説明

蟻酸メチル製造用メタノール脱水素触媒および蟻酸メチル製造方法

【課題】 本発明は、選択率が良好で、耐久性、耐熱性に優れた、メタノールを気相下で脱水素することにより蟻酸メチルを製造するための触媒および該触媒を用いた蟻酸メチル製造方法を提供する。
【解決手段】 銅−亜鉛−アルミニウムの酸化物、リン酸化合物およびアルカリ金属臭化物を含有することを特徴とする蟻酸メチル製造用メタノール脱水素触媒および該触媒を用いた蟻酸メチル製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒の存在下、メタノールを気相下で脱水素反応により蟻酸メチルを製造するための触媒および蟻酸メチル製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ギ酸メチルは有機合成の中間体として製造されており、高純度一酸化炭素、ギ酸、ホルムアルデヒド、酢酸、N,N-ジメチルホルムアミドなど工業的に重要な原料である。
【0003】
メタノールを気相下で脱水素してギ酸メチルを合成するための触媒としては多々報告されている。これらの触媒の多くは銅を主成分としたものであり、例えば銅、亜鉛、ジルコニウムおよびアルミニウムからなる触媒(特許文献1)、酸化銅、酸化亜鉛及び酸化アルミニウムからなる触媒(特許文献2)等がある。
【0004】
また、種々の助触媒を添加する方法も提案されており、特許文献3には酸化銅、酸化亜鉛、酸化アルミニウムの混合物に銅などのリン酸塩とアルカリ金属、アルカリ土類金属などの塩化物を添加する方法が記載されている。特許文献4には酸化銅、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、リン酸化合物およびリチウムを含む2種以上のアルカリ金属の化合物を添加する方法が記載されている。
【0005】
これらのうち銅、亜鉛、ジルコニウムおよびアルミニウムからなる触媒、酸化銅、酸化亜鉛及び酸化アルミニウムからなる触媒など銅を主成分とする触媒はギ酸メチルの収率および選択率を向上させるために触媒中の銅含有量を高くする必要があり、そのため還元活性化処理後触媒の機械的強度が著しく低下する。
【0006】
酸化銅、酸化亜鉛、酸化アルミニウムの混合物に銅などのリン酸塩とアルカリ金属、アルカリ土類金属などの塩化物を添加する方法では、添加物の作用により還元活性化処理の後も高い機械的強度を有し、かつギ酸メチル収率、選択率の高い触媒を製造することができるとされている。さらに酸化銅、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、リン酸化合物およびリチウムを含む2種以上のアルカリ金属の化合物を添加する方法ではさらにギ酸メチル収率、選択率が向上し、リチウムの添加効果によるところが大きいとされている。
【0007】
しかしながら、本発明者らがこれらの公報記載の方法で触媒を調製し検討した結果、反応による選択率が低く、あるいは耐久性、耐熱性の経時低下が大きく、実用上さらなる向上が必要であることが判明した。
【特許文献1】特開昭53−71008号公報
【特許文献2】特開昭54−12315号公報
【特許文献3】特開昭58−163444号公報
【特許文献4】特開平3―151047号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、選択率が良好で、耐久性、耐熱性に優れた、メタノールを気相下で脱水素することにより蟻酸メチルを製造するための触媒および該触媒を用いた蟻酸メチル製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記問題点の解決を目的に銅、亜鉛、アルミニウムの酸化物、リン酸化合物、アルカリ金属化合物からなる触媒について鋭意研究を行った結果、アルカリ金属化合物として報告されているアルカリ金属塩化物よりもアルカリ金属臭化物を添加した触媒が明らかに蟻酸メチルの選択率が高く、かつ耐久試験において経時低下が非常に小さい高耐熱性の触媒が得られることを見出し本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
銅−亜鉛−アルミニウムの酸化物、リン酸化合物およびアルカリ金属臭化物を含有することを特徴とする蟻酸メチル製造用メタノール脱水素触媒および該触媒を用いてメタノールを気相にて脱水素する蟻酸メチル製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の触媒は、メタノールを気相にて脱水素し、蟻酸メチルを製造するに際し、高選択性、高耐久性および高耐熱性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の触媒は、メタノールを気相にて脱水素することを特徴とする蟻酸メチル製造において、活性では特に高い選択性と耐熱性を発揮する。このような効果が発揮される理由はアルカリ金属臭化物の添加であると考えられる。さらにアルカリ金属塩化物を添加することよりも優れている理由の詳細は明らかでないが以下のように考えられる。
(1)反応中、アルカリ金属臭化物を添加した方がアルカリ金属塩化物を添加したものよりもハロゲンの揮散度が小さく、副反応であるアルカリ金属によるギ酸メチル分解反応活性の発現を、ハロゲンからアルカリ金属への電子供与により抑制しているため、高選択性となっている。
(2)反応中においても組成変化がしにくいため、触媒表面での崩壊が起こりにくく、耐熱性が向上している。
【0013】
本発明の触媒成分の骨格となる銅、亜鉛、アルミニウムの酸化物の製造方法については各触媒成分が均質に混合される方法であれば良い。各触媒成分が均質な混合物を得る方法としては、例えば各触媒成分の水溶性塩の水溶液とアルカリ性水溶液とを混合してそれぞれの沈殿を調製し、これを混合する方法、これらのうち二つの触媒成分の水溶性塩を共沈殿させ、これにもう一つの触媒成分の沈殿と混合する方法、三つの触媒成分の水溶性塩の共沈殿として得る方法などがある。なお、各触媒成分の沈殿あるいは共沈殿は、後の乾燥、焼成工程で酸化物に変換し得るもの(酸化物前駆体)であれば沈殿あるいは共沈殿の段階で酸化物の状態にある必要はない。
【0014】
銅の酸化物となり得る原料としては例えば酢酸銅等の水溶性の有機塩、又は塩化銅、硫酸銅、硝酸銅等の水溶性の無機塩等が使用できる。
亜鉛の酸化物となり得る原料としては例えば酸化亜鉛や酢酸亜鉛等の水溶性の有機塩、又は塩化亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛等の水溶性の無機塩等が使用できる。
アルミニウムの酸化物となり得る原料としては例えば酸化アルミニウム、アルミナゾルの他、酢酸アルミニウム等の水溶性の有機塩、又は塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム等の水溶性の無機塩等が使用できる。
【0015】
沈殿あるいは共沈殿を得るために用いる沈殿剤としては、例えば水酸化アルカリ、炭酸アルカリ、炭酸水素アルカリなどが用いられ、具体的には水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0016】
前記した銅、亜鉛、アルミニウムの酸化物または酸化物前駆体に、リン酸化合物およびアルカリ金属臭化物を添加した混合物を、乾燥、焼成することにより本発明の蟻酸メチル製造用メタノール脱水素触媒が得られる。リン酸化合物、アルカリ金属臭化物の添加方法は、均一に混合される方法であれば特に制限は無く、湿式、乾式のどちらでも良い。乾燥温度は70〜150℃程度が好ましい。焼成温度は350〜650℃程度が好ましい。本発明の触媒は例えばペレット状に成形して使用される。また、反応に供される前に還元処理がなされることが好ましい。
【0017】
リン酸化合物としては銅、亜鉛、アルミニウムのリン酸塩、リン酸第一水素塩、リン酸第二水素塩、ピロリン酸塩等が用いられ、具体的にはリン酸第二銅、ピロリン酸銅、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、リン酸一水素アルミニウム、リン酸二水素アルミニウムなどが挙げられる。
【0018】
アルカリ金属臭化物としては例えば臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウムなどが挙げられ、臭化リチウムまたは臭化ナトリウムが好ましく、臭化ナトリウムが特に好ましい。
【0019】
本発明で用いる触媒の各有効成分の含有比は原子比で銅10に対し、亜鉛は0.1〜10が好ましく、より好ましくは0.2〜2であり、アルミニウムは0.1〜10が好ましく、より好ましくは0.2〜2である。
リン酸化合物は銅10に対するリンの原子比で0.1〜5が好ましく、より好ましくは0.2から2であり、アルカリ金属臭化物は銅10に対する臭素の原子比で0.02〜0.5が好ましく、より好ましくは0.03〜0.4、特に好ましくは0.05〜0.3である。 触媒の反応活性の点から適度な銅のシンタリングが重要であるが、アルカリ金属臭化物の銅10に対する臭素の原子比が0.02よりも小さく場合は活性点と考えられる銅のシンタリングが抑制され、十分活性が発現せず、メタノール反応率が低下する可能性がある。
一方、アルカリ金属臭化物の銅10に対する臭素の原子比が0.5よりも大きい場合は逆に銅のシンタリングが促進され、これも十分活性が発現せず、メタノール反応率の低下をまねく可能性がある。
【0020】
本発明によって得られた触媒を用いて、気相においてメタノールを脱水素して蟻酸メチルを製造する際の反応条件は、反応温度100〜400℃が好ましく、より好ましくは150〜350℃、メタノールの空間速度は100〜100000/hrが好ましく、より好ましくは500〜30000/hrである。反応圧力は5MPa-G以下が好ましく、より好ましくは1MPa-G以下である。
【実施例】
【0021】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0022】
<触媒調製>
実施例1
硝酸銅3水和物186.6g(0.772mol)、硝酸亜鉛6水和物11.5g(0.039mol)、硝酸アルミニウム9水和物28.9g(0.077mol)をイオン交換水1600gへ溶解し、40℃に加温した。撹拌しながら、これに無水炭酸ナトリウム108.0g(1.019mol)をイオン交換水1600gに溶解した40℃の水溶液へ1分を要して注加した。40℃において60分、更に80℃に昇温して30分熟成させた後、沈殿を濾別、水洗し282gの共沈殿物を得た。
この共沈殿物へ10wt%アルミナゾル20.3g(Al2O3として0.020mol)、リン酸第二銅4.9g(0.013mol)、リン酸三ナトリウム12水和物2.5g(0.006mol)、臭化ナトリウム0.8g(0.008mol)を加え、混練した後、115℃で12時間乾燥し、更に600℃で2時間焼成した。得られた酸化物を粉砕し、グラファイトを3wt%添加して、打錠機で6mmφ×5.5mmHの円柱状タブレットに成型した触媒を得た。元素分析の結果、得られた触媒の銅10に対する臭素の原子比は0.08であった。元素分析はICP発光分光分析法を用いた。
【0023】
実施例2
臭化ナトリウム0.8gに変えて臭化ナトリウムを1.6g(0.016mol)添加した以外は実施例1に記載の調製法に従い触媒を調製した。元素分析の結果、得られた触媒の銅10に対する臭素の原子比は0.16であった。
実施例3
臭化ナトリウム0.8gに変えて臭化ナトリウムを2.5g(0.024mol)添加した以外は実施例1に記載の調製法に従い触媒を調製した。元素分析の結果、得られた触媒の銅10に対する臭素の原子比は0.24であった。
実施例4
臭化ナトリウム0.8gに変えて臭化リチウムを0.7g(0.008mol)添加した以外は実施例1に記載の調製法に従い触媒を調製した。元素分析の結果、得られた触媒の銅10に対する臭素の原子比は0.08であった。
実施例5
臭化ナトリウム0.8gに変えて臭化カリウムを1.0g(0.008mol)添加した以外は実施例1に記載の調製法に従い触媒を調製した。元素分析の結果、得られた触媒の銅10に対する臭素の原子比は0.08であった。
【0024】
比較例1
臭化ナトリウムを添加しない以外は、実施例1に記載の調製法に従い触媒を調製した。
比較例2
臭化ナトリウム0.8gに変えて塩化リチウムを0.8g(0.008mol)添加した以外は実施例1に記載の調製法に従い触媒を調製した。元素分析の結果、得られた触媒の銅10に対する塩素の原子比は0.09であった。
比較例3
臭化ナトリウム0.8gに変えてフッ化リチウムを0.2g(0.008mol)添加した以外は実施例1に記載の調製法に従い触媒を調製した。元素分析の結果、得られた触媒の銅10に対するフッ素の原子比は0.09であった。
比較例4
臭化ナトリウム0.8gに変えてヨウ化リチウムを1.1g(0.008mol)添加した以外は実施例1に記載の調製法に従い触媒を調製した。元素分析の結果、得られた触媒の銅10に対するヨウ素の原子比は0.07であった。
比較例5
臭化ナトリウム0.8gに変えて塩化ナトリウムを0.5g(0.008mol)添加した以外は実施例1に記載の調製法に従い触媒を調製した。元素分析の結果、得られた触媒の銅10に対する塩素の原子比は0.10であった。
【0025】
<触媒の一次評価試験(スクリーニング)>
触媒の活性および耐熱性を評価するため、通常の反応条件に比べ、高温度、高空間速度(GHSV)条件でメタノール反応率、ギ酸メチル選択率を測定した。
具体的には、まず、得られたタブレット成型品を破砕して、20―30meshに篩別した。この破砕品を水素気流中、220℃で還元した後、0.5mlを計量し、内径6mmφの反応管に充填した。反応制御温度360℃、反応圧力0.49MPa-G、メタノールGHSV 100000/hrで20hr反応を行い、メタノール反応率、ギ酸メチル選択率を調べた。
【0026】
メタノール(MeOH)反応率、ギ酸メチル(MF)選択率は反応器出口ガス組成から次式により求めた。なお、式中の[CO]、[CH4] 、[CO2]、[DME]、[MeOH]、[MF]は、それぞれ反応器出口ガス中の一酸化炭素、メタン、二酸化炭素、ジメチルエーテル、メタノール及びギ酸メチルの濃度(mol%)である。
メタノール反応率(mol%)=([CO]+[CH4]+[CO2]+([DME]+[MF])×2)/
([CO]+[CH4]+[CO2]+([DME]+[MF])×2+[MeOH])×100
ギ酸メチル選択率(mol%)=([MF])×2)/
([CO]+[CH4]+[CO2]+([DME]+[MF])×2)×100
【0027】
実施例1〜5および比較例1〜5の触媒の一次評価試験結果を表1に示す。なお、値は20hrの平均値を示す。
【0028】
【表1】

【0029】
上表のようにアルカリ金属臭化物を添加した実施例1〜5の触媒は無添加である比較例1に対し、どれもMeOH反応率およびMF選択率とも良好な結果を示した。また、ハロゲン種を臭素以外とした比較例2、3、4および5の触媒に対し、実施例1〜5の触媒はMF選択率およびMF収率とも良好な結果を示した。
【0030】
<耐久性試験>
一次評価試験と同様の方法に従い、高温度、高空間速度(GHSV)条件で、反応時間をさらに40hrまで延長させ、各収率の経時変化を調べた。なお、触媒の耐久性は平均劣化速度(%/hr)で示した。
実施例1,4,5及び比較例2,5の耐久性試験結果を表2に示す。
【表2】

上表のようにアルカリ金属臭化物を添加した実施例1,4,5の触媒はアルカリ金属塩化物を添加した比較例2、5の触媒に対し、収率の経時変化で示す劣化速度が小さい結果を示した。よって、ハロゲン種を臭化物とした本触媒は比較例2、5の塩化物とした触媒に対し、優れた耐久性を示す結果となった。
【0031】
<触媒の寿命評価試験>
実施例1および比較例2の触媒の耐熱性および耐久性を評価するため、通常の反応条件に比べ、高温度条件でメタノール反応率、ギ酸メチル選択率の経時変化を測定した。
具体的には、まず、得られたタブレット成型品を破砕して、0.85-1.4mmに篩別した。この破砕品を水素気流中、220℃で還元した後、3mlを計量し、内径10mmφの反応管に充填した。反応制御温度360℃(測定時のみ260-280℃で計測)、反応圧力0.49MPa-G、メタノールGHSV 4000/hrでの反応条件とし、各反応温度でのギ酸メチル(MF)収率が20%となるまで試験を継続した。試験結果を表3、4に示す。
【0032】
【表3】

【0033】
【表4】

【0034】
上表のようにアルカリ金属臭化物を添加した実施例1の触媒はアルカリ金属塩化物を添加した比較例2の触媒に対し、特に270,280℃と高温ほどMF収率が20%に達するまでの時間が延長し、2倍以上にもなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅−亜鉛−アルミニウムの酸化物、リン酸化合物およびアルカリ金属臭化物を含有することを特徴とする蟻酸メチル製造用メタノール脱水素触媒。
【請求項2】
アルカリ金属臭化物中の臭素が原子比で銅10に対して0.02〜0.5であることを特徴とする請求項1に記載の蟻酸メチル製造用メタノール脱水素触媒。
【請求項3】
アルカリ金属臭化物が臭化リチウム、臭化ナトリウムおよび臭化カリウムからなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の蟻酸メチル製造用メタノール脱水素触媒。
【請求項4】
アルカリ金属臭化物が臭化リチウムまたは臭化ナトリウムであることを特徴とする請求項1に記載の蟻酸メチル製造用メタノール脱水素触媒。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の蟻酸メチル製造用メタノール脱水素触媒を用い、メタノールを気相にて脱水素することを特徴とする蟻酸メチル製造方法。

【公開番号】特開2010−75853(P2010−75853A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−247614(P2008−247614)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】