説明

融雪スパイラルロッド及び融雪電線

【課題】 融雪スパイラルロッドの融雪性能を向上させる。
【解決手段】 融雪スパイラルロッド11は、磁性線材11aを螺旋状に成形加工したもので、電線2に螺旋状に巻き付けて融雪電線13を構成する。使用する磁性線材11aの断面形状を正方形又は長方形にし、例えば隣接する線材同士が密着するように巻き付ける。断面形状が円形の従来の融雪スパイラルロッド1’(図3(ロ))の場合と比べて、融雪電線としての径を同じ(したがって、線材としては円形の直径と正方形等の高さとが同じ)にした場合、融雪スパイラルロッド部分の断面積が増大し、したがって、巻付重量(kg/m)が増大し、巻付重量に比例する発熱量が増大する。また、融雪電線13の表面積(融雪スパイラルロッド11の外表面の面積)が小さくなるので、熱放散量が低減する。発熱量が増大し熱放散量が低減するので、融雪性能が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、架空送電線の落雪対策に関するものであり、磁性線材を螺旋状に成形加工した融雪スパイラルロッド、及び、これを電線に螺旋状に巻き付けて構成する融雪電線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、架空送電線の落雪対策として、電線にリングを取付ける方法が実施されてきた。この方法は、電線に一定間隔でリングを取り付けておくことにより、着雪した雪が電線の撚り溝に沿って滑る際、雪がリングに当たって落下するという作用で落雪効果を得るものである。
【0003】
さらに確実な落雪対策として、図7に示すように融雪スパイラルロッド1を電線(架空送電線)2に巻き付けて融雪電線3を構成する方法も実用化されている(特開2003−134651号その他)。融雪スパイラルロッド1は、キュリー点が一般的な鋼材よりも低い低キュリー材などの磁性線材1aを螺旋状に成形加工した螺旋状線材であり、これを電線2に螺旋状に巻き付けておくと、電線2から発生する交番磁界により融雪スパイラルロッド1が発熱して融雪するというものである。この種の従来の融雪スパイラルロッド1は、円形断面の磁性線材1aを用いている。
【特許文献1】特開2003−134651号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の電線にリングを設ける方法は、落雪効果が電線に流れる電流の大きさに影響されないという利点がある一方で、雪質によっては効果が十分でない、細分化された雪が地上に落ちるなどの欠点があった。
また、融雪スパイラルロッド1を電線に巻き付ける方法は、雪質の影響を受けない、細かい雪も落雪しないという利点がある一方で、融雪スパイラルロッドの発熱量が電線に流れる電流に左右されるため、冬場の電流が小さい場合、十分な融雪効果が得られないという欠点があった。
本発明は上記従来の欠点を解消するためになされたもので、一層確実な落雪対策となるように、融雪スパイラルロッドの融雪性能を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する請求項1の発明の融雪スパイラルロッドは、磁性線材を螺旋状に成形加工してなり、電線に螺旋状に巻き付けて融雪電線を構成する融雪スパイラルロッドであって、 前記磁性線材の断面形状を正方形又は長方形としたことを特徴とする。
【0006】
請求項2の発明の融雪電線は、断面形状が正方形又は長方形の磁性線材を螺旋状に成形加工してなる融雪スパイラルロッドを電線に、隣接する線材同士が密着するように螺旋状に巻き付けたことを特徴とする。
【0007】
請求項3の発明の融雪電線は、断面形状が正方形又は長方形の磁性線材を螺旋状に成形加工してなる融雪スパイラルロッドを電線に、隣接する線材間に隙間が生じるように螺旋状に巻き付けるとともに、前記隙間に断熱材を充填したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
従来の断面円形の融雪スパイラルロッドとの対比で説明する。この場合、融雪電線としての径が太くなると、降る雪の当たる面積が増し雪が多く付着するので、融雪電線としての径を同じにした場合(すなわち線材の断面が円形の場合の直径と正方形や長方形の場合の高さとを同寸法にした場合)について比較する。
請求項1の融雪スパイラルロッドについて、線材の断面形状が正方形等である本発明品の場合と、線材の断面形状が円形である従来品の場合とを比較すると、両者の断面積については、融雪電線としての径を同じにした場合、円形から正方形等としたことで、空隙がなくなることから断面積が増大する。したがって、巻付重量(kg/m)も増大する。融雪スパイラルロッドの渦電流損及びヒステリシス損による発熱量は巻付重量に比例すると言えるから、断面形状を円形から正方形等にしたことで、発熱量が増大する。したがって、融雪スパイラルロッドの融雪性能が向上する。
【0009】
請求項2のように、融雪スパイラルロッドを電線に密に巻き付けた場合の融雪電線の表面積を考えると、融雪スパイラルロッドの断面形状が円形の場合はその表面の長手方向の輪郭が、半円形を並べた輪郭となるのに対して、断面形状が正方形等の場合はその表面の長手方向の輪郭が直線的になるので、断面形状を正方形等としたことで融雪電線の表面積(融雪スパイラルロッドの外表面の面積)が小さくなる。そして、熱放散量は表面積に比例するため、断面形状を円形から正方形等としたことにより熱放散量も低減する。したがって、融雪電線の温度が高く保たれ、雪が電線に付着した時にその雪を融かす融雪性能が向上する。
【0010】
施工上の制約等で、融雪スパイラルロッドを、隣接する線材間に隙間が形成されるように巻く場合、熱放散量が増すが、請求項3のように隙間に断熱材を充填することで、熱放散量が低減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施した融雪スパイラルロッド及び融雪電線について、図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は本発明の一実施例の融雪スパイラルロッド11を電線(架空送電線)2に巻き付けた融雪電線13の部分正面図である。融雪スパイラルロッド11は、磁性線材11aを螺旋状に成形加工したものであり、図示のように電線2に螺旋状に巻き付けて用いるが、本発明では、使用する磁性線材の断面形状を正方形又は長方形とする。この実施例では、図2に断面図で示すように、磁性線材11aの断面形状を正方形とし、かつ電線2に密に(隣接する線材どうしが密着するように)巻き付けている。磁性線材として、ニッケル(Ni)5%、クロム(Cr)10%、シリコン(Si)1%、鉄(Fe)残部からなる合金等を用いることができる。
【0013】
上記融雪電線13において、電線2に流れる電流で生じる交番磁界により融雪スパイラルロッド11に渦電流が発生し、渦電流損及びヒステリシス損による発熱で、当該融雪電線13に付着した雪を融かすことができる。なお、電線が高温になると、融雪スパイラルロッド11の保磁力が低下することにより発熱量が低下し、無用な発熱は避けられる。
【0014】
本発明の融雪電線の融雪作用を、線材の断面形状が円形である従来品と比較した具体例(計算例)について説明する。この場合、融雪電線としての径が太くなると、降る雪の当たる面積が増し雪が多く付着するので、融雪電線としての径を同じにした場合(すなわち線材の断面が円形の場合の直径と例えば正方形の場合の高さとを同寸法にした場合)について比較する。比較に用いた本発明及び従来例の融雪スパイラルロッドは下記である。
・本発明品:2mm×2mmの正方形断面
・従来品:直径2mmの円形断面
・材質(本発明及び従来例とも同じ):Ni5%、Cr10%、Si1%、Fe残部からなる合金
また、この実施例は電線サイズ810mmのACSR(鋼心アルミ撚線)に融雪スパイラルロッド11を、図1、図2の通り密に(隣接する線材どうしが密着するように)巻き付けた場合であり、計算条件は下記の通りである。
・気温:−1℃
・風速:3m/s
・降雪強度:3mm/h(降雨量換算)
・通電電流:100A
【0015】
通常、融雪スパイラルロッド11から生じた熱は、その一部が着雪した雪に伝達し融雪に寄与するが、一部は風により大気中に放散されてしまう。ACSR810mmに融雪スパイラルロッドを巻付けたときの上記条件での熱放散量および発熱量の計算値を表1に示す。なお、表1の放熱量、発熱量の計算要領については、電気学会技術報告第660号「架空送電線の電流要領」の記載を参考にした(具体的計算式は省略する)。
【0016】
【表1】

【0017】
発熱量について説明すると、表1に記載の通り、融雪電線としての径が同じある場合、断面形状が正方形のものは円形のものに比べ断面積が1.27倍大きく、したがって、巻付重量(kg/m)も1.27倍となる。融雪スパイラルロッドの渦電流損及びヒステリシス損による発熱量は巻付重量に比例すると言えるから、断面形状を円形から正方形にすることにより発熱量を1.27倍にすることができる。
【0018】
次に、熱放散量について説明する。図3(ロ)は断面円形の従来の融雪スパイラルロッドであるが、図示の融雪スパイラルロッド1’は隣接する線材1’aを密に巻き付けた場合である。断面円形の融雪スパイラルロッド1’を密に巻き付けた融雪電線3’の表面積は図3(ロ)の太線の部分の面積と考えられる。一方、断面が正方形の融雪スパイラルロッド11を密に巻き付けた融雪電線13の表面積は、図3(イ)の太線の部分と考えられる。双方の表面積の大きさを比較すると、断面正方形の場合は断面丸形の場合に比べ、表面積は1/1.57(1332:2091=1/1.57)と計算される。熱放散量は表面積に比例するため、断面を円形から正方形にすることにより熱放散量も1/1.57に低減することができる。
【0019】
電線に着雪した雪を融雪するために必要な融解熱については、融雪スパイラルロッドの形状にかかわらず一定(上記条件における計算値は11.87W/mである)と考えてよい。
この融解熱と熱放散量との和が実際に融雪するために必要な総熱量と考えられるが、 表1に示すとおり、従来品では融雪に必要な総熱量(17.78W/h)より発熱量(17.07W/h)の方が小さく、十分に融雪できないのに対し、本発明品では融雪に必要な総熱量(15.63W/h)より発熱量(21.64W/h)の方が大きいため、融雪可能である。
【実施例2】
【0020】
上記の融雪スパイラルロッド11は断面形状を正方形にして巻付重量を増大させるとともに、隙間なく密に巻き付けることにより表面積を小さくして、熱放散量を低減している。このように、融雪スパイラルロッドの巻付けにあたっては密に巻くことが望ましいが、施工上の制約などにより隣接する線材間に隙間が生じる場合は、図4に示した融雪電線23のように、融雪スパイラルロッド21の隣接する線材21a間の隙間cに断熱材22を充填することが望ましい。断熱材には市販のウレタンフォーム等を用いるとよいが、特に限定されない。
これにより、断面正方形の線材21aの側面からの熱放散が防止され、熱放散量が増すことを回避できる。
【実施例3】
【0021】
上記の融雪スパイラルロッド11に用いた磁性線材11aは断面形状が正方形であるが、図5に示した融雪電線33のように、融雪スパイラルロッド31に用いる線材として、断面形状が長方形の磁性線材31aを用いてもよい。断面形状が長方形であっても、正方形の場合と高さが同じであれば、隙間なく密に巻き付ける場合は、正方形の場合と同様な融雪性能が得られる。
また、隙間が生じるように巻きその隙間に断熱材を充填する場合でも、長方形の幅寸法により融雪性能が若干異なってくるが、断面円形の従来品の場合より融雪性能を向上させることができる。
【実施例4】
【0022】
上述の各実施例は電線2に1本の融雪スパイラルロッドを巻き付けるものとして説明したが、複数本の融雪スパイラルロッドを平行させて巻き付けることも可能である。
また、本発明における磁性線材の断面形状は正方形又は長方形であるが、厳格に正方形又は長方形であることは要求するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施例の融雪スパイラルロッドを電線に巻き付けた融雪電線の部分正面図である。
【図2】図1の部分拡大縦断面図である。
【図3】本発明品と従来品との対比を説明する図であり、(イ)は本発明の融雪電線、(ロ)は従来の融雪電線を示す。
【図4】本発明の他の実施例を示すもので、融雪スパイラルロッドの隣接する線材間の隙間に断熱材を充填した融雪電線の、図2に相当する部分拡大縦断面図である。
【図5】本発明のさらに他の実施例を示すもので、断面形状が長方形の融雪スパイラルロッドを電線に巻き付けた融雪電線の、図2に相当する部分拡大縦断面図である。
【図6】従来の融雪スパイラルロッドを電線に巻き付けた融雪電線の部分正面図である。
【符号の説明】
【0024】
2 電線
11、21、31、41 融雪スパイラルロッド
11a、21a、31a 磁性線材
13、23、33、43 融雪電線
22 断熱材
c 隙間


【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性線材を螺旋状に成形加工してなり、電線に螺旋状に巻き付けて融雪電線を構成する融雪スパイラルロッドであって、
前記磁性線材の断面形状を正方形又は長方形としたことを特徴とする融雪スパイラルロッド。
【請求項2】
断面形状が正方形又は長方形の磁性線材を螺旋状に成形加工してなる融雪スパイラルロッドを電線に、隣接する線材同士が密着するように螺旋状に巻き付けたことを特徴とする融雪電線。
【請求項3】
断面形状が正方形又は長方形の磁性線材を螺旋状に成形加工してなる融雪スパイラルロッドを電線に、隣接する線材間に隙間が生じるように螺旋状に巻き付けるとともに、前記隙間に断熱材を充填したことを特徴とする融雪電線。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−121793(P2006−121793A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−305196(P2004−305196)
【出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【出願人】(000221546)東電設計株式会社 (44)
【Fターム(参考)】