説明

蛍光X線分析用の較正試料ならびにそれを備える蛍光X線分析装置およびそれを用いる蛍光X線分析方法

【課題】長期間にわたって使用できるとともに、正確なドリフト較正をすることができる、液体試料の蛍光X線分析用の較正試料等を提供する。
【解決手段】本発明の較正試料20は、液体試料Sの蛍光X線分析において、分析対象金属元素の測定X線強度の経時変化を較正するための固体の較正試料20であって、分析対象金属元素を含む金属層21と、水素、ホウ素、炭素、窒素、酸素およびフッ素のうち少なくとも1つの軽元素を最大のモル分率とする厚さ1mm以上の軽元素層22と、が重ねられて形成され、金属層21において、軽元素層22との対向面の反対側の面を分析面23とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光X線分析用の較正試料ならびにそれを備える蛍光X線分析装置およびそれを用いる蛍光X線分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、試料に1次X線を照射して発生する蛍光X線の強度を測定する蛍光X線分析装置において、同一の試料についての測定X線強度が種々の原因で経時変化(ドリフト)するのを較正するいわゆるドリフト較正が定期的に行われる。このドリフト較正のために、例えば、検量線を作成するのに用いた標準試料すべてについて元素ごとにX線強度を測定しなおすとすると、較正のたびに多大な手間と時間を要する。そこで、ドリフト較正用に較正試料を設定して基準となるX線強度を測定しておき、較正する際には、設定した較正試料のみを測定してその時の測定X線強度と前記基準となる測定X線強度とからドリフト較正係数を求め、そのドリフト較正係数を分析対象試料の測定X線強度に適用して較正することが行われる。
【0003】
そのため、蛍光X線分析において、いろいろな較正試料が用いられている。例えば、シリコン基板上に金属膜を形成した試料を分析する際に用いられている、シリコン基板上にAu、Pt、Coなどの金属膜を形成した較正試料がある(特許文献1)。
【0004】
また、薄膜上に載せた微量粉末試料、ろ紙やポリマーフィルムに保持された微量溶液試料、薄膜試料などの蛍光X線分析に用いられている較正試料がある。この較正試料は、ポリイミドフィルムと、このポリイミドフイルム上の分析対象元素を混入したポリイミドフイルムとで形成されている(特許文献2)。この較正試料の変形例として、金属箔や基板上に分析対象元素を混入したポリイミド膜を形成した較正試料が知られている。
【0005】
さらに、原油や石油製品に含まれる硫黄分の濃度の測定において、硫黄の濃度が既知の重油を容器内に封入した標準試料では、液漏れや沈殿などによる濃度変化により経時変化が生じ、長期間使用できないため、標準試料として固体の模擬試料を用いる方法がある。この模擬試料は、円板状のモリブデン本体と、このモリブデン本体の一次X線照射側に設けられたポリエチレンテレフタレートやポリイミドからなる吸収体とで形成されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−156213号公報
【特許文献2】特開2010−204087号公報
【特許文献3】特開平7−5127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されている較正試料は、シリコン基板上に金属膜を形成した試料、すなわち、固体試料の分析に用いられている。特許文献2に記載されている較正試料は、微量粉末試料や薄膜試料などの固体試料の分析に用いられるとともに、ろ紙やポリマーフィルムに保持された微量溶液試料の分析に用いられている。この較正試料は微量粉末試料や微量溶液試料など微量試料の分析に用いられるので、較正試料から発生するバックグラウンドができるだけ小さくなるように構成されている。
【0008】
特許文献3に記載されている模擬試料は、原油や石油製品に含まれる硫黄分の濃度の測定のみに用いられており、その他の元素やその他の液体試料には用いられていない。この模擬試料は、円板状のモリブデン本体と、この本体の一次X線照射側に設けられた吸収体とで形成されているが、この吸収体はモリブデン本体から発生する蛍光X線強度を減衰させるためのものであり、試料から発生するバックグラウンドについては何ら考慮されていない。液体試料は溶媒である水や有機溶媒などに水素、炭素、酸素などの軽元素を主な成分として含んでいるため、散乱X線を多く発生し、測定されるX線には蛍光X線に加えて散乱X線が多く含まれ、この散乱X線によって大きなバックグラウンドが発生する。しかし、従来、液体試料から発生するバックグラウンドを考慮した固体の較正試料はなかった。
【0009】
このように、従来は、液体試料から発生するバックグラウンドを含めた測定X線強度の経時変化(ドリフト)の較正を正確に行うことができ、かつ長期間にわたって使用できる較正試料はなかった。
【0010】
本発明は前記従来の問題に鑑みてなされたもので、長期間にわたって使用できるとともに、正確なドリフト較正をすることができる、液体試料の蛍光X線分析用の較正試料ならびにそれを備える蛍光X線分析装置およびそれを用いる蛍光X線分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明の較正試料は、液体試料の蛍光X線分析において、分析対象金属元素の測定X線強度の経時変化を較正するための固体の較正試料であって、分析対象金属元素を含む金属層と、水素、ホウ素、炭素、窒素、酸素およびフッ素のうち少なくとも1つの軽元素を最大のモル分率とする厚さ1mm以上の軽元素層と、が重ねられて形成され、前記金属層において、前記軽元素層との対向面の反対側の面を分析面とする。
【0012】
本発明の較正試料は、分析対象金属元素を含む金属層と、水素、ホウ素、炭素、窒素、酸素およびフッ素のうち少なくとも1つの軽元素を最大のモル分率とする厚さ1mm以上の軽元素層と、が重ねられて形成された固体であるので、蒸発、沈殿、変質などによる経時変化が生じず、長期間にわたって使用できる。さらに、前記金属層は一次X線が照射される分析面であり、この金属層を透過した一次X線が軽元素層に入射することにより、軽元素層の軽元素が分析対象の液体試料と同程度の散乱X線(バックグラウンド)を発生させるので、正確なドリフト較正をすることができる。
【0013】
本発明の蛍光X線分析方法では、本発明の較正試料を用いて液体試料の蛍光X線分析を行う。
【0014】
本発明の蛍光X線分析方法によれば、本発明の較正試料を用いるので、本発明の較正試料と同様の効果を奏することができる。
【0015】
本発明の蛍光X線分析方法では、さらに、前記較正試料の前記軽元素層のみで形成され、液体試料のバックグラウンドX線強度の経時変化を較正するためのバックグラウンド較正試料を用いるのが好ましい。この場合には、前記金属層と前記軽元素層とで形成された較正試料と、前記軽元素層のみで形成されたバックグラウンド較正試料との2点の較正試料を用いるので、より正確な較正を行うことができる。
【0016】
本発明の蛍光X線分析装置は、本発明の較正試料と、前記較正試料の分析対象金属元素の測定X線強度に基づいて、液体試料の測定X線強度の経時変化を較正するドリフト較正手段と、を備える。
【0017】
本発明の蛍光X線分析装置によれば、本発明の較正試料と、前記較正試料の分析対象金属元素の測定X線強度に基づいて、液体試料の測定X線強度の経時変化を較正するドリフト較正手段と、を備えているので、本発明の較正試料と同様の効果を奏することができる。
【0018】
本発明の蛍光X線分析装置は、さらに、前記軽元素層のみで形成され、液体試料のバックグラウンドX線強度の経時変化を較正するためのバックグラウンド較正試料を備え、前記ドリフト較正手段が、前記較正試料の分析対象金属元素の測定X線強度および前記バックグラウンド較正試料の測定X線強度に基づいて、液体試料の測定X線強度の経時変化を較正するのが好ましい。この場合には、前記金属層と前記軽元素層とで形成された較正試料と、前記軽元素層のみで形成されたバックグラウンド較正試料との2点の較正試料を用いるので、より正確な較正を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態の蛍光X線分析装置の概略図である。
【図2】同蛍光X線分析装置が備える較正試料の側面図である。
【図3】同較正試料の金属層と軽元素層との厚さを求める手順を示す図である。
【図4】同較正試料の変形例の側面断面図である。
【図5】同較正試料の別の変形例の側面図である。
【図6】本発明の第2実施形態の蛍光X線分析装置が備えるバックグラウンド較正試料の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の第1実施形態の蛍光X線分析装置について説明する。図1に示すように、この蛍光X線分析装置は、液体試料Sまたは較正試料20が載置される試料台3と、液体試料Sまたは較正試料20に1次X線2を照射する、例えばロジウムX線管であるX線源1と、液体試料Sまたは較正試料20から発生する2次X線4を分光する分光素子5と、分光素子5で分光された2次X線6を検出する検出器7と、ドリフト較正手段9とを備えている。分光素子5および検出器7は検出手段8を構成する。ドリフト較正手段9は、較正試料20の分析対象金属元素の測定X線強度に基づいて、液体試料Sの測定X線強度の経時変化を較正する。2次X線4および6は蛍光X線と散乱X線を含む。
【0021】
なお、較正試料20は、試料交換機(図示せず)の所定の位置に載置しておくか、装置が内蔵することが好ましい。
【0022】
第1実施形態の蛍光X線分析装置の動作、すなわち本発明の一実施形態となる蛍光X線分析方法について説明する。蛍光X線分析装置が作動されると、最初に較正試料20が測定されて、ドリフト較正手段9が分析対象金属元素の2次X線7についての測定X線強度を基準強度ISとして記憶する。そして、順次、液体試料Sが測定され、分析対象金属元素の測定X線強度が較正されるときに、較正試料20が測定されて、分析対象金属元素の2次X線7の強度IMが求められる。強度IMが求められると、ドリフト較正手段9が求められた強度IMと先に記憶した基準強度ISとに基づいて下記の式(1)からドリフト較正係数αを算出する。
【0023】
α=IS/IM (1)
【0024】
そして、ドリフト較正手段9が、測定される液体試料Sの分析対象金属元素の測定X線強度Iにドリフト較正係数αを乗じて、ドリフト較正を行う。
【0025】
上記の例では、測定X線強度Iにドリフト較正係数αを乗じてドリフト較正を行ったが、1次式検量線の勾配定数aにドリフト較正係数αを乗じて検量線を較正してドリフト較正を行ってもよい。
【0026】
第1実施形態の蛍光X線分析装置が備える固体の較正試料20について以下に詳細に説明する。図2に示すように、較正試料20は、分析対象金属元素を含む金属層21と、水素、ホウ素、炭素、窒素、酸素およびフッ素のうち少なくとも1つの軽元素を最大のモル分率とする厚さ1mm以上の軽元素層22とが重ねられて形成され、金属層21が軽元素層22に接着剤で接着されている。金属層21において、軽元素層22との対向面の反対側の面を分析面23とする。
【0027】
第1実施形態の蛍光X線分析装置が備える較正試料20において、金属層21が、液体試料Sの分析対象元素の最大含有率に相当する蛍光X線強度を発生させる厚さの2倍以内となる厚さで形成され、軽元素層22が、液体試料Sと同等のバックグラウンドX線強度を発生させる厚さで形成されることが好ましい。
【0028】
上記のように液体試料Sに適合する、金属層21の厚さと軽元素層22の厚さとの求め方について図3に示す手順に基づいて説明する。
【0029】
第1段階S1において、金属層21の厚さと軽元素層22の厚さとを求めるために、金属層21から発生する蛍光X線強度(ネットX線強度)と軽元素層22から発生するバックグラウンドX線強度とのそれぞれの目標値を決定する。液体試料Sの検量線を作成するための複数の標準試料の中で最大蛍光X線強度を発生させる標準試料の蛍光X線強度(ネットX線強度)を、金属層21の目標値として決定する。作成した検量線の切片のX線強度であるバックグラウンドX線強度を軽元素層22の目標値として決定する。
【0030】
第2段階S2において、第1段階S1において目標値として決定した金属層21の蛍光X線強度を用いて、FP法理論強度計算によって、この蛍光X線強度の目標値の許容範囲内(例えば、目標値100〜200%以内)のX線強度になる金属層21の厚さを算出する。
【0031】
第3段階S3において、第2段階S2において算出された厚さの金属層21を形成し、その金属層21を、1mm以上の任意の厚さの軽元素層22の上に重ねて較正試料20を形成する。形成された較正試料20について、蛍光X線分析装置で金属層21の蛍光X線強度と軽元素層22のバックグラウンドX線強度を測定する。なお、金属層21と軽元素層22とを重ねて較正試料20を形成する形態については後述する。
【0032】
第4段階S4において、金属層21の蛍光X線強度が第1段階S1で決定した目標値の許容範囲内の強度になっているか、否かを判断する。金属層21の蛍光X線強度が目標値の許容範囲内の強度になっていると判断すると、第5段階S5へ進む。第4段階S4において、金属層21の蛍光X線強度が第1段階S1で決定した目標値の許容範囲内の強度になっていないと判断すると、第4A段階S4Aへ進む。
【0033】
第4A段階S4Aにおいて、金属層21の蛍光X線強度が第1段階S1で決定した目標値の許容範囲内の強度になるように、金属層21の厚さを変更して、第3段階S3へ戻り、第4段階S4において、金属層21の蛍光X線強度が第1段階S1で決定した目標値の許容範囲内の強度になっていると判断するまで、第4A段階S4Aから第4段階S4に至る手順を繰り返す。
【0034】
第5段階S5において、軽元素層22のバックグラウンドX線強度が第1段階S1で決定した目標値の許容範囲内の強度になっているか、否かを判断する。軽元素層22のバックグラウンドX線強度が目標値の許容範囲内の強度になっていると判断すると、第6段階S6へ進む。第5段階S5において、軽元素層22のバックグラウンドX線強度が第1段階S1で決定した目標値の許容範囲内の強度になっていないと判断すると、第5A段階S5Aへ進む。
【0035】
第5A段階S5Aにおいて、軽元素層22のバックグラウンドX線強度が第1段階S1で決定した目標値の許容範囲内の強度になるように、軽元素層22の厚さを変更して、第3段階S3へ戻り、第5段階S5において、軽元素層22の蛍光X線強度が第1段階S1で決定した目標値の許容範囲内の強度になっていると判断するまで、第5A段階S5Aから第5段階S5に至る手順を繰り返す。
【0036】
第6段階S6において、金属層21と軽元素層22の厚さを確定する。
【0037】
較正試料20の変形例として、ニッケルメッキ液である液体試料S中のニッケルを分析する場合の較正試料20について説明する。この較正試料20の場合、図4に示すように、例えば、厚さ10μmのニッケル箔21である金属層21が、例えば、厚さ(高さ)10mmの直方体状アクリル樹脂22である軽元素層22の上面に密着するように環状固定具50で固定され、この金属層21の外表面が分析面23となる。直方体状アクリル樹脂22は、軽元素である炭素、水素、酸素で構成され、水素を最大のモル分率としている。直方体状アクリル樹脂22の寸法は、例えば、横100mm、縦100mm、厚さ(高さ)10mmである。このニッケルメッキ液である液体試料S用の較正試料20の金属層21と軽元素層22の厚さは図3に示す手順によって求められた値である。
【0038】
環状固定具50は、環状板51と固定ねじ52とで構成され、固定ねじ52が軽元素層22の上部(環状固定具50が固定される部分)に形成されたねじ孔25に螺合され、金属層21を、軽元素層22の上面と環状固定具50の下面(軽元素層22に対向する面)との間に挟みこんで固定している。なお、金属層21の固定方法は、上記のような環状固定具50に限ったものではなく、その他の固定具で固定してもよい。
【0039】
図2の較正試料20では、金属層21として、1枚の100μmのニッケル箔を用いたが、例えば、図5に示すように複数枚のニッケル箔21a、21b、21cのそれぞれを接着剤で接着して重ねて形成してもよいし、図4に示す環状固定具50で複数枚の金属箔を固定してもよい。また、複数の分析対象金属元素に用いられる較正試料20の場合、金属層21は、異なる分析対象金属元素の金属箔を重ねて形成しても、複数の分析対象金属元素を含む1枚の金属箔で形成してもよい。さらに、金属層21は金属箔でなくてもよく、軽元素層22の上に蒸着(PVD、CVDなど)、メッキなどで分析対象金属元素の薄膜を積層して形成してもよい。金属層21は、図3に示す手順に基づいて、液体試料S中に含まれる分析対象金属元素の濃度に応じた厚さに形成するのが好ましく、厚さの具体的な数値としては、例えば、高濃度であれば厚く、10〜300μmが好ましく、低濃度であれば薄く、1〜10μmが好ましく、極低濃度であれば、0μmよりも大きく10μm未満であるのが好ましい。
【0040】
本実施形態では、較正試料20は軽元素層22に金属層21を接着、密着、蒸着などさせて形成されているが、軽元素層22と金属層21との間に隙間がある状態で重ねられて形成されてもよい。
【0041】
軽元素層22には、アクリル樹脂を用いたが、水素、ホウ素、炭素、窒素、酸素およびフッ素のうち少なくとも1つの軽元素を最大のモル分率とする厚さ1mm以上の物質であればよく、高分子有機化合物(ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、フッ素樹脂など)、グラファイト、窒化ホウ素、金属ボロン、石英、ガラスなどであってもよい。グラファイトでは、炭素が最大のモル分率であり、窒化ホウ素では窒素とホウ素が最大のモル分率である。図2、4、5に示す較正試料20の軽元素層22は、図3に示す手順に基づいて、液体試料Sの種類に応じた厚さ(高さ)Hに形成すればよく、厚さHの具体的な数値としては、例えば、1〜100mmが好ましい。軽元素層22の形状は直方体に限らず、円柱、角柱などであってもよく、液体試料Sが注入される液体試料容器内に収容されていてもよい。
【0042】
軽元素層22をこのように形成することによって、液体試料Sと同程度のバックグラウンドを発生させることができ、測定される液体試料Sと同程度の蛍光X線強度対散乱X線強度になるので正確なドリフト較正をすることができる。図2、4、5を用いて以上に説明した較正試料20もそれぞれ本発明の一実施形態となる。
【0043】
第1実施形態の蛍光X線分析装置によれば、この蛍光X線装置が備える較正試料20は、金属層21が分析対象金属元素で形成され、軽元素層22が水素、ホウ素、炭素、窒素、酸素およびフッ素のうち少なくとも1つの軽元素を最大のモル分率とする厚さ1mm以上の物質で形成されている固体であり、かつ軽元素層22の軽元素が液体試料Sと同程度の散乱X線(バックグラウンド)を発生させるので、長期間にわたって使用できるとともに、分析対象金属元素の測定X線強度のドリフトを正確に較正することができる。
【0044】
以下、本発明の第2実施形態である蛍光X線分析装置について説明する。第2実施形態の蛍光X線分析装置は、第1実施形態の蛍光X線分析装置が備える較正試料20と、その較正試料20の軽元素層22のみで形成され、液体試料SのバックグラウンドX線強度の経時変化を較正するためのバックグラウンド較正試料40(図6)との2種類の較正試料を備え、ドリフト較正手段9が、較正試料20の分析対象金属元素の測定X線強度および試料台3に載置されたバックグラウンド較正試料40の測定X線強度に基づいて、液体試料Sの測定X線強度の経時変化を較正する点が第1実施形態である蛍光X線分析装置と異なるが、その他の構成については同じであるので、異なる点について説明する。なお、2種類の較正試料20、40は、第1実施形態の蛍光X線分析装置と同様に、試料交換機の所定の位置に載置しておくか、装置が内蔵することが好ましい。
【0045】
第2実施形態の蛍光X線分析装置の動作、すなわち本発明の一実施形態となる蛍光X線分析方法について説明する。蛍光X線分析装置が作動されると、最初に較正試料40が測定されて、ドリフト較正手段9がバックグラウンドX線強度をバックグラウンド基準強度Iとして記憶する。そして、バックグラウンドX線強度が較正されるときに、バックグラウンド較正試料40が測定されて、バックグラウンドX線強度Iが求められる。バックグラウンドX線強度Iが求められると、ドリフト較正手段9が、求められた強度Iと先に記憶した基準強度Iとに基づいて下記の式(2)からバックグラウンド較正係数βを算出する。
【0046】
β=I/I (2)
【0047】
次に、第1実施形態の蛍光X線装置の動作同様に較正試料20が測定されると、ドリフト較正手段9がドリフト較正係数αを算出する。ドリフト較正手段9が、算出したドリフト較正係数α、βによって1次式検量線の勾配定数aと切片定数bとを較正して、検量線を較正する。検量線の較正後に測定される液体試料Sは較正された検量線に基づいて定量される。
【0048】
第2実施形態の蛍光X線分析装置は、第1実施形態の蛍光X線分析装置が備える較正試料20と同じ較正試料20と、軽元素層22のみで形成されたバックグラウンド較正試料40とを備え、高濃度領域用の較正試料20と低濃度領域用のバックグラウンド較正試料40との2種類の較正試料で、勾配定数aと切片定数bとを較正して検量線を較正するので、より正確に検量線を較正することができる。特に、分析対象金属元素の測定X線強度の経時変化とバックグラウンドX線強度の経時変化が異なる場合には、その効果が大きい。
【0049】
以上に説明した蛍光X線分析装置が備える、図2、4、5に示した較正試料20を、較正試料20から発生する散乱X線を内標準線として測定する散乱線モニター法(散乱線内標準法)に用いてもよい。散乱線モニター法は、散乱X線が多く発生する液体試料、有機化合物などの分析に用いられることが多く、分析対象金属元素の測定X線強度とバックグラウンド(散乱X線)のX線強度との比を用いることによって、試料S中の共存元素の影響を補正する蛍光X線分析方法である。
【0050】
例えば、散乱線モニター法が可能な多元素同時型蛍光X線分析装置では、液体試料Sから発生する分析対象金属元素の2次X線を測定する測定チャンネル(分析対象金属元素に適した分光素子とX線検出器を備える)と、液体試料Sから発生する散乱X線を測定するバックグラウンドチャンネル(バックグラウンド測定に適した分光素子とX線検出器を備える)とを備え、測定チャンネルで測定したX線強度Iとバックグラウンドチャンネルで測定したX線強度Iとの比I/Iを縦軸とし、測定する液体試料Sの分析対象金属元素の濃度を横軸とする検量線を作成して、液体試料Sを分析する。
【0051】
最初に、較正試料20が測定チャンネルとバックグラウンドチャンネルで同時に測定され、測定チャンネルで測定されたX線強度である基準強度Iと、バックグラウンドチャンネルで測定されたX線強度である基準強度Iとの比I/Iが算出される。測定X線強度が較正されるときに、較正試料20が測定チャンネルとバックグラウンドチャンネルで同時に測定され、測定チャンネルで測定されたX線強度Iとバックグラウンドチャンネルで測定されたX線強度Iとの比I/Iが算出される。算出された比I/Iと算出された比I/Iとの比(I/I)/(I/I)を用いて検量線を較正してドリフト較正を行う。
【0052】
較正試料20は、分析対象の液体試料Sと同程度のバックグラウンドを発生させることができ、蛍光X線強度対散乱X線強度の比が分析対象の液体試料Sと同程度になるので、散乱線モニター法においても正確なドリフト較正をすることができる。
【0053】
第1、第2実施形態の蛍光X線分析装置では、較正試料20を検量線の較正に用いたが、蛍光X線分析装置の感度安定度を評価する感度安定度試験に用いてもよい。蛍光X線分析装置の感度安定度試験に用いる安定度試験試料は、液体試料Sと同程度の強度の蛍光X線を発生し、液体試料Sと同程度の蛍光X線強度対散乱X線強度の比をもつことが好ましく、例えば、金属層21の厚さが5μm、軽元素層22の厚さが5mmであるのが好ましい。
【0054】
第1、2実施形態の蛍光X線分析装置は、波長分散型蛍光X線分析装置として説明したが、本発明の装置は、エネルギー分散型蛍光X線分析装置であってもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 X線源
2 1次X線
3 試料台
4、6 2次X線
5 分光素子
7 検出器
8 検出手段
9 ドリフト較正手段
20 較正試料
21 金属層
22 軽元素層
23 分析面
40 バックグラウンド較正試料
S 液体試料

















【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料の蛍光X線分析において、分析対象金属元素の測定X線強度の経時変化を較正するための固体の較正試料であって、
分析対象金属元素を含む金属層と、
水素、ホウ素、炭素、窒素、酸素およびフッ素のうち少なくとも1つの軽元素を最大のモル分率とする厚さ1mm以上の軽元素層と、
が重ねられて形成され、
前記金属層において、前記軽元素層との対向面の反対側の面を分析面とする較正試料。
【請求項2】
請求項1に記載の較正試料を用いて液体試料の分析を行う蛍光X線分析方法。
【請求項3】
請求項2に記載の蛍光X線分析方法において、
さらに、前記軽元素層のみで形成され、液体試料のバックグラウンドX線強度の経時変化を較正するためのバックグラウンド較正試料を用いる蛍光X線分析方法。
【請求項4】
請求項1に記載の較正試料と、
前記較正試料の分析対象金属元素の測定X線強度に基づいて、液体試料の測定X線強度の経時変化を較正するドリフト較正手段と、
を備える蛍光X線分析装置。
【請求項5】
請求項4に記載の蛍光X線分析装置において、
さらに、前記軽元素層のみで形成され、液体試料のバックグラウンドX線強度の経時変化を較正するためのバックグラウンド較正試料を備え、
前記ドリフト較正手段が、前記較正試料の分析対象金属元素の測定X線強度および前記バックグラウンド較正試料の測定X線強度に基づいて、液体試料の測定X線強度の経時変化を較正する蛍光X線分析装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−88216(P2013−88216A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227624(P2011−227624)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000250339)株式会社リガク (206)
【Fターム(参考)】