bp+Bb)とから、AとBを下地に起因する測定強度の推定値(Ab、Bb)と被膜に起因する測定強度の推定値(Ap、Bp)にそれぞれ分離して求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下地上に形成された被膜及びその下地に含まれる微量元素を、蛍光X線分析装置を用いて定量分析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光X線分析法は、ppmレベルの微量元素の定量分析を精度良く行える分析法として材料開発や製品検査等に広く用いられている。またメッキ被膜等の膜厚を簡単に行う方法としても知られている。例えば、特許文献1の特開平10−221047号公報には、組成比が既知の標準試料を被測定薄膜の裏側におき、標準試料から発生した蛍光X線が被測定薄膜によって受ける吸収の大きさから被測定薄膜の膜厚を求める技術が開示されている。また、特許文献2の特開昭58−50412号公報にはエネルギーの異なるn種類の放射線を照射して得られた蛍光X線強度データに基づいて、金属被膜の膜厚又は金属被膜中に含まれるn種類の元素の含有量を同時に求める方法が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平10−221047号公報
【特許文献2】特開昭58−50412号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、めっき被膜中に鉛やカドミウム等の有害元素が一定量以上含有されていることを禁ずる環境規制(例えばヨーロッパの「RoHS指令」等)が強化されている。そのため、めっき被膜中のこれら有害金属の含有量を精度良く分析する必要性が高まっている。図8は、蛍光X線分析装置を用いて、メッキ試料に含まれる分析目的元素の鉛(以下、元素記号「Pb」で表すことがある)を分析する例を模式的に表した図である。図8(a)において、X線源から試料に照射された一次X線はメッキ層を透過して下地にまで達するため、メッキ層と下地の両方から発生した鉛の特性X線(蛍光X線)がX線検出器によって検出される。検出されたX線はスペクトルとして図8(b)のように表示される。なお、鉛の特性X線には、図8(b)に示したPb−Lα、Pb−Lβ以外にもPb−Lγ線など多数存在するが、判りやすくするため他の特性X線ピークに比較して強度の高い二種類の特性X線のみを示している。
【0005】
しかし、図8(b)に示すような鉛の特性X線ピークが得られた場合、従来の分析法では同じエネルギーを持つ特性X線であれば被膜と下地のどちらから発生したかを区別できないので、分析目的元素がめっき被膜中に含まれているのか、又は下地に含まれているのか、又は両方に含まれているのかを判別できなかった。鉛やカドミウム等の有害元素が試料のどの部分にどれだけ含まれているかを迅速に知ることは品質管理上極めて重要である。また従来の分析法では、一次X線を照射する面積の不足する小さな試料や、リード線や丸棒のように分析高さを正規の位置にセットすることが難しい試料の場合は正確な分析が困難であるという問題もある。
【0006】
本発明は、めっき被膜の微量成分検査等において、分析目的元素が被膜又は下地のどちらか又は両方に含まれているかを迅速に判別する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の問題を解決するために、請求項1記載の発明は、
試料にX線を照射し、該試料から発生する二次X線を用いて元素分析を行う蛍光X線分析法であって、
下地上に被膜が形成された分析対象試料の分析において、
被膜のみに含まれている分析目的元素から発生する2種類の特性X線ピーク強度測定値の強度比及び下地のみに含まれている分析目的元素から発生する2種類の特性X線ピーク強度測定値の強度比が該被膜の膜厚に応じて変化する関係を予め求めておき、
該分析対象試料の被膜の膜厚が既知のとき、被膜及び下地について前記分析対象試料の被膜の膜厚に対応する前記2種類の特性X線ピーク強度測定値の強度比を該関係に基づいて求め、該関係に基づいて求められた該強度比と該分析対象試料についての前記2種類の特性X線ピーク強度測定値とから、前記2種類の特性X線ピーク強度測定値を下地に起因する測定強度の推定値と被膜に起因する測定強度の推定値とにそれぞれ分離して求めることを特徴とする。
また請求項2記載の発明は、前記分析目的元素が鉛であるとき、前記2種類の特性X線ピークは、Pb−LαとPb−Lβの組み合わせ又はPb−KαとPb−Kβの組み合わせ又はPb−MαとPb−Mβの組み合わせの何れかであることを特徴とする。
また請求項3記載の発明は、前記被膜がニッケルメッキであることを特徴とする。
また請求項4記載の発明は、前記下地に起因する測定強度の推定値と被膜に起因する測定強度の推定値とにそれぞれ分離して求められたX線強度に基づいて、下地及び/又は被膜中の分析目的元素の含有量をそれぞれ分離して求めるようにしたことを特徴とする。
また請求項5記載の発明は、試料にX線を照射し、該試料から発生する二次X線を用いて元素分析を行う蛍光X線分析法であって、
下地上に被膜が形成された分析対象試料の分析において、
被膜のみに含まれている分析目的元素から発生する2種類の特性X線ピーク強度測定値の強度比及び/又は下地のみに含まれている分析目的元素から発生する2種類の特性X線ピーク強度測定値の強度比が該被膜の厚さに応じて変化する関係を表す関係を予め求めておき、
該分析目的元素が分析対象試料の被膜又は下地の何れか一方のみに含まれていることが判っているとき、分析対象試料の被膜又は下地から発生する前記2種類の特性X線ピーク強度測定値の強度比に対応する該被膜の膜厚を該関係から求めることを特徴とする。
また請求項6記載の発明は、試料にX線を照射し、該試料から発生する二次X線を用いて元素分析を行う蛍光X線分析装置であって、
下地上に被膜が形成された試料の被膜のみに含まれている分析目的元素から発生する2種類の特性X線ピーク強度測定値の強度比及び/又は下地のみに含まれている分析目的元素から発生する2種類の特性X線ピーク強度測定値の強度比が該被膜の膜厚に応じて変化する関係を表すデータを記憶する記憶手段と、
下地上に被膜が形成された分析対象試料の被膜の膜厚が既知のとき、前記分析対象試料の被膜の膜厚に対応する前記2種類の特性X線ピーク強度測定値の強度比を被膜及び下地について前記記憶手段に記憶されているデータを用いて求め、該データを用いて求められた強度比と前記分析対象試料についての前記2種類の特性X線ピーク強度測定値とから、前記2種類の特性X線ピーク強度測定値を下地に起因する測定強度の推定値と被膜に起因する測定強度の推定値とにそれぞれ分離して求める演算手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載の発明によれば、分析対象試料に含まれる分析目的元素から発生する特性X線ピークの測定強度を、下地に起因する測定強度の推定値と被膜に起因する測定強度の推定値とにそれぞれ分離して求めることができるので、分析目的元素が下地に存在するのか被膜中に存在するのかを知ることができる。また、下地と被膜の両方に入っている場合にも、それぞれから発生する特性X線の測定強度を定量的に知ることができる。また、特性X線の測定強度比を利用することにより、一次X線を照射する面積の不足や、リード線や丸棒のように分析高さを正規の位置にセットすることが難しいという試料の形状に起因する分析精度の低下を避けることができる。
【0009】
また請求項2記載の発明によれば、分析目的元素が鉛であるとき、鉛が下地に存在するのか被膜中に存在するのかを知ることができる。また、鉛が下地と被膜の両方に入っている場合にも、それぞれを分離して分析することができる。
【0010】
また請求項3記載の発明によれば、ニッケルメッキ試料のとき、分析目的元素が下地に存在するのかニッケルメッキ中に存在するのかを知ることができる。また、下地とニッケルメッキの両方に入っている場合にも、それぞれを分離して分析することができる。
【0011】
また請求項4記載の発明によれば、下地及び被膜中の分析目的元素の含有量を別々に求めることができる。
【0012】
また請求項5記載の発明によれば、分析対象試料の膜厚が不明の場合でも、該分析目的元素が分析対象試料の被膜のみに含まれているか又は下地のみに含まれているかが判っていれば、膜厚を求めることができる。
【0013】
また請求項6記載の発明によれば、分析対象試料に含まれる分析目的元素から発生する特性X線ピークの測定強度を、下地に起因する測定強度の推定値と被膜に起因する測定強度の推定値とにそれぞれ分離して求めることができる手段を備えた蛍光X線分析装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。但し、この例示によって本発明の技術範囲が制限されるものでは無い。
【0015】
図5は、本発明を実施する蛍光X線分析装置の概略構成例を示す図である。図5において、試料1はメッキ層1aが下地1bの上に形成されている。X線源2から試料1に一次X線が照射され、試料1から発生した蛍光X線はX線検出器4により検出される。X線源2と試料の間には一次X線フィルタ7とコリメータ9、試料1とX線検出器4との間にはコリメータ10が配置されている。X線源からX線を発生させるための発生器電源3と一次X線フィルタを制御するためのフィルタ制御系8は制御系6に接続されている。また、X線検出器4からの検出信号はX線計数系5を介して制御系6に送られる。制御系6には本発明を実施するために必要な種々の演算を行うための演算手段11が設けられており、また本発明を実施するために必要な関係等のデータを記憶する記憶手段12が接続されている。
【0016】
図1に、本発明の基本的考え方を説明するための模式図を示す。図1の(a)と(b)は、下地に鉛(分析目的元素)を含まずメッキ層のみに含む場合に鉛の二種類の特性X線(Pb−LαとPb−Lβ)のスペクトル得る方法を示す図である。鉛の二種類の特性X線がメッキ層からのみ発生する場合、Lα線とLβ線の強度比がメッキ厚の変化に応じて変化する割合はそれほど大きくない。しかし、Lβ線の方がLα線に比べて高エネルギーのため自己吸収が少ないので、メッキ厚が大きくなるほどLβ/Lα強度比が増加するはずである。図3のグラフは、膜厚の異なるいくつかのメッキ試料を用いて、メッキ厚に対するメッキ層からの鉛の特性X線の測定強度比(Lβ/Lα)変化を測定して作成した関係である。Lβ/Lα強度比はメッキ厚が増加するにつれて、無限厚の場合の測定強度比に近づくように漸増している。
【0017】
ここで、下地成分及びメッキ成分が図3のグラフを作成した試料と同じとき、もし分析対象試料のメッキ層のみに鉛が含まれていて下地には含まれていないことが判っていれば、鉛の特性X線の測定強度比(Lβ/Lα)を測定するだけで、図3のグラフを用いてメッキ層の膜厚が求まることを示している。
【0018】
次に、メッキ層に鉛を含まず下地のみに含む場合について説明する。図1の(c)と(d)は、メッキ層に鉛を含まず下地のみに含む場合に鉛の二種類の特性X線(Pb−LαとPb−Lβ)のスペクトル得る状態を示す図である。下地からのみ発生した鉛の特性X線の下地による自己吸収の影響はあまり大きくないが、鉛を含まないメッキ層により吸収を受けるのでメッキ厚が大きくなるほどLα線とLβ線の吸収される割合が変わる。図4のグラフは、膜厚の異なるいくつかのメッキ試料を用いて、メッキ厚に対する下地からの鉛の特性X線の測定強度比(Lβ/Lα)変化を測定して作成した関係である。膜厚がゼロのときに強度比が1となるようにノーマライズしてある。Lβ/Lα強度比はメッキ厚が増加するにつれて、急激に増加していくことがわかる。
【0019】
ここで、下地成分及びメッキ成分が図4のグラフを作成した試料と同じとき、もし分析対象試料の下地のみに鉛が含まれていてメッキ層には含まれていないことがわかっていれば、鉛の特性X線の測定強度比(Lβ/Lα)を測定するだけで、図4のグラフを用いてメッキ層の膜厚が求まることを示している。
【0020】
上記の図3及び図4に示したデータは図1の記憶手段12に記憶され、必要に応じて演算手段により呼び出されて、種々の計算に使用される。実際の演算に使用される場合は、メッキ厚と強度比との関係をそれぞれのグラフに適した近似式で表して使用してもよい。
【0021】
なお、上記説明において、図3及び図4のグラフはメッキ厚と特性X線の測定強度比の関係を実測により求めた例を示しているが、メッキ層と下地の組成及び分析条件が決まれば理論計算によってこの関係を求めておくこともできる。
【0022】
次に、図1の(e)と(f)に示すようなメッキ層と下地の両方に鉛が含まれている場合について説明する。メッキ層と下地の両方に鉛が含まれている場合は、(b)と(d)が重畳したスペクトルが得られることになる。なお、下地から発生したLα線とLβ線がメッキ層で受ける吸収は、メッキ層に鉛が含まれている場合と全く含まれていない場合とでは若干異なるが、鉛が微量(主成分でない程度に少なければ良い)であればその違いは殆ど無視することができる。
【0023】
図1の(f)に示されるPb−LαとPb−Lβの測定強度及び測定強度比(Lβ/Lα)は、メッキ層と下地から発生する鉛の特性X線の強度及びメッキ層の膜厚に依存して変化する。そこで図2に示すように、メッキ層からのみ発生するLα線とLβ線の測定強度の推定値をそれぞれApとBp、下地からのみ発生するLα線とLβ線の測定強度の推定値をそれぞれAbとBb、実際に観測されるLα線とLβ線の測定強度をAとBとおくと、
A=Ap+Ab
B=Bp+Bb
である。
また、メッキ層からのみ発生するLα線とLβ線の測定強度比をn、下地からのみ発生するLα線とLβ線の測定強度比をmとおくと、
n=Bp/Ap
m=Bb/Ab
である。
【0024】
ここで、下地成分及びメッキ成分が図3及び図4のグラフを作成した試料と同じとき、メッキ層の膜厚が与えられれば、図3及び図4の関係からそれぞれnとmを求めることができる。また、AとBは測定によって得られる値であるから、上記のA、B、n、mに関する4つの式をAp、Bp、Ab、Bbの連立方程式として解くことができる。即ち、
Ap=(B−m×A)/(n−m)
Bp=n×(B−m×A)/(n−m)
Ab=(B−n×A)/(m−n)
Bb=m×(B−n×A)/(m−n)
が得られる。
【0025】
以上述べたようにして、メッキ層の膜厚が判っていれば、実際に測定できる試料からの測定強度(A、B)をメッキ層からのみ発生するLα線とLβ線の測定強度の推定値(Ap、Bp)と、下地からのみ発生するLα線とLβ線の測定強度の推定値(Ab、Bb)に分離して求めることができる。
【0026】
分離して求められた鉛のX線強度からメッキ層に含まれる鉛の濃度への変換は、メッキ層のみに鉛を含み下地には含まない複数の標準試料を用いて作成された検量線を用いて行えばよい。しかし、この検量線が作成された標準試料のメッキ層の膜厚と分析対象試料のメッキ層の膜厚は同じであるとは限らない。そのため、分析対象試料の膜厚で得られるX線強度を、検量線を作成した標準試料の膜厚に対応するX線強度に換算する必要がある。この換算のために、図6に示すようなメッキ厚とX線強度の無限厚比との関係を用いる。
図6はニッケルメッキ層から発生したPb−Lαの測定強度とメッキ厚との関係を表すグラフである。例えば、分析対象試料のメッキ厚が3μm(3.42mg/cm)で、検量線を作成した標準試料のメッキ厚が5μm(5.7mg/cm)であるとき、Pb強度の無限厚比はグラフからそれぞれ6.2と8.0となる。従って、メッキ層に含まれる鉛の濃度を求めるための検量線に使用するLα線の強度は、Ap×(8.0/6.2)となる。
【0027】
また、分離して求められた鉛のX線強度から下地に含まれる鉛の濃度への変換は、下地と主成分が同じ組成で異なる濃度の鉛を含むの複数の標準試料を用いて作成された検量線を用いて行えばよい。但し、分析対象試料から得られた分離されたX線強度は、メッキ層を通過して強度が低下した値である。そこで、図7に示すようなメッキ厚とX線強度の低下比との関係を用いてメッキ層が無い場合のX線強度に換算する。図7は、下地から発生したPb−Lαの測定強度とニッケルメッキ層で吸収されて強度が減衰する低下比とメッキ厚との関係を表すグラフである。例えば、メッキ厚が3μm(3.42mg/cm)の場合、低下比はグラフから0.36となる。従って、下地に含まれる鉛の濃度を求めるための検量線に使用するLα線の強度は、Ab/0.36となる。
【0028】
上記した図6及び図7の関係を用いて換算されたX線強度を求める方法は、メッキ層と下地に含まれる鉛(分析目的元素)の含有量を求めるときに検量線を用いることを前提としている。しかし、薄膜FP法(Fundamental parameter法)の計算ルーチンに、メッキ層と下地から発生する鉛のX線強度の測定強度比を求めるアルゴルリズムを組み込むことにより、鉛以外の主成分元素の濃度を求めるのと同じ扱いで自動的にメッキ層と下地に含まれる鉛の濃度を分離して求めることが可能である。
【0029】
上記の本発明の実施の形態を説明した中で、下地上に形成された被膜をメッキ層若しくはニッケルメッキ層、分析目的元素を鉛の例を用いて説明しているが、これに限定される必要は無く、例えば分析目的元素はカドミウム等の有害金属であってもよい。さらに、被膜はメッキ層に限られるわけでもない。
【0030】
また、分析に用いる二種類の特性X線としてLα線とLβ線の組み合わせ例を用いて説明したが、この組み合わせに限られる必要は無く、例えばLα線とLγ線等の組み合わせでもよいし、Kα線とKβ線、Mα線とMβ線の組み合わせか若しくはLα線とMα線等のK、L、M系列の特性X線の組み合わせを用いてもよい。
【0031】
以上のように、本発明によれば、分析対象試料に含まれる鉛(分析目的元素)から発生する特性X線ピークの測定強度を、下地に起因する測定強度の推定値と被膜に起因する測定強度の推定値とにそれぞれ分離して求めることができるので、被膜の膜厚が判れば鉛が下地に存在するのかメッキ層中に存在するのかを知ることができる。また、下地とメッキ層の両方に入っている場合にも、分離された鉛の特性X線の測定強度からそれぞれに含まれている鉛の含有量を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の基本的考え方を説明するための模式図。
【図2】メッキ層と下地からの特性X線の測定強度を分離する方法を説明するための図。
【図3】メッキ厚に対するメッキ層からのPb特性X線の強度比変化の関係を示すデータの例。
【図4】メッキ厚に対する下地からのPb特性X線の強度比変化の関係を示すデータの例。
【図5】本発明を実施する蛍光X線分析装置の概略構成例の示すブロック図。
【図6】メッキ厚とメッキ層からのPb特性X線強度との関係を示す関係の例。
【図7】メッキ厚と下地からのPb特性X線強度との関係を示す関係の例。
【図8】メッキ試料に含まれる有害金属(鉛)を蛍光X線分析法で分析する例を説明するための模式図。
【符号の説明】
【0033】
(同一または類似の動作を行うものには共通の符号を付す。)
1 試料 2 X線源
3 発生器電源 4 X線検出器
5 X線計数系 6制御系
7 一次X線フィルタ 8 フィルタ制御系
9、10 コリメータ 11 演算手段
12 記憶手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料にX線を照射し、該試料から発生する二次X線を用いて元素分析を行う蛍光X線分析法であって、
下地上に被膜が形成された分析対象試料の分析において、
被膜のみに含まれている分析目的元素から発生する2種類の特性X線ピーク強度測定値の強度比及び下地のみに含まれている分析目的元素から発生する2種類の特性X線ピーク強度測定値の強度比が該被膜の膜厚に応じて変化する関係を予め求めておき、
該分析対象試料の被膜の膜厚が既知のとき、被膜及び下地について前記分析対象試料の被膜の膜厚に対応する前記2種類の特性X線ピーク強度測定値の強度比を該関係に基づいて求め、該関係に基づいて求められた該強度比と該分析対象試料についての前記2種類の特性X線ピーク強度測定値とから、前記2種類の特性X線ピーク強度測定値を下地に起因する測定強度の推定値と被膜に起因する測定強度の推定値とにそれぞれ分離して求めることを特徴とする蛍光X線分析法。
【請求項2】
前記分析目的元素が鉛であるとき、前記2種類の特性X線ピークは、Pb−LαとPb−Lβの組み合わせ又はPb−KαとPb−Kβの組み合わせ又はPb−MαとPb−Mβの組み合わせの何れかであることを特徴とする請求項1に記載の蛍光X線分析法。
【請求項3】
前記被膜がニッケルメッキであることを特徴とする請求項1乃至2の何れかに記載の蛍光X線分析法。
【請求項4】
前記下地に起因する測定強度の推定値と被膜に起因する測定強度の推定値とにそれぞれ分離して求められたX線強度に基づいて、下地及び/又は被膜中の分析目的元素の含有量をそれぞれ分離して求めるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の蛍光X線分析法。
【請求項5】
試料にX線を照射し、該試料から発生する二次X線を用いて元素分析を行う蛍光X線分析法であって、
下地上に被膜が形成された分析対象試料の分析において、
被膜のみに含まれている分析目的元素から発生する2種類の特性X線ピーク強度測定値の強度比及び/又は下地のみに含まれている分析目的元素から発生する2種類の特性X線ピーク強度測定値の強度比が該被膜の厚さに応じて変化する関係を表す関係を予め求めておき、
該分析目的元素が分析対象試料の被膜又は下地の何れか一方のみに含まれていることが判っているとき、分析対象試料の被膜又は下地から発生する前記2種類の特性X線ピーク強度測定値の強度比に対応する該被膜の膜厚を該関係から求めることを特徴とする蛍光X線分析法。
【請求項6】
試料にX線を照射し、該試料から発生する二次X線を用いて元素分析を行う蛍光X線分析装置であって、
下地上に被膜が形成された試料の被膜のみに含まれている分析目的元素から発生する2種類の特性X線ピーク強度測定値の強度比及び/又は下地のみに含まれている分析目的元素から発生する2種類の特性X線ピーク強度測定値の強度比が該被膜の膜厚に応じて変化する関係を表すデータを記憶する記憶手段と、
下地上に被膜が形成された分析対象試料の被膜の膜厚が既知のとき、前記分析対象試料の被膜の膜厚に対応する前記2種類の特性X線ピーク強度測定値の強度比を被膜及び下地について前記記憶手段に記憶されているデータを用いて求め、該データを用いて求められた強度比と前記分析対象試料についての前記2種類の特性X線ピーク強度測定値とから、前記2種類の特性X線ピーク強度測定値を下地に起因する測定強度の推定値と被膜に起因する測定強度の推定値とにそれぞれ分離して求める演算手段とを備えたことを特徴とする蛍光X線分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−57977(P2008−57977A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−231426(P2006−231426)
【出願日】平成18年8月29日(2006.8.29)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】