説明

血中滞留性が亢進される注射用製剤

【課題】 本発明の目的は、薬物の血中滞留性が亢進される、該薬物を構成成分とする微粒子を含む注射用製剤等を提供することにある。
【解決手段】 薬物を構成成分とする微粒子を含む注射用製剤であって、該製剤中に極性有機溶媒を含み、該製剤中に該極性有機溶媒を含むことで、該注射用製剤中の極性有機溶媒を含まないことのみが異なる注射用製剤と比較して、血中滞留性が亢進されていることを特徴とする注射用製剤、薬物を構成成分とする微粒子を含む注射用製剤に、該極性有機溶媒を含ませることを特徴とする該薬物の血中滞留性を亢進させる方法等を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物を構成成分とする微粒子を含む注射用製剤、該薬物の血中滞留性を亢進させる方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物の血中滞留性は、例えば、薬物の血中からの消失が速い場合に、薬効持続時間を長くすることや、薬物の組織内濃度に依存した毒性の発現がある場合に、該薬物の血中から組織への過度な移行を防止すること等の目的において高いことが望まれている。
低分子量薬物では、親水性/疎水性バランスを変える置換基の導入や変換、または糖や高分子の付加を行い、該薬物の溶解性、酵素への反応性、臓器への分布、蛋白質との結合性等を調節して、該薬物の血中滞留性を高くすることが可能である。また、酵素による消化や、血中蛋白質との結合、肝臓や腎臓への取り込み等が起きるため、消失が速く薬効を発現しにくいことが課題とされてきた蛋白質やペプチド、核酸等の高分子量薬物では、例えば蛋白質では水溶性高分子による化学修飾を行うことで、血中滞留性を高くすることが可能である。
【0003】
また、薬物の化学修飾を必要とせずに血中滞留性を高める方法としては、リポソームやエマルジョン等の微粒子に薬物を含有させる方法が知られている。例えば、ポリエチレングリコール(PEG)で修飾されたリポソームでは、血中の蛋白質に認識されにくくなることにより、高い薬物の血中滞留性が得られることが知られている(特許文献1および非特許文献1参照)。
【0004】
一方、極性有機溶媒は、薬物や製剤の製造時の溶媒としてよく用いられている。また、薬物の溶解性を向上させるための投与溶媒として用いられている。
【特許文献1】特表平5-501264号公報
【非特許文献1】“アドバンスド・ドラッグ・デリバリー・レビューズ(Advanced Drug Delivery Reviews)”, 1998年, 第32巻, p.119-138
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、薬物の血中滞留性が亢進される、該薬物を構成成分とする微粒子を含む注射用製剤等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の(1)〜(19)に関する。
(1) 薬物を構成成分とする微粒子を含む注射用製剤であって、該製剤中に極性有機溶媒を含み、該製剤中に該極性有機溶媒を含むことで、該注射用製剤中の極性有機溶媒を含まないことのみが異なる注射用製剤と比較して、血中滞留性が亢進されていることを特徴とする注射用製剤。
(2) 極性有機溶媒に可溶な成分を含む、薬物を構成成分とする微粒子、および該微粒子を溶解する濃度以下の該極性有機溶媒を含む該注射用製剤。
(3) 極性有機溶媒が、エタノール、ジメチルアセトアミド、ポリエチレングリコールおよびプロピレングリコールから選ばれる一つ以上である、前記(1)または(2)記載の注射用製剤。
(4) 極性有機溶媒の濃度が、5〜50vol%である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の注射用製剤。
(5) 薬物を構成成分とする微粒子が、水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体を含む前記(1)〜(4)のいずれかに記載の注射用製剤。
(6) 水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体が、ポリエチレングリコール化脂質、ポリグリセリン化脂質、ポリエチレングリコールアルキルエーテルおよびポリエチレングリコールソルビタン脂肪酸エステルから選ばれる一つ以上である前記(5)記載の注射用製剤。
(7) 薬物を構成成分とする微粒子が、脂質膜で被覆された微粒子である前記(1)〜(6)のいずれかに記載の注射用製剤
(8) 薬物を構成成分とする微粒子が、該薬物と、脂質集合体、リポソーム、エマルジョン粒子、高分子、金属コロイドおよび微粒子製剤から選ばれる一つ以上との複合体を構成成分とする微粒子である前記(1)〜(7)のいずれかに記載の注射用製剤。
(9) 薬物が、ペプチド、蛋白質、核酸、低分子化合物、糖類および高分子化合物から選ばれる一つ以上である前記(8)記載の注射用製剤。
(10) 前記(1)〜(9)のいずれかに記載の注射用製剤を調製するための、少なくとも極性有機溶媒に可溶な成分を含む微粒子および極性有機溶媒から構成されるキット。
(11) 薬物を構成成分とする微粒子を含む注射用製剤に、該極性有機溶媒を含ませることを特徴とする該薬物の血中滞留性を亢進させる方法。
(12) 薬物を構成成分とする微粒子が、該極性有機溶媒に可溶な成分を含む微粒子であり、注射用製剤中の極性有機溶媒濃度が、該微粒子が溶解する濃度以下となるように、極性有機溶媒を含ませることを特徴とする前記(11)記載の方法。
(13) 極性有機溶媒として、エタノール、ジメチルアセトアミド、ポリエチレングリコールおよびプロピレングリコールから選ばれる一つ以上を使用することを特徴とする前記(11)または(12)記載の方法。
(14) 注射用製剤中の極性有機溶媒の濃度が、5〜50vol%となるように、極性有機溶媒を含ませることを特徴とする前記(11)〜(13)のいずれかに記載の方法。
(15) 薬物を構成成分とする微粒子が水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体を含む前記(11)〜(14)のいずれかに記載の方法。
(16) 水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体が、ポリエチレングリコール化脂質、ポリグリセリン化脂質、ポリエチレングリコールアルキルエーテルおよびポリエチレングリコールソルビタン脂肪酸エステルから選ばれる一つ以上である前記(15)記載の方法。
(17) 薬物を構成成分とする微粒子が、脂質膜で被覆された微粒子である前記(11)〜(16)のいずれかに記載の方法。
(18) 薬物を構成成分とする微粒子が、脂質集合体、リポソーム、エマルジョン粒子、高分子、金属コロイドおよび微粒子製剤から選ばれる一つ以上を構成成分とする微粒子である前記(11)〜(17)のいずれかに記載の方法。
(19) 薬物が、ペプチド、蛋白質、核酸、低分子化合物、糖類および高分子化合物から選ばれる一つ以上である前記(11)〜(18)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、薬物の血中滞留性が亢進される、該薬物を構成成分とする微粒子を含有する注射用製剤等が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の注射用製剤は、微粒子および極性有機溶媒を含む。
本発明における薬物を構成成分とする微粒子とは、薬物単独を構成成分とする微粒子、薬物と例えば脂質集合体、リポソーム、エマルジョン粒子、高分子、金属コロイドおよび微粒子製剤から選ばれた1つ以上とを組み合わせた複合体を構成成分とする微粒子、薬物または薬物と脂質集合体、リポソーム、エマルジョン粒子、高分子、金属コロイドおよび微粒子製剤から選ばれた1つ以上と他の化合物(例えば糖、脂質、無機化合物等)とを組み合わせた複合体を構成成分とする微粒子等を包含し、好ましくは薬物と、脂質集合体、リポソームおよびエマルジョン粒子から選ばれる1つ以上との複合体を構成成分とする微粒子があげられ、より好ましくは薬物とリポソームとの複合体を構成成分とする微粒子があげられる。
【0009】
また、本発明における微粒子は、好ましくは極性有機溶媒に可溶な成分を含む微粒子であり、より好ましくは前記の薬物と例えば脂質集合体、リポソーム、エマルジョン粒子、高分子、金属コロイドおよび微粒子製剤から選ばれた1つ以上とを組み合わせた複合体を構成成分とする微粒子のうちで極性有機溶媒に可溶な成分を含む微粒子である。本発明において、極性有機溶媒に対して可溶とは、極性有機溶媒に溶解する性質をもつ場合、可溶化剤等を用いることにより極性有機溶媒に溶解する性質をもつ場合、極性有機溶媒中で凝集体またはミセル等を形成して乳濁もしくはエマルジョン化し得る性質をもつ場合等を包含し、極性有機溶媒に溶解する性質をもつ場合であることが好ましい。
【0010】
また、本発明における薬物を構成成分とする微粒子は、被覆層成分で被覆された微粒子であることが好ましく、例えば薬物と脂質集合体、リポソーム、エマルジョン粒子、高分子、金属コロイドおよび微粒子製剤から選ばれた1つ以上とを組み合わせた複合体を構成成分とする微粒子が、被覆層成分で被覆された微粒子等があげられ、脂質膜となる被覆層成分で被覆された微粒子であることがより好ましく、例えば薬物と脂質集合体、リポソーム、エマルジョン粒子、高分子、金属コロイドおよび微粒子製剤から選ばれた1つ以上とを組み合わせた複合体を構成成分とする微粒子が、脂質もしくは脂肪酸またはそれらの誘導体で被覆された微粒子等があげられ、薬物と、脂質集合体、リポソームおよびエマルジョン粒子から選ばれる1つ以上との複合体を構成成分とする微粒子が、脂質もしくは脂肪酸またはそれらの誘導体で被覆された微粒子であることがさらに好ましい。該被覆層成分は、極性有機溶媒に可溶な成分であることが好ましい。
【0011】
薬物は、本発明の注射用製剤における該溶媒中で微粒子の形態をとる薬物、微粒子を構成する他の構成成分と複合体を形成して該溶媒中で微粒子の形態をとる薬物等を包含し、例えば蛋白質、ペプチド、核酸、低分子化合物、糖類、高分子化合物、脂質性化合物、金属化合物等のうち薬理学的活性を有する物質があげられ、好ましくは、核酸があげられ、より好ましくは、遺伝子、DNA、RNA、オリゴヌクレオチド(ODN)、プラスミドおよびsiRNAから選ばれる1つ以上の物質があげられる。
【0012】
蛋白質またはペプチドとしては、例えばブラジキニン、アンジオテンシン、オキシトシン、バソプレシン、アドレノコルチコトロピン、カルシトニン、インスリン、グルカゴン、コレシストキニン、β-エンドルフィン、メラノサイト阻害因子、メラノサイト刺激ホルモン、ガストリンアンタゴニスト、ニューロテンシン、ソマトスタチン、ブルシン、シクロスポリン、エンケファリン、トランスフェリン、アルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD)ペプチド、甲状腺ホルモン、成長ホルモン、性腺刺激ホルモン、黄体形成ホルモン、アスパラギナーゼ、アルギナーゼ、ウリカーゼ、カルボキシペプチダーゼ、グルタミナーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、組織プラスミノーゲンアクチベーター、ストレプトキナーゼ、インターロイキン、インターフェロン、ムラミルジペプチド、サイモポエチン、顆粒球コロニー刺激因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、エリスロポエチン、トロンボポエチン、トリプシンインヒビター、リゾチーム、表皮成長因子(EGF)、インスリン様成長因子、神経成長因子、血小板由来成長因子、形質転換成長因子、内皮細胞成長因子、フィブロブラスト(繊維芽細胞)成長因子、グリア細胞成長因子、サイモシン、特異抗体(例えば、抗EGF受容体抗体等があげられる)等があげられる。
【0013】
核酸としては、例えばアンチセンスオリゴヌクレオチド、センスオリゴヌクレオチド等のODN、遺伝子、DNA、RNA、プラスミド、siRNA等があげられ、該核酸は、核酸の構造中のリン酸部、エステル部等に含まれる酸素原子等が、例えば硫黄原子等の他の原子に置換された誘導体を包含する。なお、siRNAとは、短い二本鎖RNAのことである。
【0014】
低分子化合物としては、例えばイプシロン-アミノカプロン酸、塩酸アルギニン、L-アスパラギン酸カリウム、トラネキサム酸、硫酸ブレオマイシン、硫酸ビンクリスチン、セファゾリンナトリウム、セファロチンナトリウム、シチコリン、シタラビン、硫酸ゲンタマイシン、塩酸バンコマイシン、硫酸カナマイシン、硫酸アミカシン等があげられる。
【0015】
糖類としては、例えばコンドロイチン硫酸ナトリウム、へパリンナトリウム、デキストランフルオレセイン等があげられる。
【0016】
高分子化合物としては、例えばポリエチレンスルホン酸ナトリウム、ジビニルエーテル-無水マレイン酸共重合体(DIVEMA)、スチレン無水マレイン酸共重合体-ネオカルチノスタチン結合体(SMANCS)等があげられる。
【0017】
脂質性化合物としては、例えばビタミンD、ビタミンE等があげられる。
金属化合物としては、例えばシスプラチン等があげられる。
【0018】
脂質集合体またはリポソームは、例えば脂質および/または界面活性剤等によって構成され、脂質としては、単純脂質、複合脂質または誘導脂質のいかなるものであってもよく、例えばリン脂質、グリセロ糖脂質、スフィンゴ糖脂質、スフィンゴイド、ステロール等があげられ、好ましくはリン脂質があげられる。また、脂質としては、例えば界面活性剤(後記の界面活性剤と同義)、高分子(後記の高分子と同義、具体的にはデキストラン等)、ポリオキシエチレン誘導体(具体的にはポリエチレングリコール等)等の脂質誘導体もあげられ、好ましくはポリエチレングリコール化リン脂質があげられる。界面活性剤としては、例えば非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤等があげられる。
【0019】
リン脂質としては、例えばホスファチジルコリン(具体的には大豆ホスファチジルコリン、卵黄ホスファチジルコリン(EPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン等)、ホスファチジルエタノールアミン(具体的にはジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン等)、グリセロリン脂質(具体的にはホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、リゾホスファチジルコリン等)、スフィンゴリン脂質(具体的にはスフィンゴミエリン、セラミドホスホエタノールアミン、セラミドホスホグリセロール、セラミドホスホグリセロリン酸等)、グリセロホスホノ脂質、スフィンゴホスホノ脂質、天然レシチン(具体的には卵黄レシチン、大豆レシチン等)、水素添加リン脂質(具体的には水素添加ホスファチジルコリン等)等の天然または合成のリン脂質があげられる。
【0020】
グリセロ糖脂質としては、例えばスルホキシリボシルグリセリド、ジグリコシルジグリセリド、ジガラクトシルジグリセリド、ガラクトシルジグリセリド、グリコシルジグリセリド等があげられる。
スフィンゴ糖脂質としては、例えばガラクトシルセレブロシド、ラクトシルセレブロシド、ガングリオシド等があげられる。
【0021】
スフィンゴイドとしては、例えばスフィンガン、イコサスフィンガン、スフィンゴシン、それらの誘導体等があげられる。誘導体としては、例えばスフィンガン、イコサスフィンガン、スフィンゴシン等の-NH2を-NHCO(CH2)xCH3(式中、xは0〜18の整数を表し、中でも6、12または18が好ましい)に変換したもの等があげられる。
ステロールとしては、例えばコレステロール、ジヒドロコレステロール、ラノステロール、β-シトステロール、カンペステロール、スチグマステロール、ブラシカステロール、エルゴカステロール、フコステロール、3β-[N-(N',N'-ジメチルアミノエチル)カルバモイル]コレステロール(DC-Chol)等があげられる。
【0022】
その他、脂質としては、例えば、N-[1-(2,3-ジオレオイルプロピル)]-N,N,N-トリメチル塩化アンモニウム(DOTAP)、N-[1-(2,3-ジオレオイルプロピル)]-N,N-ジメチルアミン(DODAP)、N-[1-(2,3-ジオレイルオキシプロピル)]-N,N,N-トリメチル塩化アンモニウム(DOTMA)、2,3-ジオレイルオキシ-N-[2-(スペルミンカルボキシアミド)エチル]-N,N-ジメチル-1-プロパナミニウムトリフルオロ酢酸(DOSPA)、N-[1-(2,3-ジテトラデシルオキシプロピル)]-N,N-ジメチル-N-ヒドロキシエチル臭化アンモニウム(DMRIE)、N-[1-(2,3-ジオレイルオキシプロピル)]-N,N-ジメチル-N-ヒドロキシエチル臭化アンモニウム(DORIE)等もあげられる。
【0023】
非イオン性界面活性剤としては、例えばモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(具体的にはポリソルベート80等)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(具体的にはプルロニックF68等)、ソルビタン脂肪酸(具体的にはソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレエート等)、ポリオキシエチレン誘導体(具体的にはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポリオキシエチレンラウリルアルコール等)、グリセリン脂肪酸エステル等があげられる。
【0024】
アニオン性界面活性剤としては、例えばアシルサルコシン、アルキル硫酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸塩、炭素数7〜22の脂肪酸ナトリウム等があげられる。具体的にはドデシル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、タウロデオキシコール酸ナトリウム等があげられる。
【0025】
カチオン性界面活性剤としては、例えばアルキルアミン塩、アシルアミン塩、第四級アンモニウム塩、アミン誘導体等があげられる。具体的には塩化ベンザルコニウム、アシルアミノエチルジエチルアミン塩、N-アルキルポリアルキルポリアミン塩、脂肪酸ポリエチレンポリアミド、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、アルキルポリオキシエチレンアミン、N-アルキルアミノプロピルアミン、脂肪酸トリエタノールアミンエステル等があげられる。
【0026】
両性界面活性剤としては、例えば3-[(3-コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホン酸、N-テトラデシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルホン酸等があげられる。
【0027】
リポソームにおいては、これら脂質および界面活性剤は、単独でまたは組み合わせて用いられ、好ましくは組み合わせて用いられる。組み合わせて用いる場合の組み合わせとしては、例えば水素添加大豆ホスファチジルコリン、ポリエチレングリコール化リン脂質およびコレステロールから選ばれる2成分以上の組み合わせ、ジステアロイルホスファチジルコリン、ポリエチレングリコール化リン脂質およびコレステロールから選ばれる2成分以上の組み合わせ、EPCとDOTAPの組み合わせ、EPC、DOTAPおよびポリエチレングリコール化リン脂質の組み合わせ、EPC、DOTAP、コレステロールおよびポリエチレングリコール化リン脂質の組み合わせ等があげられる。
【0028】
また、リポソームは、必要に応じて、例えばコレステロール等のステロール等の膜安定化剤、例えばトコフェロール等の抗酸化剤等を含有していてもよい。
【0029】
脂質集合体としては、例えば球状ミセル、球状逆ミセル、ソーセージ状ミセル、ソーセージ状逆ミセル、板状ミセル、板状逆ミセル、ヘキサゴナルI、ヘキサゴナルIIおよび脂質2分子以上からなる会合体等があげられる。
【0030】
エマルジョン粒子としては、例えば脂肪乳剤、非イオン性界面活性剤と大豆油からなるエマルジョン、リピッドエマルジョン、リピッドナノスフェアー等の水中油型(O/W)エマルジョンや水中油中水型(W/O/W)エマルジョン粒子等があげられる。
【0031】
高分子としては、例えばアルブミン、デキストラン、キトサン、デキストラン硫酸、DNA等の天然高分子、例えばポリ-L-リジン、ポリエチレンイミン、ポリアスパラギン酸、スチレンマレイン酸共重合体、イソプロピルアクリルアミド-アクリルピロリドン共重合体、ポリエチレングリコール修飾デンドリマー、ポリ乳酸、ポリ乳酸ポリグリコール酸、ポリエチレングリコール化ポリ乳酸等の合成高分子、およびそれらの塩等があげられる。
【0032】
ここで、高分子における塩は、例えば金属塩、アンモニウム塩、酸付加塩、有機アミン付加塩、アミノ酸付加塩等を包含する。金属塩としては、例えばリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、亜鉛塩等があげられ、アンモニウム塩としては、例えばアンモニウム、テトラメチルアンモニウム等の塩があげられ、酸付加塩としては、例えば塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、および酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩等の有機酸塩があげられ、有機アミン付加塩としては、例えばモルホリン、ピペリジン等の付加塩があげられ、アミノ酸付加塩としては、例えばグリシン、フェニルアラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン等の付加塩があげられる。
【0033】
金属コロイドとしては、例えば金、銀、白金、銅、ロジウム、シリカ、カルシウム、アルミニウム、鉄、インジウム、カドミウム、バリウム、鉛等を含む金属コロイドがあげられる。
【0034】
微粒子製剤としては、例えばマイクロスフェアー、マイクロカプセル、ナノクリスタル、リピッドナノパーティクル、高分子ミセル等があげられる。
【0035】
また、本発明における薬物を構成成分とする微粒子は、好ましくは水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体を含み、これら水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体は、薬物を構成成分とする微粒子の構成成分として用いても、薬物を構成成分とする微粒子の構成成分に加えて用いても構わない。該水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体は、該微粒子の表面にその水溶性部分がつき出るように含有されていることがより好ましい。
【0036】
本発明における水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体としては、例えば糖、ペプチド、核酸および水溶性高分子から選ばれる1つ以上の物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体等があげられ、好ましくは、糖脂質、または水溶性高分子の脂質誘導体もしくは脂肪酸誘導体があげられ、より好ましくは、水溶性高分子の脂質誘導体または脂肪酸誘導体があげられる。
水溶性物質の脂質誘導体としては、水溶性物質と、例えば前記の脂質またはその誘導体とが結合してなるもの等があげられる。また、水溶性物質の脂肪酸誘導体としては、水溶性物質と、例えばステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸等の脂肪酸とが結合してなるものがあげられる。また、水溶性物質の脂肪族炭化水素誘導体としては、水溶性物質と、例えば長鎖脂肪族アルコール、ポリオキシプロピレンアルキル、グリセリン脂肪酸エステルのアルコール性残基等とが結合してなるものがあげられる。
【0037】
糖、ペプチドまたは核酸の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体としては、前記水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体の水溶性物質部分が、例えばショ糖、ソルビトール、乳糖等の糖、例えばカゼイン由来ペプチド、卵白由来ペプチド、大豆由来ペプチド、グルタチオン等のペプチド、または例えばDNA、RNA、プラスミド、siRNA、ODN等の核酸またはそれらの誘導体であるものがあげられ、より具体的に糖の脂質誘導体としては、例えばグリセロ糖脂質、スフィンゴ糖脂質等があげられ、グリセロ糖脂質としては、例えばスルホキシリボシルグリセリド、ジグリコシルジグリセリド、ジガラクトシルジグリセリド、ガラクトシルジグリセリド、グリコシルジグリセリド等、スフィンゴ糖脂質としては、例えばガラクトシルセレブロシド、ラクトシルセレブロシド、ガングリオシド等があげられる。
【0038】
水溶性高分子の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体としては、前記水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体の水溶性物質部分が、例えばポリエチレングリコール、ポリグリセリン、ポリエチレンイミン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、オリゴ糖、デキストリン、水溶性セルロース、デキストラン、コンドロイチン硫酸、ポリグリセリン、キトサン、ポリビニルピロリドン、ポリアスパラギン酸アミド、ポリ-L-リジン、マンナン、プルラン、オリゴグリセロール等またはそれらの誘導体であるものがあげられ、より好ましくは、ポリエチレングリコール誘導体、ポリグリセリン誘導体等があげられ、さらに好ましくは、ポリエチレングリコール誘導体であるものがあげられる。
【0039】
ポリエチレングリコール誘導体の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体としては、例えばポリエチレングリコール化脂質(具体的にはポリエチレングリコール-ホスファチジルエタノールアミン(より具体的にはPEG-DSPE等)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、クレモフォアイーエル等)、ポリエチレングリコールアルキルエーテル、ポリエチレングリコールソルビタン脂肪酸エステル(具体的にはモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン等)、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル等があげられ、より好ましくは、ポリエチレングリコール化脂質があげられる。
【0040】
ポリグリセリン誘導体の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体としては、例えばポリグリセリン化脂質(具体的にはポリグリセリン-ホスファチジルエタノールアミン等)、ポリグリセリン脂肪酸エステル等があげられ、より好ましくは、ポリグリセリン化脂質があげられる。
【0041】
本発明における微粒子が、薬物と、脂質集合体、リポソーム、エマルジョン粒子、高分子、金属コロイドおよび微粒子製剤から選ばれる1つ以上との複合体を構成成分とする微粒子である場合、該脂質集合体、リポソーム、エマルジョン粒子、高分子、金属コロイドまたは微粒子製剤は、薬物と静電的に逆の電荷をもつものであるのがより好ましい。ここで、薬物と静電的に逆の電荷とは、薬物分子内の電荷、分子内分極等に対して静電的引力を生じる電荷、表面分極等を包含する。脂質集合体、リポソーム、エマルジョン粒子、高分子、金属コロイドまたは微粒子製剤が、薬物と静電的に逆の電荷をもつには、好ましくは、脂質集合体、リポソーム、エマルジョン粒子、高分子、金属コロイドまたは微粒子製剤は、薬物と静電的に逆の電荷をもつ荷電物質を含有し、より好ましくは、脂質集合体、リポソーム、エマルジョン粒子、高分子、金属コロイドまたは微粒子製剤は、薬物と静電的に逆の電荷をもつ脂質(後記のカチオン性脂質またはアニオン性脂質)を含有する。
【0042】
薬物と静電的に逆の電荷をもつ脂質集合体、リポソーム、エマルジョン粒子、高分子、金属コロイドまたは微粒子製剤に含有される荷電物質は、カチオン性を呈するカチオン性物質とアニオン性を呈するアニオン性物質とに分類されるが、カチオン性の基とアニオン性の基の両方をもつ両性の物質であっても、pHや、他の物質との結合等により相対的な陰性度が変化するので、その時々に応じてカチオン性物質またはアニオン性物質に分類され得る。これら荷電物質は、前記微粒子の構成成分として用いても、前記微粒子の構成成分に加えて用いても構わない。
【0043】
カチオン性物質としては、例えば前記の微粒子の定義で例示したもののうちのカチオン性物質[具体的には、カチオン性脂質、カチオン性界面活性剤(前記と同義)、カチオン性高分子等]、等電点以下の値のpHで、複合体の形成を行える蛋白質またはペプチド等があげられる。
【0044】
カチオン性脂質としては、例えばDOTAP、DODAP、DOTMA、DOSPA、DMRIE、DORIE、DC-Chol等があげられる。
【0045】
カチオン性高分子としては、例えばポリ-L-リジン、ポリエチレンイミン、ポリフェクト(polyfect)、キトサン等があげられる。
【0046】
等電点以下の値のpHで、複合体の形成を行える蛋白質またはペプチドとしては、その物質の等電点以下の値のpHで、複合体の形成を行える蛋白質またはペプチドであれば、特に限定されない。例えば、アルブミン、オロソムコイド、グロブリン、フィブリノーゲン、ペプシン、リボヌクレアーゼT1等があげられる。
【0047】
アニオン性物質としては、例えば前記の微粒子の定義で例示したもののうちのアニオン性物質[具体的には、アニオン性脂質、アニオン性界面活性剤(前記と同義)、アニオン性高分子等]、等電点以上の値のpHで、複合体の形成を行える蛋白質またはペプチド、核酸等があげられる。
【0048】
アニオン性脂質としては、例えばホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸等があげられる。
【0049】
アニオン性高分子としては、例えばポリアスパラギン酸、スチレンマレイン酸共重合体、イソプロピルアクリルアミド-アクリルピロリドン共重合体、ポリエチレングリコール修飾デンドリマー、ポリ乳酸、ポリ乳酸ポリグリコール酸、ポリエチレングリコール化ポリ乳酸、デキストラン硫酸、デキストラン硫酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸、コンドロイチン、デルタマン硫酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ケタラン硫酸、デキストランフルオレセインアニオニック等があげられる。
【0050】
等電点以上の値のpHで、複合体の形成を行える蛋白質またはペプチドとしては、その物質の等電点以上の値のpHで、複合体の形成を行える蛋白質またはペプチドであれば、特に限定されない。例えば、アルブミン、オロソムコイド、グロブリン、フィブリノーゲン、ヒストン、プロタミン、リボヌクレアーゼ、リゾチーム等があげられる。
【0051】
アニオン性物質としての核酸としては、例えばDNA、RNA、プラスミド、siRNA、ODN等があげられ、生理活性を示さないものであれば、どのような長さ、配列のものであってもよい。
【0052】
本発明における極性有機溶媒に可溶な成分としては、例えば前記の微粒子の定義の中であげた脂質、界面活性剤、高分子等のうちの極性有機溶媒に可溶な物質、例えば水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体のうちの極性有機溶媒に可溶な物質等があげられる。
【0053】
本発明における被覆層成分は、例えば前記薬物を構成成分とする微粒子の定義の中であげた脂質、界面活性剤、高分子等があげられ、好ましくは、前記薬物を構成成分とする微粒子の定義の中であげた脂質および界面活性剤から選ばれる1つ以上の物質があげられ、より好ましくは、被覆層が脂質膜となる脂質および界面活性剤から選ばれる1つ以上の物質があげられ、さらに好ましくはリン脂質があげられる。
【0054】
本発明における薬物を構成成分とする微粒子は、公知の製造方法またはそれに準じて製造することができ、いかなる製造方法で製造されたものであってよい。例えば、微粒子の1つである薬物とリポソームの複合体を構成成分とする微粒子の製造には、公知のリポソームの調製方法が適用できる。公知のリポソームの調製方法としては、例えばバンガム(Bangham)らのリポソーム調製法[“ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(J. Mol. Biol.)”, 1965年, 第13巻, p.238-252参照]、エタノール注入法[“ジャーナル・オブ・セル・バイオロジー(J. Cell Biol.) ”, 1975年, 第66巻, p.621-634参照]、フレンチプレス法[“エフイービーエス・レターズ (FEBS Lett.)”, 1979年, 第99巻, p.210-214参照]、凍結融解法[“アーカイブス・オブ・バイオケミストリー・アンド・バイオフィジックス (Arch. Biochem. Biophys.)”, 1981年, 第212巻, p.186-194参照]、逆相蒸発法[“プロシーディングズ・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス・ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ (Proc. Natl. Acad. Sci. USA)”, 1978年, 第75巻, p.4194-4198参照]、pH勾配法(例えば特許第2572554号公報、特許第2659136号公報等参照)等があげられる。リポソームの製造の際にリポソームを分散させる溶液としては、例えば水、酸、アルカリ、種々の緩衝液、生理的食塩液、アミノ酸輸液等を用いることができる。また、リポソームの製造の際には、例えばクエン酸、アスコルビン酸、システイン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等の抗酸化剤、例えばグリセリン、ブドウ糖、塩化ナトリウム等の等張化剤等の添加も可能である。また、脂質等を例えばエタノール等の有機溶媒に溶解し、溶媒留去した後、生理食塩水等を添加、振とう撹拌し、リポソームを形成させることによってもリポソームを製造することができる。
【0055】
リポソームの平均粒子径は、所望により自由に選択できる。平均粒子径を調節する方法としては、例えばエクストルージョン法、大きな多重膜リポソーム(MLV)を機械的に粉砕(具体的にはマントンゴウリン、マイクロフルイダイザー等を使用)する方法[ミュラー(R. H. Muller)、ベニタ(S. Benita)、ボーム(B. Bohm)編著,“エマルジョン・アンド・ナノサスペンジョンズ・フォー・ザ・フォーミュレーション・オブ・ポアリー・ソラブル・ドラッグズ(Emulsion and Nanosuspensions for the Formulation of Poorly Soluble Drugs)”,ドイツ,サイエンティフィック・パブリッシャーズ・スチュットガルト(Scientific Publishers Stuttgart),1998年,p.267-294参照]等があげられる。
【0056】
また、微粒子を構成する例えば薬物、脂質集合体、リポソーム、エマルジョン粒子、高分子、金属コロイド、微粒子製剤等から選ばれる2つ以上を組み合わせた複合体(具体的には、例えばカチオン性脂質を含有するリポソームまたは脂質集合体と核酸との複合体、ポリ-L-リジン等のカチオン性高分子を含有する高分子と核酸との複合体、ホスファチジン酸等のアニオン性脂質を含有するリポソームまたは脂質集合体と蛋白質との複合体、スチレンマレイン酸等のアニオン性高分子を含有する高分子と蛋白質との複合体、カチオン性脂質を含有するリポソームまたは脂質集合体と蛋白質との複合体、ポリ-L-リジン等のカチオン性高分子を含有する高分子と蛋白質との複合体等があげられる)の製造方法は例えば水中で薬物と脂質集合体、リポソーム、高分子等とを混合するだけの製造方法でもよく、この際、必要であればさらに整粒工程や無菌化工程等を加えることもできる。また、複合体形成を例えばアセトン、エーテル等種々の溶媒中で行うことも可能である。例えば、核酸と脂質とをエタノール等の有機溶媒に溶解し、溶媒留去した後、生理食塩水等を添加、振とう撹拌し、核酸複合体を形成させることもできる。別の複合体の形成方法としては、例えば、水中でカチオン性物質とポリエチレングリコール化リン脂質(具体的にはポリエチレングリコール-ホスファチジルエタノールアミン(より具体的には1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](PEG-DSPE)等)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、クレモフォアイーエル(CREMOPHOR EL)等)等でリポソームを調製し、その後、例えば核酸を添加し、さらに例えばアニオン性高分子を添加して、多重複合体とすることも可能である。
【0057】
本発明における薬物を構成成分とする微粒子のうち、被覆層成分で被覆された微粒子は、公知の製造方法またはそれに準じて製造することができ、いかなる製造方法で製造されたものであってよい。例えば前記の薬物、脂質集合体、リポソーム、エマルジョン粒子、高分子、金属コロイド、微粒子製剤等を構成成分とする微粒子を、脂質もしくは脂肪酸またはそれらの誘導体で被覆する方法としては、国際公開第02/28367号パンフレットに記載の方法等があげられる。
【0058】
さらに、上記で得られる微粒子に抗体等の蛋白質、糖類、糖脂質、アミノ酸、核酸、種々の低分子化合物、高分子化合物等の物質による修飾を行うこともでき、これらで得られる微粒子も本発明における薬物を構成成分とする微粒子に包含される。また、例えば、ターゲッティングに応用するため、上記で得られる微粒子に対して、抗体等の蛋白質、ペプチド、脂肪酸等による脂質膜表面修飾を行うこともできる[ラジック(D. D. Lasic)、マーティン(F. Martin)編,“ステルス・リポソームズ(Stealth Liposomes)”(米国),シーアールシー・プレス・インク(CRC Press Inc), 1995年,p.93-102参照]。また、例えば非イオン性界面活性剤(前記と同義)、カチオン性界面活性剤(前記と同義)、アニオン性界面活性剤(前記と同義)、高分子、ポリオキシエチレン誘導体等によるリポソーム表面改質も任意に行うことができる[ラジック(D. D. Lasic)、マーティン(F. Martin)編,“ステルス・リポソームズ(Stealth Liposomes)”,(米国),シーアールシー・プレス・インク(CRC Press Inc),1995年,p.93-102参照]。ここで、高分子としては、例えばデキストラン、プルラン、マンナン、アミロペクチン、ヒドロキシエチルデンプン等があげられ、ポリオキシエチレン誘導体としては、例えばポリソルベート80、プルロニックF68、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ポリオキシエチレンラウリルアルコール、PEG-DSPE等があげられる。微粒子の表面改質は、微粒子に水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体を含有させる方法の1つとしても用いることができる。
【0059】
また、本発明における薬物を構成成分とする微粒子の大きさは、平均粒子径が300nm以下であるのが好ましく、200nm以下であるのがより好ましく、具体的には、例えば注射可能な大きさであるのが好ましい。
【0060】
極性有機溶媒としては、水と混合可能である極性を有していれば特に限定されるものではないが、例えばメタノール、エタノール、n-プロパノール、2-プロパノール、n-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール等のアルコール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルまたはエーテル等のポリアルキレングリコール、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等があげられ、好ましくは生体投与での使用実績のあるエタノール、ジメチルアセトアミド、ポリエチレングリコールまたはプロピレングリコールがあげられ、最も好ましくはエタノールがあげられる。
【0061】
本発明の注射用製剤中の極性有機溶媒濃度は、例えば微粒子が該極性有機溶媒に可溶な成分を含有する場合においては、該成分が溶解する濃度以下であるのが好ましく、微粒子の種類によらず、好ましくは1vol%以上であり、より好ましくは1〜60vol%、さらに好ましくは5〜50vol%、最も好ましくは15〜35vol%である。また、薬物の血中滞留性を亢進できる極性有機溶媒濃度は、微粒子の構成成分や、その製造方法等に応じて異なり、例えば牛胎児血清(FBS)中での安定性を試験することにより、目的とする血中滞留性に応じた極性有機溶媒濃度を決定することができる。
【0062】
また、本発明の注射用製剤中の薬物を構成成分とする微粒子の濃度は、1μg/mL〜1g/mLであるのが好ましく、0.1〜500mg/mLであるのがより好ましい。
本発明の注射用製剤中の極性有機溶媒の量は、薬学的に許容される範囲であれば特に限定されるものではないが、血管障害性や溶血性が懸念される場合は、極性有機溶媒量が少ない方が望ましい。また、微粒子の濃度を上げて、微粒子に対する極性有機溶媒の相対的濃度が高くして、極性有機溶媒水溶液中の極性有機溶媒の使用量を低減することも可能であり、この形態は本発明のより好ましい形態の1つである。
【0063】
また、極性有機溶媒は、製剤が投与されて血液成分に触れ得るときに、薬物を構成成分とする微粒子と共存していればよく、極性有機溶媒を製剤中に含有させる方法に制限はないが、例えば予め該微粒子を高い濃度の極性有機溶媒水溶液に存在させておき、投与直前に、注射製剤中に含まれる極性有機溶媒を薬学的に許容される濃度まで除去または極性有機溶媒を含有しない水溶液を添加等してから投与してもよい。極性有機溶媒を除去する方法としては、蒸発留去、半透膜分離、限外ろ過、分留等があげられ、極性有機溶媒を含有しない水溶液を添加する方法としては、薬物を構成成分とする微粒子、高い濃度の極性有機溶媒水溶液および極性有機溶媒を含有しない水溶液から構成されるキット等を用いる方法が好ましい。
【0064】
また、予め微粒子を低い濃度の極性有機溶媒水溶液または極性有機溶媒を含まない水溶液に存在させておき、投与直前に、注射製剤中に含まれる極性有機溶媒を薬学的に許容される濃度まで添加してから投与してもよい。極性有機溶媒を添加する方法としては、薬物を構成成分とする微粒子、低い濃度の極性有機溶媒水溶液または極性有機溶媒を含まない水溶液および極性有機溶媒または高い濃度の極性有機溶媒水溶液から構成されるキット等を用いる方法が好ましい。
【0065】
投与方法としては、静脈内注射、皮内投与、皮下投与、腹腔内投与、動脈投与、筋肉内投与等があげられ、特に限定されない。
投与速度は特に限定されないが、徐々に投与する方法、例えば持続静注を行うことが好ましい。
【0066】
また、本発明の注射用製剤は、生体外において例えば血液等の体液と混合し、その混合液として、前記投与方法と同様に生体内に投与してもよい。
【0067】
本発明の注射用製剤は、例えば水、酸、アルカリ、種々の緩衝液、生理的食塩液、アミノ酸輸液等を混合して調製されていることが好ましい。また、例えばクエン酸、アスコルビン酸、システイン、EDTA等の抗酸化剤、グリセリン、ブドウ糖、塩化ナトリウム等の等張化剤等を添加して注射剤を調製することも可能である。
本発明の薬物の血中滞留性を亢進させる方法は、該薬物を構成成分とする微粒子を含む注射用製剤に、極性有機溶媒を含ませることで行うことができ、例えば前記本発明の注射用製剤を調製することで行うことができる。本発明の薬物の血中滞留性を亢進させる方法は、注射用製剤中の微粒子の処方の改変や、製剤添加物を加えることなしに、簡便に行うことができる利点を有し、またその亢進の度合いを、用いる極性有機溶媒量により調節することも可能であるという利点を有している。
【0068】
次に、実施例により、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0069】
デキストランフルオレセインアニオニック(FD、モレキュラープローブス社製) 20mg、DOTAP(アバンチポーラルリピッズ社製) 120mgおよびPEG-DSPE(日本油脂製) 48mgを水(注射用水、大塚製薬製、以下同様) 4mLに分散させた。得られた液を、孔径0.1μmのポリカーボネートメンブレンに31回通し、分散液を得た。
EPC(日本油脂製、以下同様) 60mgおよびPEG-DSPE 12.5mgをエタノール/水混液(5:3) 2mLに溶解したものに、前述の分散液0.5mLを滴下しエタノール濃度をおよそ50vol%とした。得られた液に、EPC 25mgおよびPEG-DSPE 25mgをエタノール/水混液(1:1)1mLに分散させたものを滴下し、微粒子の分散液を調製した(A液)。
A液に適量の水を加えてエタノール濃度をおよそ5vol%とし、製剤を得た。また、それぞれ同様にA液を調製し、水を加えてエタノール濃度がおよそ15、30、40または50vol%の製剤を得た。
【0070】
比較例1
実施例1と同様にA液を調製し、適量の水を加えてエタノール濃度を下げた後、超遠心分離(1時間、110,000×g、25℃) によって上清を除去し、リン酸緩衝食塩水(PBS)を添加して再分散させ、分散液中にエタノールを含まない製剤を得た。
【0071】
試験例1
実施例1で得られた各製剤および比較例で得られた製剤について、それぞれ超遠心分離法でエタノールを除去した後、PBSを加え、動的光散乱法(DLS)(使用機器:A model ELS-800、大塚電子)で微粒子の平均粒子径を測定した。その結果、いずれも130〜150nm程度の平均粒子径を有する微粒子であった。
【0072】
試験例2
実施例1で得られたエタノール濃度がおよそ5、15または30vol%の各製剤および比較例で得られた製剤を、PBSで総脂質濃度が5mg/mLになるように希釈し、ラットに対して、投与量を脂質量/ラット体重比で10mg/kgとして投与した。投与後1分、10分、30分、1時間、3時間、6時間および24時間に採血し、遠心操作を行って血漿を採取した。血漿中のFDを定量するため、血漿各50μLに、10w/v%トライトンエックス-100(TritonX-100、和光純薬製、以下同様) 50μLおよびPBS 400μLをそれぞれ加え、ボルテックスミキサーで攪拌した。その100μLを96穴マイクロプレートにとり、蛍光プレートリーダー(アルボエスエックス-4(ARVOsx-4)、ワラック(Wallac)社製、以下同様)を使用して励起波長485nmおよび蛍光波長530nmでの蛍光強度を測定した。一方、1、0.5および0.25μg/mLの各FD-PBSの蛍光強度を測定し、検量線を得た。検量線から各血漿中のFD濃度を求めた。ラット体重100gあたりの血漿量を7.8mLと計算し、投与量に対する血中残存百分率を算出し、台形法でAUC0・24h(μg・min/mL/dose)を算出した。
【0073】
【表1】

【0074】
第1表によると、実施例1で得られた製剤は、極性有機溶媒濃度が5〜30%と増加するに従ってAUCは増加し、その値は極性有機溶媒を含まない比較例で得られた製剤を投与した場合に対し、極性有機溶媒濃度30%において約2倍に達した。
【実施例2】
【0075】
実施例1と同様にA液を調製し、A液に水を加えてエタノール濃度をおよそ5vol%とした後、超遠心(1時間、110,000×g、25℃)によって上清を除去し、水を添加して再分散させて脂質濃度が75mg/mLになるよう調整した。得られた分散液を小分けし、それぞれ適量のエタノール/水混液(5:3)を加え、エタノール濃度がそれぞれおよそ5、15、30、40または50vol%となるよう調整し、それぞれ製剤を得た。
【0076】
試験例3
実施例2および比較例1で得られた各製剤について、FBS中での安定性を試験した。
各製剤に、大過剰量のFBS をそれぞれ加え混合した。
混合直後に各500μLを取りゲルろ過クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography)を行い、そのフラクション(100滴, 10本)を回収した。各フラクションをボルテックスミキサーで振とう攪拌してサンプルとし、FDを定量するため、各50μLに、10w/v%TritonX-100 50μLおよびPBS 400μLをそれぞれ加え、ボルテックスミキサーで攪拌した。その100μLを96穴マイクロプレートにとり、ARVOsx-4を使用して励起波長485nmおよび蛍光波長530nmでの蛍光強度を測定した。微粒子中の薬物残存率を下記式(1)で算出した。結果を第2表に示す。
【0077】
【数1】

【0078】
試験例4
実施例2および比較例1で得られた各製剤について、試験例2と同様にラットに投与し、投与後10分に採血し、試験例2と同様にサンプル中のFD濃度を求め、ラット体重100gあたりの血漿量を7.8mLと計算し、投与後10分における投与量に対する血中残存百分率を算出した。結果を第2表に示す。
【0079】
【表2】

【0080】
第2表によれば、実施例2で得られた製剤は、極性有機溶媒を含まない比較例で得られた製剤を投与した場合に対し、極性有機溶媒濃度30%をピークにして、投与10分後の薬物の血中での残存率が亢進した。また薬物の血中での残存率とエタノール濃度との関係は、FBS中での薬物残存率の測定結果と傾向が一致した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物を構成成分とする微粒子を含む注射用製剤であって、該製剤中に極性有機溶媒を含み、該製剤中に該極性有機溶媒を含むことで、該注射用製剤中の極性有機溶媒を含まないことのみが異なる注射用製剤と比較して、血中滞留性が亢進されていることを特徴とする注射用製剤。
【請求項2】
極性有機溶媒に可溶な成分を含む、薬物を構成成分とする微粒子、および該微粒子を溶解する濃度以下の該極性有機溶媒を含む該注射用製剤。
【請求項3】
極性有機溶媒が、エタノール、ジメチルアセトアミド、ポリエチレングリコールおよびプロピレングリコールから選ばれる一つ以上である、請求項1または2記載の注射用製剤。
【請求項4】
極性有機溶媒の濃度が、5〜50vol%である請求項1〜3のいずれかに記載の注射用製剤。
【請求項5】
薬物を構成成分とする微粒子が、水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体を含む請求項1〜4のいずれかに記載の注射用製剤。
【請求項6】
水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体が、ポリエチレングリコール化脂質、ポリグリセリン化脂質、ポリエチレングリコールアルキルエーテルおよびポリエチレングリコールソルビタン脂肪酸エステルから選ばれる一つ以上である請求項5記載の注射用製剤。
【請求項7】
薬物を構成成分とする微粒子が、被覆層成分で被覆された微粒子である請求項1〜6のいずれかに記載の注射用製剤
【請求項8】
薬物を構成成分とする微粒子が、該薬物と、脂質集合体、リポソーム、エマルジョン粒子、高分子、金属コロイドおよび微粒子製剤から選ばれる一つ以上との複合体を構成成分とする微粒子である請求項1〜7のいずれかに記載の注射用製剤。
【請求項9】
薬物が、ペプチド、蛋白質、核酸、低分子化合物、糖類および高分子化合物から選ばれる一つ以上である請求項8記載の注射用製剤。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の注射用製剤を調製するための、少なくとも極性有機溶媒に可溶な成分を含む微粒子および極性有機溶媒から構成されるキット。
【請求項11】
薬物を構成成分とする微粒子を含む注射用製剤に、該極性有機溶媒を含ませることを特徴とする該薬物の血中滞留性を亢進させる方法。
【請求項12】
薬物を構成成分とする微粒子が、該極性有機溶媒に可溶な成分を含む微粒子であり、注射用製剤中の極性有機溶媒濃度が、該微粒子が溶解する濃度以下となるように、極性有機溶媒を含ませることを特徴とする請求項11記載の方法。
【請求項13】
極性有機溶媒として、エタノール、ジメチルアセトアミド、ポリエチレングリコールおよびプロピレングリコールから選ばれる一つ以上を使用することを特徴とする請求項11または12記載の方法。
【請求項14】
注射用製剤中の極性有機溶媒の濃度が、5〜50vol%となるように、極性有機溶媒を含ませることを特徴とする請求項11〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
薬物を構成成分とする微粒子が水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体を含む請求項11〜14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
水溶性物質の脂質誘導体、脂肪酸誘導体または脂肪族炭化水素誘導体が、ポリエチレングリコール化脂質、ポリグリセリン化脂質、ポリエチレングリコールアルキルエーテルおよびポリエチレングリコールソルビタン脂肪酸エステルから選ばれる一つ以上である請求項15記載の方法。
【請求項17】
薬物を構成成分とする微粒子が、被覆層成分で被覆された微粒子である請求項11〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
薬物を構成成分とする微粒子が、脂質集合体、リポソーム、エマルジョン粒子、高分子、金属コロイドおよび微粒子製剤から選ばれる一つ以上を構成成分とする微粒子である請求項11〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
薬物が、ペプチド、蛋白質、核酸、低分子化合物、糖類および高分子化合物から選ばれる一つ以上である請求項11〜18のいずれかに記載の方法。

【公開番号】特開2006−206526(P2006−206526A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−22242(P2005−22242)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(000001029)協和醗酵工業株式会社 (276)
【Fターム(参考)】