説明

融着剤

【課題】視認性に優れ、暗所や閉所での作業性を改善又は向上できる融着剤を提供する。
【解決手段】融着剤を、末端が封鎖されたポリシラン(A)と、着色剤(B)(例えば、クマリン系蛍光染料などの蛍光染料)とで構成する。このような融着剤において、ポリシラン(A)は、重量平均分子量5000以下を有するポリシランであってもよく、常温(および常圧)で液状であってもよい。前記融着剤において、着色剤(B)の割合は、ポリシラン(A)100重量部に対して1重量部以下であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリシランで構成され、樹脂などの接合に有用な融着剤、この融着剤を充填した噴射器及び前記融着剤を用いた接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
融着は、接合法の1つとして広く用いられており、通常、融着剤を、融着を必要とする部位、すなわち、融着界面に介在又は付着させることにより行われる。このような接合法において、融着界面の付着物(例えば、水、酸化被膜、砂、塵、埃など)は、融着剤による融着強度を低下させるため、極力取り除くことが重要となる。融着前に界面付着物を除去する方法としては、融着界面のスクレイプ(ヤスリ掛け)や有機溶媒による拭き取りなどがある。しかし、屋外などの自然条件下で融着を行う場合などにおいては、前記除去方法を施しても、微細な砂粒子などが融着界面に付着し、融着強度が低下する。
【0003】
このような融着において、融着剤としてポリシランなどのケイ素含有ポリマーを用いることが提案されている。WO98/46928号公報(特許文献1)には、ポリオレフィン継手を介して、ポリオレフィン管を融着接合するに際し、管又は継手の表面にポリシランやポリシロキサンなどのケイ素化合物を存在させて加熱することで、管又は継手の表面に付着物(例えば、砂、ポリオレフィンの酸化被膜など)が存在していても、融着強度を低下させずに融着させる方法が開示されている。
【0004】
通常、ポリシランやポリシロキサンには、ケイ素原子に直接結合する水素原子、ポリマー鎖中やポリマー末端にヒドロキシル基、酸素原子、塩素原子などを含む。しかし、このような水素原子、ヒドロキシル基、酸素原子、塩素原子などを含むケイ素含有ポリマーを融着剤として使用すると、被着体を確実かつ強固に融着できない場合がある。
【0005】
このような融着性を改善又は向上させるため、ケイ素含有ポリマーを改質することも提案されている。特開2003−82325号公報(特許文献2)には、ポリシランの末端が封鎖剤で封鎖されたポリシラン誘導体で構成されている融着剤、およびこの融着剤を用いた被着体の接合方法が開示されている。
【0006】
この文献の融着剤を用いると、一般的な末端が封鎖されていないポリシランなどに比べて、被着体を強固に融着しやすい。しかし、ポリシランは、通常、無色透明であるため、融着界面に付着又は介在しているか否かを視認しにくい。特に、このような視認の困難性は、ガス管(ポリオレフィン管)のような被着体(又は融着界面)の色が有色(特に濃色)である場合や夜間のような暗所で作業する場合などにおいて顕著である。そのため、現実的には、融着界面に対するポリシランの塗布やスプレーは、感覚的に行わざるを得ず、作業の態様によっては(例えば、暗所や狭所での作業など)、融着界面に融着に有効な量のポリシランを介在させることができなくなる場合がある。そして、このような場合には、十分な融着強度を担保すべく、むやみに多量のポリシランを使用する必要があったり、このような多量のポリシランを使用しても、融着を必要とする部位にポリシランを有効に付着させることができなかったり、融着界面における不均一なポリシランの付着により融着強度のむらが生じたり、むしろ融着性が低下する場合もある。
【0007】
そのため、ポリシランを融着剤に用いた場合における作業性や融着性のさらなる改善が求められている。
【0008】
なお、特許文献2には、末端が封鎖されたポリシランは、適度な熱分解性と安定性とを兼ね備えており、安定性が高いため、末端が封鎖されていないポリシランに比べて、被着体を確実かつ有効に接合できると記載されているものの、末端が封鎖されたポリシランの特性や性状について何ら記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO98/46928号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2003−82325号公報(特許請求の範囲、段落[0053])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、視認性に優れた融着剤、この融着剤を含む(充填した)噴射器および前記融着剤による接合方法を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、少量でも確実に被着体を接合できる融着剤、この融着剤を含む噴射器および前記融着剤による接合方法を提供することにある。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、暗所や閉所での作業性を改善又は向上できる融着剤、この融着剤を含む噴射器および前記融着剤による接合方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、末端が封鎖剤で封鎖されたポリシランと、着色剤(又は染料又は顔料、例えば、蛍光染料)とで構成された融着剤が、視認性に優れ、少量でも確実に被着体を接合できることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明の融着剤(融着剤組成物)は、末端が封鎖されたポリシラン(A)と、着色剤(B)とを含む。このような融着剤において、ポリシラン(A)は、比較的低分子量(例えば、重量平均分子量5000以下)を有する末端が封鎖された直鎖状ポリシランであってもよい。また、ポリシラン(A)は、常温(および常圧)で液状であってもよい。このようなポリシラン(A)は、融着能に優れ、着色剤(B)との相溶性においても高い場合が多く、視認性の向上効果が高い。
【0015】
前記着色剤(B)は、特に、蛍光染料(又は蛍光着色剤又は蛍光顔料、例えば、クマリン系蛍光染料)を含んでいてもよい。特に、本発明の融着剤では、前記ポリシラン(A)が常温で液状であり、着色剤(B)がポリシラン(A)に溶解していてもよい。このような蛍光染料は、視認性を効率よく向上できるため融着性を高いレベルで保持でき、このような効果は、クマリン系蛍光染料などのようにポリシラン(A)に溶解可能な着色剤(B)において著しい場合が多い。
【0016】
本発明の融着剤において、着色剤(B)の割合は、例えば、ポリシラン(A)100重量部に対して1重量部以下であってもよい。本発明では、このような少量でも融着剤に十分な視認性を付与でき、ポリシラン(A)の融着能を損なうことがないため、ポリシラン(A)の優れた融着能と高い視認性とを両立させることができる。
【0017】
代表的な融着剤には、ポリシラン(A)が、常温で液状であり、かつ重量平均分子量3000以下を有する末端が封鎖された直鎖状ポリアルキルアリールシランであり、着色剤(B)が蛍光染料であり、着色剤(B)がポリシラン(A)に溶解しており、着色剤(B)の割合がポリシラン(A)100重量部に対して0.5重量部以下である融着剤などが含まれる。
【0018】
本発明の融着剤は、さらに、溶媒(C)を含んでいてもよく、このような溶媒(C)は、常温で気体であってもよい。代表的には、本発明の融着剤は、さらに、常温で気体の溶媒(C)を含み、少なくともポリシラン(A)が液化した溶媒(C)(例えば、ジメチルエーテルを含む溶媒)に溶解していてもよい。このような溶媒(C)を含む融着剤において、ポリシラン(A)および着色剤(B)の総量の割合は、例えば、溶媒(C)100重量部に対して、0.1〜5重量部程度であってもよい。
【0019】
本発明には、常温で気体の溶媒(C)を含む前記融着剤を充填した噴射器(スプレーなど)を含む。このような噴射器は、代表的には、前記末端が封鎖されたポリシラン(A)と、前記着色剤(B)と、常温で気体の溶媒(C)とを含む融着剤を充填しており、少なくともポリシラン(A)が液化した溶媒(C)に溶解した状態で融着剤を充填している噴射器であってもよい。
【0020】
本発明には、被着体の融着界面間(又は融着界面)に前記融着剤を介在(又は付着)させて加熱し、被着体を接合する方法も含む。この接合方法では、前記噴射器を用いて噴射又は噴霧し、融着界面間に前記融着剤を介在させてもよい。前記被着体において、融着界面は着色されていてもよい。本発明の方法では、視認性に優れた融着剤を使用するため、このような融着界面が着色されていても、効率よく接合できる。
【0021】
また、前記方法では、着色剤(B)として蛍光染料(又は蛍光顔料又は蛍光増白剤)を用い、光(例えば、紫外線)照射下で、融着界面間に融着剤を介在又は付着させてもよい。このような方法では、蛍光染料による発光により融着剤の付着状況を確認でき、融着剤を効率よく使用できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、ポリシラン誘導体で構成された融着剤を用いるので、融着界面に砂などの不純物が付着していても、種々の熱可塑性樹脂を確実かつ有効に融着できる。また、本発明の融着剤は、継手を介した管体の接合法に限らず、種々の接合法に適用でき、被着体の接合強度を改善することができる。
【0023】
本発明の融着剤は、末端が封鎖されたポリシランと着色剤(例えば、蛍光染料)とで構成されているので、通常、無色又は薄色であるポリシランで構成されているにもかかわらず、視認性に優れている。そのため、本発明の融着剤では、被着体の融着界面に前記ポリシランが付着しているか否かを確認しやすく、多量のポリシランを使用することなく、少量でも確実に被着体を接合できる。しかも、本発明の融着剤は、着色剤により容易に融着界面におけるポリシランの塗布状況が確認できるため、暗所(夜間など)や閉所などにおける作業性を改善又は向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、実施例及び比較例における接合方法を説明するための概略断面図である。
【図2】図2は、図1の概略断面図のうち、融着部分を示す部分概略断面図である。
【図3】図3は、実施例及び比較例におけるピール試験法を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の融着剤(組成物、融着剤組成物、融着性組成物)は、末端が封鎖されたポリシラン(A)と、着色剤(B)とを含んでいる。
【0026】
[ポリシラン(A)]
ポリシラン(A)としては、直鎖状、分岐鎖状、又は環状ポリシランなどが挙げられる。これらの構造のうち、融着性の観点から、代表的には、直鎖状又は環状ポリシランを好適に用いてもよい。
【0027】
このようなポリシランは、例えば、下記式(1)で表すことができ、ポリシランユニットと、このポリシランユニットの末端を封鎖する不活性基Z及びZとで構成されている。
【0028】
【化1】

【0029】
(式中、R及びRは、同一又は互いに異なって炭化水素基を、Z及びZは、同一又は互いに異なって不活性基を示し、ZおよびZは互いに結合して環を形成していてもよく、nは正の整数を示す。)
式(1)において、R及びRで表される炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基が好ましい。アルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル、ペンチルなどのC1−10アルキル基(好ましくはC1−6アルキル基、さらに好ましくはC1−4アルキル基)が挙げられる。シクロアルキル基としては、シクロペンチル、シクロヘキシル、メチルシクロヘキシルなどのC5−10シクロアルキル基(好ましくはC5−8シクロアルキル基)が挙げられる。アリール基としては、フェニル、メチルフェニル、ジメチルフェニル、エチルフェニル、ナフチルなどのC6−20アリール基(好ましくはC6−10アリール基、さらに好ましくはC6−8アリール基)が挙げられる。なお、R及びRは、同一又は異なっていてもよい。また、nが2以上の場合、R又はRは、それぞれ、同一又は異なる基であってもよい(すなわち、共重合体であってもよい)。
【0030】
代表的なRとRとの組み合わせには、例えば、(a)アルキル基[例えば、C1−4アルキル基(特にメチル基)]同士、(b)アルキル基[例えば、C1−4アルキル基(特にメチル基)]とアリール基(特にフェニル基)との組み合わせ、(c)アリール基同士などが例示でき、好ましいRとRとの組み合わせには、(a)又は(b)(特に、組み合わせ(b))などが含まれる。RとRとの組み合わせ(さらには後述の重合度nや末端基ZおよびZの種類)を選択することにより、高い融着性を担保しつつ、ポリシラン(A)を常温で液状とすることができる。
【0031】
不活性基Z及びZとしては、同一又は相異なって、シリル基、アセチル基、フッ素原子などの不活性基が挙げられるが、シリル基であるのが好ましい。
【0032】
前記式(1)において、不活性基Z及びZを構成するシリル基としては、全ての水素原子がアルキル基又はアリール基で置換されたシリル基、例えば、トリアルキルシリル基(トリメチルシリル、トリエチルシリル、トリプロピルシリル、トリイソプロピルシリル、トリブチルシリル、t−ブチルジメチルシリルなどのトリC1−10アルキルシリル基、好ましくはトリC1−6アルキルシリル基、さらに好ましくはトリC1−4アルキルシリル基など)、トリアリールシリル基(例えば、トリフェニルシリルなどのトリC6−10アリールシリル基)、ジアルキルアリールシリル基(例えば、ジメチルフェニルシリル、ジエチルフェニルシリル、エチルメチルフェニルシリルなどのジC1−10アルキルC6−10アリールシリル基、好ましくはジC1−6アルキルC6−8アリールシリル基、さらに好ましくはジC1−4アルキルフェニルシリル基など)、アルキルジアリールシリル基(例えば、メチルジフェニルシリル、エチルジフェニルシリル、プロピルジフェニルシリルなどのC1−10アルキルジC6−10アリールシリル基、好ましくはC1−6アルキルジC6−8アリールシリル基、さらに好ましくはC1−4アルキルジフェニルシリル基など)などが挙げられる。
【0033】
なお、Z及びZが互いに結合して環を形成する場合、環状ポリシランとなる。すなわち、環状ポリシランは、前記式(1)において、不活性基Z及びZが存在せず、直接末端同士が結合した構造を有する。
【0034】
式(1)において、n(重合度)は、1〜5000(例えば、1.5〜2000)程度の範囲から選択できるが、例えば、1〜1000(例えば、1.5〜500)、好ましくは2〜300(例えば、2.5〜200)、さらに好ましくは3〜100(例えば、4〜50)程度であってもよい。なお、特に、環状ポリシラン(Z及びZが互いに結合して環を形成する場合)におけるnは、例えば、2〜12、好ましくは3〜10、さらに好ましくは4〜8程度であってもよい。
【0035】
特に、式(1)において、nは、2〜30(例えば、3〜20)、好ましくは3〜15(例えば、4〜12)、さらに好ましくは5〜10程度であってもよい。このような比較的低重合度のポリシラン(特に鎖状ポリシラン)は、融着性に優れているとともに、RやRの種類にもよるが、常温で液状の形態である場合が多い。しかも、着色剤(B)の種類にもよるが、着色剤(B)をポリシラン(A)に分散させやすい(特に溶解できる)という特性を有していることが多い。そのため、融着剤において、着色剤(B)と組み合わせても、融着性を損なうことなく、確実に視認性を向上させやすい。
【0036】
代表的なポリシラン(A)には、(1)末端が封鎖された直鎖状ポリジアルキルシラン(前記(a)の組み合わせに対応)、(2)末端が封鎖された直鎖状ポリアルキルアリールシラン(前記(b)の組み合わせに対応)、(3)末端が封鎖された直鎖状ポリジアリールシラン(前記(c)の組み合わせに対応)などが含まれ、特に、融着性などの観点から、(2)末端が封鎖された直鎖状ポリアルキルアリールシランを好適に用いてもよい。なお、末端を封鎖する基(封鎖基)としては、前記例示のZおよびZ(例えば、トリアルキルシリル基、ジアルキルアリールシリル基など)が挙げられる。
【0037】
なお、ポリシラン(A)の重量平均分子量は、200〜1000000の範囲から選択でき、例えば、300〜100000(例えば、400〜50000)、さらに好ましくは500〜10000(例えば、700〜7000)程度であってもよい。特に、ポリシラン(A)の数平均分子量は、5000以下(例えば、300〜4000)、好ましくは3000以下(例えば、400〜2500)、さらに好ましくは2000以下(例えば、500〜1500)程度であってもよい。前記と同様に、低分子量のポリシラン(A)は、融着剤において、融着性と視認性とをバランスよく付与させやすく、好適である。
【0038】
なお、融着剤としての性能を損なわない限り、ポリシランは、R及びRの一部が、水素原子、ヒドロキシル基、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などであるユニットを有していてもよい。
【0039】
また、ポリシランの末端は、完全に封鎖されているのが好ましいが、融着剤としての性能を損なわない限り、一部の末端が封鎖されていなくてもよい。ポリシランの末端封鎖割合は、融着性を妨げない限り高い方がよく、50〜100%、好ましくは75〜100%、さらに好ましくは90〜100%程度であってもよい。
【0040】
ポリシラン(A)は、単独で又は二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0041】
ポリシラン(A)は、常温(例えば、15〜30℃程度)において、固体状、液体状のいずれであってもよい。特に、ポリシラン(A)は、常温(および常圧)において液状であるのが好ましい。このような液状のポリシラン(A)は、融着性(融着能)に優れているとともに、後述するように、溶解可能な着色剤(B)との組み合わせにより、融着における視認性をより一層向上できるため、好適である。
【0042】
なお、液状のポリシラン(A)は、例えば、前記式(1)においてRおよびRの種類を選択[例えば、RおよびRの少なくとも一方をアルキル基(例えば、メチル基などの低級アルキル基)とするなど]したり、ポリシランの重合度や分子量を比較的小さくすることにより、効率よく得ることができる。
【0043】
なお、ポリシラン(A)は、特開2003−82325号公報に記載の方法などを用いて製造でき、例えば、(i)末端が封鎖されていないポリシラン(ポリシランユニット)と封鎖剤としての前記不活性基Z及びZに対応するシリル化合物(例えば、モノハロシラン類、シリルトリフラート類など)とを反応させる方法、(ii)末端が封鎖されていないポリシランに対応するハロシラン類(例えば、ジハロシラン類)とモノハロシラン類とを反応(重合)させる方法などにより得ることができる。
【0044】
[着色剤(B)]
着色剤(染料、顔料、染顔料、色素)としては、融着剤における視認性を向上できればよく、無機着色剤(無機顔料又は無機染料)、有機着色剤(有機顔料又は有機染料)などが含まれる。染料は、水溶性であってもよく、油溶性であってもよい。無機顔料としては、黒色顔料[カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ランプブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラック等)など]、白色顔料[チタン系白色顔料(酸化チタンなど)、亜鉛系白色顔料(酸化亜鉛、硫化亜鉛など)、複合白色顔料(リトポンなど)、体質顔料(ケイ酸マグネシウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、ベントナイトなど)など]、クロムエローなどの黄色顔料、酸化鉄赤などの赤色顔料、モリブデートオレンジなどの橙色顔料、クロムグリーンなどの緑色顔料、紺青などの青色顔料、マンガンバイオレットなどの紫色顔料、カドミウム系顔料、鉛系顔料、コバルト系顔料などが挙げられる。有機染料(有機染顔料)としては、アゾ系染顔料(ピグメントイエロー、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー、パーマネントレッド、ブリリアントカーミン6Bなど)、フタロシアニン系染顔料(フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなど)、レーキ系染顔料(レーキレッド、ウォッチャンレッドなど)、シアニン系染顔料、カルバゾール系染顔料、ピロメテン系染顔料、アンスラキノン系染顔料、ナフトキノン系染顔料、キナクリドン系染顔料、ペリレン系染顔料、ペリノン系染顔料、イソインドリン系染顔料、ジオキサジン系染顔料、スレン系染顔料などが挙げられる。染料には、機能性染料(機能性色素)、例えば、蛍光色素(蛍光染料)も含まれる。
【0045】
着色剤は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0046】
これらの着色剤のうち、少量で染色(又は着色)できる点や夜間などにおける視認性に優れるなどの観点から、蛍光染料が好ましい。そのため、着色剤(B)は、少なくとも蛍光染料を含んでいてもよい。以下、蛍光染料(蛍光体、発光顔料、蛍光剤、蛍光着色剤)について詳述する。
【0047】
蛍光染料の発光色は、特に限定されず、例えば、青色、赤色、黄色、緑色などのいずれであってもよく、被着体の色に応じて適宜選択してもよい。例えば、被着体が、黄色に着色されている場合、赤色、青色、緑色などの非黄色系蛍光染料を好適に用いてもよい。また、蛍光染料は、増白剤(蛍光増白剤)であってもよい。
【0048】
具体的な蛍光染料としては、無機蛍光染料[例えば、アルカリ土類金属化合物(例えば、ケイ酸バリウム、タングステン酸カルシウム、リン酸カルシウムなどのアルカリ土類金属の無機酸塩など)など]であってもよいが、ポリシラン(A)に対する相溶性などの観点から、有機蛍光染料を好適に使用してもよい。
【0049】
代表的な有機蛍光染料としては、例えば、オキサゾール系化合物[又はオキサゾール誘導体、以下同じ、例えば、4,4’−ビス(ベンゾオキサゾール−2−イル)フランなどのベンゾオキサゾール系化合物など]、スチルベン系化合物[例えば、4,4’−ビス(ジフェニルトリアジニル)スチルベン、4,4’−ビス(ベンゾオキサゾール−2−イル)スチルベンなど]、ナフタルイミド系化合物(例えば、N−メチル−5−メトキシナフタルイミドなど)、ベンズイミダゾール系化合物、ローダミン系化合物(例えば、ローダミンB、ローダミン6Gなど)、チオフェン系化合物[例えば、2,5−ビス(5’−t−ブチルベンゾオキサゾリル−2’)チオフェン、2,5−ビス(6,6’−ビス(tert−ブチル)−ベンゾオキサゾール−2−イル)チオフェンなど]、フタル酸系化合物(ジエチル−2,5−ジヒドロキシテレフタレート、o−フタルアルデヒド)、チアジン系化合物、クマリン系化合物、オキサジン系化合物、スチレンビフェニル系化合物、ピラゾロン系化合物、ジスチリルビフェニル系化合物、イミダゾール系化合物、イミダゾロン系化合物、トリアゾール系化合物、ピリジン系化合物、ピリダジン系化合物、キナクリドン系化合物、オキサシアニン系化合物、カルボスチリル系化合物、メチン系化合物、アゾメチン系化合物、キサンテン系化合物などが挙げられる。
【0050】
蛍光染料は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0051】
これらの蛍光染料のうち、特に、クマリン系化合物(クマリン誘導体)を好適に使用してもよい。クマリン系化合物は、蛍光染料(蛍光顔料)の中でも、ポリシラン(A)(特に、低分子量(又は低重合度)や液状のポリシラン(A))に対する相溶性(又は溶解性)に優れている場合が多く、少量でも融着剤に効率よく高い視認性を付与できる。そのため、融着剤における着色剤(B)の割合を小さくでき、ポリシラン(A)の高い融着性と優れた融着性とを効率よく実現できる。
【0052】
クマリン系化合物(クマリン系蛍光染料)としては、例えば、クマリン、ヒドロキシクマリン類(例えば、4−メチル−7−ヒドロキシ−クマリンなどのアルキル−ヒドロキシクマリン)、アミノクマリン類{例えば、アルキル−アミノクマリン[例えば、4−メチル−7−ジエチルアミノクマリンなどのアルキル−置換アミノクマリン(例えば、アルキル−N,N−ジアルキルアミノクマリン、好ましくはC1−10アルキル−N,N−ジC1−10アルキルアミノクマリン、さらに好ましくはC1−4アルキル−N,N−ジC1−4アルキルアミノクマリンなど)]、アリール−アミノクマリン[例えば、3−フェニル−7−アミノクマリンなどのアリール−アミノクマリン;3−フェニル−7−(イミノ−1’3’5’−トリアジン−2’−ジエチルアミノ−4’−クロロ)−クマリン、3−フェニル−7−(イミノ−1’3’5’−トリアジン−2’−ジエチルアミノ−4’−メトキシ)−クマリン、3−フェニル−7−(4−メチル−5−フェニル−1,2,3−トリアゾール−2−イル)クマリン、3−フェニル−7−(2H−ナフト[1,2−d]−トリアゾール−2−イル)クマリンなどのアリール−置換アミノクマリン]などが挙げられる。クマリン系化合物は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0053】
なお、蛍光染料は、通常、紫外線を吸収し、可視光線を放出する。このような蛍光染料の吸収波長は、ピーク波長で、例えば、300〜420nm、好ましくは320〜410nm、さらに好ましくは330〜400nm(例えば、340〜400nm)程度であってもよい。
【0054】
なお、融着剤において、着色剤(B)は、溶解させた状態で使用するのが好ましい。溶解状態で使用する態様としては、前記常温で液状のポリシラン(A)に溶解させる態様や、後述の溶媒(C)に溶解させる態様などが挙げられる。特に、着色剤(B)は、ポリシラン(A)に少なくとも溶解可能であるのが好ましい。着色剤(B)を溶解させることができれば、被着体の融着界面において、ポリシラン(A)の付着の程度と着色(発光)の程度とを高い精度で対応又は一致させることができ、均一なポリシラン(A)の付着を容易に実現できる。しかし、ポリシラン(A)は、末端が封鎖されていることなどにも起因するためか、通常、着色剤(B)を溶解しにくい場合が多いようである。このような観点からも、蛍光染料[例えば、クマリン系化合物(クマリン系蛍光染料)]などのポリシラン(A)に溶解可能な着色剤(B)を好適に使用できる。
【0055】
本発明の融着剤において、着色剤(B)の割合は、着色剤(B)の種類に応じて選択でき、ポリシラン(A)100重量部に対して、0.001〜20重量部(例えば、0.002〜18重量部)程度の範囲から選択でき、例えば、0.005〜10重量部(例えば、0.007〜5重量部)、好ましくは0.01〜3重量部(例えば、0.02〜2重量部)程度であってもよい。
【0056】
特に、着色剤(B)が蛍光染料を含む場合、着色剤(B)の割合は、比較的少量、例えば、ポリシラン(A)100重量部に対して、10重量部以下(例えば、0.001〜7重量部)、好ましくは5重量部以下(例えば、0.005〜4重量部)、さらに好ましくは3重量部以下(例えば、0.01〜2重量部)程度であってもよい。
【0057】
なお、着色剤(B)の割合は、視認性の点では多いのが好ましいが、多すぎると融着剤におけるポリシラン(A)の相対的な割合が小さくなり、融着性を低下させる場合がある。一方、このような融着性の観点からは、着色剤(B)の割合を小さくするのが好ましいが、小さすぎると融着剤に十分な視認性を付与できない場合がある。このように、視認性と融着性とを高いレベルで充足する融着剤を得ることは難しいが、前記のように、ポリシラン(A)や着色剤(B)の種類を選択することにより、ごく少量でも、高い視認性を付与することもできる。このような場合、着色剤(B)(特に、クマリン系化合物などの蛍光染料)の割合は、例えば、ポリシラン(A)100重量部に対して、2重量部以下(例えば、0.001〜1.5重量部)、好ましくは1重量部以下(例えば、0.005〜0.7重量部)、さらに好ましくは0.5重量部以下(例えば、0.01〜0.4重量部)、特に0.3重量部以下(例えば、0.05〜0.25重量部)程度とすることもできる。
【0058】
[他の成分]
本発明の融着剤は、必要に応じて、反応促進剤を含んでいてもよい。反応促進剤としては、例えば、過酸化物(ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキサイドなど)、アゾ化合物(アゾビスイソブチロニトリル、ジメチルアゾイソブチレート、ベンゼンジアゾニウムクロライドなど)、過硫酸塩(過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムなど)、カルボニル化合物(ベンゾフェノン、ベンジル、ベンゾインエチルエーテル、4−N,N−ジメチルアミノ−4’−メトキシベンゾフェノンなど)、有機硫黄化合物(ジブチルスルフィド、ジベンジルスルフィド、デシルフェニルスルフィドなど)などの熱や光によりラジカルを発生する化合物(ラジカル発生剤)、酸類(酢酸、プロピオン酸などの脂肪酸類、p−トルエンスルホン酸などのスルホン酸類、安息香酸などの芳香族カルボン酸類、塩酸などの無機酸類など)、塩基類(トリエチルアミンなどの脂肪族アミン、アニリンなどの芳香族アミン、ピリジンなどのヘテロ環式アミンなど)、増感剤(例えば、アントラキノン、ベンゾキノンなどのキノン類、ピレン、1−ニトロピレンなどのピレン類、アセナフテン、フルオレン、ビフェニルなどの芳香族炭化水素類、アクリドンなどのアミン類など)などが挙げられる。これらの反応促進剤は単独で又は二種以上組み合わせてもよい。
【0059】
反応促進剤の割合は、ポリシラン(A)100重量部に対して、0.1〜20重量部、好ましくは0.5〜10重量部、さらに好ましくは1〜5重量部程度であってもよい。
【0060】
また、本発明の融着剤は、融着性や視認性を損なわない範囲であれば、慣用の添加剤などを含んでいてもよいが、高い融着性を担保するためには、融着剤の固形分を実質的にポリシラン(A)および着色剤(B)(および必要に応じて反応促進剤)のみで構成してもよい。例えば、融着剤(又は融着剤を構成する固形分)中、ポリシラン(A)および着色剤(B)の総量の割合は、90重量%以上(例えば、93〜100重量%程度)、好ましくは95重量%以上(例えば、97〜100重量%程度)、さらに好ましくは98重量%以上(例えば、98.5〜100重量%程度)、特に99重量%以上(例えば、99.5〜100重量%程度)であってもよい。
【0061】
[溶媒(C)]
本発明の融着剤は、溶媒を含んでいてもよい。溶媒は、融着剤の固形成分(ポリシラン(A)、着色剤(B)など)を溶解又は分散できればよいが、ポリシラン(A)および着色剤(B)から選択された少なくとも一方を溶解できる溶媒であるのが好ましく、特に、少なくともポリシラン(A)(より好ましくはポリシラン(A)および着色剤(B))を溶解できる溶媒であるのが好ましい。
【0062】
具体的な溶媒としては、例えば、炭化水素類(例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素類、シクロヘキサンなどの脂環族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類など)、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルカノール類など)、エーテル類(例えば、ジオキサン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル類など)、ケトン類(例えば、アセトン、エチルメチルケトンなどの鎖状ケトン類、シクロヘキサノンなどの環状ケトン類)、エステル類(例えば、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル類など)、ジオール類(エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルカンジオール類、ポリオキシエチレングリコールなど)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブなど)、カルビトール類(カルビトールなど)などが挙げられる。溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0063】
溶媒には、常温[及び/又は常圧(1気圧)]で気体の溶媒、すなわち、加圧下(及び/又は低温下)で液状となる溶媒(液化ガス又は圧縮ガスとなる溶媒)も含まれる。代表的には、本発明の融着剤は、常温で気体の溶媒(C)を含み、少なくともポリシラン(A)が液化した溶媒(C)に溶解していてもよい。このような溶媒は、噴射剤として作用するとともに、常圧(および常温)下では、容易に揮発(又は気化)するため、融着界面における融着剤の液だれを抑制又は防止できる。一方、ポリシラン(A)のみでは、このような揮発しやすい溶媒を用いると、むしろ融着界面における視認性をより低下させる可能性があるが、本発明の融着剤では、このような視認性を損なうこともない。そのため、融着剤を無駄なく確実にかつ均一に融着界面に適用でき、融着における作業性をより一層効率化できる。
【0064】
このような溶媒(噴射剤)としては、沸点が常温(例えば、15〜30℃程度)よりも低い溶媒であればよく、例えば、無極性又は非極性有機溶媒[例えば、炭化水素類(例えば、プロパン、n−ブタン、イソブタンなどのC1−4アルカン)など]、極性有機溶媒(例えば、ジメチルエーテル)、無機系溶媒(例えば、二酸化炭素、窒素、亜酸化窒素、酸素、アンモニアなど)などが挙げられる。これらの常温で気体の溶媒もまた単独で又は2種以上組み合わせてもよい。また、常温で気体の溶媒と、常温で液体の溶媒とを組み合わせてもよい。
【0065】
これらの中でも、ジメチルエーテルなどのポリシラン(A)(および着色剤(B))を溶解できる溶媒が好ましい。そのため、溶媒は、ジメチルエーテルを少なくとも含んでいてもよく、ジメチルエーテルと他の溶媒とを組み合わせてもよい。ジメチルエーテルと組み合わせる他の溶媒としては、特に限定されず、ジメチルエーテルを除く前記例示の溶媒から選択できるが、例えば、常温で気体の溶媒(例えば、C1−4アルカン、二酸化炭素など)、沸点が比較的低い溶媒(例えば、ヘキサンなどのC5−8アルカン、メタノール、アセトンなど)などが挙げられる。
【0066】
ジメチルエーテルと他の溶媒とを組み合わせる場合、これらの割合は、前者/後者(重量比)=99/1〜10/90、好ましくは97/3〜30/70、さらに好ましくは95/5〜50/50(例えば、90/10〜60/40)程度であってもよい。
【0067】
なお、溶媒(又は融着剤)の液化は、融着剤を溶媒の沸点未満の温度に冷却することにより行ってもよいが、通常、少なくとも加圧により液化させる場合が多い。そのため、常温で液体状の溶媒を含む融着剤は、通常、液化状態(例えば、溶媒が加圧又は圧縮により液化した状態)で容器(スプレー缶など)に充填されている場合が多い。なお、このような融着剤において、圧力(充填圧力)は、例えば、0.5MPa以下(例えば、0.1〜0.5MPa、好ましくは0.3〜0.45MPa、さらに好ましくは0.3〜0.4MPa程度)であってもよい。
【0068】
溶媒(C)を含む融着剤(融着剤組成物)において、ポリシラン(A)および着色剤(B)の総量の割合は、例えば、溶媒(C)100重量部に対して、0.01〜20重量部(例えば、0.03〜15重量部)、好ましくは0.05〜10重量部(例えば、0.07〜7重量部)、さらに好ましくは0.1〜5重量部(例えば、0.2〜4重量部)、特に0.3〜3重量部(例えば、0.5〜2重量部)程度であってもよい。
【0069】
本発明の融着剤は、融着界面に付着させて融着させることにより、被着体の融着強度を改善する融着改善剤として利用できる。前記融着剤を用いた接合方法としては、例えば、被着体の融着界面(又は接合界面)に融着剤を介在(又は付着)させ、被着体の融着界面(又は接合界面)同士を接触させ、加熱する方法などが挙げられる。
【0070】
被着体(又は被着体を構成する成分)としては、例えば、オレフィン系樹脂[C2−10オレフィンの単独で又は共重合体(ポリエチレン(例えば、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンなど)、ポリプロピレン、ポリ1−ブテン、ポリメチルペンテン−1、ポリイソプレン、エチレン−プロピレン共重合体など)、オレフィンと共重合性単量体との共重合体(例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体など)、変性ポリオレフィンなど]、スチレン系樹脂[ポリスチレン(GPPS)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(ABS樹脂)、ブタジエンに代えて各種ゴムXを用いたAXS樹脂など]、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリアルキレンアリレート、又はこれらのコポリエステルなど)、ポリカーボネート系樹脂(ビスフェノールA型ポリカーボネートなど)、アクリル系樹脂(ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体など)、塩素含有ビニル系樹脂(ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニリデン−酢酸ビニル共重合体など)、ポリアミド系樹脂(ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12など)、ポリアセタール系樹脂(ポリオキシメチレンなど)、ポリスルホン系樹脂(ポリスルホン、ポリエーテルスルホンなど)、ポリフェニレン系樹脂(ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィドなど)などの樹脂(特に、熱可塑性樹脂)が挙げられる。被着体は、一種の又は異なる樹脂で形成してもよく、複数の樹脂で構成されたポリマーアロイで形成してもよい。
【0071】
被着体(又は融着界面)は、着色されていてもよい。本発明では、着色された被着体であっても、着色剤(B)(特に、蛍光染料)により容易に融着界面における融着剤の付着を確認できる。
【0072】
被着体の形状は、特に限定されないが、例えば、二次元的構造(フィルム、シート、板など)、三次元的構造(例えば、管、棒、チューブ、レザー、中空品など)などが挙げられる。さらに、被着体は互いに嵌合又は装着可能な成形体(例えば、一対の管体と継手など)であってもよい。
【0073】
被着体の融着界面には前処理を施してもよい。前処理としては、例えば、スクレイプ(ヤスリ掛け)による界面の酸化被膜除去、スクレイプなどにより生じた被着体の微細片や砂などの界面付着物の除去、コロナ放電処理、プラズマ放電処理、紫外線照射処理などが挙げられる。これらの前処理は、単独又は二種以上組み合わせてもよい。
【0074】
融着剤は、慣用の方法、例えば、刷毛塗り、スプレー(又は噴霧又は噴射)、浸漬などの方法で融着界面に適用できるが、本発明では、特に、作業性の観点から、スプレーを好適に利用してもよい。
【0075】
スプレーは、通常、溶媒(C)を含む融着剤を用いて行うことができる。特に、スプレーでは、常温で気体の溶媒(C)を含む前記融着剤が液化状態で充填された容器(又は噴射器)を好適に用いてもよい。すなわち、噴射器では、液化した溶媒(C)を含む融着剤を充填している。このような噴射器では、代表的には、少なくともポリシラン(A)が液化した溶媒に溶解した状態で融着剤(噴射剤としての融着剤)を充填している場合が多い。容器としては、スプレー缶(又はスプレー容器)などの融着剤(液化した融着剤)を噴射又は噴霧するための噴射口を備えた噴射器などを用いることができる。なお、溶媒(C)としては、前記のように、ジメチルエーテルを含む溶媒などを好適に用いることができる。このような液化ガス状の融着剤は、融着界面における適用が容易であるばかりか、融着界面における液だれを効率よく防止でき、極めて有用である。
【0076】
また、前記方法では、着色剤(B)として蛍光染料を用い、光照射下で、融着界面間に融着剤を介在又は付着させてもよい。このような方法では、蛍光染料による発光により融着剤の付着状況を確認しながら、融着剤を融着界面に適用できるため、より一層効率よく均一な融着剤の付着を実現できる。照射する光(又は光源)としては、蛍光染料の吸収波長に応じて選択できるが、通常、少なくとも紫外線又は紫外光[例えば、200〜500nm、好ましくは250〜450nm、さらに好ましくは300〜420nm(例えば、320〜400nm)]を含む光線であればよい。
【0077】
融着界面での前記融着剤の付着量は少量でよく、例えば、ポリシラン(A)換算で、融着界面1mに対し、0.1〜50g、好ましくは1〜30g、さらに好ましくは2〜10gであってもよい。なお、前記融着剤は被着体の両方又は片方の部材の界面に適用すればよい。また、前記融着剤が溶媒を含んでいる場合、通常、融着界面又は接合界面に適用した後、溶媒を除去するのが好ましいが、前記のように、溶媒として液化ガスなどを用いれば、このような溶媒除去作業を要することがない。
【0078】
なお、前記接合方法において、熱源は接合法に応じて選択でき、例えば、電気抵抗による発熱、熱風、摩擦による発熱、分子運動による発熱などが挙げられる。また、加熱の際、被着体を加圧し融着界面を圧着させてもよい。
【0079】
前記接合方法は、継手を介した被着体の接合法(例えば、エレクトロフュージョン法(EF法)、ヒートフュージョン法(HF法)、バット融着、ソケット融着、サドル融着など)の他、種々の接合法(例えば、熱板溶接、熱風溶接、インパルス溶接、振動溶接、スピン溶接、高周波溶接、誘導加熱溶接、超音波溶接など)において適用できる。
【0080】
前記接合方法における融着温度及び融着時間は、被着体のガラス転移温度及び濡れ性などに応じて調整でき、例えば、温度150〜300℃、好ましくは170〜250℃、さらに好ましくは180〜220℃程度である。融着時間は1秒〜10分間、好ましくは10秒〜5分間、さらに好ましくは20秒〜3分間程度である。
【実施例】
【0081】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0082】
実施例および比較例で得られた融着剤を使用して、エレクトロフュージョン法(EF法)を行い、継手を介して管体を接合した。
【0083】
なお、実施例及び比較例におけるEF法は、図1及び図2に示すように、一対のガス管(ポリオレフィン管)2a、2bとの端部外面のうち、接合域に、融着剤層3を介在させ、前記接合域をEF継手1内に配設し、EF継手1の内周近傍に配設した電熱線4に通電して、EF継手1とガス管2とを接合し、接合部材を得た。
【0084】
さらに、前記接合部材の一部を試験片として用い、前記接合部材の接合強度を測定する試験(ピール試験)を行った。ピール試験では、図3に示すように、EF継手11の端部に、継ぎ棒15を溶接し、180°剥離又は破断強度を測定した。なお、継ぎ棒15とガス管12とを引っ張り、融着時の接合部の長さ(電熱線4による加熱幅(L))と引っ張り後の接合部の長さLとの差(L−L)及び引っ張り時の最大荷重値を測定することで接合状態を確認した。
【0085】
また、実施例において、ポリシランの数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(東ソー(株)製、「GPC−8220」)により、ポリスチレン換算で測定した。
【0086】
(実施例1)
末端をジメチルフェニルシリル基で封鎖したポリメチルフェニルシラン(すなわち、前記式(1)において、RとRとの組み合わせが、メチル基とフェニル基との組み合わせであり、ZおよびZがジメチルフェニルシリル基であるポリシラン、重量平均分子量1120、液体)100gに、クマリン系蛍光染料(Hakkol P 昭和化学工業(株)製)を0.2g添加し、撹拌混合して、溶解させた。このポリシラン混合物2gを、液化させたジメチルエーテル(DME)200gに溶解させ、スプレー缶(充填圧力0.4MPa)に充填し、スプレー缶を作成した。
【0087】
そして、夜間を想定した暗所において、ポリオレフィン管(ポリエチレン管、濃黄色に着色したもの)の継ぎ目(接合域)に、適宜、紫外光(375nm)を照射しつつ、スプレー缶の内容物をスプレーした。なお、スプレーとともに、溶媒成分であるDMEは瞬時に揮発したが、光照射によりスプレー内容物が発光したため、この発光の程度が均一になるよう継ぎ目部分を確認しながらスプレーした。
【0088】
その後、粒径106μm以下の砂を0.1g/cmの割合でポリエチレン管の融着部に付着させ、電熱線により、平均クリアランス0.5mmで110秒間通電(平均供給電力約4W/cm)することで加熱し、EF継手とポリエチレン管との接合を行った。接合部から得た試験片(幅10mm、加熱幅L=31mm)を用いて、一定温度(23℃)、一定引張速度(50mm/秒)の条件下でピール試験を行った。ピール試験の結果、融着面での破断は起こらず、最大荷重値は約700Nであり、継ぎ棒部分が破断し、融着剤として十分な性能を有していることを確認した。また、作業性に何ら問題はなかった。
【0089】
(比較例1)
クマリン系蛍光染料を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、スプレー缶を作成し、スプレーおよびEF継手とポリエチレン管との接合を行った。なお、スプレーは、紫外光の照射によっても発光せず、発光によるスプレー缶内容物の塗布状況が確認できなかったため、継ぎ目部分に向けて感覚的にスプレーせざるを得なかった。また、ジメチルエーテルは揮発性が高く、内容物に占めるポリシランもごく少量であったため、内容物の塗布状況を濡れにより確認することも困難であった。ピール試験の結果、融着面での破断が起こり、最大荷重値は50N程度であり、融着剤として十分な性能を有していないことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の融着剤は、ポリシランで構成されているにもかかわらず、視認性に優れ、融着界面におけるポリシランの付着の程度を容易に確認できる。特に、ポリシランと着色剤との組み合わせや、着色剤の配合量を調整することにより、着色剤を含んでいても、ポリシランによる優れた融着性を効率よく発揮させることができる。そのため、本発明の融着剤は、夜間や閉所などの作業環境においても、確実に被着体を接合でき、極めて有用である。
【符号の説明】
【0091】
1、11…EF継手
2a、2b、12…ポリオレフィン管
3…融着剤層
4…電熱線
15…継ぎ棒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端が封鎖されたポリシラン(A)と、着色剤(B)とを含む融着剤。
【請求項2】
ポリシラン(A)が、重量平均分子量5000以下を有する末端が封鎖された直鎖状ポリシランである請求項1記載の融着剤。
【請求項3】
ポリシラン(A)が、常温で液状である請求項1又は2記載の融着剤。
【請求項4】
着色剤(B)が、蛍光染料を含む請求項1〜3のいずれかに記載の融着剤。
【請求項5】
着色剤(B)が、クマリン系蛍光染料を含む請求項1〜4のいずれかに記載の融着剤。
【請求項6】
ポリシラン(A)が常温で液状であり、着色剤(B)がポリシラン(A)に溶解している請求項1〜5のいずれかに記載の融着剤。
【請求項7】
着色剤(B)の割合が、ポリシラン(A)100重量部に対して1重量部以下である請求項1〜6のいずれかに記載の融着剤。
【請求項8】
ポリシラン(A)が、常温で液状であり、かつ重量平均分子量3000以下を有する末端が封鎖された直鎖状ポリアルキルアリールシランであり、着色剤(B)が蛍光染料であり、着色剤(B)がポリシラン(A)に溶解しており、着色剤(B)の割合がポリシラン(A)100重量部に対して0.5重量部以下である請求項1〜7のいずれかに記載の融着剤。
【請求項9】
さらに、常温で気体の溶媒(C)を含み、少なくともポリシラン(A)が液化した溶媒(C)に溶解している請求項1〜8のいずれかに記載の融着剤。
【請求項10】
溶媒(C)が、ジメチルエーテルを含む請求項9記載の融着剤。
【請求項11】
ポリシラン(A)および着色剤(B)の総量の割合が、溶媒(C)100重量部に対して、0.1〜5重量部である請求項1〜10のいずれかに記載の融着剤。
【請求項12】
末端が封鎖されたポリシラン(A)と、着色剤(B)と、常温で気体の溶媒(C)とを含む融着剤を充填した噴射器であって、少なくともポリシラン(A)が液化した溶媒(C)に溶解した状態で融着剤を充填している噴射器。
【請求項13】
被着体の融着界面間に請求項1〜11のいずれかに記載の融着剤を介在又は付着させて加熱し、被着体を接合する方法。
【請求項14】
請求項12記載の噴射器を用いて噴射又は噴霧することにより、融着界面間に融着剤を介在又は付着させる請求項13記載の接合方法。
【請求項15】
融着界面が着色されている請求項13又は14記載の接合方法。
【請求項16】
着色剤(B)として蛍光染料を用い、光照射下で、融着界面間に融着剤を介在又は付着させる請求項13〜15のいずれかに記載の接合方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−236917(P2012−236917A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106964(P2011−106964)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(591147694)大阪ガスケミカル株式会社 (85)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【出願人】(305028763)株式会社コスモマテリアル (14)
【Fターム(参考)】