説明

蝶番

【課題】各構成部材の接触面における摺動摩擦による摩耗粉塵の発生を抑制することが可能な蝶番の提供。
【解決手段】互いに対向するナックル管21,22を有する羽根10と、ナックル管21,22の間に介在するナックル管23を有する羽根11と、ナックル管21,22,23の互いに対向する内端部内に嵌め込み固定され該内端部の端面に当接して互いに対向するフランジ25,26,27,28を有する含油合成樹脂製のブッシュ15,16,17,18と、フランジ25,26,27,28の互いの対向面の間に介在する金属製の複数のワッシャ13,14と、羽根10,11を連結する枢軸12とを含み、互いに対向するブッシュ15,18が環状突起部31,32を有し、これら環状突起部にワッシャ13,14が嵌合している蝶番。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、粉塵や塵埃などからの防護を必要とする半導体などの精密部品を製造する装置の扉や、クリーンルームの開閉扉に使用される蝶番に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蝶番は、一般に一対の羽根と該羽根が有するナックル管に挿入され該羽根を連結するための枢軸とにより構成され、製造装置の点検扉や部屋出入口開閉扉などの連結部材として使用される。通常、これら羽根と枢軸は強度、耐久性の観点から金属材料により製造されるが、金属どうしの接触部では摺動摩擦により金属摩耗片が粉塵として周囲へ飛散し周囲環境を悪化させ、精密部品を製造する現場での使用には適さないものとされている。これらの問題を解決する手段として、金属どうしが直接接触することを避けるために金属材料と異なる硬度の含油合成樹脂材のブッシュ及びワッシャを摺動部に介在させ、摩擦を低減することにより金属摩耗粉の飛散を防止している(特許文献1)。
【0003】
一方、金属材料の間に介在させる含油合成樹脂製のブッシュの間に金属製ワッシャを介在させた構造を採用し、すべての材料が硬度の異なる異材と接触することとし、更なる摩耗粉塵発生低減を可能とした技術がある。この技術によれば、異なる硬度の材料どうしが摺動することとなり大幅に摩耗が低減されるとされている(特許文献2)。
【特許文献1】特許第3348062号公報
【特許文献2】特開2000−204832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示の技術においては、金属摩耗粉塵の発生は抑えられるものの、金属材の間に介在する含油合成樹脂製のブッシュ及びワッシャどうしでは依然として相互に摺動接触することから、新たにそれら部材の摩耗粉塵が発生することとなり、依然として問題点が残る。
【0005】
特許文献2に開示の技術においては、金属製ワッシャと金属製枢軸とが接触し、それらの摺動摩擦による摩耗粉塵の飛散が生じることは避けられない。
【0006】
この発明の目的は、前述のような問題点を解決するため、摺動部に含油合成樹脂製のブッシュ及び金属製のワッシャを採用した場合において、該ワッシャが金属製の枢軸と接触することを避けることが可能な構成を採択し、よって、それら部材の摺動摩擦による摩耗粉塵の周囲への飛散を防止し、蝶番が使用される環境汚染を最小限に抑えることができる蝶番を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するためのこの発明は、軸方向を有し、前記軸方向に互いに対向する複数の第1ナックル管を有する第1羽根と、前記第1ナックル管の間に介在する第2ナックル管を有する第2羽根と、前記第1及び第2ナックル管の前記軸方向に互いに対向する内端部内に嵌め込み固定され該内端部の端面に当接して前記軸方向に互いに対向するフランジを有する含油合成樹脂製の複数のブッシュと、前記軸方向における前記フランジの互いの対向面の間に介在する金属製の複数のワッシャと、前記ブッシュ及び前記ワッシャを介して前記第1及び第2ナックル管に前記軸方向に挿入して前記第1及び第2羽根を連結する枢軸とを含む蝶番であって、その特徴とするところは、前記軸方向に互いに対向する前記ブッシュの一方が、該ブッシュの前記フランジから該ブッシュに対向する前記ブッシュの前記フランジ側へ突出する環状突起部を有し、前記環状突起部に前記ワッシャが嵌合していることにある。
【0008】
この発明に係る蝶番は、好ましくは、下記の構成態様を含む。
【0009】
前記ワッシャの厚さ寸法が、前記フランジ側へ突出する前記環状突起部の突出寸法よりも大きく、よって前記ワッシャを介して前記軸方向に互いに対向する前記ブッシュの間に前記ワッシャを含む前記ブッシュが互いに接触しないように間隙が設けられている態様。
【0010】
前記第1羽根の前記第1ナックル管の外端部内にキャップが嵌め込み固定されている態様。
【0011】
前記キャップの内端面が前記枢軸の端面に当接する態様。
【0012】
前記ブッシュが、前記フランジと反対端部に先細テーパを有する態様。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、含油合成樹脂製のブッシュのフランジの間に金属性のワッシャが介在するとともに、軸方向に互いに対向するブッシュの一方が、該ブッシュのフランジから該ブッシュに対向するブッシュのフランジ側へ突出する環状突起部にワッシャが嵌合しているので、金属製のワッシャが金属製のナックル管及び金属製の枢軸に接触することはない。したがって、それらワッシャとナックル管及び枢軸との摺動摩擦による摩耗粉塵の周囲への飛散を防止し、所期の目的を達成することができる。
【0014】
ワッシャの厚さ寸法が、フランジ側へ突出する環状突起部の突出寸法よりも大きく、よってワッシャを介して軸方向に互いに対向する前記ブッシュの間にワッシャを含むブッシュが互いに接触しないように間隙が設けられていることによれば、含油合成樹脂製のブッシュどうしもまた接触することはなく、ブッシュどうしの摺動摩擦による摩耗粉塵の周囲への飛散も防止し、所期の目的をさらに有効に達成することができる。
【0015】
第1羽根の前記第1ナックル管の外端部内にキャップが嵌め込み固定されている態様及びキャップの内端面が枢軸の端面に当接する態様によれば、枢軸をその両端から挟持して簡単に蝶番を組み立てることができるうえに、蝶番の内部への塵埃の侵入を防止することができる。
【0016】
ブッシュが、フランジと反対端部に先細テーパを有する態様によれば、ナックル管へのブッシュの嵌め込みが容易になり、したがって蝶番の組み立てが容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
この発明に係る蝶番の実施の形態を、図面を参照して、説明すると、以下のとおりである。
【0018】
図1〜3において、蝶番は、一対の羽根10,11と、枢軸12と、ワッシャ13,14と、ブッシュ15,16,17,18、キャップ19,20とを含み、軸方向、すなわち、枢軸12に沿う方向を有する。
【0019】
羽根10,11は、金属製で、枢軸12の方向における羽根10の一側上下端部に互いに離間するナックル管21,22が、また同方向における羽根11の一側中央部には、ナックル管21,22の間に介在するナックル管23が、それぞれ形成されている。また羽根10,11は、それらの羽根部に、蝶番を固定すべき扉などの対象へのビスなどの取付孔24が形成されている。
【0020】
ブッシュ15,16,17,18は、含油合成樹脂製で、一端部にフランジ25,26,27,28が、また他端部に各テーパ29がそれぞれ形成されている。フランジ25,26,27,28を除くブッシュ15,16,17,18の外径は、ナックル管21,22,23に嵌め込み固定が可能で、それらブッシュとナックル管とが相対的に回動不能な寸法を有している。フランジ25,26,27,28の外径は、ナックル管21,22,23の外径よりも小さい寸法を有している。ブッシュ15,16,17,18のうちブッシュ15,18は、それぞれフランジ26,27との対向面に、ブッシュ15,16,17,18の前記外径とほぼ等しい外径寸法とワッシャ13,14の厚さ寸法よりも小さい突出寸法を有する環状突起部31,32が形成されている。
【0021】
枢軸12は、金属製で、ブッシュ15,16,17,18にこれらが摺回動可能に挿入する外径寸法を有している。
【0022】
ワッシャ13,14は、金属製で、平丸形に形成されている。ワッシャ13,14の外径は、ナックル管21,22,23の外径とほぼ等しい(好ましくは若干小さい)、かつ、フランジ25,26,27,28の外径よりも大きい寸法を有している。
【0023】
キャップ19,20は、合成樹脂又はゴム製で、ナックル管21,22の外端に当接する各フランジ33を有していて、それらナックル管に嵌め込み固定可能で、かつ、それらキャップの内端面が枢軸12の端面に当接可能である。
【0024】
前述の各部材を有するこの発明に係る蝶番においては、図2,3に示すように、羽根10のナックル管21にその内端部からブッシュ15が、羽根11のナックル管23にその両端部からブッシュ16,17が、かつ、羽根10のナックル管22にその内端部からブッシュ18が、それぞれ嵌め込み固定されている。
【0025】
かかる固定状態では、ブッシュ15のフランジ25が羽根10のナックル管21の内端部の端面に、ブッシュ16,17のフランジ26,27が羽根11のナックル管23の両端部の端面に、かつ、ブッシュ18のフランジ28が羽根10のナックル管22の内端部の端面に、それぞれ当接している。
【0026】
かくして枢軸12の方向において互いに対向するブッシュ15,16のフランジ25,26の間にワッシャ13が、かつ、同方向において互いに対向するブッシュ17,18のフランジ27,28の間にワッシャ14が、それぞれ介在されている。この介在状態では、ワッシャ13がブッシュ15の環状突起部31に、かつ、ワッシャ14がブッシュ18の環状突起部32に、それぞれ嵌合している。したがって、ワッシャ13,14は、枢軸12及びナックル管21,22,23に接触することはない。
【0027】
前述のように構成されているこの発明に係る蝶番においては、図2に示すように、ブッシュ15の環状突起部31とこれに対向するブッシュ16のフランジ26との間には、ワッシャ13を介して間隙34が設けられ、また同様に、ブッシュ18の環状突起部32とこれに対向するブッシュ17のフランジ27との間には、ワッシャ14を介して間隙35が設けられている。これらの間隙は、ワッシャ13,14それぞれの厚さ寸法が環状突起部31,32それぞれの突出寸法よりも大きい寸法によるものである。
【0028】
例えば、この発明に係る蝶番が取り付けられた扉が開閉されるとき、羽根10,11が枢軸12を中心として相対的に旋回し、ブッシュ15,16,17,18がワッシャ13,14を介してナックル管21,22,23と一体的に枢軸12の周りを摺回動する。その摺回動の際、フランジ25,26,27,28及び環状突起部31,32を含むブッシュ15,16,17,18と枢軸12の接触面、ワッシャ13とブッシュ15のフランジ25及び環状突起部31との接触面、ワッシャ13とブッシュ16のフランジ26との接触面では、それぞれ摺動摩擦が生ずる。しかしながら、前記摺回動の際、フランジ25及び環状突起部31を含むブッシュ15とこれに対向するフランジ26を含むブッシュ16との間には間隙34が、またフランジ27を含むブッシュ17とこれに対向するフランジ28及び環状突起部32を含むブッシュ18には間隙35が、それぞれ設けられているので、ブッシュ15,16の間、ブッシュ17,18の間では、摺動摩擦が生ずることはない。なお、ナックル管21,22,23とブッシュ15,16,17,18との接触面もまた、それらブッシュがそれらナックル管に嵌め込み固定されているので、いうまでもなく、それらブッシュとそれらナックル管の間では、摺動摩擦が生ずることはない。
【産業上の利用可能性】
【0029】
この発明に係る蝶番は、粉塵や塵埃などからの防護を必要とする半導体などの精密部品を製造する装置の扉や、クリーンルームの開閉扉に使用されるばかりでなく、その防護とは直接関係のない一般の蝶番としても使用することができる。また、各部材の形態も簡単であるので、各部材の組み付けも容易であり、廉価量産が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明に係る蝶番の平面図。
【図2】図1の2−2線に沿う拡大断面図。
【図3】前記蝶番の分解斜視図。
【符号の説明】
【0031】
10 第1羽根
11 第2羽根
12 枢軸
13,14 ワッシャ
15,16,17,18 ブッシュ
19,20 キャップ
21,22,23 ナックル管
25,26,27,28 フランジ
29 先細テーパ
31,32 環状突起部
33 フランジ
34,35 間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向を有し、前記軸方向に互いに対向する複数の第1ナックル管を有する第1羽根と、前記第1ナックル管の間に介在する第2ナックル管を有する第2羽根と、前記第1及び第2ナックル管の前記軸方向に互いに対向する内端部内に嵌め込み固定され該内端部の端面に当接して前記軸方向に互いに対向するフランジを有する含油合成樹脂製の複数のブッシュと、前記軸方向における前記フランジの互いの対向面の間に介在する金属製の複数のワッシャと、前記ブッシュ及び前記ワッシャを介して前記第1及び第2ナックル管に前記軸方向に挿入して前記第1及び第2羽根を連結する枢軸とを含む蝶番であって、
前記軸方向に互いに対向する前記ブッシュの一方が、該ブッシュの前記フランジから該ブッシュに対向する前記ブッシュの前記フランジ側へ突出する環状突起部を有し、前記環状突起部に前記ワッシャが嵌合していることを特徴とする蝶番。
【請求項2】
前記ワッシャの厚さ寸法が、前記フランジ側へ突出する環状突起部の突出寸法よりも大きく、よって前記ワッシャを介して前記軸方向に互いに対向する前記ブッシュの間に前記ワッシャを含む前記ブッシュが互いに接触しないように間隙が設けられている前記蝶番。
【請求項3】
前記第1羽根の前記第1ナックル管の外端部内にキャップが嵌め込み固定されている請求項1又は2のいずれかに記載の蝶番。
【請求項4】
前記キャップの内端面が前記枢軸の端面に当接する請求項3に記載の蝶番。
【請求項5】
前記ブッシュが、前記フランジと反対端部に先細テーパを有する請求項3又は4に記載の蝶番。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−283378(P2006−283378A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−104323(P2005−104323)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000152169)株式会社栃木屋 (50)