説明

融雪電線

【課題】 潮流の小さな電線においても良好な融雪作用を果たせる融雪電線を提供する。
【解決手段】 架空送電線2の外周に電力潮流で発熱させるための磁性線材を螺旋状に巻き付けた融雪電線1において、磁性線材3、4を多層に巻き付け(図示例は2層)、かつ、(a)磁性線材の線径d≦2.8mm、(b)磁性線材の線径の各層間の差異≦30%、(c)最外層の磁性線材の巻付ピッチp≦磁性線材の線径d×巻付本数N×2、という3つの各条件を満たすようにする。1本の磁性線材で必要な発熱量を確保しようとすると、線径が太くなり、剛性のために電線への巻き付けが極めて困難であるが、磁性線材を多層にしたことで、巻き付け可能な範囲内の細い線径でもって、発熱量に必要な磁性線材の巻付重量を確保できる。また、最外層の磁性線材間の隙間が小さいので、放熱が抑制され、温度上昇が高くなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、架空送電線の外周に電力潮流で発熱させるための磁性線材を螺旋状に巻き付けた融雪電線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、架空送電線(以下、場合により単に電線という)への着雪を防止する方法として、電線に磁性線材を螺旋状に巻き付ける方法が知られている。磁性線材として通常、一般の鋼材よりキュリー点の低い低キュリー材が用いられるが、このような磁性線材を電線に巻き付けると、低温時には、電力潮流で電線から発生する交番磁界により磁性線材に渦電流損及びヒステリシス損が生じて磁性線材が発熱し、融雪作用を奏する。
【0003】
ところで、電線に巻き付けられた磁性線材の発熱量は、潮流を一定とすると、電線単位長さ当たりの電線への巻付重量(単に巻付重量と呼ぶ)に比例することが知られている。例えば、鋼心アルミ撚線ACSR810mmを例に取ると電流が100A流れている電線に磁性線材を巻き付けた場合、巻付重量0.3kg/mで約5.0W/m、0.6kg/mで約10W/mの発熱量となる。よって、実際の取付けに当っては、電線に流れる電流と必要な発熱量に応じて磁性線材の巻付重量を調整すればよい。
【0004】
以上のことから、より大きな発熱量を得ようとした場合、磁性線材の巻付重量を増大させるという観点で融雪電線を構成していた。具体的には、磁性線材は1層巻きとし螺旋状に巻き付ける磁性線材の線材間隔を狭くするか、あるいは磁性線材の線径を太くして巻付重量を増大させる方法が一般的であった。
【0005】
なお、巻付重量を増大させるという目的とは異なる目的であるが、特許文献1(実公平6−13572)では、磁性線材を重ねて巻き付けする構成、すなわち、図5に示すように、電線11の外周に低キュリー材のスパイラルロッド12と、亜鉛めっき鋼線、アルモウエルド線若しくは低キュリー材のスパイラルロッド13とを重ね巻きする構成が記載されている。しかし、この特許文献1において、磁性線材を重ね巻きすることの目的は、リング方式の磁性体では電線にしっかり取り付けるのが容易でなく落下する恐れがあるのに対して、スパイラルロッドの重ね巻きで落下の恐れをなくすということを目的としている。したがって、特許文献1においてはスパイラルロッドの巻付ピッチは大で、線材間の隙間が著しく広い巻き付け方である。
【特許文献1】実公平6−13572 第3図等。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
磁性線材の巻付重量を増大させる手段として、螺旋状に巻き付ける磁性線材の線材間隔を狭くする場合、その限界は密巻きの場合であるが、磁性線材の線径にも限界がある。すなわち、磁性線材の線径を太くし過ぎると、電線に巻き付けようとしても、剛性が大き過ぎて巻き付けることが極めて困難になるので、通常は2.8mm程度の線径が限界である。
【0007】
潮流が大であれば、従来のような線材間隔及び線径の調整で十分対応可能であるが、潮流が小さい場合には、磁性線材の線材間隔及び線径の調整で巻付重量を上限に設定しても、十分な融雪作用を得るには発熱量が不足する場合があった。
例えば、潮流が60Aの電線で融雪に10W/mの発熱量が必要な場合、巻付重量1.4kg/m程度の磁性線材を巻き付ける必要があるが、この場合の磁性線材の線径は3.0mmとなり、剛性が大きすぎて実際上、電線に巻き付けることができない。このように、潮流が小さい場合には、従来の磁性線材では必要な発熱量に対応する巻付重量を確保できず、十分な融雪作用が得られないという問題があった。
【0008】
また、磁性線材の巻き方によっては、発生した熱が融雪に寄与することなく空気中に放散されてしまい、効果的に融雪することができないという問題もあった。
【0009】
本発明は上記従来の欠点を解消するためになされたもので、磁性線材の電線への巻付けが困難になることなく、潮流が小さい場合に必要な磁性線材の巻付重量を確保することが可能で、かつ、発生した熱が効率的に融雪に寄与するようにして、潮流が小さい場合でも十分な融雪作用が得られる融雪電線を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明は、架空送電線の外周に電力潮流で発熱させるための磁性線材を螺旋状に巻き付けた融雪電線において、
前記磁性線材を下記(a)〜(c)の条件で多層に巻き付けたことを特徴とする。
(a)磁性線材の線径d≦2.8mm
(b)磁性線材の線径の各層間の差異≦30%
(c)最外層の磁性線材の巻付ピッチp≦磁性線材の線径d×巻付本数N×2
【0011】
請求項2は、請求項1の融雪電線において、隣接する内外層の磁性線材を互いに逆向き螺旋に巻き付けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の融雪電線によれば、線径2.8mm以下の磁性線材を多層に巻き付ける構成としたことで、巻付け困難性を回避しつつ、発熱量に必要な磁性線材の巻付重量を確保することが可能となり、発熱量を増大させることができた。
また、それらの磁性線材の線径の各層間の差異が30%以下であることで、巻付け易さと巻付重量確保のバランスが適切に確保することができた。
また、最外層の磁性線材の巻付ピッチpを「磁性線材の線径d×巻付本数N×2」以下に小さくしたことで、巻付重量が一層増大するだけでなく、線材間の隙間の少ない最外層により放熱が抑制され、磁性線材に発生した熱を効率的に融雪に寄与させることが可能となった。なお、融雪作用は、磁性線材と雪との接触による熱伝導で果たされるのであるが、雪と接触しない部分からの放熱は融雪に寄与せずに単に空気中に逃げてしまうので、線材間の隙間の少ない最外層による放熱抑制は有効である。
これらの相乗効果により、潮流の小さな電線においても十分な発熱量を確保し、また、単に発熱量を増大させるという観点だけでなく発生した熱を効率よく融雪に寄与させることができ、融雪性能を向上させることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施した融雪電線について、図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0014】
図1は本発明の一実施例の融雪電線1の正面図、図2は図1の融雪電線1の部分拡大図、図3は図1の融雪電線1を得る工程において、内層の磁性線材を巻き付けた段階の状態を示す。この融雪電線1は、架空送電線(以下電線という)2の外周に、磁性線材を図示例では2層に螺旋状に巻き付けた構造である。内層の磁性線材を3、外層の磁性線材を4で示す。実施例の内層の磁性線材3及び外層の磁性線材4の線径はいずれも2.0mmである。磁性線材3、4の材質は低キュリー材であり、例えばFe−Ni合金を用いることができる。実施例で対象としている電線2は鋼心アルミ撚線ACSR810mm(外径38.4mmφ)である。
【0015】
本発明では、少なくとも最外層の磁性線材(図示例では外層の磁性線材4)の巻付ピッチpを「磁性線材の線径d×巻付本数N×2」以下という条件(すなわち、線径以下の隙間の生じる巻付ピッチ)を満たすようにする。図示例では、内層及び外層の磁性線材3、4がいずれも1本巻き(すなわち内外層とも1本の磁性線材3、4を巻き付けたもの)であり、そして、各層の巻付ピッチpが4mm(すなわち、巻付ピッチp=2mm(線径)×1(巻付本数)×2)であって、最外層については巻付ピッチpの上限(最も隙間が大きい場合)である。なお、内層の磁性線材3の巻付ピッチpは、やはり線材間の隙間が小さくなる巻付ピッチpであることが発熱量増大のためには好ましいが、特に限定されない。
なお、実施例では内外層とも磁性線材が1本巻きであるが、内外層の一方あるいは両方とも、複数本を並べて巻き付ける複数本巻きとしてもよい。
【0016】
上記のように、線径2.0mmの磁性線材3、4を外径38.4mmφの電線2に、巻付ピッチ4mmの1本巻きにて2層に螺旋状に巻き付けた場合、内外層の磁性線材3、4の電線2への巻付重量はいずれも約0.7kg/mとなり、したがって、磁性線材3、4全体の巻付重量は約1.4kg/mである。磁性線材の巻付重量が1.4kg/mであれば、例えば潮流が60Aの場合に10W/mの発熱量が得られるが、この程度の発熱量があれば、最外層の磁性線材4の線材間隙間が小さく放熱が抑制されることと相まって、外径38.4mmφの電線(ACSR810mm)に付着した雪を有効に融かすことができる。すなわち、2本の細い線径の磁性線材3、4でもって、潮流が小さい場合でも十分な融雪作用を奏する巻付重量を確保できる。なお、発熱量を計算する具体的計算式は省略するが、電気学会技術報告第660号「架空送電線の電流要領」の記載を参考にした。
【0017】
表1に磁性線材の巻付ピッチpと上昇温度(℃)との関連を測定した実験結果を示す。実験のNo.1は巻付ピッチが4mmの1層巻きの場合である。No.2〜4は2層巻きで、その内層はいずれも巻付ピッチが4mmであり、外層はそれぞれ8mm、6mm、4mmである。
表1の実験結果の通り、2層巻き(No.2〜4)の場合、1層巻き(No.1)の場合より上昇温度が大となるが、外層の巻付ピッチpによって上昇温度が異なる。すなわち、電流100A及び300Aのいずれの場合でも、外層の巻付ピッチが4mmの場合に、8mmや6mmの場合と比べて顕著に上昇温度が大となっている。このように、外層の磁性線材の巻付ピッチを小さくして線材間の隙間を小さくすることで、上昇温度が大となっているが、これは単に巻付重量が一層増大するというだけではなく、線材間の隙間の少ない最外層により放熱が抑制されることで、上昇温度が大となっていると推定される。
【0018】
【表1】

【0019】
磁性線材の巻付け可否については、内外層の磁性線材3、4は、線径がいずれも2.0mmと細く剛性はあまり高くないので、電線2への巻き付け作業は容易である。また、個々の磁性線材3、4が軽量である点でも、電線2への巻き付け作業は容易である。
表2に外径が2.0mm、2.4mm、2.8mm、3.0mm、3.2mmの5種の磁性線材について巻付け可否を調べた実験結果を示す。表2の実験結果の通り、線径2.8mm以下であれば巻き付け可能である。なお、外径18.2mmの電線(ACSR160mm2)では線径が2.8mmの場合はピッチがやや安定しないが巻き付けは一応可能である。
【0020】
【表2】

【0021】
上記の通り、磁性線材の巻付けを細い線径による2層巻きとすることで、巻付け困難性を回避しつつ、発熱量に必要な磁性線材の巻付重量を確保することができ、そして、巻付ピッチを小さくして線材間の隙間を小さくした最外層の磁性線材により放熱が抑制されることで、潮流が小さい場合でも十分な融雪効果が発揮させることが可能となった。
【実施例2】
【0022】
上記実施例では磁性線材を線径相当の隙間が生じるようなピッチで巻き付けたが、図4に示すように、磁性線材を密巻きしてもよい。図示例は内外層の磁性線材3、4をいずれも密巻きにした場合である。但し、実際の巻付けでは密巻きの作業をしても、弾性戻りのため若干の隙間が生じる。
【0023】
なお、内外層の磁性線材は、実施例の磁性線材3、4のように、互いに逆向き螺旋に巻き付ける(S巻き・Z巻き)のが、施工性等の点で適切である。
また、磁性線材を電線に巻き付ける手段には、予め螺旋状に成形加工したプレフォームドロッドを電線に絡み付けるようにして巻き付ける方法と、成形していない磁性線材を機械で電線に螺旋状に巻き付ける機械巻き付け方法とがあるが、上記のように螺旋ピッチを小さくする場合には、プレフォームドロッド方式は実際上困難なので、機械巻き付け方式を採用するとよい。
【0024】
なお、電線2に巻き付ける磁性線材は、その外周に例えば0.1mm等のアルミ被覆を施すと、電食防止及び発熱量向上の上で好ましい。
【0025】
上記実施例の2層の磁性線材3、4の線径はいずれも2.0mmで同一であり、巻き付け易さ(剛性が大とならないこと)と巻付重量確保の両面のバランスからみて適切であるが、必ずしも同一である必要はない。例えば内外層の磁性線材の線径差が30%以内であれば、巻き付け易さと巻付重量確保のバランスに問題はない。
また、各層の磁性線材の本数は、図示例の本数に限らず任意であり、また、実施例のように内外層の本数を同じにする場合に限らず、内層の本数と外層の本数を異ならせてもよい。
また、実施例は2層巻きの場合であるが、磁性線材を3層以上に巻き付けることもできる。
【実施例3】
【0026】
上記実施例では対象の架空送電線が鋼心アルミ撚線ACSR810mmであるが、サイズは任意である。異なるサイズに対して、磁性線材の線径、螺旋ピッチを適宜変更してもよいが、必ずしも変更しなくてもよい。但し、磁性線材の線径は、巻き付け易さの点から2.8mm以下にするのが望ましい。また、対象の架空送電線は鋼心アルミ撚線に限らず、種々の電線を対象とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施例の融雪電線の正面図である。
【図2】図1の融雪電線の部分拡大図である。
【図3】図1の融雪電線を得る工程において、内層の磁性線材を巻き付けた段階の状態を示す図である。
【図4】本発明の他の実施例の融雪電線を示すもので図2に相当する図である。
【図5】従来の融雪電線の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0028】
1 融雪電線
2 電線(架空送電線)
3 内層の磁性線材
4 外層の磁性線材(最外層の磁性線材)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
架空送電線の外周に電力潮流で発熱させるための磁性線材を螺旋状に巻き付けた融雪電線において、
前記磁性線材を下記(a)〜(c)の条件で多層に巻き付けたことを特徴とする融雪電線。
(a)磁性線材の線径d≦2.8mm
(b)磁性線材の線径の各層間の差異≦30%
(c)最外層の磁性線材の巻付ピッチp≦磁性線材の線径d×巻付本数N×2
【請求項2】
隣接する内外層の磁性線材を互いに逆向き螺旋に巻き付けたことを特徴とする請求項1記載の融雪電線。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−318792(P2006−318792A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−141053(P2005−141053)
【出願日】平成17年5月13日(2005.5.13)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】