説明

融合X線画像を取得する方法および装置

周期的に動いている人体器官の融合画像を取得する方法と、このような方法を実施するように適合化されている装置とが説明されている。本方法の好ましい実施例においては、X線が人体器官に照射され、複数のマスク画像が、少なくとも毎秒60フレームの高い画像取得速度でX線検出器によって取得される。次いで、造影剤が人体器官の血管内に注入され、その後、造影剤が血管に含まれている状態で、人体器官の少なくとも1つのコントラスト画像が、X線検出器によって取得される。複数のマスク画像から、人体器官の動きの段階のうち、コントラスト画像と実質的に同じ段階において取得された一致画像が決定される。一致マスク画像と少なくとも1つのコントラスト画像との間の差を計算することによって、人体器官のサブトラクション画像を得て表示することができる。マスク画像の取得時とコントラスト画像の取得時とに異なる画像取得速度を使用することによって、高品質のサブトラクション画像を達成することができ、その一方で、総X線照射線量が減少する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、融合X線画像を取得する技術分野に関する。詳細には、本発明は、周期的に動いている人体器官の融合X線画像を取得する方法および装置に関する。さらに、本発明は、コンピュータにより実行されるときに、このような方法を制御するように適合化されているコンピュータプログラム要素と、このようなコンピュータプログラム要素が格納されているコンピュータ可読媒体とに関する。
【背景技術】
【0002】
コントラスト画像およびマスク画像の減算(サブトラクション)あるいは重ね合わせ(オーバーレイ)など、取得された画像のデジタル融合は、例えば、人体の血管の画像を得るために使用される血管造影法における一般的な手法である。この場合、X線源およびX線検出器を有するX線システムを使用して、第一X線画像(以下では、通常、マスク画像と称する)を取得することができ、次いで、例えば、観察される血管内に造影剤を注入した後、第二X線画像(以下では、通常、コントラスト画像と称する)を取得することができる。理想的には、融合画像、すなわち、画像を融合する(例えば、コントラスト画像からマスク画像を減算する)ことによって得られる画像では、コントラストが増大した血管のみが示される。この手順は、デジタルサブトラクション血管造影法(DSA: digital subtraction angiography)としても公知であり、良好な結果を示し、例えば、人体の四肢の神経学および撮像の用途において定着している。
【0003】
取得された画像のデジタル融合の別の方法は、いわゆるロードマッピング(roadmapping)である。この場合、血管内に造影剤を注入した後、「マスク画像」が記録され、その一方で、次の「コントラスト画像」は、造影剤が血流によって流された後のガイドワイヤまたはカテーテルの進行しか示さない。両方の画像を融合すると、血管内のガイドワイヤまたはカテーテルの位置が示される。
【0004】
以下の説明においては、DSAにおける画像の融合の例について主として述べるが、これは、例えば、ロードマッピングにおける別の融合方法を除外するものではない。
【0005】
例えば、心臓関連の用途(鼓動している心臓の血管が観察される)におけるように、動いている人体器官が観察される用途においては、DSAでは、器官の動きに起因してアーチファクトが生じることがある。特に、心臓の早く複雑な動きは、大量のサブトラクションアーチファクトにつながる。したがって、心臓の診断および診療のための現在のX線システムでは、動きアーチファクトが多すぎ、その結果、X線画像の品質が低くなるため、減算手法は使用されていない。
【0006】
特に、周期的に動いている人体器官の高品質の融合X線画像を提供するように適合化されている、融合画像を取得するための改良された方法および装置のニーズが存在する。このような方法または装置は、従来技術の方法または装置の、例えば上述した欠点を少なくとも部分的に克服するべきである。具体的には、ブラーが低減する、もしくは、患者へのX線照射量が減少する、またはその両方である、サブトラクションX線画像を取得する方法または装置のニーズが存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このニーズは、独立請求項の主題によって満たすことができる。本発明の有利な実施例は、従属請求項に記載されている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の観点によると、周期的に動いている人体器官の融合画像を取得する方法であって、前記方法が、前記人体器官にX線を照射し、前記人体器官の複数のマスク画像をX線検出によって取得するステップと、前記人体器官の少なくとも一部における異なるX線吸収性につながる、前記人体器官における変化、を引き起こすステップと、前記人体器官にX線を照射し、前記人体器官の少なくとも1つのコントラスト画像をX線検出によって取得するステップと、一致画像と前記少なくとも1つのコントラスト画像とが、前記人体器官の実質的に同じ動き段階において取得されるように、前記複数のマスク画像のうち少なくとも1つの前記一致画像を決定するステップと、前記一致画像と前記少なくとも1つのコントラスト画像とを融合することによって、少なくとも1つの融合画像を生成するステップと、を含んでおり、前記人体器官の前記複数のマスク画像の少なくとも一部が、少なくとも毎秒60フレームの画像取得速度で取得される、方法、が提供される。
【0009】
本発明のこの観点は、融合画像を取得する方法または装置を、少なくとも、複数のマスク画像を取得できるように高速画像取得を実施することによって、特に、動いている人体器官(例えば、鼓動している心臓)を撮像するようにさせることができるという発想に基づいている。このような高速画像取得は、従来の速度よりも高い速度でX線画像を取得することができる、専用に設計されているX線検出器を使用することによって得ることができる。さらには、対応する動いている人体器官の動き速度に応じて、画像取得速度を選択することができる。
【0010】
以下では、第一の観点による方法のさらなる特徴、利点、および実施例について詳しく説明する。
【0011】
本発明の方法は、上に概略的に示した順序において実行されることが好ましい。すなわち、異なるX線吸収性につながる人体器官における変化を引き起こす前にマスク画像を取得し、次いで、少なくとも1つのコントラスト画像を取得する。しかしながら、任意の別の順序を実施することもできることに留意されたい。例えば、異なるX線吸収性につながる人体器官における変化を引き起こした後、少なくとも1つのコントラスト画像を取得した後に、複数のマスク画像を取得することができる。
【0012】
以下では、好ましい実施順序について説明する。
【0013】
本方法の第一ステップにおいては、観察下の人体器官にX線を照射する。これらのX線は、任意の従来のX線源によって発生させることができる。X線源は、連続モードまたはパルスモードにおいてX線を放射するように制御することができる。X線のエネルギおよび強度は、結果としてのX線画像においてコントラストが最大となるように、調整することができる。
【0014】
観察される人体器官を含む人体を透過するX線は、X線検出器によって検出することができる。X線検出器は、複数のマスク画像を提供することができる。本文書中において、「マスク画像」は、削除する必要のある冗長/背景情報を含むX線画像とすることができる。例えば、異なるX線吸収性につながる人体器官における変化を引き起こす前に、人体器官のマスク画像を取得することができる。
【0015】
第二の方法のステップにおいては、人体器官の少なくとも一部における異なるX線吸収性につながる、人体器官における変化を引き起こす。この変化は、例えば、人体器官の血管内に造影剤を注入することによって、引き起こすことができる。造影剤は、X線を大幅に吸収することができ、かつ、例えば、カテーテルによって血管内に導入することができる流体、とすることができる。あるいは、ガイドワイヤまたはカテーテルなどのX線吸収具(X-ray absorbing tool)を人体器官の中で動かすことができる。
【0016】
第三のステップにおいては、次いで、人体器官にX線をもう一度照射する。次いで、人体器官の少なくとも1つ、好ましくは複数のコントラスト画像を、X線検出器によって取得することができる。本文書中において、「コントラスト画像」は、「マスク画像」を使用して背景を取り除くことが望ましいX線画像とすることができる。例えば、コントラスト画像は、観察下の人体器官の血管の中を造影剤の少なくとも一部が流れている間に取得される、人体器官のX線画像とすることができる。血管の中を流れる造影剤はX線を大幅に吸収するため、造影剤によって満たされている血管は、(1つ以上の)コントラスト画像において暗い領域と見ることができる。
【0017】
上の3つのステップは、プロセスステップの持続時間に対して少なくとも部分的に重ねることができることに留意されたい。すなわち、例えば、いくつかのマスク画像を依然として取得している間に、造影剤をすでに導入させてしまうことができる。造影剤が人体器官の血管内に入るにはいくらか時間がかかるため、この場合にも、十分品質の高いマスク画像を得ることができる。同様に、さらなる造影剤を血管内に導入している間に、コントラスト画像を取得することができる。
【0018】
しかしながら、患者へのX線照射線量を低減する目的と、患者に導入される造影剤の量を低減する目的で、上述した3つのプロセスを分離することが有利である場合がある。
【0019】
さらには、上の3つの方法のステップは、連続的に、すなわち、各ステップの間に実質的な空白時間が存在しないように、実行することが有利である場合がある。例えば、各ステップの間の時間間隔を、5秒未満、好ましくは1秒未満にするべきである。このことは、マスク画像およびコントラスト画像のすべてを取得するための全体的な時間間隔が短いという利点につながりうる。このような短い取得時間間隔の間には、例えば、観察される心臓のパルスが実質的に変化することがなく、このことは、以下の説明から明らかになるように、以降のプロセスステップにおける利点につながる。
【0020】
次のステップとして、前に取得されたマスク画像のうち、少なくとも1つのコントラスト画像と、人体器官の実質的に同じ動き段階、において取得されているマスク画像を決定する。このマスク画像は「一致画像」と称される。言い換えれば、複数のマスク画像から、人体器官の周期的な動きのフェーズのうち少なくとも1つのコントラスト画像と実質的に同じフェーズにおいて取得されたマスク画像を決定する。
【0021】
以下では、周期的に動いている人体器官として、鼓動している心臓を例に、このことについて説明する。心臓は、必ずしも一定ではない特定のパルスで鼓動する。パルスの周期は変化しうるが、心臓は、所定の一連の動き段階を繰り返す。いっぱいに満たされた後、心臓は、収縮によって血液を送り出し、次いで、拡張によって再び満たされる。動きの各段階において、心臓は異なる体積を有し、したがって、心臓の血管の位置が異なる。したがって、特定の動き段階においてコントラスト画像が取得されたとき、決定ステップにおいて、以前のパルスにおける対応する動き段階において取得されたマスク画像が検索され、このマスク画像は一致画像と称される。
【0022】
次のステップにおいては、コントラスト画像と一致画像とを融合することによって、融合画像が生成される。画像の融合は、さまざまな方法によって画像をマージすることによって実施することができる。例えば、画像の対応するピクセルを、例えば、減算や除算などを使用する特定の数学関数に従ってマージすることができる。両方の画像が、人体器官の対応する動き段階において取得されているため、人体器官およびそれに含まれる血管の位置および大きさは、両方の画像において本質的に同じである。
【0023】
以下では、融合画像を生成する1つの好ましい例として、サブトラクション画像の生成を説明する。画像の各ピクセルについて、2つの画像の、検出されたX線値を減算することによって、血管以外のすべての領域が、本質的にゼロの値を有し、これらの領域を白色領域と表すことができるサブトラクション画像を得ることができる。マスク画像の取得時とコントラスト画像の取得時とで吸収値が異なる結果、血管の領域のみがゼロでない値を示し、サブトラクション画像において暗い領域として表すことができる。
【0024】
本発明による方法の1つの重要な特徴は、人体器官の複数のマスク画像のうちの少なくとも一部が、従来の取得速度よりも高い画像取得速度で、例えば、少なくとも毎秒40フレーム、好ましくは少なくとも毎秒60フレームの取得速度で、取得されることである。例えば、少なくとも毎秒100フレーム、好ましくは少なくとも毎秒150フレーム、より好ましくは少なくとも毎秒300フレームの、より高い取得速度は、有利となる場合がある。さらに、複数のマスク画像のすべてを、上述した高い画像取得速度で取得することが好ましい。
【0025】
あるいは、マスク画像は、周期的に動いている人体器官の1周期よりも長い間に、より低いフレーム速度(例えば、30 fps)において取得することができる。画像分析、または、同時に記録される生理学的信号(例えば、心電図または血圧)の分析に基づき、これらの周期からの画像をインターレース処理して、約60 fpsの同等の最小限のフレーム速度を有する1周期とすることができる。
【0026】
このような高い画像取得速度を実施するには、積分時間が短い、または、低速において取得されたマスク画像をインターレース処理する、専用に設計された高速X線検出器を使用することを要求することになるかもしれないが、これは、結果として複数の利点をもたらす。例えば、取得されるマスク画像の各々は、1つの画像またはフレームを取得するための積分時間が相対的に短い(例えば、25 ms未満、好ましくは10 ms未満、より好ましくは4 ms未満)ため、人体器官の動きに起因して発生するブラーが少ない。さらには、動いている人体器官の動きの1周期に対して多数のマスク画像を得ることができるため、人体器官の異なる動き段階に対して多様なマスク画像が存在するので、少なくとも1つのコントラスト画像と、複数のマスク画像のうちの一致画像との間の良好な一致を達成することができる。結果として、マスク画像取得時の高い画像取得速度によって、ブラーが少なくコントラストが高いサブトラクション画像を生成することができる。
【0027】
本発明の実施例によると、人体器官の1つのコントラスト画像のみならず、複数のコントラスト画像が取得され、かつ前記複数のマスク画像は、前記複数のコントラスト画像よりも高い画像取得速度で取得される。言い換えれば、本発明による方法の実行時、マスク画像とコントラスト画像を取得するために異なる画像取得速度が使用される。取得されるコントラスト画像とマスク画像のうちの1つとの間の最良の一致を見つけるためには、人体器官の周期的な動きの1周期内の異なる動き段階に対して、できるだけ多くのマスク画像を取得することが有利であるが、コントラスト画像は、マスク画像取得の取得速度よりも低い取得速度(例えば、毎秒30フレーム未満、好ましくは毎秒10フレーム未満、場合によっては毎秒1フレーム未満)で取得すれば十分である。これにより、患者へのX線照射線量と、一致画像を決定してサブトラクション画像を生成するための必要な計算量の両方を低減することができる。
【0028】
本発明の別の実施例によると、前記複数のマスク画像を取得している間、前記人体器官にX線が連続的に照射される。人体器官の動きの単一周期中にできるだけ多くのマスク画像を取得することが好ましいため、X線源を断続的にオフにすることなく、人体器官に連続的に照射することが有利である。これにより、連続する画像の間の空白時間なしにマスク画像を取得することができる。
【0029】
本発明の別の実施例によると、前記複数のコントラスト画像を取得している間、前記人体器官にパルスモードでX線が照射される。コントラスト画像が、より低い取得速度で取得されるため、連続するコントラスト画像の取得の間に空白時間を存在させることができる。X線源をパルスモード(X線画像を取得するためにX線検出器が動作するときにのみX線が放射される)において動作させることによって、患者に照射される総X線線量を低減することができる。
【0030】
本発明のさらなる実施例によると、前記少なくとも1つの一致画像を決定する前記ステップは、前記複数のマスク画像のうちの画像の特徴と、前記少なくとも1つのコントラスト画像の特徴の比較によって実行される。例えば、人体器官、または人体器官に関連する形状部分の特徴的な構造を、マスク画像およびコントラスト画像の各々について求めることができ、構造または形状部分の位置を比較することによって、一致画像を決定することができる。
【0031】
例えば、外科手術中、鼓動している心臓を観察しているとき、通常、心臓の血管の1つにカテーテルが挿入される。このカテーテルおよびその位置は、X線画像の各々において観察することができる。カテーテルは、心臓の動きと一緒に動く。一致するマスク画像において、カテーテルは、そのコントラスト画像の中と実質的に同じ位置を有すべきである。
【0032】
一般的な画像比較プロセスでは、類似性測度Sを使用することができ、この測度Sは、入力として(マスク)画像Mと(コントラスト)画像Cとを有し、画像間の類似性を決定する。いま、Cjを一連のコントラスト画像とし、Miを一連のマスク画像とすると、コントラスト画像Ckとの最良の一致は、すべてのマスク画像Miに渡って(局所的に)最大の類似性を見つけることによって決定される。
【0033】
この時点において、本発明による方法は、さまざまなタイプの、周期的に動いている人体器官のサブトラクション画像を取得する目的に適用できることに留意されたい。特に好ましい用途は、心臓の診断および診療である。心臓は、高速に動いている人体器官であり、その動きの周期は、通常では約1秒である。しかしながら、程度の差はあるが、より長い周期の動きを行う他のさまざまな器官が存在し、本発明の方法は、そのような器官の高品質のサブトラクション画像を取得する目的にも使用することもできる。このことは、(本明細書において後に説明されるように)生成されるサブトラクション画像を動画のように連続的に提示することによって血管内の血流を視覚化できるように、1パルスの間に複数のコントラスト画像が取得される場合に、特にあてはまる。
【0034】
別の実施例によると、本発明の方法は、特に、周期的に動いている心臓のサブトラクション画像などの融合画像を取得するように適合化されている。このような実施例においては、本方法は、心臓および血管の生理学的データ(例えば、ECG(心電図)データあるいは血圧データ)を取得するステップ、をさらに備えている。これらのデータは、例えば、特定の方法ステップをトリガーする目的に使用することができる。
【0035】
本発明の実施例によると、前記複数のマスク画像を取得する開始時点は、前記ECGデータに基づいて決定される。言い換えれば、ECGデータは、マスク画像の取得をトリガーする目的に使用される。例えば、心臓の速い動きの間に(例えば、心臓の収縮期において)、または心臓の遅い動きの間に(例えば、心臓の拡張期において)マスク画像の取得が開始されるように、ECGデータに基づいて取得をトリガーすることができる。
【0036】
別の実施例によると、人体器官の血管内に造影剤を導入する開始時点は、例えばECGデータなどの生理学的データに基づいて決定される。マスク画像の取得と造影剤の注入の両方を生理学的データに基づいてトリガーすることが、特に有利である。例えば、マスク画像の取得は、ECGデータのRピークの直後の心臓の速い動きフェーズの間に開始することができ、造影剤の注入は、同じパルス期間内ではあるが、それに続く遅い動きフェーズにおいて開始することができる。
【0037】
別の実施例によると、少なくとも1つのコントラスト画像を取得する開始時点は、例えばECGデータなどの生理学的データに基づいて決定される。マスク画像の取得とコントラスト画像の取得の両方をECGデータに基づいてトリガーすることが、特に有利となる場合がある。例えば、マスク画像の取得は、ECGの特定の信号(例えば、Rピーク)の後の、パルス期間のうちの短い部分の間に実行することができ、少なくとも心臓の1パルス周期だけ時間が経過した後、パルス周期の同じ時間部分内に、コントラスト画像の取得が開始される。マスク画像の取得とコントラスト画像の取得をこのようにECGデータに基づいて連結することは、必要な総X線照射線量を低減することに寄与しうる。
【0038】
別の実施例によると、上述した方法ステップのうちの少なくとも1つ、すなわち、マスク画像の取得、造影剤の導入、またはコントラスト画像の取得の開始時点は、位相ロックループ(PLL)トリガリングの使用によって決定される。PLLを使用すると、取得頻度を、例えばECG周波数などの複数の生理学的データにすることができる。この方法においては、心臓のサイクル全体にわたり連続的にマスク画像を取得する必要はなく、サイクル中の指定されるフェーズ付近においてのみ断続的に取得すれば良い(このフェーズにおいてもコントラスト画像が将来取得されまたは既に取得されている)。これにより、必要なX線照射量が低減する。
【0039】
本発明の別の観点においては、上述した本発明の方法のステップを実行するように適合化されている、X線融合画像を取得する装置、が提供される。このような装置は、X線を放射するX線源と、X線検査される人体器官のX線画像を取得するX線検出器と、患者の血管内に造影剤を導入する造影剤注入器と、前記X線源、前記X線検出器、および前記造影剤注入器のうちの少なくとも1つを制御する制御ユニットと、前記X線検出器によって提供される2つのX線画像に基づいてサブトラクション画像を計算する計算ユニットと、を含むことができる。
【0040】
この場合、前記装置は、特に、異なる画像取得速度でX線画像を取得するように適合させることができる。例えば、X線源は、パルス持続時間およびパルス速度を制御ユニットによって制御することができるパルスモードで動作させることができる。これに代えて、X線検出器は、異なる積分時間で、かつ異なる画像検出速度で動作するように制御することもできる。第一モードの場合、従来のX線取得フレーム速度よりも高い高速取得速度(例えば、毎秒60フレーム以上、好ましくは毎秒100フレーム以上、より好ましくは毎秒300フレーム以上)において動作させることができ、かつ、第二モードの場合、高速取得速度、または従来の取得速度と同程度の取得速度(例えば、毎秒30フレーム未満、好ましくは毎秒10フレーム未満)で動作させることができるX線検出器、を使用することが好ましい場合がある。
【0041】
本発明の別の観点は、コンピュータにおいて実行されたときに、上に概略的に示した、サブトラクション画像を取得する方法、を実行するように適合化されているコンピュータプログラム要素、に関する。
【0042】
本発明の別の観点は、このようなコンピュータプログラム要素を有するコンピュータ可読媒体に関する。
【0043】
本発明の実施例は、複数の異なる主題に関連して説明されていることに留意されたい。具体的には、いくつかの実施例は、方法クレームに関連して説明されているのに対し、別の実施例は、装置クレームに関連して説明されている。しかしながら、当業者には、上記および以下の説明から、特に明記されていない限り、1つのタイプの主題に属する特徴の任意の組合せに加えて、異なる主題に関連する特徴の間の任意の組合せ、特に、装置クレームの特徴と方法クレームの特徴の間の任意の組合せも、本出願によって開示されているとみなされる。
【0044】
本発明の、上に定義されている観点およびさらなる観点と、特徴と、利点は、以下に説明する実施例から導くことができる。
【0045】
以下では、本発明について、実施例を参照しながらさらに詳しく説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の複数の異なる実施例による方法のプロセスステップの間の時間依存性(time dependency)を導出することができる時間図(time diagram)を概略的に示している。
【図2】本発明の複数の異なる実施例による方法のプロセスステップの間の時間依存性(time dependency)を導出することができる時間図(time diagram)を概略的に示している。
【図3】本発明の複数の異なる実施例による方法のプロセスステップの間の時間依存性(time dependency)を導出することができる時間図(time diagram)を概略的に示している。
【図4】本発明の複数の異なる実施例による方法のプロセスステップの間の時間依存性(time dependency)を導出することができる時間図(time diagram)を概略的に示している。
【図5】心臓の動脈内に造影剤が流入している時点において、本発明による方法によって取得されたサブトラクションX線画像を示している。
【図6】造影剤が流入して、より後の段階における、図5のサブトラクションX線画像に対応するサブトラクションX線画像を示している。
【図7】本発明の実施例による、X線サブトラクション画像を取得する装置、を概略的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0047】
図1〜図4は、本発明の画像取得方法の実施例のさまざまなプロセスステップの間の時間依存性を表している。最初の行には、ECG(心電図)信号が示されている。第二行は、観察される人体器官の血管内の造影剤(CA)の充填状態を示している。第三行は、人体器官に照射されるX線の強度を示している。第四行は、高速X線検出器による画像取得を表している。
【実施例1】
【0048】
図1は、本発明による画像取得方法の第一実施例を示している。ECG信号に基づいて決定することができる特定の時点において開始し、観察される人体器官の領域(この場合には心臓)において、X線が患者に照射される。X線は、ECG信号によって示されるパルスの周期よりも大幅に短い時間間隔の間、連続的に照射される。X線画像は、この連続的なX線照射の間、高速検出器によって高い画像取得速度(例えば、毎秒300フレーム)において取得される。高い画像取得速度のため、短いX線照射時間間隔の間に約50枚またはそれ以上のマスク画像を取得することができる。マスク画像の取得を停止した直後、好ましくは同じパルス周期の間に、人体器官の血管内に造影剤が導入される。
【0049】
次のパルス周期において、高速検出器によって1枚のコントラスト画像が取得される。このようなコントラスト画像の取得のタイミングは、ECG信号に基づくことができる。コントラスト画像の取得は、心臓の動きのフェーズのうち、マスク画像の取得に使用された時間間隔と同じフェーズに対応する時間間隔内に実行するべきである。例えば、コントラスト画像は、マスク画像取得の時間間隔の中央に対応する、心臓のサイクルのフェーズ付近において、取得することができる。
【0050】
コントラスト画像は、心臓の血管が造影剤によって完全に満たされている間(この時間間隔は通常では「動脈相」と称される)に取得されるのみならず、造影剤が心臓全体に拡散し始めて心筋層(myocard)に移動する、より後の時間間隔(この時間間隔は通常では「かん流相」と称される)においても取得されることに留意されたい。
【0051】
複数のマスク画像と、コントラスト画像とを取得した後、両方の画像の特徴を比較することによって、それぞれのコントラスト画像に最良に一致するマスク画像が決定される。次いで、最良に一致するマスク画像とそれぞれのコントラスト画像の画像減算が実行される。結果としてのサブトラクションX線画像を、例えば、画面に表示することができる。
【0052】
相対的に短い時間間隔の間に高い取得速度で多数のマスク画像を取得し、次いで、以降のパルスの間に、心臓の動きの対応するフェーズ内において1枚のコントラスト画像を取得することによって、高品質のサブトラクション画像を得ることができ、それと同時に、X線照射線量を最小にすることができる。
【実施例2】
【0053】
図2には、本発明の方法の第二実施例における時間依存性が示されている。この場合、複数のマスク画像は、毎秒300フレームの速い取得速度で取得される。取得は、ECG信号によってトリガーされる。マスク画像の取得は、ECG信号によって示される1パルス周期に等しいかまたはそれより長い時間間隔の間に実行される。造影剤の注入後(注入もECG信号によってトリガーされる)、動脈相の間に複数のコントラスト画像が取得される。
【0054】
マスク画像取得の時間間隔の間、X線は連続的に照射されるが、コントラスト画像取得の間、X線はパルスモードにおいて照射される。すなわち、X線管によるX線の放射と、高速X線検出器によるX線画像検出とが同期される。X線は、短い時間間隔(例えば、10 ms)にわたり放射され、それと同時に、高速検出器が、検出されたX線強度を積分する。次のコントラスト画像を取得する(例えば、100 ms後)までは、X線源とX線検出器の両方が非動作状態にある。このようなパルス状のX線放射モードを使用することにより、患者へのX線線量を低減することができる。
【0055】
1パルス周期内に複数のコントラスト画像を取得し、各コントラスト画像に対して、前に取得された複数のマスク画像のうち対応する一致マスク画像を決定し、次いで、コントラスト画像およびマスク画像の各組のサブトラクション画像を生成することによって、観察される心臓の複数の異なる動き段階の一連のサブトラクション画像を得ることができ、これらのサブトラクション画像を、動いている器官の動画として表示することができる。
【0056】
図2においては、X線取得の3つの異なるモードが使用されることを理解できる。マスク画像の取得時には、毎秒300フレームの高速取得速度が使用される。動脈相の間のコントラスト画像の取得には、およそ毎秒15フレームの低い画像取得速度が使用される。最後に、かん流相の間の心臓の血管内のプロセスを観察するため、およそ毎秒5フレームのさらに低い取得速度が使用される。
【実施例3】
【0057】
図3は、マスク画像の取得とコントラスト画像の取得の両方において高い取得速度が使用される、別の実施例を示している。コントラスト画像の取得においてもこのような高い取得速度を使用することによって、一連のサブトラクションX線画像を高い時間分解能において得ることができ、このことは、心臓の血管内の高速プロセスを分析するうえで役立つ。
【実施例4】
【0058】
図4は、別の実施例における時間依存性を示しており、この場合、マスク画像は、間に中断間隔を有する複数の短い時間間隔において取得される。マスクの連続する対各々の間の時間間隔が、例えば、100 msであるならば、コントラスト画像の連続する対の間の時間間隔も同じにすべきであり、画像は心臓の同じフェーズにおいて取得されるべきである。それぞれのマスク画像取得間隔の間、X線が連続的に照射され、複数のマスク画像が高い取得速度で取得される。
【0059】
動脈相およびかん流相の間、マスク画像が取得されたフェーズに対応する、心臓のサイクルのフェーズ内で、コントラスト画像が取得される。
【0060】
短い時間間隔におけるマスク画像の取得と、コントラスト画像の取得とを同期させ、このようなマスク画像取得間隔の間の時間間隔中にX線源をオフにすることによって、総X線線量を低減することができる。
【0061】
図5は、本発明の方法に従って取得されたX線画像を示している。この画像は、複数のマスク画像のうちの一致マスク画像と、動脈相の間に取得されたコントラスト画像とを減算することによって生成されている。
【0062】
図6は、かん流相の間に取得されたコントラスト画像を使用して生成された、対応するサブトラクション画像を示している。かん流相においては、造影剤が心筋層全体にすでに広がっているため、心臓の多数の微細な血管を観察することができる。特に、このような微細な血管構造を観察する場合、本発明による方法によって得ることができる高い画質および少ないブラーは、相当な利点であり得る。
【実施例5】
【0063】
図7は、本発明による上述した方法を実行するように適合化されている、X線サブトラクション画像を取得する装置の実施例を概略的に示している。
【0064】
装置1は、X線を放射するX線源3と、X線画像を取得するX線検出器5と、患者の血管内に造影剤を導入するための、注入針8を有する造影剤注入器7と、X線源3、X線検出器5、および造影剤注入器7のうちの少なくとも1つを制御する制御ユニット9と、X線検出器によって提供される2つのX線画像に基づいてサブトラクション画像を計算する計算ユニット11と、を備えている。計算ユニット11は、計算されたサブトラクション画像をディスプレイ13に出力することができる。
【0065】
装置1は、複数の異なる画像取得速度でX線画像を取得するように適合化されている。この目的のため、装置1は、毎秒60フレーム以上の高い画像取得速度と、毎秒30フレーム未満の低い画像取得速度の両方においてX線画像を取得することができ、かつそのように制御することができるX線検出器、を使用することができる。
【0066】
本発明の上述した実施例および観点を総括する目的で、本発明を要約すると、周期的に動いている人体器官のサブトラクション画像を取得する方法と、このような方法を実施するように適合化されている装置が記載されている。この方法においては、X線が人体器官に照射され、複数のマスク画像が、少なくとも毎秒40フレームの高い画像取得速度でX線検出器によって取得される。次いで、造影剤が人体器官の血管内に注入され、その後、造影剤が血管に含まれている状態で、人体器官の少なくとも1つのコントラスト画像が、X線検出器によって取得される。複数のマスク画像から、人体器官の動きの段階のうち、コントラスト画像と実質的に同じ段階において取得された一致画像が決定される。一致マスク画像と少なくとも1つのコントラスト画像との間の差を計算することによって、人体器官のサブトラクション画像を得て表示することができる。マスク画像の取得時とコントラスト画像の取得時とに異なる画像取得速度を使用することによって、高品質のサブトラクション画像を達成することができ、それと同時に、総X線照射線量が減少する。
【0067】
本発明の実施例は、以下の利点を提供することができる。
【0068】
可変の取得速度を使用することによって、最小限のX線線量を使用して最大の情報を得ることができる。さらに、減算を実行しない場合と比較して造影剤の可視性を高める減算を使用することによって、最小の造影剤を使用して最大の定性的情報を得ることができ、造影剤の使用量が減少する。
【0069】
本方法を実施するための装置に関して、例えば、心臓のような動いている人体器官における血流およびかん流に関する定量的情報を得るためのさらなる計算ユニットを追加することができる。
【0070】
高速撮像および減算の用途は、心臓用途に制限されず、血流およびかん流を調べる目的で別の血管にも適用できることに留意されたい。
【0071】
さらに、本出願において説明されているように冠状動脈のデジタルサブトラクション画像を取得する結果としての画像オーバーレイを、オプションとして、心臓および呼吸の動きを補正する公知の方法と組み合わせて、冠状動脈のロードマッピングに提供することができる。例えば、DSA画像などの融合画像が取得されるとき、例えば、冠状動脈のロードマッピングにおいて使用される、従来方式において取得される画像と融合することができる。
【0072】
語「を備えている」、「を含む」などは、別の要素またはステップを除外するものではなく、「a」または「an」は、複数個の存在を除外するものではないことに留意されたい。また、複数の異なる実施例に関連して説明されている要素は、組み合わせることができる。また、請求項における参照符号は、請求項の範囲を制限するようには解釈されないことに留意されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期的に動いている人体器官の融合画像を取得する方法であって、
前記方法が、
前記人体器官にX線を照射し、かつ前記人体器官の複数のマスク画像をX線検出によって取得するステップと、
結果的に前記人体器官の少なくとも一部における異なるX線吸収性をもたらす、前記人体器官内に変化を起こさせるステップと、
前記人体器官にX線を照射し、かつ前記人体器官の少なくとも1つのコントラスト画像をX線検出によって取得するステップと、
一致画像と前記少なくとも1つのコントラスト画像とが、前記人体器官の実質的に同じ動き段階において取得されるように、前記複数のマスク画像のうち少なくとも1つの前記一致画像を決定するステップと、
前記一致画像と前記少なくとも1つのコントラスト画像とを融合することによって、少なくとも1つの融合画像を生成するステップと、
を備えており、
前記人体器官の前記複数のマスク画像の少なくとも一部が、少なくとも毎秒60フレームの最小限の速度で取得される、
方法。
【請求項2】
前記画像取得速度が、前記対応する動いている人体器官の動き速度に応じて選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの融合画像を生成するステップが、
サブトラクション画像を取得する目的で前記少なくとも1つのコントラスト画像から前記一致画像を減算するステップ、
を備えている、
請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記人体器官の複数のコントラスト画像が取得され、かつ
前記複数のマスク画像が、前記複数のコントラスト画像よりも高い画像取得速度で取得される、
請求項1から請求項3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記複数のコントラスト画像が、毎秒30フレーム未満の画像取得速度で取得される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記複数のマスク画像を取得している間、前記人体器官にX線が連続的に照射される、請求項1から請求項5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記複数のコントラスト画像を取得している間、前記人体器官にパルスモードにおいてX線が照射される、請求項4から請求項6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つの一致画像を決定する前記ステップが、前記複数のマスク画像のうちの画像の特徴と、前記少なくとも1つのコントラスト画像の特徴の比較によって実行される、請求項1から請求項7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記方法が、周期的に動いている心臓のサブトラクション画像を取得し、
前記方法が、前記心臓のサイクルの生理学的データを取得するステップ、をさらに備えている、
請求項1から請求項8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記複数のマスク画像を取得する開始時点が、前記生理学的データに基づいて決定される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記人体器官の血管内に前記造影剤を導入する開始時点が、前記生理学的データに基づいて決定される、請求項9または請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つのコントラスト画像を取得する開始時点が、前記生理学的データに基づいて決定される、請求項9、請求項10、または請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記開始時点が、位相ロックループトリガリングを使用して決定される、請求項10から請求項12の何れか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1から請求項13の何れか一項に記載の方法を実行する、X線サブトラクション画像を取得する装置。
【請求項15】
X線を放射するX線源と、
X線検査される人体器官のX線画像を取得するX線検出器と、
患者の血管内に造影剤を導入する造影剤注入器と、
前記X線源、前記X線検出器、および前記造影剤注入器のうちの少なくとも1つを制御する制御ユニットと、
前記X線検出器によって提供される2つのX線画像に基づいて融合画像を計算する計算ユニットと、
を含んでおり、
異なる画像取得速度でX線画像を取得する、
請求項14に記載の装置。
【請求項16】
コンピュータにおいて実行されたときに、請求項1から請求項13の何れか一項に記載の方法を実行する、コンピュータプログラム要素。
【請求項17】
請求項16に記載のコンピュータプログラム要素を有する、コンピュータ可読媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−522598(P2010−522598A)
【公表日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−500395(P2010−500395)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【国際出願番号】PCT/IB2008/050953
【国際公開番号】WO2008/120119
【国際公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】