説明

血中トリグリセリド濃度上昇抑制材及び血中トリグリセリド濃度上昇抑制方法

【課題】食品素材からなり、経口摂取で効果を発揮する、脂質摂取後の血中トリグリセリド濃度上昇抑制材及び血中トリグリセリド濃度上昇抑制方法を提供する。
【解決手段】油滴のメディアン径が2μm以下の酸性水中油型乳化物を有効成分として含有することを特徴とする、脂質摂食後の血中トリグリセリド濃度上昇抑制材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油滴のメディアン径が2μm以下の酸性水中油型乳化物を有効成分として含有することを特徴とする、脂質摂取後の血中トリグリセリド濃度上昇抑制材及び血中トリグリセリド濃度上昇抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血中トリグリセリド濃度が高いと、動脈硬化性疾患及びこれに起因する脳梗塞、脳卒中、心筋梗塞等の血管障害を発症する割合が高くなることが報告されており、さらにこれらの発症が痴呆や寝たきりにつながることが少なくない。脂質摂取後一時的に生じる、血中トリグリセリド濃度の急激な上昇もまた、それらの発症割合を高めるのとの懸念により、安心して脂質を摂取することが難しい。
【0003】
血中トリグリセリド濃度の上昇を、医薬品を用いてコントロールする方法があるが、治療域まで至っていない状態を改善する目的には適さない。例えば、フィブラート系薬剤やニコチン酸等の脂質降下薬は、食欲不振や吐き気等の副作用をもたらす場合があり、また医師の管理下での使用に限られる等の課題点があった。
【0004】
食品素材を用いて血中脂質を低下する発明として、100〜150℃で乾熱処理を施した乾燥卵白からなる血中コレステロール低下材(特許文献1)があるが、上記発明は継続して血中コレステロール低化材を投与することで、平常時の血中コレステロール濃度を低下するものであって、脂質摂取後一時的に生じる、血中トリグリセリド濃度の急激な上昇を抑制する効果は明らかではなかった。
【0005】
【特許文献1】特開2000−16943号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、食品素材からなり、経口摂取で効果を発揮する、脂質摂取後の血中トリグリセリド濃度上昇抑制材及び血中トリグリセリド濃度上昇抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者が、上記目的を達成すべく、脂質の摂取形態について鋭意研究を重ねた結果、油滴のメディアン径が2μm以下の酸性水中油型乳化物を用いると、意外にも、脂質摂取後の血中トリグリセリド濃度上昇を有意に抑制することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)油滴のメディアン径が2μm以下の酸性水中油型乳化物を有効成分として含有する、脂質摂食後の血中トリグリセリド濃度上昇抑制材、
(2)前記酸性水中油型乳化物が脂質を15%以上含有する(1)の血中トリグリセリド濃度上昇抑制材、
(3)油滴のメディアン径が2μm以下の酸性水中油型乳化物を摂取する、脂質摂食後の血中トリグリセリド濃度上昇抑制方法、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の血中トリグリセリド濃度上昇抑制材又は血中トリグリセリド濃度上昇抑制方法を実施することにより、医薬品を用いずとも、動脈硬化性疾患及びこれらに伴う各種疾病等の発症リスクを低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
【0011】
本発明において、脂質摂取後の血中トリグリセリド濃度上昇とは、脂質及び/又は脂質を含有する食品を摂取した後に一時的に生じる血中トリグリセリド濃度の上昇を意味する。血中トリグリセリド濃度上昇が生じる時期としては、個体差があり特に限定されないが、多くの場合、脂質摂取後30分から8時間の間にみられる。
【0012】
本発明において、酸性水中油型乳化物とは、基本成分である脂質、水分、酸材及びこれらを乳化するための乳化材の他に、食塩、スパイス類、グルタミン酸ソーダ、澱粉、しょうゆ、砂糖等の任意の副原料を常法により水中油滴型に乳化したpH5以下のものをいい、代表例としてはマヨネーズやサラダドレッシングがある。
【0013】
本発明の有効成分である酸性水中油型乳化物の油滴のメディアン径は、2μm以下であり、好ましくは1μm以下である。油滴のメディアン径が上記範囲よりも大きい場合、脂質摂取後の血中トリグリセリド濃度上昇抑制効果が得られない。油滴のメディアン径の下限は特に限定されないが、製造効率上0.1μm以上であることが好ましい。油滴のメディアン径の測定は、酸性水中油型乳化物に、5%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液で20倍希釈したものを粒度分布測定装置(レーザ回折・散乱式粒度分布測定装置MT3000EXII:日機装(株)製)に供して行った。
【0014】
本発明の有効成分である酸性水中油型乳化物が含有する脂質としては、食品に供されるものであれば特に由来は限定されない。例えば、菜種油、コーン油、綿実油、サフラワー油、オリーブ油、紅花油、大豆油、パーム油、魚油、卵黄油等の動植物油又はこれらの精製油(サラダ油)、あるいはMCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリド、硬化油、エステル交換油等のような化学的、酵素的処理等を施して得られる脂質、あるいは各種スパイスオイル等調味油等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いると良い。
【0015】
本発明の有効成分である酸性水中油型乳化物における脂質量は、特に限定されないが、15%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましい。脂質量が上記範囲の場合、本発明の効果が高く発揮される。脂質量の上限は特に限定されないが、酸性水中油型乳化物の乳化状態を安定的に保ちやすいことから、80%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましい。
【0016】
本発明の有効成分である酸性水中油型乳化物が含有する酸材としては、食品に供されるものであればいずれのものでも良い。このような酸材としては、例えば、酢酸、クエン酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸等の有機酸、及び/又は前記有機酸を含有する米酢、穀物酢、果実酢等の食酢、レモン汁、ゆず果汁等の果汁、ヨーグルト等の乳酸発酵物が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いると良い。
【0017】
本発明の有効成分である酸性水中油型乳化物における酸材の量は、酸性水中油型乳化物のpHが5以下になる量であれば特に限定されない。本発明の有効成分である酸性水中油型乳化物のpHの下限は、特に限定されないが、食しやすさから3以上であることが好ましい。
【0018】
本発明の有効成分である酸性水中油型乳化物が含有する水分としては、食品に供されるものであれば特に由来は限定されない。例えば、清水、食酢、果汁、ヨーグルト、卵液等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いると良い。
【0019】
本発明の有効成分である酸性水中油型乳化物が含有する乳化材としては、食品に供される乳化材であればいずれのものでも良い。このような乳化材としては、例えば、卵黄、酵素処理卵黄、全卵、液卵白、レシチン、酵素処理レシチン、カゼイン塩、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、オクテニルコハク酸化澱粉等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いると良い。脂質摂取後の血中トリグリセリド濃度上昇抑制効果が得られやすいことから、卵黄、酵素処理卵黄、全卵、卵由来のレシチン類を用いることが好ましい。本発明の有効成分である酸性水中油型乳化物における、乳化材量は、固形分換算で好ましくは1〜10%、より好ましくは2〜8%である。
【0020】
本発明の有効成分である酸性水中油型乳化物は、前記の脂質、水分、酸材、乳化材の他、本発明の効果を損なわない範囲で適宜原料を選択し含有させることができる。具体的には、例えば、ショ糖、異性化糖、乳糖、麦芽糖、ブドウ糖、果糖、転化糖、デキストリン、水飴、粉末水飴、トレハロース、パラチノース、オリゴ糖等の糖類、キシリトール、ソルビトール、マルチトール等の糖アルコール類、高甘味度甘味料類、牛乳、チーズ等の乳製品、澱粉、ジェランガム、ローカストビーンガム、タマリンドガム、タラガム、キサンタンガム、グァーガム、カラギナン、寒天、ゼラチン、ペクチン、カードラン、アルギン酸類等の増粘材類、CMC、微結晶セルロース、大豆多糖類等のセルロース類、酢酸塩、クエン酸塩、食塩、リン酸塩等の塩類、ビタミンC、ビタミンE等のビタミン類、カルシウム、鉄等のミネラル類、グルタミン酸ソーダ、醤油などの調味料、果汁、香料、スパイス類、色素等が挙げられる。脂質摂取後の血中トリグリセリド濃度上昇抑制効果が得られやすいことから、増粘材類を含有することが好ましい。
【0021】
本発明の有効成分である酸性水中油型乳化物の製造方法は、酸性水中油型乳化物の常法に則り製造すればよく、例えば、上述の水分及び酸材、乳化材を含む水相原料をミキサー等で攪拌しながら脂質原料を注加して粗乳化し、次にコロイドミル、高速攪拌機等で仕上げ乳化する等の方法が挙げられる。
【0022】
本発明の血中トリグリセリド濃度上昇抑制材は、種々の形態(例えば、液状、マイクロコロイド状、クリーム状、ペースト状、ゼリー状)を有することができる。また、食品、医薬品、飼料等の配合成分の一つとして使用してもよく、あるいはそのまま食品、医薬品、飼料等として使用してもよい。
【0023】
本発明の血中トリグリセリド濃度上昇抑制方法は、摂取する脂質の一部または全部に代えて、前記酸性水中油型乳化物を脂質源として摂取する他は、特に限定されない。
【実施例】
【0024】
以下に本発明の血中トリグリセリド濃度上昇抑制材及び血中トリグリセリド濃度上昇抑制方法を実施例及び試験例に基づき詳述する。なお、本発明はこれに限定するものではない。
【0025】
〔製造例1〕酸性水中油型乳化物の製造
食酢(酢酸酸度4.0%)17部、液卵黄10部、食塩3部、キサンタンガム1部、グルタミン酸ソーダ0.5部、清水38.5部をミキサーで均一とし水相を調製した後、植物油30部を注加して粗乳化した。得られた粗乳化物をコロイドミルで精乳化し、メディアン径4μm及び16μmの2種類の酸性水中油型乳化物を製造した。メディアン径4μmの酸性水中油型乳化物の半量を高速攪拌機(マイクロテックニチオン社製、ヒスコトロン)で更に攪拌して、メディアン径1μmの酸性水中油型乳化物を製造した。得られた3種類の酸性水中油型乳化物はいずれも脂質量33.3%、pH4.1だった。
【0026】
〔試験例1〕脂質摂食後の血中トリグリセリド濃度上昇抑制効果
Wistar系雄ラット(10週齢)に通常ラット飼料(CertifiedRodent Diet5002,LabDiet社製)を自由摂食させて1週間馴化した。(馴化終了時平均体重:250.1g)。
【0027】
馴化後のラットを、平均体重が等しくなるように3群(実施例1群、比較例1群、比較例2群)(6匹/群))に分け、15時間の絶食を行った後、実施例1群には製造例1で得られたメディアン径1μmの酸性水中油型乳化物を、比較例1群には製造例1で得られたメディアン径4μmの酸性水中油型乳化物を、比較例2群には製造例1で得られたメディアン径16μmの酸性水中油型乳化物を、各ラットについて12g/kg・体重となるよう胃ゾンデを使用して胃内に1回投与した。投与直前および投与4、6、8時間目に尾静脈採血を行った。
【0028】
得られた血液を25℃で10,000rpm、5分間遠心分離して血清とし、酵素法(和光純薬工業社製、商品名「トリグリセリドE−テストワコー」)で血清トリグリセリド濃度を個体毎に測定した。血清トリグリセリド濃度は、血清100mLあたりのトリグリセリド量(mg)として算出し、各群の平均値を表1及び図1に示した。投与直前を投与後0時の値として、投与後8時間目までの血清トリグリセリド濃度の経時変化とIAUC(濃度時間曲線下面積)を表1に示した。
【0029】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、試験例1における、各群の血清トリグリセリド濃度の経時変化を示すグラフである。
【0031】
表1及び図1に示すように、油滴のメディアン径が2μm以下の範囲である酸性水中油型乳化物を投与した場合、血清トリグリセリド濃度の上昇が有意にゆるやかだった(実施例1)。一方、2μmを超える範囲の酸性水中油型乳化物を投与した場合、血清トリグリセリド濃度が急激に上昇した(比較例1、2)。このことから、本発明の血中トリグリセリド濃度上昇抑制材の投与により、脂質摂取後の血中トリグリセリド濃度の上昇が抑えられることが分かる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
油滴のメディアン径が2μm以下の酸性水中油型乳化物を有効成分として含有することを特徴とする、脂質摂食後の血中トリグリセリド濃度上昇抑制材。
【請求項2】
前記酸性水中油型乳化物が脂質を15%以上含有する請求項1記載の血中トリグリセリド濃度上昇抑制材。
【請求項3】
油滴のメディアン径が2μm以下の酸性水中油型乳化物を摂取することを特徴とする、脂質摂食後の血中トリグリセリド濃度上昇抑制方法。


【図1】
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【公開番号】特開2012−70653(P2012−70653A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−216770(P2010−216770)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】