説明

融着混繊糸、および該融着混繊糸を用いた織編物の製造方法

【課題】交絡外れが防止され、織編物に繊細かつナチュラルなトップ杢感を発現し得る融着混繊糸を提供する。
【解決手段】本発明の融着混繊糸は、繊維形成成分が芯部に配されるとともに前記繊維形成成分よりも低融点の融着成分が鞘部に配された複合繊維からなる糸条Aと、前記繊維形成成分とは染料染着性が異なる糸条Bとを用いて得られた融着混繊糸であって、該融着混繊糸はランダムな間隔で混繊部を含んでおり、さらに前記融着成分の熱融着作用によって前記繊維形成成分よりなる糸条と糸条Bとが少なくとも一部分融着されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、融着混繊糸とその融着混繊糸を用いた織編物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、織編物に杢外観を発現させることが検討されており、よりナチュラルな杢外観を発現させることについても、数多く検討されている。例えば、太細フィラメントと実質的に太細のないフィラメントを用いることにより、ナチュラルな杢外観の発現を目標とする太細混繊糸(例えば、特許文献1参照)が知られている。また、仮撚加工されたシックアンドシン糸と高収縮性糸からなり、糸の長手方向に太細形態と杢感を有する仮撚複合混繊糸(例えば、特許文献2参照)などが知られている。
【0003】
また、異素材の糸を組合せて空気混繊することにより、ナチュラルな杢感を有する異繊維混繊交絡糸を得ることが知られている(例えば、特許文献3参照)。さらにまた、混繊状態を長手方向に変化させることにより、ナチュラルな杢感を得ようとする試みがある(例えば、特許文献4〜6参照)。
【0004】
しかしながら、太細糸中の太部は一般に結晶配向が低く伸びやすいため、太細糸を用いる特許文献1や2の場合には、織編物を製造する工程等で張力が掛かると、太部が伸びてしまい、織編物において所望の杢外観が得られないという問題があった。
【0005】
また、特許文献3の場合においては、異素材の組合せによる染色差のみを利用したものであるため、織編物上で一応杢外観は表現できるものの、ナチュラル感に富むものは得られないという問題があった。
【0006】
特許文献4の場合においては、間歇的に空気を送り込むことで混繊部の導入に変化を持たせている。しかし、間歇的に空気を送り込むだけでは、規則的に混繊部が導入された後、比較的長い開繊部が導入されるという態様を繰り返すだけで、混繊糸全体を通して見れば、確かに混繊部は規則的に配置こそされないものの、混繊部の導入に純然たる不規則さが認められないため、依然としてナチュラル感に富む杢外観は得られない。
【0007】
特許文献5の場合においては、マルチフィラメントを単独で混繊した後、それらを集めて再び混繊させるという手段を採用している。そのため、複合糸に混繊部を確実に導入するには、理論上、各マルチフィラメントの開繊部同士を混繊する必要がある。しかし、各マルチフィラメントから開繊部だけを選んでこの部分同士を混繊することは、非常に困難であり、実体としては、複合糸の混繊部は交絡が弱く、製織編工程などを通じて混繊が容易に外れるという問題がある。混繊が外れると、織編物にした際に杢が流れてしまうという問題がある。
【0008】
そして、単糸が太くなるにつれ交絡し難くなるという原理を利用して、特許文献6においては、太細糸を使用することで混繊部の導入に変化を持たせている。しかし、上記特許文献1や特許文献2の場合と同様、織編物を製造する工程等で張力が掛かると、太部が伸びてしまい、所望の杢外観が得られない問題がある。
【0009】
以上のように、杢外感を表現するために数多くの混繊糸が検討されているが、織編物においてナチュラルで繊細なトップ杢感を発現しうるものは、未だ得られていなのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平9−137327号公報
【特許文献2】特開平9−78381号公報
【特許文献3】特開平10−325040号公報
【特許文献4】特開2005−307382号公報
【特許文献5】特開平5−311532号公報
【特許文献6】特開平9−316744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の問題を解消し、混繊部をランダムに導入し、かつ所定の手段でその混繊状態を保つことで製編織後の織編物に繊細でナチュラルなトップ杢感を表現し得るとともに、しなやかな風合いと優れたドレープ性をも表現できる融着混繊糸を提供することと目的とする。さらに、該融着混繊糸を用いた織編物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は以下の(1)〜(4)を要旨とするものである。
(1)繊維形成成分が芯部に配されるとともに前記繊維形成成分よりも低融点の融着成分が鞘部に配された複合繊維からなる糸条Aと、前記繊維形成成分とは染料染着性が異なる糸条Bとを用いて得られた融着混繊糸であって、該融着混繊糸はランダムな間隔で混繊部を含んでおり、さらに前記融着成分の熱融着作用によって前記繊維形成成分よりなる糸条と糸条Bとが少なくとも一部分融着されていることを特徴とする融着混繊糸。
(2)前記複合繊維において、繊維形成成分がアルキレンテレフタレート単位を主体とする融点220℃以上のポリエステルから構成され、融着成分が前記繊維形成成分より30℃以上低い融点を有するポリエステルから構成されていることを特徴とする上記(1)記載の融着混繊糸。
(3)前記糸条Aがマルチフィラメントであることを特徴とする上記(1)または(2)記載の融着混繊糸。
(4)上記(1)〜(3)いずれかに記載の融着混繊糸を製編織して予備的な織編物を得た後、予備的な織編物に含まれる少なくとも一部の融着成分を溶出することを特徴とする織編物の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の融着混繊糸を用いることにより、製編織後の織編物に繊細でナチュラルなトップ杢感を与えるだけでなくしなやかな風合いと優れたドレープ性をも与えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の融着混繊糸は、繊維形成成分が芯部に配されるとともに前記繊維形成成分よりも低融点融着成分が鞘部に配された複合繊維からなる糸条Aと、糸条Aとは染料染着性が異なる糸条Bとを用いて得られたものである。
【0015】
まず、糸条Aについて以下に説明する。
糸条Aを構成する複合繊維は、その断面が芯鞘構造を有するものであり、熱によって溶融する融着成分が鞘部に配されたものである。芯部には、鞘部の融着成分より高い融点を有する成分(繊維形成成分)が配される。そして、鞘部の熱融着作用により、鞘部が溶融した後に残存する繊維形成成分から構成される糸条と、糸条Aとは染料染着性が異なる糸条Bとが、混繊部の繊維長方向に沿った少なくとも一部分が融着する。なお、得られる織編物の風合いをソフトにする観点、および染色堅牢度改善の観点から、一旦溶け出し後に固まった融着成分は、この融着混繊糸を織編物となした後に除去されることが好ましい。
【0016】
複合繊維の鞘部に配される成分としては、特に限定されるものでないが、織編物とした後に、効率よく融着成分を除去できる観点から、ポリエステル系樹脂が好ましい。具体的には、テレフタル酸成分、エチレングリコール成分を含有し、1,4−ブタンジオール成分、脂肪族ラクトン成分及びアジピン酸成分のうちの少なくとも一成分を共重合したポリエステル系樹脂であることが好ましい。
【0017】
なかでも、結晶化速度が速く、かつ紡糸時だけでなく融着混繊糸とされた後においても効率よく冷却できる観点から、テレフタル酸成分、脂肪族ラクトン成分、エチレングリコール成分及び1,4−ブタンジオール成分からなるポリエステル系樹脂が好ましい。なお、脂肪族ラクトン成分としては、汎用性の観点から、炭素数4〜11のラクトンが好ましく、ε−カプロラクトンが特に好ましい。
【0018】
鞘部に配されるポリエステル系樹脂は、複合繊維を効率よく得る観点から、その融点が130〜200℃であることが好ましい。該ポリエステル系樹脂は、そのガラス転移点が20〜80℃であることが好ましい。該ポリエステル系樹脂は、その結晶化開始温度が90〜130℃であることが好ましい。
【0019】
複合繊維において、芯部に配される成分としては、特に制限されないが、鞘部との親和性、融点差、コスト面、紡糸操業性、後に得られる織編物の寸法安定性などの観点から、ポリエステル系樹脂であることが好ましい。具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどが好適に用いられる。これらは1種単独で、もしくは2種以上組み合わされて用いられる。
【0020】
複合繊維において、芯部に配される成分の融点は、鞘部のみを効率よく溶融させる観点から、鞘部に配される融着成分の融点よりも高い必要があり、その融点差は10℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましく、30℃以上がさらに好ましい。特に、紡糸操業性、織編物の寸法安定性の観点から、融点が220〜280℃の範囲にある成分を芯成分として用いることがより好ましい。
【0021】
芯成分および/または鞘成分としてポリエステル系樹脂が用いられる場合、本発明の効果を損なわない範囲で、該ポリエステル系樹脂に他の成分が共重合されていてもよい。共重合成分としては、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、無水フタル酸、ナフタレンギカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン2酸、4−ヒドロキシ安息香酸、e−カプロラクトン、りん酸、グリセリン、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、トリメチルプロパン、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ペンタエリスリトール、2,2−ビス{4−(β−ヒドロキシ)フェニル}プロパンなどが挙げられる。
【0022】
複合繊維において、芯部および鞘部を構成する成分の質量比は、(芯部):(鞘部)=30:70〜80:20であることが好ましく、40:60〜70:30であることがより好ましい。芯成分の比率が30質量%未満になると、鞘部が溶融した後に残存する繊維形成成分鞘成分の単糸繊度が細くなり、織編物とした場合にハリやコシが低減する場合がある。一方、芯成分の比率が80質量%を超えると、融着成分が少なくなるため、前記繊維形成成分よりなる糸条と、糸条Bとを融着させることが困難な場合がある。
【0023】
糸条Aの形態としては、マルチフィラメント、モノフィラメントいずれの形態であってもよいが、なかでも、マルチフィラメントであることが好ましい。マルチフィラメントはモノフィラメントと異なり複数のフィラメントで構成されているため、後述の糸条Bとの混繊が容易であるという利点がある。加えて、混繊により、各フィラメントが集束している部分とばらついている部分との形態差を顕著なものにすることができるため、繊細かつナチュラルなトップ杢感を発現することができるとともに、風合い面でもソフト感が得られるという利点がある。
【0024】
なお、杢外観の観点から、糸条Aの単糸繊度が比較的小さい場合(例えば、20dtex未満の場合)はマルチフィラメントを選択することが好ましく、糸条Aの単糸繊度が比較的大きい場合(例えば、20dtex以上の場合)はモノフィラメントを選択することが好ましい。
【0025】
糸条Aの繊維単糸断面としては、丸、三角、十字などいずれの形状であってもよい。また、糸条Aの単糸繊度としては、風合い、杢外観などの観点から、0.1〜167dtexが好ましく、1〜10dtexであることがより好ましい。
【0026】
糸条Bについて説明する。
糸条Bとしては、複合繊維中の繊維形成成分と染料染着性が異なるものであればどのようなものでも用いることができる。例えば、繊維形成成分がポリエステルから構成されていれば、ナイロンなどのポリアミド系繊維糸条、レーヨン、リヨセルなどのセルロース系繊維糸条などが使用でき、この他、ポリエステルと同じ分散染料で染色できるものであっても、共重合ポリエステルなどのように染料吸尽性に差があれば染料染着性が異なるといえるので、このようなものでも使用できる。
【0027】
中でも、糸条Bとしては、織編物とした場合に適度なドレープ感を発現させる観点から、セルロース系繊維糸条であることが好ましい。
すなわち、本発明における好ましい糸条Aと糸条Bとの組み合わせは、糸条Aがポリエステル系繊維糸条であり、糸条Bがセルロース系繊維糸条である。
【0028】
次に、糸条Aと糸条Bとからなる融着混繊糸について説明する。
本発明において、混繊糸とは、いわゆるインターレース混繊糸をいうものである。インターレース混繊糸中には、その長さ方向に沿って、混繊している部位(以下、「混繊部」と称する場合がある)と、混繊していない部位(以下、「開繊部」と称する場合がある)とが混在する。
【0029】
本発明では、インターレース混繊糸の特徴を利用することで、織編物にナチュラルな杢外観を付与することが可能となる。つまり、混繊糸において、開繊部は、繊維束に近い形態のまま存在している。このため、織編物となした後に染色することで、開繊部を筋状に視認することができるようになる。
【0030】
本発明において肝要な点は、融着混繊糸の長さ方向に沿って、混繊部をランダムに導入する点である。従来、糸条の混繊では、複数の糸条が分離しないように、一定以上の空気を送り込んで一定以上の交絡強度を有する混繊部を導入するのが一般的であった。その理由は、糸条の混繊が一部でも解かれてしまうと、杢外観を主目的とする商品においては勿論のこと、杢外観を副次的な目的とする商品においても、織編物としたときの品位を損なってしまうからである。
【0031】
そして、インターレースの機構上、上述のような通常の混繊を行うと、糸条の長さ方向に沿って規則的に混繊部が導入される。
【0032】
ただ、杢外観でも特にナチュラル感に富むものを得ようとするのであれば、糸条に規則的に混繊部を導入するのではなくランダムに導入した方が、より効果的である。この場合、混繊状態が不安定となる方法、例えば、混繊時の空気圧を低く設定したり、オーバーフィード率を低く設定する方法を採用すれば、混繊部がランダムに導入されると考えられる。しかしながら、混繊状態が不安定となる方法を採用すると交絡強度が弱くなり、結果として、製織編工程などを通じて交絡がはずれてしまい、織編物としたとき杢が流れ、かえって織編物の品位を損ねることとなる。
【0033】
このような問題を解消するため、従来技術においては、混繊状態が安定する方法、例えば空気圧を下げないでランダムに混繊部を導入する目的で、太細フィラメントが用いられていたが、太細フィラメントの太部は配向結晶化が低いため、わずかな張力で伸びてしまい、所望の杢感が得られないという問題があった。
【0034】
本発明者らは、従来の常識、すなわち、「空気圧を下げずに混繊状態を安定させたまま、繊細かつナチュラルな杢外観を発現させようとする」という手法とは発想を大きく変え、たとえ混繊が弱くても、混繊部の強度を補うことでナチュラルな杢外観を発現する方法を鋭意検討した。その結果、敢えて混繊状態を不安定なものとすることで混繊部をランダムに導入し、混繊の弱い部分においては、融着成分の熱融着作用によって、混繊糸の長さ方向の少なくとも一部分を融着することで糸条の分離を防止することにより、ナチュラル感に富む杢外観を表現し得ることに成功したのである。なお、この場合、混繊糸の長さ方向の少なくとも一部分が融着されていれば足りるから、当然ながら、全長さ方向に沿って融着されていてもよい。また、融着箇所は、混繊部、開繊部の両者でもよいし、いずれか一方でもよい。
【0035】
なお、織編物とした場合に融着部分が残存していると、融着成分の比率が多い場合には織編物の風合いが硬くなってしまうことがあるため、後述のように融着部分を溶出することが好ましい。すなわち、本発明においては、糸条どうしを融着させた状態に保つ、工事用メッシュシートやフィルター、芯地などの用途において使用する従来の使用法とは全く異なり、得られた織編物から融着成分を溶出する。
【0036】
なお、本発明で混繊部をランダムに導入するとは、次の定義によるものである。
まず、糸条Aにおける鞘成分の融点以下の温度下で、融着する前の混繊糸を採取する。この混繊糸に1dtex当たり1/30gの荷重を吊り下げ、1m間の交絡していない部分の長さ(つまり、開繊部の長さ)を測定する。なお、開繊部の長さとは、混繊部の中点から次の混繊部の中点までの長さとする。
【0037】
そして、下記式により、KLおよびKSをそれぞれ算出する。
KL=L/X
KS=S/X
なお、上記式において、L、Sは以下のものを示す。
:測定した数値のうち、大きい順に5点の数値(L、L、…、L
:測定した数値のうち、小さい順に5点の数値(S、S、…、S
X:測定した数値の全体の平均値
本発明においては、融着する前の混繊糸のいずれの箇所においてもKLが1.4以上であり、かつ2.0以上である部分が少なくとも1箇所存在し、融着する前の混繊糸のいずれの箇所においてもKSが0.9以下であるとき、隣り合う混繊部の距離がランダムであるとする。
【0038】
なかでも、トップ杢感をより繊細かつナチュラルに発現するためには、融着する前の混繊糸のいずれの箇所においてもKLが1.5以上であり、かつ2.0以上である部分が少なくとも1箇所存在し、融着する前の混繊糸のいずれの箇所においてもKSが0.8以下であることが好ましい。さらに、融着する前の混繊糸のいずれの箇所においてもKLが1.6以上であり、かつ2.0以上である部分が少なくとも1箇所存在し、融着する前の混繊糸のいずれの箇所においてもKS0.7以下であることがより好ましい。
【0039】
なお、最終的に得られた織編物を構成する混繊糸において、混繊部がランダムに導入されているかどうかを確認するには、織編物から混繊糸を取り出し、上記定義に基づいて確認すればよい。これは、融着混繊糸では混繊直後の混繊状態が基本的にそのままの状態で保たれており、製織編工程は勿論、後述する後加工工程に付しても当該混繊状態は基本的に維持されるので、同様の定義に基づいて混繊状態を確認すればよいのである。
【0040】
本発明においては、混繊糸を構成する糸条に光沢差や色目差などを生じさせることで織編物の杢外観をよりナチュラルなものとすることを目的として、各糸条の単糸フィラメント数を異なるものとすることが好ましい。各糸条の単糸フィラメント数としては、一方の糸条の単糸フィラメントが、他方の糸条の単糸フィラメントの1.5倍以上となることが好ましく、2倍以上となることがより好ましい。
【0041】
また、上記と同様の理由により、各糸条の単糸繊度を互いに異なったものとすることが好ましい。例えば、両者の単糸繊度比としては、1:1〜1:5であることが好ましい。単糸繊度差が大きくなると、両者の光沢、色目などの差が顕著となり、明瞭な杢外観を得ることができる。しかし、単糸繊度差が大きくなり過ぎると、両者の糸質物性に大きな差が生ずるため、実使用において好ましくない場合がある。このため、これらのバランスの観点から、各糸条の単糸繊度比を、上記範囲内とすることが好ましい。
【0042】
混繊糸において、織編物とした場合にナチュラル感に富む杢外観を発現させる観点から、インターレース混繊部の個数は30〜120個/mであることが好ましく、40〜100個/mであることがより好ましい。混繊部の個数が30個/m未満であると、杢外観が流れ杢となる場合があり、一方、混繊部の個数が120個/mを超えると、杢目が過度に細かくなる場合がある。いずれの場合も織編物の商品価値を低下させてしまうため好ましくない。
【0043】
混繊部の個数を上記の範囲とするためには、例えば、混繊時の糸速に応じて混繊ノズルのエアー圧を調整する方法やオーバーフィード率を調整する方法、その他後述する方法などを用いることができる。混繊には市販されている混繊ノズルが用いられ、ノズルの種類により混繊条件を調整することができる。
【0044】
エアー圧を調整する方法における条件の一例を挙げると、糸速が50〜300m/分の場合は、エアー圧が0.2〜2.5kg/cmであることが好ましく、0.5〜2.0kg/cmであることがより好ましい。糸速が300〜1000m/分である場合は、エアー圧が0.5〜4.0kg/cmであることが好ましく、1.0〜3.5kg/cmであることがより好ましい。オーバーフィード率を調整する方法における条件の一例を挙げると、オーバーフィード率は、1〜10%が好ましく、1〜5%がより好ましい。
【0045】
糸条Aおよび糸条Bを用いることにより融着混繊糸を得る方法について、その一例を述べる。
まず、糸条Aを作製する。糸条Aは公知の複合紡糸装置を用いて製造することができる。例えば、前述のポリエステルなどの芯部および鞘部を構成する材料を、複合紡糸装置に投入し、引取速度1000〜4500m/分の範囲で複合紡糸した後、所定の倍率に延伸することで、糸条Aを得ることができる。
【0046】
次いで、糸条Aと糸条Bを同時に公知の装置を用いて混繊し、30〜120個/m、好ましくは40〜100個/mのインターレース混繊部を導入する。このとき、両糸条の繊維素材、フィラメント数の比、単糸繊度比、混繊時のエアー圧などは前述の通りである。
【0047】
糸条Aと糸条Bの混繊率(質量比)は、特に限定されるものでないが、杢外観の観点から、(糸条A):(糸条B)=5:95〜50:50であることが好ましく、10:90〜30:70がより好ましい。
【0048】
糸条Aと糸条Bとの混繊にはインターレースノズルを用いる。この時、混繊部をランダムに導入することが肝要である。混繊部をランダムに導入する方法としては、混繊時の空気圧を低めに設定する方法、混繊時のオーバーフィード率を低めに設定する方法、混繊領域に抵抗体を設けて混繊張力をランダムに変動させる方法があり、また、極端ながら不良ノズルなどを使用することも一応有効である。
【0049】
次いで、糸条A中の複合繊維の鞘部に配された融着成分を熱処理し溶融させることにより、複合繊維鞘部が溶融した後、残った繊維形成成分よりなる糸条と、糸条Bとが、その繊維長方向に沿った少なくとも一部分において融着され、融着混繊糸を得る。
【0050】
熱処理における処理温度および時間は、加工速度や糸条の繊度などにより異なるが、処理温度を当該繊維形成成分および糸条Bの融点近傍まで上げる場合や、処理時間を長くする場合には、融着成分が広がりやすいため接着性が高まるという傾向がある。
【0051】
上記の融着混繊糸により得られた織編物を後述の後加工に付すことにより、繊細かつナチュラル感に富む杢外観を発現できる。ただし、所望の杢外観を発現するためには、その後の製織編工程において混繊糸がガイドなどを通過しても、混繊状態が良好に維持されていることが前提となる。混繊部がガイド通過などに伴い開繊してしまうと、織編物の杢外観はピッチの長い流れ杢となってしまう。そこで、本発明では、混繊糸の長さ方向の少なくとも一部分において、融着混繊糸に含まれる糸条同士を融着させておくことで、混繊糸のガイド通過に伴う摩擦から混繊部を守ることができ、混繊部の開繊を抑制することができるのである。
【0052】
以上のように、本発明では、混繊糸中の糸条同士を融着させるために、糸条Aを構成する複合繊維における融着成分の熱融着作用を利用する。
本発明で、芯鞘型繊維糸条Aの鞘成分の溶融により、繊維形成成分よりなる糸条と糸条Bとの少なくとも一部が融着しているとは、混繊糸50cm間で無作為に20箇所サンプリングを行い、その断面において、複合繊維の鞘成分の溶融で糸条Bが接着している部分があるものが10箇所以上あることをいう。10箇所未満である場合には、交絡がはずれる部分が多くなってしまうため、杢が流れてしまい、織編物の品位を損なってしまう。
【0053】
融着混繊糸において、融着成分により融着された混繊部における融着強度について以下に述べる。
本発明では、混繊部の融着強度の大小を、「混繊糸を一定速度で伸長させたとき、混繊がどの程度解ける(開繊する)か」により判断する。インターレース混繊糸を素早く引き伸ばすと、混繊部の融着強度により混繊が解けるため、本発明ではこの点を利用して混繊部の融着強度を判断するものである。
【0054】
具体的には、引張り速度20cm/分で試料(長さ:20cm)を定速伸長し、試料の元の長さに対して5%伸長し、その後除重したときの開繊状態を観察する。伸長後の糸条における好ましい開繊状態は、(i)5cmを超えて連続して開繊している部位がなく、かつ(ii)連続して3〜5cm開繊している部位の数が1mあたり5箇所以下である状態である。伸長後の糸条が、この(i)と(ii)の2要件のいずれかを満足しないときは、織編物としたときに、杢外観が流れ杢となる傾向にある。
【0055】
そして、本発明の融着混繊糸を用いて公知の方法で予備的な織編物とすることができる。その後、予備的な織編物に含まれる融着成分を、除去することで、質感や風合いを好ましいものとすることができる。なお、本発明においては、必ずしも全ての融着成分を除去する必要はなく、本発明の効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて融着成分が一部残っていてもよい。織編物に融着成分が残り過ぎていると織編物の風合いが硬いものとなり、また染色堅牢度も悪くなる傾向にあるが、融着成分が適度に残されていると、シャリ感、清涼感などむしろ好ましい風合いを発する場合がある。融着成分の除去量としては、全融着成分に対し50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。当該融着成分の除去量は、融着成分除去前後の織編物断面を顕微鏡で観察し、融着成分の残存割合を算出することにより求める。
【0056】
融着成分を溶出させる方法としては特に制限されないが、簡便性やコストの観点から、一般的に行なわれるアルカリ減量処理による方法が好ましい。アルカリ減量処理の処方としては、編地のポリエステル質量に対してアルカリ濃度20〜40g、浴比1:20〜50で30〜60分間程度の条件で減量を行なうことができる。ただし、糸条Bとしてレーヨンなどセルロース系繊維糸条を用いた場合、強度低下を防止しながら減量を適切に行なうことが好ましく、この場合、減量促進剤として第4級アンモニウム塩などの減量促進剤を1〜5g/L程度併用することが有効である。
【0057】
上述のようなアルカリ減量処理を行うことで、糸条Bとして、アルカリに対して弱いセルロース系繊維糸条を使用した場合であっても、強力低下を抑制することができ、品位や物性の安定したものが得られる。さらには、糸条Aにおいて溶融された融着成分の鞘部を速やかに減量することができる。
【0058】
アルカリ減量処理などにより融着成分を溶出した後は、織編物を染色する。これにより織編物に杢外観を発現させることができる。染色の際に用いられる染料は、任意に選択することができる。染料の種類も単一種、複数種のいずれでもよい。
【0059】
染色においては、明瞭な杢外観を得ることを目的として、混繊糸を構成する各繊維束を別種類の染料で色目が異なるように染料する;一方の繊維束のみを染色し他方は染色しないように染色する;という手段を採用してもよい。例えば、混繊糸が、ポリエステル系樹脂を主成分とする糸条と、セルロース系繊維糸条との組み合わせから構成されている場合においては、前者を染める染料として分散染料を用い、後者を染める染料として反応染料を用い、両染料の色目を異なるものとすることにより、織編物に明瞭な杢外観を発現させることができる。ただ、かかる糸条の組み合わせの場合、後者のみを染色しても、同様の明瞭な杢外観を発現できる。染色後は、必要に応じて織編物をファイナルセットしてもよい。
【実施例】
【0060】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0061】
(実施例1)
結晶性ポリエステル系樹脂(日本エステル社製)(極限粘度:0.78、融点:181℃、ガラス転移点:48℃、1,4ブタンジオールを50mol%共重合と、ポリエチレンテレフタレート(日本エステル社製)(極限粘度:0.61、融点:256℃)とを準備した。なお、融点は、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製、商品名「DSC−2型」)を用いて、昇温速度20℃/分で測定した。
【0062】
上記の結晶性ポリエステル系樹脂とPETを、質量比で、(結晶性ポリエステル系樹脂):(PET)=1:1の割合で複合紡糸装置に投入し、温度270℃で同時に紡糸、延伸することにより、鞘部に結晶性ポリエステル系樹脂を、芯部にPETを配する複合繊維からなる糸条Aを得た。得られた糸条の繊度は、28dtex/12fであった。
【0063】
次いで、糸条Bとしてのレーヨンフィラメント糸条(サイボー社製)(繊度:84dtex/30f)と、上記の糸条Aとを、複合機(石川製作所社製、商品名「STPワインダー」)にインターレースノズル(阿波スピンドル社製、商品名「MK−2」)を用いて、糸速100m/分、エアー圧1.5kg/cmの条件でインターレース混繊した。その後、熱ヒーターを用いて温度200℃で熱処理し、本発明の融着混繊糸を得た。なお、融着前の混繊糸は、上述のKLが2.4、2.1、1.8、1.7、1.7であり、上述のKSが0.5、0.6、0.6、0.6、0.6であった。すなわち、混繊部はランダムに導入されていた。
【0064】
また、得られた融着混繊糸では、糸条A中の複合繊維鞘部に配された結晶性ポリエステル系樹脂の熱融着作用により、長さ方向に沿って融着されていた。また、インターレース混繊部は77個/mであった。さらに、この融着混繊糸において、引張り速度200mm/分で5%定速伸長させたときの、連続して3〜5cm開繊している部位の数は、1個/mであり、5cmを超えて連続して開繊している部位は認められなかった。すなわち、混繊部の融着強度は良好であった。
【0065】
次に、丸編機(福原精機社製、商品名「LPJ−H33」)を用いて、針密度を28ゲージとし、上記で得られた融着混繊糸を製編し、スムース組織の編地を得た。そして、得られた編物を、編物のポリエステル質量に対して40g/Lのアルカリ剤(水酸化ナトリウム)、3g/Lの減量促進剤(一方油脂工業社製、商品名「DYK1125」、主成分:第4級アンモニウム塩)、0.3g/Lの減量促進剤(一方油脂工業社製、商品名「キレートD−40」、窒素化合物)を用いて、浴比1:20で60分間アルカリ減量処理を施した。次いで、2%omfの反応染料(三井BASF社製、商品名「Basilen F Black F−B」)、30g/Lの無水硫酸ナトリウム、10g/Lのソーダ灰を用いて編物を染色した後、これをファイナルセットした。
【0066】
得られた編物は、糸条Bのみが染色され、結果的に明瞭な杢外観が発現していた。また、アルカリ減量処理により、融着成分の結晶性ポリエステル系樹脂が除去されているとともに、PET表面の一部が溶出されていた。そのため、ソフト感に非常に富むものであった。
【0067】
(実施例2)
インターレース混繊時のエアー圧を0.5kg/cmに変更した以外は、実施例1と同様に行った。なお、融着前の混繊糸は、KLが2.9、2.3、2.1、2.0、1.8であり、KSが0.5、0.5、0.5、0.6、0.6であった。すなわち、混繊部はランダムに導入されていた。
【0068】
また、得られた融着混繊糸は、糸条A中の複合繊維鞘部に配された結晶性ポリエステル系樹脂の熱融着作用により、長さ方向に沿って融着されていた。得られた編物は、糸条Bのみが染色され、結果的に明瞭な杢外観が発現していた。また、アルカリ減量処理により、融着成分の結晶性ポリエステル系樹脂が除去されているとともに、PET表面の一部が溶出されていた。そのため、ソフト感に非常に富むものであった。
【0069】
(実施例3)
糸条Bとしてナイロン6フィラメント糸条(繊度78dtex/34fil)を用いる以外は実施例1と同様に混繊を行い、本発明の融着混繊糸を得た。なお、融着前の混繊糸は、上述のKLが2.2、2.0、1.8、1.7、1.6であり、上述のKSが0.5、0.5、0.5、0.6、0.6であった。すなわち、混繊部はランダムに導入されていた。
【0070】
次に、実施例1と同様にして編物を得て、アルカリ減量処理を行った後、1%omfの酸性染料(クラリアントジャパン社製、商品名「Nylosan Blue NFL(180%))、2%omfの均染剤(丸菱油化社製、商品名「レベランNKD」)、0.2ml/lの酢酸(48%)を用いて編物を染色し、これをファイナルセットした。
【0071】
得られた編物は、糸条Bのみが染色され、結果的に明瞭な杢外観が発現していた。また、アルカリ減量処理により、融着成分の結晶性ポリエステル系樹脂が除去されているとともに、PET表面の一部が溶出されていた。そのため、ソフト感に非常に富むものであった。
【0072】
(比較例1)
熱ヒーターの温度を170℃とした以外は、実施例1と同様に行った。得られた融着混繊糸は、複合繊維鞘部に配された結晶性ポリエステル系樹脂の熱融着作用が十分でなかったため、混繊糸長さ方向に沿って十分に融着部分を形成することができなかった。なお、融着前の混繊糸は、上述のKLが2.4、2.1、1.8、1.7、1.7であり、上述のKSが0.5、0.6、0.6、0.6、0.6であった。すなわち、混繊部はランダムに導入されていた。
【0073】
この混繊糸を実施例1と同様の製編工程に付したところ、ガイド通過時に受ける摩擦により、混繊糸のいたるところで開繊が見られた。また、染色加工を経て得られた編地の杢外観も、ピッチの長い流れ杢であり、トップ杢感を発現させることができなかった。
【0074】
(比較例2)
インターレース混繊時のエアー圧を2.5kg/cmとした以外は実施例1と同様に行った。編地の杢感は単調なものであり、トップ杢感は表現されていなかった。なお、融着混繊糸は、KLが1.3、1.3、1.2、1.2、1.2であり、KSが0.8、0.8、0.8、0.8、0.8であった。すなわち、混繊部はランダムに導入されてはいなかった。
【0075】
この混繊糸を実施例1と同様の製編工程および後加工工程に付し、編地を得たところ、杢外観は認められたものの、ナチュラル感に欠け、トップ杢は表現出来なかった。
【0076】
(比較例3)
実施例1の結晶性ポリエステル系樹脂のみで紡糸、延伸を行い、結晶性ポリエステル樹脂のみからなる糸条Aを得た。得られた糸条の繊度は、28dtex/12fであった。
【0077】
この糸条Aを用いる以外は実施例1と同様にして融着混繊糸を得た。なお、融着前の混繊糸は、上述のKLが2.2、2.1、1.8、1.8、1.7であり、上述のKSが0.5、0.5、0.5、0.6、0.6であった。すなわち、混繊部はランダムに導入されていた。
【0078】
また、得られた融着混繊糸では、結晶性ポリエステル系樹脂の熱融着作用により、長さ方向に沿って融着されていたが、糸条Aの繊維形成成分は存在していなかった。また、インターレース混繊部は79個/mであった。さらに、この融着混繊糸において、引張り速度200mm/分で5%定速伸長させたときの、連続して3〜5cm開繊している部位の数は、1個/mであり、5cmを超えて連続して開繊している部位は認められなかった。すなわち、混繊部の融着強度は良好であった。
【0079】
次に、実施例1と同様に丸編、アルカリ減量処理、染色、ファイナルセットを行ったが、得られた編物は、糸条Bのみの染色により杢外観を呈さず、単調なものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維形成成分が芯部に配されるとともに前記繊維形成成分よりも低融点の融着成分が鞘部に配された複合繊維からなる糸条Aと、前記繊維形成成分とは染料染着性が異なる糸条Bとを用いて得られた融着混繊糸であって、該融着混繊糸はランダムな間隔で混繊部を含んでおり、さらに前記融着成分の熱融着作用によって前記繊維形成成分よりなる糸条と糸条Bとが少なくとも一部分融着されていることを特徴とする融着混繊糸。
【請求項2】
前記複合繊維において、繊維形成成分がアルキレンテレフタレート単位を主体とする融点220℃以上のポリエステルから構成され、融着成分が前記繊維形成成分より30℃以上低い融点を有するポリエステルから構成されていることを特徴とする請求項1記載の融着混繊糸。
【請求項3】
前記糸条Aがマルチフィラメントであることを特徴とする請求項1または2記載の融着混繊糸。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載の融着混繊糸を製編織して予備的な織編物を得た後、予備的な織編物に含まれる少なくとも一部の融着成分を溶出することを特徴とする織編物の製造方法。


【公開番号】特開2012−77398(P2012−77398A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−222143(P2010−222143)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(592197315)ユニチカトレーディング株式会社 (84)
【Fターム(参考)】