説明

蝶番

【課題】 金属粉の発生を防止できるとともに、扉等への組付けも容易な蝶番の提供。
【解決手段】 一対の羽根部材どうしの筒状部に心棒を挿入することで組付けられる蝶番であって、筒状の挿入部と挿入部に対して拡径した鍔部とを有する合成樹脂製の摺動部材が設けられ、一方の羽根部材の筒状部の一方側端面に摺動部材の鍔部が当接するよう一方の羽根部材の筒状部にその軸心方向一方側から摺動部材の挿入部が挿入され、他方の羽根部材の筒状部の他方側端面に摺動部材の鍔部が当接するよう他方の羽根部材の筒状部にその軸心方向他方側から摺動部材の挿入部が挿入され、中心穴間に心棒が挿入されて、且つ両摺動部材の鍔部どうしが当接しつつ筒状部の軸心回りに羽根部材どうしが相対的に回転可能に組付けられた構成。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蝶番に関し、特に半導体ウエハ製造ライン等のクリーン環境に設置する設備の扉に対して好適に用いられる蝶番に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の蝶番として、例えば下記特許文献1に示すものが提案されている。これは、例えば枠側に取付けられる一方の羽根、扉側に取付けられる他方の羽根、心棒、フランジ付きの樹脂ブッシュ、および樹脂ワッシャから構成されている。
この蝶番では、例えば一方の羽根の筒状部に樹脂ブッシュの胴部を挿通し、樹脂ブッシュのフランジに樹脂ワッシャを重ねるように同軸に配置するとともに、一方の羽根の筒状部を他方の羽根の筒状部の筒状部間に挿入し、筒状部どうしを樹脂ワッシャに同軸となるよう配置して、心棒を一方の羽根の筒状部、樹脂ワッシャ、樹脂ブッシュ、他方の羽根の両筒状部に挿通してなる。このように構成することで、一方の羽根と他方の羽根とが心棒回りに回動した際に金属材どうしの摺動がなく樹脂材どうしの摺動のみとして、金属材どうしの摺動に伴う金属粉の発生を防止するようにしている。
【特許文献1】特開2000−204832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来の蝶番において、一方の羽根の筒状部に樹脂ブッシュの胴部を挿通し、一方の羽根の筒状部を他方の羽根の筒状部間に挿入するようにして組付けられる構成であるから、一方の羽根と他方の羽根とで逆使いができない。すなわち、一方の羽根と他方の羽根との組付け時には、それぞれの方向性を考慮した上で扉等に組付けをしなければならないという作業上の煩雑さがあった。
【0004】
そこで本発明は、金属粉の発生を防止できるとともに、扉等への組付けも容易な蝶番の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、一対の羽根部材どうしの筒状部に心棒を挿入することで組付けられる蝶番であって、筒状の挿入部と該挿入部に対して拡径した鍔部とを有する合成樹脂製の摺動部材が設けられ、一方の羽根部材の筒状部の一方側端面に摺動部材の鍔部が当接するよう一方の羽根部材の筒状部にその軸心方向一方側から摺動部材の挿入部が挿入され、他方の羽根部材の筒状部の他方側端面に摺動部材の鍔部が当接するよう他方の羽根部材の筒状部にその軸心方向他方側から摺動部材の挿入部が挿入され、中心穴間に心棒が挿入されて、且つ両摺動部材の鍔部どうしが当接しつつ筒状部の軸心回りに羽根部材どうしが相対的に回転可能に組付けられる構成とされていることを特徴としている。
【0006】
上記構成において、心棒を摺動部材の挿入部どうしに渡すように挿入し、鍔部どうしを当接させるようにして、例えば一方の羽根部材を壁の開口枠体に取付け他方の羽根部材を扉に取付けて扉を開閉すると、合成樹脂製の摺動部材の鍔部どうしが摺動することになるから扉の開閉に伴う金属粉の発生が防止できる。
【0007】
一方の羽根部材および他方の羽根部材は、ともにその筒状部に、摺動部材がその鍔部を当接させるように挿入されているから、鍔部どうしを当接させるよう羽根部材どうしを心棒によって組付ける作業を、一方の羽根部材、他方の羽根部材を選択することなく楽に行うことができる。
【0008】
本発明の蝶番では、摺動部材は羽根部材の筒状部に回転可能に嵌合され、羽根部材の筒状部の一方側端面の一部に、該筒状部の軸心方向に向けて窪んだ凹所が形成されており、摺動部材の鍔部と挿入部との境界部分に前記凹所に嵌合する回り止めが設けられていることを特徴としている。
【0009】
上記構成において、凹所に回り止めを嵌合するようにして摺動部材を羽根部材の筒状部に挿入し、心棒を介して両羽根部材どうしを組付け、羽根部材どうしを軸心回りに回動させて摺動部材の鍔部どうしを摺動させた際に摺動部材が回動することがない。
【0010】
本発明の蝶番では、凹所には、周方向で対向する平面状の側壁面が形成され、該両側壁面どうし間の距離は径方向内方側が径方向外方側に比べて小さくなるよう設けられ、回り止めの周方向の各側面が各側壁面に当接されていることを特徴としている。
【0011】
本発明の蝶番では、回り止めの径方向外方面は、鍔部の外周面に対して径方向内方に位置付けられていることを特徴としている。
【0012】
本発明の蝶番では、各羽根部材において摺動部材の挿入部が挿入される反対側から、各筒状部に金属製の蓋部材が挿入されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明の蝶番によれば、心棒を摺動部材の挿入部どうしに渡すように挿入し、鍔部どうしを当接させるようにして羽根部材どうしをその軸心回りに回動させると、合成樹脂製の摺動部材の鍔部どうしが摺動することになるから羽根部材どうしが金属で形成されていたとしても、扉の開閉に伴う金属粉の発生が防止できる。
【0014】
また、一方の羽根部材および他方の羽根部材は、ともにその筒状部に、摺動部材がその鍔部を当接させるように挿入されているから、鍔部どうしを当接させるよう羽根部材どうしの心棒によって組付ける際に、一方の羽根部材、他方の羽根部材を選択することなく行うことができるから、羽根部材どうしの組付けを容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る蝶番を、図面に基づいて説明する。この実施形態に係る蝶番は、半導体ウエハ製造ライン等のクリーン環境に設置する設備の扉に対して好適に用いられるものである。
図1は蝶番の使用状態を示す断面図、図2は一方の羽根部材側の組品の構成図、図3は他方の羽根部材側の組品の構成図、図4は摺動部材の構成図、図5は羽根部材の単体の構成図である。
【0016】
図1ないし図3に示すように、蝶番1は、上下一対の金属製の羽根部材2A,2B、合成樹脂製の摺動部材3,4、金属製の蓋部材(「義星」ともいう)5,6、および金属製の共通の心棒7から構成されている。金属としてステンレスが好適に用いられ、合成樹脂としてナイロン(例えば66ナイロン)が好適に用いられる。
【0017】
各羽根部材2A,2Bは、円筒状に形成された筒状部10,11、この筒状部10,11からその径方向に延長された平板状の取付部12,13から一体に形成されている。筒状部10,11の軸方向両端面は、環状平面とされている。取付部12,13の板面には、平ネジが挿通される挿通孔14が複数(図ではそれぞれ五つずつ)形成されている。
【0018】
各羽根部材2A,2Bの筒状部10,11の一方側端面10a,11aの周方向領域の一部に、筒状部10,11の軸心方向に向けて窪んだ凹所15,16が形成されている。各凹所15,16には、周方向で対向する平面状の側壁面17,18(図5(b)参照)が形成され、両側壁面17,18どうし間の距離は径方向内方側が径方向外方側に比べて小さくなるよう形成されて、各凹所15,16は平面視または底面視して扇状に形成されている。
【0019】
図4に示すように、各摺動部材3,4は、円筒状の挿入部20,21と、各挿入部20,21に対して拡径した鍔部22,23とを有し、その中心には心棒7を挿通させる中心穴24,25が、貫通するようにしてスリーブ状に形成されている。
摺動部材3,4の鍔部22,23と挿入部20,21との境界部分に各凹所15,16に嵌合する回り止め26,27が一体的に形成されている。この実施形態では、各回り止め26,27は、鍔部22,23の裏面で、且つ挿入部20,21の外側面に亘るよう形成されている。
回り止め26,27の径方向外方面26a,27aは、鍔部22,23の外周面に対して径方向内方に位置付けられている。回り止め26,27の周方向の各側面30,31が各側壁面17,18に当接されている。この回り止め26,27は凹所15,16と相対形状に形成されて、互いに軸方向で嵌合し、周方向で係止する。
各蓋部材5,6は、円板部32,33と中実断面に形成された胴部34,35とから一体的に構成されている。
【0020】
各羽根部材2A,2Bにおいて、その筒状部10,11の軸心方向何れか一方側から摺動部材3,4の挿入部20,21が挿入され、鍔部22,23が筒状部10,11の一方側端面に当接している。
各羽根部材2A,2Bにおいてその筒状部10,11の軸心方向他方側から蓋部材5,6の胴部34,35が圧入によって挿入され、円板部32,33が筒状部10,11の他方側端面に当接している。
【0021】
各摺動部材3,4の挿入部20,21と、各蓋部材5,6の筒状部10,11の端面どうしが筒状部10,11内では当接することなく、両端面間には軸方向に所定の間隔L1,L2を置いて軸方向に対向配置されており、また、蓋部材6の胴部35の端面35aと、後述の心棒7の本体部38の下端面38aとは、軸心方向に間隔を置いて配置されている。
蓋部材6の胴部35の端面35aと心棒7の本体部38の下端面38aの間に間隔を置くようにして胴部35の軸心方向の長さを短くしていることで、蝶番1全体の重量をその分だけ軽量化しており、製造コストの上昇を抑制している。
【0022】
心棒7は、円柱状の本体部38と、本体部38の上端部に配置された窪み40に転動自在に装着された金属製のボール41とから構成されている。心棒7は、その本体部38が下に位置する羽根部材2B側の摺動部材4に挿通され、本体部38の下端面は蓋部材6の胴部35の内周面に溶接38aにより固定されている。
心棒7の上部は、上に位置する羽根部材2A側の摺動部材3に回転可能に挿通され、心棒7の上端部は蓋部材5の胴部34の端面36aに当接している。
【0023】
摺動部材3,4の鍔部22,23を当接させるように上下対とした摺動部材3,4の軸心方向長さは、心棒7の本体部38の軸心方向の長さに比べて短く設定されている。すなわち、心棒7の本体部38の上端部、下端部は、それぞれ摺動部材3,4の挿入部20,21から軸心方向へ突出している。
【0024】
この実施形態において、下に位置する羽根部材2Bは、不図示の扉枠に取付けられ、上に位置する羽根部材2Aは、扉に取付けられる。羽根部材2A,2Bどうしは、軸心回りに相対的に回動自在である。
この場合は、扉枠に羽根部材2Bの取付部13を当て付け、各挿通孔14に平ネジを挿通してこれら平ネジを扉枠に螺入することで羽根部材2Bを扉枠に固定する。扉側に羽根部材2Aの取付部12を当て付け、各挿通孔14に平ネジを挿通してこれら平ネジを扉の板面に螺入することで羽根部材2Aを扉に固定する。
そして、羽根部材2A,2Bどうしの軸心を上下で位置合わせするように扉を持上げて降ろし、予め心棒7を挿入して溶接してある羽根部材2B側のその心棒7を、摺動部材3に挿入するようにする。そうすると、羽根部材2A側と羽根部材2B側とが摺動部材3,4の円板部32,33の端面どうしで当接することになる。
なお、羽根部材2A,2Bどうしの組付けは、扉枠と扉との関係において、必要に応じてその高さ位置の複数箇所において行う。
【0025】
上記のようにして羽根部材2A,2Bどうしを組付けて扉を開閉すると、羽根部材2A側と羽根部材2B側とで摺動する部分は、摺動部材3,4の円板部32,33の端面どうしになるから、羽根部材2A,2Bが金属から形成されていたとしても、扉の開閉動作に伴う金属粉の発生を防止することができる。また、各摺動部材3,4においては、その回り止め26,27が凹所15,16に嵌合していることで、扉を開閉しても摺動部材3,4が筒状部10,11に対して軸心回りに回転することがないから、摺動部材3,4(合成樹脂)と筒状部10,11(金属)との摺動もない。
【0026】
また、蝶番1を構成する羽根部材2A,2B側の組品として、羽根部材2A,2B、摺動部材3,4から構成された同一構成となっているから、何れの組品を扉枠側、扉側に取付けても組品どうしの組付けに対応することができるという利便性を奏する。
【0027】
羽根部材2A側の組品では、金属どうしの摺動は、ボール41と蓋部材5の胴部34の端面36aとの接触という、極めて小さい面積(点接触)での接触になるから、金属粉の発生を効果的に抑えることができる。仮にこのような接触で金属粉が発生したとしても、羽根部材2A側の組品内部での発生となり、しかも蓋部材5の凹部36は摺動部材3によって密封された空間となっているから、発生した金属粉が組品外部に飛散することはない。
【0028】
ところで、一般に、羽根部材2A,2Bの筒状部10,11は曲げ加工によって形成されるものであるが、このとき筒状部10,11は、その内周面が滑らかな円形になることはほとんどない。このような状態の筒状部10,11に直接的に心棒7の本体部38を、筒状部10,11に挿入して、これらを相対的に回転させると、筒状部10,11の内周面と心棒7の本体部38の外周面が擦れあって金属粉が発生してします。しかしながら、この実施形態では、羽根部材2A,2Bの筒状部10,11の内周面と心棒7の本体部38の外周面との間には、摺動部材3,4の挿入部20,21が介在しているから金属どうしの擦れあいがないのである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態を示す蝶番の使用状態を示す正面断面図
【図2】同じく一方の羽根部材側の組品の構成を示し、(a)はその正面図、(b)はその平面図
【図3】同じく他方の羽根部材側の組品の構成を示し、(a)はその正面図、(b)はその底面図
【図4】同じく摺動部材を示し、(a)はその平面図、(b)はその正面図、(c)はその底面図
【図5】同じく羽根部材の単体の構成を示し、(a)はその正面図、(b)はその底面図
【符号の説明】
【0030】
1…蝶番、2A,2B…羽根部材、3,4…摺動部材、5,6…蓋部材、7…心棒、10,11…筒状部、12,13…取付部、14…挿通孔、15,16…凹所、20,21…挿入部、22,23…鍔部、32,33…円板部、34,35…胴部、38…本体部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の羽根部材どうしの筒状部に心棒を挿入することで組付けられる蝶番であって、
筒状の挿入部と該挿入部に対して拡径した鍔部とを有する合成樹脂製の摺動部材が設けられ、一方の羽根部材の筒状部の一方側端面に摺動部材の鍔部が当接するよう一方の羽根部材の筒状部にその軸心方向一方側から摺動部材の挿入部が挿入され、他方の羽根部材の筒状部の他方側端面に摺動部材の鍔部が当接するよう他方の羽根部材の筒状部にその軸心方向他方側から摺動部材の挿入部が挿入され、中心穴間に心棒が挿入されて、且つ両摺動部材の鍔部どうしが当接しつつ筒状部の軸心回りに羽根部材どうしが相対的に回転可能に組付けられる構成とされていることを特徴とする蝶番。
【請求項2】
摺動部材は羽根部材の筒状部に回転可能に嵌合され、羽根部材の筒状部の一方側端面の一部に、該筒状部の軸心方向に向けて窪んだ凹所が形成されており、摺動部材の鍔部と挿入部との境界部分に前記凹所に嵌合する回り止めが設けられていることを特徴とする請求項1記載の蝶番。
【請求項3】
凹所には、周方向で対向する平面状の側壁面が形成され、該両側壁面どうし間の距離は径方向内方側が径方向外方側に比べて小さくなるよう設けられ、回り止めの周方向の各側面が各側壁面に当接されていることを特徴とする請求項2記載の蝶番。
【請求項4】
回り止めの径方向外方面は、鍔部の外周面に対して径方向内方に位置付けられていることを特徴とする請求項2または請求項3記載の蝶番。
【請求項5】
各羽根部材において摺動部材の挿入部が挿入される反対側から、各筒状部に金属製の蓋部材が挿入されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4の何れかに記載の蝶番。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−62677(P2009−62677A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−228694(P2007−228694)
【出願日】平成19年9月4日(2007.9.4)
【出願人】(503405483)株式会社キンマツ (3)