説明

血中テストステロン低下抑制剤

【課題】血中テストステロンの低下を抑制し、男性更年期障害に伴う諸症状等を予防、改善する安全性の高い医薬品又は食品を提供する。
【解決手段】ツルニンジン属植物又はその抽出物を含有する血中テストステロン低下抑制剤。更に抗うつ作用を有する植物、抗不安作用を有する植物及び血中DHEA−S低下抑制作用を有する植物から選ばれる抽出物を加えることにより、血中テストステロン低下抑制効果、男性更年期障害改善効果をより有効に発揮できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血中テストステロン低下抑制作用及び男性更年期障害改善作用を有する医薬又は食品に関する。
【背景技術】
【0002】
テストステロンは、男性生殖器の発達、骨格や筋肉の発達、性欲・性衝動の亢進、及び脳や精神面の活力亢進にも影響を及ぼしているといわれている。血中テストステロンは、強いストレスを受けた場合にその濃度が低下することが知られている。血中テストステロンが低下すると、男性更年期障害や思春期遅発症等の疾病を引き起こす。
【0003】
男性更年期障害になると、多様な症状(例えば、落胆、抑うつ、苛立ち、不安、神経過敏、生気消失、疲労感、関節炎、筋肉炎、筋力低下、発汗、ほてり、睡眠障害、記憶力低下、集中力低下、肉体的消耗感、性欲低下、勃起障害、射精感の消失等)が強く発現する。男性更年期障害であるかを確認する方法として、血液検査による血中テストステロン濃度の測定やアンケートによる方法がある。男性更年期障害が発症する年代は、40歳代から50歳代の男性に対して主に認められるが、早ければ20歳代、又は60歳代以降の男性にもその症状が現れることがある。男性更年期障害の発症には働き盛りの男性が抱える仕事や家庭における様々なストレスが大きく関与していると指摘されており、最近更年期障害と疑われる中高年男性が増えている。
【0004】
斯かる血中テストステロンの低下や男性更年期障害に対し、臨床においては、テストステロンを含むアンドロゲン製剤によるホルモン補充療法が普及しつつあり、種々の症状に対する有効性が報告されている(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、この治療方法の対象となるのは、血液検査でテストステロンが明らかに低値を示し、前立腺疾患のない人に限られている。その理由としては、副作用として前立腺肥大症や前立腺癌の顕在化を起こす可能性があるからである。そこで血中テストステロン低下や男性更年期障害に伴う諸症状に対して、副作用が少なく、安全な素材で予防と緩和が期待できる医薬品又は健康食品の開発が望まれてきた。
【0005】
ツルニンジン属ツルニンジン(Codonopsis lanceolata.)は、古くより抗炎症、去痰、滋養強壮、強精等を目的に民間薬的に用いられており、特に韓国では薬膳料理として用いられている。また、粉末食品や飲料中に用いられることも報告されている(例えば、特許文献1〜2参照)。ツルニンジンの薬理作用研究や成分研究としては、精子形成促進作用及び性行動障害改善作用が報告されている(例えば、非特許文献2参照)。
しかし、ツルニンジン及びその含有成分に血中テストステロン低下抑制作用や男性更年期障害改善作用があることは報告されていない。
【特許文献1】特開2001−299273号公報
【特許文献2】特開2002−218941号公報
【非特許文献1】伊藤直樹、久末伸一、塚本泰司、男性更年期障害に対する男性ホルモン補充療法、Geriat.Med.42(9):1151−1156,2004
【非特許文献2】平成10〜12年度創薬等ヒューマンサイエンス研究総合研究報告書、第5分野 健康保持増進・予防医薬品の開発に関する研究、86−99,2001
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、血中テストステロンの低下を抑制し、男性更年期障害に伴う諸症状等を予防、改善する安全性の高い医薬品又は食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、安全性の高い天然素材について種々探索した結果、ツルニンジン属植物又はその抽出物が、血中テストステロンの低下を顕著に抑制し、男性更年期障害の諸症状に対して優れた改善効果を発揮することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち本発明は、ツルニンジン属植物又はその抽出物を含有する血中テストステロン低下抑制剤に係るものである。
【0009】
また本発明は、ツルニンジン属植物又はその抽出物を含有し、血中テストステロンの低下抑制のために用いられるものである旨の表示を付した食品に係るものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の血中テストステロン低下抑制剤によれば、前立腺肥大症や前立腺癌の顕在化等の副作用を伴うことなく、血中テストステロンの低下を抑制でき、男性更年期障害に伴う諸症状や思春期遅発症の予防、治療、改善又は軽減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明において、血中テストステロンの低下抑制とは、ストレス、加齢等により血中テストステロン濃度が正常値以下に低下するのを抑制することを意味する。従って、血中テストステロン低下抑制剤は、血中テストステロンの低下に起因する疾患や症状、例えば男性更年期障害、思春期遅発症等の予防・改善に有用である。
【0012】
本発明において、男性更年期障害の改善とは、男性更年期障害で生じる諸症状、例えば、落胆、抑うつ、苛立ち、不安、神経過敏、生気消失、疲労感、関節炎、筋肉炎、筋力低下、発汗、ほてり、睡眠障害、記憶力低下、集中力低下、肉体的消耗感、性欲低下、勃起障害、射精感の消失、老化等を予防、治療、改善又は軽減することを意味する。尚、上記男性更年期障害には、年齢に関係なく上記諸症状を認める障害全てが包含される。
【0013】
本発明におけるツルニンジン属植物としては、例えばツルニンジン(Codonopsis lanceolata Trautv.)、ヒカゲツルニンジン(pilosula Nannf.)、ヤマツルニンジン(sylvestris)等が挙げられる。このうち、好ましくはツルニンジン(lanceolata Trautv.)である。
【0014】
上記ツルニンジン属植物は、植物体を構成する要素の全て又は一部を使用することができ、例えば根、根茎、葉、茎、花、実、種子、芽等を使用することができるが、根又は根茎を用いるのが好ましい。
【0015】
ツルニンジン属植物の抽出物としては、上記のツルニンジン属植物を常温又は加温下にて抽出するか又はソックスレー抽出器等の抽出器具を用いて抽出することにより得られる各種溶剤抽出液、その希釈液、濃縮液、エキス、これを乾燥して得られる乾燥物等が挙げられる。
【0016】
本発明の抽出物を得るための抽出溶剤としては、極性溶剤、非極性溶剤のいずれをも使用することができ、これらを混合して用いることもできる。例えば、水;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール等のアルコール類;1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等の鎖状及び環状エーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;アセトニトリル等のニトリル類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;ピリジン類;超臨界二酸化炭素;油脂、ワックス、その他オイル等が挙げられ、このうち、極性溶剤、特に水、エタノール及びその混合液を用いるのが好ましい。
【0017】
抽出は、使用する溶媒によっても異なるが、慣用的な方法にて行うことができる。例えば、植物体又はその乾燥物を粉砕、破砕、又は裁断したものに極性溶媒を加え、0℃〜100℃、好ましくは70℃〜100℃で5分〜24時間、好ましくは5分〜1時間放置することにより行えばよい。
【0018】
上記の抽出物は、そのまま用いることもできるが、当該抽出物を希釈、適宜濾過又は遠心分離等の操作により不溶物を除き、溶媒を除去し、濃縮若しくは凍結乾燥した後、必要に応じて粉末又はペースト状に調製して用いることもできる。
また、液々分配技術(例えば、酢酸エチル、ジエチルエーテル、ヘキサン等の非極性溶媒で洗浄し、水で抽出すること)、各種クロマトグラフィー等の精製技術を用いて、上記抽出物から不活性な夾雑物を除去して用いることもでき、本発明においてはこのようなものを用いることが好ましい。これらは、必要により公知の方法で脱臭、脱色等の処理を施してから用いてもよい。
【0019】
ツルニンジン属植物には、Tangshenoside類、Lancemaside−A及びSyringinが含まれる。Tangshenoside類、Lancemaside−A及びSyringinの化学構造は以下の通りであり、Tangshenoside類には、Tangshenoside I及びTangshenoside IIが含まれる。
【0020】
【化1】

【0021】
これらは、後記実施例2及び3で示すように、ツルニンジン(Codonopsis lanceolata)をメタノール等アルコール類を用いて抽出し、抽出エキスを各種カラムクロマトグラフィーに付し、ついで高速液体クロマトグラフィーにより分離精製することにより得ることができる。
尚、本発明において、上記の化合物は斯かる方法に限定されず、他の天然物からの抽出又は化学合成によって得たものでもよい。
【0022】
本発明のツルニンジン属植物又はその抽出物(以下、「ツルニンジン属植物等」ともいう)は、後記実施例に示すように、優れた血中テストステロン低下抑制作用を有し、男性更年期障害改善作用を有すると共に高い安全性を有することから、食品、医薬品として使用可能な血中テストステロン低下抑制剤及び男性更年期障害改善剤とすることができる。
【0023】
本発明のツルニンジン属植物等を食品として使用する場合、男性の更年期障害に伴う諸症状(例えば、落胆、抑うつ、苛立ち、不安、神経過敏、生気消失、疲労感、関節炎、筋肉炎、筋力低下、発汗、ほてり、睡眠障害、記憶力低下、集中力低下、肉体的消耗感、性欲低下、勃起障害、射精感の消失、老化等)の予防、改善又は軽減をコンセプトとする食品、例えば製品、包装容器、カタログ、資料等に、その旨の表示を付した病者用食品、特定保健用食品等とすることができる。
【0024】
食品形態としては、固形食品、クリーム状又はジャム状の半流動食品、ゲル状食品、飲料、茶葉等あらゆる形態が可能であり、例えば、粉末、カプセル、顆粒、タブレット、ドリンク剤、ティーバッグ等の形態が挙げられる。このような飲食品は慣用方法に従って加工することができる。
【0025】
上記食品には、男性更年期障害の改善等に従来使用されている薬用植物、例えば抗うつ作用を有する植物、抗不安作用を有する植物、血中DHEA−S(Dehydroepiandrosterone sulfate,デヒドロエピアンドロステロン硫酸塩)低下抑制作用を有する植物又はその抽出物を加えることができる。尚、これらの植物は単体で、抗うつ作用、抗不安作用、血中DHEA−S低下抑制作用のいずれか2種以上の作用を持つものであってもよい。
【0026】
抗うつ作用を有する植物としては、例えば朝鮮ニンジン、エゾウコギ、セントジョンズワート、ダミアナ、イチョウ葉、バレリアン、緑茶、トケイソウ、ホップ、カモミール、スカルキャップ、ナツメ、ハスの実、カヴァカヴァ、ザクロ、オレンジフラワー、レモンバーベナ、リンデン、マジョラム、パッションフラワー、レモンバーム、ジャスミン、ラベンダー、ミント、サフラン、コラ、キハダ、ホオノキ、セリ、シソ、ラフマが挙げられ、好ましくは、ラフマである。
【0027】
抗不安作用を有する植物としては、例えばカワ、ローズ、カバ、バコバ、クラリセージ、ゼラニウム、バレリアン、カモミール、朝鮮ニンジン、エゾウコギ、ラベンダー、イチョウ葉、レモンバーベナ、サフラン、パッションフラワー、カヴァカヴァが挙げられる。
【0028】
血中DHEA−S低下抑制作用を有する植物としては、例えば、ヤムイモ、朝鮮ニンジン、ガラナ、チョウセンゴミシ、ダミアナ、ゴツコラ、ソフォンが挙げられ、好ましくは、ソフォンである。
【0029】
本発明のツルニンジン属植物等を医薬品として使用する場合は、ツルニンジン属植物又はその抽出物、Tangshenoside類、Lancemaside−A若しくはSyringinに、薬学上許容される担体を加えて、医薬組成物とすればよい。
本発明の医薬品の投与形態は特に限定されないが、経口投与、直腸投与、経皮投与、注射による投与等の一般的投与経路を挙げることができ、好ましくは経口投与である。
当該医薬品は、投与経路に応じて薬学上許容される担体を用いて適当な固形製剤や液体製剤等に処方できる。
【0030】
経口投与のための固形剤としては、カプセル剤、錠剤、丸剤、トローチ剤、散剤及び顆粒剤等が挙げられる。固形製剤は、一般に本明細書に記載の組成物を少なくとも一種の添加剤(例えば、結晶セルロース、乳糖、又はデンプン)と混和することにより調製できる。この製剤は、添加剤に加えてステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤を用いて調製してもよい。カプセル剤、錠剤及び丸剤の場合には、更に、緩衝剤を用いてもよい。錠剤及び丸剤には腸溶性皮膜を施すこともできる。
【0031】
経口投与のための液体製剤としては、液体製剤の調製に通常用いられる不活性希釈剤、例えば水を含む薬学上許容し得る乳剤、溶液、懸濁剤、シロップ剤及びエリキシル剤が挙げられる。液体製剤は、本発明による植物体及び/又は抽出物に添加剤を加え、更に補助剤、例えば、湿潤剤、乳化剤、懸濁剤、調味剤、又は香味剤を配合することにより調製できる。
【0032】
上記医薬品には、上述した男性更年期障害の改善等に従来使用されている薬用植物や男性更年期障害の治療等に使用されている薬物、例えば抗うつ作用を有する薬物、抗不安作用を有する薬物、血中DHEA−S低下抑制作用を有する薬物を加えることができ、これにより血中テストステロン低下抑制効果、男性更年期障害改善効果をより有効に発揮させることができる。
【0033】
抗うつ作用を有する薬物としては、例えば、塩酸アミトリプチリン等の三環系抗うつ薬、塩酸マプロチリン等の四環系抗うつ薬、マレイン酸フルボキサミン等のSSRI、塩酸ミルナシプラン等のSNRI、塩酸サフラジン等のMAO阻害薬、塩酸トラゾドン、スルピリドが挙げられる。
【0034】
抗不安作用を有する薬物としては、例えば、アルプラゾラム、エチゾラム、オキサゾラム、クロキサゾラム等のベンゾジアゼピン誘導体やタンドスピロンが挙げられる。
【0035】
血中DHEA−S低下抑制作用を有する薬物としては、例えば、DHEA(デヒドロエピアンドロステロン硫酸塩)が挙げられる。
【0036】
本発明の好ましい態様としては、例えば、ツルニンジン(Codonopsis lanceolata)の根を熱水中で30分間〜120分間加熱した後、不溶解成分を除去し、溶媒を濃縮、乾燥する方法で得られる抽出物に、抗うつ作用を持つラフマ及び血中DHEA−S低下抑制作用を持つソフォン等を加え、医薬品や食品に一般的に用いられる賦形剤又は担体を加えた組成物が挙げられる。
【0037】
本発明のツルニンジン属植物等を医薬品として使用する場合の投与量は、投与方法、使用目的により異なるが、固形剤とする場合には、ツルニンジン属植物又はその抽出物としては、原生薬換算で、通常1回0.01〜5g、一日投与量として0.01〜15g、好ましくは1回0.1〜1g、1日投与量として0.1〜3g好ましくは0.5〜2gで、Lancemaside−A、Tangshenoside類、Syringinとしては、通常1回0.01〜0.5g、一日投与量として0.01〜1.5g、好ましくは1回0.1〜1g、1日投与量として0.1〜0.3g好ましくは0.1〜0.2gである。
また、液剤とする場合には、ツルニンジン属植物又はその抽出物としては、原生薬換算で、0.02〜10w/v%溶液として、1回1〜50mLを1日1〜3回、Lancemaside−A、Tangshenoside類、Syringinとしては、0.01〜0.5w/v%溶液として、1回1〜50mLを1日1〜3回投与すればよい。
以下、実施例により本発明を説明するがこれらは本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0038】
実施例1 ツルニンジン抽出物の調製
ツルニンジン(Codonopsis lanceolata)乾燥根1.4kgに精製水13Lを加え、90℃以上の熱水中で1時間加熱した後、不溶解成分を濾過した。 得られた熱水抽出液は、凍結乾燥することによりツルニンジン抽出物476gを得た。
【0039】
実施例2 Tangshenoside類及びSyringinの抽出
実施例1で得られたツルニンジン抽出物476gを、ポリスチレン多孔質樹脂(ダイアイオンHP−20)に通し、水で洗浄した後にメタノールにて溶出した。そのメタノール溶出画分をクロロホルム、メタノールの混合溶液を溶出溶媒としたシリカゲルクロマトグラフィーで分離し、画分1(Tangshenoside II、Syringinを含む)、画分2(Tangshenoside Iを含む)を得た。画分1は、高速液体クロマトグラフィー(分取条件1)により分離し、濃縮してTangshenoside II(50mg)、Syringin(70mg)を得た。画分2は、高速液体クロマトグラフィー(分取条件2)により分離し、濃縮してTangshenoside I(24mg)を得た。
【0040】
分取条件1(Tangshenoside II、Syringinの高速液体クロマトグラフィー分取条件)
移動相;25%アセトニトリル
流速;8mL/min
検出波長;210nm
カラム;YMC−Pack ODS−AQ(内径20mm、長さ250mm、粒子径5μm、(株)ワイエムシィ社製)
カラム温度;室温
【0041】
分取条件2(Tangshenoside Iの高速液体クロマトグラフィー分取条件)
移動相;18%アセトニトリル
流速;8mL/min
検出波長;210nm
カラム;Mightysil RP−18 GP(内径20mm、長さ250mm、粒子径5μm、関東科学(株))
カラム温度;室温
【0042】
実施例3 Lancemaside−Aの抽出
ツルニンジン(Codonopsis lanceolata)乾燥根1kgに精製水15Lを加え、90℃以上の熱水中で1時間加熱した後、不溶解成分を濾過した。得られた熱水抽出液は、乾燥することによりツルニンジン抽出物0.4kgを得た。ツルニンジン抽出物0.4kgを、ポリスチレン多孔質樹脂(ダイアイオンHP−20)に通し、水、30%メタノールで洗浄した後にメタノールにて溶出した。そのメタノール溶出画分をクロロホルム、メタノール、水の混合溶液を溶出溶媒としたシリカゲルクロマトグラフィーで分離し、Lancemaside−Aを含む画分について高速液体クロマトグラフィー(分取条件3)により分離し、Lancemaside−Aを含む溶出液をダイアイオンHP−20カラムに通して水で洗浄した後、メタノールで溶出し、濃縮、凍結乾燥してLancemaside−A(110mg)を得た。Lancemaside−Aの物性を以下に示す。
【0043】
分取条件3(Lancemaside−Aの高速液体クロマトグラフィー分取条件)
移動相;0.1%トリフルオロ酢酸を含む水:アセトニトリル混液(72:28)
流速;9.99mL/min
検出波長;210nm
カラム;TSK gel ODS−80TS(内径20mm、長さ250mm、粒子径5μm、東ソー株式会社)
カラム温度;25℃
【0044】
物性
1)性状:白色粉末
2)MS:エレクトロスプレーイオン化法
正イオン:m/z 1213,[M+Na]+、m/z 1229,[M+K]+、負イオン:m/z 1189,[M−H]-
3)13C−NMR(pyridine−d5):
【0045】
【表1】

【0046】
実施例4 血中テストステロン濃度低下抑制試験
実施例1で得られたツルニンジン抽出物を用いて、以下の方法により老化とストレスによる血中テストステロン濃度低下の抑制効果を検討した。7ヶ月齢のddY系雄性マウス(1群10匹)に被験物質1g/kgを1日に1回2週間にわたり経口投与した。最終投与日、被験物質投与1時間後に拘束によるストレス負荷を行った。拘束ストレスは、柔らかい金網でマウスの体を巻き、絶食絶水下で16時間(17:00〜9:00)負荷し、負荷終了直後に血中テストステロン濃度を測定した。有意差検定はStudent’t 検定を用いた。結果を図1に示すが、ストレス負荷を施していない群と比較して、ストレス負荷群の血中テストステロン濃度は低下するが、ツルニンジン抽出物投与群では血中テストステロン濃度の低下を明らかに抑制する効果が認められた。この結果は、ストレス負荷群と比較して、危険率5%で有意差のあるものであった。また同様にLancemaside−A及びTangshenoside Iにも抑制効果を認めた。
【0047】
実施例5 安全性試験
実施例1で得られた本発明のツルニンジン抽出物の安全性を確かめるために、5週齢のddY系マウス(1群雌雄各4匹)にツルニンジン抽出物を10g/kg及び20g/kgを30ml/kgの投与液量で単回経口投与し、その後6日間体重推移及び一般状態の観察を実施した。投与翌日及び6日目に各群の雌雄を2匹ずつ剖検し、胸腹部臓器を肉眼的に観察した。ツルニンジン抽出物の投与による死亡例は確認されず、また一般状態、体重推移及び解剖所見のいずれにおいても異常所見は認めなかった。
【0048】
実施例6 男性更年期障害改善試験
男性更年期障害の発現年齢である40歳代の男性3名に対し、毎日2回、朝食後及び夕食後に、被験物(ツルニンジン抽出物0.5g(原生薬換算:1.47g)、デキストリン、デンプン等賦形剤0.2g)を0.7gずつ14日間服用し、その服用感を測定した。その結果、3名とも服用前は臨床で男性更年期障害の判断症状の一つである早朝勃起がたまにある程度であったが、被験物服用開始後、3〜4日目より早朝勃起が発現し、服用を終了するまでの期間、早朝勃起を認めた。
【0049】
実施例7 製剤処方例
(1)顆粒剤
【0050】
【表2】

【0051】
(2)液剤
【0052】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明投与群と対照群における拘束ストレス負荷マウスの血中テストステロン濃度の変化を示した図である(平均±標準誤差)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ツルニンジン属植物又はその抽出物を含有する血中テストステロン低下抑制剤。
【請求項2】
ツルニンジン属植物又はその抽出物を含有し、血中テストステロンの低下抑制のために用いられるものである旨の表示を付した食品。
【請求項3】
さらに、抗うつ作用を有する植物、抗不安作用を有する植物及び血中DHEA−S低下抑制作用を有する植物から選ばれるいずれか1種又は2種以上の植物又はその抽出物を含有する請求項2記載の食品。

【図1】
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【公開番号】特開2007−84559(P2007−84559A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−289976(P2006−289976)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【分割の表示】特願2006−513998(P2006−513998)の分割
【原出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【出願人】(000250100)湧永製薬株式会社 (51)
【Fターム(参考)】