説明

血中ジペプチジルペプチダーゼ−IV阻害活性およびグルカゴン様ペプチド−1の分泌促進活性を併せ持つ組成物

【課題】内因性のGLP-1を増やすことが、糖尿病、肥満病の予防、治療に有効な素材を提供すること。
【解決手段】消化管ホルモンであるグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)は、抗糖尿病作用をもつことが知られているが、GLP-1の分泌を促進させるだけでは、効果は不十分であることを示し、分泌の促進だけでなく併せて分解を阻害することが効果的で、具体的には血中ジペプチジルペプチダーゼ-IV(GPP-IV)を阻害すると顕著な効果が得られた。GLP-1の分泌促進作用とGPP-IV阻害活性の両作用を併せ持つトウモロコシタンパク質Zein加水分解物(ZeinH)を、あるいはそのアミノ酸配列Leu-Pro-Pheを有効性分として含有する糖尿病又は肥満病の予防又は治療剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗糖尿病作用をもつ消化管ホルモンであるグルカゴン様ペプチド-1(以下、GLP-1と称する)の分泌促進と血中ジペプチジルペプチダーゼ-IV阻害活性の両作用を併せ持つトウモロコシタンパク質Zein加水分解物(以下、ZeinHと称する)を有効性分として含有する、あるいはそのアミノ酸配列を有効性分として含有する糖尿病又は肥満病の予防又は治療剤に関する。

【背景技術】
【0002】
耐糖能異常を含むメタボリックシンドロームの蔓延は深刻な社会問題であり、有効な予防方法、治療方法の開発が望まれる。
耐糖能異常は、膵臓ベータ細胞から分泌されるインスリンの作用不全(インスリン抵抗性)あるいは、分泌不全を伴う。グルカゴン様ペプチド-1 (GLP-1) は、回腸から大腸に多く存在する消化管内分泌細胞 (L細胞) によって産生される消化管ホルモンである。L細胞より分泌された
GLP-1 (7-37)、 GLP-1 (7-36) アミドが、活性型である。その活性は、膵臓ベータ細胞からのインスリン分泌の促進、膵臓ベータ細胞の増殖促進およびアポトーシス抑制などの作用、これに加えて食欲抑制作用を有する。これらの作用から、血中で分解されにくいGLP-1アナログ(リラグルチド、エキセネチド)が、2型糖尿病治療薬や肥満症の予防として応用されている。
活性型 GLP-1 は、血中ではジペプチヂルペプチダーゼ-IV (DPP-IV)
によりN末端の2残基が速やかに切断され、不活性型となるため活性型 GLP-1 の半減期は約2分と短い(非特許文献1)。GLP-1 半減期を延ばすことを目的として、血中の
DPP-IV を阻害する薬剤もまた、糖尿病治療薬として導入されている。しかし、食品として食べるもので血中の DPP-IV を阻害する例は、今までに報告されていない。
一方、 GLP-1 分泌を促進する物質として、糖質、脂質等がよく知られているが、肥満予防、耐糖能改善という目的においては、これらの成分の過剰摂取は、メタボリックシンドロームの病因となるため適当ではない。
GLP-1 の分泌を促進して血糖上昇を抑制する薬剤(非特許文献2)、遊離アミノ酸(グルタミン)(非特許文献3)の報告例はあるが、食品として食べるものでこれを実現した例はない。
食品ペプチドが GLP-1 分泌を促進することについては、過去に報告例がある(非特許文献4)が、これを介したインスリン分泌促進、耐糖能改善の作用は報告されていない。申請者らの実験においても
in vitro での分泌誘導活性は確認できるが、in vivoでの作用は起こらないことを見いだしている。
GLP-1の半減期を延ばす目的で、DPP-IVを阻害する薬剤(DPP-IV阻害剤)が多く開発されている。たとえば、シタグリプリンは、日本国内で2009年に販売が開始された最初の
DPP-IV 阻害剤である。食品においては,チーズ由来のペプチドが、 in vitro で DPP-IV 阻害活性を持つ(特許文献1)ことが示されているが、
in vivo で GLP-1 の半減期を伸ばすことによって、その作用増強を示す報告はない。
Zein とは、トウモロコシのタンパク質成分中の約 50% を占める分子量
24,000 の疎水性タンパク質で、水に不溶でアルコールに可溶性のプロラミンファミリーに属する。消化管での分解を受けにくいことから、代表的難消化性たんぱく質として知られる。(非特許文献5)

【0003】
【特許文献1】特許公開2007−39424:ジペプチジルペプチダーゼIV阻害剤
【特許文献2】特許公開WO/2009/107660、国際出願PCT/JP2009/053409:糖尿病又は肥満病の予防又は治療剤
【0004】
【非特許文献1】Hansen Lら, Glucagon-likepeptide-1-(7-36)amide is transformed to glucagon-like peptide-1-(9-36)amide bydipeptidyl peptidase IV in the capillaries supplying the L cells of the porcineintestine. Endocrinology. 1999 140:5356-5363.
【非特許文献2】Chu ZLら, A role for intestinal endocrinecell-expressed G protein-coupled receptor 119 in glycemic control by enhancingglucagon-like Peptide-1 and glucose-dependent insulinotropic Peptide release.Endocrinology. 2008, 149(5):2038-47.
【非特許文献3】Greenfield JRら, Oral glutamine increasescirculating glucagon-like peptide 1, glucagon, and insulin concentrations inlean, obese, and type 2 diabetic subjects. Am J Clin Nutr. 2009, 89(1):106-13.
【非特許文献4】Dumoulin Vら, Peptide YY, glucagon-likepeptide-1, and neurotensin responses to luminal factors in the isolatedvascularly perfused rat ileum. Endocrinology. 1998, 139(9):3780-6.
【非特許文献5】貝沼圭二、中久喜輝夫、大坪研一 編集「トウモロコシの科学」朝倉書店、2009年
【非特許文献6】Umezawaら、Diprotins A and B, inhibitorsof dipeptidyl aminopeptidase IV, produced by bacteria. J. Antibiot (Tokyo).1984, 37(4):422-5.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解決しようとする問題点は、慢性疾患である糖尿病、肥満症の予防、治療法として、長期間摂取可能で、安全性の高い食品や食品に準じた有用物質を開発することである。
消化管ホルモンGLP-1は、上述のように糖尿病、肥満症の予防、治療に効果的な生理作用を有するが,消化管内分泌細胞からの分泌を高めるだけでは有効性は低く、血中での分解を抑えることがその作用を十分発揮させるためには必須である。しかし、この両方を併せ持ち、なおかつ食品として安全に摂取できる成分はこれまで無かった。本発明は、GLP-1分泌促進と分解抑制の両作用を併せ持つ素材により、安全で効果の高い糖尿病、肥満病の予防又は治療剤を提供することを課題とする。

【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題解決のため,発明者らは、GLP-1の分泌を強く促進するペプチドを in vitro および in vivo において鋭意探索し、トウモロコシたんぱく質 Zein
のパパイン加水分解物 (ZeinH) にその作用が有ることを発見した。さらにこのペプチドをラット腸管に投与することで、 GLP-1 の分泌が促進され、それによってインスリン分泌促進が起こり、その結果、血糖上昇抑制作用が有ることを見出した。この時、ZeinH投与により同時に血中のDPP-IV活性が低下することを見出し、これには、
ZeinH による DPP-IV 阻害が関与することを突き止め、さらに、この阻害作用が血糖上昇抑制には必須であることも突き止めた。このDPP-IV阻害活性を有するペプチドとして、
Zein 配列中に含まれるDPP-IVに認識されるペプチドを同定して、本発明を完成させた。さらに、 ZeinH は経口投与によっても血糖上昇を抑制を示した。
DPP-IV阻害活性を有するペプチドとして, Zei n中に含まれる、プロリン (Pro)
またはアラニン (Ala)を含む、アミノ酸鎖長2から5のペプチドが有効であり,例えば Leu-Pro-Phe というトリペプチドを用いることができる。また、このトリペプチドにGLP-1
分泌促進作用があることも明らかにした。

【発明の効果】
【0007】
本発明は、GLP−1分泌の促進に加え、血中DPP-IV阻害を併せ持つことで、血糖値の上昇を効果的に抑制することができることから、これを含む経口組成物は血糖値上昇抑制用経口組成物として、また抗肥満用経口組成物として、肥満や糖尿病の予防、治療に利用することができる。
DPP-IV を阻害することで,GLP-1 の他に、GIP (Glucose
dependent insulinotropic polypeptide)、およびGLP-2 (Glucagon lilke-peptide-2)の作用も維持される。GIP
は、GLP-1 と同様にインスリン分泌促進作用を有することから,糖尿病の予防、治療に利用できる。GLP-2 は、腸管上皮の増殖作用、骨成長作用などを持つことから、DPP-IV
阻害ペプチドにより、これらにも利用できる。

【実施例1】
【0008】
トウモロコシZein加水分解物をラット腸管内に投与してグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)の分泌促進活性を証明した。
実験においては、対照組成物として、水および、過去にGLP-1分泌活性が報告(非特許文献4)されている肉たんぱく質加水分解物(肉ペプトン)を用いた。

<実験方法>
<投与した組成物>
トウモロコシZein加水分解物(ZeinH)の調製。トウモロコシZein(東京化成)を純水に懸濁し、pHを7.0から7.2に調製後、パパイン(アサヒビール社製パパインF)を対基質0.5%にて添加し、55℃にて60分間振盪した。振盪後に100℃、20分間の加熱処理を行ないパパインを失活させた。その後、濾過、遠心分離により沈殿物を除去し、0.45マイクロメートルのメンブレンフィルターにて最終濾過したものを凍結乾燥し、
Zein 加水分解物 (ZeinH) を得た。このもの 500 mgを 2 mL の水で溶解した。肉たんぱく質加水分解物 (MHY) の調製。肉ペプトン(Sigma社)
500 mg を 2 mL の水で溶解した。
<実験動物および投与とサンプリング方法>
実験動物は、 SD 系、雄ラット、7週齢を用いた。ラットの頸静脈と回腸に、それぞれ採血用と試料投与用のカニューレを麻酔下で留置し、皮下を通して頸背部に固定した。一夜絶食後に腹腔内グルコース負荷試験
(IPGTT) を実施した。試験組成物( 500 mg 乾重量を水2mLに溶解したもの)を、上記処置の回復後、無麻酔下で回腸カニューレにて直接腸内へ投与した。その30分後にグルコース(1g/kg
体重)を腹腔内投与した(0分)。
<血液の採取と分析>
頸静脈へ留置したカニューレを用いて、頸静脈血を経時的に採取した。
採取した血液より、遠心分離により血漿を回収し、血糖値をグルコース測定キット(和光純薬工業、グルコース C-IIテストキット)により測定した。Enzyme linked-immuno solvent assay (ELISA) により、インスリン濃度(シバヤギ社)、Total
GLP-1 濃度(矢内原研究所)、活性型GLP-1濃度(リンコ社)を測定した。

【0009】
<結果>
グルコース腹腔内投与の30分前に頸静脈血を採取(マイナス30分)し、回腸部位に下記の3種のサンプル溶液をそれぞれ投与した。グルコース溶液を腹腔内投与
(1 g/kg) した時点を0分とし、グルコース投与後、15、30、60分後の頸静脈血を採取した。
ZeinH 、 肉ペプトンの回腸部位への投与は、いずれも Total GLP-1
の有意な分泌増加を示した(図3)。ZeinH 投与群の方が肉ペプトン投与群よりもやや高値を示したが、グルコース負荷60分後を除いては両群間に統計的に有意な差はなかった。
しかしながら、血糖値については、ZeinH 投与群のみで上昇抑制が見られた(図1)。その際のインスリンレベルは、ZeinH
投与群が、他の2群よりも高値を示した(図2)。これにより、ZeinH がインスリン分泌を強く促進して血糖上昇を抑制することが示された。
【0010】
Total
GLP-1の変動にZeinH、肉ペプトン投与群間に違いが見られなかったことから、活性型の GLP-1(Active GLP-1) を測定したところ、ZeinH
投与群において、0分時(ZeinH 投与30分後)に他の群よりも顕著に高い値を示した(図4)。この高い活性型GLP-1レベルにより、インスリン分泌が誘導されたと考えられる。
Total GLP-1のレベルが同程度であるにも関わらず、活性型GLP-1がZeinH
投与群において高いということは、ZeinH と肉ペプトンのGLP-1 分泌活性は同程度であるが、ZeinH 投与群では、血中に分泌されたGLP-1 が、活性を維持していたことを示している。GLP-1
は血中においてDPP-IVにより速やかに分解され不活性型となることから、この結果は、ZeinH 投与群で血中DPP-IV活性が抑制された可能性が考えられた。そこで、ZeiH
投与後の血中DPP-IV 活性を測定する試験を行った。

【0011】
さらに次の実験を行った。トウモロコシZein加水分解物を麻酔下ラット腸管内に投与して血中ジペプチジルペプチダーゼ-IV(DPP-IV)
阻害活性を証明した。
実験においては、対照組成物として、水および、過去にGLP-1分泌活性が報告(非特許文献4)されている肉たんぱく質加水分解物(肉ペプトン)を用いた。
実験動物は、SD系、雄ラット、7週齢を用いた。一夜絶食後にラットを麻酔下で回復し、回腸静脈に採血用のカニューレを留置した。回腸結紮ループを作製し、水2mL、ZeinH
溶液またはMHY溶液 (500 mgを水2mLに溶解したもの)を結紮ループ内に投与した。その30分後にグルコース(1 g/kg 体重)を腹腔内投与した(0分)。
サンプル投与前(マイナス30分)から、投与後60分まで経時的に回腸静脈血を採取した。
採取した血液より血漿を分離し、Gly-Pro p-nitroanilide
p-toluenesulfonate saltを用いて血漿中DPP-IV活性を測定した。

【0012】
実験結果、ZeinH の回腸部位への投与により、0分(腹腔内グルコース投与直前)での腸間膜静脈血中のDPP-IV活性の有意な低下が認められた(図5)。水投与、肉ペプトン投与群では変化が見られなかったことから、ZeinH
に含まれるペプチドが腸管より吸収されて腸間膜静脈血中の DPP-IV を阻害していることが示唆された。この DDP-IV 活性の低下が、活性型 GLP-1 の上昇に寄与していると考えられる。DPP-IVは恒常的に血中に存在することから、
ZeinH がその分泌、合成を抑制したというよりは、腸管から吸収された ZeinH のペプチド断片が血中において DPP-IV を阻害したことを示唆している。すなわち
ZeinH は、管腔内で GLP-1 の分泌を促進し、さらに吸収された断片が DPP-IV を阻害して GLP-1 の作用を維持、増強することが示唆された。

【実施例2】
【0013】
Zeinに含まれるペプチド配列の血中DPP-IV活性への影響
【0014】
<実験方法>
DPP-IVは、N末端より2残基目のプロリン(Pro)またはアラニン(Ala)を認識して、基質であるペプチドを加水分解する。Diprotin
A (DPA)は、Ile-Pro-Ile の配列を持ち、DPP-IV阻害作用を持つトリペプチドである(非特許文献6)。トウモロコシZein のアミノ酸(図6、非特許文献7)には、Leu-Pro-Phe
(LPF、図6下線部)という配列が5カ所含まれ、このトリペプチドが腸管より吸収されて血中でのDPP-IV 阻害に寄与する可能性が考えられた。
LPF のDPP-IV 阻害活性を調べるため、各種トリペプチド共存下で、ラット血漿のDPP-IV活性を上記と同様の手法により測定した。

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61 AIATSNLPLS PLLFQQSPAL SLVQSLVQTI
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181 LATTNRASFL TQQQLLPFYQ QFSANPATLL
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図6 Zeinのアミノ酸配列(NCBI Reference Sequence: NP_001105888.1より)

【非特許文献7】NCBI Reference Sequence: NP_001105888.1
【0015】
<結果>
ラット血漿を用いたDPP-IV活性測定において、DPA、LPF、グルタチオン(ガンマ-Glu-Cys-Gly:
GSH)を300 microM共存させることにより、DPAでは80%強の阻害作用が見られ、LPFは50%程度の阻害作用を示した(図7)。同様のトリペプチドであるGSHは全く阻害作用を示さなかった。また、濃度依存性の検討により,50%阻害濃度(IC50)は、DPAでは18
microM、LPFでは205 microMであることが示された(図8)。これにより、トウモロコシZeinに含まれるトリペプチドLPFが、DPP-IV阻害活性を持つことが初めて見出された。LPFがどの程度血中に移行して、図5で見られたDPP-IV阻害に寄与しているかは不明であるが、腸間膜静脈中でDPP-IVの活性を阻害することで、管腔内のZeinHの促進によって腸間膜静脈血中に分泌された活性型GLP-1の分解を抑制している可能性が示唆された。

【実施例3】
【0016】
ペプチドLPFのGLP-1分泌作用を調べた。
マウス大腸由来のGLP-1産生細胞株GLUTagを、10% FBSを含むDulbecco's
modified Eagle's mediumにて、37℃、5% CO2存在下で培養した。GLUTag細胞を48ウェルプレートに、サブコンフルエントになるまで2-3日間培養した。サンプル添加前に、Hepesバッファー(140
mM NaCl, 4.5 mM KCl, 20 mM Hepes, 1.2 mM CaCl2, 1.2 mM MgCl2, 10 mM D-glucose,
0.1% BSA, pH 7.4)にてウェルを洗浄し、サンプルを同バッファーに溶解し、サンプル溶液80マイクロリットル添加し、37℃にて60分間インキュベーションした。サンプルとして、3.33
mM LPFを用いた。これはZeinH 20 mg/mLに含まれるLPFの濃度に相当する。また、陰性対照としてHepesバッファー(Blk)、陽性対照として脱分極刺激によりGLP-1分泌を誘導する70
mM KCl溶液を用いた。上清を回収後、遠心分離(800 x g、5分、 4℃)により細胞を沈殿させ、その上清70 マイクロリットルを回収、凍結保存した。上清中のGLP-1濃度を市販のEnzyme
immuno assay kit (矢内原研究所)にて測定した。

【0017】
<結果>
ペプチドLPF (3.33 mM) により、70 mM KClと同程度の有意な GLP-1
分泌量の増加が観察された(図9)。 20 mg/ml の ZeinH 場合、対照区(Blk) の3から4倍の GLP- 1分泌増加を示すことから、ZeinH中の
GLP-1 分泌活性は LPF のみに依存するものではないが、LPF そのものが GLP-1 分泌促進作用を持つことが示された。即ち、LPF は、GLP-1 分泌促進と、DPP-IV
阻害の両作用を併せ持つペプチドであることが明らかとなった。
GLUTag 細胞からの GLP-1 分泌を促進するオリゴペプチドとして、ガンマ−Glu−Cys−Gly(グルタチオン)、ガンマ−Glu−Cys(ガンマEC)が報告されている(特許文献2)が、これらは
20 mM の濃度で GLP-1 分泌を促進したことから、これに比較すると LPF は高い活性持つといえる。

【実施例4】
【0018】
<実験方法>SD系雄ラット、7週齢を用い、一夜絶食後に腹腔内グルコース負荷試験(IPGTT)を実施した。水(8mL/kg体重)、ZeinH溶液(2および4g/kg)をフィーディングチューブを用いて経口投与し、その15分後にグルコース溶液を腹腔内投与した。グルコース投与時を0分として、マイナス15分(サンプル投与直前)、0、15、30、60、90、120分においてラット尾静脈より血液を採取し、血漿中のグルコース濃度を上記と同様に測定した。
<結果>ZeinH経口投与により、濃度依存的に血糖上昇が抑制された(図10)。グルコース負荷後15分、30分において、2g/kg投与により水投与群(Control)に比べて血糖値は有意に低値を示し、4g/kg投与群ではさらに2g/kg投与群も有意な低値を示した。ここではグルコースを腹腔内投与していることから、ZeinHの作用はグルコース吸収を抑制したものではなく、GLP-1、インスリン分泌を介したものであると考えられる。これにより、ZeinHは経口投与によっても血糖上昇抑制作用を有する事が明らかとなった。

【産業上の利用可能性】
【0019】
糖尿病および肥満の予防食品および治療食品および治療剤

【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】頸静脈中グルコース濃度の変化。ラット回腸への水、肉ペプトン、ZeinH投与後の腹腔内グルコース負荷試験における頸静脈中グルコース濃度の変化を示す。値は平均値±標準誤差(n=6-7)。+は―30分の値に対して統計的有意差があることを示す。同時間において、異なるアルファベットを付した値の間に統計的有意差有り。いずれもFisher'stest、P < 0.05。
【図2】頸静脈血中インスリン濃度。ラット回腸への水、肉ペプトン、ZeinH投与後の腹腔内グルコース負荷試験における頸静脈血中インスリン濃度の変化を示す。値は平均値±標準誤差(n=6-7)。+はー30分の値に対して統計的有意差があることを示す。同時間において、異なるアルファベットを付した値の間に統計的有意差有り。いずれもFisher'stest、P < 0.05。
【図3】頸静脈血中トータルGLP-1濃度。ラット回腸への水、肉ペプトン、ZeinH投与後の腹腔内グルコース負荷試験における頸静脈血中トータルGLP-1濃度の変化を示す。値は平均値±標準誤差(n=6-7)。+は―30分の値に対して統計的有意差があることを示す。同時間において、異なるアルファベットを付した値の間に統計的有意差有り。いずれもFisher'stest、P < 0.05。
【図4】頸静脈血中のActive GLP-1濃度。ラット回腸への水、肉ペプトン、ZeinH投与後の腹腔内グルコース負荷試験における頸静脈血中活性型GLP-1濃度の変化を示す。値は平均値±標準誤差(n=6-7)。+は―30分の値に対して統計的有意差があることを示す。同時間において、異なるアルファベットを付した値の間に統計的有意差有り。いずれもFisher'stest、P < 0.05。
【図5】回腸静脈血中のDPP-IV活性。ラット回腸への水、肉ペプトン、ZeinH投与後の回腸静脈血中DPP-IV活性の変化を示す。値は平均値±標準誤差(n=6-7)。値はサンプル投与前(マイナス30分)における活性に対する相対値%で表示。*は―マイナス30分の値に対して統計的有意差があることを示す(Dunnet'st-test、P < 0.05)。異なるアルファベットを付した値の間に統計的有意差有(Fisher's test、P < 0.05)。
【図6】トウモロコシZeinタンパクのアミノ酸配列(NCBI ReferenceSequence: NP_001105888.1より)
【図7】各種トリペプチド(DPA:Leu-Pro-Ala、LPF:Leu-Pro-Phe、GSH:ガンマGlu-Cys-Gly)存在下での血中DPP-IV活性。値は3回の測定の平均値±標準誤差。
【図8】種々の濃度の各種トリペプチド(DPA:Leu-Pro-Ala、LPF:Leu-Pro-Phe)存在下での血中DPP-IV活性。値は2回の測定の平均値。
【図9】GLP-1産生細胞株におけるLPFによるGLP-1分泌マウス大腸由来GLP-1産生細胞株GLUTagを、70 mM KCl溶液、3.33mM LPF溶液に1時間暴露後の上清中GLP-1濃度を示す。値は測定の平均値±標準誤差(n=3)。異なるアルファベットを付した値の間に統計的有意差有(Tukey'stest、P < 0.05)。
【図10】ラットにおけるZeinH経口投与時の血糖値ラットに水、ZeinH溶液を経口投与後の腹腔内グルコース負荷試験における頸静脈中グルコース濃度の変化を示す。値は平均値±標準誤差(n=6-7)。同時間において、異なるアルファベットを付した値の間に統計的有意差有り。いずれもFisher'stest、P < 0.05。
【発明を実施するための形態】
【0021】
トウモロコシZeinのパパイン加水分解物
トウモロコシZeinタンパクを、水に懸濁し、パパインを対基質濃度0.5%で添加し、55℃で60分間反応させた。この反応上清を凍結乾燥したものをZein加水分解物(ZeinH)とした。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
トウモロコシZeinタンパク質の加水分解物を有効成分とする血中ジペプチジルペプチダーゼ-IV(DPP-IV)阻害活性およびグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)の分泌促進活性を併せて持つ組成物
【請求項2】
アミノ酸配列Leu-Pro-Pheのペプチドを有効成分とする血中ジペプチジルペプチダーゼ-IV (DPP-IV)阻害活性およびグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)の分泌促進活性を併せて持つ組成物
【請求項3】
アミノ酸配列Leu-Pro-Pheを含むペプチドを有効成分とする血中ジペプチジルペプチダーゼ-IV (DPP-IV)阻害活性およびグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)の分泌促進活性を併せて持つ組成物
【請求項4】
請求項1、請求項2または請求項3を成分とする糖尿病および肥満の予防食品および治療食品および治療剤。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−182742(P2011−182742A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53383(P2010−53383)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(503291428)
【出願人】(510066547)
【出願人】(593013074)
【Fターム(参考)】