蛍光X線分析用試料セル
【課題】内部の圧力が上昇した場合であっても、蛍光X線が透過するシートの膨張を防止することにより、正確な元素分析を可能にする蛍光X線分析用試料セルを提供する。
【解決手段】液体燃料等の試料を収容した上でX線透過シート102で密閉した試料セル(蛍光X線分析用試料セル)1は、内部の圧力が上昇した場合に、窓部となるX線透過シート102が膨張する前に、試料セル1内の容積が増大するようにカップ端面が変形する。カップ端面は、膜状材を畳み込んで形成しており、試料セル1内の圧力が上昇した場合は、試料セル1の外側に向かって広がり、試料セル1内の容積が増大する。容積の増大によって圧力の上昇が緩和され、X線透過シート102の膨張が防止される。従って、試料と蛍光X線の検出器との距離が変動することが無く、高精度な蛍光X線分析が可能となる。
【解決手段】液体燃料等の試料を収容した上でX線透過シート102で密閉した試料セル(蛍光X線分析用試料セル)1は、内部の圧力が上昇した場合に、窓部となるX線透過シート102が膨張する前に、試料セル1内の容積が増大するようにカップ端面が変形する。カップ端面は、膜状材を畳み込んで形成しており、試料セル1内の圧力が上昇した場合は、試料セル1の外側に向かって広がり、試料セル1内の容積が増大する。容積の増大によって圧力の上昇が緩和され、X線透過シート102の膨張が防止される。従って、試料と蛍光X線の検出器との距離が変動することが無く、高精度な蛍光X線分析が可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光X線分析用の試料を収容するための試料セルに関し、より詳しくは揮発性の試料を密閉状態で収容するための蛍光X線分析用試料セルに関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光X線分析は、一次X線を試料に照射し、試料から発生する蛍光X線を検出し、蛍光X線のスペクトルから試料に含有される元素の定性分析又は定量分析を行う分析手法である。蛍光X線分析を行う蛍光X線分析装置は、一次X線を発生させるX線管、半導体検出素子又は比例計数管等を用いたX線検出器、X線検出器が検出したX線の波長分布又はエネルギー分布を分析する分析器等から構成される。蛍光X線分析を行う際は、X線管が発生した一次X線を試料へ照射し、一次X線を照射された試料から発生する蛍光X線をX線検出器で検出し、検出した蛍光X線のスペクトルを分析器で分析する。
【0003】
このような蛍光X線分析は、液体試料の元素分析に利用することができる。例えば、軽油等の液体燃料に含まれる有害成分を低減することを目的として、蛍光X線分析を利用した液体燃料の元素分析が行われる。特許文献1には、液体試料の蛍光X線分析を行う蛍光X線分析装置が記載されている。液体燃料等の揮発性の試料を分析する際には、揮発による試料の減少及び変質等を防止するために、密封した試料セル内に試料を収容しておく。特許文献1には、X線を透過させることができるX線透過シートで一面を密封した試料セル内に液体試料を収容し、X線透過シートを試料セルの底面とし、X線透過シートを通して一次X線を試料セル内の試料に照射し、X線透過性シートを透過して放出される蛍光X線を検出する技術が記載されている。また特許文献2には、二重のシートの間に液体試料を封入する試料セルが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−127028号公報
【特許文献2】特開平7−134082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
試料セル内を液体試料で満杯にしようとすると液体試料が試料セルからあふれることになるので、満杯にはできず、試料セル内には、液体試料と若干の空気が封入されることになる。液体試料が燃料等の揮発性の高い液体である場合、時間の経過に伴って液体試料が試料セル内で揮発し、試料セル内の圧力が上昇することになる。試料セル内の圧力が上昇した場合、試料セルを密封しているシートが膨張する。試料からの蛍光X線が透過するシートが膨張した場合、試料と蛍光X線を検出する検出器との距離が変動し、検出器で検出する蛍光X線の強度が変動し、高精度な元素分析ができないという問題がある。
【0006】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、内部の圧力が上昇した場合であっても、蛍光X線が透過するシートの膨張を防止することにより、高精度な元素分析を可能にする蛍光X線分析用試料セルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る蛍光X線分析用試料セルは、内部に収容した試料からの蛍光X線を外部へ放出するための窓部を有し、試料を収容して密閉された状態で使用される蛍光X線分析用試料セルにおいて、密閉状態で内部の圧力が上昇した場合に、窓部が変形する前に内部の容積が増大するように変形することができる変形部を設けてあることを特徴とする。
【0008】
本発明においては、試料からの蛍光X線を放出するための窓部を有し、密閉状態で使用される蛍光X線分析用試料セルは、X線透過シート等で密閉された窓部が変形する前に圧力の上昇に伴って内部の容積が増大するように変形する変形部を有する。試料を収容して密閉した蛍光X線分析用試料セルの内部圧力が上昇した場合、変形部が変形して内部の容積が増大することで、圧力の上昇が緩和される。
【0009】
本発明に係る蛍光X線分析用試料セルは、前記変形部として、前記窓部以外の一部の壁を、外側に向かって広がることができるように畳み込んだシートで形成してあることを特徴とする。
【0010】
また本発明においては、窓部以外の壁を外側に向かって広がることができるように畳み込んだシートで形成してあるので、内部の圧力が上昇した場合は、畳み込んであったシートが広がることにより、窓部が変形する前に、内部の容積が増大する。
【0011】
本発明に係る蛍光X線分析用試料セルは、前記変形部として、前記窓部以外の一部の壁を、圧力の上昇に伴って膨張するシートで形成してあることを特徴とする。
【0012】
また本発明においては、窓部以外の壁を膨張可能なシートで形成してあるので、内部の圧力が上昇した場合は、圧力の上昇に伴ってシートが外部に向かって膨張することにより、窓部が変形する前に、内部の容積が増大する。
【0013】
本発明に係る蛍光X線分析用試料セルは、前記変形部として、前記窓部以外の部分に、内部の容積が増大する方向に変形することができる蛇腹を設けてあることを特徴とする。
【0014】
また本発明においては、窓部以外の部分に、内部の容積が増大する方向に変形可能な蛇腹を設けてあるので、内部の圧力が上昇した場合は、圧力の上昇に伴って蛇腹が変形することにより、窓部が変形する前に、内部の容積が増大する。
【0015】
本発明に係る蛍光X線分析用試料セルは、前記変形部として、前記窓部以外の一部の壁を変形自在のシートで形成してあり、前記壁を予め内側に凸に変形させてあることを特徴とする。
【0016】
また本発明においては、窓部以外の壁を変形自在なシートで形成し、予め内部に向けて凸に変形させてあるので、内部の圧力が上昇した場合は、圧力の上昇に伴ってシートが外部に向かって変形することにより、窓部が変形する前に、内部の容積が増大する。
【発明の効果】
【0017】
本発明にあっては、本発明の蛍光X線分析用試料セルを用いてX線蛍光分析を行っている最中に、試料が揮発して蛍光X線分析用試料セルの内部の圧力が上昇した場合であっても、変形部が変形することによって圧力の上昇が緩和されるので、密閉状態の窓部が変形することは無い。窓部の変形が無いので、試料と蛍光X線を検出する検出器との距離が変動することも無く、検出する蛍光X線の強度が変動することも無い。従って、試料内の元素分布以外の要因で蛍光X線の強度が変化することがなくなるので、蛍光X線分析により試料の元素分析を高精度に行うことが可能となる等、本発明は優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】蛍光X線分析装置の構成を示す模式図である。
【図2】試料セルの構成を示す断面図である。
【図3】試料セルの構成を示す分解斜視図である。
【図4】実施の形態1に係る試料カップの模式的斜視図である。
【図5】実施の形態1に係る試料セルの利用形態を示す模式的断面図である。
【図6】実施の形態2に係る試料カップの模式的斜視図である。
【図7】実施の形態2に係る試料セルの利用形態を示す模式的断面図である。
【図8】蛇腹をカップ端面の内側に設けてある形態を示す模式的断面図である。
【図9】実施の形態3に係る試料セルの模式的断面図である。
【図10】実施の形態3に係る試料セルの利用形態を示す模式的断面図である。
【図11】実施の形態4に係る試料カップの模式的断面図である。
【図12】実施の形態4に係る試料セルの利用形態を示す模式的断面図である。
【図13】実施の形態5に係る試料カップの模式的断面図である。
【図14】実施の形態5に係る試料セルの利用形態を示す模式的断面図である。
【図15】実施の形態6に係る試料カップの模式的断面図である。
【図16】実施の形態6に係る試料セルの利用形態を示す模式的断面図である。
【図17】実施の形態7に係る試料カップの模式的断面図である。
【図18】実施の形態7に係る試料セルの利用形態を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。
(実施の形態1)
図1は、蛍光X線分析装置の構成を示す模式図である。蛍光X線分析装置は、X線を遮蔽する材料で箱状に形成された筐体5を備え、筐体5の上部は平面に構成されている。筐体5の上部平面の中央には開口部が形成されており、この開口部に内嵌させる態様でセルホルダ2が装着されている。そして、分析対象の試料が収容された試料セル(蛍光X線分析用試料セル)1がセルホルダ2上に載置される。また蛍光X線分析装置は、開口部を含む筐体5の上面の少なくとも一部を覆うカバー6を設けており、セルホルダ2とセルホルダ2上に載置された試料セル1は、カバー6で覆われる。試料セル1は、粉末又は液体燃料等の流体試料を収容するためのセルであり、カップ状の形状に形成されている。セルホルダ2にはX線を透過させることができるX線透過シート21が設けられており、また試料セル1の下面はX線透過シート102で構成されている。
【0020】
筐体5の内部には、空洞状の測定室51が形成されており、また筐体5には、測定室51内へ一次X線を放射するX線管3とX線検出器4とを備えている。X線管3は、筐体5の開口部へ向けて一次X線を照射する位置に配置されている。蛍光X線分析を行う際には、筐体5の開口部の位置にはセルホルダ2及び試料セル1が配置されているので、X線管3から発生した一次X線は、セルホルダ2のX線透過シート21及び試料セル1のX線透過シート102を通過して、試料セル1内の試料に照射される。一次X線を照射された試料セル1内の試料は、蛍光X線を発生させ、蛍光X線はX線透過シート102及びセルホルダ2のX線透過シート21を透過して測定室51内に放射される。X線検出器4は、試料セル1内の試料から発生した蛍光X線を検出できる位置に配置されている。X線管3が照射する一次X線及びX線検出器4が検出する蛍光X線が通過する経路は、図1中に破線矢印で示している。
【0021】
X線管3の一次X線を放射する放射口には、図示しない開閉可能なシャッターが設けられている。X線管3は、一次X線の出力を安定させるために、常時X線を発生させる構成となっており、シャッターが開放されることにより、X線管3は一次X線を放射する。X線検出器4は、検出素子として比例計数管を用いた構成となっており、比例計数管に入射した蛍光X線のエネルギーに比例した電気信号を出力する。なお、X線検出器4は、検出素子として、半導体検出素子等の比例計数管以外の検出素子を用いた形態であってもよい。X線検出器4には、パーソナルコンピュータ等を用いて構成された図示しない信号分析部が接続されている。信号分析部は、X線検出器4が出力した電気信号を受け付け、蛍光X線のエネルギーに対応する各電気信号の強度及びその数をカウントし、蛍光X線のエネルギーとカウント数との関係、即ち蛍光X線のスペクトルを取得する処理を行う。なお、信号分析部は、取得した蛍光X線のスペクトルに基づいて、蛍光X線を発生した元素の定性分析又は定量分析を更に行う形態であってもよい。
【0022】
筐体5の開口部にセルホルダ2が装着された状態では、セルホルダ2によって筐体5内の測定室51は密閉空間となる。筐体5には、測定室51に繋がっており、測定室51内へガスを供給するための供給口52が形成されている。供給口52には、ガスを供給する図示しないガス配管が連結されている。蛍光X線分析を行う際は、供給口52から測定室51内へヘリウムガス又は窒素ガス等のガスが供給され、測定室51内の空気がガスによって置換される。図1中には、供給されたガスを実線矢印で示す。X線管3は、測定室51内の空気と置換されたガスに直接触れないように、シール用の金属箔31を介して筺体5に取り付けられている。分析対象の試料によっては、蛍光X線の各スペクトルのバックグラウンドを低減させるために一次フィルタを用い、X線管3からの一次X線を一次フィルタを通してから照射する場合がある。この場合、シール用の金属箔31の代わりに一次フィルタを用いてもよい。
【0023】
また、セルホルダ2に試料セル1が載置された状態では、セルホルダ2のX線透過シート21と試料セル1のX線透過シート102との間に空間が生じる。蛍光X線分析装置は、X線透過シート21とX線透過シート102との間の空間にガスを供給するための図示しない供給機構を備えている。この供給機構の働きにより、X線透過シート21とX線透過シート102との間の空間内の空気もヘリウムガス又は窒素ガス等のガスで置換される。
【0024】
図2は、試料セル5の構成を示す断面図であり、図3は、試料セル5の構成を示す分解斜視図である。試料セル1は、セル内枠101、試料カップ11、セル外枠103及びX線透過シート102にて構成されている。セル内枠101は、円筒状をなしており、ポリエチレンなどのプラスチック又は金属等にて成形されている。セル内枠101の上端部には、外周面の一周に亘って鍔部101aが設けられている。またセル内枠101の外周面には、軸方向における中央位置に、一周に亘って溝101bが形成されており、セル内枠101の内周面には、一周に亘って環状の突部101cが突設されている。
【0025】
試料カップ11は、軟質のプラスチックフィルム等のシートを折り曲げて成形したものである。試料カップ11は、一端がカップ端面111となっており、他端に開口部を有する円筒状の試料収容部112と、試料収容部112の開口部に連設され、試料収容部112の外周面から所定間隔を隔てて試料収容部112の外周面を囲むように設けられた円筒状の囲い部113と、囲い部113の端部に外周面の一周に亘って設けられた鍔部114とを有している。また、後述するように、カップ端面111は、シートを折り曲げて平面状に構成してある。
【0026】
試料収容部112の外径はセル内枠101の内径より小さく、囲い部113の内径はセル内枠101の外径と略等しい。また、セル内枠101の鍔部101aを除いた高さ(上下方向の長さ)は、試料収容部112及び囲い部113の間の空間の高さよりも若干短い。よって、試料収容部112及び囲い部113の間の空間には、セル内枠101の鍔部101aが試料カップ11の鍔部114に当接するまで、セル内枠101を上側から挿入することができる。試料カップ11にセル内枠101を挿入した場合、セル内枠101は試料カップ11の囲い部113に内嵌し、セル内枠101の内周面と試料カップ11の試料収容部112の外周面との間には隙間が生じる。
【0027】
X線透過シート102は、試料カップ11の外径より十分に大きな直径を有する略円形の薄いシートであり、液体燃料等の流体試料は通さず、しかもX線を透過させる物質で形成されている。X線透過シート102は、例えば、ポリエステルのシートにより製造される。X線透過シート102は、試料が収容された試料カップ11の開口部を覆うことによって試料カップ11内を密閉し、試料カップ11の(即ち、試料セル1の)底面をなす。
【0028】
セル外枠103は、円筒状をなし、ポリエチレンなどのプラスチック又は金属等にて成形されている。セル外枠103の内径は、試料カップ11の外径より若干大きく、セル外枠103には、試料収容部112及び囲い部113の間にセル内枠101が挿入された状態の試料カップ11を、開口部側から挿入して嵌合させることができる。このときに、試料カップ11の開口部をX線透過シート102で覆った状態でセル外枠103内に嵌合させることで、X線透過シート102の外縁側の部分が試料カップ11の外周面とセル外枠103の内周面との間に挟み込まれる。よって、試料カップ11内の流体試料が開口部からこぼれ出ることがないようにX線透過シート102が試料セル1の底面として強固に固定される。
【0029】
セル外枠103の上端部には、外周面の一周に亘って鍔部103aが設けられており、鍔部103aは、嵌合されたセル内枠101及び試料カップ11をそれぞれの鍔部101a及び114にて支持する。またセル外枠103の内周面には、セル内枠101の外周面に設けられた溝101bに対応する位置に、一周に亘って突部103bが設けられており、この突部103bは、セル外枠103に内嵌されたセル内枠101の溝部101bに、試料カップ11の囲い部113及びX線透過シート102を挟んだ状態で係合する。これにより、セル内枠101及びセル外枠103の間に、試料カップ11及びX線透過シート102が強固に挟持される。
【0030】
セルホルダ2は、銅又はアルミニウム等の金属製であり、中央に開口部を形成した円環状に形成されている。セルホルダ2の開口部には、開口部を閉鎖するようにX線透過シート21が設けられている。X線透過シート21を有するセルホルダ2が筐体5の開口部に内嵌するように装着されることで、筐体5の開口部は閉鎖される。試料セル1は、試料セル1のX線透過シート102とセルホルダ2のX線透過シート21とが対向するように、セルホルダ2に載置される。X線管3からの一次X線は、セルホルダ2のX線透過シート21と試料セル1のX線透過シート102とを通過して試料セル1内の試料に照射される。従って、試料セル1のX線透過シート102は、本発明における密閉された窓部として機能する。
【0031】
図4は、実施の形態1に係る試料カップ11の模式的斜視図である。試料カップ11のカップ端面111は、カップ端面111の面積よりも広いシートを折り畳んで平面状に形成してある。図4(a)は、シートを折り曲げた状態を示しており、図4(b)はシートを広げた状態を示している。カップ端面111は、中心に近いほど隆起する形状のシートを同心円状に畳み込んで形成してある。またカップ端面111は、試料カップ11の内側からの圧力が増大した場合にシートが広がるように、シートを畳み込んである。このようにカップ端面111を形成してあることにより、試料カップ11の内側からの圧力が通常である状態では、図4(a)に示すようにカップ端面111は平面状である。また試料カップ11の内側からの圧力が増大した状態では、図4(b)に示すように、カップ端面111を構成するシートが広がり、カップ端面111は試料カップ11の外側に向かって膨らんだ形状に変形する。カップ端面111が試料カップ11の外側に向かって膨らんだ形状に変形することにより、試料カップ11内部の容積、即ち、試料を収容する試料セル1の内部の容積が増大することになる。カップ端面111は、本発明における変形部として機能する。なお、試料カップ11の内側からの圧力が増大した状態で試料カップ11の外側に向かって膨らんで広がる形状であれば、カップ端面111は、その他の形状のシートを畳み込んだ形態であってもよい。
【0032】
図5は、実施の形態1に係る試料セル1の利用形態を示す模式的断面図である。まず、図5(a)に示すように、鍔部101aを下側としたセル内枠101に上側から試料カップ11を被せ、カップ端面111が下側となった状態で、試料カップ11の開口部から試料カップ11内に流体試料Sを注入する。次に、試料カップ11の開口部をX線透過シート102で覆い、その上側からセル外枠103を外嵌させることによって、試料セル1の組み立て及び流体試料Sの収容を行なう。図5(b)に示すように、試料セル1が組み立てられた状態では、試料セル1はX線透過シート102によって密閉され、試料セル1の内部には流体試料Sと若干量の空気とが封入されている。
【0033】
次に、試料セル1の上下を反転させ、図5(c)に示すように、X線透過シート102を底面にし、カップ端面111を上側にして、試料セル1がセルホルダ2上に載置される。試料セル1がセルホルダ2上に載置された状態でX線管3から一次X線が照射され、X線蛍光分析が行われる。X線管3からの一次X線は、図5(c)に示す図の下側から照射され、一次X線はX線透過シート102を透過して試料セル1内の流体試料Sに照射され、流体試料Sから発生した蛍光X線は、X線透過シート102を透過して放出される。蛍光X線分析の実行中に、時間の経過に伴って流体試料Sが揮発し、試料セル1内の圧力が上昇した場合は、カップ端面111を構成する畳み込んであったシートが圧力の上昇に伴って広がる。図5(d)に示すように、カップ端面111は、試料セル1の外側に向かって膨らむように変形し、これによって試料セル1の内部の容積が増大する。試料セル1の内部の容積が増大することによって、試料セル1内の圧力の上昇が緩和されるので、X線透過シート102が圧力の上昇によって膨張することが防止される。
【0034】
以上のように、本実施の形態に係る試料セル1を用いたX線蛍光分析装置では、試料セル1内で流体試料Sが揮発して試料セル1内の圧力が上昇した場合であっても、一次X線及び蛍光X線が透過する窓部であるX線透過シート102が膨張することは無い。蛍光X線を透過させるX線透過シート102が膨張することが無いので、流体試料Sと蛍光X線を検出するX線検出器4との距離が変動することも無く、X線検出器4で検出する蛍光X線の強度が変動することも無い。従って、流体試料S内の元素分布以外の要因で蛍光X線の強度が変化することがなくなるので、蛍光X線分析により流体試料Sの元素分析を高精度に行うことが可能となる。
【0035】
(実施の形態2)
実施の形態2においては、X線蛍光分析装置の構成は実施の形態1と同様であり、試料セル1の試料カップの形状が異なる。図6は、実施の形態2に係る試料カップ12の模式的斜視図である。試料カップ12のカップ端面121には、内部が空洞で伸縮自在な蛇腹122が設けてある。図6(a)は、蛇腹122が縮んだ状態を示しており、図6(b)は蛇腹122が伸びた状態を示している。図6(b)に示すように、蛇腹122が伸びるときには試料カップ12の外側に向かって伸びるように形成されている。蛇腹122内部の空洞は、試料カップ12が形成する試料セル1内の空間に連結している。このため、試料カップ12の内側からの圧力が増大した場合、図6(b)に示すように蛇腹122は試料カップ12の外側に向かって伸び、試料セル1内の空間に連結した蛇腹122内の空洞が広がる。このようにカップ端面121に蛇腹122を設けてあることにより、試料カップ12の内側からが圧力が通常である状態では、図6(a)に示すように蛇腹122は縮んだ状態であり、試料カップ12の内側からの圧力が増大した状態では、図6(b)に示すように、蛇腹122は試料カップ12の外側に向かって伸びた形状に変形する。蛇腹122が試料カップ12の外側に向かって伸びた形状に変形することにより、蛇腹122内部の空洞を合わせた試料カップ12内部の容積、即ち、試料を収容する試料セル1の内部の容積が増大することになる。蛇腹122は、本発明における変形部として機能する。試料カップ12以外の試料セル1の構成は、実施の形態1と同様である。
【0036】
図7は、実施の形態2に係る試料セル1の利用形態を示す模式的断面図である。まず、図7(a)に示すように、セル内枠101に上側から試料カップ12を被せ、カップ端面121が下側となった状態で、試料カップ12の開口部から試料カップ12内に流体試料Sを注入する。次に、図7(b)に示すように、試料カップ12の開口部をX線透過シート102で覆い、セル外枠103を外嵌させることによって、試料セル1の組み立て及び流体試料Sの収容を行なう。次に、試料セル1の上下を反転させ、図7(c)に示すように、X線透過シート102を底面にし、カップ端面121を上側にして、試料セル1がセルホルダ2上に載置され、X線蛍光分析が行われる。この状態では、蛇腹122は縮んだ状態となっている。
【0037】
蛍光X線分析の実行中に、時間の経過に伴って流体試料Sが揮発し、試料セル1内の圧力が上昇した場合は、蛇腹122が圧力の上昇に伴って伸張する。図7(d)に示すように、蛇腹122は試料セル1の外側に向かって伸張しながら変形し、これによって試料セル1の内部の容積が増大する。試料セル1の内部の容積が増大することによって、試料セル1内の圧力の上昇が緩和されるので、X線透過シート102が圧力の上昇によって膨張することが防止される。
【0038】
以上のように、本実施の形態に係る試料セル1を用いたX線蛍光分析装置においても、試料セル1内で流体試料Sが揮発して試料セル1内の圧力が上昇した場合に、一次X線及び蛍光X線が透過する窓部であるX線透過シート102が膨張することは無い。従って、流体試料Sと蛍光X線を検出するX線検出器4との距離が変動することも無く、X線検出器4で検出する蛍光X線の強度が変動することも無いので、蛍光X線分析により流体試料Sの元素分析を高精度に行うことが可能となる。
【0039】
なお、図6及び図7では、蛇腹122がカップ端面121の外側に設けられた形態を示したが、蛇腹はカップ端面121の内側に設けてあってもよい。図8は、蛇腹123をカップ端面121の内側に設けてある形態を示す模式的断面図である。図8(a)に示すように、カップ端面121には、試料カップ12の内側に向けて伸縮自在な蛇腹123が設けてある。試料セル1の組み立て及び流体試料Sの収容を行ない、図8(a)に示すように、X線透過シート102を底面にし、カップ端面121を上側にした状態では、蛇腹123は重力によって試料セル1の内側に向かって伸びた状態となっている。この状態の試料セル1がセルホルダ2上に載置され、X線蛍光分析が行われる。時間の経過に伴って流体試料Sが揮発し、試料セル1内の圧力が上昇した場合は、図8(b)に示すように蛇腹123が圧力の上昇に伴って収縮する。蛇腹123は収縮によって試料セル1の容積を増大するように変形する。試料セル1の内部の容積が増大することによって、試料セル1内の圧力の上昇が緩和されるので、X線透過シート102が圧力の上昇によって膨張することが防止される。従って、この形態でも、蛍光X線分析により流体試料Sの元素分析を高精度に行うことが可能となる。
【0040】
(実施の形態3)
実施の形態3においては、X線蛍光分析装置の構成は実施の形態1と同様であり、試料セル1の構成が異なる。図9は、実施の形態3に係る試料セル1の模式的断面図である。試料セル1を構成する試料カップのカップ端面131は、平板状に形成されている。本実施の形態においては、図9に示すような、全体として内部に空洞を有する蛇腹の形状に形成されてある蛇腹部材132を、カップ端面131に装着するようになっている。蛇腹部材132は、カップ端面131に突き刺して貫通することができる刺突部133を有するカップ端面131に装着するようになっている。図9(b)は、蛇腹部材132をカップ端面131に装着した状態を示しており、刺突部133をカップ端面131に突き刺して貫通させることにより、蛇腹部材132をカップ端面131に装着する。蛇腹部材132は、接着剤等を用いてカップ端面131に固定される。刺突部133は、蛇腹部材132内の空洞に連結した開口中空管の形状に形成されている。従って、刺突部133がカップ端面131を貫通することにより、試料セル1内部の空間と蛇腹部材132内の空洞とは、刺突部133を介して連結される。蛇腹部材132が試料セル1の外側に向かって伸びた形状に変形することにより、蛇腹部材132内部の空洞を合わせた試料セル1の内部の容積が増大することになる。蛇腹部材132は、本発明における変形部として機能する。
【0041】
図10は、実施の形態3に係る試料セル1の利用形態を示す模式的断面図である。まず、図10(a)に示すように、セル内枠101に上側から試料カップを被せ、カップ端面131が下側となった状態で、試料カップの開口部から試料カップ内に流体試料Sを注入する。次に、図10(b)に示すように、試料カップの開口部をX線透過シート102で覆い、セル外枠103を外嵌させることによって、流体試料Sの収容を行なう。次に、試料セル1の上下を反転させ、図7(c)に示すように、X線透過シート102を底面にし、カップ端面131を上側にして、更にカップ端面131に蛇腹部材132を装着することにより、試料セル1を組み立てる。内部に流体試料Sを収容した試料セル1はセルホルダ2上に載置され、X線蛍光分析が行われる。この状態では、蛇腹部材132は縮んだ状態となっている。
【0042】
蛍光X線分析の実行中に、時間の経過に伴って流体試料Sが揮発し、試料セル1内の圧力が上昇した場合は、刺突部133を通じて蛇腹部材132内部の圧力も上昇し、蛇腹部材132は圧力の上昇に伴って伸張する。図10(d)に示すように、蛇腹部材132は試料セル1の外側に向かって伸張しながら変形し、これによって試料セル1の内部の容積が増大する。試料セル1の内部の容積が増大することによって、試料セル1内の圧力の上昇が緩和されるので、X線透過シート102が圧力の上昇によって膨張することが防止される。
【0043】
以上のように、本実施の形態に係る試料セル1を用いたX線蛍光分析装置においても、試料セル1内で流体試料Sが揮発して試料セル1内の圧力が上昇した場合に、一次X線及び蛍光X線が透過する窓部であるX線透過シート102が膨張することは無い。従って、流体試料Sと蛍光X線を検出するX線検出器4との距離が変動することも無く、X線検出器4で検出する蛍光X線の強度が変動することも無いので、蛍光X線分析により流体試料Sの元素分析を高精度に行うことが可能となる。
【0044】
(実施の形態4)
実施の形態4においては、X線蛍光分析装置の構成は実施の形態1と同様であり、試料セル1の試料カップの形状が異なる。図11は、実施の形態4に係る試料カップ14の模式的断面図である。試料カップ14のカップ端面141は、ゴム製薄膜等の弾性を有するシートで平板状に形成されている。カップ端面141は、弾性を有するので、試料カップ14の内側から力を加えられた場合、試料カップ14の外側に向かって変形する。図11(a)は、カップ端面141が平面状になっている状態を示しており、図11(b)はカップ端面141が変形した状態を示している。試料カップ14の内側からの圧力が増大した場合、図11(b)に示すようにカップ端面141は試料カップ14の外側に向かって膨張し、試料カップ14の内側の容積が広がる。このように、カップ端面141を弾性を有するシートで構成してあることにより、試料カップ14の内側からの圧力が通常である状態では、図11(a)に示すようにカップ端面141は平面状である。また試料カップ14の内側からの圧力が増大した状態では、図11(b)に示すように、カップ端面141は試料カップ14の外側に向けて膨張した形状に変形する。カップ端面141が試料カップ14の外側に向けて膨張した形状に変形することにより、試料カップ14内部の容積、即ち、試料セル1の内部の容積が増大することになる。カップ端面141は、本発明における変形部として機能する。試料カップ14以外の試料セル1の構成は、実施の形態1と同様である。
【0045】
図12は、実施の形態4に係る試料セル1の利用形態を示す模式的断面図である。まず、図12(a)に示すように、セル内枠101に上側から試料カップ14を被せ、カップ端面141が下側となった状態で、試料カップ14の開口部から試料カップ14内に流体試料Sを注入する。次に、図12(b)に示すように、試料カップ14の開口部をX線透過シート102で覆い、セル外枠103を外嵌させることによって、試料セル1の組み立て及び流体試料Sの収容を行なう。次に、試料セル1の上下を反転させ、図12(c)に示すように、X線透過シート102を底面にし、カップ端面141を上側にして、試料セル1がセルホルダ2上に載置され、X線蛍光分析が行われる。この状態では、カップ端面141は平面状となっている。
【0046】
蛍光X線分析の実行中に、時間の経過に伴って流体試料Sが揮発し、試料セル1内の圧力が上昇した場合は、カップ端面141が圧力の上昇に伴って膨張する。図12(d)に示すように、カップ端面141は試料セル1の外側に向かって膨張しながら変形し、これによって試料セル1の内部の容積が増大する。試料セル1の内部の容積が増大することによって、試料セル1内の圧力の上昇が緩和されるので、X線透過シート102が圧力の上昇によって膨張することが防止される。
【0047】
以上のように、本実施の形態に係る試料セル1を用いたX線蛍光分析装置においても、試料セル1内で流体試料Sが揮発して試料セル1内の圧力が上昇した場合に、一次X線及び蛍光X線が透過する窓部であるX線透過シート102が膨張することは無い。従って、流体試料Sと蛍光X線を検出するX線検出器4との距離が変動することも無く、X線検出器4で検出する蛍光X線の強度が変動することも無いので、蛍光X線分析により流体試料Sの元素分析を高精度に行うことが可能となる。
【0048】
(実施の形態5)
実施の形態5においては、X線蛍光分析装置の構成は実施の形態1と同様であり、試料セル1の試料カップの形状が異なる。図13は、実施の形態5に係る試料カップ15の模式的断面図である。試料カップ15のカップ端面151は、変形自在のシートで形成してあり、試料カップ15の断面積よりも広いシートを予め試料カップ15の内側に向けて凸に変形させることにより形成してある。カップ端面151は、試料カップ15の内側から力を加えられた場合、試料カップ15の外側に向かって変形する。図13(a)は、カップ端面151が試料カップ15の内側に向けて凸に変形している状態を示しており、図13(b)はカップ端面151が試料カップ15の外側に向かって変形した状態を示している。試料カップ15の内側からの圧力が増大した場合、カップ端面151は、試料カップ15の外側に向かって変形する。例えば、カップ端面151は、図13(b)に示すように、試料カップ15の外側に向けて凸に変形する。カップ端面151が試料カップ15の外側に向かって変形することにより、試料カップ15の内側の容積が広がる。
【0049】
このように、カップ端面151を、試料カップ15の断面積よりも広い変形自在のシートで構成してあることにより、試料カップ15の内側からの圧力が通常である状態では、図13(a)に示すようにカップ端面151は試料カップ15の内側に向けて凸に変形した状態となっている。また試料カップ15の内側からの圧力が増大した状態では、図13(b)に示すように、カップ端面151は試料カップ15の外側に向けて広がるように変形する。カップ端面111が試料カップ15の外側に向けて変形することにより、試料カップ15内部の容積、即ち、試料セル1の内部の容積が増大することになる。カップ端面151は、本発明における変形部として機能する。試料カップ15以外の試料セル1の構成は、実施の形態1と同様である。
【0050】
図14は、実施の形態5に係る試料セル1の利用形態を示す模式的断面図である。まず、図14(a)に示すように、セル内枠101に上側から試料カップ15を被せ、カップ端面151が下側となった状態で、試料カップ15の開口部から試料カップ15内に流体試料Sを注入する。次に、図14(b)に示すように、試料カップ15の開口部をX線透過シート102で覆い、セル外枠103を外嵌させることによって、試料セル1の組み立て及び流体試料Sの収容を行なう。次に、試料セル1の上下を反転させ、図14(c)に示すように、X線透過シート102を底面にし、カップ端面151を上側にして、試料セル1がセルホルダ2上に載置され、X線蛍光分析が行われる。この状態では、カップ端面141は試料セル1の内側に向けて凸に変形した形状となっている。
【0051】
蛍光X線分析の実行中に、時間の経過に伴って流体試料Sが揮発し、試料セル1内の圧力が上昇した場合は、カップ端面151が圧力の上昇に伴って変形する。図14(d)に示すように、カップ端面151は試料セル1の外側に向かって広がりながら変形し、これによって試料セル1の内部の容積が増大する。試料セル1の内部の容積が増大することによって、試料セル1内の圧力の上昇が緩和されるので、X線透過シート102が圧力の上昇によって膨張することが防止される。
【0052】
以上のように、本実施の形態に係る試料セル1を用いたX線蛍光分析装置においても、試料セル1内で流体試料Sが揮発して試料セル1内の圧力が上昇した場合に、一次X線及び蛍光X線が透過する窓部であるX線透過シート102が膨張することは無い。従って、流体試料Sと蛍光X線を検出するX線検出器4との距離が変動することも無く、X線検出器4で検出する蛍光X線の強度が変動することも無いので、蛍光X線分析により流体試料Sの元素分析を高精度に行うことが可能となる。
【0053】
なお、以上の実施の形態1〜5においては、試料セル1内の圧力の上昇に伴って変形する各種の変形部を、カップ端面に設けてある形態を示したが、これに限るものではなく、本発明の試料セル1は、X線透過シート102以外の部分であれば、側面等のカップ端面以外の部分に変形部を設けた形態であってもよい。
【0054】
(実施の形態6)
実施の形態6においては、X線蛍光分析装置の構成は実施の形態1と同様であり、試料セル1の試料カップの形状が異なる。図15は、実施の形態6に係る試料カップ16の模式的断面図である。試料カップ16のカップ端面161は、平板状に形成してある。またカップ端面161には、図15(a)に示すように、試料カップ16の内部の空間に通じる二つの孔162,163が形成されている。図15(b)に示すように、孔162には栓164が取り付けられ、孔163には栓165が取り付けられることによって、孔162,163が密封されるようになっている。試料カップ16以外の試料セル1の構成は、実施の形態1と同様である。
【0055】
図16は、実施の形態6に係る試料セル1の利用形態を示す模式的断面図である。まず、図16(a)に示すように、セル内枠101に試料カップ16を被せ、試料カップ16の開口部をX線透過シート102で覆い、セル外枠103を外嵌させることによって、試料セル1の組立を行い、X線透過シート102を底面にする。次に、図16(b)に示すように、孔162,163の何れかから流体試料Sを注入し、試料セル1内の空間を流体試料Sで満杯にする。このとき、孔162,163の一方は流体試料Sの注入口となり、他方は空気の排出口となる。流体試料Sを満杯にする際に孔162,163からカップ端面161上に溢れた流体試料Sは、ふき取り又は吸い取り等によって除去される。次に、図16(c)に示すように、栓164,165を孔162,163に取り付けることにより、孔162,163を密封する。栓164,165で孔162,163が密封されることにより、試料セル1内は流体試料Sで満杯となり、空気は存在しなくなる。栓164,165を取り付ける際にカップ端面161上に溢れた流体試料Sは除去される。なお、試料カップ16は、孔162,163から溢れた流体試料Sがカップ端面161から流出しないように、孔162,163の周りを囲む枠をカップ端面161上に設けた形態であってもよい。また、カップ端面161に形成してある孔の数は二個に限る必要はなく、試料カップ16は、単独で流体試料Sの注入及び空気の排出を同時に行える一つの孔をカップ端面161に形成してある形態であってもよく、また三個以上の孔をカップ端面161に形成してある形態であってもよい。
【0056】
流体試料Sで満杯となった試料セル1がX線透過シート102を底面にしてセルホルダ2上に載置され、X線蛍光分析が行われる。蛍光X線分析の実行中に、時間の経過に伴って流体試料Sが揮発しようとしたとしても、試料セル1は密閉され、また試料セル1内に空気は存在しないので、流体試料Sは揮発できない。従って、試料セル1内の圧力が上昇することはなく、X線透過シート102が圧力の上昇によって膨張することが防止される。
【0057】
以上のように、本実施の形態に係る試料セル1を用いたX線蛍光分析装置においては、試料セル1内で流体試料Sが揮発して試料セル1内の圧力が上昇することがないので、一次X線及び蛍光X線が透過する窓部であるX線透過シート102が膨張することは無い。従って、流体試料Sと蛍光X線を検出するX線検出器4との距離が変動することも無く、X線検出器4で検出する蛍光X線の強度が変動することも無いので、蛍光X線分析により流体試料Sの元素分析を高精度に行うことが可能となる。
【0058】
(実施の形態7)
実施の形態7においては、X線蛍光分析装置の構成は実施の形態1と同様であり、試料セル1の試料カップの形状が異なる。図17は、実施の形態7に係る試料カップ17の模式的断面図である。試料カップ17のカップ端面171には、ゴム状薄膜材で形成した膨縮可能なバルーン部172が設けてある。図17(a)に示すように、バルーン部172は試料カップ17の外部に向かって膨張することが可能なように形成されており、バルーン部172内部の空洞は試料カップ17が形成する試料セル1内の空間に連結している。更に、図17(b)に示すように、バルーン部172の根元、即ちバルーン部172とカップ端面171とが繋がる部分は、クリップ又はゴム紐等の緊締部材173で緊締することができるようになっている。バルーン部172の根元を緊締部材173で緊締した状態では、バルーン部172内部の空間と試料セル1内の空間との間は気体及び液体が移動できないようになっている。試料カップ17以外の試料セル1の構成は、実施の形態1と同様である。
【0059】
図18は、実施の形態7に係る試料セル1の利用形態を示す模式的断面図である。まず、図18(a)に示すように、セル内枠101に上側から試料カップ17を被せ、カップ端面171が下側となった状態で、試料カップ17の開口部から試料カップ17内に流体試料Sを注入する。次に、図18(b)に示すように、試料カップ17の開口部をX線透過シート102で覆い、セル外枠103を外嵌させることによって、試料セル1の組み立て及び流体試料Sの収容を行なう。次に、試料セル1の上下を反転させ、図18(c)に示すように、X線透過シート102を底面にし、カップ端面171を上側にする。このときにバルーン部172内に流体試料Sが入るように、流体試料Sの量を予め調整しておく。次に、図18(d)に示すように、バルーン部172の根元を緊締部材173で緊締する。この状態では、試料セル1内は流体試料Sで満杯となり、バルーン部172内には流体試料S及び空気が存在する。緊締部材173のため、試料セル1の内部とバルーン部172との間は物質は移動できなくなる。
【0060】
図18(d)に示す状態の試料セル1がX線透過シート102を底面にしてセルホルダ2上に載置され、X線蛍光分析が行われる。蛍光X線分析の実行中に、時間の経過に伴って流体試料Sが揮発しようとした場合、バルーン172内では流体試料Sは揮発できるものの、試料セル1内では、流体試料Sで満杯で空気が存在しないので、流体試料Sは揮発できない。バルーン172内では、流体試料Sの揮発によって内部の圧力が上昇するものの、バルーン172内から試料セル1内へ流体試料S及び空気が移動することは緊締部材173によって防止されているので、試料セル1内の圧力が上昇することはない。従って、X線透過シート102が圧力の上昇によって膨張することが防止される。
【0061】
以上のように、本実施の形態に係る試料セル1を用いたX線蛍光分析装置においては、試料セル1内で流体試料Sが揮発して試料セル1内の圧力が上昇することがないので、一次X線及び蛍光X線が透過する窓部であるX線透過シート102が膨張することは無い。従って、流体試料Sと蛍光X線を検出するX線検出器4との距離が変動することも無く、X線検出器4で検出する蛍光X線の強度が変動することも無いので、蛍光X線分析により流体試料Sの元素分析を高精度に行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0062】
1 試料セル
101 セル内枠
102 X線透過シート
103 セル外枠
11、12、14、15、16、17 試料カップ
111、121、131、141、151、161、171 カップ端面
122、123 蛇腹
132 蛇腹部材
162、163 孔
164、165 栓
172 バルーン部
173 緊締部材
2 セルホルダ
21 X線透過シート
3 X線管
4 X線検出器
5 筐体
6 カバー
S 流体試料
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光X線分析用の試料を収容するための試料セルに関し、より詳しくは揮発性の試料を密閉状態で収容するための蛍光X線分析用試料セルに関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光X線分析は、一次X線を試料に照射し、試料から発生する蛍光X線を検出し、蛍光X線のスペクトルから試料に含有される元素の定性分析又は定量分析を行う分析手法である。蛍光X線分析を行う蛍光X線分析装置は、一次X線を発生させるX線管、半導体検出素子又は比例計数管等を用いたX線検出器、X線検出器が検出したX線の波長分布又はエネルギー分布を分析する分析器等から構成される。蛍光X線分析を行う際は、X線管が発生した一次X線を試料へ照射し、一次X線を照射された試料から発生する蛍光X線をX線検出器で検出し、検出した蛍光X線のスペクトルを分析器で分析する。
【0003】
このような蛍光X線分析は、液体試料の元素分析に利用することができる。例えば、軽油等の液体燃料に含まれる有害成分を低減することを目的として、蛍光X線分析を利用した液体燃料の元素分析が行われる。特許文献1には、液体試料の蛍光X線分析を行う蛍光X線分析装置が記載されている。液体燃料等の揮発性の試料を分析する際には、揮発による試料の減少及び変質等を防止するために、密封した試料セル内に試料を収容しておく。特許文献1には、X線を透過させることができるX線透過シートで一面を密封した試料セル内に液体試料を収容し、X線透過シートを試料セルの底面とし、X線透過シートを通して一次X線を試料セル内の試料に照射し、X線透過性シートを透過して放出される蛍光X線を検出する技術が記載されている。また特許文献2には、二重のシートの間に液体試料を封入する試料セルが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−127028号公報
【特許文献2】特開平7−134082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
試料セル内を液体試料で満杯にしようとすると液体試料が試料セルからあふれることになるので、満杯にはできず、試料セル内には、液体試料と若干の空気が封入されることになる。液体試料が燃料等の揮発性の高い液体である場合、時間の経過に伴って液体試料が試料セル内で揮発し、試料セル内の圧力が上昇することになる。試料セル内の圧力が上昇した場合、試料セルを密封しているシートが膨張する。試料からの蛍光X線が透過するシートが膨張した場合、試料と蛍光X線を検出する検出器との距離が変動し、検出器で検出する蛍光X線の強度が変動し、高精度な元素分析ができないという問題がある。
【0006】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、内部の圧力が上昇した場合であっても、蛍光X線が透過するシートの膨張を防止することにより、高精度な元素分析を可能にする蛍光X線分析用試料セルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る蛍光X線分析用試料セルは、内部に収容した試料からの蛍光X線を外部へ放出するための窓部を有し、試料を収容して密閉された状態で使用される蛍光X線分析用試料セルにおいて、密閉状態で内部の圧力が上昇した場合に、窓部が変形する前に内部の容積が増大するように変形することができる変形部を設けてあることを特徴とする。
【0008】
本発明においては、試料からの蛍光X線を放出するための窓部を有し、密閉状態で使用される蛍光X線分析用試料セルは、X線透過シート等で密閉された窓部が変形する前に圧力の上昇に伴って内部の容積が増大するように変形する変形部を有する。試料を収容して密閉した蛍光X線分析用試料セルの内部圧力が上昇した場合、変形部が変形して内部の容積が増大することで、圧力の上昇が緩和される。
【0009】
本発明に係る蛍光X線分析用試料セルは、前記変形部として、前記窓部以外の一部の壁を、外側に向かって広がることができるように畳み込んだシートで形成してあることを特徴とする。
【0010】
また本発明においては、窓部以外の壁を外側に向かって広がることができるように畳み込んだシートで形成してあるので、内部の圧力が上昇した場合は、畳み込んであったシートが広がることにより、窓部が変形する前に、内部の容積が増大する。
【0011】
本発明に係る蛍光X線分析用試料セルは、前記変形部として、前記窓部以外の一部の壁を、圧力の上昇に伴って膨張するシートで形成してあることを特徴とする。
【0012】
また本発明においては、窓部以外の壁を膨張可能なシートで形成してあるので、内部の圧力が上昇した場合は、圧力の上昇に伴ってシートが外部に向かって膨張することにより、窓部が変形する前に、内部の容積が増大する。
【0013】
本発明に係る蛍光X線分析用試料セルは、前記変形部として、前記窓部以外の部分に、内部の容積が増大する方向に変形することができる蛇腹を設けてあることを特徴とする。
【0014】
また本発明においては、窓部以外の部分に、内部の容積が増大する方向に変形可能な蛇腹を設けてあるので、内部の圧力が上昇した場合は、圧力の上昇に伴って蛇腹が変形することにより、窓部が変形する前に、内部の容積が増大する。
【0015】
本発明に係る蛍光X線分析用試料セルは、前記変形部として、前記窓部以外の一部の壁を変形自在のシートで形成してあり、前記壁を予め内側に凸に変形させてあることを特徴とする。
【0016】
また本発明においては、窓部以外の壁を変形自在なシートで形成し、予め内部に向けて凸に変形させてあるので、内部の圧力が上昇した場合は、圧力の上昇に伴ってシートが外部に向かって変形することにより、窓部が変形する前に、内部の容積が増大する。
【発明の効果】
【0017】
本発明にあっては、本発明の蛍光X線分析用試料セルを用いてX線蛍光分析を行っている最中に、試料が揮発して蛍光X線分析用試料セルの内部の圧力が上昇した場合であっても、変形部が変形することによって圧力の上昇が緩和されるので、密閉状態の窓部が変形することは無い。窓部の変形が無いので、試料と蛍光X線を検出する検出器との距離が変動することも無く、検出する蛍光X線の強度が変動することも無い。従って、試料内の元素分布以外の要因で蛍光X線の強度が変化することがなくなるので、蛍光X線分析により試料の元素分析を高精度に行うことが可能となる等、本発明は優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】蛍光X線分析装置の構成を示す模式図である。
【図2】試料セルの構成を示す断面図である。
【図3】試料セルの構成を示す分解斜視図である。
【図4】実施の形態1に係る試料カップの模式的斜視図である。
【図5】実施の形態1に係る試料セルの利用形態を示す模式的断面図である。
【図6】実施の形態2に係る試料カップの模式的斜視図である。
【図7】実施の形態2に係る試料セルの利用形態を示す模式的断面図である。
【図8】蛇腹をカップ端面の内側に設けてある形態を示す模式的断面図である。
【図9】実施の形態3に係る試料セルの模式的断面図である。
【図10】実施の形態3に係る試料セルの利用形態を示す模式的断面図である。
【図11】実施の形態4に係る試料カップの模式的断面図である。
【図12】実施の形態4に係る試料セルの利用形態を示す模式的断面図である。
【図13】実施の形態5に係る試料カップの模式的断面図である。
【図14】実施の形態5に係る試料セルの利用形態を示す模式的断面図である。
【図15】実施の形態6に係る試料カップの模式的断面図である。
【図16】実施の形態6に係る試料セルの利用形態を示す模式的断面図である。
【図17】実施の形態7に係る試料カップの模式的断面図である。
【図18】実施の形態7に係る試料セルの利用形態を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下本発明をその実施の形態を示す図面に基づき具体的に説明する。
(実施の形態1)
図1は、蛍光X線分析装置の構成を示す模式図である。蛍光X線分析装置は、X線を遮蔽する材料で箱状に形成された筐体5を備え、筐体5の上部は平面に構成されている。筐体5の上部平面の中央には開口部が形成されており、この開口部に内嵌させる態様でセルホルダ2が装着されている。そして、分析対象の試料が収容された試料セル(蛍光X線分析用試料セル)1がセルホルダ2上に載置される。また蛍光X線分析装置は、開口部を含む筐体5の上面の少なくとも一部を覆うカバー6を設けており、セルホルダ2とセルホルダ2上に載置された試料セル1は、カバー6で覆われる。試料セル1は、粉末又は液体燃料等の流体試料を収容するためのセルであり、カップ状の形状に形成されている。セルホルダ2にはX線を透過させることができるX線透過シート21が設けられており、また試料セル1の下面はX線透過シート102で構成されている。
【0020】
筐体5の内部には、空洞状の測定室51が形成されており、また筐体5には、測定室51内へ一次X線を放射するX線管3とX線検出器4とを備えている。X線管3は、筐体5の開口部へ向けて一次X線を照射する位置に配置されている。蛍光X線分析を行う際には、筐体5の開口部の位置にはセルホルダ2及び試料セル1が配置されているので、X線管3から発生した一次X線は、セルホルダ2のX線透過シート21及び試料セル1のX線透過シート102を通過して、試料セル1内の試料に照射される。一次X線を照射された試料セル1内の試料は、蛍光X線を発生させ、蛍光X線はX線透過シート102及びセルホルダ2のX線透過シート21を透過して測定室51内に放射される。X線検出器4は、試料セル1内の試料から発生した蛍光X線を検出できる位置に配置されている。X線管3が照射する一次X線及びX線検出器4が検出する蛍光X線が通過する経路は、図1中に破線矢印で示している。
【0021】
X線管3の一次X線を放射する放射口には、図示しない開閉可能なシャッターが設けられている。X線管3は、一次X線の出力を安定させるために、常時X線を発生させる構成となっており、シャッターが開放されることにより、X線管3は一次X線を放射する。X線検出器4は、検出素子として比例計数管を用いた構成となっており、比例計数管に入射した蛍光X線のエネルギーに比例した電気信号を出力する。なお、X線検出器4は、検出素子として、半導体検出素子等の比例計数管以外の検出素子を用いた形態であってもよい。X線検出器4には、パーソナルコンピュータ等を用いて構成された図示しない信号分析部が接続されている。信号分析部は、X線検出器4が出力した電気信号を受け付け、蛍光X線のエネルギーに対応する各電気信号の強度及びその数をカウントし、蛍光X線のエネルギーとカウント数との関係、即ち蛍光X線のスペクトルを取得する処理を行う。なお、信号分析部は、取得した蛍光X線のスペクトルに基づいて、蛍光X線を発生した元素の定性分析又は定量分析を更に行う形態であってもよい。
【0022】
筐体5の開口部にセルホルダ2が装着された状態では、セルホルダ2によって筐体5内の測定室51は密閉空間となる。筐体5には、測定室51に繋がっており、測定室51内へガスを供給するための供給口52が形成されている。供給口52には、ガスを供給する図示しないガス配管が連結されている。蛍光X線分析を行う際は、供給口52から測定室51内へヘリウムガス又は窒素ガス等のガスが供給され、測定室51内の空気がガスによって置換される。図1中には、供給されたガスを実線矢印で示す。X線管3は、測定室51内の空気と置換されたガスに直接触れないように、シール用の金属箔31を介して筺体5に取り付けられている。分析対象の試料によっては、蛍光X線の各スペクトルのバックグラウンドを低減させるために一次フィルタを用い、X線管3からの一次X線を一次フィルタを通してから照射する場合がある。この場合、シール用の金属箔31の代わりに一次フィルタを用いてもよい。
【0023】
また、セルホルダ2に試料セル1が載置された状態では、セルホルダ2のX線透過シート21と試料セル1のX線透過シート102との間に空間が生じる。蛍光X線分析装置は、X線透過シート21とX線透過シート102との間の空間にガスを供給するための図示しない供給機構を備えている。この供給機構の働きにより、X線透過シート21とX線透過シート102との間の空間内の空気もヘリウムガス又は窒素ガス等のガスで置換される。
【0024】
図2は、試料セル5の構成を示す断面図であり、図3は、試料セル5の構成を示す分解斜視図である。試料セル1は、セル内枠101、試料カップ11、セル外枠103及びX線透過シート102にて構成されている。セル内枠101は、円筒状をなしており、ポリエチレンなどのプラスチック又は金属等にて成形されている。セル内枠101の上端部には、外周面の一周に亘って鍔部101aが設けられている。またセル内枠101の外周面には、軸方向における中央位置に、一周に亘って溝101bが形成されており、セル内枠101の内周面には、一周に亘って環状の突部101cが突設されている。
【0025】
試料カップ11は、軟質のプラスチックフィルム等のシートを折り曲げて成形したものである。試料カップ11は、一端がカップ端面111となっており、他端に開口部を有する円筒状の試料収容部112と、試料収容部112の開口部に連設され、試料収容部112の外周面から所定間隔を隔てて試料収容部112の外周面を囲むように設けられた円筒状の囲い部113と、囲い部113の端部に外周面の一周に亘って設けられた鍔部114とを有している。また、後述するように、カップ端面111は、シートを折り曲げて平面状に構成してある。
【0026】
試料収容部112の外径はセル内枠101の内径より小さく、囲い部113の内径はセル内枠101の外径と略等しい。また、セル内枠101の鍔部101aを除いた高さ(上下方向の長さ)は、試料収容部112及び囲い部113の間の空間の高さよりも若干短い。よって、試料収容部112及び囲い部113の間の空間には、セル内枠101の鍔部101aが試料カップ11の鍔部114に当接するまで、セル内枠101を上側から挿入することができる。試料カップ11にセル内枠101を挿入した場合、セル内枠101は試料カップ11の囲い部113に内嵌し、セル内枠101の内周面と試料カップ11の試料収容部112の外周面との間には隙間が生じる。
【0027】
X線透過シート102は、試料カップ11の外径より十分に大きな直径を有する略円形の薄いシートであり、液体燃料等の流体試料は通さず、しかもX線を透過させる物質で形成されている。X線透過シート102は、例えば、ポリエステルのシートにより製造される。X線透過シート102は、試料が収容された試料カップ11の開口部を覆うことによって試料カップ11内を密閉し、試料カップ11の(即ち、試料セル1の)底面をなす。
【0028】
セル外枠103は、円筒状をなし、ポリエチレンなどのプラスチック又は金属等にて成形されている。セル外枠103の内径は、試料カップ11の外径より若干大きく、セル外枠103には、試料収容部112及び囲い部113の間にセル内枠101が挿入された状態の試料カップ11を、開口部側から挿入して嵌合させることができる。このときに、試料カップ11の開口部をX線透過シート102で覆った状態でセル外枠103内に嵌合させることで、X線透過シート102の外縁側の部分が試料カップ11の外周面とセル外枠103の内周面との間に挟み込まれる。よって、試料カップ11内の流体試料が開口部からこぼれ出ることがないようにX線透過シート102が試料セル1の底面として強固に固定される。
【0029】
セル外枠103の上端部には、外周面の一周に亘って鍔部103aが設けられており、鍔部103aは、嵌合されたセル内枠101及び試料カップ11をそれぞれの鍔部101a及び114にて支持する。またセル外枠103の内周面には、セル内枠101の外周面に設けられた溝101bに対応する位置に、一周に亘って突部103bが設けられており、この突部103bは、セル外枠103に内嵌されたセル内枠101の溝部101bに、試料カップ11の囲い部113及びX線透過シート102を挟んだ状態で係合する。これにより、セル内枠101及びセル外枠103の間に、試料カップ11及びX線透過シート102が強固に挟持される。
【0030】
セルホルダ2は、銅又はアルミニウム等の金属製であり、中央に開口部を形成した円環状に形成されている。セルホルダ2の開口部には、開口部を閉鎖するようにX線透過シート21が設けられている。X線透過シート21を有するセルホルダ2が筐体5の開口部に内嵌するように装着されることで、筐体5の開口部は閉鎖される。試料セル1は、試料セル1のX線透過シート102とセルホルダ2のX線透過シート21とが対向するように、セルホルダ2に載置される。X線管3からの一次X線は、セルホルダ2のX線透過シート21と試料セル1のX線透過シート102とを通過して試料セル1内の試料に照射される。従って、試料セル1のX線透過シート102は、本発明における密閉された窓部として機能する。
【0031】
図4は、実施の形態1に係る試料カップ11の模式的斜視図である。試料カップ11のカップ端面111は、カップ端面111の面積よりも広いシートを折り畳んで平面状に形成してある。図4(a)は、シートを折り曲げた状態を示しており、図4(b)はシートを広げた状態を示している。カップ端面111は、中心に近いほど隆起する形状のシートを同心円状に畳み込んで形成してある。またカップ端面111は、試料カップ11の内側からの圧力が増大した場合にシートが広がるように、シートを畳み込んである。このようにカップ端面111を形成してあることにより、試料カップ11の内側からの圧力が通常である状態では、図4(a)に示すようにカップ端面111は平面状である。また試料カップ11の内側からの圧力が増大した状態では、図4(b)に示すように、カップ端面111を構成するシートが広がり、カップ端面111は試料カップ11の外側に向かって膨らんだ形状に変形する。カップ端面111が試料カップ11の外側に向かって膨らんだ形状に変形することにより、試料カップ11内部の容積、即ち、試料を収容する試料セル1の内部の容積が増大することになる。カップ端面111は、本発明における変形部として機能する。なお、試料カップ11の内側からの圧力が増大した状態で試料カップ11の外側に向かって膨らんで広がる形状であれば、カップ端面111は、その他の形状のシートを畳み込んだ形態であってもよい。
【0032】
図5は、実施の形態1に係る試料セル1の利用形態を示す模式的断面図である。まず、図5(a)に示すように、鍔部101aを下側としたセル内枠101に上側から試料カップ11を被せ、カップ端面111が下側となった状態で、試料カップ11の開口部から試料カップ11内に流体試料Sを注入する。次に、試料カップ11の開口部をX線透過シート102で覆い、その上側からセル外枠103を外嵌させることによって、試料セル1の組み立て及び流体試料Sの収容を行なう。図5(b)に示すように、試料セル1が組み立てられた状態では、試料セル1はX線透過シート102によって密閉され、試料セル1の内部には流体試料Sと若干量の空気とが封入されている。
【0033】
次に、試料セル1の上下を反転させ、図5(c)に示すように、X線透過シート102を底面にし、カップ端面111を上側にして、試料セル1がセルホルダ2上に載置される。試料セル1がセルホルダ2上に載置された状態でX線管3から一次X線が照射され、X線蛍光分析が行われる。X線管3からの一次X線は、図5(c)に示す図の下側から照射され、一次X線はX線透過シート102を透過して試料セル1内の流体試料Sに照射され、流体試料Sから発生した蛍光X線は、X線透過シート102を透過して放出される。蛍光X線分析の実行中に、時間の経過に伴って流体試料Sが揮発し、試料セル1内の圧力が上昇した場合は、カップ端面111を構成する畳み込んであったシートが圧力の上昇に伴って広がる。図5(d)に示すように、カップ端面111は、試料セル1の外側に向かって膨らむように変形し、これによって試料セル1の内部の容積が増大する。試料セル1の内部の容積が増大することによって、試料セル1内の圧力の上昇が緩和されるので、X線透過シート102が圧力の上昇によって膨張することが防止される。
【0034】
以上のように、本実施の形態に係る試料セル1を用いたX線蛍光分析装置では、試料セル1内で流体試料Sが揮発して試料セル1内の圧力が上昇した場合であっても、一次X線及び蛍光X線が透過する窓部であるX線透過シート102が膨張することは無い。蛍光X線を透過させるX線透過シート102が膨張することが無いので、流体試料Sと蛍光X線を検出するX線検出器4との距離が変動することも無く、X線検出器4で検出する蛍光X線の強度が変動することも無い。従って、流体試料S内の元素分布以外の要因で蛍光X線の強度が変化することがなくなるので、蛍光X線分析により流体試料Sの元素分析を高精度に行うことが可能となる。
【0035】
(実施の形態2)
実施の形態2においては、X線蛍光分析装置の構成は実施の形態1と同様であり、試料セル1の試料カップの形状が異なる。図6は、実施の形態2に係る試料カップ12の模式的斜視図である。試料カップ12のカップ端面121には、内部が空洞で伸縮自在な蛇腹122が設けてある。図6(a)は、蛇腹122が縮んだ状態を示しており、図6(b)は蛇腹122が伸びた状態を示している。図6(b)に示すように、蛇腹122が伸びるときには試料カップ12の外側に向かって伸びるように形成されている。蛇腹122内部の空洞は、試料カップ12が形成する試料セル1内の空間に連結している。このため、試料カップ12の内側からの圧力が増大した場合、図6(b)に示すように蛇腹122は試料カップ12の外側に向かって伸び、試料セル1内の空間に連結した蛇腹122内の空洞が広がる。このようにカップ端面121に蛇腹122を設けてあることにより、試料カップ12の内側からが圧力が通常である状態では、図6(a)に示すように蛇腹122は縮んだ状態であり、試料カップ12の内側からの圧力が増大した状態では、図6(b)に示すように、蛇腹122は試料カップ12の外側に向かって伸びた形状に変形する。蛇腹122が試料カップ12の外側に向かって伸びた形状に変形することにより、蛇腹122内部の空洞を合わせた試料カップ12内部の容積、即ち、試料を収容する試料セル1の内部の容積が増大することになる。蛇腹122は、本発明における変形部として機能する。試料カップ12以外の試料セル1の構成は、実施の形態1と同様である。
【0036】
図7は、実施の形態2に係る試料セル1の利用形態を示す模式的断面図である。まず、図7(a)に示すように、セル内枠101に上側から試料カップ12を被せ、カップ端面121が下側となった状態で、試料カップ12の開口部から試料カップ12内に流体試料Sを注入する。次に、図7(b)に示すように、試料カップ12の開口部をX線透過シート102で覆い、セル外枠103を外嵌させることによって、試料セル1の組み立て及び流体試料Sの収容を行なう。次に、試料セル1の上下を反転させ、図7(c)に示すように、X線透過シート102を底面にし、カップ端面121を上側にして、試料セル1がセルホルダ2上に載置され、X線蛍光分析が行われる。この状態では、蛇腹122は縮んだ状態となっている。
【0037】
蛍光X線分析の実行中に、時間の経過に伴って流体試料Sが揮発し、試料セル1内の圧力が上昇した場合は、蛇腹122が圧力の上昇に伴って伸張する。図7(d)に示すように、蛇腹122は試料セル1の外側に向かって伸張しながら変形し、これによって試料セル1の内部の容積が増大する。試料セル1の内部の容積が増大することによって、試料セル1内の圧力の上昇が緩和されるので、X線透過シート102が圧力の上昇によって膨張することが防止される。
【0038】
以上のように、本実施の形態に係る試料セル1を用いたX線蛍光分析装置においても、試料セル1内で流体試料Sが揮発して試料セル1内の圧力が上昇した場合に、一次X線及び蛍光X線が透過する窓部であるX線透過シート102が膨張することは無い。従って、流体試料Sと蛍光X線を検出するX線検出器4との距離が変動することも無く、X線検出器4で検出する蛍光X線の強度が変動することも無いので、蛍光X線分析により流体試料Sの元素分析を高精度に行うことが可能となる。
【0039】
なお、図6及び図7では、蛇腹122がカップ端面121の外側に設けられた形態を示したが、蛇腹はカップ端面121の内側に設けてあってもよい。図8は、蛇腹123をカップ端面121の内側に設けてある形態を示す模式的断面図である。図8(a)に示すように、カップ端面121には、試料カップ12の内側に向けて伸縮自在な蛇腹123が設けてある。試料セル1の組み立て及び流体試料Sの収容を行ない、図8(a)に示すように、X線透過シート102を底面にし、カップ端面121を上側にした状態では、蛇腹123は重力によって試料セル1の内側に向かって伸びた状態となっている。この状態の試料セル1がセルホルダ2上に載置され、X線蛍光分析が行われる。時間の経過に伴って流体試料Sが揮発し、試料セル1内の圧力が上昇した場合は、図8(b)に示すように蛇腹123が圧力の上昇に伴って収縮する。蛇腹123は収縮によって試料セル1の容積を増大するように変形する。試料セル1の内部の容積が増大することによって、試料セル1内の圧力の上昇が緩和されるので、X線透過シート102が圧力の上昇によって膨張することが防止される。従って、この形態でも、蛍光X線分析により流体試料Sの元素分析を高精度に行うことが可能となる。
【0040】
(実施の形態3)
実施の形態3においては、X線蛍光分析装置の構成は実施の形態1と同様であり、試料セル1の構成が異なる。図9は、実施の形態3に係る試料セル1の模式的断面図である。試料セル1を構成する試料カップのカップ端面131は、平板状に形成されている。本実施の形態においては、図9に示すような、全体として内部に空洞を有する蛇腹の形状に形成されてある蛇腹部材132を、カップ端面131に装着するようになっている。蛇腹部材132は、カップ端面131に突き刺して貫通することができる刺突部133を有するカップ端面131に装着するようになっている。図9(b)は、蛇腹部材132をカップ端面131に装着した状態を示しており、刺突部133をカップ端面131に突き刺して貫通させることにより、蛇腹部材132をカップ端面131に装着する。蛇腹部材132は、接着剤等を用いてカップ端面131に固定される。刺突部133は、蛇腹部材132内の空洞に連結した開口中空管の形状に形成されている。従って、刺突部133がカップ端面131を貫通することにより、試料セル1内部の空間と蛇腹部材132内の空洞とは、刺突部133を介して連結される。蛇腹部材132が試料セル1の外側に向かって伸びた形状に変形することにより、蛇腹部材132内部の空洞を合わせた試料セル1の内部の容積が増大することになる。蛇腹部材132は、本発明における変形部として機能する。
【0041】
図10は、実施の形態3に係る試料セル1の利用形態を示す模式的断面図である。まず、図10(a)に示すように、セル内枠101に上側から試料カップを被せ、カップ端面131が下側となった状態で、試料カップの開口部から試料カップ内に流体試料Sを注入する。次に、図10(b)に示すように、試料カップの開口部をX線透過シート102で覆い、セル外枠103を外嵌させることによって、流体試料Sの収容を行なう。次に、試料セル1の上下を反転させ、図7(c)に示すように、X線透過シート102を底面にし、カップ端面131を上側にして、更にカップ端面131に蛇腹部材132を装着することにより、試料セル1を組み立てる。内部に流体試料Sを収容した試料セル1はセルホルダ2上に載置され、X線蛍光分析が行われる。この状態では、蛇腹部材132は縮んだ状態となっている。
【0042】
蛍光X線分析の実行中に、時間の経過に伴って流体試料Sが揮発し、試料セル1内の圧力が上昇した場合は、刺突部133を通じて蛇腹部材132内部の圧力も上昇し、蛇腹部材132は圧力の上昇に伴って伸張する。図10(d)に示すように、蛇腹部材132は試料セル1の外側に向かって伸張しながら変形し、これによって試料セル1の内部の容積が増大する。試料セル1の内部の容積が増大することによって、試料セル1内の圧力の上昇が緩和されるので、X線透過シート102が圧力の上昇によって膨張することが防止される。
【0043】
以上のように、本実施の形態に係る試料セル1を用いたX線蛍光分析装置においても、試料セル1内で流体試料Sが揮発して試料セル1内の圧力が上昇した場合に、一次X線及び蛍光X線が透過する窓部であるX線透過シート102が膨張することは無い。従って、流体試料Sと蛍光X線を検出するX線検出器4との距離が変動することも無く、X線検出器4で検出する蛍光X線の強度が変動することも無いので、蛍光X線分析により流体試料Sの元素分析を高精度に行うことが可能となる。
【0044】
(実施の形態4)
実施の形態4においては、X線蛍光分析装置の構成は実施の形態1と同様であり、試料セル1の試料カップの形状が異なる。図11は、実施の形態4に係る試料カップ14の模式的断面図である。試料カップ14のカップ端面141は、ゴム製薄膜等の弾性を有するシートで平板状に形成されている。カップ端面141は、弾性を有するので、試料カップ14の内側から力を加えられた場合、試料カップ14の外側に向かって変形する。図11(a)は、カップ端面141が平面状になっている状態を示しており、図11(b)はカップ端面141が変形した状態を示している。試料カップ14の内側からの圧力が増大した場合、図11(b)に示すようにカップ端面141は試料カップ14の外側に向かって膨張し、試料カップ14の内側の容積が広がる。このように、カップ端面141を弾性を有するシートで構成してあることにより、試料カップ14の内側からの圧力が通常である状態では、図11(a)に示すようにカップ端面141は平面状である。また試料カップ14の内側からの圧力が増大した状態では、図11(b)に示すように、カップ端面141は試料カップ14の外側に向けて膨張した形状に変形する。カップ端面141が試料カップ14の外側に向けて膨張した形状に変形することにより、試料カップ14内部の容積、即ち、試料セル1の内部の容積が増大することになる。カップ端面141は、本発明における変形部として機能する。試料カップ14以外の試料セル1の構成は、実施の形態1と同様である。
【0045】
図12は、実施の形態4に係る試料セル1の利用形態を示す模式的断面図である。まず、図12(a)に示すように、セル内枠101に上側から試料カップ14を被せ、カップ端面141が下側となった状態で、試料カップ14の開口部から試料カップ14内に流体試料Sを注入する。次に、図12(b)に示すように、試料カップ14の開口部をX線透過シート102で覆い、セル外枠103を外嵌させることによって、試料セル1の組み立て及び流体試料Sの収容を行なう。次に、試料セル1の上下を反転させ、図12(c)に示すように、X線透過シート102を底面にし、カップ端面141を上側にして、試料セル1がセルホルダ2上に載置され、X線蛍光分析が行われる。この状態では、カップ端面141は平面状となっている。
【0046】
蛍光X線分析の実行中に、時間の経過に伴って流体試料Sが揮発し、試料セル1内の圧力が上昇した場合は、カップ端面141が圧力の上昇に伴って膨張する。図12(d)に示すように、カップ端面141は試料セル1の外側に向かって膨張しながら変形し、これによって試料セル1の内部の容積が増大する。試料セル1の内部の容積が増大することによって、試料セル1内の圧力の上昇が緩和されるので、X線透過シート102が圧力の上昇によって膨張することが防止される。
【0047】
以上のように、本実施の形態に係る試料セル1を用いたX線蛍光分析装置においても、試料セル1内で流体試料Sが揮発して試料セル1内の圧力が上昇した場合に、一次X線及び蛍光X線が透過する窓部であるX線透過シート102が膨張することは無い。従って、流体試料Sと蛍光X線を検出するX線検出器4との距離が変動することも無く、X線検出器4で検出する蛍光X線の強度が変動することも無いので、蛍光X線分析により流体試料Sの元素分析を高精度に行うことが可能となる。
【0048】
(実施の形態5)
実施の形態5においては、X線蛍光分析装置の構成は実施の形態1と同様であり、試料セル1の試料カップの形状が異なる。図13は、実施の形態5に係る試料カップ15の模式的断面図である。試料カップ15のカップ端面151は、変形自在のシートで形成してあり、試料カップ15の断面積よりも広いシートを予め試料カップ15の内側に向けて凸に変形させることにより形成してある。カップ端面151は、試料カップ15の内側から力を加えられた場合、試料カップ15の外側に向かって変形する。図13(a)は、カップ端面151が試料カップ15の内側に向けて凸に変形している状態を示しており、図13(b)はカップ端面151が試料カップ15の外側に向かって変形した状態を示している。試料カップ15の内側からの圧力が増大した場合、カップ端面151は、試料カップ15の外側に向かって変形する。例えば、カップ端面151は、図13(b)に示すように、試料カップ15の外側に向けて凸に変形する。カップ端面151が試料カップ15の外側に向かって変形することにより、試料カップ15の内側の容積が広がる。
【0049】
このように、カップ端面151を、試料カップ15の断面積よりも広い変形自在のシートで構成してあることにより、試料カップ15の内側からの圧力が通常である状態では、図13(a)に示すようにカップ端面151は試料カップ15の内側に向けて凸に変形した状態となっている。また試料カップ15の内側からの圧力が増大した状態では、図13(b)に示すように、カップ端面151は試料カップ15の外側に向けて広がるように変形する。カップ端面111が試料カップ15の外側に向けて変形することにより、試料カップ15内部の容積、即ち、試料セル1の内部の容積が増大することになる。カップ端面151は、本発明における変形部として機能する。試料カップ15以外の試料セル1の構成は、実施の形態1と同様である。
【0050】
図14は、実施の形態5に係る試料セル1の利用形態を示す模式的断面図である。まず、図14(a)に示すように、セル内枠101に上側から試料カップ15を被せ、カップ端面151が下側となった状態で、試料カップ15の開口部から試料カップ15内に流体試料Sを注入する。次に、図14(b)に示すように、試料カップ15の開口部をX線透過シート102で覆い、セル外枠103を外嵌させることによって、試料セル1の組み立て及び流体試料Sの収容を行なう。次に、試料セル1の上下を反転させ、図14(c)に示すように、X線透過シート102を底面にし、カップ端面151を上側にして、試料セル1がセルホルダ2上に載置され、X線蛍光分析が行われる。この状態では、カップ端面141は試料セル1の内側に向けて凸に変形した形状となっている。
【0051】
蛍光X線分析の実行中に、時間の経過に伴って流体試料Sが揮発し、試料セル1内の圧力が上昇した場合は、カップ端面151が圧力の上昇に伴って変形する。図14(d)に示すように、カップ端面151は試料セル1の外側に向かって広がりながら変形し、これによって試料セル1の内部の容積が増大する。試料セル1の内部の容積が増大することによって、試料セル1内の圧力の上昇が緩和されるので、X線透過シート102が圧力の上昇によって膨張することが防止される。
【0052】
以上のように、本実施の形態に係る試料セル1を用いたX線蛍光分析装置においても、試料セル1内で流体試料Sが揮発して試料セル1内の圧力が上昇した場合に、一次X線及び蛍光X線が透過する窓部であるX線透過シート102が膨張することは無い。従って、流体試料Sと蛍光X線を検出するX線検出器4との距離が変動することも無く、X線検出器4で検出する蛍光X線の強度が変動することも無いので、蛍光X線分析により流体試料Sの元素分析を高精度に行うことが可能となる。
【0053】
なお、以上の実施の形態1〜5においては、試料セル1内の圧力の上昇に伴って変形する各種の変形部を、カップ端面に設けてある形態を示したが、これに限るものではなく、本発明の試料セル1は、X線透過シート102以外の部分であれば、側面等のカップ端面以外の部分に変形部を設けた形態であってもよい。
【0054】
(実施の形態6)
実施の形態6においては、X線蛍光分析装置の構成は実施の形態1と同様であり、試料セル1の試料カップの形状が異なる。図15は、実施の形態6に係る試料カップ16の模式的断面図である。試料カップ16のカップ端面161は、平板状に形成してある。またカップ端面161には、図15(a)に示すように、試料カップ16の内部の空間に通じる二つの孔162,163が形成されている。図15(b)に示すように、孔162には栓164が取り付けられ、孔163には栓165が取り付けられることによって、孔162,163が密封されるようになっている。試料カップ16以外の試料セル1の構成は、実施の形態1と同様である。
【0055】
図16は、実施の形態6に係る試料セル1の利用形態を示す模式的断面図である。まず、図16(a)に示すように、セル内枠101に試料カップ16を被せ、試料カップ16の開口部をX線透過シート102で覆い、セル外枠103を外嵌させることによって、試料セル1の組立を行い、X線透過シート102を底面にする。次に、図16(b)に示すように、孔162,163の何れかから流体試料Sを注入し、試料セル1内の空間を流体試料Sで満杯にする。このとき、孔162,163の一方は流体試料Sの注入口となり、他方は空気の排出口となる。流体試料Sを満杯にする際に孔162,163からカップ端面161上に溢れた流体試料Sは、ふき取り又は吸い取り等によって除去される。次に、図16(c)に示すように、栓164,165を孔162,163に取り付けることにより、孔162,163を密封する。栓164,165で孔162,163が密封されることにより、試料セル1内は流体試料Sで満杯となり、空気は存在しなくなる。栓164,165を取り付ける際にカップ端面161上に溢れた流体試料Sは除去される。なお、試料カップ16は、孔162,163から溢れた流体試料Sがカップ端面161から流出しないように、孔162,163の周りを囲む枠をカップ端面161上に設けた形態であってもよい。また、カップ端面161に形成してある孔の数は二個に限る必要はなく、試料カップ16は、単独で流体試料Sの注入及び空気の排出を同時に行える一つの孔をカップ端面161に形成してある形態であってもよく、また三個以上の孔をカップ端面161に形成してある形態であってもよい。
【0056】
流体試料Sで満杯となった試料セル1がX線透過シート102を底面にしてセルホルダ2上に載置され、X線蛍光分析が行われる。蛍光X線分析の実行中に、時間の経過に伴って流体試料Sが揮発しようとしたとしても、試料セル1は密閉され、また試料セル1内に空気は存在しないので、流体試料Sは揮発できない。従って、試料セル1内の圧力が上昇することはなく、X線透過シート102が圧力の上昇によって膨張することが防止される。
【0057】
以上のように、本実施の形態に係る試料セル1を用いたX線蛍光分析装置においては、試料セル1内で流体試料Sが揮発して試料セル1内の圧力が上昇することがないので、一次X線及び蛍光X線が透過する窓部であるX線透過シート102が膨張することは無い。従って、流体試料Sと蛍光X線を検出するX線検出器4との距離が変動することも無く、X線検出器4で検出する蛍光X線の強度が変動することも無いので、蛍光X線分析により流体試料Sの元素分析を高精度に行うことが可能となる。
【0058】
(実施の形態7)
実施の形態7においては、X線蛍光分析装置の構成は実施の形態1と同様であり、試料セル1の試料カップの形状が異なる。図17は、実施の形態7に係る試料カップ17の模式的断面図である。試料カップ17のカップ端面171には、ゴム状薄膜材で形成した膨縮可能なバルーン部172が設けてある。図17(a)に示すように、バルーン部172は試料カップ17の外部に向かって膨張することが可能なように形成されており、バルーン部172内部の空洞は試料カップ17が形成する試料セル1内の空間に連結している。更に、図17(b)に示すように、バルーン部172の根元、即ちバルーン部172とカップ端面171とが繋がる部分は、クリップ又はゴム紐等の緊締部材173で緊締することができるようになっている。バルーン部172の根元を緊締部材173で緊締した状態では、バルーン部172内部の空間と試料セル1内の空間との間は気体及び液体が移動できないようになっている。試料カップ17以外の試料セル1の構成は、実施の形態1と同様である。
【0059】
図18は、実施の形態7に係る試料セル1の利用形態を示す模式的断面図である。まず、図18(a)に示すように、セル内枠101に上側から試料カップ17を被せ、カップ端面171が下側となった状態で、試料カップ17の開口部から試料カップ17内に流体試料Sを注入する。次に、図18(b)に示すように、試料カップ17の開口部をX線透過シート102で覆い、セル外枠103を外嵌させることによって、試料セル1の組み立て及び流体試料Sの収容を行なう。次に、試料セル1の上下を反転させ、図18(c)に示すように、X線透過シート102を底面にし、カップ端面171を上側にする。このときにバルーン部172内に流体試料Sが入るように、流体試料Sの量を予め調整しておく。次に、図18(d)に示すように、バルーン部172の根元を緊締部材173で緊締する。この状態では、試料セル1内は流体試料Sで満杯となり、バルーン部172内には流体試料S及び空気が存在する。緊締部材173のため、試料セル1の内部とバルーン部172との間は物質は移動できなくなる。
【0060】
図18(d)に示す状態の試料セル1がX線透過シート102を底面にしてセルホルダ2上に載置され、X線蛍光分析が行われる。蛍光X線分析の実行中に、時間の経過に伴って流体試料Sが揮発しようとした場合、バルーン172内では流体試料Sは揮発できるものの、試料セル1内では、流体試料Sで満杯で空気が存在しないので、流体試料Sは揮発できない。バルーン172内では、流体試料Sの揮発によって内部の圧力が上昇するものの、バルーン172内から試料セル1内へ流体試料S及び空気が移動することは緊締部材173によって防止されているので、試料セル1内の圧力が上昇することはない。従って、X線透過シート102が圧力の上昇によって膨張することが防止される。
【0061】
以上のように、本実施の形態に係る試料セル1を用いたX線蛍光分析装置においては、試料セル1内で流体試料Sが揮発して試料セル1内の圧力が上昇することがないので、一次X線及び蛍光X線が透過する窓部であるX線透過シート102が膨張することは無い。従って、流体試料Sと蛍光X線を検出するX線検出器4との距離が変動することも無く、X線検出器4で検出する蛍光X線の強度が変動することも無いので、蛍光X線分析により流体試料Sの元素分析を高精度に行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0062】
1 試料セル
101 セル内枠
102 X線透過シート
103 セル外枠
11、12、14、15、16、17 試料カップ
111、121、131、141、151、161、171 カップ端面
122、123 蛇腹
132 蛇腹部材
162、163 孔
164、165 栓
172 バルーン部
173 緊締部材
2 セルホルダ
21 X線透過シート
3 X線管
4 X線検出器
5 筐体
6 カバー
S 流体試料
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に収容した試料からの蛍光X線を外部へ放出するための窓部を有し、試料を収容して密閉された状態で使用される蛍光X線分析用試料セルにおいて、
密閉状態で内部の圧力が上昇した場合に、窓部が変形する前に内部の容積が増大するように変形することができる変形部を設けてあること
を特徴とする蛍光X線分析用試料セル。
【請求項2】
前記変形部として、前記窓部以外の一部の壁を、外側に向かって広がることができるように畳み込んだシートで形成してあることを特徴とする請求項1に記載の蛍光X線分析用試料セル。
【請求項3】
前記変形部として、前記窓部以外の一部の壁を、圧力の上昇に伴って膨張するシートで形成してあることを特徴とする請求項1に記載の蛍光X線分析用試料セル。
【請求項4】
前記変形部として、前記窓部以外の部分に、内部の容積が増大する方向に変形することができる蛇腹を設けてあることを特徴とする請求項1に記載の蛍光X線分析用試料セル。
【請求項5】
前記変形部として、前記窓部以外の一部の壁を変形自在のシートで形成してあり、前記壁を予め内側に凸に変形させてあることを特徴とする請求項1に記載の蛍光X線分析用試料セル。
【請求項1】
内部に収容した試料からの蛍光X線を外部へ放出するための窓部を有し、試料を収容して密閉された状態で使用される蛍光X線分析用試料セルにおいて、
密閉状態で内部の圧力が上昇した場合に、窓部が変形する前に内部の容積が増大するように変形することができる変形部を設けてあること
を特徴とする蛍光X線分析用試料セル。
【請求項2】
前記変形部として、前記窓部以外の一部の壁を、外側に向かって広がることができるように畳み込んだシートで形成してあることを特徴とする請求項1に記載の蛍光X線分析用試料セル。
【請求項3】
前記変形部として、前記窓部以外の一部の壁を、圧力の上昇に伴って膨張するシートで形成してあることを特徴とする請求項1に記載の蛍光X線分析用試料セル。
【請求項4】
前記変形部として、前記窓部以外の部分に、内部の容積が増大する方向に変形することができる蛇腹を設けてあることを特徴とする請求項1に記載の蛍光X線分析用試料セル。
【請求項5】
前記変形部として、前記窓部以外の一部の壁を変形自在のシートで形成してあり、前記壁を予め内側に凸に変形させてあることを特徴とする請求項1に記載の蛍光X線分析用試料セル。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2011−80956(P2011−80956A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235383(P2009−235383)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]