説明

蛍光X線液分析計

【課題】優れた測定精度を有するとともに、耐久性および保守性に優れた蛍光X線液分析計を提供する。
【解決手段】一次X線31を発生するX線発生部26と、一次X線31が入射する部分に装着されるセル窓25aを有する測定セル25と、測定セル25からの蛍光X線32を検出するX線検出部27と、水頭差を利用した測定セル25への液体試料の供給、および測定セル25からの液体試料の排出を行う液体試料供給系35とを備える蛍光X線液分析計21である。X線発生部26と測定セル25との位置関係、および測定セル25とX線検出部27との位置関係はいずれも不変である。セル窓25aは親水処理されたポリエチレンテレフタレート製の膜からなり、X線発生部26に装着される、ポリイミド製の膜からなる保護膜26aを備えるとともに、X線検出部27に装着される、ポリエチレンテレフタレート製の膜からなる保護膜27aを備える。さらに、液体試料供給系35における液体試料の排出側が大気開放される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光X線液分析計に関する。
【背景技術】
【0002】
既存の電気メッキラインには、メッキ液分析系統が設けられる。メッキ液分析系統は、(i)電気メッキラインのメッキ液収容槽に設けられたフィルタ装置を介してオーバーフロータンクへメッキ液を供給するサンプリング装置、(ii)オーバーフロータンクから供給されるメッキ液を収容するとともに駆動モータにより駆動される複数のサンプルホルダと、W管球およびCr管球を有するX線発生部と、駆動モータにより駆動されてX線発生部からの一次X線を遮光するシャッタと、サンプルホルダにより反射した反射X線(蛍光X線)を受光する半導体検出器からなるX線検出部とを備える蛍光X線液分析計、および(iii)X線検出部からの検出信号を加工処理する演算処理装置と、演算処理装置による演算結果を表示する表示部とを備えるメッキ液自動分析装置を備える。
【0003】
サンプリング装置によりサンプリングされた試料であるメッキ液は、蛍光X線液分析計により蛍光X線による測定が行われ、メッキ液自動分析装置に測定結果が表示される。
この蛍光X線液分析計では、複数のメッキ槽からサンプリングしたメッキ液が、サンプルホルダに連設された複数の液体試料収容部(以下、「測定セル」という)にそれぞれ装入され、これら複数の測定セルを駆動モータにより移動することによって測定を行う。このような従来のメッキ液自動分析装置は、例えば特許文献1〜7に開示されている。
【0004】
特許文献7では、一次X線を発生するX線発生部と、一次X線が入射する測定セルと、測定セルからの反射X線を検出するX線検出部とをハウジングにより支持し、X線発生部〜測定セルとの間の距離と、測定セル〜X線検出部との間の距離とをいずれも固定して不変とすることによって所望の測定精度を確実に確保できる蛍光X線液分析計に係る発明が開示されている。この発明では、一つの測定セルに試料を供給する供給系に複数種の液体試料を切り替えることができる機構を設け、さらに水頭差を利用して液体試料を供給している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−207954号公報
【特許文献2】特公昭60−48598号公報
【特許文献3】特公平2−28819号公報
【特許文献4】特公平4−19498号公報
【特許文献5】実開平3−109154号公報
【特許文献6】実開平6−46365号公報
【特許文献7】特開2003−4673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献7により開示された蛍光X線液分析計は、優れた分析計ではあるものの、長期間の使用においてはいくつかの改善の余地が存在することが判明した。
図7は、従来の蛍光X線液分析計における測定セルのX線入射及び反射窓(以下「セル窓」という)の破損状況を示す説明図である。
【0007】
一般的な蛍光X線液分析計では、測定セル25のセル窓25aは、X線の透過率や液体試料への耐性等から一般的にはポリエチレン等の膜が使用されている。このセル窓25aは、長期間の使用に伴って、液体試料の圧力変動による変形、異常圧力や異物による切創等によって破損することがある。セル窓25aが破損すると、図7に示すように、セル窓25aの破損部を通じて測定セル25から液体試料がハウジング34の内部に漏れ出し、X線発生部26に損傷を与えかねない。なお、X線発生部26とX線検出部27の上下方向の位置関係は図8に示す位置関係には限られないので、構成によっては、X線検出部27に、又はX線発生部26およびX線検出部27の双方に損傷を与えかねない。
【0008】
このため、従来の蛍光X線液分析計のハウジング34には、液体試料がハウジング34の内部に漏れ出した場合にも漏れ出した液体試料をハウジング34の外部に直ちに排出するための除去口45が設けられており、これにより、漏れ出した液体試料によってX線検出部27又はX線発生部26が損傷を受けないように構成されていた。このため、X線検出部27やX線発生部26には保護膜が設けられていない。
【0009】
しかしながら、このような液体試料の漏れ出しに至らない場合であっても、セル窓25aに不可避的に存在する微小なピンホールや変形による隙間を介して液体試料の蒸気等がハウジング34の内部に流入する。X線発生部26又はX線検出部27の窓材としてはベリリウムが一般的であり、例えば硫酸亜鉛系めっき液のような酸性の液体試料の蒸気によってベリリウムは容易に劣化し得るものであり、この劣化は、高精度の分析を安定的に行う上では無視できないものであることが判明した。
【0010】
また、ポリエチレン製の膜からなる従来のセル窓25aを用いた場合は、例えばセル窓25aの交換後や何らかの理由で液体試料に気泡が混入したときには、セル窓25aに気泡が付着し、分析精度が低下することも判明した。
【0011】
本発明の目的は、高い測定精度で安定的に測定可能な蛍光X線液分析計を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、一次X線を発生するX線発生部と、この一次X線が入射する部分に装着されるセル窓を有する測定セルと、この測定セルからの蛍光X線を検出するX線検出部と、水頭差を利用した測定セルへの液体試料の供給、および測定セルからの液体試料の排出を行う液体試料供給系とを備え、X線発生部と測定セルとの位置関係、および測定セルとX線検出部との位置関係はいずれも不変である蛍光X線液分析計において、セル窓は、親水処理されたポリエチレンテレフタレート製の膜からなることを特徴とする蛍光X線液分析計である。
【0013】
また、本発明は、一次X線を発生するX線発生部と、この一次X線が入射する部分に装着されるセル窓を有する測定セルと、この測定セルからの蛍光X線を検出するX線検出部と、水頭差を利用した測定セルへの液体試料の供給、および測定セルからの液体試料の排出を行う液体試料供給系とを備え、X線発生部と測定セルとの位置関係、および測定セルとX線検出部との位置関係はいずれも不変である蛍光X線液分析計において、X線発生部に装着される、ポリイミド製の膜からなる保護膜を備えることを特徴とする蛍光X線液分析計である。
【0014】
さらに、本発明は、一次X線を発生するX線発生部と、この一次X線が入射する部分に装着されるセル窓を有する測定セルと、この測定セルからの蛍光X線を検出するX線検出部と、水頭差を利用した測定セルへの液体試料の供給、および測定セルからの液体試料の排出を行う液体試料供給系とを備え、X線発生部と測定セルとの位置関係、および測定セルとX線検出部との位置関係はいずれも不変である蛍光X線液分析計において、X線検出部に装着される、ポリエチレンテレフタレート製の膜からなる保護膜を備えることを特徴とする蛍光X線液分析計である。
【0015】
本発明に係る蛍光X線分析計では、測定セルの内部の圧力は、測定セルの外部の圧力よりも低いことが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、優れた測定精度を有するとともに、耐久性および保守性に優れた蛍光X線液分析計を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の蛍光X線液分析計を適用された、電気めっきラインのめっき液分析系統を模式的にかつ一部簡略化して示す説明図である。
【図2】図1に示す本発明の蛍光X線液分析計の近傍を抽出して示す説明図である。
【図3】本発明の蛍光X線液分析計の要部を抽出して示す説明図である。
【図4】従来の蛍光X線液分析計の近傍を抽出して示す説明図である。
【図5】従来の蛍光X線液分析計のセル窓に気泡が付着している状態を示す説明図である。
【図6】従来の蛍光X線液分析計と本発明の蛍光X線液分析計とにおける、セル窓の交換後の分析値の変動を示すグラフである。
【図7】従来の蛍光X線液分析計におけるセル窓の破損状況を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る蛍光X線液分析計の実施の形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以降の実施の形態の説明は、本発明に係る蛍光X線液分析計を、既存の電気めっきラインのめっき液分析系統に適用した場合を例にとって行う。
【0019】
図1は、本発明に係る蛍光X線液分析計21を適用された、電気めっきラインのめっき液分析系統を模式的に、かつ一部を簡略化して示す説明図である。
このめっき液分析系統は、(i)図示しない電気めっきラインのめっき液収容槽に設けられたフィルタ装置22を介してオーバーフロータンク23へめっき液を供給するフィルタ装置24と、(ii)オーバーフロータンク23から供給されるめっき液を収容する測定セル25と、Rh管球からなるX線発生部26と、測定セル25により反射した蛍光X線を受光する半導体検出器からなるX線検出部27とを備える蛍光X線液分析計21と、(iii)X線検出部27からの検出信号を加工処理する演算処理装置28と、演算処理装置28による演算結果を表示する表示部29とを備えるめっき液自動分析装置30とを備える。
【0020】
フィルタ装置24によりサンプリングされた試料であるめっき液は、蛍光X線液分析計21により蛍光X線による測定が行われ、めっき液自動分析装置30によって測定結果が表示される。
【0021】
図2は、図1に示す蛍光X線液分析計21の近傍を抽出して示す説明図である。また、図3は、この蛍光X線液分析計21の要部を抽出して示す説明図である。
図2に示すように、本発明の蛍光X線液分析計21は、一次X線31を発生するX線発生部26と、一次X線31が入射する部分に装着されるセル窓25aを有する測定セル25と、測定セル25からの蛍光X線32を検出するX線検出部27と、水頭差を利用した測定セル25への液体試料の供給配管38、および測定セル25からの液体試料の排出配管40を有する液体試料供給系35とを備える。
【0022】
この蛍光X線液分析計21では、X線発生部26、測定セル25およびX線検出部27は、いずれも、適宜材料により構成されたハウジング34により固定支持され、これにより、X線発生部27と測定セル25との位置関係、および測定セル25とX線検出部27との位置関係はいずれも不変である。
【0023】
この蛍光X線液分析計21では、セル窓25aの材質が最適化され、さらに、X線発生部26、X線検出部27には最適な材質からなる保護膜26a、27aを備える。この理由を説明する。
【0024】
(I)蛍光X線液分析計21による液分析を高精度で安定的に行うためには、上述したように、ハウジング34の内部に流入した液体試料の蒸気がX線発生部26やX線検出部27に影響をし難くすることが有効である。液体試料の蒸気等の流入は、通常の液体試料分析時においても生じる。したがって、X線発生部26およびX線検出部27には蒸気を遮断し得るような保護膜を常時備えているのがよい。この保護膜は、X線を極力遮断しないこと、またX線照射や液体試料に接触される環境でも保護膜としての機能が損なわれ難いこと等が求められる。そのため、X線透過率、機械強度、X線照射環境及び/又は液体試料接触環境に対する耐性等を考慮して、適正な材質の保護膜を用いる。
【0025】
(II)セル窓25aも、従来重視されてきたX線透過率や耐酸性等に加え、気泡が付着し難い材質を選定することが望ましい。
このような知見に基づいて、X線発生部26の保護膜26a、セル窓25a、X線検出部27の保護膜27aの材質を、以下に列記する理由により定める。
【0026】
[X線発生部26の保護膜26a:ポリイミド製の膜]
X線発生部26の保護膜26aは、X線発生部26により発生した直後の高強度X線が照射されるため、このような環境でも劣化し難い膜であることが最も重視される。一方、液体試料に直接接触する環境ではないので、耐酸性や親水性は重視されない。
【0027】
そこで、X線発生部26の保護膜26aとして、ポリイミド製の膜を用いる。例えば、市販のポリイミド製の膜として、カプトン(商品名)が例示されるが、これに限定されるものではなく、上述のような特性を有するものであればよい。
【0028】
X線発生部26の保護膜26aは、厚くなるほどX線の透過率が低下する。例えば、蛍光X線液分析計21のX線強度を15KV/1mAとしてめっき液中の硫酸を分析した場合において、保護膜26aを設けなかったときの蛍光X線強度を100とすると、保護膜26aの厚さが7μmのときの蛍光強度比は約90、厚さ25μmのときは約70、厚さ125μmのときは約25であった。このため、膜を厚くした場合には、分析に必要な蛍光強度を確保するために照射強度を増加させなければならなくなる。したがって、膜の厚さは薄い方が好ましい。
【0029】
本発明者らは、既製品として入手できるポリイミド製の膜の中で最も薄いものについて、X線の暴露による劣化を調べるための試験を行った。入手できたポリイミド製の膜の厚さは7.5μmであった。この膜をX線管の射出部に貼り付けて、15KV/2mAの強度のX線を24時間照射した後に、10mm×5mmに加工してバネばかりで引張って破断に至るまでの伸びにかかった力を測定し、未使用の膜と比較した。その結果、未使用の膜の破断までにかかった力が約600g〜約700gであったのに対し、X線を暴露した膜も約600g〜約700gであり、両者の引張強度は変わらなかった。この試験によりポリイミド製の膜に暴露されたX線量は、蛍光X線液分析計21を約200日間稼働させた場合の値と同等であり、蛍光X線液分析計21のメンテナンス周期(半年)において、X線の暴露によるX線発生部26の保護膜26aの劣化は問題とならないことがわかった。
【0030】
なお、ポリエチレンテレフタレート製の6μm厚の膜を用いて同様の試験を行ったところ、未使用の膜の破断までにかかった力が約500gであったのに対し、X線暴露後の膜は約300gであり、X線の暴露による劣化がみられた。
【0031】
[セル窓25a:親水処理されたPET製の膜]
セル窓25aには、検出目的である元素の蛍光X線を透過し易いことの他に、液体試料に対する耐酸性、液体試料の支持および異物の接触に対する機械強度さらには泡を付着させ難くするための親水性等が求められる。一方、X線照射による劣化に対する耐性は、X線発生部26の保護膜26aほどには重視されない。
【0032】
そこで、セル窓25aとして、親水処理されたポリエチレンテレフタレート製の膜を用いる。親水処理としては、紫外線照射法や薬液処理法等といった公知の表面改質技術を用いた親水処理を用いることができる。この親水処理されたポリエチレンテレフタレート製の膜を用いることにより、交換後の気泡の付着がなくなり、安定した測定を実現することができる。ポリエチレンテレフタレート製の膜としては、市販のマイラー(商品名)が例示されるが、これ以外にも、上述のような特性を有するものであればよい。
【0033】
X線発生部26の保護膜26aと同様、膜が厚くなると分析に必要な蛍光強度を確保するために照射強度を増加させなければならなくなる。しかし、セル窓25aは直接液体試料に接するため、液体試料の支持および異物の接触に対する機械強度が求められる。本発明者らが厚さ1.5μmのポリエチレンテレフタレート製の膜をバネばかりで引張って破断に至るまでの伸びにかかった力を測定したところ、約100gであった。この程度の強度では液体試料の支持および異物の接触に対して不足である。一方、6μm厚の膜の場合は約500gであった。また、従来から使用されており、強度に起因する問題は起きていない。したがって、好ましい厚さは6〜7μmの範囲である。
【0034】
[X線検出部27の保護膜27a:PET製の膜]
X線検出部27の保護膜27aは、検出目的である元素の蛍光X線を透過し易いことが最も重視される。例えば、鋼板の電気亜鉛系めっきに使用されるめっき液で、ZnやFeに加えてP、S等の軽元素を測定しようとすると、軽元素に由来する蛍光X線は比較的強度が弱いので、これらの透過を阻害しないことが求められる。そこで、X線検出部27の保護膜27aとしては、X線検出部27が保護できる程度の耐酸性やX線照射環境での耐劣化性があれば、できるだけ厚さが薄いほうがよい。好ましくは厚さ1〜2μmのポリエチレンテレフタレート製の膜である。
【0035】
図2に示すように、測定セル25には、複数種の液体試料を切り替えて供給する液体試料供給系35が設けられる。この液体試料供給系38は、オーバーフロータンク36a〜36bと、手動測定用タンク36cと、各タンク36a〜36cと配管38との間に設けられたバルブ37a〜37cと、測定セル25に接続された配管40とを備える。配管40は、排液タンク41に導かれ、大気開放されている。
【0036】
オーバーフロータンク36aには第1のめっき液が収容され、一方オーバーフロータンク36bには第2のめっき液が収容されている。さらに、手動測定用タンク36cには手動測定を行う際のめっき液が収容されている。
【0037】
各配管38および40の内部にめっき液が存在せず、かつバルブ37a〜37cが閉じられた状態でバルブ37aを開くと、オーバーフロータンク36aに収容された第1のめっき液が水頭差により配管38を介して測定セル25へ供給され、測定セル25内に充填される。この状態で、X線発生部26およびX線検出部27を起動させることにより、測定セル25内に充填された第1のめっき液の測定が行われる。
【0038】
次に、バルブ37aを閉じるとともに、バルブ37bを開くと、オーバーフロータンク36bに収容された第2のめっき液が水頭差により配管38を介して測定セル25へ供給される。これにより、第1のめっき液は第2のめっき液により押し出され、測定セル25内には第2のめっき液が充填される。この状態で、X線発生部26およびX線検出部27を起動することにより、測定セル25内に充填された第2のめっき液の測定が行われる。
【0039】
このように、液体試料供給系35は、水頭差を利用して第1のめっき液および第2のめっき液を供給する。このため、測定セル25内に供給される各めっき液の圧力が過剰に上昇することを確実に抑制することができる。また、配管40の出口を大気開放にすることにより、異物による切創や供給圧力変動を抑制し、また出口に接続している設備からの異常圧力の影響を受けないため、セル窓25aを破損し難くすることができる。
【0040】
また、高精度の液分析のためには、セル窓25aの位置を安定させるため、セル窓25aに張力が付与されていることが好ましい。セル窓25aに張力を付与するには、測定セル25をその外側のハウジング34よりもわずかに正圧又は負圧にする。負圧の方が、例えばセル窓25aからの液又は蒸気の漏れ出しの恐れがなくより好ましい。ただし圧力差が大きくなり過ぎると、変形が大きくなり例えばX線照射による膜の脆化に伴って破損し易くなる。測定セル25内を負圧にするには、図2中の36a,b,cの各タンクと、測定セル25と、配管40の出口との高さの関係を調整すればよい。すなわち、配管40の出口を適当な高さにして大気開放をとることにより、測定セル25a内を負圧にすることができ、また、大気開放以降の配管やタンクからの背圧の影響等を排除することができる。また、好ましい圧力差としては、0〜50mmHOである。
【0041】
なお、本発明の蛍光X線液分析計21は、蛍光X線で測定することができる元素を含む液体であれば、いかなる液体であっても高精度で連続的に測定することができることはいうまでもない。
【0042】
このように、本発明によれば、優れた測定精度を有するとともに、耐久性および保守性に優れた蛍光X線液分析計21を提供することができる。
【実施例】
【0043】
実施例を参照しながら、本発明をより具体的に説明する。
図4は、特許文献7により開示された蛍光X線液分析計51の近傍を抽出して示す説明図である。なお、図4における要素のうち図2、3における要素と同一のものには、同一の符号を付して示す。
【0044】
図1〜3により示す本発明に係る蛍光X線液分析計21と、図4により示す従来例の蛍光X線分析計51とを、既存の電気めっきラインのめっき液分析系統に適用し、めっき液の分析を行った。めっき液は、硫酸亜鉛系の酸性めっき液である。各々の分析計に用いたセル窓25a及び保護膜26a、27aは表1に示す通りとした。
【0045】
【表1】

【0046】
図6は、図4に示す蛍光X線分析計51と、図1に示す本発明例の蛍光X線液分析計21とについて、セル窓25aの交換後約2時間の分析値の変動を示すグラフである。図1〜3に示す本発明に係る蛍光X線分析計21においてセル窓25aに水道水を一定量(250μL)滴下し、3分後の水の広がりが直径20mmを超えたものに交換したところ、図6の右側のグラフに示すように、分析値が迅速に安定するのに対し、従来品では、分析値が徐々に低下していった。これは、図4に示す蛍光X線分析計51では、図5に示すように、セル窓25aに気泡50が付着し、適正な分析ができてないためであるが、本発明例では、親水処理されたセル窓を用いているため、気泡が付着し難いためである。
【0047】
また、本実施例の蛍光X線分析計21では、保護膜26aには15KV/10μAの強度のX線が照射されるものであり、この照射を200日間実施した保護膜26aについて、10mm×5mmの大きさ(厚さ7.5μm)に加工して引張強度の変化を確認したが、全く強度低下が見られないことを確認した。さらに、保護膜26aのX線の透過率を確認したところ、SKα線(2.31KeV)の透過率約90%、それ以外は98%の透過率と十分な性能を有していた。
【0048】
以上の説明より、本発明によれば、優れた測定精度を有するとともに、耐久性および保守性に優れた蛍光X線液分析計を提供することができることがわかる。
【符号の説明】
【0049】
21 蛍光X線液分析計
22 フィルタ装置
23 オーバーフロータンク
24 フィルタ装置
25 測定セル
25a セル窓
26 X線発生部
26a 保護膜
27 X線検出部
27 保護膜
28 演算処理装置
29 表示部
30 めっき液自動分析装置
31 一次X線
32 蛍光X線
34 ハウジング
35 液体試料供給系
36a〜36b オーバーフロータンク
36c 手動測定用タンク
37a〜37c バルブ
38 供給配管
40 排出配管
41 排液タンク
45 除去口
50 気泡
51 蛍光X線液分析計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次X線を発生するX線発生部と、当該一次X線が入射する部分に装着されるセル窓を有する測定セルと、当該測定セルからの蛍光X線を検出するX線検出部と、水頭差を利用した前記測定セルへの液体試料の供給、および該測定セルからの液体試料の排出を行う液体試料供給系とを備え、前記X線発生部と前記測定セルとの位置関係、および前記測定セルと前記X線検出部との位置関係はいずれも不変である蛍光X線液分析計において、
前記セル窓は、親水処理されたポリエチレンテレフタレート製の膜からなること
を特徴とする蛍光X線液分析計。
【請求項2】
一次X線を発生するX線発生部と、当該一次X線が入射する部分に装着されるセル窓を有する測定セルと、当該測定セルからの蛍光X線を検出するX線検出部と、水頭差を利用した前記測定セルへの液体試料の供給、および該測定セルからの液体試料の排出を行う液体試料供給系とを備え、前記X線発生部と前記測定セルとの位置関係、および前記測定セルと前記X線検出部との位置関係はいずれも不変である蛍光X線液分析計において、
前記X線発生部に装着される、ポリイミド製の膜からなる保護膜を備えること
を特徴とする蛍光X線液分析計。
【請求項3】
一次X線を発生するX線発生部と、当該一次X線が入射する部分に装着されるセル窓を有する測定セルと、当該測定セルからの蛍光X線を検出するX線検出部と、水頭差を利用した前記測定セルへの液体試料の供給、および該測定セルからの液体試料の排出を行う液体試料供給系とを備え、前記X線発生部と前記測定セルとの位置関係、および前記測定セルと前記X線検出部との位置関係はいずれも不変である蛍光X線液分析計において、
前記X線検出部に装着される、ポリエチレンテレフタレート製の膜からなる保護膜を備えること
を特徴とする蛍光X線液分析計。
【請求項4】
前記X線検出部に装着される、ポリエチレンテレフタレート製の膜からなる保護膜は、厚さが1〜2μmであることを特徴とする請求項3に記載された蛍光X線分析計。
【請求項5】
前記測定セルの内部の圧力は、該測定セルの外部の圧力よりも低い請求項1に記載された蛍光X線分析計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−127954(P2011−127954A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285042(P2009−285042)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【出願人】(000219451)東亜ディーケーケー株式会社 (204)
【Fターム(参考)】