説明

血中銅濃度測定用試薬

【課題】安全でかつ簡便に血中銅濃度を正確に測定し得る試薬を提供すること。
【解決手段】本発明の試薬は、クエン酸緩衝液、非イオン性界面活性剤、および還元剤を含有し、血中銅濃度を測定する際に、検体中のタンパク質に結合している銅イオンを遊離させる。本発明は、さらに、この試薬を含む血中銅濃度測定用キットおよびこの試薬を用いた血中銅濃度の測定方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血中の銅濃度を測定するための試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
銅は、生体において必須の微量金属であり、造血機能などに関与することが知られている。一般的に、血清中の正常な銅濃度は、71〜132μg/dL程度である。例えば、メンケス症などの先天性銅代謝異常疾患を患っている場合、血清中の銅濃度が著しく減少する。メンケス症は、銅の吸収が消化管において障害され、各臓器に銅が正常に運搬されず銅欠乏状態に起因する疾患である。
【0003】
銅添加の高カロリー輸液を投与されている入院患者などでも、銅欠乏症が起こることがある。このような銅欠乏症では、貧血、汎血球減少、神経変性などを引き起こす。したがって、このような入院患者において、血中の銅濃度の測定は、銅の吸収を阻害する亜鉛濃度の測定とともに重要である。
【0004】
体内の銅濃度を測定する方法として、尿検体を用いて銅濃度を測定する方法が開示されている(特許文献1および2)。尿検体中の銅濃度の測定は、遠心分離などの操作を必要としない点で簡便である。しかし、血清中の銅濃度を測定する場合、血清中に存在する鉄イオン、亜鉛イオンなどの競合金属による影響を受けるため、銅のみの濃度を正確に測定できない。さらに、溶血によって鉄が血清中に流出するおそれもある。一般的に、生理的または工業的な種々の試料中の銅濃度測定は、例えば、特許文献3に記載のように、鉄、亜鉛などの競合金属を所定の化合物でマスキングして測定され得る。
【0005】
血中の銅濃度を測定するために用いられる試薬として、数種類の試薬が市販されている(非特許文献2および3)。これらの市販品は、キレート法を利用するものであり、いずれも(1)タンパク質(セルロプラスミン)に結合している銅イオン(Cu2+)を、除タンパク剤を用いて遊離させ、遊離した銅イオンを還元し;(2)還元された銅イオン(Cu)を所定のキレート剤と反応させて、色調変化によって検体中の銅濃度を測定する。このキレート剤としては、非特許文献1に記載されている4−(3,5−ジブロモ−2−ピリジルアゾ)−N−エチル−N−(3−スルホプロピル)アニリン誘導体(以下、3,5−DiBr−PAESAと記載する場合がある)が用いられている。
【0006】
例えば、非特許文献2に記載の試薬では、デシル硫酸ナトリウムを用いて血清銅を遊離させ、アスコルビン酸で1価の銅イオンに還元し、還元された1価の銅イオンと3,5−DiBr−PAESAとをキレート化させる。しかし、この試薬に用いられるデシル硫酸ナトリウムは危険物に指定されているため、取り扱いに注意を要する。
【0007】
さらに、非特許文献3に記載の試薬では、除タンパク剤として、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を用いている。しかし、SDSはクラフト点が16℃であるため、室温での長期保存ができず、また用時溶解の必要がある。
【0008】
このように、これらの市販品は、除タンパク剤が危険物である、室温で長期保存できず用時溶解して用いる必要があるなどの問題点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平4−110663号公報
【特許文献2】特開平5−99929号公報
【特許文献3】特開昭60−69552号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】CLINICAL CHEMISTRY、35巻、4号(1989年)、552〜554頁
【非特許文献2】臨床検査機器・試薬、19巻、6号(1996年)、814〜819頁
【非特許文献3】日本臨床検査自動化学会会誌、18巻、1号(1993年)、48〜52頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、安全でかつ簡便に血中銅濃度を正確に測定し得る試薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、クエン酸緩衝液、非イオン性界面活性剤、および還元剤を含有する、血中銅濃度測定用試薬を提供する。
【0013】
1つの実施態様では、上記クエン酸緩衝液の濃度は0.1M〜0.5Mであり、そしてpHは2.5〜4である。
【0014】
1つの実施態様では、上記非イオン性界面活性剤は、Tween20、TritonX−100、およびBrij35からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0015】
ある実施態様では、上記非イオン性界面活性剤の濃度は0.4質量%〜1.2質量%である。
【0016】
ある実施態様では、上記還元剤は、アスコルビン酸またはその塩である。
【0017】
他の実施態様では、上記還元剤の濃度は0.01M〜0.2Mである。
【0018】
さらに、本発明は、血中銅濃度測定用キットを提供し、該キットは、上記試薬;および4−(3,5−ジブロモ−2−ピリジルアゾ)−N−エチル−N−(3−スルホプロピル)アニリン誘導体およびトリス緩衝液を含有する発色用試薬を含む。
【0019】
1つの実施態様では、上記発色用試薬は、さらに非イオン性界面活性剤を含有する。
【0020】
1つの実施態様では、上記非イオン性界面活性剤は、Tween20、TritonX−100、およびBrij35からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0021】
さらに、本発明は、血中銅濃度を測定する方法を提供し、該方法は、検体中に、上記試薬を添加し、該検体中のタンパク質に結合している銅イオンを遊離させて、該検体中の銅(II)イオン(Cu2+)を銅(I)イオン(Cu)に還元する工程;および4−(3,5−ジブロモ−2−ピリジルアゾ)−N−エチル−N−(3−スルホプロピル)アニリン誘導体とトリス緩衝液とを含有する発色用試薬を添加し、該銅(I)イオン(Cu)と該4−(3,5−ジブロモ−2−ピリジルアゾ)−N−エチル−N−(3−スルホプロピル)アニリン誘導体とのキレート錯体を形成させる工程を包含する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、安全でかつ簡便に血中銅濃度を正確に測定し得る試薬が提供される。さらに、この試薬を含む血中銅濃度測定用キットおよびこの試薬を用いた血中銅濃度の測定方法を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】同一血清試料における、本発明の試薬を用いて得られた銅濃度の測定値と原子吸光法(AAS)による銅濃度の測定値との相関関係を示すグラフである。
【図2】同一血清試料における、本発明の試薬を用いて得られた銅濃度の測定値と従来品Aを用いて得られた銅濃度の測定値との相関関係を示すグラフである。
【図3】同一血清試料における、本発明の試薬を用いて得られた銅濃度の測定値と従来品Bを用いて得られた銅濃度の測定値との相関関係を示すグラフである。
【図4】血清試料中に種々の濃度の鉄イオンが存在する場合の銅濃度の測定値を示すグラフであり、鉄イオンが存在しない場合との誤差を示すグラフである。
【図5】血清試料中に種々の濃度の亜鉛イオンが存在する場合の銅濃度の測定値を示すグラフであり、亜鉛イオンが存在しない場合との誤差を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(検体)
本発明の血中銅濃度測定用試薬の測定対象となり得る検体は、血液、血漿、および血清が挙げられ、中でも血清が好ましい。
【0025】
(試薬)
本発明の血中銅濃度測定用試薬は、クエン酸緩衝液、非イオン性界面活性剤、および還元剤を含有し、血中のタンパク質に結合している銅イオンを遊離し、還元させる。
【0026】
本発明において、クエン酸緩衝液は、血中のタンパク質に結合している銅イオンを遊離させるための除タンパク剤として機能する。通常、血中の銅イオンの約95%以上はセルロプラスミンなどの銅輸送タンパク質に結合している。したがって、血中銅濃度を測定する場合、このタンパク質から銅イオンを遊離させる必要がある。本明細書では、タンパク質から銅イオンを遊離させる物質、すなわち、タンパク質と銅イオンとを解離させて、銅イオンを遊離させるための物質を除タンパク剤という。
【0027】
本発明に用いられるクエン酸緩衝液の濃度は、好ましくは0.1M以上であり得、好ましくは0.5M以下、より好ましくは0.3M以下であり得る。クエン酸緩衝液のpHが高くなると、銅イオンよりも亜鉛イオンの方がキレート剤に捕捉されやすくなるため、クエン酸緩衝液のpHは、好ましくは4以下、より好ましくは3.5以下であり得る。pHが低くなると、危険物として扱われ、輸送時などでの取り扱いをより慎重に行う必要がある。そのため、クエン酸緩衝液のpHは、好ましくは2以上、より好ましくは2.5以上であり得る。
【0028】
クエン酸緩衝液を除タンパク剤として用いることによって、銅イオンをタンパク質から遊離させるだけではなく、鉄イオン、亜鉛イオンなどの競合金属イオンを、効率よくマスキングし得る。特に、クエン酸緩衝液の濃度が0.1M〜0.3Mであり、そしてpHが2.5〜3.5の場合、血中銅濃度の測定に際し、鉄イオンおよび亜鉛イオンの影響をほぼ受けない。
【0029】
本発明において、非イオン性界面活性剤もまた、血中のタンパク質に結合している銅イオンを遊離させるための除タンパク剤として用いられる。本発明に用いられる非イオン性界面活性剤は、特に限定されず、例えば、Tween20、TritonX−100、またはBrij35が挙げられる。
【0030】
界面活性剤は、試薬中に好ましくは0.4質量%以上の割合で含有し、好ましくは1.2質量%以下、より好ましくは0.8質量%以下の割合で含有する。界面活性剤の濃度が1.2質量%を超える場合、溶血による鉄イオンの流出が多くなり、上記クエン酸緩衝液のマスキング効果のみでは鉄イオンの影響を回避できないおそれがある。
【0031】
本発明において還元剤は、血中の銅イオンおよびタンパク質から遊離した銅イオンを還元するために用いられる。血中においてタンパク質に結合している銅イオンは、通常、2価の銅(II)イオン(Cu2+)として存在する。しかし、本発明の試薬を用いる血中銅濃度測定に採用されるキレート法は、上記のように、1価の銅(I)イオン(Cu)をキレート剤に捕捉させ、捕捉(反応)による色調変化によって血中銅濃度を算出する方法である。したがって、遊離させたCu2+をCuに還元する必要がある。
【0032】
本発明に用いられる還元剤は、特に限定されず、例えばアスコルビン酸またはその塩などが挙げられる。還元剤は、好ましくは0.01M以上、より好ましくは0.015M以上の濃度で含有され、好ましくは0.2M以下、より好ましくは0.1M以下の濃度で含有される。
【0033】
(血中銅濃度測定用キット)
本発明の血中銅濃度測定用キットは、上記本発明の血中銅濃度測定用試薬(以下、第1試薬と記載する場合がある)および4−(3,5−ジブロモ−2−ピリジルアゾ)−N−エチル−N−(3−スルホプロピル)アニリン誘導体(3,5−DiBr−PAESA)とトリス緩衝液とを含有する発色用試薬(以下、第2試薬と記載する場合がある)を含む。
【0034】
発色用試薬に含有される3,5−DiBr−PAESAは、Cuを捕捉する公知のキレート剤であり、例えば4−(3,5−ジブロモ−2−ピリジルアゾ)−N−エチル−N−(3−スルホプロピル)アニリンナトリウムなどが挙げられる。
【0035】
発色用試薬に含有されるトリス緩衝液の濃度およびpHは、特に限定されない。例えば、トリス緩衝液の濃度は、好ましくは0.02M以上、より好ましくは0.04M以上であり得、好ましくは0.1M以下、より好ましくは0.06M以下であり得る。トリス緩衝液のpHは、好ましくは6以上、より好ましくは7以上であり得、好ましくは9以下、より好ましくは8以下であり得る。
【0036】
さらに、第2試薬は、非イオン性界面活性剤を含んでいてもよい。非イオン性界面活性剤は上記の通りであり、本発明の試薬(第1試薬)に含まれる非イオン性界面活性剤と同じ非イオン性界面活性剤を用いることが好ましい。非イオン性界面活性剤の濃度についても、上記の通りである。第2試薬が非イオン性界面活性剤を含むことによって、検体、第1試薬、および第2試薬が均一に混合されやすくなり、検体溶液の安定性が向上する。
【0037】
本発明の測定用キットは、必要に応じて、血中銅濃度の測定方法を記載した仕様書を含む。
【0038】
(血中銅濃度測定方法)
本発明の血中銅濃度測定方法は、検体に、クエン酸緩衝液、非イオン性界面活性剤、および還元剤を含有する第1試薬を添加し、検体中のタンパク質に結合している銅イオンを遊離させて、該検体中に存在する銅イオンCu2+をCuに還元する工程;および3,5−DiBr−PAESAおよびトリス緩衝液を含有する第2試薬を添加し、Cuと3,5−DiBr−PAESAとのキレート錯体を形成させる工程を包含する。この工程は、通常、室温で行われる。
【0039】
本発明の方法は、まず検体に第1試薬を添加し、上記のようにタンパク質に結合しているCu2+を遊離させる。遊離させたCu2+は、還元剤によってCuに還元される。
【0040】
次いで、第2試薬を添加し、Cuは3,5−DiBr−PAESAに捕捉され、Cuと3,5−DiBr−PAESAとのキレート錯体が形成される。第2試薬は、Cu2+がCuに完全に還元されてから添加する必要があり、検体の量、第2試薬の添加量などによって適宜設定され得る。例えば、第2試薬は、第1試薬が試料に添加され、該試料の吸光度が測定された後であれば、添加され得る。さらに、血中銅濃度測定は、Cuが十分に3,5−DiBr−PAESAに捕捉され完全にキレート化されてから測定される。測定は、第2試薬の添加後、好ましくは30秒〜60分後、より好ましくは2分〜30分後に行われ得る。一例として、検体に第1試薬が添加され、第1試薬の添加から5分後に第2試薬が添加され、そして第2試薬の添加から5分後に測定が行われる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0042】
(実施例1:クエン酸緩衝液の濃度およびpHと血中銅濃度の測定値との関係)
クエン酸緩衝液の濃度およびpHと血中銅濃度の測定値との関係を検証した。
【0043】
表1に示すように、pHを3.5、4、および4.5に調整した各種濃度のクエン酸緩衝液(0.3M、0.35M、0.4M、0.45M、および0.5M)に、アスコルビン酸が0.02MおよびTween20が1質量%となるように、アスコルビン酸およびTween20を溶解し、15種類の試薬(第1試薬)を調製した。
【0044】
これらの試薬とは別に、0.05Mのトリス緩衝液に、3,5−DiBr−PAESAが0.1mMとなるように、3,5−DiBr−PAESAを溶解し、発色用試薬(第2試薬)を調製した。
【0045】
次いで、表1に示す血清試料1〜20それぞれについて、血清試料8μLに第1試薬を180μL添加し、5分間撹拌した。次いで、第2試薬を60μL添加して、さらに5分間撹拌し、600nmおよび750nmの2波長の吸光度を測定することにより、血清試料中の銅濃度を求めた。結果を表1に示す。
【0046】
一方、従来品A(クイックオートネオCu、株式会社シノテスト製)および従来品B(Cu TEST「ミズホ」、株式会社ミズホメディー製)を用い、従来品Aおよび従来品Bのそれぞれの使用方法に従って、血清試料1〜20中の銅濃度を測定した。結果を表1に併せて示す。
【0047】
【表1】

【0048】
(実施例2:クエン酸緩衝液のpHと血中銅濃度の測定値との関係)
一定のクエン酸緩衝液の濃度において、さらに詳細にpHと血中銅濃度の測定値との関係を検証した。
【0049】
pHを3から4までの表2に示す9種類の値に調整した各0.02Mのクエン酸緩衝液に、アスコルビン酸が0.02MおよびTween20が0.6質量%となるように、アスコルビン酸およびTween20を溶解し、9種類の試薬(第1試薬)を調製した。
【0050】
これらの試薬とは別に、0.05Mのトリス緩衝液に、3,5−DiBr−PAESAが0.1mM、およびTween20が0.6質量%となるように、3,5−DiBr−PAESAを溶解し、発色用試薬(第2試薬)を調製した。
【0051】
次いで、表2に示す血清試料1〜16それぞれの銅濃度を、第1試薬および第2試薬を用いて、上記実施例1に記載の測定方法に従って測定した。結果を表2に示す。
【0052】
一方、従来品Aについては、従来品Aの使用方法に従って血清試料中の銅濃度を測定した。結果を表2に併せて示す。
【0053】
【表2】

【0054】
(実施例3:血中銅濃度の測定(原子吸光法との比較))
銅濃度が未知の複数の血清試料を準備し、この血清試料中の銅濃度を、本発明の試薬を用いて測定した場合と原子吸光法(AAS)を用いて測定した場合との関係を検証した。
【0055】
まず、本発明の試薬(第1試薬)と発色用試薬(第2試薬)とを調製した。
【0056】
<本発明の試薬(第1試薬)>
3.52gのアスコルビン酸および6gのTween20を、1000mLの0.3Mのクエン酸緩衝液(pH3.5)に溶解して、第1試薬を調製した。試薬中に、アスコルビン酸は0.02M、そしてTween20は0.6質量%の濃度で存在する。
【0057】
<発色用試薬(第2試薬)>
0.04gの3,5−DiBr−PAESAおよび6gのTween20を、1000mLの0.05Mのトリス緩衝液(pH7.5)に溶解して、第2試薬を調製した。試薬中に、3,5−DiBr−PAESAは0.07mM、そしてTween20は0.6質量%の濃度で存在する。
【0058】
まず、1つの血清試料を選択し、その試料中の銅濃度を原子吸光法によって測定した。次いで、同じ試料中の銅濃度を、上記第1試薬および第2試薬を用いて、上記実施例1に記載の測定方法(以下、本発明の方法と記載する場合がある)に従って測定した。
【0059】
残りの試料についても、同様の手順でAASおよび本発明の方法によって、銅濃度を測定した。
【0060】
次いで、AASによる測定値をX軸とし、本発明の方法によって得られた測定値をY軸として、得られたデータをプロットした。結果を図1に示す。
【0061】
図1に示すように、AASによる測定値と本発明の方法によって得られた測定値とは、ほぼ一致していることがわかる。したがって、本発明の方法によって得られた測定値は非常に正確であることがわかる。
【0062】
(実施例4:血中銅濃度の測定(従来品との比較))
実施例3で用いた銅濃度が未知の血清試料中の銅濃度について、実施例3で用いた第1試薬および第2試薬を用いて測定した場合(本発明の方法)と実施例1で用いた従来品AおよびBを用いて測定した場合との関係を検証した。
【0063】
従来品Aについては、従来品Aの使用方法に従って銅濃度を測定した。一方、本発明の方法による測定値は、実施例3で測定した測定値を用いた。次いで、従来品Aによる測定値をX軸とし、本発明の方法によって得られた測定値をY軸として、得られたデータをプロットした。結果を図2に示す。
【0064】
さらに、実施例1で用いた従来品Bについても、従来品Bの使用方法に従って銅濃度を測定した。一方、本発明の方法による測定値は、実施例3で測定した測定値を用いた。次いで、従来品Bによる測定値をX軸とし、本発明の方法によって得られた測定値をY軸として、得られたデータをプロットした。結果を図3に示す。
【0065】
図2および3に示すように、従来品AおよびBを用いて得られた測定値と本発明の方法によって得られた測定値とは、実施例1の結果と同様、非常に良好な相関性を示し、大きな誤差がなく、どの濃度においてもほぼ一致していることがわかる。
【0066】
(実施例5:競合金属(鉄および亜鉛)の影響)
試料中に競合金属が存在する場合、競合金属が存在しない場合と比較して、血中銅濃度の測定値に対する影響を検討した。
【0067】
銅濃度が既知の試料(標準試料)に、鉄イオン濃度が100μg/dLとなるように、塩化鉄(II)を添加した。次いで、実施例3で用いた第1試薬および第2試薬を用いて、実施例1に記載の測定方法に従って銅濃度を測定した。鉄イオン濃度を200μg/dL、300μg/dL、400μg/dL、および500μg/dLに変更して、同様の手順で銅濃度を測定した。
【0068】
一方、実施例1で用いた従来品Aについても、鉄イオン濃度が100μg/dL、200μg/dL、300μg/dL、400μg/dL、および500μg/dLとなるように鉄化合物を添加し、従来品Aの使用方法に従って、銅濃度を測定した。
【0069】
それぞれ得られた銅濃度の測定値と、鉄イオンを含まない標準試料中の銅濃度の値との誤差を求めた。結果を図4に示す。
【0070】
さらに、鉄化合物の代わりに硝酸亜鉛を添加して、同様に銅濃度を測定し誤差を求めた。結果を図5に示す。
【0071】
図4および5に示すように、本発明の試薬は、競合金属のマスキング剤を含有していないにもかかわらず、市販の従来品とほぼ同等の結果を示し、ほとんど誤差を生じていないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の試薬は、従来品のように危険物を含有していないので、安全に取り扱うことができる。さらに、本発明の試薬は、マスキング剤を含有していないにもかかわらず、従来品と同等の測定精度を提供し、そして広い濃度範囲にわたる正確な測定も可能である。また、本発明の試薬は、用時溶解などの必要もなく、簡便に扱うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クエン酸緩衝液、非イオン性界面活性剤、および還元剤を含有する、血中銅濃度測定用試薬。
【請求項2】
前記クエン酸緩衝液の濃度が0.1M〜0.5Mであり、そしてpHが2.5〜4である、請求項1に記載の試薬。
【請求項3】
前記非イオン性界面活性剤が、Tween20、TritonX−100、およびBrij35からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1または2に記載の試薬。
【請求項4】
前記非イオン性界面活性剤の濃度が0.4質量%〜1.2質量%である、請求項1から3のいずれかの項に記載の試薬。
【請求項5】
前記還元剤が、アスコルビン酸またはその塩である、請求項1から4のいずれかの項に記載の試薬。
【請求項6】
前記還元剤の濃度が0.01M〜0.2Mである、請求項1から5のいずれかの項に記載の試薬。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかの項に記載の試薬;および
4−(3,5−ジブロモ−2−ピリジルアゾ)−N−エチル−N−(3−スルホプロピル)アニリン誘導体とトリス緩衝液とを含有する発色用試薬;
を含む、血中銅濃度測定用キット。
【請求項8】
前記発色用試薬が、さらに非イオン性界面活性剤を含有する、請求項7に記載のキット。
【請求項9】
前記非イオン性界面活性剤が、Tween20、TritonX−100、およびBrij35からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項8に記載のキット。
【請求項10】
血中銅濃度を測定する方法であって、
検体に、請求項1〜6の試薬を添加し、該検体中のタンパク質に結合している銅イオンを遊離させて、該検体中の銅(II)イオン(Cu2+)を銅(I)イオン(Cu)に還元する工程;および
4−(3,5−ジブロモ−2−ピリジルアゾ)−N−エチル−N−(3−スルホプロピル)アニリン誘導体およびトリス緩衝液を含有する発色用試薬を添加し、該銅(I)イオン(Cu)と該4−(3,5−ジブロモ−2−ピリジルアゾ)−N−エチル−N−(3−スルホプロピル)アニリン誘導体とのキレート錯体を形成させる工程;
を包含する、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−13193(P2011−13193A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160086(P2009−160086)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】