説明

蛸の加工方法及び加工食品

【課題】
本発明は、従来の技術には無い、生蛸の旨みと脂の乗った、つるりとした生蛸独特の食感を残し、軟らかく簡単に噛み切れ、高齢者から子供まで、幅広い年齢層に食することが可能な上質な肉質の、蛸の加工方法と加工食品を提供することを目的とする。
【解決手段】
蛸の加工方法として、(a)生蛸を蛸足の大きさに応じて200g〜500g程の個体に切り分け、オイル(好ましくは、オリーブオイル)を全体に絡める前処理工程、(b)前記前処理した個体を真空包装する包装工程、(c)前記真空包装した個体を冷凍する冷凍工程、(d)前記冷凍した個体を60℃〜80℃で加熱する加熱工程、(e)前記加熱した個体を自然冷却する冷却工程からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛸の肉質軟化のための加工方法と加工食品に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に刺身と言えば生食であるが、蛸に関しては、蛸の加工食品を指す。なぜなら生蛸は水揚げした後5〜6時間以内に処理しないと肉質が硬くなって食用には適さなくなるという性質がある。生蛸を食する場合、外皮を剥ぎ、吸盤を切り取り、吸盤を生のまま食するか、外皮を取り除いた肉質部分を薄切りにして、しゃぶしゃぶか、刺身で食するが、生食用の蛸は鮮度が良くなければならないため、食することができるのは、地元の一部の人たちで、たとえ鮮度が良くても歯切れが悪く、高齢者や歯或は噛む力の弱い人は敬遠しているのが現状で有る。噛み切れないと言う問題点により、食するには一般の人には、あまり馴染みが無かった。
【0003】
従来の蛸の刺身に関する加工食品としては、(1)表面温度と中心温度が100℃以上に加熱したもの(茹でる、蒸す、スモーク、煮込み)で、明らかに火を通したものがある。しかし、火を通した肉質は蛸の筋肉質が締まり、肉汁等が失われパサパサした食感になり、生蛸の刺身とはかけ離れたものである。例えばマグロやかつおなどの刺身と茹でたマグロや茹でたかつおと同じ違いがある。(2)刺身用として市場に多く出ている表面温度が100℃以上で中心温度が100℃以下の加工食品の場合でも、パサパサ感は少なくなるが、硬くて噛み切れない部分が残る。しかしながら、現状では(1)や(2)の加工食品を薄切りにして刺身として一般には食されている。
【0004】
その中で肉質軟化に関しては様々な方法が取られている。例えば、特許文献1では、冷凍工程と、個体の解凍後に90〜95℃の範囲の温水に3〜8秒間浸す加熱工程と、100℃の沸騰水で30〜50分間煮込む煮込み工程とからなる方法が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開平10−201450号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記の方法では、軟化は不十分で硬さが残る為に、歯切れが悪く、高齢者や咀嚼力の弱い人は蛸を食するのを敬遠しているのが現状である。また、再度加熱する方法が取られているため、従来の食材とされているプリッとした食感のボイル蛸と同様の食品となる。以上に述べたように、生蛸を刺身で食するのは、困難な為、加工食品に頼らざるを得ないのが現状で、従来のプリッとした食感の茹で蛸を薄切りにして、刺身や寿司のネタにし、又、従来のプリッとした食感の茹で蛸を薄切りにし、オリーブオイルを絡めたイタリアンカルパッチョ等、生蛸の滑らかなつるりとした食感とは、かけ離れたものが一般に食されている。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑み、従来の技術には無い生蛸の旨みと、脂の乗った、つるりとした生蛸独特の食感を残し、軟らかく簡単に噛み切れ、高齢者や子供まで、幅広い年齢層に食してもらえる上質な肉質の、蛸の加工方法と加工食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の蛸の加工方法は、(a)生蛸を蛸足の大きさに応じて200g〜500g程の個体に切り分け、オイル(好ましくは、オリーブオイル)を全体に絡める前処理工程、(b)前記前処理した個体を真空包装する包装工程、(c)前記真空包装した個体を冷凍する冷凍工程、(d)前記冷凍した個体を60℃〜80℃で加熱する加熱工程、(e)前記加熱した個体を自然冷却する冷却工程からなることを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に記載の蛸の加工方法は、請求項1に記載の前処理工程において、オイルの量を生蛸の肉質内部まで染み込む量を目安とすることを特徴とする。
【0010】
また、請求項3に記載の蛸の加工方法は、請求項1に記載の加熱工程において、重量200gの個体は40分間、重量500gの個体は60分間を目安とすることを特徴とする。
【0011】
また、請求項4に記載の蛸の加工食品は、請求項1、2又は3に記載の加工方法により製造されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、下記の効果を得ることができる。
(1)従来技術の処理方法により得られた蛸の個体と比較して、明らかに従来には無い生蛸の滑らかなつるりとした食感を残し、軟らかく噛み切れる上質の肉質に処理する事ができる。
(2)本発明の方法により処理した蛸の個体は、真空包装のまま、加熱調理、冷却、冷凍、保存、配送、が出来るため衛生的に作業が行え、従来技術による処理工程と比較して、作業能率の向上及び作業員の負担軽減を図ることが出来る。
(3)本発明の方法により加工した蛸の個体は、冷凍状態で長期保存が出来、市場に安定供給が出来る。
【0013】
上記の結果、蛸の加工食品を、刺身や寿司、カルパッチョ用に薄切りにする場合、従来、生食用水蛸は外皮(吸盤も含む)の部分など形が安定しなく、包丁で切るのが難しかったが、本発明により、肉質が軟らかくなり、取り扱いに優れている。また、5mm〜1cm位の厚切りでも噛み切れる軟らかさは変わらない。
【0014】
本発明における研究の効果を得るため、100人程の幅広い年齢層に食して貰った結果、生の刺身を味わっている人は、初めての食感に驚き、又蛸の刺身が苦手だった人はこれが従来の生蛸の刺身と疑わず食し、おおむねほとんどの人が軟らかく噛み切れて美味しいとの評価を得た。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を詳述する。図1は加工方法の工程図である。先ず、前処理工程として、生食用に処理された新鮮な蛸を、200g〜500g(蛸足の大きさによる)程の個体に切り分け、肉質内部迄染み込む位のオイル(好ましくはオリーブオイル)を絡める。
【0016】
次に、包装工程として、香りつけにより生臭さを除く為、さくらの葉塩漬け1枚と一緒に、特殊フィルムにオイル(好ましくはオリーブオイル)を絡めた個体を入れ、真空包装機にかける。
【0017】
次に、冷凍工程として、個体を真空包装したら、鮮度を保ったままオイル(好ましくはオリーブオイル)を肉質内部に浸透させる為、一旦冷凍して保存する。冷凍温度によるが1日〜1ヶ月保存可能である。以上の工程において、オイルに絡めることは、特に重要であって、オイル漬けなしに肉質の軟化を達成することはできない。
【0018】
その後、加熱工程として、冷凍のまま60℃から80℃の低温で、40分から1時間(蛸足の大きさによる)程度をめやすに真空調理をする。この際は、個体の大きさにより、加熱時間が様々なので、現在の所、個体を指で押して弾力を確かめ、好みの軟化状態を確かめ、加熱時間を調整する。
【0019】
次に、冷却工程として、加熱工程後は自然冷却する。なお、長期保存の場合は、再び冷凍する。ここまでの作業工程全部が、軟化の要因である肉質内部迄、オイル(好ましくはオリーブオイル)を染み込ませ、鮮度を保ったまま、蛸特有の複雑な筋肉質を和らげ、従来にない生蛸の滑らかで脂の乗った、つるりとした食感を残し軟らかく噛み切れる、所望の上質な肉質に処理することが出来た。
【0020】
現在の所、蛸の肉質の軟らかさや、滑らかさを数値等で客観的に評価出来ないので、本実施の形態の方法によって軟化処理した加工食品を、100人程の幅広い年齢層に食して貰った結果、生の刺身を味わっている人は、初めての食感に驚き、又蛸の刺身が苦手だった人は、これが従来の生蛸の刺身と疑わず食し、おおむねほとんどの人が軟らかく噛み切れて美味しいとの評価を得た。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の蛸の加工工程である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程からなる蛸の加工方法:
(a)生蛸を蛸足の大きさに応じて200g〜500g程の個体に切り分け、オイル(好ましくは、オリーブオイル)を全体に絡める前処理工程、
(b)前記前処理した個体を真空包装する包装工程、
(c)前記真空包装した個体を冷凍する冷凍工程、
(d)前記冷凍した個体を60℃〜80℃で加熱する加熱工程、
(e)前記加熱した個体を自然冷却する冷却工程。
【請求項2】
前記前処理工程において、
オイルの量を生蛸の肉質内部まで染み込む量を目安とすることを特徴とする請求項1記載の蛸の加工方法。
【請求項3】
前記加熱工程において、
重量200gの個体は40分間、重量500gの個体は60分間を目安とすることを特徴とする請求項1記載の蛸の加工方法。
【請求項4】
請求項1、2又は3に記載の加工方法により製造された蛸の加工食品。


【図1】
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