説明

血中中性脂肪上昇抑制剤

【課題】新規な血中中性脂肪上昇抑制剤の提供。
【解決手段】糖修飾タンパク質を有効成分とする血中中性脂肪上昇抑制剤。該糖修飾タンパク質は、サケ、コイ、ホタテ貝などの魚介類等の筋肉タンパク質を糖修飾して、水可溶化したタンパク質である。すなわち、魚介類等の肉或いは筋肉タンパク質を、単糖(グルコース、リボースなど)、アルギン酸オリゴ糖、キトサンオリゴ糖などの還元糖類と混合し、凍結乾燥にて脱水し、相対湿度35%以下で30〜70℃の範囲内に保持することにより、メイラード反応に好適な0.25〜6.0%の水分含量に維持し、筋肉タンパク質を水溶化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血中中性脂肪上昇抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
過剰なエネルギー摂取が脂肪として体内に蓄積され、近年、内臓型肥満が生活習慣病危険因子として特に注目されている。内臓脂肪蓄積の予防は、メタボリックシンドロームに象徴される重大な生活習慣病の発症リスクを低減させるために重要であると考えられている。
摂取されたエネルギーは運動などによって消費することも対策の1つであるが、食後の急激な脂質吸収の制御も重要な対策と考えられている。急激に体内に吸収された脂質は、その殆どがエネルギーに変換されることなく、脂肪組織に蓄積されると考えられており、実際に、内臓脂肪量と食後血中中性脂肪量の間には正の相関があるという報告もある。食後高脂血症は、内臓脂肪の蓄積ばかりでなく、それ自身が心臓病や脳卒中等の動脈硬化性疾患の危険因子ともなることから、食事性脂質の吸収調節は生活習慣病全般の予防における重要課題であると考えられている。食事により得られた脂質は、小腸壁より吸収される。脂質を吸収体に分解するリパーゼの活性を阻害することは、脂質吸収抑制策及び抗肥満薬として注目されている。
リパーゼ活性阻害成分として、植物性成分が天然成分として注目されている。例えば、シャクヤク、オオレン、オオバク、ボタンピ、ゲンノショウコ、茶、クジン、シボタンツル、オドリコソウ、サルビア、西洋ネズ、ハマメリス、バーチ(特許文献1)、ブドウ種子、カキ葉、プーアル茶、オトギリソウ、リンゴ、タラ、ウラジロガシ、バナバ葉、アカメガシワ、サンシュユ、訶子、トチュウ葉(特許文献2)、紅景天、イワベンケイ、サボンソウ、ボルド、パスチャカ、トルメンチラ、エルカンプリ、ウコンイソマツ、チュチュウアシ、キャッツクロー、シナモン、山椒、センダングサ、ウコギ、ストロベリー、モージェ、バラ、柿、セイヨウオトギリソウ、杜仲及び白茶などである。
【0003】
特許文献1(特開2007−99651号公報)には、脂質の胃内滞留時間を延長させる作用を有する剤として雲南紅茶の抽出物を有効成分とする抗脂肪性薬剤が提案されている。
【0004】
特許文献2(特開2007−246471号公報)には、血中中性脂肪の上昇を抑制する剤として、シソ(Perilla frutescens)乾燥物の濃度90〜99.9容量%エタノール水溶液の抽出物を有効成分とする血中中性脂肪上昇抑制剤が提案されている。
一方、本発明者は、糖修飾タンパクの利用に関する研究開発を続けてきた。先に本発明者は、水溶性に優れた筋肉タンパク質を開発し提案(特許文献3(特許3860025号公報)参照)した。更に、この新規な水溶性に優れた筋肉タンパク質の応用研究開発を継続している。
【0005】
【特許文献1】特開2007−99651号公報
【特許文献2】特開2007−246471号公報
【特許文献3】特許3860025号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、新規な血中中性脂肪上昇抑制剤を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の主な構成は次のとおりである。
(1)糖修飾タンパク質を有効成分とする血中中性脂肪上昇抑制剤。
(2)糖修飾タンパク質が、糖修飾魚肉タンパク質であることを特徴とする(1)記載の血中中性脂肪上昇抑制剤。
【発明の効果】
【0008】
水溶性魚肉タンパク質などの糖修飾タンパク質を摂取することにより血中中性脂肪の上昇を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
糖修飾タンパク質は、サケやコイなどの魚類、ホタテ貝などの貝類など海水産の魚介類、トリ、ブタ、ウシなど家畜類の筋肉タンパク質を糖修飾して、水に可溶化したタンパク質とする。
【0010】
本件発明に用いる水溶性タンパク質は、相対湿度を抑えた条件下で、家畜類、魚貝類の筋肉タンパク質に糖を付加して得られる水溶性のタンパク質である。
魚介類、家畜類の肉を細切りして、筋肉タンパク質を抽出し、或いはそのまま、還元糖類と混合し、脱水し、相対湿度35%以下で30〜70℃の範囲内に保持することにより、混合物中の水分含量を0.25〜6%に維持することで、筋肉タンパク質を低イオン強度でも、水溶性とすることができる。
還元糖類としては、単糖(グルコース、リボースなど)、平均重合度20以下のオリゴ糖類で還元末端を有しているもの、例えば、アルギン酸オリゴ糖、キトサンオリゴ糖などの還元性オリゴ糖が挙げられる。
タンパク質変性防止剤としては、グルコースやソルビトール等が挙げられる。
【0011】
本件発明におけるタンパク質と糖の混合比は、筋肉タンパク質:糖類=1:0.1〜1:10の範囲が望ましい。
筋肉タンパク質は、糖と混合後、脱水処理に付される。脱水処理は、例えば、相対湿度10%の低湿度下での加熱処理や、凍結乾燥、噴霧乾燥、減圧乾燥等の処理あるいはこれらの組み合わせ処理により行うことができる。又、脱水処理により、メイラード反応に好適な0.25〜6.0%の水分含量とすることもできるが、脱水処理終了時点での水分含量が6.0%を上回るものであったとしても、相対湿度35%以下で、30〜70℃に保持することにより、水分含量を0.25〜6.0%の範囲にすることもできる。
【0012】
水溶性魚肉タンパク質の製法例
特許文献3(特許3860025号公報)等に開示した手段により、サケやホタテ貝等の魚介類のタンパク質を糖修飾することにより、水溶性魚肉タンパク質を製造することができる。
< サケ筋肉タンパク質のアルギン酸オリゴ糖修飾 例 >
サケ筋肉を径2 mm以下にミートチョッパーで細切した。このサケ魚肉100 gに対してそれに含まれる筋原線維タンパク質量(15%湿重量)と等量のアルギン酸オリゴ糖(15g)とソルビトール(14.1 g)を混合した後、凍結乾燥によって脱水して水分含量を0.9%とした。続いて60℃で4時間保持した。アルギン酸オリゴ糖分子はサケ筋肉中のリジン残基と反応してタンパク質−アルギン酸オリゴ糖複合体となった。この製造時の反応相対湿度を35%以下に制御することによって、タンパク質−アルギン酸オリゴ糖複合体の0.05 M−0.1 M NaC1に対する溶解度は88-93%となり、水溶性化サケ筋肉タンパク質ができた。
【0013】
< ホタテガイタンパク質のグルコース修飾 例 >
細切したホタテガイ貝柱100 gに、その筋原線維タンパク質量(18.5%湿重量)と等しい量のグルコース(18.5 g)を混合したのち、加圧と凍結乾燥によって脱水して水分含量を0.7%とした。これを50℃、相対湿度30%に12時間保持した。ホタテガイ筋原線維タンパク質中の60%のリジン残基がグルコースと結合した。このグルコース修飾タンパク質の0.1 M NaC1に対する溶解度は89%となり、水溶性化ホタテガイ肉ができた。
【実施例】
【0014】
[ 糖修飾魚肉タンパク質の中性脂肪上昇抑制試験 ]
脂質を摂取に伴い体内に吸収されて血中の中性脂肪濃度が上昇する現象を、糖修飾魚肉タンパク質が抑制できるか確認試験をした。ラットを用い、脂質としてオリーブオイルを採用し、このオリーブオイルと同時に披検物質を摂取させた後の血漿中のトリグリセリドの濃度を測定した。試験条件は下記のとおり。試験結果は表1、図1に示す。
【0015】
<試験条件>
動物:SDラット、8週齢、♂
投与量:投与容量(15 mL/kg)を各群で統一
投与方法:18時間絶食後の強制経口による単回投与
採血:尾静脈
採血時間:投与後の経過時間0、2、4、6、8、10(時)に実施。
検査項目:中性脂肪として血漿中のトリグリセリド濃度(mg/dL)を、DRI-CHEM 3500(FUJIFILM)で測定した。
【0016】
< 試験群 >
8週齢、雄、SDラットを下記A群〜E群の5群に分けて、次の物質を摂取させた。

(A)群:コントロール群(n=8):
蒸留水(15 mL/kg)
この群は、脂質を摂取しない状態の血漿中トリグリセリド値の変化データを採 取し、オリーブオイルを摂取させた場合に血漿中トリグリセリド値が上昇するこ とを確認することを意図して設けた。

(B)群:脂質投与群(n=8):
蒸留水(10 mL/kg)+オリーブオイル(5 mL/kg)
この群は、オリーブオイル摂取で、血漿中トリグリセリドが上昇する基本デー タを得ることを意図して設けた。

(C)群:水溶性魚肉投与群(n=8):
水溶性魚肉タンパク質*1(1000 mg/kg)+オリーブオイル(5 mL/kg)
この群は、オリーブオイルと水溶性魚肉タンパク質を併用することにより、水 溶性魚肉タンパク質が血漿中トリグリセリド値の上昇に与える影響を確認するこ とを意図して設けた。
*1 水溶性魚肉タンパク質の配合割合は、魚肉:AO(アルギン酸オリゴ 糖):ソルビトール=1:0.5:1で各素材を混合し、温度60℃、相対湿度 35%、3時間の条件で反応させたものを使用した。
なお、水溶性魚肉タンパク質*1(1000 mg/kg)」とは、ラット体重1kgあ たりに、水溶性魚肉タンパク質を1,000 mg投与することを意味する。

(D)群:未反応魚肉投与群(n=8):
未反応魚肉タンパク質(1000 mg/kg)+オリーブオイル(5 mL/kg)
未反応魚肉タンパク質は、魚肉とアルギン酸オリゴ糖とソルビトールを混合さ せただけのものである。なお、混合した後、所定の温度、湿度で反応させたもの が、水溶性魚肉タンパク質である。この群は、未反応魚肉タンパク質が、血漿中 トリグリセリド値の上昇に与える影響を確認することを意図して設けた。

(E)群:糖類投与群(n=8):
AO(200 mg/kg)、ソルビトール(400 mg/kg)+オリーブオイル(5 mL/kg)
AOとはアルギン酸オリゴ糖の略である。抗高脂血症作用があることが報告され ている高濃度のアルギン酸オリゴ糖が、血漿中トリグリセリド値の上昇に与える 影響を確認し、水溶性魚肉タンパク質が、公知の抗高脂血症物質と比較するデー タを得るために設けた。なお,AOとソルビトールの投与量は,(D)群と等し い。

【0017】
【表1】

【0018】
この結果、脂質と水溶性魚肉タンパク質を同時に摂取した試験例が、他の併用試験例よりも摂取後の各経過時間において、血漿中トリグリセリドの濃度が低く押さえられていることが明らかである。したがって、脂質と水溶性魚肉タンパク質を併行して摂取すると水溶性魚肉タンパク質が脂質を体内に吸収することを阻害し、血中中性脂肪の上昇を抑制していることが知見できる。
試験で使用した水溶性魚肉タンパク質は、抗高脂血症作用を有するアルギン酸オリゴ糖を含有しているため、水溶性魚肉蛋白質群における血漿中トリグリセリド値の上昇抑制が、混在しているアルギン酸オリゴ糖の作用ということも考えられる。しかし、未反応魚肉蛋白質群と糖類投与群では、血漿中トリグリセリド値の上昇抑制が観られない。従って、水溶性魚肉蛋白質群の血漿中トリグリセリド値の上昇抑制が、混在するアルギン酸オリゴ糖の作用ではないことを明らかにしている。
【0019】
[ AUC試験 ]
AUCは血中濃度曲線下面積を示し、この場合は、血漿中に含まれるトリグリセリドの総量を示す。
試験結果を表2及び図2〜6に示す。
【0020】
【表2】

【0021】
この結果、水溶性魚肉タンパク質は、AUCを低く押さえることができることが明かである。脂質(オリーブオイル)投与群を100%とすると、水溶性魚肉タンパク質は、69%に抑制され、上昇抑制効果があるとされるAOよりも17ポイントも低く押さえることができ、優れた血中中性脂肪上昇抑制作用を発揮することが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】中性脂肪濃度の経時変化を示すグラフである。
【図2】全試験物質のAUCを示すグラフである。
【図3】水溶性魚肉投与群と脂質投与群に関するAUCを示すグラフである。
【図4】水溶性魚肉投与群と未反応魚肉投与群に関するAUCを示すグラフである。
【図5】水溶性魚肉投与群と糖類投与群に関するAUCを示すグラフである。
【図6】脂質投与群と糖類投与群に関するAUCを示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖修飾タンパク質を有効成分とする血中中性脂肪上昇抑制剤。
【請求項2】
糖修飾タンパク質が、糖修飾魚肉タンパク質であることを特徴とする請求項1記載の血中中性脂肪上昇抑制剤。


















【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−126856(P2009−126856A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−306918(P2007−306918)
【出願日】平成19年11月28日(2007.11.28)
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】