説明

血中滞留および癌組織特異的薬物送達のためのコンジュゲート

本発明は、組織特異的薬物送達システムのコロイダルキャリアー等として利用できる、脂質とヒトを含むほ乳類の細胞より分泌される酵素の基質ペプチドと水溶性高分子との結合体、該結合体の製造法、該結合体の中間体として有用な保護基を有していてもよいペプチド−水溶性高分子結合体、該結合体からなるコロイダルキャリアー、ならびに該コロイダルキャリアーを使用する組織特異的薬物送達システムに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、組織特異的薬物送達システムのコロイダルキャリアー等として利用できる、脂質とヒトを含むほ乳類の細胞より分泌される酵素の基質ペプチドと水溶性高分子との結合体、該結合体の製造法、該結合体の中間体として有用な保護基を有していてもよいペプチド−水溶性高分子結合体、該結合体からなるコロイダルキャリアー、ならびに該コロイダルキャリアーを使用する組織特異的薬物送達システムに関する。
【背景技術】
一つの分子内に親水性基と疎水性基を有する物質は両親媒性物質と呼ばれ、水と混合することにより様々な分子集合体を形成する。
両親媒性物質が形成する分子集合体としては、球状ミセル、ヘキサゴナル構造、ラメラ構造、ヘキサゴナルII構造、逆ミセル構造等があり、その物質のHLB(hydrophilic−lipophilic balance)の程度に依存する。
その中の一つであるラメラ構造を有するリポソームは親水性と疎水性のバランスが都合よくとれた両親媒性物質を含む脂質二重膜からなり、薬物をリポソーム内に封入させたキャリアーとして広く利用され、安定性と組織への分布を変化させることによる薬効の向上が図られている(野島ら(編集),リポソーム(南江堂))。
しかしながら、リポソームを静脈内投与すると肝臓・脾臓等の細網内皮組織(RES)に取り込まれやすいのが欠点であった。リポソーム表面を水溶性の高分子であるポリエチレングリコール(以下PEGと記載する)、ガングリオシドGM1、ポリビニルアルコール誘導体等で修飾することで血中蛋白質の吸着とそれに伴うマクロファージ等のRES系の細胞による取り込みを回避することで高い血中滞留性を獲得することが報告されている(FEBS Letter,223,42,1987、FEBS Letter,268,253,1990、薬剤学,61,86,2001)。
また、血中滞留性にはリポソームの粒子径が大きく影響し、粒子径を400nm以下とすることによりRES系による取り込みを回避して血中滞留性を顕著に向上させることが可能となる(Pharm.Res.,13,1704,1996)。
さらに、このような血中滞留性を示すPEG修飾リポソームはEPR(enhanced permeability and retention)効果により、血中から癌組織に漏出・集積しやすい特性を有している(Cancer Res.,46,6387,1986)。ドキソルビシンを封入したPEG修飾リポソームはカポジ肉腫および乳癌を適応症として欧米で既に上市されており、副作用の軽減と治療効果の点から有用性が報告されている(Drugs,53,520,1997)。
しかしながら、担癌マウスにおける検討結果より、薬物封入PEG修飾リポソームの集積性と抗腫瘍効果は必ずしも相関しないことが報告されている。これはリポソーム表面に存在するPEG分子の影響により標的細胞との相互作用が低下したことにより薬物の細胞内への送達が損なわれたことが大きな原因であると考えれる(Clin.Cancer Res.,5,3645,1999)。
このようなPEG修飾リポソームの欠点を解決するためにPEG修飾リポソームと標的細胞との相互作用を向上させる試みが行われている。例えば、Biochim.Biophys.Acta,1234,74−80,1995には癌細胞特異的な抗体をリポソーム膜表面に修飾したPEG修飾イムノリポソームと抗体をPEG分子の先端に修飾したペンダント型PEG修飾イムノリポソームが報告されている。本技術においては、抗体を用いることによる汎用性への課題が残る。
一方、特表2001−503396号公報には、生物学的表面に特異的に結合するのに有効な親水性部分とこの親水性部分と生物学的表面の相互作用を遮断するのに有効な親水性高分子を表面に有するリポソームが開示されている。この方法によると、生体に投与されたリポソームは所望の生体内分布が達成されるまでは親水性高分子が有効に機能し、その後親水性高分子を遊離させるための遊離剤を投与することにより、細胞表面との特異的な結合性が発揮される。しかしながら、この方法においては親水性高分子を遊離させるために遊離剤を投与する必要があり、実質的な使用においては遊離剤の効果、安全性の点で課題が残されている。また、特開平10−287554号公報には、環境の相違に依存せず、生体に投与後経時的に水溶性高分子がリポソーム表面から離脱することによりリポソームの性質を変化させることができる技術が開示されている。さらに、Nature Biotechnology,17,775,1999には、ポリエチレングリコールと脂質との結合体の脂質部分のアルキル鎖長を変えることにより、膜融合速度を調節可能なPEG修飾融合性リポソームが開示されている。しかしながら、これらの技術においては、疾患部位にリポソームが到達する前に水溶性高分子が脱離する可能性があり、充分な効果を発揮するには障害となることが懸念される。
さらにまた、Advanced Drug Delivery Reviews,53,265−272,2001には炎症部位付近で発現するエラスターゼによりペプチドとジオレオイルホスホエタノールアミン(脂質)に分解されるペプチド−脂質の結合体、および該結合体を構成成分とするリポソームが開示されている。当該リポソームは、ペプチド部分が切断されることにより、中性付近のpHでアニオン性からカチオン性に変換する性質を有しており、この性質により細胞膜との融合を示し、細胞質内への内容物の送達を達成するものである。 しかしながら、血中滞留性に関しては謳われておらず、標的細胞への集積性等を考慮した場合には十分な技術とはいえず、改善の余地が残されている。また用いられているペプチド鎖は短いものであり、他物質との結合等を施した場合、他物質の影響を受け、ペプチド部分が切断されないことも懸念される。
よって、これまで水溶性高分子による癌組織への集積性を備え、かつ標的細胞との相互作用を低下させず、標的細胞内への良好な薬物送達性を達成した技術は知られていない。
【発明の開示】
本発明の目的は、製剤に封入された薬物の治療効果を向上させるために疾患部位にて分泌される酵素を利用して、製剤表面に修飾した水溶性高分子を切断させることにより製剤の特性を変化させることのできる結合体、該結合体の製造法、該結合体の中間体として有用な結合体、該結合体からなるコロイダルキャリアー、ならびに該コロイダルキャリアーを利用する組織特異的薬物送達システムを提供することにある。
癌部位において、転位性癌細胞がIV型コラーゲンを分解する酵素を分泌することが見出されており(Nature,284,67,1980)、現在に至るまで癌あるいは炎症部位において分泌される酵素としてマトリックスメタロプロテアーゼ(以下MMPと記述する)が相次いで明らかにされている(生化学,68,1791,1996)。特に間質型コラゲナーゼ(MMP−1)、ゼラチナーゼ−A(MMP−2)、ゼラチナーゼ−B(MMP−9)、ストロムライシン−1(MMP−3)、ストロムライシン−2(MMP−10)、ストロムライシン−3(MMP−11)、マトリライシン(MMP−7)、メタロエラスターゼ(MMP−12)、MMP−26は癌細胞の浸潤・転移に大きく関与し、癌細胞表面において活性化することが報告されている(Cancer Res.,55,3263,1995、生化学,68,1791,1996、J.Biol.Chem.,277,35168,2002)。
このような状況下、本発明者らは疾患部位にて分泌される酵素の代表例として癌あるいは炎症部位において分泌されるMMPの基質ペプチドに着目し、該ペプチドに水溶性高分子および脂質を修飾した結合体を合成し、該結合体の特性につき検討した結果、該結合体は結合体形成の際にもその特性が失われず、酵素特異性、酵素分解速度等が保持されており、さらにこの脂質とペプチドと水溶性高分子結合体を用いてコロイダルキャリアーとしての製剤化が可能であることを知見して、本発明を完成するに至った。
本発明によれば、脂質と癌あるいは炎症部において分泌される酵素の基質ペプチドと水溶性高分子を用いることで、癌あるいは炎症等の標的疾患部位に製剤を到達させたあと、その標的疾患部位内で製剤からの水溶性高分子が特異的に脱離する。また、製剤からの水溶性高分子の脱離により製剤の特性の変化により標的細胞への薬物送達性を達成することが可能となる。
ここに以下の本発明記載において使用する、本発明結合体と該結合体に関する物質の名称と記号を表記する。
I:脂質とペプチドと水溶性高分子の結合体
I−a:脂質−ペプチド−水溶性高分子の結合体
I−b:水溶性高分子−ペプチド−脂質の結合体
II:水溶性高分子とペプチドの結合体
II−a:N末端が活性化されていてもよく、N末端以外の官能基で保護基を有していてもよいペプチド−水溶性高分子結合体
II−b:C末端が活性化されていてもよく、C−末端以外の官能基で保護基を有していてもよい水溶性高分子−ペプチド結合体
III:脂質
III−a:無水カルボン酸残基で置換されていてもよく、カルボキシル基が活性化されていてもよい脂質
III−b:活性化されていてもよいアミノ基を含有する脂質
IV:ペプチド
IV−a:C末端が活性化されていてもよく、C末端以外の官能基で保護基を有していてもよいペプチド
IV−b:N末端が活性化されていてもよく、N末端以外の官能基で保護基を有していてもよいペプチド
V:水溶性高分子
V−a:ペプチドのカルボキシル基またはその活性化基と反応する官能基を含み、一方端がメトキシ基で置換されていてもよく、他方端が−NH、または−低級アルキル−NHから選択された活性化基で置換されていてもよいポリエチレングリコール、ポリアミノ酸、ポリヒドロキシエチルアミノ酸、およびポリビニルピロリドンからなる群より選択される水溶性高分子
V−b:一方端がメトキシ基で置換されていてもよく、他方端が−CO−低級アルキレン−COO−ジカルボン酸イミジル、−低級アルキレン−COO−ジカルボン酸イミジル、および−低級アルキル−ジカルボン酸イミジルからなる群より選択された活性化基で置換されていてもよいポリエチレングリコール、ポリアミノ酸、ポリヒドロキシエチルアミノ酸、およびポリビニルピロリドンからなる群より選択される水溶性高分子
VI:保護基を有していてもよいペプチドと水溶性高分子との結合体(製造中間体)
VI−a:保護基を有していてもよいペプチド−水溶性高分子結合体
VI−b:保護基を有していてもよい水溶性高分子−ペプチド結合体
VII:脂質とペプチドの結合体
VII−a:C−末端が活性化されていてもよく、C−末端以外の官能基で保護基を有していてもよい脂質−ペプチド結合体
VII−b:N−末端が活性化されていてもよく、N−末端以外の官能基で保護基を有していてもよい脂質−ペプチド結合体
VIII:脂質とペプチドの結合体
VIII−a:保護基を有していてもよい脂質−ペプチド結合体
VIII−b:保護基を有していてもよい脂質−ペプチド結合体
すなわち、本発明は、
1.A:リン脂質、高級脂肪酸、高級脂肪族アミン、糖脂質、セラミド、コレステロール、グリセリドおよびそれらの誘導体からなる群より選択される脂質、
B:ヒトを含むほ乳類の細胞より分泌される酵素の基質ペプチド、
C:一方端がメトキシ基で置換されていてもよく、他方端が−NH、−低級アルキル−NH、−CO−低級アルキレン−COO−ジカルボン酸イミジル、−低級アルキレン−COO−ジカルボン酸イミジル、および−低級アルキル−ジカルボン酸イミジルからなる群より選択された活性化基で置換されていてもよいポリエチレングリコール、ポリアミノ酸、ポリヒドロキシエチルアミノ酸、およびポリビニルピロリドンからなる群より選択される水溶性高分子、であり、
Bの両端にAおよびCがペプチド結合により結合された、A、BおよびCの結合体(I)、
2.A、BおよびCの結合体が、A−B−C(I−a)である上記1記載の結合体、
3.A、BおよびCの結合体が、C−B−A(I−b)である上記1記載の結合体、
4.酵素の基質ペプチドがマトリックスメタロプロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、およびアスパルティックプロテアーゼからなる群より選択される酵素の基質ペプチドである上記1に記載の結合体、
5.酵素の基質ペプチドがマトリックスメタロプロテアーゼの基質ペプチドである上記4に記載の結合体、
6.酵素の基質ペプチドがMMP−1、MMP−2、MMP−3、MMP−7、MMP−9、MMP−10、MMP−11、MMP−12またはMMP−26の基質ペプチドである上記5記載の結合体、
7.酵素の基質ペプチドが、下記一般式(IX)で示されるアミノ酸配列を有する上記1に記載の結合体、
−X−AA1−AA2−AA3−AA4−AA5−AA6−AA7−AA8−AA9−Y− (IX)
(配列番号中の記号は以下の意味を表す。
X:結合、無水カルボン酸残基、または1〜5個のアミノ酸残基、
AA1:結合、またはGly残基、
AA2:ProまたはHyp残基、
AA3:Leu、Gln、AlaまたはGly残基、
AA4:Gly、Ala、GlnまたはSer残基、
AA5:アミノ酸残基、
AA6:アミノ酸残基、
AA7:Gly、Ser、またはAla残基、
AA8:結合、またはアミノ酸残基、
AA9:結合、イミノ基(−NH−)、−低級アルキレン−イミノ基またはGly残基、
Y:結合、または1〜5個のアミノ酸残基)
8.Xおよび/またはYがそれぞれ独立してアミノ酸残基を示す場合のアミノ酸残基が、天然アミノ酸残基であり、AA5のアミノ酸残基が、Ile、Met、Val、Leu、Tyr、Chg、ValおよびPhe残基からなる群より選択されたアミノ酸残基であり、AA6のアミノ酸残基が、Ala、Trp、Arg、Leu、His、Gln、ValおよびPhe残基からなる群より選択されたアミノ酸残基であり、AA8がアミノ酸残基を示す場合のアミノ酸残基が、Trp、Arg、Gln、Thr、Pro、GlyおよびLeuからなる群より選択されたアミノ酸残基である上記7記載の結合体、
9.酵素の基質ペプチドが、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19または配列番号20のアミノ酸配列を含み、マトリックスメタロプロテアーゼまたはセリンプロテアーゼの酵素基質としての活性を示す基質ペプチドである上記8記載の結合体、
10.酵素の基質ペプチドがセリンプロテアーゼの基質ペプチドである上記4に記載の結合体、
11.酵素の基質ペプチドがProstate−specific antigen、ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター、組織型プラスミノーゲンアクチベーター、プラスミン、トリプシンおよび組織カリクレインの基質ペプチドである上記10記載の結合体、
12.B:ヒトを含むほ乳類の細胞より分泌される酵素の基質ペプチド、
C:一方端がメトキシ基で置換されていてもよく、他方端が−NH、−低級アルキル−NH、−CO−低級アルキレン−COO−ジカルボン酸イミジル、−低級アルキレン−COO−ジカルボン酸イミジル、および−低級アルキル−ジカルボン酸イミジルからなる群より選択された活性化基で置換されていてもよいポリエチレングリコール、ポリアミノ酸、ポリヒドロキシエチルアミノ酸、およびポリビニルピロリドンからなる群より選択される水溶性高分子、であり、
BとCがペプチド結合により結合された、BとCの結合体、
13.上記1に記載の結合体(I)からなるコロイダルキャリアー、
14.製剤形態がリポソーム、エマルジョン、ミセル、またはナノパーティクルの形態である上記13記載のコロイダルキャリアー、
15.結合体(I)の含有率が、0.01〜100モル%である上記14記載のコロイダルキャリアー、
16.上記13に記載の結合体(I)のコロイダルキャリアーと、薬物とを含有し、疾患組織から特異的に分泌される酵素に感応して前記結合体の酵素基質ペプチド部分が切断されることにより、担持されている薬物が標的組織に放出されるように構成してなる組織特異的薬物送達システム、
に関する。
以下、本発明結合体、該結合体の製造法、該結合体の中間体としての結合体、該結合体からなるコロイダルキャリアー、該コロイダルキャリアーを使用する組織特異的薬物送達システムにつき詳細に説明する。
(1)本発明結合体
本発明の「脂質とペプチドと水溶性高分子との結合体(I)」には、その結合の向きに従い、脂質−ペプチド−水溶性高分子(I−a)の結合体と、水溶性高分子−ペプチド−脂質(I−b)の双方が存在し、本発明にはその双方の結合体が包含される。
本発明で用いられる脂質とは、分子中に長鎖脂肪酸または類似の炭化水素鎖をもち、生物体内に存在するか生物に由来するような物質を指し、上記結合体を形成する成分として用いられる脂質であれば特に限定されない。なお、結合体において「脂質」と表記したものは、前記の脂質が結合した脂質残基を意味する。ペプチドや水溶性高分子においても同様である。かかる脂質としては、例えば、リン脂質、脂肪酸、糖脂質、グリセリド、コレステロール、およびそれらの誘導体等が挙げられる。
リン脂質としては、ホスファチジルコリン類、例えば、卵黄ホスファチジルコリン、水添卵黄ホスファチジルコリン、大豆ホスファチジルコリン、水添大豆ホスファチジルコリン、ジラウロイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン等、ホスファチジルエタノールアミン類、例えば、卵黄ホスファチジルエタノールアミン、大豆ホスファチジルエタノールアミン、ジラウロイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン等、ホスファチジルグリセロール類、例えば、卵黄ホスファチジルグリセロール、ジラウロイルホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジオレオイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジルグリセロール等、ホスファチジルイノシトール類、例えば、水添卵黄ホスファチジルイノシトール、大豆ホスファチジルイノシトール、ジラウロイルホスファチジルイノシトール、ジミリストイルホスファチジルイノシトール、ジオレオイルホスファチジルイノシトール、ジパルミトイルホスファチジルイノシトール、ジステアロイルホスファチジルイノシトール等、ホスファチジルセリン類、例えば、ジラウロイルホスファチジルセリン、ジミリストイルホスファチジルセリン、ジオレオイルホスファチジルセリン、ジパルミトイルホスファチジルセリン、ジステアロイルホスファチジルセリン等、ホスファチジン酸類、例えば、ジラウロイルホスファチジン酸、ジミリストイルホスファチジン酸、ジオレオイルホスファチジン酸、ジパルミトイルホスファチジン酸、ジステアロイルホスファチジン酸等、カルジオリピン類、例えば、テトララウロイルカルイオリピン、テトラミリストイルカルイオリピン、テトラオレオイルカルイオリピン、テトラパルミトイルカルイオリピン、テトラステアロイルカルイオリピン等、スフィンゴミエリン等およびそれらの誘導体が挙げられる。脂肪酸としては、脂肪酸類、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等、脂肪族アミン類、例えば、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、オレオイルアミン、ステアリルアミン、ジラウリルアミン、ジミリスチルアミン、ジパルミチルアミン、ジオレオイルアミン、ジステアリルアミン等、脂肪族アルコール類、例えば、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、オレオイルアルコール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール等、およびそれらの誘導体および塩類が挙げられる。
糖脂質としては、セラミド、スフィンゴシン、ガングリオシドおよびそれらの誘導体を挙げられる。
グリセリドとしては、脂肪酸グリセリド、例えば、ジラウロイルグリセロール、ジミリストイルグリセロール、ジオレオイルグリセロール、ジパルミトイルグリセロール、ジステアロイルグリセロール等が挙げられる。脂肪族ジメチルアンモニウムプロパン類としては、例えばジミリストイルジメチルアンモニウムプロパン、ジオレオイルジメチルアンモニウムプロパン、ジパルミトイルジメチルアンモニウムプロパン、ジステアロイルジメチルアンモニウムプロパン、ジオレオイルオキシジメチルアミノプロパンハイドロクロライド等、脂肪族トリメチルアンモニウムプロパン類、例えばジミリストイルトリメチルアンモニウムプロパン、ジオレオイルトリメチルアンモニウムプロパン、ジパルミトイルトリメチルアンモニウムプロパン、ジステアロイルトリメチルアンモニウムプロパン等およびそれらの誘導体を挙げることができる。
コレステロールとしては、コレステロールおよびその誘導体が挙げられる。
これらの中でもジステアロイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ジラウロイルホスファチジルセリン、ジミリストイルホスファチジルセリン、ジオレオイルホスファチジルセリン、ジパルミトイルホスファチジルセリン、ジステアロイルホスファチジルセリン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、オレオイルアミン、ステアリルアミン、ジラウリルアミン、ジミリスチルアミン、ジパルミチルアミン、ジオレオイルアミン、ジステアリルアミンが好ましく、更にジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミチルアミン、ジステアリルアミンが好ましく、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンが最も好ましい。
本発明結合体を構成するペプチド残基としては、ヒトを含むほ乳類の疾患組織から特異的に分泌される酵素に感応して開裂する酵素基質ペプチド残基であれば特に制限はなく、このような酵素基質ペプチド残基を含む本発明結合体からなるコロイダルキャリアーと、薬物とを含有し、疾患組織から特異的に分泌される酵素に感応して前記結合体の酵素基質ペブチド部分が切断されることにより、標的細胞と相互作用を起こし、担持されている薬物が標的細胞内に放出されるように構成されてなる組織特異的薬物放出システムとしうる酵素基質ペプチドの残基が使用される。
特にこのような酵素基質ペプチド残基としては、例えば癌組織および/または炎症部位において分泌される酵素の基質ペプチドやその数個(好ましくは1〜3個)のアミノ酸が置換、欠失、挿入された同効の改変ペプチド(以下機能的等価改変ペプチド)の残基が好ましく、酵素基質ペプチド残基がマトリックスメタロプロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、およびアスパルティックプロテアーゼによって開裂する酵素基質ペプチドまたはその機能的等価改変ペプチドの残基、とりわけマトリックスメタロプロテアーゼの基質ペプチド、セリンプロテアーゼの基質ペプチド、またはそれらの等価改変ペプチドの残基がさらに好適である。特に、このような酵素基質ペプチド残基としては、MMP−1、MMP−2、MMP−3、MMP−7、MMP−9、MMP−10、MMP−11、MMP−12、またはMMP−26の基質ペプチドの残基、あるいはこの機能的等価改変ペプチドの残基、あるいはProstate−specific antigen、ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター、組織型プラスミノーゲンアクチベーター、プラスミン、トリプシンあるいは組織カリクレインの基質ペプチドが好ましい。
また、ペプチド鎖の切断が容易となるように、水溶性高分子の影響を受けない程度に長いペプチド鎖が好ましい。具体的には5個から19個が好ましく、さらに好ましくは6個から14個である。最適には9個である。
MMP関連の、このような残基を式示すれば、下記一般式(IX)で示される残基が挙げられる。
−X−AA1−AA2−AA3−AA4−AA5−AA6−AA7−AA8−AA9−Y− (IX)
(配列番号中の記号は以下の意味を表す。
X:結合、無水カルボン酸残基、または1〜5個のアミノ酸残基、
AA1:結合、またはGly残基、
AA2:ProまたはHyp残基、
AA3:Leu、Gln、AlaまたはGly残基、
AA4:Gly、Ala、GlnまたはSer残基、
AA5:アミノ酸残基、
AA6:アミノ酸残基、
AA7:Gly、Ser、またはAla残基、
AA8:結合、またはアミノ酸残基、
AA9:結合、イミノ基(−NH−)、−低級アルキレン−イミノ基またはGly残基、
Y:結合、または1〜5個のアミノ酸残基)
ここに、Xおよび/またはYがそれぞれ独立してアミノ酸残基を示す場合のアミノ酸残基は天然アミノ酸残基であるのが好ましく、AA5のアミノ酸残基が、Ile、Met、Val、Leu、Tyr、Chg、ValおよびPhe残基からなる群より選択されたアミノ酸残基であるのが好ましく、AA6が示すアミノ酸残基が、Ala、Trp、Arg、Leu、His、Gln、ValおよびPhe残基からなる群より選択されたアミノ酸残基であるのが好ましく、AA8がアミノ酸残基を示す場合のアミノ酸残基が、Trp、Arg、Gln、Thr、Pro、GlyおよびLeuからなる群より選択されたアミノ酸残基であるのが好ましい。
特に本発明のMMP関連の酵素基質ペプチド残基としては、多くのMMP関連酵素基質ペプチドとして知られている酵素基質の中でも、配列番号1(Pro−Gln−Gly−Ile−Ala−Gly−Trp)、配列番号2(Pro−Leu−Gly−Met−Trp−Ser−Arg)、配列番号3(Pro−Leu−Gly−Val−Arg−Gly)、配列番号4(Pro−Leu−Gly−Leu−Ala−Gly)、配列番号5(Pro−Leu−Gly−Tyr−Leu−Gly)、配列番号6(Pro−Gln−Gly−Ile−Ala−Gly−Arg)、配列番号7(Pro−Gln−Gly−Ile−Ala−Gly−Gln)、配列番号8(Pro−Gln−Gly−Ile−Ala−Gly−Thr)、配列番号9(Pro−Gln−Gly−Leu−Ala−Gly−Gln)、配列番号10(Pro−Leu−Gly−Ile−Ala−Gly−Gln)、配列番号11(Pro−Leu−Gly−Ile−Ala−Gly−Pro)、配列番号12(Pro−Leu−Gly−Leu−His−Ala−Arg)、配列番号13(Pro−Leu−Gly−Leu−Trp−Ala−Arg)、配列番号14(Pro−Leu−Ala−Phe−Trp−Ala−Arg)、配列番号15(Pro−Gln−Gln−Phe−Phe−Gly−Leu)、配列番号16(Gly−Pro−Gln−Gly−Ile−Ala−Gly−Trp−Gly)、配列番号17(Gly−Pro−Leu−Gly−Ile−Ala−Gly−Gln−Gly)、配列番号18(Gly−Pro−Gln−Gly−Ile−Trp−Gly−Gln−Gly)、配列番号19(Gly−Hyp−Ala−Ser−Chg−Gln−Ser−Leu−Gly)および配列番号20(Gly−Pro−Gly−Arg−Val−Val−Gly−Gly−Gly)のMMP関連酵素基質ペプチドあるいはこれらのペプチドの機能的等価改変ペプチド、特にこれらの配列を含み、そのN末端および/またはC末端の一方、または双方にGly残基を有し、かつマトリックスメタロプロテアーゼまたはセリンプロテアーゼの酵素基質としての活性を示す基質ペプチド(Gly導入機能的等価改変ペプチド)の残基が好ましい。
ペプチドについては、固相ペプチド合成法に従い合成することができる。例えば、アミノ基のカルボキシル端を不溶性樹脂の固相に共有結合で結合しておき、同一容器中でアミノ端側に順次ペプチド結合を延長していく。その間、中間体の精製も同一容器中で行い、最後に求めるペプチドを合成したところで、ペプチド鎖を固相より切り離すことにより目的のペプチドを得ることができる。
本発明における水溶性高分子としてはポリアルキレングリコール、ポリアミノ酸、ポリヒドロキシアルキルアミノ酸、ビニル系高分子が挙げられる。
ポリアルキレングリコールとしては、ポリメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリ−n−プロピレングリコール、ポリ−iso−プロピレングリコールが挙げられる。
ポリアミノ酸としては、ポリアラニン、ポリアルギニン、ポリアスパラギン、ポリアスパラギン酸、ポリシステイン、ポリグルタミン、ポリグルタミン酸、ポリグリシン、ポリヒスチジン、ポリイソロイシン、ポリロイシン、ポリリジン、ポリメチオニン、ポリフェニルアラニン、ポリプロリン、ポリセリン、ポリスレオニン、ポリトリプトファン、ポリチロシン、ポリバリンが挙げられる。
ポリヒドロキシアルキルアミノ酸としては、ポリヒドロキシメチルアミノ酸、ポリヒドロキシエチルアミノ酸、ポリヒドロキシプロピルアミノ酸、ポリヒドロキシブチルアミノ酸を挙げられ、具体的にはポリヒドロキシエチルアスパラギン酸、ポリヒドロキシエチルシステイン、ポリヒドロキシエチルグルタミン酸、ポリヒドロキシエチルリジン、が挙げられる。
ビニル系高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルオキサゾリドン、ポリビニルメチルオキサゾリドン、ポリビニルアミン、ポリ−2−ビニルピリジン、ポリ−4−ビニルピリジン、ポリ−N−ビニルサクシンイミド、ポリ−N−ビニルホルムアミド、ポリ−N−ビニル−N−メチルアセトアミドが挙げられる。
これらの中でもポリエチレングリコール、ポリヒドロキシエチルアスパラギン酸、ポリヒドロキシエチルグルタミン酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンが好ましく、更にポリエチレングリコール、ポリヒドロキシエチルアスパラギン酸、ポリヒドロキシエチルグルタミン酸が好ましく、ポリエチレングリコールがとりわけ好ましい。
水溶性高分子の末端置換基としては、−OH、−O−CH、−CHCH−OH、−NH、−CHCH−NH、−(CH−NH、−O−CHCH−NH、−O−(CH−NH、−S−CHCH−NH、−OCNH−CHCH−NH、−OCO−CH(低級アルキル)−NH、−O−CH−CO−NH−NHCl、−SH、−COOH、−OCO−CHCH−COOH、−O−CH−COOH、−O−CHCH−COOH、−OCO−NH−CH(低級アルキル)−COOH、−COO−ジカルボン酸イミジル、−OCO−CHCH−COO−ジカルボン酸イミジル、−NH−CO−CHCH−COO−ジカルボン酸イミジル、−O−CHCH−COO−ジカルボン酸イミジル、−O−CH−COO−ジカルボン酸イミジル、−OCO−NH−CH(低級アルキル)−COO−ジカルボン酸イミジル、−O−CH−エポキシジル、−OCO−イミダゾール、−OCO−ニトロフェニル、−OSO−CH−CF、−O−CHCH−CHO、−O−CHCH−NCO、−O−CHCHCH、−O−CCHCH、−OCC(CH)CH、−SO−CHCH、−NH−CO−CHI、−マレイミジル、−S−S−オルトピリジル、−ビオチンが挙げられる。
本発明における水溶性高分子の平均分子量は150〜50,000のものが用いられ、好ましくは200〜15,000が用いられる。更に好ましくは500〜5,000が用いられる。
本発明における無水カルボン酸としては、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水シトラコン酸、無水グルタル酸、無水酢酸、無水フタル酸等が挙げられる。
本発明におけるヒトを含むほ乳類の細胞より分泌される酵素とは、特に癌組織および/または炎症部位において分泌される酵素を意味し、例えばマトリックスメタロプロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、およびアスパルティックプロテアーゼが挙げられる。
マトリックスメタロプロテアーゼとしては、例えばMMP−1、MMP−2、MMP−3、MMP−7、MMP−8、MMP−9、MMP−10、MMP−11、MMP−12、MMP−13、MMP−14、MMP−15、MMP−16、MMP−17、MMP−18、MMP−19、MMP−20、MMP−21、MMP−23、MMP−24、MMP−25、MMP−26、MMP−28等が挙げられる。セリンプロテアーゼとしては、例えばProstate−specific antigen、ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター、組織型プラスミノーゲンアクチベーター、プラスミン、トリプシンおよび組織カリクレイン、キモトリプシン、カテプシンG、エラスターゼ、トロンビンが挙げられる。システインプロテアーゼとしては、カテプシンB、カテプシンH、カテプシンLが挙げられる。アスパルティックプロテアーゼとしては、カテプシンD、カテプシンEが挙げられる。
(2)本発明結合体の製造法
本発明の結合体(I)、特に(I−a)および(I−b)、並びにこれらの中間体は、その基本骨格あるいは置換基の種類に基づく特徴を利用し、種々の公知の合成法を適用して製造することができる。その際、官能基の種類によっては、当該官能基を原料乃至中間体の段階で適当な保護基で保護、又は当該官能基に容易に転化可能な基に置き換えておくことが製造技術上効果的な場合がある。このような官能基としては例えばアミノ基、水酸基、カルボキシル基等であり、それらの保護基としては例えばグリーン(T.W.Greene)及びウッツ(P.G.M.Wuts)著、「Protective Groups in Organic Synthesis(第3版、1999年)」に記載の保護基を挙げることができ、これらを反応条件に応じて適宜選択して用いればよい。このような方法では、当該保護基を導入して反応を行った後、必要に応じて保護基を除去、あるいは所望の基に転化することにより、所望の化合物とすることができる。
本発明の脂質とペプチドと水溶性高分子との結合体(I)は、N末端が活性化されていてもよく、N末端以外の官能基で保護基を有していてもよいペプチド−水溶性高分子結合体(II−a)と、無水カルボン酸残基で置換されていてもよく、カルボキシル基が活性化されていてもよい脂質(III−a)とを反応せしめるか、またはC末端が活性化されていてもよく、C−末端以外の官能基で保護基を有していてもよい水溶性高分子−ペプチド結合体(II−b)と、活性化されていてもよいアミノ基含有の脂質(III−b)と反応せしめ、必要により保護基を除去することにより製造される。
本発明結合体(I)は、また一方端がメトキシ基で置換されていてもよく、他方端が−NH、−低級アルキル−NH、−CO−低級アルキレン−COO−ジカルボン酸イミジル、−低級アルキレン−COO−ジカルボン酸イミジル、および−低級アルキル−ジカルボン酸イミジルからなる群より選択された基で置換されていてもよいポリエチレングリコール、ポリアミノ酸、ポリヒドロキシエチルアミノ酸、およびポリビニルピロリドンからなる群より選択される水溶性高分子(V−a)とを反応せしめるか、または一方端がメトキシ基で置換されていてもよく、他方端がそれぞれ保護基を有していてもよい−NH、−低級アルキル−NH、−CO−低級アルキレン−COO−ジカルボン酸イミジル、−低級アルキレン−COO−ジカルボン酸イミジル、および−低級アルキル−ジカルボン酸イミジルからなる群より選択された基で置換されていてもよいポリエチレングリコール、ポリアミノ酸、ポリヒドロキシエチルアミノ酸、およびポリビニルピロリドンからなる群より選択される水溶性高分子(V−b)とを反応せしめ、必要により保護基を除去することにより製造される。
具体的には、本発明結合体(I)の内、脂質−ペプチド−水溶性高分子結合体(I−a)と、水溶性高分子−ペプチド−脂質結合体(I−b)とに分け、原料化合物の製法と共に、以下詳細に説明する。
製造法としては、以下第1製造法から第4製造法まで4種の製造方法を選択することができ、それぞれ第1工程と第2工程に分けられる。
第1製造法
第一工程
ペプチド + 水溶性高分子 → ペプチド−水溶性高分子
(IV−a) (V−a) (VI−a)
第二工程
必要により N末端保護基の除去、N末端活性化
ペプチド−水溶性高分子 →
(VI−a)
ペプチド−水溶性高分子 + Lip →Lip−ペプチド−水溶性高分子
(II−a) (III−a) (I−a)
(式中、ペプチドは、C末端が活性化されていてもよく、C末端以外の官能基で保護基を有していてもよペプチドを、水溶性高分子はペプチドのカルボキシル基またはその活性化基と反応する官能基を含み、一方端がメトキシ基で置換されていてもよく、他方端が−NH、−低級アルキル−NHからなる群より選択された活性化基で置換されていてもよいポリエチレングリコール、ポリアミノ酸、ポリヒドロキシエチルアミノ酸、およびポリビニルピロリドンからなる群より選択される水溶性高分子を、ペプチドは保護基を有していてもよいペプチド残基を、ペプチドはN末端が活性化されていてもよく、N末端以外の官能基で保護基を有していてもよいペプチド残基を、水溶性高分子は水溶性高分子残基を、脂質は無水カルボン酸残基で置換されていてもよく、カルボキシル基が活性化されていてもよい、リン脂質、高級脂肪酸、高級脂肪族アミン、糖脂質、セラミド、コレステロール、グリセリドおよびそれらの誘導体からなる群より選択される脂質を、脂質は開裂した無水カルボン酸残基を介在基として含んでいてもよい、リン脂質、高級脂肪酸、高級脂肪族アミン、糖脂質、セラミド、コレステロール、グリセリドおよびそれらの誘導体からなる群より選択される脂質の残基を、ペプチドは保護基を有していてもよいペプチド残基を意味する)
第一工程
本反応は、C末端が活性化されていてもよく、C末端以外の官能基で保護基を有していてもよいペプチド(IV−a)と、ペプチドのカルボキシル基またはその活性化基と反応する官能基を含み、一方端がメトキシ基で置換されていてもよく、他方端が−NH2、−低級アルキル−NH2からなる群より選択された基で置換されていてもよいポリエチレングリコール、ポリアミノ酸、ポリヒドロキシエチルアミノ酸、およびポリビニルピロリドンからなる群より選択される水溶性高分子(V−a)とを反応させることにより、保護基を有していてもよいペプチド−水溶性高分子結合体(VI−a)を製造する方法である。
第一工程において、ペプチドC末端活性化体としては、酸クロライド、酸ブロマイドの如き酸ハライド;酸アジド;メチルエステル、エチルエステル等のエステル;N−ヒドロキシスクシンイミド(HONSu)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)等との活性エステル;対称型酸無水物;アルキル炭酸、p−トルエンスルホン酸等との混合酸無水物などが挙げられる。一方、水溶性高分子がペプチドのカルボキシル基またはその活性化基と反応しうる官能基としては、典型的にはアミノ基である。すなわち、水溶性高分子が一方端にメトキシ基を有するポリエチレングリコールであるときは、その他方端に−NH、−低級アルキル−NH等を有するものであり、水溶性高分子がポリアミノ酸、ポリヒドロキシエチルアミノ酸であるときは活性化されていてもよいアミノ基であり、ポリビニルピロリドンにおいてはピロリドン環基である。
本反応は、常法に従って、レジンなどに一方の原料化合物を結合させておいて、他方の原料化合物を反応させ、洗浄して副生成物を除去し、ついでレジンより反応生成物を単離するか、あるいはそのまま次工程に付すことにより行われる。
反応は、C末端が活性化されていてもよく、C末端以外の官能基で保護基を有していてもよいペプチド(IV−a)と、メトキシ基、またはメトキシ基および活性化基を有していてもよい水溶性高分子(V−a)とを、縮合剤(例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、ジイソプロピルカルボジイミド(DIPC)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(WSC)、1,1’−カルボニルビス−1H−イミダゾール(CDI等)、場合によっては、更に添加剤(例えば、N−ヒドロキシスクシンイミド(HONSu)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)等)の存在下、縮合することにより行うことができる。また、ペプチド(IV−a)と上記添加剤との活性エステル体を一旦単離後、水溶性高分子(V−a)と縮合してもよい。
反応条件は、用いられる活性化体の種類など原料化合物の種類等によって異なるが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、1,4−ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル類、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ピリジン等の反応に不活性な有機溶媒中、原料化合物(II−a)および(III−a)を等モルないし一方を過剰モル用いて、反応させるのが有利である。溶媒は単独で、又は2種以上混合して使用してもよい。
また、活性化体の種類によってはトリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、ルチジン、ジメチルアニリン、N−メチルモルホリンなどの有機塩基、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基などの塩基の存在下に実施するのが有利な場合がある。また、ピリジンは溶媒を兼ねることもできる。
反応は、通常常温下に実施することができるが、原料化合物の種類、特に活性化体の種類によっては、冷却下に、あるいは加温下に実施する場合もある。
第二工程
第一工程で得られた保護基を有していてもよいペプチド−水溶性高分子結合体(VI−a)がN−末端に保護基を有する場合は、その保護基を除去して、必要により該N末端を活性化して、N−末端が活性化されていてもよく、N−末端以外の官能基で保護基を有していてもよいペプチド−水溶性高分子結合体(II−a)とする。
次いで無水カルボン酸残基で置換されていてもよく、カルボキシル基が活性化されていてもよい脂質(III−a)と反応せしめ、必要により保護基を除去することN末端が活性化されていてもよく、N末端以外の官能基で保護基を有していてもよいペプチド−水溶性高分子結合体(II−a)と、無水カルボン酸残基で置換されていてもよく、カルボキシル基が活性化されていてもよい脂質(III−a)とを反応せしめ、保護基があるときは必要により該保護基を除去することにより、本発明結合体(I−a)を製造することができる。
N末端の保護基の除去は、常法によって行われ、例えばアミノ基の保護基が、9−フルオレニルメチルカルボニル基などのアシル系の保護基はピペリジン/ジメチルホルムアミドで処理することにより保護基を容易に除去することが可能である。また、N末端の保護基が、ベンジルオキシカルボニル基であるときは接触還元が有利であり、場合によってはトリフルオロ酢酸/臭化水素酸などの酸による処理が用いられる。さらに、tert−ブトキシカルボニル基などの他のウレタン型保護基は前記の酸処理が有利である。
N末端の活性化基としては、該アミンの酸付加塩などが挙げられる。また、N末端以外の官能基の保護基としては、前記非特許文献記載の各種の保護基が挙げられる。
一方、無水カルボン酸残基で置換された場合の脂質は、ホスファチジルエタノールアミンの如く脂質の末端基がアミノ基などの官能基の場合に採用され、ペプチドのN末端への結合を容易にするために無水カルボン酸残基を結合させる。また、脂質の活性化されていてもよいカルボン酸残基としては、前記のペプチドのC末端の活性化基と同様、如き酸ハライド;酸アジド;通常のエステル;活性エステル;対称型酸無水物;混合酸無水物などが挙げられる。
反応は、第一工程と同様、ペプチド結合の形成反応であり、第一工程と同様に実施することができる。すなわち、結合体(II−a)と脂質(III−a)とを、縮合剤、場合によっては、更に前記の添加剤の存在下、縮合することにより行うことができる。また、脂質(III−a)と上記添加剤との活性エステル体を一旦単離後、結合体(II−a)と縮合してもよい。
この反応においても、常法に従って、レジンに一方の原料化合物を結合させておいて実施することができる。
反応条件も第一工程と同様であり、用いられる活性化体の種類など原料化合物の種類等によっても異なるが、反応に不活性な有機溶媒中、原料化合物(II−a)および(III−a)を等モルないし一方を過剰モル用いて、反応させるのが有利である。溶媒は単独で、又は2種以上混合して使用してもよい。
また、活性化体の種類によってはトリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、ルチジン、ジメチルアニリン、N−メチルモルホリンなどの有機塩基、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基などの塩基の存在下に実施するのが有利な場合がある。また、ピリジンは溶媒を兼ねることもできる。
反応は、通常常温下に実施することができるが、原料化合物の種類、特に活性化体の種類によっては、冷却下に、あるいは加温下に実施する場合もある。
保護基の除去は、常法によって行われ、例えばアミノ基の保護基が存在するときは前記のピペリジン/ジメチルホルムアミド処理、接触還元、酸処理で容易に実施可能である。
さらに、保護基としてカルボキシル基の保護基が存在するときは、保護基がエステル形成基であるときはケン化により、ベンジル基、置換ベンジル基のときは接触還元やケン化により、tert−ブチル基は前記の酸処理により、さらにトリメチルシリル基は水と接触させることによりそれぞれの保護基を容易に除去できる。
メルカプト基や水酸基の保護基は大方ナトリウム/液体アンモニア処理で除去できるほか、保護基の種類によっては接触還元(例えば−O−ベンジル等)、酸またはアルカリ存在下の加水分解(例えばアシル系保護基)で容易に除去可能である。
第2製造法
第一工程
水溶性高分子 + ペプチド → 水溶性高分子−ペプチド
(V−b) (IV−b) (VI−b)
第二工程
必要により C末端保護基の除去、C末端活性化
水溶性高分子−ペプチド
(VI−b)
水溶性高分子−ペプチド + 脂質 → 水溶性高分子−ペプチド−脂質
(II−b) (III−b) (I−b)
(式中、水溶性高分子、ペプチド、および脂質は前記の意味を有し、水溶性高分子は一方端がメトキシ基で置換されていてもよく、他方端がそれぞれ保護基を有していてもよい−CO−低級アルキレン−COO−ジカルボン酸イミジル、−低級アルキレン−COO−ジカルボン酸イミジル、および−低級アルキル−ジカルボン酸イミジルからなる群より選択された基で置換されていてもよいポリエチレングリコール、ポリアミノ酸、ポリヒドロキシエチルアミノ酸、およびポリビニルピロリドンからなる群より選択される水溶性高分子を、ペプチドはN末端が活性化されていてもよく、N末端以外の官能基で保護基を有していてもよペプチドを、ペプチドは保護基を有していてもよいペプチド残基を、ペプチドは、C末端が活性化されていてもよく、C末端以外の官能基で保護基を有していてもよいペプチド残基を、脂質は活性化されていてもよいアミノ基を含有する脂質をそれぞれ意味する)
第一工程
本反応は、一方端がメトキシ基で置換されていてもよく、他方端がそれぞれ保護基を有していてもよい−CO−低級アルキレン−COO−ジカルボン酸イミジル、−低級アルキレン−COO−ジカルボン酸イミジル、および−低級アルキル−ジカルボン酸イミジルからなる群より選択された基で置換されていてもよいポリエチレングリコール、ポリアミノ酸、ポリヒドロキシエチルアミノ酸、およびポリビニルピロリドンからなる群より選択される水溶性高分子(V−b)と、N末端が活性化されていてもよく、N末端以外の官能基で保護基を有していてもよいペプチド(IV−b)とを反応させて、保護基を有していてもよい水溶性高分子−ペプチド結合体(VI−b)を製造する反応である。
一方端がメトキシ基で置換されていてもよく、他方端がそれぞれ保護基を有していてもよい−CO−低級アルキレン−COO−ジカルボン酸イミジル、−低級アルキレン−COO−ジカルボン酸イミジル、および−低級アルキル−ジカルボン酸イミジルからなる群より選択された基で置換されていてもよいポリエチレングリコール、ポリアミノ酸、ポリヒドロキシエチルアミノ酸、およびポリビニルピロリドンからなる群より選択される水溶性高分子(V−a)が有していてもよい保護基としては、前記アミノ基の保護基が挙げられる。
一方、ペプチドのN末端の活性化基としては、該アミンの酸付加塩などが挙げられる。また、ペプチドのN末端以外の官能基の保護基としては、前記非特許文献記載の保護基が挙げられる。
本反応も第一製造法と同様ペプチド結合の形成反応であり、第一製造法と同様に実施することができる。
第二工程
第二工程の反応は、第一工程で得られた保護基を有していてもよい水溶性高分子−ペプチド結合体(VI−b)がC−末端に保護基を有する場合はその保護基を除去して、必要によりC末端を活性化して、C−末端が活性化されていてもよく、C−末端以外の官能基で保護基を有していてもよい水溶性高分子−ペプチド結合体(II−b)となし、次いで活性化されていてもよいアミノ基含有の脂質(III−b)と反応せしめ、必要により保護基を除去することを特徴とする、水溶性高分子−ペプチド−脂質結合体(I−b)を製造する反応である。
アミノ基を含有する脂質としては、ホスファチジルエタノールアミンの如く末端にアミノ基を含有する脂質が挙げられる。該アミノ基の活性化されていてもよい活性体は該アミンの酸付加塩が挙げられる。また、ペプチドのC末端活性下記としては第一製造法に記載した活性化基が挙げられる。
本反応もまた、ペプチド結合形成反応であり第一製造法に準じて実施するのが有利である。
第3製造法
第一工程
脂質 + ペプチド → 脂質−ペプチド
(III−a) (IV−b) (VII−a)
第二工程
必要により C末端保護基の除去、C末端活性化
脂質−ペプチド
(VII−a)
脂質−ペプチド + 水溶性高分子 → 脂質−ペプチド−水溶性高分子
(VII−c) (V−a) (I−a)
(式中、脂質、脂質、ペプチド、ペプチド、ペプチド、ペプチド、水溶性高分子および水溶性高分子は、前記の意味を有する。
本反応は、無水カルボン酸残基で置換されていてもよく、カルボキシル基が活性化されていてもよい脂質(III−a)と、N末端が活性化されていてもよく、N末端以外の官能基で保護基を有していてもよいペプチド(IV−b)とを反応させて、保護基を有していてもよい脂質−ペプチド結合体(VIII−a)を製造する反応(第一工程)、第一工程で得られた保護基を有していてもよい脂質−ペプチド結合体(VIII−a)がC−末端に保護基を有する場合はその保護基を除去して、必要により該C末端を活性化して、C−末端が活性化されていてもよく、C−末端以外の官能基で保護基を有していてもよい脂質−ペプチド結合体(VII−a)となし、次いで一方端がメトキシ基で置換されていてもよく、他方端が−NH、−低級アルキル−NH、からなる群より選択された基で置換されていてもよいポリエチレングリコール、ポリアミノ酸、ポリヒドロキシエチルアミノ酸、およびポリビニルピロリドンからなる群より選択される水溶性高分子(V−a)とを反応せしめ、必要により保護基を除去することにより脂質−ペプチド−水溶性高分子結合体(I−a)を製造する反応(第二工程)である。
この製造法の反応も、ペプチド結合形成反応であり、第1〜2製造法に準じて実施することができる。
第4製造法
第一工程
ペプチド + 脂質 → ペプチド−脂質
(IV−a) (III−b) (VIII−a)
第二工程
必要により N末端保護基の除去、N末端活性化
ペプチド−脂質 →
(VIII−a)
ペプチド−脂質 + 水溶性高分子 → 水溶性高分子−ペプチド−脂質
(VIII−c) (V−a) (I−b)
(式中、脂質、脂質、ペプチド、ペプチド、ペプチド、ペプチド、水溶性高分子および水溶性高分子は、前記の意味を有する)
本反応は、C末端が活性化されていてもよく、C末端以外の官能基で保護基を有していてもよペプチド(IV−a)と、活性化されていてもよいアミノ基を含有する脂質(III−b)とを反応させて、得られた保護基を有していてもよいペプチド−脂質結合体(VIII−b)がN−末端に保護基を有する場合はその保護基を除去して、必要により該N末端を活性化して、N−末端が活性化されていてもよく、N−末端以外の官能基で保護基を有していてもよい脂質−ペプチド結合体(VII−b)となし、次いで一方端がメトキシ基で置換されていてもよく、他方端がそれぞれ保護基を有していてもよい−CO−低級アルキレン−COO−ジカルボン酸イミジル、−低級アルキレン−COO−ジカルボン酸イミジル、および−低級アルキル−ジカルボン酸イミジルからなる群より選択された基で置換されていてもよいポリエチレングリコール、ポリアミノ酸、ポリヒドロキシエチルアミノ酸、およびポリビニルピロリドンからなる群より選択される水溶性高分子(V−b)とを反応せしめ、必要により保護基を除去することを特徴とする水溶性高分子−ペプチド−脂質結合体(I−b)の製造法する反応である。
この製造法の反応も、ペプチド結合形成反応であり、第1〜3製造法に準じて実施することができる。
(3)結合剤の中間体としての結合体とその製造方法
本願の発明には、本発明の脂質とペプチドと水溶性高分子との結合体(I)を製造するために新規で有用な中間体である、「保護基を有していてもよいペプチド−水溶性高分子結合体(VI−a)」の発明も包含される。
製造中間体(VI−a)が構成するペプチド残基および水溶性高分子に関する定義については前記の通りであり、この製造中間体は上記第1製造法の第一工程を実施することによって製造することができる。
この製造中間体は、優れたコロイダルキャリアーとして有用な本発明結合体(I)を直接製造するための中間体であり、最終目的物である結合体(I)に至る経路は上記第1製造法の第二工程に示したとおりである。
(4)結合体からなるコロイダルキャリアー
コロイダルキャリアーとは、一般的に低分子物質あるいは高分子物質を包含することのできるコロイドの運搬体を指す。コロイドとは、光学顕微鏡では認められないが、原子あるいは低分子よりは大きい粒子として分散している状態にある分散系あるいは分散粒子を意味する。コロイダルキャリアーは具体的にはリポソーム、エマルジョン、ミセル、またはナノパーティクル等を意味する。したがって本発明でいう結合体からなるコロイダルキャリアーとは脂質とペプチドと水溶性高分子の結合体と脂質あるいはその他の添加剤とを含有するリポソーム、エマルジョン、ミセル、またはナノパーティクル等を意味する。これらコロイダルキャリアーを用いることにより、薬物等の低分子物質あるいは高分子物質を担持させることが可能となり、癌あるいは炎症等の標的疾患部位への薬物等の運搬と、水溶性高分子の結合体からの脱離による薬物の標的細胞への到達を達成することができる。
コロイダルキャリアー調製の際に用いられる脂質は、リポソーム、エマルジョン、ミセル、またはナノパーティクル等のコロイダルキャリアーを形成する成分として用いられる脂質であれば特に限定されない。かかる脂質としては、例えば、リン脂質、脂肪酸、糖脂質、グリセリド、コレステロール、およびそれらの誘導体等が挙げられる。
リン脂質としては、ホスファチジルコリン類、例えば、卵黄ホスファチジルコリン、水添卵黄ホスファチジルコリン、大豆ホスファチジルコリン、水添大豆ホスファチジルコリン、ジラウロイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン等、ホスファチジルエタノールアミン類、例えば、卵黄ホスファチジルエタノールアミン、大豆ホスファチジルエタノールアミン、ジラウロイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン等、ホスファチジルグリセロール類、例えば、卵黄ホスファチジルグリセロール、ジラウロイルホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジオレオイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジルグリセロール等、ホスファチジルイノシトール類、例えば、水添卵黄ホスファチジルイノシトール、大豆ホスファチジルイノシトール、ジラウロイルホスファチジルイノシトール、ジミリストイルホスファチジルイノシトール、ジオレオイルホスファチジルイノシトール、ジパルミトイルホスファチジルイノシトール、ジステアロイルホスファチジルイノシトール等、ホスファチジルセリン類、例えば、ジラウロイルホスファチジルセリン、ジミリストイルホスファチジルセリン、ジオレオイルホスファチジルセリン、ジパルミトイルホスファチジルセリン、ジステアロイルホスファチジルセリン等、ホスファチジン酸類、例えば、ジラウロイルホスファチジン酸、ジミリストイルホスファチジン酸、ジオレオイルホスファチジン酸、ジパルミトイルホスファチジン酸、ジステアロイルホスファチジン酸等、カルジオリピン類、例えば、テトララウロイルカルイオリピン、テトラミリストイルカルイオリピン、テトラオレオイルカルイオリピン、テトラパルミトイルカルイオリピン、テトラステアロイルカルイオリピン等、スフィンゴミエリン等およびそれらの誘導体が挙げられる。脂肪酸としては、脂肪酸類、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等、脂肪族アミン類、例えば、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、オレオイルアミン、ステアリルアミン、ジラウリルアミン、ジミリスチルアミン、ジパルミチルアミン、ジオレオイルアミン、ジステアリルアミン等、脂肪族アルコール類、例えば、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、オレオイルアルコール、パルミチルアルコール、ステアリルアルコール等、およびそれらの誘導体および塩類が挙げられる。
糖脂質としては、セラミド、スフィンゴシン、ガングリオシドおよびそれらの誘導体を挙げられる。
グリセリドとしては、脂肪酸グリセリド、例えば、ジラウロイルグリセロール、ジミリストイルグリセロール、ジオレオイルグリセロール、ジパルミトイルグリセロール、ジステアロイルグリセロール等が挙げられる。脂肪族ジメチルアンモニウムプロパン類としては、例えばジミリストイルジメチルアンモニウムプロパン、ジオレオイルジメチルアンモニウムプロパン、ジパルミトイルジメチルアンモニウムプロパン、ジステアロイルジメチルアンモニウムプロパン、ジオレオイルオキシジメチルアミノプロパンハイドロクロライド等、脂肪族トリメチルアンモニウムプロパン類、例えばジミリストイルトリメチルアンモニウムプロパン、ジオレオイルトリメチルアンモニウムプロパン、ジパルミトイルトリメチルアンモニウムプロパン、ジステアロイルトリメチルアンモニウムプロパン等およびそれらの誘導体を挙げることができる。
コレステロールとしては、コレステロールおよびその誘導体が挙げられる。
これらコロイダルキャリアーの調製には種々の方法を選択することができる。例えばリポソームの調製法としては、薄膜法、逆相蒸発法、凍結乾燥法、噴霧乾燥法、エタノール注入法、エーテル注入法等の方法を選択することができる。さらに、サイズ、ラメラ数、内水相容積などを制御することを目的として、超音波処理法、フレンチプレス法、エクストルージョン法、界面活性剤除去法、Ca2+融合法、凍結融解法等の方法を選択することが可能である。上記の脂質とペプチドと水溶性高分子の結合体を他のリポソーム構成成分と混合してリポソームを調製することも可能であり、またあらかじめ調製したリポソームに上記の脂質とペプチドと水溶性高分子の結合体を添加することによりリポソームに導入することも可能である。リポソーム構成成分としては、リン脂質、脂肪酸、糖脂質、グリセリド、コレステロールおよびそれらの誘導体等が挙げられる。これらリポソーム構成成分は1種または2種以上を添加してもよい。リポソーム成分に対する脂質とペプチドと水溶性高分子の結合体の含有量は0.01〜約20%(mol/mol)の範囲が好ましく、0.1〜約15%(mol/mol)が更に好ましく、最も好ましくは約1〜10%(mol/mol)である。調製したリポソームの粒子径は約20〜800nmの範囲が好ましく、さらに約20〜約600nmが好ましく、最も好ましくは約20〜400nmである。
またミセル調製法としては、例えば薄膜法、o/w乳化法、透析法など様々な方法を選択することができる(J.Contrl.Rel.,48,195,1997、J.Contrl.Rel.,78,155,2002)。また、上記の脂質とペプチドと水溶性高分子の結合体のみからなるミセルを調製することも可能であり、また、その他の添加剤を加えることも可能である。ミセル成分に対する脂質とペプチドと水溶性高分子の結合体の含有量は約20%(mol/mol)以上の範囲が好ましく、約50%(mol/mol)以上がさらに好ましい。脂質とペプチドと水溶性高分子の結合体以外の添加剤は2種類以上添加してもよい。調製したミセルの粒子径は約10〜約500nmの範囲が好ましく、約20〜400nmがさらに好ましい。
本発明に用いられる薬物としては、本発明に用いられる薬物としては、治療学的に有効な活性成分、あるいは予防学的に有効な活性成分であれば特に制限されない。かかる医薬活性成分としては、例えば催眠鎮静剤、睡眠導入剤、抗不安剤、抗てんかん剤、抗うつ薬、抗パーキンソン剤、精神神経用剤、中枢神経系用薬、局所麻酔剤、骨格筋弛緩剤、自律神経剤、解熱鎮痛消炎剤、鎮けい剤、鎮暈剤、強心剤、不整脈用剤、利尿剤、血圧降下剤、血管収縮剤、血管拡張剤、循環器官用薬、高脂血症剤、呼吸促進剤、鎮咳剤、去たん剤、鎮咳去たん剤、気管支拡張剤、止しゃ剤、整腸剤、消化性潰瘍用剤、健胃消化剤、制酸剤、下剤、利胆剤、消化器官用薬、副腎ホルモン剤、ホルモン剤、泌尿器官用剤、ビタミン剤、止血剤、肝臓疾患用剤、通風治療剤、糖尿病用剤、抗ヒスタミン剤、抗生物質、抗菌剤、抗悪性腫瘍剤、化学療法剤、総合感冒剤、滋養強壮保健薬、骨粗しょう症薬等を挙げることができる。かかる薬物として、例えば、インドメタシン、ジクロフェナック、ジクロフェナックナトリウム、コデイン、イブプロフェン、フェニルブタゾン、オキシフェンブタゾン、メピリゾール、アスピリン、エテンザミド、アセトアミノフェン、アミノピリン、フェナセチン、臭化ブチルスコポラミン、モルヒネ、エトミドリン、ペンタゾシン、フェノプロフェンカルシウム、ナプロキセン、セレコキシブ、バルデコキシブ、トラマドール等の消炎、解熱、鎮けいまたは鎮痛薬、エトドラック等の抗リューマチ薬、フルオロウラシル、カルモフール、塩酸アクラルビシン、塩酸ダウノルビシン、塩酸ドキソルビシン、マイトマイシン、パクリタキセル、塩酸エピルビシン、塩酸イダルビシン、塩酸ピラルビシン、ブレオマイシン、硫酸ペプロマイシン、エトポシド、塩酸イリノテカン、塩酸ノギテカン、酒石酸ビノレルビン、ドセタキセル、硫酸ビンクリスチン、硫酸ビンデシン、硫酸ビンプラスチン、クエン酸タモキシフェン、シゾフィラン、クレスチン、ゲフィチニブ、シスプラチン、シクロホスファミド、チオテパ等の抗悪性腫瘍薬、エピネフィリン、トリアムシノロン、ヒドロコルチゾン、酢酸コルチゾン、デキサメタゾン、酢酸パラメタゾン、酢酸ハロプレドン、酢酸フルドロコルチゾン、ノルエピネフィリン、プラステロン、プレドニゾロン、ベタメタゾン等の副腎ホルモン剤、塩酸アンピシリンフタリジル、セフォテタン、ジョサマイシン、エンサンテトラサイクリン、塩酸ドキシサイクリン、塩酸ミノサイクリン等の抗生物質、等が挙げられる。薬物は、フリー体または製薬的に許容され得る塩のいずれをも用いることができる。また、薬物は、1種または2種以上組合せて用いることもできる。
薬物を含有するリポソーム調製法としては、前記リポソーム調製法を適用することが可能である。薬物と他のリポソーム成分とを混合してリポソームを調製することも可能であり、またあらかじめ調製したリポソームに薬物を添加することによりリポソームに薬物を包含させることも可能である。例えば、薬物と脂質とペプチドと水溶性高分子の結合体とその他のリポソーム構成成分を混合して薄膜を調製後、水和処理により薬物を包含したリポソームを調製することができる。また、あらかじめ調製した脂質とペプチドと水溶性高分子の結合体とを含有するリポソームに凍結融解法、pH勾配法等の方法によりリポソームに薬物を包含させることも可能である。リポソームに包含されなかった薬物は透析、ゲル濾過、超遠心等の方法により除去することができる。リポソーム成分に対する薬物の含有量は、0.01〜約70%(w/w)の範囲が好ましく、さらに0.1〜約50%(w/w)、最も好ましくは約1〜約30%(w/w)である。
また薬物を含有するミセル調製法としては、前記ミセル調製法を適用することが可能である。ミセルに包含されなかった薬物は透析、ゲル濾過、超遠心等の方法により除去することができる。ミセル成分に対する薬物の含有量は0.01〜約70%(w/w)の範囲が好ましく、さらに0.1〜約50%(w/w)、最も好ましくは約1〜約30%(w/w)である。
(5)コロイダルキャリアーを使用する組織特異的薬物送達システム
本発明でいう組織特異的薬物送達システムとは、薬物と脂質とペプチドと水溶性高分子の結合体からなるコロイダルキャリアーを使用して、疾患組織から特異的に分泌される酵素に感応して前記結合体の酵素基質ペプチド部分が切断されることにより、キャリアーがその標的組織の細胞へ接着し、薬物を放出するシステムを意味する。また、標的組織の細胞に接着する性質を有するコロイダルキャリアーを使用する前記システムを意味する。薬物はコロイダルキャリアーに担持され、標的組織まで運ばれる。本発明でいう細胞への接着とは、キャリアーの脂質部分が細胞膜との相互作用をおこすことをいい、会合という場合もある。また接着、会合の後、細胞膜との融合(膜融合)等により、キャリアーが細胞内へ取り込まれ、標的組織まで運ばれた薬物は放出される。
膜融合は、2つの脂質膜が合体して一つの膜になる現象をいい、多くの細胞現象にかかわる重要な過程で、エンドサイトーシスやエキソサイトーシス、小胞輸送など細胞内の多くの過程に膜融合が関わっている。しかしながら、細胞膜はイオンや極性の高い分子、蛋白質や遺伝子などの大きな分子を透過させない。細胞内で活性を発現する生理活性物質を有効に働かせるためには、それらを細胞質の中に導入する運搬体が必要であり、膜融合能をもつリポソームは、細胞膜やエンドソーム膜と融合することによって、内部に封入した物質を効率よく細胞質内に移行させることができるため、細胞質内送達システムとして有用であることが報告されている(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84,7413,1987)。
また前記システム以外に難溶性の薬物の可溶化手段としても本発明結合体を利用することが可能である。すなわち本発明結合体は、一つの分子内に親水性基と疎水性基を有していることから、水に分散させた際に、一定濃度以上になると親水性基を外に、疎水性基を内に向けて小さな集合体(ミセル)を形成する。水に溶けにくい物質をミセルに取り込むことにより可溶化の作用を示すことが可能だからである。
リポソームの場合、水溶性高分子と脂質の誘導体の添加量は、リポソーム膜表面上における水溶性高分子のコンフォメーション、水和層の厚さ、リポソームの血中滞留性に影響する(Adv.Drug Del.Rev.,24,165,1997)。特に、水溶性高分子のコンフォメーションの変化には大きく影響し、分子量2000のポリエチレングリコールでは全脂質量の4mol%、分子量5000のポリエチレングリコールでは全脂質量の2mol%の際にコンフォメーション変化が生じる(Biophys.J.,68,1903,1995)。
ミセルの場合、両親媒性物質がどのような構造を形成するかは、親水性および疎水性の程度に大きく影響を受ける。親水性の水溶性高分子と疎水性の脂質を有する両親媒性物質は親水性が相対的に強く、単独ではミセルを構成する。また、ミセルを形成する物質に界面活性剤を約70%程度添加することにより、混合ミセルを形成させることができる(野島ら(編集),リポソーム,南江堂)
【図面の簡単な説明】
図1は、Fmoc−GPQGIAGWG−PEGのMALDI−TOFMS測定結果である。
図2は、DSPE−GPQGIAGWG−PEGのMALDI−TOFMS測定結果である。
図3は、DSPE−GPQGIAGWG−PEGのH−NMR測定結果である。
図4は、酵素分解性試験の結果である。
図5は、DSPE−GPQGIAGWG−PEG含有リポソームおよびPEG−DSPE含有リポソームの血漿中濃度推移測定結果である。
図6は、DSPE−GPQGIAGWG−PEG含有リポソームおよびPEG−DSPE含有リポソームの癌組織集積性測定結果である。
図7は、MMP−2添加によるリポソーム表面からのPEG脱離性試験結果である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、実施例を挙げてさらに本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
測定法、分析法等
[RP−HPLC分析]
9−フルオレニルメチルカルボニル(Fmoc)−グリシルプロリルグルタミルグリシルイソロイシルアラニルグリシルトリプトファニルグリシン(Gly−Pro−Gln−Gly−Ile−Ala−Gly−Trp−Gly)合成の純度評価および酵素分解性評価を行った。尚、検出は9−フルオレニルメチルカルボニル(Fmoc)基を蛍光検出した。
システム:LC10A(島津製作所)、カラム:TSKGEL ODS−80Ts QA φ=4.6mm×250mm(東ソー)、移動相:0.1%TFA/CH3CN=65/35、流速:1.0ml/min、検出器:蛍光分光光度計、波長:Ex 265nm、Em 305nm、オーブン温度:40℃
[MALDI−TOF/MS分析]
9−フルオレニルメチルカルボニル(Fmoc)−グリシルプロリルグルタミルグリシルイソロイシルアラニルグリシルトリプトファニルグリシン(Gly−Pro−Gln−Gly−Ile−Ala−Gly−Trp−Gly)、9−フルオレニルメチルカルボニル(Fmoc)−グリシルプロリルグルタミルグリシルイソロイシルアラニルグリシルトリプトファニルグリシル(Gly−Pro−Gln−Gly−Ile−Ala−Gly−Trp−Gly)−アミドプロピルポリオキシエチレンメチルエーテル、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン−グルタリル−Gly−Pro−Gln−Gly−Ile−Ala−Gly−Trp−Gly−アミドプロピルポリオキシエチレンメチルエーテルの合成の確認を行った。
サンプルごく少量CHCl/MeOH混液に溶解させ、マトリクス(2,5−dihydroxybenzoic acid)溶液(in CHCN)と混合して乾燥させた。VoyagerEliteXL(Applied Biosystems)にて測定した。
[TLC分析]
反応の進行および生成物の同定を行った。サンプルを薄層プレート(Merck Silicagel60)にスポットし、CH3Cl/MeOH/H2O=65/25/4(v/v)にて展開した。検出は蛍光検出、ニンヒドリン検出、I2 vaporにて行った。
H−NMR分析]
ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン−グルタリル−グリシルプロリルグルタミルグリシルイソロイシルアラニルグリシルトリプトファニルグリシル(Gly−Pro−Gln−Gly−Ile−Ala−Gly−Trp−Gly)−アミドプロピルポリオキシエチレンメチルエーテルの合成の確認を行った。
サンプルを重水に溶解後、JNM−AL400(日本電子)にて測定した。
[ゲル濾過測定法]
9−フルオレニルメチルカルボニル(Fmoc)−グリシルプロリルグルタミルグリシルイソロイシルアラニルグリシルトリプトファニルグリシル(Gly−Pro−Gln−Gly−Ile−Ala−Gly−Trp−Gly)−アミドプロピルポリオキシエチレンメチルエーテルの酵素分解性の評価を行った。
サンプル0.5mlにアセトニトリル0.5ml添加後、濾過してゲル濾過を行った。システム:LC−10A(島津製作所)、カラム:Superdex peptide HR10/30(Amersham Pharmacia Biotech)、移動相:10mM HEPES/150mM NaCl pH7.4、流速:1.0ml/min、検出器:蛍光分光光度計、波長:Ex 265nm、Em 305nm
[ポリエチレングリコール定量]
リポソームに導入されたポリエチレングリコールの定量をピクリン酸法により行った(Int.J.Pharm.,203,255,2000)。
[コリン定量法]
リポソームを構成するホスファチジルコリンの定量をリン脂質C−テストワコー(和光純薬工業)にて行った。
[粒子径測定]
ミセルおよびリポソームの粒子径をNICOMP Model370(Particle Sizing Systems Inc.)にて測定した。
[ゼータ電位測定法]
リポソームのゼータ電位をZETASIZER 3000HSA(Malvern Instruments)にて測定した。
[アントラセン−9−カルボン酸コレステリル(CA)定量]
リポソーム中、血漿中および癌組織中のアントラセン−9−カルボン酸コレステリルの定量をRP−HPLC分析により行った(Journal of Chromatography.A..421,43,1987)。
1.Gly−Pro−Gln−Gly−Ile−Ala−Gly−Trp−Glyペプチド
1.1. 9−フルオレニルメチルカルボニル(Fmoc)−グリシルプロリルグルタミルグリシルイソロイシルアラニルグリシルトリプトファニルグリシン(Gly−Pro−Gln−Gly−Ile−Ala−Gly−Trp−Gly)(Fmoc−GPQGIAGWG)の合成
Fmoc−Gly−WangResinに20%ピペリジン/ジメチルホルムアミドを加えることにより脱Fmocを行った。ジメチルホルムアミドを添加しResinを洗浄した。アミノ酸、2−(1H−Benzotriazole−1−yl)−1,1,3,3−tetramethyluronium hexafluorophosphate(HBTU)、N,N−diisopropylethylamine(DIEA)、ジメチルホルムアミドを加えResinに結合したアミノ酸残基にアミノ酸をカップリングさせた。ジメチルホルムアミドを添加しResinを洗浄した。脱Fmoc、洗浄、カップリング、洗浄の操作を繰り返すことにより全配列のアミノ酸をカップリングさせた後トリフルオロ酢酸を加えて攪拌し、Resinからペプチドを切り出した。エーテルでペプチドを再沈させて得られたcrudeを精製することにより標記化合物を得た。
生成物の確認は、RP−HPLC分析およびMALDI−TOFMS分析にて確認した。RP−HPLC測定結果のピーク面積比よりFmoc−GPQGIAGWGの純度を算出したところ、99.5%の純度であることを確認した。また、MALDI−TOFMS測定の結果、1087Daおよび1103Daにシグナルが観測された。Fmoc−GPQGIAGWGの分子量の理論値は1063.5Daであるが、Na付加体およびK付加体の分子量の理論値は1086.5Da、1102.6Daであることから測定値はNa付加体およびK付加体として測定されており、理論値通りの分子量が得られていることからFmoc−GPQGIAGWGが合成されたものであることが示された。
1.2. 9−フルオレニルメチルカルボニル(Fmoc)−グリシルプロリルグルタミルグリシルイソロイシルアラニルグリシルトリプトファニルグリシル(Gly−Pro−Gln−Gly−Ile−Ala−Gly−Trp−Gly)−アミドプロピルポリオキシエチレンメチルエーテル(Fmoc−GPQGIAGWG−PEG)の合成
Fmoc−GPQGIAGWG100mgをN,N−ジメチルホルムアミド5mlを加えて溶解し、N−ヒドロキシサクシンイミド11.9mgを添加し、さらにジシクロヘキシルカルボジイミド38.5mgを添加し、室温にて2時間攪拌した。この溶液にメトキシポリエチレングリコール−プロピルアミン(SUNBRITEMEPA−20H、日本油脂(株))187mgをN,N−ジメチルホルムアミド2.3mlに溶解した溶液を添加し45℃にて18時間反応を行った。反応後0℃以下に冷却し反応液を濾過して不溶物を除去し、クロロホルム5mlを用いて洗浄した。この濾液を強酸性陽イオン交換樹脂(ダイヤイオンSK−1、三菱化学(株))カラムに通して未反応のメトキシポリエチレングリコール−プロピルアミンを除去した後エバポレーターにて減圧乾固した。さらに酢酸エチル20mlを加えて0℃以下に冷却後濾過して粗結晶を得た後、注射用水5mlを加えて不溶物を除去し、凍結乾燥を行い標記化合物157mgを得た。
反応の進行および生成物の同定はシリカゲルプレートを用いた薄層クロマトグラフィー(TLC)によって行った。展開溶媒にはクロロホルム、メタノール、水の混合比(体積比)65:25:4の混合溶媒を用い、ヨウ素蒸気にて発色させて標記物質との比較により物質の定性を行った。反応終点は上記のTLCにてRf値0.6付近に検出されるメトキシポリエチレングリコール−プロピルアミンとRf値0.2付近に検出されるFmoc−GPQGIAGWGのスポットがRf値0.75付近に検出されるスポットに変換されることにより確認を行った。生成物の確認は、H−NMRよりメトキシポリエチレングリコール−プロピルアミン由来の末端メトキシのメチル基δ:3.4ppm付近、ポリオキシエチレンのエチレン基δ:3.5ppm付近の検出によりペプチド由来のメチレン基δ:1.5ppm付近の検出により、モノメトキシオキシエチレン鎖およびペプチド鎖の存在を確認した。本物質を精製後MALDI−TOFMS測定したところ、概ね中央値3274DaにPEG由来シグナルが観察された(図1)。Fmoc−GPQGIAGWG−PEGの分子量の計算値はPEG重合度n=48として3250Daでありほぼ合っており、Na付加体=+23Daとして観測されているものであると思われる。このことから、Fmoc−GPQGIAGWG−PEGを合成できたことが確認できた。
1.3. HN−Gly−Pro−Gln−Gly−Ile−Ala−Gly−Trp−Gly−アミドプロピルポリオキシエチレンメチルエーテル(GPQGIAGWG−PEG)の合成
上記で得られたFmoc−GPQGIAGWG−PEG145mgをN,N−ジメチルホルムアミド3mlに溶解し、ピペリジン1mlを添加し室温にて40分間攪拌し反応を行った。反応液をエバポレーターにて減圧乾固した。酢酸エチル10mlを加えて0℃以下に冷却し、濾過して粗結晶を得た。この精製工程をさらに2回繰り返し、標記化合物67mgを得た。反応の進行および生成物の同定は、上記と同様のTLCによって行い、反応終点はRf値0.75付近に検出されるFmoc−GPQGIAGWG−PEGのスポットが、Rf値0.5付近に検出される付近に変換することにより、さらにそのスポットがニンヒドリン発色することより確認した。
1.4. ジステアロイルホスファチジルエタノールアミングルタレート(DSPE−Glt)の合成
ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン748mgにクロロホルム10mlを加えて40℃で攪拌し、酢酸ナトリウム100mg、無水グルタル酸170mgを加えて50℃で5時間反応を行った。反応終点は上記と同様のTLCにより行い、ニンヒドリン発色にてジステアロイルホスファチジルエタノールアミンが検出されなくなる点とした。反応液を冷却後アセトン10mlを加えて粗結晶を得、さらに2−プロパノール20mlを加えて冷却濾過し、標記化合物を705mg得た。
1.5. ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン−グルタリル−Gly−Pro−Gln−Gly−Ile−Ala−Gly−Trp−Gly−アミドプロピルポリオキシエチレンメチルエーテル(DSPE−GPQGIAGWG−PEG)の合成
上記で得られたDSPE−Glt34mgをクロロホルム0.3mlに溶解し、N−ヒドロキシサクシンイミド5.3mg、ジシクヘキシルカルボジイミド16.5mgを添加し室温にて2時間攪拌した。反応液を濾過して不溶物を除去し、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミングルタルサクシンイミド溶液を得た。上記で得られたGPQGIAGWG−PEG60mgをクロロホルム3mlに溶解し、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミングルタルサクシンイミド溶液を添加し、40℃で5時間攪拌反応した。反応後濾過して不溶物を除去し、その溶液に酢酸エチル10ml、ヘキサン5mlを加えて冷却後濾過し粗結晶を得た。粗結晶に酢酸エチル2ml加えて冷却濾過し、結晶を得る晶析工程を2回繰り返して精製を行い、標記化合物45mgを得た。
反応の進行および生成物の同定は、上記と同様のTLCによって行った。Rf値0.5付近に検出されるGPQGIAGWG−PEGのスポットとRf値0.2付近に検出されるDSPE−Gltのスポットが、Rf値0.8付近に検出されるスポットに変換したことにより確認を行った。生成物の確認は、H−NMRよりメトキシポリエチレングリコール−プロピルアミン由来の末端メトキシのメチル基δ:3.4ppm付近、ポリオキシエチレン基δ:3.5ppm付近の検出により、またペプチド由来のδ:1.5ppm付近の検出により、さらにジステアロイルホスファチジルエタノールアミン由来のアシル基の末端メチル基δ:0.9ppm付近の検出により、モノメトキシオキシエチレン鎖、ペプチド鎖およびジステアロイルホスファチジルエタノールアミンの存在を確認した(図3)。
本サンプルをMALDI−TOFMS分析したところ、概ね中央値3873DaにPEG由来シグナルが観察された(図2)。DSPE−GPQGIAGWG−PEGの分子量の計算値はPEG重合度n=48として3872Daであり実測値にほぼ一致する。
1.6. ペプチドおよびペプチド−PEGの酵素分解性
(1)Fmoc−GPQGIAGWGの酵素分解性検討
Fmoc−GPQGIAGWGの酵素基質としての特異性を確認するために、MMP−2、Collagenase、Carboxypeptidase A、Aminopeptidase−1、Trypsinによる酵素分解性の検討を行った。
Fmoc−GPQGIAGWGをトリス緩衝液(100mM Tris/100mM NaCl/10mM CaCl/0.05% BRIJ35 pH7.5)に溶解し、所定濃度に調整した。MMP−2、Collagenase、Carboxypeptidase A、Aminopeptidase−1、Trypsinをそれぞれトリス緩衝液にて希釈あるいは溶解した。37℃に加温したFmoc−GPQGIAGWG溶液に各々の酵素溶液を添加し、37℃にて所定時間インキュベーションした。酵素の最終濃度は以下の通りである。
MMP−2:0.17μg/ml、Collagenase:7μm/ml、Carboxypeptidase A:10μg/ml、Aminopeptidase−1:10μg/ml、Trypsin:10μg/ml。所定時間後、サンプル溶液に同量のacetnitrileを添加し、0.5μmのフィルター(Millex−LHMILIPORE)にて濾過した。濾液中のFmoc−GPQGIAGWG量をRP−HPLCにて分離定量した。
酵素分解反応初期(15分)における各酵素単位重量および単位時間当たりのFmoc−GPQGIAGWGの分解速度を比較したところ、MMP−2によるFmoc−GPQGIAGWG分解速度は、Collagenase、Carboxypeptidase A、Aminopeptidase−1と比較してそれぞれ、26.9倍、38.8倍、14.2倍であった。TrypsinによるFmoc−GPQGIAGWGの分解性は見られなかった。
本試験の結果より、Fmoc−GPQGIAGWGの酵素分解性はCollagenase、Carboxypeptidase A、Aminopeptidase−1では低く、MMP−2に対して特異性が高いことが確認された。
(2)Fmoc−GPQGIAGWG−PEGのMMP−2分解性検討
Fmoc−GPQGIAGWGにPEGを結合させた際のMMP−2分解性に及ぼす影響について評価を行った。
Fmoc−GPQGIAGWG−PEGをトリス緩衝液(100mM Tris/100mM NaCl/10mM CaCl/0.05% BRIJ35 pH7.5)に溶解し、所定濃度に調整した。MMP−2をトリス緩衝液にて希釈した。37℃に加温したFmoc−GPQGIAGWG−PEG溶液にMMP−2溶液を添加し、37℃にて所定時間インキュベーションした。MMP−2の最終濃度は0.34μg/mLとした。所定時間後、サンプル溶液に同量のアセトニトリルを添加し、0.5μmのフィルター(Millex−LH MILIPORE)にて濾過した。濾液中のFmoc−GPQGIAGWG−PEG量をゲル濾過法にて分離定量した。
酵素分解反応初期(15分)におけるMMP−2単位重量および単位時間当たりのFmoc−GPQGIAGWGおよびFmoc−GPQGIAGWG−PEGの分解速度を比較したところ、ほぼ同等であることが確認された(図4)。このことから、酵素基質ペプチドにPEGを修飾した際の酵素分解性に与える影響はほとんどないことが確認された。
1.7. ペプチド−PEGのミセル調製法
Fmoc−GPQGIAGWG−PEGをトリス緩衝液(100mM Tris/100mM NaCl/10mM CaCl/0.05% BRIJ35 pH7.5)に溶解後所定濃度に調整し、レーザー回折粒子径測定装置(NICOMP Model370)にて粒子径を測定した(表1)。
5μM以上では約200nmの粒子径を有する会合体を形成していることが明らかとなった。また、NICOMP測定の際のレーザー光散乱強度は濃度依存性を示しており、2μM以下では粒子径測定が不可能であったことから、5μM付近に臨界ミセル濃度が存在するものと考えられた。

1.8. 脂質−ペプチド−PEG含有リポソームの調製法
DPPC/cholesterolにDSPE−GPQGIAGWG−PEGを2.5、5.0、7.5mol%添加した脂質膜を調製後、カルセインを含むHEPES緩衝液(100mM HEPES/150mM NaCl pH7.4)にてハイドレーションし、ポリカーボネート膜を用いたエクストルージョンにより粒子径約100nmのリポソームを調製した。リポソームに導入されなかったDSPE−GPQGIAGWG−PEGおよびカルセインを除去するために、HEPES緩衝液に分散して超遠心処理(40,000rpm、5h)を2回行った。ピクリン酸法によりPEG定量、コリン定量法によりDPPC量の定量および蛍光測定によりカルセイン定量を行い、リポソームの特性を評価した。
調製されたリポソームの平均粒子径は約120nmであった。また、水溶性マーカーであるカルセインの封入性を確認できた。これらのことから、DSPE−GPQGIAGWG−PEGを導入したリポソームを調製可能であることを確認した。
1.9. DSPE−GPQGIAGWG−PEG導入リポソームの血中滞留性、癌組織集積性試験
(1)脂質−ペプチド−PEG、PEG−DSPE含有リポソームの調製法
DPPC/cholesterol/CAにDSPE−GPQGIAGWG−PEG、PEG−DSPEをそれぞれ7.5、5.0mol%添加した脂質膜を調製後、HEPES緩衝液(10mM HEPES/150mM NaCl pH7.4)にてハイドレーションし、孔径100nmのポリカーボネート膜を用いたエクストルージョンによりリポソームを調製した。DSPE−GPQGIAGWG−PEG含有リポソームの平均粒子径は約142nm、ゼータ電位は−10.1mVであった。PEG−DSPE含有リポソームの平均粒子径は約131nm、ゼータ電位は−15.7mVであった。
(2)マウス投与試験
(2−1)血漿中滞留性評価
調製したリポソームをBALB/cマウス(20−25g)に脂質濃度25mg/mlにて尾静脈投与した。所定時間後に血漿中アントラセン−9−カルボン酸コレステリル濃度を測定することにより、リポソームの血中滞留性を評価した。図5にリポソームの血漿中濃度推移、表2にPKパラメーターを示した。これらの結果より、DSPE−GPQGIAGWG−PEG含有リポソームは、PEG−DSPE含有リポソームと同等の血中滞留性を示すことが明らかとなった。

(2−2)癌組織集積性
HT1080細胞をBALB/c nu/nuマウス(20−25g)の背部皮下に3×10cells/100μLにて移植することにより担癌マウスを作成した。一定期間飼育した後、調製したリポソームを脂質濃度25mg/mlにて尾静脈投与した。所定時間後、癌組織を取り出してホモジナイズ後、アントラセン−9−カルボン酸コレステリル濃度を測定することにより、リポソームの癌組織集積性を評価した。図6にリポソームの癌組織集積性を示した。得られた結果より、DSPE−GPQGIAGWG−PEG含有リポソームは、PEG−DSPE含有リポソームと同等の癌組織集積性を示すことが明らかとなった。
(3)MMP−2によるPEG鎖の脱離性
(3−1)脂質−ペプチド−PEG含有リポソームの調製法
DPPC/cholesterol/DPPGの脂質膜を調製後、HEPES緩衝液(100mM HEPES/150mM NaCl pH7.4)にてハイドレーションし、孔径100nmのポリカーボネート膜を用いたエクストルージョンによりリポソームを調製した。リポソーム懸濁液にDSPE−GPQGIAGWG−PEG水溶液を1.0、2.5、5.0mol%となるように添加し、60℃にて1時間インキュベーションすることによりリポソーム表面にDSPE−GPQGIAGWG−PEGを導入した。リポソームに導入されなかったDSPE−GPQGIAGWG−PEGを除去するために、トリス緩衝液(100mM Tris/5mM CaCl/0.1%牛血清アルブミンpH7.5)に分散して超遠心処理(40,000rpm、5h)を2回行った。
(3−2)MMP−2によるPEG脱離試験
リポソーム脂質濃度4mg/ml、MMP−2濃度1.7μg/mlとなるようにトリス緩衝液(100mM Tris/5mM CaCl/0.1%牛血清アルブミンpH7.5)を用いて調整した。37℃にて所定時間インキュベーション後、PEG鎖を除去するために超遠心処理(40,000rpm、5h)を2回行った。リポソームのコリン定量およびPEG定量を行った。図7に示したように、MMP−2を添加することによりリポソーム表面からPEG鎖が脱離することが認められた。
2.Gly−Pro−Leu−Gly−Ile−Ala−Gly−Gln−Glyペプチド(MMP基質)
2.1. 9−フルオレニルメチルカルボニル(Fmoc)−グリシルプロリルロイシルグリシルイソロイシルアラニルグリシルグルタミルグリシン(Gly−Pro−Leu−Gly−Ile−Ala−Gly−Gln−Gly)(Fmoc−GPLGIAGQG)の合成
Fmoc−Gly−WangResinに20%ピペリジン/ジメチルホルムアミドを加えることにより脱Fmocを行った。ジメチルホルムアミドを添加しResinを洗浄した。アミノ酸、2−(1H−Benzotriazole−1−yl)−1,1,3,3−tetramethyluronium hexafluorophosphate(HBTU)、N,N−diisopropylethylamine(DIEA)、ジメチルホルムアミドを加えResinに結合したアミノ酸残基にアミノ酸をカップリングさせた。ジメチルホルムアミドを添加しResinを洗浄した。脱Fmoc、洗浄、カップリング、洗浄の操作を繰り返すことにより全配列のアミノ酸をカップリングさせた後トリフルオロ酢酸を加えて攪拌し、Resinからペプチドを切り出した。エーテルでペプチドを再沈させて得られたcrudeを精製することにより標記化合物を得た。
生成物の確認は、RP−HPLC分析およびMALDI−TOFMS分析にて確認した。RP−HPLC測定結果のピーク面積比よりFmoc−GPLGIAGQGの純度を算出したところ、98.7%の純度であることを確認した。また、MALDI−TOFMS測定の結果、991Daにシグナルが観測され、理論値通りの分子量が得られていることからFmoc−GPLGIAGQGが合成されたものであることが示された。
2.2. 9−フルオレニルメチルカルボニル(Fmoc)−グリシルプロリルロイシルグリシルイソロイシルアラニルグリシルグルタミルグリシン(Gly−Pro−Leu−Gly−Ile−Ala−Gly−Gln−Gly)−アミドプロピルポリオキシエチレンメチルエーテル(Fmoc−GPLGIAGQG−PEG)の合成
Fmoc−GPLGIAGQG100mgをN,N−ジメチルホルムアミド5mlを加えて溶解し、N−ヒドロキシサクシンイミド11.1mgを添加し、さらにジシクロヘキシルカルボジイミド35.9mgを添加し、室温にて2時間攪拌した。この溶液にメトキシポリエチレングリコール−プロピルアミン(SUNBRITEMEPA−20H、日本油脂(株))174mgをN,N−ジメチルホルムアミド2.3mlに溶解した溶液を添加し45℃にて18時間反応を行った。反応後0℃以下に冷却し反応液を濾過して不溶物を除去し、クロロホルム5mlを用いて洗浄した。この濾液を強酸性陽イオン交換樹脂(ダイヤイオンSK−1、三菱化学(株))カラムに通して未反応のメトキシポリエチレングリコール−プロピルアミンを除去した後エバポレーターにて減圧乾固した。さらに酢酸エチル20mlを加えて0℃以下に冷却後濾過して粗結晶を得た後、注射用水5mlを加えて不溶物を除去し、凍結乾燥を行い標記化合物146mgを得た。
反応の進行および生成物の同定はシリカゲルプレートを用いた薄層クロマトグラフィー(TLC)によって行った。展開溶媒にはクロロホルム、メタノール、水の混合比(体積比)65:25:4の混合溶媒を用い、ヨウ素蒸気にて発色させて標記物質との比較により物質の定性を行った。反応終点は上記のTLCにてRf値0.55付近に検出されるメトキシポリエチレングリコール−プロピルアミンとRf値0.22付近に検出されるFmoc−GPLGIAGQG−PEGのスポットがRf値0.63付近に検出されるスポットに変換されることにより確認を行った。
2.3. H2N−Gly−Pro−Leu−Gly−Ile−Ala−Gly−Gln−Gly−アミドプロピルポリオキシエチレンメチルエーテル(GPLGIAGQG−PEG)の合成
上記で得られたFmoc−GPLGIAGQG−PEG140mgをN,N−ジメチルホルムアミド3mlに溶解し、ピペリジン1mlを添加し室温にて40分間攪拌し反応を行った。反応液をエバポレーターにて減圧乾固した。酢酸エチル10mlを加えて0℃以下に冷却し、濾過して粗結晶を得た。この精製工程をさらに2回繰り返し、標記化合物65mgを得た。反応の進行および生成物の同定は、上記と同様のTLCによって行い、反応終点はRf値0.66付近に検出されるFmoc−GPLGIAGQG−PEGのスポットが、Rf値0.32付近に検出されるスポットに変換することにより、さらにそのスポットがニンヒドリン発色することより確認した。
2.4. ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン−グルタリル−Gly−Pro−Leu−Gly−Ile−Ala−Gly−Gln−Gly−アミドプロピルポリオキシエチレンメチルエーテル(DSPE−GPLGIAGQG−PEG)の合成
上記で得られたDSPE−Glt34mgをクロロホルム0.3mlに溶解し、N−ヒドロキシサクシンイミド5.3mg、ジシクヘキシルカルボジイミド16.5mgを添加し室温にて2時間攪拌した。反応液を濾過して不溶物を除去し、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミングルタルサクシンイミド溶液を得た。
上記で得られたGPLGIAGQG−PEG60mgをクロロホルム3mlに溶解し、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミングルタルサクシンイミド溶液を添加し、40℃で5時間攪拌反応した。反応後濾過して不溶物を除去し、その溶液に酢酸エチル10ml、ヘキサン5mlを加えて冷却後濾過し粗結晶を得た。粗結晶に酢酸エチル2ml加えて冷却濾過し、結晶を得る晶析工程を2回繰り返して精製を行い、標記化合物46mgを得た。
反応の進行および生成物の同定は、上記と同様のTLCによって行った。Rf値0.26付近に検出されるGPLGIAGQG−PEGのスポットとRf値0.15付近に検出されるDSPE−Gltのスポットが、Rf値0.51付近に検出されるスポットに変換したことにより確認を行った。生成物の確認は、H−NMRよりメトキシポリエチレングリコール−プロピルアミン由来の末端メトキシのメチル基δ:3.4ppm付近、ポリオキシエチレン基δ:3.5ppm付近の検出により、またペプチド由来のδ:1.5ppm付近の検出により、さらにジステアロイルホスファチジルエタノールアミン由来のアシル基の末端メチル基δ:0.9ppm付近の検出により、モノメトキシオキシエチレン鎖、ペプチド鎖およびジステアロイルホスファチジルエタノールアミンの存在を確認した。
本サンプルをMALDI−TOFMS分析したところ、概ね中央値3797DaにPEG由来シグナルが観察された(図2)。DSPE−GPLGIAGQG−PEGの分子量の計算値はPEG重合度n=48として3800Daであり実測値にほぼ一致する。
3.Gly−Pro−Gln−Gly−Ile−Trp−Gly−Gln−Glyペプチド(MMP基質)
3.1. 9−フルオレニルメチルカルボニル(Fmoc)−グリシルプロリルグルタミルグリシルイソロイシルトリプトファニルグリシルグルタミルグリシン(Gly−Pro−Gln−Gly−Ile−Trp−Gly−Gln−Gly)(Fmoc−GPQGIWGQGGPQGIWGQG)の合成
Fmoc−Gly−WangResinに20%ピペリジン/ジメチルホルムアミドを加えることにより脱Fmocを行った。ジメチルホルムアミドを添加しResinを洗浄した。アミノ酸、2−(1H−Benzotriazole−1−yl)−1,1,3,3−tetramethyluronium hexafluorophosphate(HBTU)、N,N−diisopropylethylamine(DIEA)、ジメチルホルムアミドを加えResinに結合したアミノ酸残基にアミノ酸をカップリングさせた。ジメチルホルムアミドを添加しResinを洗浄した。脱Fmoc、洗浄、カップリング、洗浄の操作を繰り返すことにより全配列のアミノ酸をカップリングさせた後トリフルオロ酢酸を加えて攪拌し、Resinからペプチドを切り出した。エーテルでペプチドを再沈させて得られたcrudeを精製することにより標記化合物を得た。
生成物の確認は、RP−HPLC分析およびMALDI−TOFMS分析にて確認した。RP−HPLC測定結果のピーク面積比よりFmoc−GPQGIWGQGの純度を算出したところ、98.4%の純度であることを確認した。また、MALDI−TOFMS測定の結果、1120Daにシグナルが観測され、理論値通りの分子量が得られていることからFmoc−GPQGIWGQGが合成されたものであることが示された。
3.2. 9−フルオレニルメチルカルボニル(Fmoc)−グリシルプロリルグルタミルグリシルイソロイシルトリプトファニルグリシルグルタミルグリシン(Gly−Pro−Gln−Gly−Ile−Trp−Gly−Gln−Gly)−アミドプロピルポリオキシエチレンメチルエーテル(Fmoc−GPQGIWGQG−PEG)の合成
Fmoc−GPQGIWGQG50mgをN,N−ジメチルホルムアミド5mlを加えて溶解し、N−ヒドロキシサクシンイミド9.1mgを添加し、さらにジシクロヘキシルカルボジイミド29.5mgを添加し、室温にて2時間攪拌した。この溶液にメトキシポリエチレングリコール−プロピルアミン(SUNBRITEMEPA−20H、日本油脂(株))144mgをN,N−ジメチルホルムアミド2.3mlに溶解した溶液を添加し45℃にて18時間反応を行った。反応後0℃以下に冷却し反応液を濾過して不溶物を除去し、クロロホルム5mlを用いて洗浄した。この濾液を強酸性陽イオン交換樹脂(ダイヤイオンSK−1、三菱化学(株))カラムに通して未反応のメトキシポリエチレングリコール−プロピルアミンを除去した後エバポレーターにて減圧乾固した。さらに酢酸エチル20mlを加えて0℃以下に冷却後濾過して粗結晶を得た後、注射用水5mlを加えて不溶物を除去し、凍結乾燥を行い標記化合物70mgを得た。
反応の進行および生成物の同定はシリカゲルプレートを用いた薄層クロマトグラフィー(TLC)によって行った。展開溶媒にはクロロホルム、メタノール、水の混合比(体積比)65:25:4の混合溶媒を用い、ヨウ素蒸気にて発色させて標記物質との比較により物質の定性を行った。反応終点は上記のTLCにてRf値0.57付近に検出されるメトキシポリエチレングリコール−プロピルアミンとRf値0.22付近に検出されるFmoc−GPQGIWGQG−PEGのスポットがRf値0.63付近に検出されるスポットに変換したことにより確認を行った。
3.3. H2N−Gly−Pro−Gln−Gly−Ile−Trp−Gly−Gln−Gly−アミドプロピルポリオキシエチレンメチルエーテル(GPQGIWGQG−PEG)の合成
上記で得られたFmoc−GPQGIWGQG−PEG60mgをN,N−ジメチルホルムアミド3mlに溶解し、ピペリジン1mlを添加し室温にて40分間攪拌し反応を行った。反応液をエバポレーターにて減圧乾固した。酢酸エチル10mlを加えて0℃以下に冷却し、濾過して粗結晶を得た。この精製工程をさらに2回繰り返し、標記化合物67mgを得た。反応の進行および生成物の同定は、上記と同様のTLCによって行い、反応終点はRf値0.62付近に検出されるFmoc−GPQGIWGQG−PEGのスポットが、Rf値0.21付近に検出されるスポットに変換したことにより、さらにそのスポットがニンヒドリン発色することより確認した。
3.4 ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン−グルタリル−Gly−Pro−Gln−Gly−Ile−Trp−Gly−Gln−Gly−アミドプロピルポリオキシエチレンメチルエーテル(DSPE−GPQGIWGQG−PEG)の合成
上記で得られたDSPE−Glt34mgをクロロホルム0.3mlに溶解し、N−ヒドロキシサクシンイミド5.3mg、ジシクヘキシルカルボジイミド16.5mgを添加し室温にて2時間攪拌した。反応液を濾過して不溶物を除去し、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミングルタルサクシンイミド溶液を得た。
上記で得られたGPQGIWGQG−PEG20mgをクロロホルム3mlに溶解し、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミングルタルサクシンイミド溶液を添加し、40℃で5時間攪拌反応した。反応後濾過して不溶物を除去し、その溶液に酢酸エチル10ml、ヘキサン5mlを加えて冷却後濾過し粗結晶を得た。粗結晶に酢酸エチル2ml加えて冷却濾過し、結晶を得る晶析工程を2回繰り返して精製を行い、標記化合物5mgを得た。
反応の進行および生成物の同定は、上記と同様のTLCによって行った。Rf値0.19付近に検出されるGPQGIWGQG−PEGのスポットとRf値0.23付近に検出されるDSPE−Gltのスポットが、Rf値0.46付近に検出されるスポットに変換したことにより確認を行った。
4.Gly−Hyp−Ala−Ser−Chg−Gln−Ser−Leu−Glyペプチド(PSA基質)
4.1. 9−フルオレニルメチルカルボニル(Fmoc)−グリシルヒドロキシプロリルアラニルセリルシクロヘキシルグリシルグルタミルセリツロイシルグリシン(Gly−Hyp−Ala−Ser−Chg−Gln−Ser−Leu−Gly)(Fmoc−GHypASChgQSLG)の合成
Fmoc−Gly−WangResinに20%ピペリジン/ジメチルホルムアミドを加えることにより脱Fmocを行った。ジメチルホルムアミドを添加しResinを洗浄した。アミノ酸、2−(1H−Benzotriazole−1−yl)−1,1,3,3−tetramethyluronium hexafluorophosphate(HBTU)、N,N−diisopropylethylamine(DIEA)、ジメチルホルムアミドを加えResinに結合したアミノ酸残基にアミノ酸をカップリングさせた。ジメチルホルムアミドを添加しResinを洗浄した。脱Fmoc、洗浄、カップリング、洗浄の操作を繰り返すことにより全配列のアミノ酸をカップリングさせた後トリフルオロ酢酸を加えて攪拌し、Resinからペプチドを切り出した。エーテルでペプチドを再沈させて得られたcrudeを精製することにより標記化合物を得た。
生成物の確認は、RP−HPLC分析およびMALDI−TOFMS分析にて確認した。RP−HPLC測定結果のピーク面積比よりFmoc−GPQGIAGWGの純度を算出したところ、100%の純度であることを確認した。また、MALDI−TOFMS測定の結果、1116Daにシグナルが観測され、理論値通りの分子量が得られていることからFmoc−GHypASChgQSLGが合成されたものであることが示された。
4.2. 9−フルオレニルメチルカルボニル(Fmoc)−グリシルヒドロキシプロリルアラニルセリルシクロヘキシルグリシルグルタミルセリツロイシルグリシン(Gly−Hyp−Ala−Ser−Chg−Gln−Ser−Leu−Gly)−アミドプロピルポリオキシエチレンメチルエーテル(Fmoc−GHypASChgQSLG−PEG)の合成
Fmoc−GHypASChgQSLG100mgをN,N−ジメチルホルムアミド5mlを加えて溶解し、N−ヒドロキシサクシンイミド17.8mgを添加し、さらにジシクロヘキシルカルボジイミド57.7mgを添加し、室温にて2時間攪拌した。この溶液にメトキシポリエチレングリコール−プロピルアミン(SUNBRITE MEPA−20H、日本油脂(株))280mgをN,N−ジメチルホルムアミド2.3mlに溶解した溶液を添加し45℃にて18時間反応を行った。反応後0℃以下に冷却し反応液を濾過して不溶物を除去し、クロロホルム5mlを用いて洗浄した。この濾液を強酸性陽イオン交換樹脂(ダイヤイオンSK−1、三菱化学(株))カラムに通して未反応のメトキシポリエチレングリコール−プロピルアミンを除去した後エバポレーターにて減圧乾固した。さらに酢酸エチル20mlを加えて0℃以下に冷却後濾過して粗結晶を得た後、注射用水5mlを加えて不溶物を除去し、凍結乾燥を行い標記化合物145mgを得た。
反応の進行および生成物の同定はシリカゲルプレートを用いた薄層クロマトグラフィー(TLC)によって行った。展開溶媒にはクロロホルム、メタノール、水の混合比(体積比)65:25:4の混合溶媒を用い、ヨウ素蒸気にて発色させて標記物質との比較により物質の定性を行った。反応終点は上記のTLCにてRf値0.15付近に検出されるFmoc−GHypASChgQSLG−PEGのスポットがRf値0.55付近に検出されるスポットに変換したことにより確認を行った。
4.3. H2N−Gly−Hyp−Ala−Ser−Chg−Gln−Ser−Leu−Gly−アミドプロピルポリオキシエチレンメチルエーテル(GHypASChgQSLG−PEG)の合成
上記で得られたFmoc−GHypASChgQSLG−PEG140mgをN,N−ジメチルホルムアミド3mlに溶解し、ピペリジン1mlを添加し室温にて40分間攪拌し反応を行った。反応液をエバポレーターにて減圧乾固した。酢酸エチル10mlを加えて0℃以下に冷却し、濾過して粗結晶を得た。この精製工程をさらに2回繰り返し、標記化合物65mgを得た。反応の進行および生成物の同定は、上記と同様のTLCによって行い、反応終点はRf値0.57付近に検出されるFmoc−GHypASChgQSLG−PEGのスポットが、Rf値0.21付近に検出されるスポットに変換したことにより、さらにそのスポットがニンヒドリン発色することより確認した。
4.4. ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン−グルタリル−Gly−Hyp−Ala−Ser−Chg−Gln−Ser−Leu−Gly−アミドプロピルポリオキシエチレンメチルエーテル(DSPE−GHypASChgQSLG−PEG)の合成
上記で得られたDSPE−Glt34mgをクロロホルム0.3mlに溶解し、N−ヒドロキシサクシンイミド5.3mg、ジシクヘキシルカルボジイミド16.5mgを添加し室温にて2時間攪拌した。反応液を濾過して不溶物を除去し、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミングルタルサクシンイミド溶液を得た。
上記で得られたGHypASChgQSLG−PEGmgをクロロホルム3mlに溶解し、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミングルタルサクシンイミド溶液を添加し、40℃で5時間攪拌反応した。反応後濾過して不溶物を除去し、その溶液に酢酸エチル10ml、ヘキサン5mlを加えて冷却後濾過し粗結晶を得た。粗結晶に酢酸エチル2ml加えて冷却濾過し、結晶を得る晶析工程を2回繰り返して精製を行い、標記化合物58mgを得た。
反応の進行および生成物の同定は、上記と同様のTLCによって行った。Rf値0.17付近に検出されるGHypASChgQSLG−PEGのスポットとRf値0.24付近に検出されるDSPE−Gltのスポットが、Rf値0.47付近に検出されるスポットに変換したことにより確認を行った。生成物の確認は、H−NMRよりメトキシポリエチレングリコール−プロピルアミン由来の末端メトキシのメチル基δ:3.4ppm付近、ポリオキシエチレン基δ:3.5ppm付近の検出により、またペプチド由来のδ:1.5ppm付近の検出により、さらにジステアロイルホスファチジルエタノールアミン由来のアシル基の末端メチル基δ:0.9ppm付近の検出により、モノメトキシオキシエチレン鎖、ペプチド鎖およびジステアロイルホスファチジルエタノールアミンの存在を確認した。
5.DODASuc−peptide−PHEA合成
5.1. β−ベンジル−L−アスパラギン酸NCAの合成
β−ベンジル−L−アスパラギン酸5gをテトラヒドロフラン34mlに加えて懸濁させた。この溶液に20%ホスゲン含有トルエン溶液16mlを添加し窒素気流下で60℃にて90分間加熱してβ−ベンジル−L−アスパラギン酸を溶解させた。この溶液をn−ヘキサン140mlに注ぎ、−20℃に冷却し濾過してβ−ベンジル−L−アスパラギン酸NCAの結晶4.3gを得た。
5.2. ポリベンジル−L−アスパラギン酸(PBLA)の合成
β−ベンジル−L−アスパラギン酸NCA3gをジメチルホルムアミド9mlに溶解し、メチルアミン18.6mgをテトラヒドロフラン0.3mlに溶解して添加した。この溶液を窒素下で室温にて18時間攪拌した。この溶液を精製水150mlに注ぎ、濾過してPBLA2gを得た。
5.3. H2N−グリシルプロリルグルタミルグリシルイソロイシルアラニルグリシルトリプトファニルグリシン(Gly−Pro−Gln−Gly−Ile−Ala−Gly−Trp−Gly)−アミドポリベンジル−L−アスパラギン酸(GPQGIAGWG−PBLA)の合成
Fmoc−GPQGIAGWG45mgをN,N−ジメチルホルムアミド1mlに加えて溶解し、PyBOP(Benzotriazole−1−yl−oxy−tris−pyrrolidino−phosphonium hexafluorophosphate)156.6mgを添加した。この溶液に1−ヒドロキシベンゾトリアオールハイドレイト46.1mgをN,N−ジメチルホルムアミド0.6mlに溶解して添加しさらにN−メチルモルホリン50μlをN,N−ジメチルホルムアミド0.5mlに添加した。この溶液にPBLA70mgをN,N−ジメチルホルムアミド1mlに溶解した溶液を添加し室温にて18時間窒素気流下にて反応を行った。反応後この溶液をエチルエーテル90mlに注ぎ、濾過してFmoc−GPQGIAGWG−PBLAを得た。得られたFmoc−GPQGIAGWG−PBLAをN,N−ジメチルホルムアミド0.9mlに溶解し、ピペリジン0.3mlを添加し室温にて30分間攪拌し反応を行った。この溶液をエチルエーテル100mlに注ぎ、濾過してGPQGIAGWG−PBLA粗結晶を得た。
5.4. ジステアリルアミン−スクシニル−Gly−Pro−Gln−Gly−Ile−Ala−Gly−Trp−Gly−アミドポリヒドロキシエチル−L−アスパラギン酸(DODASuc−GPQGIAGWG−PHEA)の合成
上記で得られたGPQGIAGWG−PBLA50mgをクロロホルム0.5mlに溶解し、トリエチルアミン9μlを添加した。この溶液にN,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド5mg、4−(ジメチルアミノ)ピリジニウム−4−トルエンスルホン酸(J.S.Moore and S.I.Stupp,Macromolecules 23:65−70(1990))0.4mg、N−スクシニル−システアリルアミン(DODASuc、L.Schmitt,C.Dietrich and R.Tamp▲e▼ in J.Am.Chem.Soc.116:8485−8491(1994))8.8mgをクロロホルム1mlに溶解して添加し、室温で18時間攪拌反応した。この溶液をメタノール100mlに注ぎ、濾過して粗結晶40mgを得た。粗結晶をエタノールアミン0.1ml、ヒドロキシピリジン11mgを含むN,N−ジメチルホルムアミド1.5mlに溶解し、40℃で18時間反応した。この溶液をエチルエーテルに注ぎ、結晶を得る晶析工程を2回繰り返した後、透析にて精製を行い、標記化合物15mgを得た。
本サンプルをMALDI−TOFMS分析したところ、概ね中央値4916DaにPEG由来シグナルが観察された。DODASuc−GPQGIAGWG−PHEAの分子量の計算値はPHEA重合度n=22として4906Daであり実測値にほぼ一致する。
5.5. H2N−グリシルプロリルグルタミルグリシルイソロイシルトリプトファニルグリシルグルタミルグリシン(Gly−Pro−Gln−Gly−Ile−Trp−Gly−Gln−Gly)(−アミドポリベンジル−L−アスパラギン酸(GPQGIWGQG−PBLA)の合成)
Fmoc−GPQGIWGQG45mgをN,N−ジメチルホルムアミド1mlに加えて溶解し、PyBOP(Benzotriazole−1−yl−oxy−tris−pyrrolidino−phosphonium hexafluorophosphate)156.6mgを添加した。この溶液に1−ヒドロキシベンゾトリアオールハイドレイト46.1mgをN,N−ジメチルホルムアミド0.6mlに溶解して添加しさらにN−メチルモルホリン50μlをN,N−ジメチルホルムアミド0.5mlに添加した。この溶液にPBLA70mgをN,N−ジメチルホルムアミド1mlに溶解した溶液を添加し室温にて18時間窒素気流下にて反応を行った。反応後この溶液をエチルエーテル90mlに注ぎ、濾過してFmoc−GPQGIWGQG−PBLAを得た。得られたFmoc−GPQGIWGQG−PBLAをN,N−ジメチルホルムアミド0.9mlに溶解し、ピペリジン0.3mlを添加し室温にて30分間攪拌し反応を行った。この溶液をエチルエーテル100mlに注ぎ、濾過してGPQGIWGQG−PBLA粗結晶を得た。
5.6. ジステアリルアミン−スクシニル−Gly−Pro−Gln−Gly−Ile−Trp−Gly−Gln−Gly−アミドポリヒドロキシエチル−L−アスパラギン酸(DODASuc−GPQGIWGQG−PHEA)の合成
上記で得られたGPQGIWGQG−PBLA50mgをクロロホルム0.5mlに溶解し、トリエチルアミン9μlを添加した。この溶液にN,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド5mg、4−(ジメチルアミノ)ピリジニウム−4−トルエンスルホン酸0.4mg、N−スクシニル−システアリルアミン8.8mgをクロロホルム1mlに溶解して添加し、室温で18時間攪拌反応した。この溶液をメタノール100mlに注ぎ、濾過して粗結晶40mgを得た。粗結晶をエタノールアミン0.1ml、ヒドロキシピリジン11mgを含むN,N−ジメチルホルムアミド1.5mlに溶解し、40℃で18時間反応した。この溶液をエチルエーテルに注ぎ、結晶を得る晶析工程を2回繰り返した後、透析にて精製を行い、標記化合物5mgを得た。
本サンプルをMALDI−TOFMS分析したところ、概ね中央値4811DaにPEG由来シグナルが観察された。DODASuc−GPQGIWGQG−PHEAの分子量の計算値はPHEA重合度n=21として4808Daであり実測値にほぼ一致する。
【産業上の利用の可能性】
本発明によれば、脂質と標的疾患部位において分泌される酵素の基質ペプチドと水溶性高分子を用いることで、標的疾患部位に製剤を到達させたあと、その標的疾患部位内で製剤からの水溶性高分子が特異的に脱離する。また、製剤からの水溶性高分子の脱離により製剤の特性の変化により標的細胞への薬物送達性を達成することが可能となる。
また本発明の中間体は、該組織特異的送達システムの優れた結合体(I)を直接製造するための中間体として有用である。
【配列表】







【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
A:リン脂質、高級脂肪酸、高級脂肪族アミン、糖脂質、セラミド、コレステロール、グリセリドおよびそれらの誘導体からなる群より選択される脂質、
B:ヒトを含むほ乳類の細胞より分泌される酵素の基質ペプチド、
C:一方端がメトキシ基で置換されていてもよく、他方端が−NH、−低級アルキル−NH、−CO−低級アルキレン−COO−ジカルボン酸イミジル、−低級アルキレン−COO−ジカルボン酸イミジル、および−低級アルキル−ジカルボン酸イミジルからなる群より選択された活性化基で置換されていてもよいポリエチレングリコール、ポリアミノ酸、ポリヒドロキシエチルアミノ酸、およびポリビニルピロリドンからなる群より選択される水溶性高分子、であり、
Bの両端にAおよびCがペプチド結合により結合された、A、BおよびCの結合体(I)。
【請求項2】
A、BおよびCの結合体が、A−B−C(I−a)である請求項1記載の結合体。
【請求項3】
A、BおよびCの結合体が、C−B−A(I−b)である請求項1記載の結合体。
【請求項4】
酵素の基質ペプチドがマトリックスメタロプロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、およびアスパルティックプロテアーゼからなる群より選択される酵素の基質ペプチドである請求項1に記載の結合体。
【請求項5】
酵素の基質ペプチドがマトリックスメタロプロテアーゼの基質ペプチドである請求項4に記載の結合体。
【請求項6】
酵素の基質ペプチドがMMP−1、MMP−2、MMP−3、MMP−7、MMP−9、MMP−10、MMP−11、MMP−12またはMMP−26の基質ペプチドである請求項5記載の結合体。
【請求項7】
酵素の基質ペプチドが、下記一般式(IX)で示されるアミノ酸配列を有する請求項1に記載の結合体。
−X−AA1−AA2−AA3−AA4−AA5−AA6−AA7−AA8−AA9−Y− (IX)
(配列番号中の記号は以下の意味を表す。
X:結合、無水カルボン酸残基、または1〜5個のアミノ酸残基、
AA1:結合、またはGly残基、
AA2:ProまたはHyp残基、
AA3:Leu、Gln、AlaまたはGly残基、
AA4:Gly、Ala、GlnまたはSer残基、
AA5:アミノ酸残基、
AA6:アミノ酸残基、
AA7:Gly、Ser、またはAla残基、
AA8:結合、またはアミノ酸残基、
AA9:結合、イミノ基(−NH−)、−低級アルキレン−イミノ基またはGly残基、
Y:結合、または1〜5個のアミノ酸残基)
【請求項8】
Xおよび/またはYがそれぞれ独立してアミノ酸残基を示す場合のアミノ酸残基が、天然アミノ酸残基であり、AA5のアミノ酸残基が、Ile、Met、Val、Leu、Tyr、Chg、ValおよびPhe残基からなる群より選択されたアミノ酸残基であり、AA6のアミノ酸残基が、Ala、Trp、Arg、Leu、His、Gln、ValおよびPhe残基からなる群より選択されたアミノ酸残基であり、AA8がアミノ酸残基を示す場合のアミノ酸残基が、Trp、Arg、Gln、Thr、Pro、GlyおよびLeuからなる群より選択されたアミノ酸残基である請求項7記載の結合体。
【請求項9】
酵素の基質ペプチドが、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19または配列番号20のアミノ酸配列を含み、マトリックスメタロプロテアーゼまたはセリンプロテアーゼの酵素基質としての活性を示す基質ペプチドである請求項8記載の結合体。
【請求項10】
酵素の基質ペプチドがセリンプロテアーゼの基質ペプチドである請求項4に記載の結合体。
【請求項11】
酵素の基質ペプチドがProstate−specific antigen、ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター、組織型プラスミノーゲンアクチベーター、プラスミン、トリプシンおよび組織カリクレインの基質ペプチドである請求項10記載の結合体。
【請求項12】
B:ヒトを含むほ乳類の細胞より分泌される酵素の基質ペプチド、
C:一方端がメトキシ基で置換されていてもよく、他方端が−NH、−低級アルキル−NH、−CO−低級アルキレン−COO−ジカルボン酸イミジル、−低級アルキレン−COO−ジカルボン酸イミジル、および−低級アルキル−ジカルボン酸イミジルからなる群より選択された活性化基で置換されていてもよいポリエチレングリコール、ポリアミノ酸、ポリヒドロキシエチルアミノ酸、およびポリビニルピロリドンからなる群より選択される水溶性高分子、であり、
BとCがペプチド結合により結合された、BとCの結合体。
【請求項13】
請求項1に記載の結合体(I)からなるコロイダルキャリアー。
【請求項14】
製剤形態がリポソーム、エマルジョン、ミセル、またはナノパーティクルの形態である請求項13記載のコロイダルキャリアー。
【請求項15】
結合体(I)の含有率が、0.01〜100モル%である請求項14記載のコロイダルキャリアー。
【請求項16】
請求項13に記載の結合体(I)のコロイダルキャリアーと、薬物とを含有し、疾患組織から特異的に分泌される酵素に感応して前記結合体の酵素基質ペプチド部分が切断されることにより、担持されている薬物が標的組織に放出されるように構成してなる組織特異的薬物送達システム。

【国際公開番号】WO2004/063216
【国際公開日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【発行日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−507985(P2005−507985)
【国際出願番号】PCT/JP2004/000104
【国際出願日】平成16年1月9日(2004.1.9)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【Fターム(参考)】