説明

蛍光X線分析方法および蛍光X線分析システム

【課題】蛍光X線スペクトルによる組成分析を行う際に、簡易な手順で精度よく組成分析を行う。
【解決手段】第1の元素xおよび第2の元素yを含む混合試料の蛍光X線スペクトルStにおいて、第1の元素xの蛍光X線の積分強度が第1の領域A>第2の領域B、第2の元素yの蛍光X線の積分強度が第2の領域B>第1の領域Aとなるように設定された第1の領域Aおよび第2の領域Bの積分強度Atおよび積分強度Btをそれぞれ算出し(ステップS106)、積分強度Btに基づき第2の領域Bにおける第2の元素yの強度分By/tの値を設定し、当該強度分By/tおよび第2の元素yの蛍光X線スペクトルSyの第1の領域Aおよび第2の領域Bの強度比(Ay/By)に基づき、第1の領域Aの第2の元素yの強度分Ay/tを算出し、第1の領域Aの第1の元素xの強度分Ax/tを、Ax/t=At−Ay/tから算出する(ステップS108)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光X線分析方法および蛍光X線分析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蛍光X線スペクトルによる組成分析を行う際には、たとえば、測定対象の試料が複数の元素を含む場合に、各元素の蛍光X線スペクトルが重なっている場合に、スペクトル波形が分離できず、精度のよい組成分析が行えないという課題があった。
【0003】
特許文献1(特開2000−097885号公報)には、以下の手順が記載されている。
FP法において、測定されるべき蛍光X線のスペクトルと少なくとも一部が重複するスペクトルを有する蛍光X線を妨害線とし、試料中の各成分についての測定強度をまず理論強度スケールに換算して換算強度とする。そして、試料における厚さまたは各成分の含有率の少なくとも一方を仮定して計算した前記妨害線の理論強度を用いて、前記換算強度を補正して測定強度に基づく強度とし、各成分ごとに理論強度と比較する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−097885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の方法では、測定対象の試料が複数の元素を含み、かつ各元素の蛍光X線スペクトルが重なっている場合に、精度のよい組成分析を行おうとすると、複雑なアルゴリズムが必要となり、処理時間がかかるとともに、システム構成が複雑となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、
第1の元素xおよび第2の元素yを含む混合試料の蛍光X線スペクトルStを取得する工程と、
前記蛍光X線スペクトルStに基づき、当該蛍光X線スペクトルStの測定範囲において、それぞれ前記第1の元素xおよび前記第2の元素yの各X線スペクトルを含むとともに、前記第1の元素xの蛍光X線の積分強度が第1の領域Aで第2の領域Bよりも高く、前記第2の元素yの蛍光X線の積分強度が前記第2の領域Bで前記第1の領域Aよりも高くなるように設定された第1の領域Aおよび第2の領域Bの積分強度Atおよび積分強度Btをそれぞれ算出する工程と、
前記第2の元素yのみからなる第2の標準試料の蛍光X線スペクトルSyの、前記第1の領域Aの積分強度Ayの前記第2の領域Bの積分強度Byに対する強度比(Ay/By)を取得する工程と、
前記第2の領域Bの前記積分強度Btに基づき、前記第2の元素yについて、前記第2の領域Bにおける前記第2の元素yの強度分By/tの値を設定し、当該強度分By/tおよび前記強度比(Ay/By)に基づき、前記第1の領域Aにおける前記第2の元素yの強度分Ay/tを、
y/t=By/t×(Ay/By)
から算出する工程と、
前記第1の領域Aにおける前記第2の元素yの強度分Ay/tに基づき、前記第1の領域Aにおける前記第1の元素xの強度分Ax/tを、
x/t=At−Ay/t
から算出する工程と、
前記第1の領域Aにおける前記第1の元素xの強度分Ax/tを算出する工程において算出された前記第1の領域Aにおける前記第1の元素xの強度分Ax/t、および前記第2の領域Bにおける前記第2の元素yの強度分By/tに基づき、前記第1の元素xの濃度を算出する工程と、
を含む蛍光X線分析方法が提供される。
【0007】
本発明によれば、
第1の元素xおよび第2の元素yを含む混合試料の蛍光X線スペクトルStを取得するスペクトルStデータ取得部と、
前記蛍光X線スペクトルStに基づき、当該蛍光X線スペクトルStの測定範囲において、それぞれ前記第1の元素xおよび前記第2の元素yの各X線スペクトルを含むとともに、前記第1の元素xの蛍光X線の積分強度が第1の領域Aで第2の領域Bよりも高く、前記第2の元素yの蛍光X線の積分強度が前記第2の領域Bで前記第1の領域Aよりも高くなるように設定された第1の領域Aおよび第2の領域Bの積分強度Atおよび積分強度Btをそれぞれ算出する強度算出部と、
前記第2の元素yのみからなる第2の標準試料の蛍光X線スペクトルSyにおいて、前記第1の領域Aの積分強度Ayの前記第2の領域Bの積分強度Byに対する強度比(Ay/By)を取得する強度比取得部と、
前記第1の領域Aにおける前記第1の元素xの強度分Ax/t、および前記第2の領域Bにおける前記第2の元素yの強度分By/tに基づき、前記第1の元素xの濃度を算出する濃度算出部と、
を含み、
前記強度算出部は、さらに、
前記第2の領域Bの前記積分強度Btに基づき、前記第2の元素yについて、前記第2の領域Bにおける前記第2の元素yの強度分By/tの値を設定し、当該強度分By/tおよび前記強度比(Ay/By)に基づき、前記第1の領域Aにおける前記第2の元素yの強度分Ay/tを、
y/t=By/t×(Ay/By)
から算出する工程と、
前記第1の領域Aにおける前記第2の元素yの強度分Ay/tに基づき、前記第1の領域Aにおける前記第1の元素xの強度分Ax/tを、
x/t=At−Ay/t
から算出する工程と、
を行う蛍光X線分析システムが提供される。
【0008】
このように、第1の元素xの濃度が高い第1の領域Aの第1の元素xのみの積分強度を、Atから第2の元素yの重なり分を引いた値として算出することにより、精度のよい組成分析を行うことができる。また、第2の元素yの重なり分も、第2の元素yの濃度が高い第2の領域BのBtに基づき算出しているので、精度のよい組成分析を行うことができる。本実施の形態における蛍光X線分析方法によれば、測定対象の試料が複数の元素を含み、かつ各元素の蛍光X線スペクトルが重なっている場合でも、複雑なアルゴリズムを使用しないため、処理時間が短く、システム構成を簡易にしつつ、精度のよい組成分析を行うことができる。
【0009】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、蛍光X線スペクトルによる組成分析を行う際に、簡易な手順で精度よく組成分析を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態における蛍光X線分析方法の手順を示すフローチャートである。
【図2】本発明の実施の形態における蛍光X線分析方法において、第1の領域Aおよび第2の領域Bを設定する手順を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態における蛍光X線分析方法において、第1の領域Aおよび第2の領域Bを設定する手順を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態における蛍光X線分析方法において、第1の領域Aおよび第2の領域Bを設定する手順を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態における蛍光X線分析方法において、第1の領域Aおよび第2の領域Bを設定する手順を示す図である。
【図6】図1のステップS108の第1の領域AにおけるSnの強度分Ay/tを算出する手順を示すフローチャートである。
【図7】本発明の実施の形態における蛍光X線分析方法において、第3の領域Cの蛍光X線スペクトルに基づきSnの強度分の仮設定値B’y/t算出する手順を示す図である。
【図8】本発明の実施の形態における蛍光X線分析方法において、標準試料の第1の領域Aの積分強度の第2の領域Bの積分強度に対する強度比を算出する手順を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態における蛍光X線分析装置の構成を示すブロック図である。
【図10】蛍光X線スペクトルStのエネルギー値がシフトした状態を示す図である。
【図11】本発明の実施の形態において、エネルギーシフトが生じた場合のAg濃度の変動を示す図である。
【図12】本発明の実施の形態における蛍光X線分析方法で得られたAg濃度と、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES)により測定したAg濃度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様の構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0013】
本発明者らは、蛍光X線スペクトルによる組成分析を行う際に、測定対象の試料が複数の元素を含みかつ各元素の蛍光X線スペクトルが重なっている場合でも、ROI(Region Of Interest)法を応用した以下の手順により、精度よく組成分析を行うことができることを見出し、本発明に到達した。
【0014】
図9は、本実施の形態における蛍光X線分析装置100(蛍光X線分析システム)の構成を示す図である。
蛍光X線分析装置100は、測定部130と、測定制御部132と、解析処理部101とを含む。解析処理部101は、スペクトルStデータ取得部102、領域設定部104、強度比取得部106、強度算出部108、濃度算出部110、スペクトルStデータ記憶部120、および標準試料データ記憶部122を含む。標準試料データ記憶部122は、スペクトルSxデータ記憶部124およびスペクトルSyデータ記憶部126を含む。
【0015】
測定部130は、通常の蛍光X線分析装置の測定系とすることができる。ここでは図示していないが、測定部130は、試料台、X線源、ミラー、スリット、検出器等を含む。測定部130は、試料台に載置された試料に対して、所定の入射角でX線を照射し、検出器で試料に含まれる各元素特有に発生する蛍光X線を検出することにより、X線蛍光スペクトルを得ることができる。測定制御部132は、測定部130の測定条件等を制御し、測定部130の検出器で検出されたX線蛍光スペクトルを取得する。スペクトルStデータ取得部102は、測定制御部132から、測定部130により測定された蛍光X線スペクトルを取得する。
【0016】
図9に示した蛍光X線分析装置100の解析処理部101の各構成要素は、ハードウエア単位の構成ではなく、機能単位のブロックを示している。解析処理部101の各構成要素は、任意のコンピュータのCPU、メモリ、メモリにロードされた本図の構成要素を実現するプログラム、そのプログラムを格納するハードディスクなどの記憶ユニット、ネットワーク接続用インタフェースを中心にハードウエアとソフトウエアの任意の組合せによって実現される。そして、その実現方法、装置にはいろいろな変形例があることは、当業者には理解されるところである。
【0017】
なお、本実施の形態において、蛍光X線分析装置100は、一つの装置として記載しているが、蛍光X線分析装置100の解析処理部101は、測定部130や測定制御部132とは異なる装置内に設けた構成とすることもできる。たとえば、解析処理部101の構成は、パーソナルコンピュータ等に所定のプログラムをインストールすることによって実現することもできる。
【0018】
図1は、本実施の形態における蛍光X線分析方法の手順を示すフローチャートである。
本実施の形態において、まず、第1の元素xおよび第2の元素yを含む混合試料の蛍光X線スペクトルStを取得する(ステップS102)。本実施の形態において、この処理は、図9の解析処理部101のスペクトルStデータ取得部102が行うことができる。スペクトルStデータ取得部102は、取得した蛍光X線スペクトルStをスペクトルStデータ記憶部120に記憶する。
【0019】
次いで、蛍光X線スペクトルStの測定範囲から、以下の条件を満たすように、第1の領域Aおよび第2の領域Bを設定する(ステップS104)。
(1)第1の領域Aおよび第2の領域の両方に第1の元素xおよび第2の元素yの各蛍光X線スペクトルが含まれる。
(2)第2の元素yの蛍光X線の積分強度が第2の領域Bで第1の領域Aよりも高い。
(3)第1の元素xの蛍光X線の積分強度が第1の領域Aで第2の領域Bよりも高い。
【0020】
本実施の形態において、この処理は、図9の解析処理部101の領域設定部104が行うことができる。図9の標準試料データ記憶部122には、混合試料に含まれ得る各元素のみからなる標準試料の蛍光X線スペクトルを記憶しておくことができる。本実施の形態において、スペクトルSxデータ記憶部124には、第1の元素xのみからなる第1の標準試料の蛍光X線スペクトルSxが記憶される。また、スペクトルSyデータ記憶部126には、第2の元素yのみからなる第2の標準試料の蛍光X線スペクトルSyが記憶される。領域設定部104は、蛍光X線スペクトルSxおよび蛍光X線スペクトルSyに基づき、スペクトルStデータ記憶部120に記憶された蛍光X線スペクトルStの測定範囲から、第1の領域Aおよび第2の領域Bを設定する。
【0021】
つづいて、蛍光X線スペクトルStに基づき、第1の領域Aの積分強度Atおよび第2の領域Bの積分強度Btをそれぞれ算出する(ステップS106)。
【0022】
次いで、第1の領域Aにおける第1の元素xの強度分Ax/tを算出する(ステップS108)。つづいて、第2の領域Bにおける第2の元素yの強度分By/tを算出する(ステップS110)。
【0023】
本実施の形態において、以上のステップS106からステップS110の処理は、図9の解析処理部101の強度算出部108が行うことができる。
【0024】
この後、第1の元素xの強度分Ax/tおよび第2の元素yの強度分By/tに基づき、第1の元素xの濃度を算出する(ステップS112)。本実施の形態において、この処理は、図9の解析処理部101の濃度算出部110が行うことができる。
【0025】
次に、第1の元素xがAg、第2の元素yがSnである場合を例として具体例を説明する。混合試料は、たとえばSnAgバンプとすることができる。
本実施の形態において、図9に示した蛍光X線分析装置100のスペクトルSxデータ記憶部124には、Agのみからなる第1の標準試料の蛍光X線スペクトルSxが記憶される。また、スペクトルSyデータ記憶部126には、Snのみからなる第2の標準試料の蛍光X線スペクトルSyが記憶される。
【0026】
(第1の領域Aおよび第2の領域Bの設定)
まず、図1のステップ104の第1の領域Aおよび第2の領域Bを設定する手順を、図2から図5を参照して説明する。
図2(a)は、Ag(第1の元素x)およびSn(第2の元素y)を含む混合試料の蛍光X線スペクトルStの一例を示す図である。図2(b)は、Ag(第1の元素x)のみからなる第1の標準試料の蛍光X線スペクトルSxの一例を示す図である。図2(c)は、Sn(第2の元素y)のみからなる第2の標準試料の蛍光X線スペクトルSyの一例を示す図である。
【0027】
図2(b)に示すように、Agの蛍光X線スペクトルSxのLa1近傍では、エネルギー値2.4keVから3.9keVの範囲でスペクトルが広がっている。一方、図2(c)に示すように、Snの蛍光X線スペクトルSyのLa1近傍では、エネルギー値2.7keVから4.6keVの範囲でスペクトルが広がっている。ここで、エネルギー値2.7keVから3.9keVの範囲は、SnおよびAgのピークが重なって現れる。
【0028】
上述した条件に沿うように、第1の領域Aおよび第2の領域Bを設定する。本実施の形態において、第1の領域Aおよび第2の領域Bは、蛍光X線スペクトルStの測定範囲内で、まず、蛍光X線スペクトルSxおよび蛍光X線スペクトルSyに基づき設定することができる。
【0029】
まず、第1の領域Aおよび第2の領域Bは、SnおよびAgのピークが重なるエネルギー値2.7keVから3.9keVの範囲内に設定することができる。ここで、Agの最も強度の強いピークLa1がエネルギー値2.984keVにあり、Snの最も強度の強いピークLa1がエネルギー値3.443keVにある。第1の領域Aは、Agの最も強度の強いピークLa1であるエネルギー値2.984keVを含む領域とすることができる。また、第2の領域Bは、Snの最も強度の強いピークLa1であるエネルギー値3.443keVを含む領域とすることができる。
【0030】
以上を考慮すると、第1の領域Aの下限は、たとえばエネルギー値2.7keV付近に設定することができる。また、第1の領域Aの上限は、AgのピークLa1のエネルギー値2.984keVよりも大きい範囲で、ピークLa1および次に強度が強いピークLb1が下がってくるエネルギー値3.3keV付近以下くらいの範囲に設定することができる。
【0031】
また、第2の領域Bの上限は、たとえばエネルギー値3.9keV付近に設定することができる。また、第2の領域Bの下限は、SnのピークLa1のエネルギー値3.443keVよりも小さい範囲で、ピークLa1のエネルギー値3.443keVの立ち上がり部分であるエネルギー値3.2keV付近以下くらいの範囲に設定することができる。
【0032】
本実施の形態においては、第1の領域Aの上限と、第2の領域Bの下限とを共通として設定することができる。図3にこの状態を示す。ここでは、第1の領域Aの下限を下限ライン200、第1の領域Aの上限および第2の領域Bの下限を境界ライン204、第2の領域Bの上限を上限ライン202として示す。
【0033】
本実施の形態において、以上のように蛍光X線スペクトルSxおよび蛍光X線スペクトルSyに基づき、下限ライン200、境界ライン204、および上限ライン202の大まかな範囲を設定した後、蛍光X線スペクトルStに基づき、以下の条件に沿うように調整を行うことができる。
(1)第1の領域Aの下限および上限、ならびに第2の領域Bの下限および上限は、それぞれ、蛍光X線スペクトルStの傾きがゼロとなる極小点(ピークの底)を通るように設定することが好ましい。これにより、蛍光X線分析装置の検出器の特性変動によって、エネルギー値が真値からずれた場合でも、領域内の積分強度への影響を小さくすることができる。
(2)図3に示したように下限ライン200、境界ライン204、および上限ライン202を設定する場合、下限ライン200における蛍光X線スペクトルStの強度I200、境界ライン204における蛍光X線スペクトルStの強度I204、上限ライン202における蛍光X線スペクトルStの強度I202とすると、強度I204の強度I200に対する比(I204/I200)と強度I202の強度I204に対する比(I202/I204)とが略等しいことが好ましい。これにより、蛍光X線分析装置の検出器の特性変動によって、エネルギー値が真値からずれた場合でも、領域内の積分強度への影響を小さくすることができる。
(3)測定対象の混合試料中に含まれ得る他の元素の蛍光X線スペクトルを含まないようにすることが好ましい。
【0034】
上記の(1)および(2)について、図4を参照して説明する。
図4は、混合試料の蛍光X線スペクトルの他の例を模式的に示す図である。
ここで、第1の元素xおよび第2の元素yを両方含む領域、第1の領域A候補、第2の領域B候補が図4(a)に示すようになっているとする。また、e1からe7は、それぞれエネルギー値を示す。また、I、I、I、Iは、それぞれ対応するエネルギー値e1、e3、e5、e7における強度を示す。
【0035】
このような場合、上記の条件(1)を考慮すると、下限ライン200としては、ピークの極小点となるe1、e3を通る線が候補となる。また、上限ライン202としては、ピークの極小点となるe3、e5、e7を通る線が候補となる。また、境界ライン204としては、ピークの極小点となるe3を通る線が候補となる。よって、たとえば境界ライン204がe3を通り、下限ライン200がe1を通るように設定することができる。
【0036】
この場合、上限ライン202の候補としては、ピークの極小点となるe5、e7を通る線の二つがある。ここで、上記の条件(2)を考慮すると、上限ライン202がe5を通るとした場合の(I/I)と、上限ライン202がe7を通るとした場合の(I/I)とに基づき、(I/I)の値に近くなる方を選択することができる。ここでは、たとえば(I/I)と(I/I)とが略等しくなるものとする。このような場合、図4(b)に示すように、上限ライン202がe5を通るように設定して、第1の領域Aおよび第2の領域Bを設定することができる。
【0037】
図3に戻り、本実施の形態における蛍光X線スペクトルStにおいて、以下のような条件となっている。
・エネルギー値2.72keVは、波形の立ち上がりである。
・エネルギー値3.16keVおよび3.56keVは、それぞれ二つのピークの底にあたり、ちょうど傾きがゼロとなっている。
・SnのLb1の高エネルギー側のテール部では、他の元素(Ti)のスペクトルが含まれる可能性がある。
・エネルギー値2.72keVの強度I2.72、境エネルギー値3.16keVの強度I3.16、エネルギー値3.56keVの強度I3.56とすると、(I3.16/I2.72)と(I3.56/I3.16)とが略等しい。
【0038】
以上を考慮して、図5に示すように、本実施の形態において、Agの蛍光X線スペクトルSxにおいてAgの主ピークLa1を含み、SnのLlが重なる2.72keV以上3.16keV以下の範囲を第1の領域Aとして設定する。また、Snの主ピークLa1を主成分とする3.17keV以上3.56keV以下の範囲を第2の領域Bとして設定する。
【0039】
なお、蛍光X線スペクトルStのバックグラウンド等については、蛍光X線分析装置100の測定部130および測定制御部132に付属の解析ソフト等を用いて適宜補正することができる。
【0040】
(蛍光X線の積分強度算出)
この後、蛍光X線スペクトルStに基づき、蛍光X線スペクトルStの第1の領域Aの積分強度Atおよび第2の領域Bの積分強度Btを算出する。
【0041】
(第1の領域AにおけるAgの強度分Ax/tの算出)
ここで、第1の領域Aの積分強度Atと第2の領域Bの積分強度Btは、それぞれの元素の強度の重なりがあるので、Agの積分強度とSnの積分強度とは一致しない。そこで、本実施の形態において、第1の領域AのAgのみの積分強度を、AtからSnの重なり分を引いた値として算出する。そこで、まず、第1の領域AにおけるSnの強度分Ay/tを算出する。第1の領域AにおけるSnの強度分Ay/tは、以下の手順で算出することができる。
【0042】
図6は、図1のステップS108の第1の領域AにおけるSnの強度分Ay/tを算出する手順を示すフローチャートである。
まず、第2の領域BにおけるSnの強度分By/tの仮設定値B’y/tを算出する(ステップS120)。
【0043】
この手順の一例(例a−1)として、蛍光X線スペクトルStの第2の領域Bの積分強度BtがSnの強度分であると仮定して、第2の領域BにおけるSnの強度分の仮設定値B’y/t=積分強度Btと仮定することができる。本実施の形態において、第2の領域Bは、Snの積分強度は第1の領域Aよりも高くAgの積分強度は第1の領域Aよりも低く設定されている。そのため、このような設定をしても、精度の高い結果を得ることができる。
【0044】
また、この手順の他の例(例a−2)として、第1の領域Aおよび第2の領域Bとは異なる第3の領域Cの蛍光X線スペクトルに基づきSnの強度分の仮設定値B’y/tを算出することができる。ここで、第3の領域Cは、Agや混合試料中に含まれ得るその他の元素の蛍光X線スペクトルが含まれず、Snの蛍光X線スペクトルのみが含まれる領域とすることができる。
【0045】
この例を図7を参照して説明する。図7(b)および図7(c)に示すように、4.25keV以上4.50keV以下の範囲では、Snの蛍光X線スペクトルSyは存在するが、Agの蛍光X線スペクトルSxは存在しない。また、ここでは、4.25keV以上4.50keV以下の範囲には、他の元素の蛍光X線スペクトルも存在しないものとする。このような場合、たとえばこの範囲を第3の領域Cとして設定することができる。この処理は、図9の解析処理部101の領域設定部104が行うことができる。
【0046】
次いで、図7(a)の蛍光X線スペクトルStの第3の領域Cの積分強度Ct、ならびに図7(c)のSnの蛍光X線スペクトルSyの第2の領域Bの積分強度Byおよび第3の領域Cの積分強度Cyをそれぞれ算出する。ここで、第3の領域Cには第2の元素yの蛍光X線スペクトルしか存在しないので、Snについて、蛍光X線スペクトルStにおける第2の領域BのSnの強度分の仮設定値B’y/tの第3の領域Cの積分強度Ctに対する強度比(B’y/t/Ct)と、Snの蛍光X線スペクトルSyにおける第2の領域Bの積分強度Byの第3の領域Cの積分強度Cyに対する強度比(By/Cy)とは等しくなる。
そのため、
(B’y/t/Ct)=(By/Cy)
B’y/t=(By/Cy)×Ct
から、Snの強度分の仮設定値B’y/tを算出することができる。
【0047】
つづいて、図6に戻り、Snのみからなる第2の標準試料の蛍光X線スペクトルSyの、第1の領域Aの積分強度Ayの第2の領域Bの積分強度Byに対する強度比(Ay/By)を取得する(ステップS122)。
【0048】
この手順を図8を参照して説明する。
まず、Snの図8(c)の蛍光X線スペクトルSyの第1の領域Aの積分強度Ayおよび第2の領域Bの積分強度Byをそれぞれ算出する。次いで、第1の領域Aの積分強度Ayの第2の領域Bの積分強度Byに対する強度比(Ay/By)を算出する。なお、一度第1の領域Aおよび第2の領域Bが設定された場合は、同様の混合試料について、同じ第1の領域Aおよび第2の領域Bを用いた処理を行うことができる。そのため、図9に示した標準試料データ記憶部122のスペクトルSyデータ記憶部126に強度比(Ay/By)を記憶しておき、次回からはこのデータを用いて計算を行うようにすることができる。
【0049】
次いで、図6に戻り、第2の領域BにおけるSnの強度分の仮設定値B’y/tおよび強度比(Ay/By)に基づき、第1の領域AにおけるSnの強度分Ay/tを、
y/t=B’y/t×(Ay/By)
から算出する(ステップS124)。
【0050】
その後、第1の領域AにおけるSnの強度分Ay/tに基づき、第1の領域AにおけるAgの強度分Ax/tを、
x/t=At−Ay/t
から算出する(ステップS126)。
【0051】
(第2の領域BにおけるSnの強度分By/tの算出)
以上のステップS120で、第2の領域BにおけるSnの強度分の仮設定値B’y/tを算出しているが、第2の領域BにおけるSnの強度分By/tは、以下の手順で算出して本設定することができる。
【0052】
(1)一例(例b−1)として、強度分By/tの本設定値は、図6のステップS126を参照して説明した工程で算出された第1の領域AにおけるAgの強度分Ax/tを用いて算出することができる。
まず、Agのみからなる第1の標準試料の蛍光X線スペクトルSxの第1の領域Aの積分強度Axの第2の領域Bの積分強度Bxに対する強度比(Ax/Bx)を取得する。この手順も、図8を参照して説明する。まず、図8(b)のAgの蛍光X線スペクトルSxの第1の領域Aの積分強度Axおよび第2の領域Bの積分強度Bxをそれぞれ算出する。次いで、第1の領域Aの積分強度Axの第2の領域Bの積分強度Bxに対する強度比(Ax/Bx)を算出する。なお、上述した強度比(Ay/By)と同様、一度第1の領域Aおよび第2の領域Bが設定された場合は、同様の混合試料について、同じ第1の領域Aおよび第2の領域Bを用いた処理を行うことができる。そのため、図9に示した標準試料データ記憶部122のスペクトルSxデータ記憶部124に強度比(Ax/Bx)を記憶しておき、次回からはこのデータを用いて計算を行うようにすることができる。
【0053】
次いで、図6のステップS126を参照して説明した工程で算出された第1の領域AにおけるAgの強度分Ax/tおよび強度比(Ax/Bx)に基づき、第2の領域BにおけるAgの強度分Bx/tを、
x/t=Ax/t×(Bx/Ax)
から算出する。
【0054】
その後、第2の領域BにおけるAgの強度分Bx/tに基づき、第2の領域BにおけるSnの強度分By/tを、
y/t=Bt−Bx/t
から算出して本設定する。
【0055】
なお、図6のステップS120において、蛍光X線スペクトルStの第2の領域Bの積分強度BtがSnの強度分であると仮定した場合、以下の補正を行うこともできる。このような補正を行うことにより、より精度のよい算出をすることができる。
【0056】
上述したBy/t=Bt−Bx/tは、
y/t=Bt−(Ax/t×(Bx/Ax))
y/t=Bt−((At−Ay/t)×(Bx/Ax))
y/t=Bt−((At−(B’y/t×(Ay/By)))×(Bx/Ax))
と表される。
【0057】
蛍光X線スペクトルStの第2の領域Bの積分強度BtがSnの強度分であるとの仮定では、第2の領域Bの積分強度Btが100%Snのスペクトルであるとの仮定である。そのため、以下では、逆の仮定、すなわち第2の領域Bの積分強度Btが100%Agであるとする補正を行う。すなわち、純Agの場合を考慮して、By/t=0、B’y/t=Btとする。
【0058】
この場合、
y/t=Bt−((At−(Bt×(Ay/By)))×(Bx/Ax))=0
となる。
【0059】
よって、
Bt=((At−(Bt×(Ay/By)))×(Bx/Ax))
となる。
【0060】
これにより、以下の式が導かれる。
(Ax/Bx)=(At−(Ay/By)×Bt)/Bt
(Ax/Bx)=(At/Bt)−(Ay/By)
【0061】
よって、SnAg波形の領域BにおけるSnの強度分By/tは、
y/t=Bt−((At−(Bt×(Ay/By)))/((At/Bt)−(Ay/By)))
で求められる。
【0062】
(2)第2の領域BにおけるSnの強度分By/tの算出方法の他の例(例b−2)として、第2の領域BにおけるSnの強度分By/tは、図6を参照して説明した第1の領域AにおけるAgの強度分Ay/tの算出手順と同様にして、以下の手順で算出することができる。
【0063】
まず、蛍光X線スペクトルStに基づき、Agについて、第1の領域AにおけるAgの強度分Ax/tの値を仮設定する。
【0064】
次いで、上記の例と同様にしてAgの蛍光X線スペクトルSxにおいて、第1の領域Aの積分強度Axの第2の領域Bの積分強度Bxに対する強度比(Ax/Bx)を取得する。
【0065】
この後、仮設定した第1の領域AにおけるAgの強度分Ax/tおよび強度比(Ax/Bx)に基づき、第2の領域BにおけるAgの強度分Bx/tを、
x/t=(Ax/t×(Bx/Ax)
から算出する。
【0066】
次いで、第2の領域BにおけるAgの強度分Bx/tに基づき、第2の領域BにおけるSnの強度分By/tを、
y/t=Bt−Bx/t
から算出して本設定する。
【0067】
また、Snの強度分の仮設定値B’y/tを、第1の領域Aおよび第2の領域Bとは異なる第3の領域Cの蛍光X線スペクトルに基づき算出した場合(例a−2)は、この仮設定値B’y/tをそのまま第2の領域BにおけるSnの強度分By/tとして本設定することもできる。
【0068】
(濃度の算出)
以上の手順により、第1の領域AにおけるAgの強度分Ay/tおよび第2の領域BにおけるSnの強度分By/tが算出される。つづいて、これらの値に基づき、以下の式に基づき、Agの濃度を算出することができる。
【0069】
Ag濃度(wt%)=(第1の領域AにおけるAgの強度分Ay/t)/((第1の領域AにおけるAgの強度分Ay/t)+(第2の領域BにおけるSnの強度分By/t)×Cf)×100
(Cfは、フィッティングパラメータ)
【0070】
フィッティングパラメータCfは、混合試料として、Ag濃度(既知)を変化させた複数の試料を準備した測定値に基づき算出することができる。また、ここではAgの濃度について説明しているが、Snについても、同様にして濃度を算出することができる。
【0071】
次に、本実施の形態における蛍光X線分析方法の効果を説明する。
以上の実施の形態で説明した手順(例(a−1)および例(b−1))に沿って、リフロー後のSnAgバンプのAg濃度を測定した。ここで、純Sn標準試料の測定結果より、強度比(Ay/By)は0.04096、純Ag標準試料の測定結果より、強度比(Ax/Bx)は、2.80744という値が得られた。また、混合試料として、Ag濃度(既知)を変化させた複数の試料を準備した測定値に基づき、フィッティングパラメータCf=0.76という結果が得られた。ここで、Cfを求めるにあたって、X線入射角は16°のデータを用いた。
【0072】
図12は、以上の実施の形態で説明した手順で得られたAg濃度と、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES)により測定したAg濃度とを示す図である。図12の横軸が、ICP−AESによる測定値、縦軸は、本実施の形態における蛍光X線分析方法により算出した値を示す。ここで、±0.05wt%以内の精度で、Ag濃度分析が可能だった。
【0073】
本実施の形態において、Agの積分強度が第1の領域A>第2の領域B、Snの積分強度が第2の領域B>第1の領域Aとなるように設定された第1の領域Aおよび第2の領域Bにおける積分強度を用いて、まず、Snの強度が高い第2の領域Bの積分強度Btに基づき、Snについて、第2の領域Bにおける強度分By/tの値を設定し、当該強度分By/tおよびSnの強度比(Ay/By)に基づき、第1の領域AにおけるSnの強度分Ay/tを算出した後、Agの強度が高い第1の領域AにおけるAgの強度分Ax/tを、Ax/t=At−Ay/tから算出している。
【0074】
このように、Agの濃度が高い第1の領域AのAgのみの積分強度を、AtからSnの重なり分を引いた値として算出することにより、精度のよい組成分析を行うことができる。また、Snの重なり分も、Snの濃度が高い第2の領域BのBtに基づき算出しているので、精度のよい組成分析を行うことができる。本実施の形態における蛍光X線分析方法によれば、測定対象の試料が複数の元素を含み、かつ各元素の蛍光X線スペクトルが重なっている場合でも、複雑なアルゴリズムを使用しないため、処理時間が短く、システム構成を簡易にしつつ、精度のよい組成分析を行うことができる。
【0075】
また、算出されるAg濃度のエネルギーシフト依存性を調べた。図10(a)は、標準(Ref)の蛍光X線スペクトルStを示す。図10(b)は、エネルギー値が0.05keV低エネルギー側にシフトした場合の蛍光X線スペクトルStを示す。図10(c)は、エネルギー値が0.05keV高エネルギー側にシフトした場合の蛍光X線スペクトルStを示す。
【0076】
また、図11に結果を示す。エネルギーシフト±0.02keVの場合、Ag濃度の変化は±0.03wt%に収まった。さらに、エネルギーシフト±0.05keVとした場合でも、0.1wt%程度変動しただけだった。なお、実際の特性変動は、大きくても±0.02keV程度であることから、本実施の形態における蛍光X線分析方法によれば、エネルギーシフトの影響により、スペクトルのピーク位置が変動したとしても、算出される組成値への影響を小さくすることができる。本実施の形態において、第1の領域Aおよび第2の領域Bそれぞれのエネルギー端が、スペクトル波形の傾きが小さい領域に設定されている。これにより、蛍光X線分析装置100(測定部130)の経時変化により、スペクトルのピーク位置が変動したとしても、算出される濃度(組成値)への影響を小さくすることができる。
【0077】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0078】
以上の実施の形態では、第1の元素xがAg、第2の元素yがSnの場合を例として説明したが、これらは、逆としても、同様の処理を行うことができる。
【0079】
また、以上の実施の形態では、第1の領域Aと第2の領域Bとが互いに接している例を示したが、これらは、離れた領域であってもよい。
【0080】
なお、蛍光X線スペクトルStに、上記で設定した第1の領域Aおよび第2の領域Bとは異なる領域に、他の複数の元素について、同様の条件で別の第1の領域Aおよび第2の領域Bを設定可能であれば、それらの元素についても、同様の手順で濃度を算出することができる。
【符号の説明】
【0081】
100 蛍光X線分析装置
101 解析処理部
102 スペクトルStデータ取得部
104 領域設定部
106 強度比取得部
108 強度算出部
110 濃度算出部
120 スペクトルStデータ記憶部
122 標準試料データ記憶部
124 スペクトルSxデータ記憶部
126 スペクトルSyデータ記憶部
130 測定部
132 測定制御部
200 下限ライン
202 上限ライン
204 境界ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の元素xおよび第2の元素yを含む混合試料の蛍光X線スペクトルStを取得する工程と、
前記蛍光X線スペクトルStに基づき、当該蛍光X線スペクトルStの測定範囲において、それぞれ前記第1の元素xおよび前記第2の元素yの各X線スペクトルを含むとともに、前記第1の元素xの蛍光X線の積分強度が第1の領域Aで第2の領域Bよりも高く、前記第2の元素yの蛍光X線の積分強度が前記第2の領域Bで前記第1の領域Aよりも高くなるように設定された第1の領域Aおよび第2の領域Bの積分強度Atおよび積分強度Btをそれぞれ算出する工程と、
前記第2の元素yのみからなる第2の標準試料の蛍光X線スペクトルSyの、前記第1の領域Aの積分強度Ayの前記第2の領域Bの積分強度Byに対する強度比(Ay/By)を取得する工程と、
前記第2の領域Bの前記積分強度Btに基づき、前記第2の元素yについて、前記第2の領域Bにおける前記第2の元素yの強度分By/tの値を設定し、当該強度分By/tおよび前記強度比(Ay/By)に基づき、前記第1の領域Aにおける前記第2の元素yの強度分Ay/tを、
y/t=By/t×(Ay/By)
から算出する工程と、
前記第1の領域Aにおける前記第2の元素yの強度分Ay/tに基づき、前記第1の領域Aにおける前記第1の元素xの強度分Ax/tを、
x/t=At−Ay/t
から算出する工程と、
前記第1の領域Aにおける前記第1の元素xの強度分Ax/tを算出する工程において算出された前記第1の領域Aにおける前記第1の元素xの強度分Ax/t、および前記第2の領域Bにおける前記第2の元素yの強度分By/tに基づき、前記第1の元素xの濃度を算出する工程と、
を含む蛍光X線分析方法。
【請求項2】
請求項1に記載の蛍光X線分析方法において、
前記第1の領域Aにおける前記第2の元素yの強度分Ay/tを算出する工程において、前記第2の領域Bにおける前記第2の元素yの強度分By/t=前記第2の領域Bの積分強度Btと仮定して前記第2の領域Bにおける前記第2の元素yの強度分By/tの値を設定する蛍光X線分析方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の蛍光X線分析方法において、
前記第1の元素xのみからなる第1の標準試料の蛍光X線スペクトルSxの、前記第1の領域Aの積分強度Axの前記第2の領域Bの積分強度Bxに対する強度比(Ax/Bx)を取得する工程と、
前記第1の領域Aにおける前記第1の元素xの強度分Ax/tを算出する工程において算出された前記第1の領域Aにおける前記第1の元素xの強度分Ax/tおよび前記強度比(Ax/Bx)に基づき、前記第2の領域Bにおける前記第1の元素xの強度分Bx/tを、
x/t=Ax/t×(Bx/Ax)
から算出する工程と、
前記第2の領域Bにおける前記第1の元素xの強度分Bx/tに基づき、前記第2の領域Bにおける前記第2の元素yの強度分By/tを、
y/t=Bt−Bx/t
から算出して本設定する工程と、
をさらに含み、
前記第1の元素xの濃度を算出する工程において、前記本設定する工程で算出された前記第2の領域Bにおける前記第2の元素yの強度分By/tに基づき、前記第1の元素xの濃度を算出する蛍光X線分析方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の蛍光X線分析方法において、
前記第1の元素xのみからなる第1の標準試料の蛍光X線スペクトルSxにおいて、前記第1の領域Aの積分強度Axの前記第2の領域Bの積分強度Bxに対する強度比(Ax/Bx)を取得する工程と、
前記第1の領域Aの積分強度Axに基づき、前記第1の元素xについて、前記第1の領域Aにおける前記第1の元素xの強度分Ax/tの値を仮設定し、仮設定した当該強度分Ax/tおよび前記強度比(Ax/Bx)に基づき、前記第2の領域Bにおける前記第1の元素xの強度分Bx/tを、
x/t=Ax/t×(Bx/Ax)
から算出する工程と、
前記第2の領域Bにおける前記第1の元素xの強度分Bx/tに基づき、前記第2の領域Bにおける前記第2の元素yの強度分By/tを、
y/t=Bt−Bx/t
から算出して本設定する工程と、
をさらに含み、
前記第1の元素xの濃度を算出する工程において、前記本設定する工程で算出された前記第2の領域Bにおける前記第2の元素yの強度分By/tに基づき、前記第1の元素xの濃度を算出する蛍光X線分析方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載の蛍光X線分析方法において、
前記蛍光X線スペクトルStにおいて、前記第2の元素yの蛍光X線スペクトルを含むとともに、前記第1の元素xおよび他の元素の蛍光X線スペクトルを含まない第3の領域Cの積分強度Ctを算出する工程と、
前記第2の標準試料の前記蛍光X線スペクトルSyの、前記第2の領域Bの積分強度Byの前記第3の領域Cの積分強度Cyに対する強度比(By/Cy)を取得する工程と、
をさらに含み、
前記第1の領域Aにおける前記第2の元素yの強度分Ay/tを算出する工程において、前記第2の領域Bにおける前記第2の元素yの強度分By/tを、
y/t=(By/Cy)×Ct
として設定する蛍光X線分析方法。
【請求項6】
請求項5に記載の蛍光X線分析方法において、
前記蛍光X線スペクトルStを取得する工程において取得された前記蛍光X線スペクトルStに基づき、当該蛍光X線スペクトルStの測定範囲から、前記第3の領域Cを設定する工程をさらに含む蛍光X線分析方法。
【請求項7】
請求項1から6いずれかに記載の蛍光X線分析方法において、
前記第1の元素xのみからなる第1の標準試料の蛍光X線スペクトルSxおよび前記第2の元素yのみからなる第2の標準試料の蛍光X線スペクトルSyに基づき、前記蛍光X線スペクトルStを取得する工程において取得された前記蛍光X線スペクトルStの測定範囲から、前記第1の領域Aおよび前記第2の領域Bを設定する工程をさらに含む蛍光X線分析方法。
【請求項8】
第1の元素xおよび第2の元素yを含む混合試料の蛍光X線スペクトルStを取得するスペクトルStデータ取得部と、
前記蛍光X線スペクトルStに基づき、当該蛍光X線スペクトルStの測定範囲において、それぞれ前記第1の元素xおよび前記第2の元素yの各X線スペクトルを含むとともに、前記第1の元素xの蛍光X線の積分強度が第1の領域Aで第2の領域Bよりも高く、前記第2の元素yの蛍光X線の積分強度が前記第2の領域Bで前記第1の領域Aよりも高くなるように設定された第1の領域Aおよび第2の領域Bの積分強度Atおよび積分強度Btをそれぞれ算出する強度算出部と、
前記第2の元素yのみからなる第2の標準試料の蛍光X線スペクトルSyにおいて、前記第1の領域Aの積分強度Ayの前記第2の領域Bの積分強度Byに対する強度比(Ay/By)を取得する強度比取得部と、
前記第1の領域Aにおける前記第1の元素xの強度分Ax/t、および前記第2の領域Bにおける前記第2の元素yの強度分By/tに基づき、前記第1の元素xの濃度を算出する濃度算出部と、
を含み、
前記強度算出部は、さらに、
前記第2の領域Bの前記積分強度Btに基づき、前記第2の元素yについて、前記第2の領域Bにおける前記第2の元素yの強度分By/tの値を設定し、当該強度分By/tおよび前記強度比(Ay/By)に基づき、前記第1の領域Aにおける前記第2の元素yの強度分Ay/tを、
y/t=By/t×(Ay/By)
から算出する工程と、
前記第1の領域Aにおける前記第2の元素yの強度分Ay/tに基づき、前記第1の領域Aにおける前記第1の元素xの強度分Ax/tを、
x/t=At−Ay/t
から算出する工程と、
を行う蛍光X線分析システム。
【請求項9】
請求項8に記載の蛍光X線分析システムにおいて、
前記第1の元素xのみからなる第1の標準試料の蛍光X線スペクトルSxおよび前記第2の元素yのみからなる第2の標準試料の蛍光X線スペクトルSyに基づき、前記スペクトルStデータ取得部が取得した前記蛍光X線スペクトルStの測定範囲から、前記第1の領域Aおよび前記第2の領域Bを設定する領域設定部をさらに含む蛍光X線分析システム。
【請求項10】
コンピュータを、
第1の元素xおよび第2の元素yを含む混合試料の蛍光X線スペクトルStを取得する手段、
前記蛍光X線スペクトルStに基づき、当該蛍光X線スペクトルStの測定範囲において、それぞれ前記第1の元素xおよび前記第2の元素yの各X線スペクトルを含むとともに、前記第1の元素xの蛍光X線の積分強度が第1の領域Aで第2の領域Bよりも高く、前記第2の元素yの蛍光X線の積分強度が前記第2の領域Bで前記第1の領域Aよりも高くなるように設定された第1の領域Aおよび第2の領域Bの積分強度Atおよび積分強度Btをそれぞれ算出する手段、
前記第2の元素yのみからなる第2の標準試料の蛍光X線スペクトルSyにおいて、前記第1の領域Aの積分強度Ayの前記第2の領域Bの積分強度Byに対する強度比(Ay/By)を取得する手段、
前記第2の領域Bの前記積分強度Btに基づき、前記第2の元素yについて、前記第2の領域Bにおける前記第2の元素yの強度分By/tの値を設定し、当該強度分By/tおよび前記強度比(Ay/By)に基づき、前記第1の領域Aにおける前記第2の元素yの強度分Ay/tを、
y/t=By/t×(Ay/By)
から算出する手段、
前記第1の領域Aにおける前記第2の元素yの強度分Ay/tに基づき、前記第1の領域Aにおける前記第1の元素xの強度分Ax/tを、
x/t=At−Ay/t
から算出する手段、
前記第1の領域Aにおける前記第1の元素xの強度分Ax/tを算出する手段が算出した前記第1の領域Aにおける前記第1の元素xの強度分Ax/t、および前記第2の領域Bにおける前記第2の元素yの強度分By/tに基づき、前記第1の元素xの濃度を算出する手段、
として機能させる蛍光X線分析プログラム。
【請求項11】
請求項10に記載の蛍光X線分析プログラムにおいて、
コンピュータを、さらに、前記第1の元素xのみからなる第1の標準試料の蛍光X線スペクトルSxおよび前記第2の元素yのみからなる第2の標準試料の蛍光X線スペクトルSyに基づき、前記蛍光X線スペクトルStを取得する手段が取得した前記蛍光X線スペクトルStの測定範囲から、前記第1の領域Aおよび前記第2の領域Bを設定する工程をさらに含む蛍光X線分析プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−122922(P2011−122922A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280439(P2009−280439)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(302062931)ルネサスエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】