説明

蛍光X線分析用試料ホルダ

【課題】加圧成形試料からの破片や粉体による汚染を簡単な作業で十分に抑制できる試料ホルダを提供する。
【解決手段】加圧成形試料1を保持する試料ホルダ2であって、底部3a付きの円筒形であって通気部3cを有する本体3と、本体3の上部を覆うように着脱自在に取り付けられ、加圧成形試料1の分析面1aを露出させる開口4aを有し、下方から加圧成形試料1が当接される蓋体4と、加圧成形試料1が載置される受け皿5と、本体3の底部3aと受け皿5との間に配置され、受け皿5を介して加圧成形試料1を蓋体4に押圧する内側ばね6と、加圧成形試料1を非接触で囲うように配置されるリング部7aおよびそのリング部7aから垂下する多孔性膜である袋部7bからなるトラップ7と、底部3aとリング部7aとの間に配置され、リング部7aを蓋体4に押圧する外側ばね8とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体が加圧成形された加圧成形試料を蛍光X線分析するために保持する試料ホルダに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蛍光X線分析において、試料が粉体である場合には、加圧して固めることにより加圧成形試料にし、もともと固体である試料と同様に試料ホルダで収納保持して分析を行うのが一般的である(特許文献1参照)。このような加圧成形試料は、試料ホルダに収納する際や試料ホルダから取り外す際に破片や粉体を生じやすく、それらの破片や粉体が、分析時の真空引きにより、試料ホルダ内部や蛍光X線分析装置における試料ホルダの周辺を汚染するので、その汚染除去のためのメンテナンス作業が煩雑になる。そこで、試料ホルダが載置される予備排気室において、試料ホルダ側部の貫通孔近くに引き口を設け、そこから真空引きすることにより、加圧成形試料の側面および下面の周囲に飛散した粉体や、試料ホルダ内の下部に溜まった粉体を排気する蛍光X線分析装置がある(特許文献2参照)。
【0003】
一方、粉体である試料を粉体のまま、樹脂フィルムであるカバーシートと通気性を有するフィルムである多孔質材とで挟んで収納する試料ホルダもある(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−350372号公報
【特許文献2】特開2000−193612号公報
【特許文献3】特開平10−232208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献2に記載の装置では、破片や粉体が試料ホルダ内部や蛍光X線分析装置における試料ホルダの周辺に一旦付着すること自体は防止できず、付着する場所や量によっては、付着した破片や粉体を十分に排気できないおそれがある。一方、特許文献3に記載の試料ホルダでは、粉体の飛散は防止できるが、分析対象である試料を試料ホルダに収納するたびに、カバーシートと多孔質材とで挟んで調製しなければならないため、手間がかかり、また、分析面が露出せずカバーシートで覆われることで、蛍光X線が減衰し分析精度が低下するため、あまり好ましくない。したがって、従来の技術では、加圧成形試料からの破片や粉体による汚染を簡単な作業で十分に抑制できる試料ホルダを実現できなかった。
【0006】
本発明は前記従来の問題に鑑みてなされたもので、加圧成形試料からの破片や粉体による汚染を簡単な作業で十分に抑制できる試料ホルダを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明は、粉体が加圧成形された加圧成形試料を蛍光X線分析するために保持する試料ホルダであって、底部付きの円筒形であって真空引き用の通気部を有する本体と、その本体の上部を覆うように着脱自在に取り付けられ、加圧成形試料の分析面を露出させるための開口を有し、下方から加圧成形試料が当接される蓋体と、加圧成形試料が載置される受け皿とを備える。さらに、本発明の試料ホルダは、前記本体の底部と前記受け皿との間に配置され、弾性力で前記受け皿を介して加圧成形試料を前記蓋体に押圧する圧縮コイルばねである内側ばねと、加圧成形試料を非接触で囲うように配置される輪状のリング部およびそのリング部から垂下する袋状の多孔性膜である袋部からなるトラップと、前記本体の底部と前記トラップのリング部との間に配置され、弾性力で前記リング部を前記蓋体に押圧する圧縮コイルばねである外側ばねとを備える。
【0008】
本発明の試料ホルダによれば、加圧成形試料からの破片や粉体はトラップの袋部に溜まり、溜まった破片や粉体は、本体から取り出したトラップから振り落とすことで簡単に除去できるので、加圧成形試料からの破片や粉体による汚染を簡単な作業で十分に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の第1実施形態の試料ホルダを示す縦断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態の試料ホルダを示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の第1実施形態の試料ホルダについて、図にしたがって説明する。図1に示すように、第1実施形態の試料ホルダ2は、粉体が加圧成形された円板状の加圧成形試料1を蛍光X線分析するために保持する試料ホルダ2であって、底部3a付きの円筒形であって真空引き用の通気部3cとして側部3bに貫通孔を有する本体3と、その本体3の上部を覆うように例えばねじ込みで着脱自在に取り付けられ、加圧成形試料1の分析面1aを露出させるための円形の開口4aを有し、下方から加圧成形試料1が当接される蓋体4と、加圧成形試料1が載置される円板状の受け皿5とを備える。蓋体4の開口4aの直径は、この試料ホルダ2が適用される加圧成形試料1の直径よりも小さい。
【0011】
さらに、第1実施形態の試料ホルダ2は、本体3の底部3aと受け皿5との間に配置され、弾性力で受け皿5を介して加圧成形試料1を蓋体4に押圧する圧縮コイルばねである内側ばね6と、加圧成形試料1を非接触で囲うように配置される輪状のリング部7aおよびそのリング部7aから垂下する袋状の多孔性膜である袋部7bからなるトラップ7と、本体3の底部3aとトラップ7のリング部7aとの間に配置され、弾性力でリング部7aを蓋体4に押圧する圧縮コイルばねである外側ばね8とを備える。図1において、袋部7bの内側にある内側ばね6と、袋部7bの外側にある外側ばね8は、模式的に示されている。なお、本体3における真空引き用の通気部は、側部3bに限らず底部3aに設けてもよいし、通気部としての貫通孔の寸法、形状、数も適宜設定すればよく、例えば、本体3の底部3aに通気部として複数の貫通孔を設けて、底部3a全体をメッシュ状としてもよい。
【0012】
トラップ7について詳細に説明する。リング部7aの内径は、この試料ホルダ2が適用される加圧成形試料1を非接触で囲えるように、加圧成形試料1の直径よりも大きい。袋部7bは、通気部3cからの排気で試料ホルダ2の内部が真空引きできるように、かつ、加圧成形試料1からの破片や粉体を袋部7bの内側に溜められるように、通気性がある袋状の多孔性膜、例えば、メッシュ10μmのポリアミド合成繊維製プランクトンネットを用いる。袋部7bの開口端部は、リング部7aの下側の開口と合致するように、例えば接着で取り付けられる。
【0013】
第1実施形態の試料ホルダ2には、以下のようにして、加圧成形試料1が収納される。まず、本体3の中に外側ばね8が配置される。次に、外側ばね8の上端部にトラップ7のリング部7aの下面外周部が載るように、トラップ7が配置される。次に、トラップ7の袋部7bの内側に内側ばね6が配置される。次に、内側ばね6の上端部に受け皿5の下面が載るように、加圧成形試料1を載置した受け皿5が配置される。
【0014】
最後に、本体3の上部外周に形成された雄ねじに、蓋体4の下部内周に形成された雌ねじが螺合されることにより、本体3に蓋体4がねじ込まれて取り付けられ、図1に示す状態になる。このとき、内側ばね6は、圧縮されることにより、弾性力で下方から受け皿5を介して加圧成形試料1を蓋体4に押圧し、加圧成形試料1の分析面1aは、蓋体4の開口4aから露出する。同時に、外側ばね8は、圧縮されることにより、弾性力で下方からリング部7aを蓋体4に押圧する。また、袋部7bは、内側ばね6を内包してリング部7aから垂下する。
【0015】
このように加圧成形試料1が収納された第1実施形態の試料ホルダ2は、試料の上方から1次X線を照射する上面照射型蛍光X線分析装置の分析室に載置されて真空引きされ、加圧成形試料1の分析面1aに1次X線9が照射されて、発生する蛍光X線などの2次X線10が検出される。このとき、加圧成形試料1から破片や粉体が生じても、トラップ7の袋部7bの内側に溜められる。そして、分析後、次の分析のために試料ホルダ2内の加圧成形試料1を交換する際に、袋部7bに溜まった破片や粉体は、本体3から取り出したトラップ7から振り落とすことで簡単に除去でき、トラップ7は清掃される。また、トラップ7のリング部7aの内径は、この試料ホルダ2が適用される加圧成形試料1を非接触で囲えるように、加圧成形試料1の直径よりも大きいので、リング部7aが加圧成形試料1に接触して破片や粉体が生じさせることがそもそも少ない。
【0016】
以上のように、第1実施形態の試料ホルダ2によれば、加圧成形試料1からの破片や粉体はトラップ7の袋部7bに溜まり、溜まった破片や粉体は、本体3から取り出したトラップ7から振り落とすことで簡単に除去できるので、加圧成形試料1からの破片や粉体による汚染を簡単な作業で十分に抑制できる。
【0017】
次に、本発明の第2実施形態の試料ホルダについて説明する。図2に示すように、第2実施形態の試料ホルダ12は、第1実施形態の試料ホルダ2と比べて、構成する部品は同じで、内側ばね6の配置が異なるだけであるので、その点について説明する。つまり、第2実施形態の試料ホルダ12には、以下のようにして、加圧成形試料1が収納される。まず、本体3の中に外側ばね8と内側ばね6が配置される。次に、外側ばね8の上端部にトラップ7のリング部7aの下面外周部が載るように、トラップ7が配置される。次に、内側ばね6の上端部に袋部7aを介して受け皿5の下面が載るように、加圧成形試料1を載置した受け皿5が配置される。
【0018】
最後に、本体3の上部外周に形成された雄ねじに、蓋体4の下部内周に形成された雌ねじが螺合されることにより、本体3に蓋体4がねじ込まれて取り付けられ、図2に示す状態になる。このとき、内側ばね6は、圧縮されることにより、弾性力で下方から袋部7aおよび受け皿5を介して加圧成形試料1を蓋体4に押圧し、加圧成形試料1の分析面1aは、蓋体4の開口4aから露出する。同時に、外側ばね8は、圧縮されることにより、弾性力で下方からリング部7aを蓋体4に押圧する。また、袋部7bは、内側ばね6と外側ばね8との間でリング部7aから垂下する。なお、図2においては、内側ばね6と外側ばね8は、ともに袋部7bの外側にあり、模式的に示されている。
【0019】
第2実施形態の試料ホルダ12によっても、第1実施形態の試料ホルダ2と同様に、加圧成形試料1からの破片や粉体はトラップ7の袋部7bに溜まり、溜まった破片や粉体は、本体3から取り出したトラップ7から振り落とすことで簡単に除去できるので、加圧成形試料1からの破片や粉体による汚染を簡単な作業で十分に抑制できる。
【符号の説明】
【0020】
1 加圧成形試料
1a 分析面
2,12 試料ホルダ
3 本体
3a 底部
3c 通気部
4 蓋体
4a 開口
5 受け皿
6 内側ばね
7 トラップ
7a リング部
7b 袋部
8 外側ばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉体が加圧成形された加圧成形試料を蛍光X線分析するために保持する試料ホルダであって、
底部付きの円筒形であって、真空引き用の通気部を有する本体と、
その本体の上部を覆うように着脱自在に取り付けられ、加圧成形試料の分析面を露出させるための開口を有し、下方から加圧成形試料が当接される蓋体と、
加圧成形試料が載置される受け皿と、
前記本体の底部と前記受け皿との間に配置され、弾性力で前記受け皿を介して加圧成形試料を前記蓋体に押圧する圧縮コイルばねである内側ばねと、
加圧成形試料を非接触で囲うように配置される輪状のリング部およびそのリング部から垂下する袋状の多孔性膜である袋部からなるトラップと、
前記本体の底部と前記トラップのリング部との間に配置され、弾性力で前記リング部を前記蓋体に押圧する圧縮コイルばねである外側ばねとを備えた試料ホルダ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−61306(P2013−61306A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201388(P2011−201388)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000250339)株式会社リガク (206)
【Fターム(参考)】