説明

血中コレステロール低減剤

【課題】経口投与可能な血中コレステロール低減剤の提供。
【解決手段】プロピオン酸菌の菌体を有効成分として含む血中コレステロール低減剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピオン酸菌の菌体を含む血中コレステロール低減剤に関する。
【背景技術】
【0002】
高脂血症(高リポタンパク血症)は、種々の疫学調査から虚血性心疾患等の動脈硬化性疾患の主な危険因子とされている。高脂血症とは、リポタンパクにより運ばれる脂質(コレステロール、中性脂肪、又は両方)の血液中の濃度が異常に高い状態である。高脂血症として、高LDLコレステロール血症、高VLDLコレステロール血症、低HDLコレステロール血症、複合高脂血症、異常ベータリポタンパク血症等の各種が知られている。その病因としては、食事由来の脂質の増加、リポ蛋白代謝系の先天的・後天的異常等が知られている。コレステロールは細胞膜やステロイドホルモンの材料となる生体に不可欠な脂質であるが、特に悪玉コレステロール(LDL-コレステロールやVLDL-コレステロール)が血中に過剰に存在すると、アテローム動脈硬化のリスクが増加し、各種疾患(冠動脈疾患、脳血管疾患、末梢動脈疾患、脳卒中、狭心症、心臓発作等)が引き起こされる。このような動脈硬化性疾患を予防するため、血中総コレステロール値及びLDLコレステロール値を低減させると共に、HDLコレステロール値を増加させることが推奨されている。例えば、成人における望ましい総コレステロールは200mg/dL未満、LDLコレステロール値は100mg/dL未満、HDLコレステロール40mg/dL超であるとする説もある(非特許文献1、非特許文献2)。
【0003】
従来の血中コレステロール低減剤としては、ビフェニル化合物(プロブコール等)、コレステロール生成を阻害するHMG-CoA還元酵素阻害剤(プラバスタチン等)、リポタンパク合成阻害薬(ナイアシン等)、コレステロール吸着剤、胆汁酸吸着剤(コレスチラミン等)、フィブラート誘導体(フェノフィブラート等)等が知られている。胆汁酸吸着剤は、コレステロールの代謝産物である胆汁酸を腸内で吸着し、便として排泄することを促進することにより、胆汁酸中のコレステロールが小腸から再び体内に吸収されることを抑制する。
【0004】
乳酸菌を使用して血中コレステロール値の改善を図る試みも行われてきている。例えば非特許文献3では、乳酸菌Lactobacillus acidophilusの選択株が、胆汁の存在下で好気的に増殖している場合にのみ、培地からコレステロールを取り込んで同化したこと、その結果、培地中のコレステロールを低減させることができたことが開示されている。しかしin vivoで好気的条件を安定的に確保するのは困難である。
【0005】
特許文献1の段落[0002]には、プロピオン酸が脂質代謝制御作用を有するとの示唆がされている。しかしプロピオン酸の独特の刺激臭は経口投与には不向きである。
【0006】
そこで、利用しやすく効果の高い血中コレステロール低減剤の開発がなおも求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−143519号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】トピック「高リポタンパク血症」、メルクマニュアル医学百科 最新家庭版(オンライン版)、Mark H. Beersら編、MSD株式会社、<URL:http://merckmanual.jp/mmhe2j/sec12/ch157/ch157b.html>(検索日:2011年3月18日)
【非特許文献2】荒井秀典ら、概論−高脂血症と動脈硬化、別冊・医学のあゆみ 糖尿病・代謝症候群−state of arts 2004-2006、医歯薬出版、2004年、pp.284-287
【非特許文献3】Gilliland S.E. et al., Appl. Environ. Microbiol., 49:377-381 (1985)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、有用な血中コレステロール低減剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、プロピオン酸菌の菌体が高い血中コレステロール低減効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] プロピオン酸菌の菌体を有効成分として含む血中コレステロール低減剤。
この血中コレステロール低減剤に用いるプロピオン酸菌の菌体は、死菌体であることがより好ましい。
好ましい実施形態では、そのプロピオン酸菌は、Propionibacterium freudenreichii ET-3株(受託番号FERM BP-8115)、Propionibacterium acidipropionici JCM6427株、及びPropionibacterium jensenii JCM6433株からなる群のうち1つ又は複数である。
また、プロピオン酸菌の菌体は、洗浄及び滅菌処理されていることが好ましい。
[2] 上記[1]の血中コレステロール低減剤と製剤補助剤とを含む、血中コレステロール低減のための組成物。
[3] プロピオン酸菌の菌体と製剤補助剤とを含む血中コレステロール低減のための飲食品。
この食品に用いるプロピオン酸菌の菌体は、死菌体であることがより好ましい。
好ましい実施形態では、そのプロピオン酸菌は、Propionibacterium freudenreichii ET-3株(受託番号FERM BP-8115)、Propionibacterium acidipropionici JCM6427株、及びPropionibacterium jensenii JCM6433株からなる群のうち1つ又は複数である。
また、プロピオン酸菌の菌体は、洗浄及び滅菌処理されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明を用いれば、経口投与可能であり良好な効果を有する血中コレステロール低減剤を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
1.血中コレステロール低減剤
本発明は、プロピオン酸菌の菌体(好ましくは死菌体)を有効成分として含む血中コレステロール低減剤に関する。本発明に係る血中コレステロール低減剤の製造に使用されうるプロピオン酸菌としては、プロピオン酸菌科(Propionibacteriaceae)に属する細菌、例えば、プロピオニバクテリウム(Propionibacterium)属、プロピオニシモナス(Propionicimonas)属、プロピオニフェラックス(Propioniferax)属、プロピオニミクロビウム(Propionimicrobium)属、プロピオニビブリオ(Propionivibrio)属に属する菌等が挙げられ、特に制限されないが、プロピオニバクテリウム属に属する菌(プロピオニバクテリウム属菌)がより好ましい。プロピオニバクテリウム属菌としては、例えば、プロピオニバクテリウム・フロイデンライヒ(Propionibacterium freudenreichii)、プロピオニバクテリウム・トエニー(Propionibacterium thoenii)、プロピオニバクテリウム・アシディプロピオニシ(Propionibacterium acidipropionici)、プロピオニバクテリウム・ジェンセニー(Propionibacterium jensenii)等のチーズ製造用の細菌、プロピオニバクテリウム・アビダム(Propionibacterium avidum)、プロピオニバクテリウム・アクネス(Propionibacterium acnes)、プロピオニバクテリウム・リンホフィラム(Propionibacterium lymphophilum)、プロピオニバクテリウム・グラニュロサム(Propionibacterium granulosam)、プロピオニバクテリウム・アラビノサム(Propionibacterium arabinosum)、プロピオニバクテリウム・シクロヘキサニカム(Propionibacterium cyclohexanicum)、プロピオニバクテリウム・イノカム(Propionibacterium innocuum)、プロピオニバクテリウム・インターメディウ(Propionibacterium intermediu)、プロピオニバクテリウム・ペントサセウム(Propionibacterium pentosaceum)、プロピオニバクテリウム・ピターズソニー(Propionibacterium peterssonii)、プロピオニバクテリウム・プロピオニカム(Propionibacterium propionicum)、プロピオニバクテリウム・ゼアエ(Propionibacterium zeae)等が挙げられる。プロピオニバクテリウム属菌としては、Propionibacterium freudenreichii(以降、P. freudenreichiiともいう)、Propionibacterium acidipropionici(以降、P. acidipropioniciともいう)及びPropionibacterium jensenii(以降、P. jenseniiともいう)がより好ましい。例えば、Propionibacterium freudenreichii ET-3株(受託番号FERM BP-8115)、Propionibacterium acidipropionici JCM6427株及びPropionibacterium jensenii JCM6433株をより好適に用いることができる。
【0015】
なおPropionibacterium freudenreichii ET-3株は、2001年8月9日付け(原寄託日)で独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番1中央第6)に、受託番号FERM BP-8115の下でブタペスト条約に基づき国際寄託されている。なお本寄託株は2002年7月11日に国内寄託(原寄託)からブダペスト条約に基づく国際寄託に移管された。
【0016】
一方、Propionibacterium acidipropionici JCM6427株及びPropionibacterium jensenii JCM6433株は、独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンター微生物材料開発室(日本国茨城県つくば市高野台3丁目1番地の1)から、カタログ(例えば、オンラインカタログのURL: http://www.jcm.riken.go.jp/JCM/catalogue.shtml)に記載されたそれぞれの菌株のJCM番号に基づいて入手可能である(例えば、JCM6427株についてはURL: http://www.jcm.riken.go.jp/cgi-bin/jcm/jcm_number?JCM=6427;JCM6433株についてはURL: http://www.jcm.riken.go.jp/cgi-bin/jcm/jcm_number?JCM=6433を参照)。
【0017】
これらプロピオン酸菌を培養するためには、プロピオン酸菌等の微生物培養に通常用いられる培地を使用することができる。すなわち炭素源(ラクトース、グルコース、スクロース、フラクトース、ガラクトース、廃糖蜜など)、窒素源(カゼインの加水分解物、ホエイタンパク質加水分解物、大豆タンパク質加水分解物等の有機窒素含有物など)、無機物その他の栄養素を含有する任意の培地を使用可能である。培地は、例えば、栄養源として、ホエイ、カゼイン、脱脂粉乳、ホエイタンパク質濃縮物(WPC)、ホエイタンパク質分離物(WPI)、酵母エキス、大豆エキス、トリプチケース等のペプトン、ブドウ糖、乳糖等の糖類、乳清ミネラル等のミネラル類等、若しくはこれらを多く含有する食品、又はその酵素処理物を配合して調製することができる。限定するものではないが、ホエイ又はその酵素加水分解物を培地に添加するのも好ましい。例えば、限定するものではないが、TPY培地(実施例1に記載)を本発明に係るプロピオン酸菌の培養に用いることも好ましい。
【0018】
プロピオン酸菌の培養には嫌気的又は好気的培養法を用いることができる。限定するものではないが、液体培地による嫌気的又は好気的培養法を用いるのが好ましい。培養時間は、特に限定されないが、0.5〜200時間、好ましくは50〜100時間、より好ましくは60〜80時間で行うことができる。また培養温度は、特に限定されないが、20〜50℃、好ましくは25〜45℃、より好ましくは30〜40℃で行うことができる。培養は炭酸ガス又は窒素ガス通気下にて嫌気的に行ってもよいし、空気通気下で攪拌又は振とうすることにより好気的に行ってもよい。好適な一つの培養例では、滅菌した培地にプロピオン酸菌を接種し、窒素雰囲気下、35〜39℃(より好ましくは37℃)で24〜96時間嫌気培養することができる。
【0019】
このようなプロピオン酸菌の培養工程によって得られた培養物を用いて、本発明に係るプロピオン酸菌の菌体を有効成分として含む血中コレステロール低減剤を調製することができる。プロピオン酸菌の培養物それ自体を血中コレステロール低減剤として用いることができる。あるいは、本発明に係るプロピオン酸菌の培養物の処理物をそのまま血中コレステロール低減剤として用いてもよい。そのような処理物としては、例えば、培養物をエバポレーター等により濃縮した濃縮物、破砕物、ペースト化物、滅菌処理物、溶解処理物、希釈物、又は乾燥物(例えば、噴霧乾燥物、真空乾燥物、ドラム乾燥物、凍結乾燥物若しくは凍結乾燥破砕物)などが挙げられる。プロピオン酸菌の培養物又はその処理物を用いた血中コレステロール低減剤は、有効成分としてプロピオン酸菌の菌体を含有する。
【0020】
プロピオン酸菌の培養物をろ過又は遠心分離等することにより、菌体(プロピオン酸菌細胞)を培養液から分離することができる。分離した菌体はそのまま血中コレステロール低減剤として用いることができる。分離した菌体について濃縮、破砕、ペースト化、滅菌処理、溶解処理、希釈、又は乾燥等の処理を施してもよい。そのような分離菌体の濃縮物、破砕物、ペースト化物、滅菌処理物、溶解処理物、希釈物、又は乾燥物(例えば、噴霧乾燥物、真空乾燥物、ドラム乾燥物、凍結乾燥物、又は凍結乾燥粉末等の凍結乾燥破砕物)などの処理物も、血中コレステロール低減剤として用いることができる。プロピオン酸菌の培養物から分離した菌体又はその処理物を用いた血中コレステロール低減剤は、有効成分としてプロピオン酸菌の菌体を含有する。
【0021】
培養物の希釈物又は分離した菌体の希釈物は、水、若しくは製剤上許容される他の溶媒、例えば、アルコール類、炭化水素類、有機酸、有機塩基、無機酸、無機塩基、超臨界流体等を単独あるいは複数を組み合わせて用いて調製することができる。また、これらの溶媒で希釈して得られた可溶性画分又は不溶性画分も血中コレステロール低減剤として又はその有効成分として使用することができる。
【0022】
血中コレステロール低減剤の有効成分として含まれる菌体は、生菌体であっても死菌体であってもよい。本発明において死菌体には、プロピオン酸菌培養物又はその処理物に含まれる死菌体、該培養物から分離した菌体又はその処理物に含まれる死菌体等が包含される。そのような死菌体としては、例えば濃縮菌体、破砕菌体、ペースト化菌体、滅菌処理菌体、溶解処理菌体、可溶化菌体、乾燥菌体(例えば凍結乾燥菌体)、乾燥破砕菌体(例えば、凍結乾燥粉末等の形態の凍結乾燥破砕菌体)等が挙げられる。本発明において死菌体は、菌体の細胞破砕物や乾燥粉末のようにもはや細胞の形態を有していない菌体処理物であってよい。
【0023】
血中コレステロール低減剤の調製に用いられる菌体は、洗浄されていることがより好ましい。洗浄により、プロピオン酸を含む培地成分が菌体から除去される。血中コレステロール低減剤の調製に用いられる菌体は、滅菌処理されていることも好ましい。より好ましい実施形態では、血中コレステロール低減剤の調製に用いられる菌体は、洗浄及び滅菌処理されている。例えば、洗浄及びその後の滅菌処理により、典型的には、菌体からプロピオン酸を含む培地成分が除去され、また滅菌処理により菌体は死菌体となる。本発明において滅菌処理とは、破砕、加熱、加圧、溶菌、紫外線照射等の処理により菌を死滅させることであり、例えば乾熱滅菌、蒸気滅菌、高圧蒸気滅菌、超音波滅菌、電磁波滅菌、紫外線滅菌、破砕滅菌、化学的滅菌等を挙げることができるが、これらの例に限定されない。
【0024】
2.血中コレステロール低減剤の効果
本発明に係る血中コレステロール低減剤は、優れた血中コレステロール低減効果を有する。本発明に係る血中コレステロール低減剤の血中コレステロール低減効果は、例えば、後述の実施例に記載のようにして測定することができる。
【0025】
簡単に述べると、上記の血中コレステロール低減剤(例えば、プロピオン酸菌の培養物若しくはその処理物、又はその菌体若しくはその処理物)を含む飼料を動物(例えばマウス等のげっ歯動物)に一定期間にわたり自由摂取させた後、採取した血液試料中のコレステロール値を常法により測定する(試験群)。また対照群として、血中コレステロール低減剤に代えてスクロースを含む対照飼料を同様に自由摂取させた後、採取した血液試料中のコレステロール値を測定する。コレステロール値としては、例えば、血清中の総コレステロール値、VLDL(超低比重リポタンパク質)-コレステロール及びLDL(低比重リポタンパク質)-コレステロール値(いわゆる悪玉コレステロール値)、HDV(高比重リポタンパク質)-コレステロールコレステロール)値(いわゆる善玉コレステロール値)又は中性ステロール値を測定することが好ましい。また、健常人又は高脂血症の患者に本発明に係る血中コレステロール低減剤の安全量を投与し、血液中のコレステロール値を測定してもよい。
【0026】
本発明に係る血中コレステロール低減剤は、試験群における血清総コレステロール(TC)値を、対照群と比較して有意に低減することができる。本発明に係る血中コレステロール低減剤はさらに、血清VLDL-コレステロール及びLDL-コレステロール値を、対照群と比較して有意に低減することができ、好ましい実施形態では、対照群と比較して25%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは34%以上低減する。本発明に係る血中コレステロール低減剤は、対照群と比較して血清HDL-コレステロール値を有意に低下させない。
【0027】
同様に、本発明に係る血中コレステロール低減剤を含む飼料(試験群)又は上記対照飼料を動物(例えばマウス等のげっ歯動物)に自由摂取させた後に採取した血液試料についてトリグリセリド(TG)値を常法により測定することも好ましい。本発明に係る血中コレステロール低減剤は、血清トリグリセリド(TG)値を、対照群と比較して低減させる。
【0028】
本発明に係る血中コレステロール低減剤はまた、糞便中へのコレステロールの排泄及び胆汁酸の排泄を促進することができる。本発明に係る血中コレステロール低減剤によるコレステロール排泄量及び胆汁酸排泄量は、実施例に記載のように測定することができる。具体的には、血中コレステロール低減剤を含む飼料又は上記対照飼料を動物(例えばマウス等のげっ歯動物)に一定期間にわたり自由摂取させ、排泄した糞便を採取し、その糞便に内部標準物質(例えば5α−コレスタン)を含有する1M水酸化カリウム−エタノール溶液を加え、攪拌及び均質化の後に100℃×60分間の条件で抽出し、さらに等量の水及び石油エーテルの混合物を加え、攪拌して得た石油エーテル層を分離し、それを十分洗浄した後に溶媒を乾固し、n−ヘキサンに再溶解し、ガスクロマトグラフィー(GC)で測定することにより、糞便中の中性ステロール量(中性ステロール排泄量)を決定できる。また採取した糞便を乾燥及び粉砕した糞便粉末にエタノールを加え、攪拌及び均質化の後に90℃×120分間の条件で抽出を行い、抽出液を遠心分離して得た上清の溶媒を乾固し、1w/v%炭酸水素ナトリウム水溶液に再溶解し、その溶解液の上清について総胆汁酸量を測定することにより、糞便中の胆汁酸量(胆汁酸排泄量)を決定できる。また、健常人又は高脂血症の患者に本発明に係る血中コレステロール低減剤の安全量を投与し、糞便中の中性ステロール量及び/又は胆汁酸量を測定してもよい。
【0029】
本発明に係る血中コレステロール低減剤は、試験群におけるコレステロール排泄量、コプロスタノール排泄量及び/又は中性ステロール排泄量を、対照群と比較して有意に増加させることができる。この血中コレステロール低減剤は、好ましい実施形態では、試験群におけるコレステロール排泄量、コプロスタノール排泄量及び/又は中性ステロール排泄量を、対照群と比較して20%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは50%以上、特に好ましくは70%以上増加させる。
【0030】
本発明に係る血中コレステロール低減剤は、試験群における胆汁酸排泄量を、対照群と比較して有意に増加させることができる。この血中コレステロール低減剤は、好ましい実施形態では、試験群における胆汁酸排泄量を、対照群と比較して50%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは100%以上、特に好ましくは140%以上増加させる。
【0031】
本発明に係る血中コレステロール低減剤は、このように糞便中へのコレステロール等の排泄及び胆汁酸の排泄を促進することにより、血中コレステロールを低減させる効果を有する。
【0032】
本発明に係る血中コレステロール低減剤は、試験群における肝臓のCYP7a1活性を、対照群と比較して有意に増加させることができる。この血中コレステロール低減剤は、好ましい実施形態では、試験群における肝臓のCYP7a1活性を、対照群と比較して20%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは50%以上、特に好ましくは80%以上、例えば88%以上増加させる。肝臓のCYP7a1活性はコレステロールの胆汁酸への代謝に関わることから、肝臓のCYP7a1活性の上昇は、肝臓コレステロールから胆汁酸への異化代謝を促進し、体内コレステロールの減少効果を示す。
【0033】
なお本発明に係る血中コレステロール低減剤は、好ましい実施形態では、投与対象の被験体の体重を有意に変動させない。
【0034】
本発明に係る血中コレステロール低減剤は、経口的、又は非経口的に投与することができるが、特に経口的に投与することが好ましい。
【0035】
本発明に係る血中コレステロール低減剤は、ヒト、家畜、愛玩動物、実験(試験)動物等を含む任意の哺乳動物(被験体)に投与することができる。特に、高コレステロール血症を有する哺乳動物、血中コレステロールが増加傾向にある哺乳動物、血中コレステロールが増加しやすい素因を有する哺乳動物、及び生活要因、環境要因又は他の疾患等の要因により血中コレステロールの増加リスクが高い哺乳動物が、好ましい投与対象被験体として挙げられる。
【0036】
本発明に係る血中コレステロール低減剤の投与量は、被験体の生物種、年齢、体重、投与経路、投与回数等により異なり、当業者の裁量によって広範囲に変更することができる。例えば、経口的に投与する場合には、血中コレステロール低減剤に含まれるプロピオン酸菌の菌体(生菌体又は死菌体)の投与量は、限定されるものではないが、例えば10〜10000 mg/kg体重/day、好ましくは50〜6000 mg/kg体重/day、さらに好ましくは100〜5000mg/kg体重/dayでありうる。本発明に係る血中コレステロール低減剤は、単回投与でもよいが、6〜8時間の間隔で反復的に投与してもよい。
【0037】
本発明に係る血中コレステロール低減剤は、他の血中コレステロール低減作用を有する薬剤又は食品と併用投与してもよい。血中コレステロール低減作用を有する薬剤又は食品の具体例としては、例えば、HMG-CoA還元酵素阻害剤(ブラバスタチン等)、ビフェニル化合物(プロブコール等)、陰イオン交換樹脂、ニコチン酸誘導体、フィブラート誘導体(フェノフィブラート等)、食物繊維、リポタンパク合成阻害薬(ナイアシン等)、コレステロール吸着剤、胆汁酸吸着剤(コレスチラミン等)、等を挙げることができるが、これらに限定されない。また、本発明に係る血中コレステロール低減剤は、特定保健用食品及び栄養機能食品を含む保健機能食品、特別用途食品、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント製品及び美容食品などに添加してもよい。
【0038】
本発明は、血中コレステロール低減剤を上記被験体に投与することにより血中コレステロールを低減させる方法にも関する。投与量や投与対象の被験体等は上記と同様である。本発明はさらに、血中コレステロールの低減に使用するための、上記のプロピオン酸菌の菌体(例えば、死菌体)にも関する。
【0039】
3.血中コレステロール低減のための組成物
本発明に係る血中コレステロール低減剤(例えば、プロピオン酸菌の培養物若しくはその処理物、又はその菌体若しくはその処理物)は、製剤分野において通常使用される任意の製剤補助剤を添加して、血中コレステロール低減のための組成物として提供することもできる。血中コレステロール低減のための組成物は、錠剤、顆粒剤、散剤、丸剤、カプセル剤などの固形製剤、ジェル剤、あるいは液剤、懸濁剤、シロップ剤などの液体製剤等の任意の剤形に製剤化されていてもよい。液体製剤として用いる場合には、本発明に係る血中コレステロール低減のための組成物を、使用する直前に例えば生理食塩水中に再構成することを意図した乾燥物として製剤化することもできる。本発明は、上記血中コレステロール低減剤と製剤補助剤とを含む血中コレステロール低減のための組成物(各種剤形に製剤化されたものであってよい)にも関する。本発明はさらに、上記血中コレステロール低減剤の有効成分であるプロピオン酸菌の菌体(好ましくは死菌体)と製剤補助剤とからなる血中コレステロール低減のための組成物にも関する。血中コレステロール低減剤の有効成分であるプロピオン酸菌の菌体は、血中コレステロール低減剤について上述した通りである。例えばプロピオン酸菌の菌体は、死菌体であることが好ましく、また洗浄及び乾燥されていることも好ましい。この本発明に係る血中コレステロール低減のための組成物は医薬組成物であってよい。
【0040】
製剤補助剤としては、製薬上許容される、不活性担体(固体又は液体担体)、賦形剤、界面活性剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤、着色剤、矯味剤、保存剤、緩衝剤等の、様々な薬物担体又は添加剤を用いることができる。具体的には、水、他の水性溶媒、製薬上許容される有機溶媒、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、水溶性デキストリン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトースなどの他、リポゾームなどの人工細胞構造物等も挙げられる。また、適当量のカルシウムを含んでいてもよい。製剤補助剤は、製剤の剤形に応じて適宜又は組み合わせて選択されうる。本発明に係る血中コレステロール低減のための組成物はまた、適当量のビタミン、ミネラル、有機酸、糖類、アミノ酸、ペプチド類などを含んでもよい。
【0041】
本発明に係る血中コレステロール低減剤の血中コレステロール低減のための組成物への配合量は剤形、使用する製剤補助剤、対象疾患の重症度などによって異なり、特に限定されない。血中コレステロール低減のための組成物の総重量に対するプロピオン酸菌の菌体の重量(乾燥重量)の割合で、例えば、0.001〜100 %(w/w)の含量で配合することができ、好ましくは0.01〜100%(w/w)、さらに好ましくは0.1〜100%(w/w)の含量で配合することができる。
【0042】
本発明に係る血中コレステロール低減のための組成物は、他の血中コレステロール低減作用を有する物質をさらに含んでもよい。血中コレステロール低減作用を有する物質としては、例えば、HMG-CoA還元酵素阻害剤(ブラバスタチン等)、ビフェニル化合物(プロブコール等)、陰イオン交換樹脂、ニコチン酸誘導体、フィブラート誘導体(フェノフィブラート等)、食物繊維、リポタンパク合成阻害薬(ナイアシン等)、コレステロール吸着剤、胆汁酸吸着剤(コレスチラミン等)等を挙げることができるが、これらに限定されない。本発明に係る血中コレステロール低減のための組成物は、プロピオン酸を含まないことも好ましい。また、本発明に係る血中コレステロール低減のための組成物は、特定保健用食品及び栄養機能食品を含む保健機能食品、特別用途食品、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント製品及び美容食品などに添加してもよい。
【0043】
4.血中コレステロール低減のための飲食品
本発明に係る血中コレステロール低減剤(例えば、プロピオン酸菌の培養物若しくはその処理物、又はその菌体若しくはその処理物)は、飲食品に含めて使用することもできる。したがって本発明は、本発明に係る血中コレステロール低減剤を含む飲食品にも関する。好ましい実施形態では、本発明は、本発明に係る血中コレステロール低減剤と製剤補助剤を含む飲食品に関する。さらに本発明は、本発明に係る血中コレステロール低減剤と製剤補助剤とからなる飲食品も提供する。本発明はまた、上記血中コレステロール低減剤の有効成分であるプロピオン酸菌の菌体(好ましくは死菌体)と製剤補助剤とを含む血中コレステロール低減のための飲食品にも関する。例えば本発明は、上記血中コレステロール低減剤の有効成分であるプロピオン酸菌の菌体(好ましくは死菌体)と製剤補助剤とからなる血中コレステロール低減のための飲食品(例えば、サプリメント製品)も提供する。上記血中コレステロール低減剤の有効成分であるプロピオン酸菌の菌体は、血中コレステロール低減剤について上述した通りである。例えばプロピオン酸菌の菌体は、死菌体であることが好ましく、また洗浄及び乾燥されていることも好ましい。製剤補助剤としては、血中コレステロール低減のための組成物について上述したものを用いることができる。
【0044】
本発明に係る飲食品は、加工食品、惣菜、菓子、調味料、飲料等の任意の飲食品であってよい。本発明に係る飲食品は、機能性食品であってもよい。本発明において「機能性食品」は、生体に対して一定の機能性を有する食品を意味し、例えば、特定保健用食品(条件付きトクホ[特定保健用食品]を含む)及び栄養機能食品を含む保健機能食品、特別用途食品、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント製品(例えば、錠剤、被覆錠、糖衣錠、カプセル及び液剤などの各種剤形のもの)及び美容食品(例えばダイエット食品)などのいわゆる健康食品全般を包含する。本発明の機能性食品はまた、コーデックス(FAO/WHO合同食品規格委員会)の食品規格に基づく健康強調表示(Health claim)が適用される健康食品を包含する。本発明に係る機能性食品は、例えば、高コレステロール血症又はその傾向があるヒトのためのサプリメントであってよい。
【0045】
本発明に係る飲食品は、固体、液体、懸濁液、ペースト、ゲル状、粉末、顆粒、カプセル等の任意の食品形態であってよい。本発明に係る血中コレステロール低減剤又はプロピオン酸菌の菌体は、当業者が利用可能である任意の適切な方法によって、飲食品に含有させればよい。例えば、本発明に係る血中コレステロール低減剤を、液状、ゲル状、固体状、粉末状又は顆粒状に調製した後、それを飲食品に配合してもよいし、飲食品の原料中に直接添加した後に飲食品に加工してもよい。本発明に係る血中コレステロール低減剤を、カプセル封入してもよいし、可食フィルムや食用コーティング剤などで包み込んでもよい。また本発明に係る血中コレステロール低減剤に適切な賦形剤等を加えた後、錠剤などの任意の形状に成形してもよい。本発明に係る飲食品は、例えば、各種食品(牛乳、清涼飲料、発酵乳、ヨーグルト、チーズ、パン、ビスケット、クラッカー、ピッツァクラスト、調製粉乳、流動食、病者用食品、栄養食品、冷凍食品、加工食品その他の市販食品等)に、本発明に係る血中コレステロール低減剤又は該血中コレステロール低減剤の有効成分であるプロピオン酸菌の菌体(好ましくは死菌体)を添加して調製してもよい。
【0046】
本発明の血中コレステロール低減剤又はプロピオン酸菌の菌体を含有する飲食品においては、水、タンパク質、糖質、脂質、ビタミン類、ミネラル類、有機酸、有機塩基、果汁、フレーバー類等を主成分として使用することもできる。タンパク質としては、例えば全脂粉乳、脱脂粉乳、部分脱脂粉乳、カゼイン、ホエイ粉、ホエイタンパク質、ホエイタンパク質濃縮物、ホエイタンパク質分離物、α−カゼイン、β−カゼイン、κ−カゼイン、β−ラクトグロブリン、α−ラクトアルブミン、ラクトフェリン、大豆タンパク質、鶏卵タンパク質、肉タンパク質等の動植物性タンパク質、これらの分解物;バター、乳清ミネラル、クリーム、ホエイ、非タンパク態窒素、シアル酸、リン脂質、乳糖等の各種乳由来成分などが挙げられる。カゼインホスホペプチド、アルギニン、リジン等のペプチドやアミノ酸を含んでいてもよい。糖質としては、例えば、糖類、加工澱粉(テキストリンのほか、可溶性澱粉、ブリティッシュスターチ、酸化澱粉、澱粉エステル、澱粉エーテル等)、食物繊維などが挙げられる。脂質としては、例えば、ラード、魚油等、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の動物性油脂;パーム油、サフラワー油、コーン油、ナタネ油、ヤシ油、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の植物性油脂などが挙げられる。ビタミン類としては、例えば、ビタミンA、カロチン類、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD群、ビタミンE、ビタミンK群、ビタミンP、ビタミンQ、ナイアシン、ニコチン酸、パントテン酸、ビオチン、イノシトール、コリン、葉酸などが挙げられ、ミネラル類としては、例えば、カルシウム、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、銅、鉄、マンガン、亜鉛、セレンなどが挙げられる。有機酸としては、例えば、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、エリソルビン酸などが挙げられる。これらの成分は、2種以上を組み合わせて使用することもでき、それぞれ合成物であっても天然物であってもよい。
【0047】
このような血中コレステロール低減のための飲食品は、それを摂取した被験体において血中コレステロールの低減を促進する作用を有する。この血中コレステロール低減のための飲食品は、上記血中コレステロール低減剤と同様の被験体を投与対象として提供されうる。
【実施例】
【0048】
実施例1
[乾燥菌体の作製]
表1に記載のプロピオン酸菌及び乳酸菌の各菌株について、下記のようにして乾燥菌体を作成した。以降、各種菌株を表1記載の略号で記載することがある。
【0049】
【表1】

【0050】
菌株名にJCM番号を含む菌株は、独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンター微生物材料開発室から入手した。
【0051】
(培地の調製)
TPY培地(TrypticaseTM ペプトン(BBL社) 8 g/l、PhytoneTM ペプトン(BBL社) 3 g/l、酵母エキス 5 g/l、K2HPO4 2 g/l、KH2PO4 3 g/l、MgCl2・6H2O 0.5 g/l、L-システイン 0.5 g/l、FeSO4・7H2O 0.01 g/l、グルコース 20 g/l)を調製し、以下の培養に用いた。
【0052】
(プロピオン酸菌及び乳酸菌の培養)
メジューム瓶を用いた撹拌培養を行った。まずメジューム瓶に培地を入れ、窒素通気した後に表1に示す各種菌株を接種した。さらに、ゴム栓で密閉して、37℃で、96時間(ET-3)、48時間(JCM 6427及びJCM 6432)、72時間(JCM6433)、又は24時間(JCM8132及びJCM1149)、撹拌培養した。
【0053】
(菌体の洗浄・乾燥・粉砕)
攪拌培養によって得られた培養物を遠心分離して集菌し、得られた菌体を、オートクレーブ(121℃、15分)にて滅菌した超純水で2回洗浄した。さらに、洗浄後の菌体を凍結乾燥し、次いで電動ミキサー(ナショナル製、ファイバーミキサーMX-X43)にて粉砕した。得られた粉砕物は、下記実施例2及び3で乾燥菌体粉末として用いた。
【0054】
実施例2
[プロピオン酸菌及び乳酸菌の菌体の作用]
(試験飼料の調製)
実施例1で作製した乾燥菌体粉末を用いた各種試験飼料、及び対照飼料を表2に従って調製した。対照飼料はAIN-76飼料組成を一部改変して調製した(表2)。試験飼料は、実施例1で作製した各菌株(ET-3、JCM6427、JCM6432、JCM6433、JCM8132、JCM1149T)の乾燥菌体粉末を、飼料全体の3.0w/w%となるように対照飼料のスクロースの一部と置換して調製した。
【0055】
【表2】

【0056】
なお、表2に記載のAIN-76 ミネラル混合及びAIN-76 ビタミン混合の組成を表3に示す。AIN-76飼料の組成は、米国国立栄養研究所(American Institute of Nutrition)から1976年に発表されたマウス・ラット用の栄養研究のための標準精製飼料組成である。
【0057】
【表3】

【0058】
(動物実験)
4週齢のWister系雄性ラット(SPF/VAF CRlj:WI、日本チャールス・リバー製)を個体別のケージに入れ、対照飼料を用いて7日間予備飼育した。その後に、群間で平均体重が均一になるよう留意して1群3匹ずつ、7群(対照群、試験群(ET-3投与群、JCM6427投与群、JCM6432投与群、JCM6433投与群、JCM8132投与群、JCM1149投与群))に群分けを行った。群分け後、体重を測定し(試験開始時の体重)、対照群には対照飼料を、各試験群には各試験飼料(表2)を水道水と共に9日間自由摂取させて飼育した。対照飼料又は試験飼料の自由摂取開始以降は、各個体の体重及び摂餌量を毎日測定した。対照飼料又は試験飼料の自由摂取開始から10日目に全てのラットについて体重測定を行い(試験10日目の体重)、麻酔下で心臓採血を行って屠殺した。その後速やかに肝臓及び盲腸を摘出した。残った死骸についても重量を測定した(内臓摘出屠体重)。
【0059】
(血液成分の分析)
採取した血液は血清分離後、総コレステロール(以降、TCともいう)の測定に供した。TCは、コレステロールE−テストワコー(和光純薬社製)を用い、添付文書記載の操作法に従って測定した。
【0060】
(結果)
測定結果を表4に示す。試験期間中、各個体は恒常的な成長を示した。体重、体重の増加量、内臓摘出屠体重のいずれにおいても、群間に有意差(p<0.05、スチューデントt検定)を認めなかった。血清総コレステロール(TC)については、ET-3投与群、JCM6427投与群及びJCM6433投与群は、対照群と比較して有意に(p<0.05、スチューデントt検定)低い値を示した。したがってこれらの試験飼料が、血中コレステロールを低減する効果を有することが示された。
【0061】
【表4】

【0062】
実施例3
[プロピオン酸菌の菌体の作用]
(試験飼料の調製)
実施例2と同様にして、実施例1で作製した乾燥菌体粉末(JCM6427株、JCM6433株)を用いた試験飼料、及び対照飼料を表2に従って調製した。
【0063】
(動物実験)
4週齢のWister系雄性ラット(SPF/VAF CRlj:WI、日本チャールス・リバー製)を個体別のケージに入れ、対照飼料を用いて13日間予備飼育した。その後に、群間で平均体重が均一になるよう留意して1群8匹ずつ、3群(対照群、試験群(JCM6427投与群、JCM6433投与群))に群分けを行った。群分け後、体重を測定し(試験開始時の体重)、対照群には対照飼料を、各試験群には上記で調製した各試験飼料を水道水と共に9〜11日間自由摂取させて飼育した。対照飼料又は試験飼料の自由摂取開始以降は、各個体の体重及び摂餌量を毎日測定した。また、対照飼料又は試験飼料の自由摂取開始後4日〜解剖時に各個体が排泄した糞便を全量採取した。対照飼料又は試験飼料の自由摂取開始から10日目〜12日目の午前10時にラットについて体重測定を行い(試験10〜12日目の体重)、麻酔下で心臓採血を行って屠殺した。その後速やかに肝臓を生理食塩水で灌流脱血して摘出し、さらに盲腸及び後腹壁脂肪も摘出した。残った死骸についても重量を測定した(内臓摘出屠体重)。
【0064】
なお、屠殺は各試験群の体重が重い個体から順に、試験10日目は3匹、試験11日目は3匹、試験12日目は2匹について行った。
【0065】
(血液成分の分析)
採取した血液から血清分離後、総コレステロール(TC)、トリグリセリド(以降、TGともいう)、リポタンパク質コレステロール(VLDL(超低比重リポタンパク質)コレステロール、LDL(低比重リポタンパク質)コレステロール及びHDL(高比重リポタンパク質)コレステロール)の測定に供した。
【0066】
TCは、コレステロールE−テストワコー(和光純薬製)を用い、添付文書記載の操作法に従って測定した。
【0067】
TGは、トリグリセライドE−テストワコー(和光純薬製)を用い、添付文書記載の操作法に従って測定した。
【0068】
リポタンパク質コレステロールの測定は、血清を0.45μmのメンブレンフィルターで濾過した後、ポストラベルHPLC装置に導入して実施した。用いたHPLC条件は以下の通りである。
【0069】
<HPLC条件>
カラム:Lipopropak XL(φ7.8mm×300mm、東ソー)
カラム温度:25℃
移動層:TSKeluent LP-1(東ソー)(流速0.5ml/分)
ポストラベル反応液:酵素キット溶液(流速0.5ml/分)
(コレステロールE−テストワコー、和光純薬)
反応コイル:反応コイルK(φ0.4mm×7.5m、東ソー)
反応温度:37℃
検出器:フォトダイオードアレイ検出器(SPD-M20A、島津製作所)にてUV 600nmを検出
【0070】
(盲腸内容物の分析)
摘出した盲腸は、速やかに氷上で切開して内容物を採取し、さらにこれを分割して腸内細菌叢の解析に供した。
【0071】
腸内細菌叢の解析は、光岡の方法(光岡知足、「腸内菌の世界」、冬至書房新社、pp.53-92(1984))に準じて行った。具体的には、盲腸内容物を嫌気性希釈液(K2HPO4 0.3g/L、KH2PO40.18g/L、NaCl 0.45g/L、(NH4)2SO40.45g/L、CaCl2 0.045g/L、MgSO4・H2O 0.09g/L、レサズリン 0.001g/L、L-システイン塩酸塩0.5g/L、L-アスコルビン酸 0.5g/L、Na2CO3 4g/L、寒天 0.5g/L)で希釈後、冷蔵して5時間以内に培養を行った。培養前に、嫌気性雰囲気下において嫌気性希釈液で10〜10まで段階希釈を行い、非選択培地3種及び選択培地14種の寒天平板培地にこの希釈液を塗抹して培養した。好気培養は、37℃のインキュベーターにて行った。嫌気培養は、炭酸ガス加スチールウールジャー法により37℃のインキュベーターにて行った。表5に使用した培地と培養法を示す。なお、培地は、市販のもの又は文献(光岡知足、「腸内菌の世界」、冬至書房新社、pp.319-327(1984))記載の方法に従って調製したものを用いた。
【0072】
【表5】

【0073】
培養終了後、コロニー形態及びコロニー数を調べ、次いで全てのコロニーを釣菌してBL(Blood liver)平板培地を用いて好気性発育を調べた。また、全てのコロニーの菌をスライドグラス上に火炎固定し、グラム染色標本を作製した。グラム染色標本は鏡検を行い、グラム染色性、菌形態、芽胞の有無を調べた。
【0074】
各選択培地での生菌数(コロニー数)及びコロニー形態、ならびにBL平板培地での好気性発育、グラム染色性、菌形態、芽胞形成性、及びレシチナーゼ生産性等の観察結果から、細菌叢を菌群レベルで同定した。さらに、同定した各菌群の菌数について盲腸内容物の湿重量1g当たりの対数値を算出した。
【0075】
(肝臓の分析)
摘出した肝臓は一部を切除してミクロソーム画分を調製し、コレステロール-7α-ヒドロキシラーゼ(CYP7a1)活性の測定に供した。本酵素は日内変動がみられるので、活性の高い暗期に解剖を行った。調製した肝臓ミクロソーム画分について、その中に存在するコレステロールを基質として、Ogishimaら(Ogishima T et al.、Anal. Biochem.、158、pp.228(1986))のHPLCを用いた手法にてCYP7a1を測定した。
【0076】
具体的には、肝臓ミクロソーム画分を37℃×20分間の条件でインキュベーションして、コレステロールから7α-ヒドロキシコレステロールを生成させた。続いて、コレステロールオキシダーゼ(Sigma製)を添加し、37℃×10分間の条件でインキュベーションして7α-ヒドロキシコレステロールから7α-ヒドロキシ-4-コレステン-3-オンを生成させた。サンプルを以下のHPLC条件でHPLCに供し、生成した7α-ヒドロキシ-4-コレステン-3-オン量を測定した。
【0077】
<HPLC条件>
カラム:Shim-pack CLC-SIL(φ4.6mm×150mm、島津製作所製)
カラム温度:20℃
移動層:n-ヘキサン:2-プロパノール=82:12(流速0.5ml/min)
検出器:UV検出器 (UV 240nmを検出)
【0078】
CYP7a1活性を、肝臓ミクロソーム画分のタンパク質1mgが1分間に生成した7α-ヒドロキシ-4-コレステン-3-オンの量(nmol/min/mg protein)で表した(下記表6)。
【0079】
(糞便の分析)
上記で採取した糞便は-80℃で凍結しておき、各種測定(中性ステロール、胆汁酸)に供した。
【0080】
<中性ステロールの測定>
採取した糞便の一部を送風乾燥機中で乾燥(60℃×1晩)して粉砕した糞便粉末を、コレステロールの測定に供した。糞便粉末0.25gに、0.5mgの内部標準物質(5α−コレスタン(Sigma))を含有する1M水酸化カリウム−エタノール溶液3mlを加え、攪拌、均質化の後に100℃×60分間の条件で抽出した。続いて、蒸留水3ml及び石油エーテル3mlを加えて攪拌し、石油エーテル層を分離した。残った水層に石油エーテル3mlを加え、攪拌し、石油エーテル層を分離した。得られた石油エーテル層を水5mlで3回洗浄した後に、溶媒を乾固し、n−ヘキサンで再溶解した。この溶解液をガスクロマトグラフィー(GC)に導入して測定を行った。内部標準物質とのピーク面積比から糞便中のコレステロール及びコプロスタノール(腸内細菌のコレステロール異化産物)の含量を算出した。さらに、コレステロール及びコプロスタノールの総和を中性ステロールの値として算出した。用いたGC条件は以下の通りである。
【0081】
<GC条件>
GC装置:高性能汎用ガスクロマトグラフGC-2014(島津製作所)
カラム:キャピラリーカラムTC-5(φ0.5mm×15m、GLサイエンス)
カラム温度:250℃
キャリアガス:ヘリウム(流速15ml/min)
検出器:水素炎イオン検出器(FID)(FID-2014、島津製作所)
【0082】
<胆汁酸の測定>
また、採取した糞便の一部を送風乾燥機中で乾燥(60℃×1晩)して粉砕した糞便粉末を胆汁酸の測定に供した。糞便粉末0.25gにエタノール1mlを加え、攪拌、均質化の後に90℃×120分間の条件で抽出した。抽出液を遠心分離し、得られた上清の溶媒を乾固し、1w/v%炭酸水素ナトリウム水溶液で再溶解した。この溶解液を遠心分離し、得られた上清について、胆汁酸−テストワコー(和光純薬)を用い、添付文書記載の操作法に従って測定した。
【0083】
(統計処理)
各測定項目の結果は、測定値の平均値±標準誤差で示した。試験群間の有意差検定は、一元配置分散分析の後にHolmの多重比較法を用いて行い、p<0.05をもって統計的に有意であると判定した。
【0084】
(結果)
以上の測定結果を表6に示す。試験期間中、各個体は恒常的な成長を示した。体重、体重の増加量、内臓摘出屠体重、飼料摂取量のいずれにおいても、群間に有意差を認めなかった。後腹壁脂肪は、対照群に比べてJCM6433投与群及びJCM6427投与群は低い傾向が認められ、特にJCM6427投与群はより低値を示した。
【0085】
血清総コレステロールについて、JCM6433投与群及びJCM6427投与群は対照群と比較して有意に低い値を示した。血清VLDLコレステロールとLDLコレステロールの総和についても、JCM6433投与群及びJCM6427投与群は対照群と比較して有意に低い値を示した。一方、血清HDLコレステロールについては、試験群と対照群で差は認められなかった。また、トリグリセリドは、JCM6433投与群及びJCM6427投与群は対照群と比較して低い傾向を示した。
盲腸内容物の腸内細菌叢は試験群と対照群で差異は認められなかった。
【0086】
肝臓のCYP7a1活性について、JCM6427投与群は対照群に比べて有意に高い値を示し、JCM6433投与群は対照群よりも高い傾向を示した。素CYP7a1はコレステロールの胆汁酸への変換過程を触媒するため、JCM6427投与群ではコレステロールから胆汁酸への異化代謝が促進されたことが示唆された。
【0087】
糞便中へのコレステロール排泄量、コプロスタノール排泄量及び中性ステロール排泄量について、JCM6427投与群は対照群に比べて有意に高い値を示した。さらに、胆汁酸排泄量についても、試験群は対照群に比べて有意に増加した。このことからも、JCM6427投与群ではコレステロールの排泄やコレステロールから胆汁酸への異化代謝が促進されたことが示唆された。
【0088】
【表6】

【0089】
以上の結果から、プロピオン酸菌ET-3株、JCM6427株、JCM6433株の死菌体は、血中のコレステロール(特に、悪玉コレステロール)を顕著に低減する効果を有することが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピオン酸菌の菌体を有効成分として含む血中コレステロール低減剤。
【請求項2】
プロピオン酸菌の菌体が死菌体である、請求項1に記載の血中コレステロール低減剤。
【請求項3】
プロピオン酸菌がPropionibacterium freudenreichii ET-3株(受託番号FERM BP-8115)、Propionibacterium acidipropionici JCM6427株、及びPropionibacterium jensenii JCM6433株からなる群のうち1つ又は複数である、請求項1又は2に記載の血中コレステロール低減剤。
【請求項4】
プロピオン酸菌の菌体が、洗浄及び滅菌処理されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の血中コレステロール低減剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の血中コレステロール低減剤と製剤補助剤とを含む、血中コレステロール低減のための組成物。
【請求項6】
プロピオン酸菌の菌体と製剤補助剤とを含む血中コレステロール低減のための飲食品。
【請求項7】
プロピオン酸菌が死菌体である、請求項6に記載の飲食品。
【請求項8】
プロピオン酸菌がPropionibacterium freudenreichii ET-3(受託番号FERM BP-8115)、Propionibacterium acidipropionici JCM6427、及びPropionibacterium jensenii JCM6433からなる群のうち1つ又は複数である、請求項6又は7に記載の飲食品。
【請求項9】
プロピオン酸菌の菌体が、洗浄及び滅菌処理されている、請求項6〜8のいずれか1項に記載の飲食品。

【公開番号】特開2012−201599(P2012−201599A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64911(P2011−64911)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000006138)株式会社明治 (265)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】