説明

融着網用ポリエステル織編物およびポリエステル融着網

【課題】従来より優れた破裂強力を有し、かつ水処理膜等の液体を透過させる性能を維持可能な融着網用ポリエステル織編物および融着網を提供する。
【解決手段】ポリエステルマルチフィラメントからなる織編物であって、10cm四方の該編物を縦、横方向ともに2Nの力で引っ張った状態で観察した場合のマルチフィラメント同士の接触点が0.4〜32個/mm、空隙率が0.7〜15%である、融着網用ポリエステル織編物により達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来より優れた破裂強力を有するポリエステル融着網を容易に製造することが可能な融着網用ポリエステル織物または編物(以下、本発明においてはこれら織物または編物を総称して織編物ということがある)およびそれにより容易に得られる従来より優れた破裂強力を有するポリエステル融着網に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル織編物は、現在一般的に衣料用途において広く使用されており、また近年ではカーシート、シートベルトなどの車輌内装材に代表される産業資材用途にも多く用いられるようになっている。
【0003】
また近年は、水資源確保の観点から水処理膜の需要が高まっているが、膜材の強度の観点から合成樹脂フィルムのみからなる水処理膜では実用に耐えうる強度が得られないため、各種繊維よりなる基布との複合膜とすることにより実用化されており、中でもポリエステル織編物からなる融着網はその品質の均一性、コストの面で優れており特に多用されている。
【0004】
しかしながら、融着網用ポリエステル織編物およびそれからなる融着網は、その製造工程の難しさから、生産性、品質上の課題が残されているのも事実である。
【0005】
一般的に、融着網用ポリエステル織編物は、融着網にする際、融着させるための熱処理を行うため、織編物としての破裂強力が必要である。また水処理膜等に用いる場合には液体を透過させる必要があるため、織りまたは編みの組織が細かすぎても適さない。
【0006】
かかる課題を解決するために、ナイロンおよび低融点ポリエステルの混繊糸が提案されている(例えば、特許文献1参照)が、ナイロンとポリエステルを併用するため、マルチフィラメントを紡糸した後混繊する工程が必要であるためコストが高く、かつ取扱が難しい。
【0007】
また、最初からポリエステルマルチフィラメントを融着させているポリエステル融着糸についても提案されている(例えば、特許文献2参照)が、この場合は融着糸を製造する工程での品質管理が難しく、またコスト面でも望ましいものではない。さらにこれを用いた融着網は最初の糸の状態で融着している部分が多く、これをさらに織編物としてから融着させた場合は融着点が多すぎるために網の破裂強力が大幅に低下し好ましくない。
【0008】
このように従来の技術では、マルチフィラメントの製造工程、品質管理および得られる織編物ならびにそれより得られる融着網の破裂強力を満足する十分なものは得られていないのが現状である。
【特許文献1】特開昭54−15021号公報(第1頁)
【特許文献2】特開2000−303287号公報(第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは従来より優れた破裂強力を有し、かつ液体を透過させる性能を維持可能な融着網用ポリエステル織編物について鋭意検討し、本発明の融着網用ポリエステル織編物およびそれを用いた融着網に到達したものである。すなわち、本発明の課題は、従来より優れた破裂強力を有し、かつ水処理膜等の液体を透過させる性能を維持可能な融着網用ポリエステル織編物および融着網を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の構成を採用する。すなわち、本発明の融着網用ポリエステル織編物は、ポリエステルマルチフィラメントからなる織編物であって、10cm四方の該編物を縦、横方向ともに2Nの力で引っ張った状態で観察した場合のマルチフィラメント同士の接触点が0.4〜32個/mm、空隙率が0.7〜15%であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の融着網は、ポリエステルマルチフィラメントからなる融着網であって、10cm四方の該融着網を縦、横方向ともに2Nの力で引っ張った状態で観察した場合のマルチフィラメント同士の接触点が0.5〜40個/mm、空隙率が0.5〜10%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の融着網用ポリエステル織編物によって、従来より破裂強力に優れ、かつ水処理膜等の液体を透過させる性能を維持可能な融着網を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の融着網用ポリエステル織編物は、ポリエステルマルチフィラメントからなる織編物であって、10cm四方の該編物を縦、横方向ともに2Nの力で引っ張った状態で観察した場合のマルチフィラメント同士の接触点が0.4〜32個/mm、空隙率が0.7〜15%であるものである。接触点が0.4個/mm未満である場合は織編物の目が粗く、融着網とした場合の網としての実用に適さない。すなわち、フィルムと貼り合わせた場合に、網目にフィルムが食い込み大きな凹凸を形成するなどの不具合が生じる。また接触点が32個/mmより多い場合は織編物の目が細かすぎるため、融着網とした場合に網目が細かすぎることおよび融着処理時に接触点の摩擦により融着する点が多くなりすぎて破裂強力の低下が著しいことから、網としての実用に適さない。好ましくは1〜15個/mmである。また空隙率が0.7%未満である場合は単純な織編物に過ぎず、融着網としても網としての性能を有さない。すなわち濾過膜などの用途において、フィルムと貼り合わせた場合に目が細かすぎて膜の役目すなわち膜の表裏の物質移動が困難になる。空隙率が15%より大きい場合は織編物の目が粗く、融着網とした場合の破裂強力が低下するため網としての実用に適さない。好ましくは0.7〜10%である。
【0014】
本発明の融着網用ポリエステル織編物を構成するポリエステルマルチフィラメントは、ポリエステルマルチフィラメントが2種の異なる糸条群AおよびBからなる混繊糸とすることが好ましい。1種類のマルチフィラメントからなる場合、融着網とする際の熱処理温度は該マルチフィラメントが融着可能な温度とする必要があるため、融着が過度に進んで融着網としての破裂強力が低下する場合がある。
【0015】
本発明の融着網用ポリエステル織編物を構成する2種の異なるポリエステルマルチフィラメント糸条群AおよびBにおいて、糸条群AおよびBの融点差は10〜80℃とすることが好ましい。融点差が10℃未満である場合、融着網とする際の熱処理温度を該糸条群AおよびBのうち融点が低い糸条群の融点近くとする必要があるため、融着が過度に進んで融着網としての破裂強力が低下する場合がある。融点差が80℃を超える場合、該糸条群AおよびBのうち融点が低い糸条群の融点が極端に低くなるか、あるいは融点が高い糸条群の融点が極端に高くなるため、前者の場合は融着網とした場合の破裂強力が低下する場合があり、後者の場合は織編物およびそれを融着網とした場合の風合いが硬くなる場合がある。これらの観点から該糸条群AおよびBの融点差は20〜60℃とすることがさらに好ましい。
【0016】
本発明の融着網用ポリエステル織編物を構成する2種の異なるポリエステルマルチフィラメント糸条群AおよびBにおいて、糸条群AおよびBの単糸(単フィラメント糸)繊度の比は3:7〜7:3とすることが好ましい。単糸繊度の比が3:7〜7:3を外れた場合、融着網とする際に単糸繊度が小さい糸条群が糸切れを起こし、融着網の欠点となる場合がある。
【0017】
本発明の融着網用ポリエステル織編物を構成する2種の異なるポリエステルマルチフィラメント糸条群AおよびBにおいて、糸条群AおよびBの沸騰水収縮率の差は10〜50%とすることが好ましい。沸騰水収縮率の差が10%未満である場合、マルチフィラメント糸条群AおよびBはいずれも各々を構成するフィラメント同士が並行に揃いやすく、融着網とする際にマルチフィラメント内での融着点が生成しにくくなるため好ましくない。また、沸騰水収縮率の差が50%を超えると、融着網とする際の熱処理時に糸条群AおよびBの収縮差による糸長差が大きくなりすぎるため、収縮率が小さい糸条群の糸長が長くなって融着網からループ状に飛び出すために欠点となる場合がある。
【0018】
また、本発明の融着網用ポリエステル織編物を構成する、2種の異なるポリエステルマルチフィラメント糸条群AおよびBからなる混繊糸の交絡度は5〜50ヶ/mとすることが好ましい。交絡度が5ヶ/m未満であると、融着網用ポリエステル織編物とする際の織りあるいは編みの工程通過性が低下する場合がある。また、50ヶ/mを超える場合は、前記の工程通過性は問題ないものの、フィラメント同士の接触点が多いため融着網とした際に融着点が多くなりすぎて、融着網としての破裂強力が低下する場合がある。
【0019】
また、本発明の融着網用ポリエステル織編物を構成する、2種の異なるポリエステルマルチフィラメント糸条群AおよびBからなる混繊糸の沸騰水収縮率は10〜30%とすることが好ましい。沸騰水収縮率が10%未満の場合は、収縮が小さいために融着網とした際のポリエステルマルチフィラメントを構成するフィラメント同士の絡み合いが少なく、網としての実用に適さない場合がある。また、沸騰水収縮率が30%を超える場合は、収縮が大きいために融着網とした際のポリエステルマルチフィラメントを構成するフィラメント同士の絡み合いが多すぎ、融着網としての破裂強力が低下する場合がある。
【0020】
本発明の融着網用ポリエステル織編物を構成する、2種の異なるポリエステルマルチフィラメント糸条群AおよびBからなる混繊糸は、糸条群AおよびBが同一口金から吐出された糸条を紡糸混繊して得られるポリエステルマルチフィラメントであることが好ましい。本発明はこれに限定されるものではないが、糸条群AおよびBが同一口金から吐出され紡糸混繊された混繊糸のほうが、糸条群AおよびBが別口金から吐出された後に混繊された混繊糸と比較して、糸条群AおよびBの絡み合いがあるため、融着網とする際の融着点の生成の点で好ましい。
【0021】
なお、本発明の融着網用ポリエステル織編物は、織物としては平織、朱子織等およびそれらの変化組織を適用することができ、また編物としては横編、経編、丸編のいずれでもよいが、これらに限定されるものではない。
【0022】
本発明のポリエステル融着網は、10cm四方の該融着網を縦、横方向ともに2Nの力で引っ張った状態で観察した場合のマルチフィラメント同士の接触点が0.5〜40個/mmであることが好ましい。接触点が0.5個/mm未満である場合は融着網の目が粗く、網としての実用に適さない。また、接触点が40個/mmより多い場合は融着網の目が細かすぎるため、網としての実用に適さない。好ましくは1〜20個/mmである。
【0023】
また、本発明のポリエステルマルチフィラメントからなる融着網は、空隙率が0.5〜10%であることが好ましい。空隙率が0.5%未満である場合は、網としての性能を有さない。空隙率が10%より大きい場合は織編物の目が粗く、また融着網とした場合の破裂強力が低下するため網としての実用に適さない。好ましくは1〜10%である。
【0024】
本発明のポリエステル融着網は、ポリエステルマルチフィラメント同士の接触点のうち30〜70%が融着していることが好ましい。ポリエステルマルチフィラメント同士の接触点のうち融着している点が30%未満である場合、融着点が少ないため網としての実用に適さない場合がある。また、融着している点が70%を超える場合は、融着点が多すぎるために網としての破裂強力が大きく低下する場合がある。
【0025】
上述した融着網の融着点の数および空隙率が融着網用ポリエステル織編物の接触点の数および空隙率と異なるのは、融着網とするための熱処理工程において布帛が収縮するためである。
【0026】
なお、本発明のポリエステル融着網は、その用途を限定されるものではないが、耐腐食性、耐薬品性に優れるポリエステルからなる点において、資材用ネット、あるいは各種フィルムとの貼り合わせによる濾過膜、流路材等、網としての破裂強力および網目の数や空隙率が物質移動に適正な範囲であることが重要となる用途に特に好適である。
【0027】
本発明の融着網用ポリエステル織編物あるいはポリエステル融着網の製造に使用するポリエステルとして具体的には、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレ−ト、ポリエチレン−1,2−ビス(2−クロロフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボキシレート等が挙げられる。本発明は、なかでも最も汎用的に用いられているポリエチレンテレフタレートまたは主としてエチレンテレフタレート単位を含むポリエステル共重合体において好適である。
【0028】
また、これらのポリエステルには、本発明の目的、効果を損なわない範囲で各種のエステル形成性誘導体が共重合されていてもよい。
【0029】
また、これらのポリエステルには、本発明の目的、効果を損なわない範囲で、二酸化チタン等の艶消し剤、酸化ケイ素、カオリン等の各種機能性粒子のほか、着色防止剤、安定剤、抗酸化剤等の添加剤を含有してもよい。
【0030】
また融点の低いポリエステルとしては、各種の共重合ポリエステルを用いることができるが、2,2−ビスヒドロキシエチルフェニルプロパンを共重合したポリエステルが特に好適である。
【0031】
次に本発明の融着網用ポリエステル織編物あるいはポリエステル融着網の製造方法を説明する。具体例としてポリエチレンテレフタレートを用いた極細繊維の例を記載するがこれに限定されるものではない。
【0032】
ポリエステルマルチフィラメントは通常、(1)ポリエステルを溶融し、計量し、濾過した後に吐出するプロセス、(2)吐出されたポリエステルフィラメントを冷却風により冷却した後引き取るプロセス、(3)引き取られたポリエステルフィラメントを巻き取るプロセス、(4)場合によって得られたポリエステル繊維を延伸または延伸仮撚するプロセスにより得られる。
【0033】
本発明の融着網用ポリエステル織編物あるいはポリエステル融着網を構成するポリエステルマルチフィラメントを得る際は、上記プロセスのうち(1)については常法によって行う。(2)については、本発明の紡糸口金は冷却風の通り抜けが良いため、一方向から冷却風を吹き付ける常法、あるいは環状冷却装置を用い、冷却風を糸条を囲む全円周方向から中心に向かって吹き付ける方法のいずれでもよい。以下(3)および(4)のプロセスは常法に従って行えばよい。
【実施例】
【0034】
以下実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例中の物性値は以下に述べる方法で測定した。
(1)ポリマーの固有粘度IV
オルソクロロフェノールを溶媒として25℃で測定した。
(2)接触点の数
10cm四方の該織編物を縦、横方向ともに2Nの力で引っ張った状態で織編物または融着網を光学顕微鏡にて拡大観察し、1mm四方の中に観察された、異なるマルチフィラメント同士の接触点の数をカウントした値を接触点の数(個/mm)とした。
(3)融着点の数
10cm四方の該織編物を縦、横方向ともに2Nの力で引っ張った状態で融着網を光学顕微鏡にて拡大観察し、1mm四方の中に観察された、異なるマルチフィラメント同士の融着点の数をカウントした値を融着点の数(個/mm)とした。この際、融着点と判別する方法は、単糸の表面が融けて交差する単糸と繋がっているものを融着点とした。
(4)空隙率
10cm四方の該織編物を縦、横方向ともに2Nの力で引っ張った状態で織編物を光学顕微鏡にて拡大観察し、1mm四方の中に観察されたマルチフィラメントのない部分の割合を空隙率(%)とした。
(5)マルチフィラメントの融点
マルチフィラメントの各サンプル10mgを精秤し、アルミニウム製オープンパン及びパンカバーを用いて封入し、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製、DSC7型)を用いて、窒素気流下、20℃から285℃まで16℃/分の速度で昇温させ、その途中で観察される融点ピーク温度を融点とした。
(6)マルチフィラメントの単糸繊度
マルチフィラメントの各サンプルを100m採取し、測定した重量をWgとして次式により算出した。
単糸繊度(dtex)=W×100/(マルチフィラメントの単糸数)
(7)マルチフィラメントの沸騰水収縮率
マルチフィラメントの各サンプルをカセ取り機にて10回巻き取り、0.09cN/dtexの荷重をかけて処理前試料長S1(cm)を測定し、100℃の沸騰水中で15分処理する。これを8時間以上自然乾燥した後、0.09cN/dtexの荷重をかけて処理後試料長S2(cm)を測定し、次式より算出した。
沸騰水収縮率={(S1−S2)/S1}×100
(8)混繊糸の交絡度
交絡測定装置 ROTHSCHILD社製ENTANGLEMENT TESTER R2071を用い、給糸張力15cN、トリップレベル15.5cN、糸速度1.25m/分で測定を30回行った平均値を交絡度(ヶ/m)とした。
(9)編物、融着網の破裂強力
JIS規格L1096−1999「一般織物試験方法」中の「6.16.2 B法」に準拠した測定を3回行い、その平均値をkPa単位としたものを破裂強力とした。
(10)製織時糸切れ
製織する際、100mの織物を得る間にマルチフィラメントが糸切れする回数が3回以上を×、2回以上を△、1回以下を○として判定した。
【0035】
実施例1
常法により得たIV0.66のポリエチレンテレフタレートのホモポリマーペレットを常法に従って乾燥し水分率を70ppm以下とする。この乾燥ペレットを常法にしたがって溶融紡糸し、2500m/分で巻き取ることにより153dtex、36フィラメントのポリエステルマルチフィラメントを得た。これを延伸速度1000m/分、延伸倍率1.83倍で熱延伸することにより84dtex、36フィラメントのポリエステルマルチフィラメント延伸糸を得た。これを用い、1インチあたりの経糸を16本、緯糸を16本として平織組織にてポリエステル織物を作製した。得られた織物の接触点の数、空隙率、破裂強力およびこの織物を加熱ローラーにて210℃で熱処理して得られた融着網の破裂強力は表1のとおりとなった。
【0036】
実施例2〜4、比較例1〜3
1インチあたりの経糸、緯糸を25本(実施例2)、98本(実施例3)または140本(実施例4)、12本(比較例1)、170本(比較例2)、200本(比較例3)とした以外は実施例1と同様の方法によりポリエステル織物を得た。得られた織物の接触点の数、空隙率、破裂強力およびこの織物を210度で熱処理して得られた融着網の破裂強力は表1のとおりとなった。実施例2〜4については織物の破裂強力に対して融着網とした際の破裂強力の低下が小さいが、比較例1〜3については破裂強力の低下が著しいことがわかる。
【0037】
実施例5
常法により得たIV0.66のポリエチレンテレフタレートのホモポリマーペレットおよび2,2−ビスヒドロキシフェニルプロパンおよびイソフタル酸をテレフタル酸に対してそれぞれ4mol%、7mol%共重合して得られた共重合ポリエチレンテレフタレートを常法に従って乾燥し水分率を70ppm以下とする。それぞれの乾燥ペレットをそれぞれ別個に溶融し、同一口金へ導入し18フィラメントずつ紡糸混繊し、以下実施例1と同様の方法で、それぞれ42dtex、18フィラメントの2種類のポリエステルマルチフィラメント混繊糸からなる延伸糸を得た。このとき、ホモポリマーからなるポリエステルマルチフィラメントをマルチフィラメントA、共重合ポリエチレンテレフタレートからなるポリエステルマルチフィラメントをマルチフィラメントBとする。これを用い、1インチあたりの経糸を100本、緯糸を90本としてポリエステル織物を作製した。得られた織物の接触点の数は15個/mm、空隙率は10%であり、マルチフィラメントAおよびBの融点、単糸繊度、沸騰水収縮率、混繊糸の交絡度、沸騰水収縮率、織物の破裂強力およびこの織物を210℃で熱処理して得られた融着網の破裂強力は表2のとおりとなった。
【0038】
実施例6〜9
2,2−ビスヒドロキシフェニルプロパンおよびイソフタル酸を共重合する量を調整し、得られるマルチフィラメントBの融点を248℃(実施例6)、210℃(実施例8)または200℃(実施例9)とした点、あるいはポリエチレンテレフタレートのホモポリマーの融点を265℃(実施例7)とした点以外は実施例5と同様の方法で、ポリエステル織物を作製した。得られた織物の接触点の数は15個/mm、空隙率は10%であり、マルチフィラメントAおよびBの融点、単糸繊度、沸騰水収縮率、混繊糸の交絡度、沸騰水収縮率、織物の破裂強力およびこの織物を210℃で熱処理して得られた融着網の破裂強力は表2のとおりとなった。中でも実施例7が実施例5と同様に融着網とした際の破裂強力の低下が小さいことがわかる。
【0039】
実施例10および11
マルチフィラメントBを42dtex、36フィラメント(実施例10)、あるいはマルチフィラメントAを42dtex、12フィラメント(実施例11)とした点以外は実施例5と同様の方法で、ポリエステル織物を作製した。得られた織物の接触点の数は15個/mm、空隙率は10%であり、マルチフィラメントAおよびBの融点、単糸繊度、沸騰水収縮率、混繊糸の交絡度、沸騰水収縮率、織物の破裂強力およびこの織物を210度で熱処理して得られた融着網の破裂強力は表2のとおりとなった。融着網とした際の破裂強力の低下が小さいことがわかる。
【0040】
実施例12〜15
2,2−ビスヒドロキシフェニルプロパンおよびイソフタル酸を共重合する量を調整し、得られるマルチフィラメントBの沸騰水収縮率を60%(実施例12)、50%(実施例13)、10%(実施例14)または9%(実施例15)とした点、あるいはポリエチレンテレフタレートのホモポリマーの沸騰水収縮率を6%(実施例15)とした点以外は実施例5と同様の方法で、ポリエステル織物を作製した。得られた織物の接触点の数は15個/mm、空隙率は10%であり、マルチフィラメントAおよびBの融点、単糸繊度、沸騰水収縮率、混繊糸の交絡度、沸騰水収縮率、織物の破裂強力およびこの織物を210度で熱処理して得られた融着網の破裂強力は表3のとおりとなった。融着網とした際の破裂強力の低下が小さいことがわかる。
【0041】
実施例16〜18
延伸時の交絡付与装置を調整し、得られる混繊糸の交絡度を3ヶ/m(実施例16)、10ヶ/m(実施例17)または60%(実施例18)とした点以外は実施例5と同様の方法で、ポリエステル織物を作製した。得られた織物の接触点の数は15個/mm、空隙率は10%であり、マルチフィラメントAおよびBの融点、単糸繊度、沸騰水収縮率、混繊糸の交絡度、沸騰水収縮率、製織時の糸切れ、織物の破裂強力およびこの織物を210度で熱処理して得られた融着網の破裂強力は表3のとおりとなった。融着網とした際の破裂強力の低下が小さいことがわかる。また製織時の糸切れについては実施例16対比17、18のほうが良好な結果となった。
【0042】
実施例19
実施例5と同様の方法で得られたポリエステルマルチフィラメント混繊糸からなる延伸糸を用い、1インチあたりの経糸を20本、緯糸を16本としてポリエステル織物とし、これを200℃で熱処理することにより融着網を得た。接触点の数、空隙率、融着点の割合および破裂強力は表4のとおりとなった。
【0043】
実施例20、21、比較例4〜6
1インチあたりの経糸、緯糸を110本(実施例20)、150本(実施例21)、15本(比較例4)、180本(比較例5)、250本(比較例6)、とした以外は実施例19と同様の方法でポリエステル融着網を得た。接触点の数、空隙率、融着点の割合および破裂強力は表4のとおりとなった。実施例20、21については融着網とした際の破裂強力が小さいが、比較例4〜6については破裂強力が小さくなっていることがわかる。
【0044】
実施例22〜24
ポリエステル織物を熱処理する温度を190℃(実施例22)、180℃(実施例23)または225℃(実施例24)とした以外は実施例19と同様の方法でポリエステル融着網を得た。接触点の数、空隙率、融着点の割合および破裂強力は表4のとおりとなった。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
【表4】

【0049】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルマルチフィラメントからなる織編物であって、10cm四方の該織編物を縦、横方向ともに2Nの力で引っ張った状態で観察した場合のマルチフィラメント同士の接触点が0.4〜32個/mm、空隙率が0.7〜15%であることを特徴とする融着網用ポリエステル織編物。
【請求項2】
ポリエステルマルチフィラメントが2種の異なる糸条群AおよびBからなる混繊糸であって、糸条群AおよびBの融点差が10〜80℃、単糸繊度の比が3:7〜7:3、沸騰水収縮率の差が10〜50%であり、かつ該混繊糸の交絡度が5〜50ヶ/m、沸騰水収縮率が10〜30%であることを特徴とする請求項1に記載の融着網用ポリエステル織編物。
【請求項3】
ポリエステルマルチフィラメントが2種の異なる糸条群AおよびBからなる混繊糸であって、糸条群AおよびBが同一口金から吐出された糸条を紡糸混繊して得られるポリエステルマルチフィラメントであることを特徴とする請求項1または2に記載の融着網用ポリエステル織編物。
【請求項4】
ポリエステルマルチフィラメントからなる融着網であって、10cm四方の該融着網を縦、横方向ともに2Nの力で引っ張った状態で観察した場合のマルチフィラメント同士の接触点が0.5〜40個/mm、空隙率が0.5〜10%であることを特徴とするポリエステル融着網。
【請求項5】
ポリエステルマルチフィラメント同士の接触点のうち30〜70%が融着していることを特徴とする請求項4に記載のポリエステル融着網。

【公開番号】特開2007−169826(P2007−169826A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−369345(P2005−369345)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】