説明

血友病の治療のための第VIII因子および第IXa因子を含む組成物

本発明は、抗FVIII抗体を生じていない対象の血友病Aまたは血友病Bの治療のための組成物の調製における、FIXaおよびFVIIIの使用に関する。本発明はさらに、抗FVIII抗体を生じていない対象の血友病Aまたは血友病Bの治療における、同時の、同時で別々の、または順次的な使用のための、FIXaを含む組成物およびFVIIIを含む組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血友病の治療のための組成物に関する。
【0002】
特に、本発明は対象の血友病Aまたは血友病Bを治療するための組成物の調製における、FIXaおよびFVIIIを含む組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
血液凝固の過程は、カスケード形式で働いて血液凝固塊の形成をもたらす、血液凝固タンパク質として知られる一連のタンパク質を含む。
【0004】
血液凝固の分子メカニズムおよびこれに関与する要素は、いくつかの総説文献に包括的に記載されている(Furie, B.およびFurie, B. C., Cell 53 (1988) 505-518;Davie, E. W.ら, Biochem. 30 (1991) 10363-10379;Bergmeyer, H. U. (編): Methods of Enzymatic Analysis, Vol. V, 第3章, 第3版, Academic Press, New York (1983))。
【0005】
血友病は、血液凝固因子をコードする遺伝子が突然変異を有し、それによりコードされたタンパク質がカスケードの過程で正常に働かない、ヒトおよび他の哺乳類の疾患である。
【0006】
血友病Aはこの疾患の最も一般的な型であり、X連鎖で劣性遺伝の、第VIII凝固因子の活性の欠乏により引き起こされる出血性疾患である。罹患した個体は、関節および筋肉中への出血、あざができやすい、ならびに創傷からの長引く出血といった多様な表現型を示す。該疾患は、Xq28にマッピングされる第VIII因子遺伝子中の多様な突然変異により引き起こされる。第VIII因子突然変異の多様性にもかかわらず、保因者の検出および出生前診断は所定の突然変異(特に染色体逆位)の直接検出により行うことが可能であり、また連鎖解析により間接的に行うこともできる。第VIII因子の補充は、ヒト血漿または組換え技術に由来する種々の製剤を用いて行われる。補充療法はほとんどの場合有効であるが、10〜25%の被治療個体が中和抗体を生じ、その有効性を減少させる。血友病Aに対する日常的な治療の主力は、第VIII因子の注入であり、第VIII因子活性を治療的なレベルにまで回復するのに必要な量を用いて行われる。第VIII因子の半減期は11〜16時間であるため、一部の状況では1日2回の注入が必要とされる場合がある。
【0007】
遺伝性疾患である血友病Bは、血液凝固タンパク質である第IX因子をコードする遺伝子の突然変異により特徴づけられる。第IX因子についてはHighらによって概説されている(1995, “Factor IX” In:Molecular Basis of Thrombosis and Hemostasis, HighおよびRoberts, 編, Marcel Dekker, Inc.)。
【0008】
1936年にPatekおよびStetsonは、血友病が第VIII因子の補充により治療されうることを報告した。残念なことに、約15%の血友病患者が第VIII因子に対する抗体を生じ(Roberts (1981) N. Engl. J. Med. 305, 757)、これらの患者の治療に対する大きな障害となっている。
【0009】
Barrowcliffら(1983)(J. Lab. Clin. Med)中に述べられているように、報告されているこの群の患者に対する治療の一形態はFEIBAである(Baxter Healthcare Corporation, USA)。FEIBAは阻害因子を有する血友病Aの患者で用いられる血漿由来タンパク質複合体であり、第VIII因子の不足を克服し、血液凝固塊の形成を可能にする。
【0010】
Barrowcliffeら(1981)(Thromb. Res. 21, 181)は、FEIBAがある型の第VIII因子を含有しており、これが阻害因子血漿中でのin vitro凝固促進活性全体の30〜50%を担っていることを見出した。この結果は、第VIII因子が第IXa因子およびリン脂質と共に複合体として存在しているかもしれないこと、ならびにこの形態では第VIII因子が阻害因子との相互作用から部分的に保護されているかもしれないことを示した。Barrowcliffeら(1981)はまた、精製第IXa因子およびリン脂質の添加が、その後の抗体による不活性化から第VIII因子を保護しうること、および主な保護作用はリン脂質によりもたらされることも報告した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、血友病患者の治療のための、改善された組成物を提供する。
【0012】
本発明は、部分的には、FIXaが、FIXaを含まない組成物と比較したとき、血友病Aまたは血友病Bの治療のための組成物中のFVIII濃度を減少させることを可能にするという驚くべき発見に基づく。
【課題を解決するための手段】
【0013】
従って第1の態様では、本発明は、抗FVIII抗体を生じていない対象の血友病Aまたは血友病Bの治療のための組成物の調製における、FIXaおよびFVIIIの使用に関する。
【0014】
第2の態様では、本発明は、抗FVIII抗体を生じていない対象の血友病Aまたは血友病Bの治療における、同時の、同時で別々の、または順次的な使用のための、FIXaを含む組成物およびFVIIIを含む組成物に関する。
【0015】
第3の態様では、本発明は、血友病Aまたは血友病Bの治療のためのFVIIIを含む組成物の製造におけるFIXaの使用であって、FIXaの存在が、FIXaを含まない組成物と比較して前記組成物中のFVIIIの濃度を減少させる、前記使用に関する。
【0016】
第4の態様では、本発明は、血友病Aまたは血友病Bに罹患した対象を治療する方法であって、それを必要としている対象にFIXaおよびFVIIIを含む組成物を投与することを含み、前記対象は抗FVIII抗体を生じていない、前記方法に関する。
【0017】
第5の態様では、本発明は、血友病Aまたは血友病Bに罹患した対象を治療する方法であって、それを必要としている対象にFIXaおよびFVIIIを含む組成物を投与することを含み、前記組成物はFIXaを含まない組成物を用いた前記対象の治療に必要な量よりも少ない量のFVIIIを含む、前記方法に関する。
【0018】
第6の態様では、本発明は、組成物中に因子FVIIIおよびFIXaを一緒に混合するステップを含む、FVIIIを増強する方法に関する。
【0019】
本発明の他の態様は、添付の特許請求の範囲において、ならびに以下の説明および考察において示してある。これらの態様は別個の節の見出しの下に示してある。しかしながら、各節見出しの下の内容は、必ずしもその節見出しに制限されるものではないことが理解されるべきである。
【0020】
好ましくは、FIXaを含む組成物はさらにリン脂質を含む。
【0021】
好ましくは、本発明の組成物はさらにリン脂質を含む。
【0022】
好ましくは、組成物は抗FVIII抗体を生じていない対象に投与される。
【0023】
好ましくは、FVIIIおよびFIXa試薬は組換えDNA技術を用いて生成される。
【0024】
さらに、FIXaおよびリン脂質の添加が、FVIIIの免疫原性を減少させうること、それにより血友病患者体内での抗FVIII阻害因子の発生頻度および/またはそのような阻害因子発生の迅速性が減少することを提案する。この提案の基礎は、FVIII分子のリン脂質結合領域およびFIXa結合領域(それぞれC2ドメインおよびA2ドメイン上)は免疫優勢(immunodominant)領域であり、従ってそれぞれのリガンドに対する結合によってこれらの領域を覆うことが、これらのエピトープに対する抗原反応を減少させるはずである、ということである。よって本発明は、FIXaおよびリン脂質と混合して、またはそれらと同時に、FVIIIを患者に対して与えることを含む、FVIIIの免疫原性を減少させるための方法を提供する。同様に本発明は、対象での血友病の治療において、FVIIIに対する免疫原性反応を減少させるための組成物の調製におけるFIXaおよびリン脂質の使用を提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明は多くの利点を有する。これらの利点は、以下の説明の中で明らかになるであろう。
【0026】
一例としては、本発明は商業的に有用な組成物を提供するので、有利である。
【0027】
一例としては、本発明は、血友病Aまたは血友病Bの治療のための組成物において、より少ない量の第VIII因子を必要とするので、有利である。それゆえ、本発明の組成物は現行の治療法よりも安価である可能性がある。
【0028】
別の例としては、本発明は、血友病Aまたは血友病Bの治療のためのさらなる治療法を提供するので有利である。
【0029】
別の例としては、本発明は、抗FVIII抗体を生じている対象における血友病Aまたは血友病Bの治療のためのさらなる治療法を提供するので有利である。
【0030】
さらに、本発明は、治療の間の天然もしくは組換えFVIIIの免疫原性を減少させることにより、血友病患者での抗FVIII抗体の発生を防ぎ、および/または遅滞させる。FIXaはFVIIIの抗原性エピトープを覆い隠し、血流中でその免疫原性を弱めると考えられている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
血友病
血友病は、血友病AおよびBに分類される、特定の血液凝固因子に関する遺伝性出血性疾患の群である。
【0032】
本明細書中に記載されているように、本発明は、血友病AおよびBの治療に関する。非常に好ましい実施形態では、本発明は、血友病Aの治療に関する。
【0033】
血友病A
血友病Aについての一般的な教示は、以下の文献中に見出すことができる:Semin Thromb Hemost (2002) 28(3):309-22;Mol Pathol (2002) 55(2), 127-44; Baillieres Clin Haematol (1996) 9(2):211-28;Hum Mutat (1995) 5(1):1-22;およびAdv Hum Genet (1988) 17:27-59;およびO’Brien D P, Tuddenham E G D, The structure and function of factor VIII. In: “Haemostasis & thrombosis”, Bloom A, Forbes C D, Thomas D P, Tuddenham E G D編, Churchill Livingstone, 1993,333-348。
【0034】
血友病Aについての背景的な教示は、Victor A. McKusickらによって、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Omimに示されている。以下の血友病に関する情報は、この情報源から選択し、抜粋したものである:
血友病Aは、X連鎖で劣性遺伝の、第VIII凝固因子の活性の欠乏により引き起こされる出血性疾患である。罹患した個体は、関節および筋肉中への出血、あざができやすい、ならびに創傷からの長引く出血といった多様な表現型を示す。該疾患は、Xq28にマッピングされる第VIII因子遺伝子中の多様な突然変異により引き起こされる。第VIII因子突然変異の多様性にもかかわらず、保因者の検出および出生前診断は所定の突然変異(特に染色体逆位)の直接検出により行うことが可能であり、また連鎖解析により間接的に行うこともできる。第VIII因子の補充は、ヒト血漿または組換え技術に由来する種々の製剤を用いて行われる。補充療法はほとんどの場合有効であるが、10〜15%の被治療個体が中和抗体を生じ、その有効性を減少させる。
【0035】
罹患した個体は、関節および筋肉中への出血、あざができやすい、ならびに創傷からの長引く出血といった多様な表現型を示す。血友病AおよびBは臨床的には類似であり、第VIII因子および第IX因子活性の測定によってのみ、区別することができる。一方、フォン・ウィルブランド病は、皮膚粘膜出血もしくは消化管出血または月経過多をより頻繁に示す。その診断に用いられる試験としては、出血時間、血小板凝集、および第VIII因子およびフォン・ウィルブランド因子アッセイが挙げられる。
【0036】
血友病Aにおける重症度および出血の頻度は、残存する第VIII因子量と逆に相関する(<1%、重症;2〜5%、中程度;5〜30%、軽症)。
【0037】
血友病Aは、抗血友病グロブリン(第VIII因子)の遺伝的欠陥の結果である。第VIII因子は330,000の分子量を有し、フォン・ウィルブランド因子(vWF)(安定化因子およびキャリアタンパク質として働く)と非共有的に結合して100ng/mLの濃度で血漿中を循環している。これは主に肝臓で合成される。vWFは血漿中を5〜10μg/mLの濃度で循環し、単量体で250,000の分子量を有しているが、大きくて2千万の分子量を有する一連の多量体として循環している。第VIII因子はXq28上の第VIII因子遺伝子によりコードされているが、vWF(出血時間および血小板のリストセチン凝集に影響を及ぼす)は12番染色体上の遺伝子によりコードされている。
【0038】
血友病Aに対する日常的な治療の主力は、第VIII因子の注入であり、第VIII因子活性を治療的なレベルにまで回復するのに必要な量を用いて行われる。第VIII因子の半減期は11〜16時間であるため、一部の状況では1日2回の注入が必要とされる場合がある。
【0039】
血友病B
血友病Bについての一般的な教示は、以下の文献中に見出すことができる:Mol Pathol (2002) 55(2), 127-44;Baillieres Clin Haematol. (1996) 9(2):211-28; Adv Hum Genet (1988) 17:27-59;およびHaemophilia (1998) 4(4):350-7。
【0040】
血友病Bは、第IX因子の欠乏により特徴づけられ、けがおよび手術等の後の長引く出血、初めの出血が止まった後の再度の出血、および遅発性の出血をもたらす。重症血友病Bでは、自発的な関節出血が最もよくある症状である。
【0041】
診断の年齢および出血症状の発生頻度は第IX因子の凝固活性に相関する。重症血友病Bの患者は、一般に生後1年の間に診断される。治療を行わなければ、彼らは平均で月に2〜5回の自発的出血を起こす。中程度に重い血友病Bの患者はめったに自発的出血を起こさないが、彼らは比較的小さな外傷の後にも延長性または遅発性の出血を起こし、一般に5〜6歳になる前に診断される。出血症状の発生頻度は月に1度から年に1度まで様々である。軽症血友病Bの患者は自発的出血を起こさないが、治療を行わなければ、手術、抜歯、および大きなけがに伴って異常出血を起こす。出血の頻度は、年に1度から10年に1度まで変わりうる。軽症血友病Bの患者は、多くの場合高齢になるまで診断されない。どの患者においても、出血症状は成人期よりも幼年期および思春期の方が頻繁に起こる場合がある。
【0042】
血友病Bの診断は、低い第IX因子凝固活性を有している個体についてなされる。第IX因子遺伝子(染色体遺伝子座Xq27.1−q27.2)の分子遺伝学的試験では、99%より多くの血友病Bの患者で病原性の突然変異が確認される。
【0043】
第IXa因子
本明細書中で用いる「第IXa因子」の語は、任意の機能的第IXa因子タンパク質またはその断片に関し、第IXa因子のいずれの組換え、ハイブリッドまたは修飾型をも含む。
【0044】
第IXa因子のハイブリッドまたは修飾型には、第IXa因子のアミノ酸配列(例えば哺乳類(例えばヒトおよび動物)由来の第IXa因子アミノ酸配列)を含むいずれの機能的第IXa因子タンパク質またはその断片も含まれる。
【0045】
第IXa因子(FIXa)はその不活性な前駆体である第IX因子から、第XIa因子または組織因子/第VIIa因子/リン脂質複合体によるタンパク質分解的切断を介して生成される。この活性化は、第IX因子分子中の2箇所のペプチド結合の切断により起こり、それにより見かけの分子量10,000の活性化糖ペプチドが放出される。第IXa因子の重鎖(Mr=28,000)はセリンプロテアーゼ触媒ドメインを含有し、軽鎖(Mr=17,000)は膜結合ドメインを含有している。
【0046】
第IXa因子による第IX因子の活性化は、Trends Cardiovasc Med (2000) 10(5), 198-204に概説されている。
【0047】
第IXa因子は酵素原(チモーゲン)である第X因子の活性化(これにより酵素である第Xa因子が形成される)に関与するセリンプロテアーゼとして機能する。
【0048】
本発明の第IXa因子はまた、天然に存在する第IXa因子の修飾型(例えば化学的修飾型)であってもよい。第IXa因子は、第IXa因子のいかなる組換え型(例えば第IXa因子の突然変異型)であってもよい。第IXa因子の修飾型を用いるならば、一般に該修飾型は天然に存在する型と比較して、有利な性質を有しているであろう。そのような性質としては、例えば、増強された安定性、増強された活性、調製の容易さまたは削減された調製コストが挙げられる。
【0049】
第IXa因子は当該技術分野において公知の種々の方法を用いて調製されうる。一例としては、第IXa因子は、高度に精製された第IX因子から第XIa因子を用いた活性化により調製してもよい。第IXa因子はゲル濾過とその後に続くイムノアフィニティー精製によってさらに精製してもよい。純度は、SDS−PAGE解析により評価することができる。活性は、Over (1984)(Scandinavian Journal of Haematology Supplementum No. 41, 33 13-24)により記載されているように、一段階凝固アッセイで測定することができる。
【0050】
有利には、用いられる第IXa因子は、組換えDNA技術を用いて調製する。
【0051】
組換えFIXa(97/562)は、NIBSC(Potters Bar, UK)から入手することができる。
【0052】
好ましくは、組換えFIXaは、実質的に精製されている(例えば99%まで精製されている)。
【0053】
FIXa試薬は、第Xa因子産生システム中でFVIIIおよび組織因子の不在についてチェックするとよい(Barrowcliffeら(2002) Thromb. Haemost 87, 442-9)。
【0054】
第IXa因子のヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、データベース中で利用可能である。
【0055】
第VIII因子
本明細書中で用いる「第VIII因子」の語は、任意の機能的な第VIII因子タンパク質分子に関し、いずれのハイブリッド第VIII因子または修飾第VIII因子をも含む。
【0056】
ハイブリッドまたは修飾第VIII因子には、哺乳類(例えばヒトおよび動物)由来の第VIII因子のアミノ酸配列を含むいずれの機能的第VIII因子タンパク質分子またはその断片も含まれる。
【0057】
ヒト第VIII因子は、補因子として第X因子および第IXa因子の活性化に関与する微量の血漿糖タンパク質である。第VIII因子の遺伝的欠陥は、精製第VIII因子を用いて成功裏に治療されうる、X連鎖の出血性疾患である血友病Aをもたらす。血友病Aの補充療法は、血漿由来第VIII因子の使用から、組換え第VIII因子(クローン化および哺乳類細胞での第VIII因子cDNAの発現により得られる)へと進化してきた(Woodら, 1984, Nature 312: 330)。
【0058】
第VIII因子はA1−A2−B−A3−C1−C2というドメイン構成を有し、2351アミノ酸の一本鎖ポリペプチドとして合成され、このうち19アミノ酸のシグナルペプチドが、小胞体の内腔への移行に際して切断される。
【0059】
第VIII因子は、他のタンパク質成分(例えばフィブリノーゲンおよびフィブロネクチン)をも含有する血漿画分の形態であってもよい。そのような第VIII因子製剤は、当該技術分野で公知の単離技術のいずれを用いても容易に調製することが可能である(例えば、“Human Blood Coagulation, Haemostasis and Thrombosis”, R. Biggs編, 第2版(1976), Blackwell Scientific Publications, 11章を参照)。
【0060】
第VIII因子の凍結乾燥中間純度製剤を、Newmanら(1971)(British Journal of Haematology 21, 1)により記載のように用いてもよい。
【0061】
第VIII因子は、ウイルスを不活性化するために、加熱、溶媒、界面活性剤または他の方法による処理に供されてもよい。
【0062】
近年、血液製剤に関する潜在的な汚染を回避するために、組換え供給源からの第VIII因子の製造が試みられてきた。さらに、第VIII因子に対する組換え供給源は、凝固因子を事実上無制限に供給し、従って献血血漿を供給材料として用いることに付随する供給限界を回避する。
【0063】
有利には、用いられる第VIII因子は組換えDNA技術によって調製する。
【0064】
ヒト第VIII因子cDNAは、適当なゲノム供給源(すなわち、このタンパク質の生来の産生器官であるヒト肝臓)から、種々の方法を用いてそれを単離することにより得られてもよく、該方法としては、US4,757,006に記載されているような、単離mRNA鋳型からのcDNAの調製、直接合成、またはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0065】
第VIII因子の発現のための宿主−ベクターシステムは原核生物であってもよいが、第VIII因子の複雑性より、(少なくとも凝固活性を有する生物学的に活性な第VIII因子を得るためには)好ましい発現系は哺乳類のものである。これは、好適な第VIII因子ベクターを用いた真核生物(一般的には哺乳類細胞または脊椎動物細胞)の形質転換により実現できる。
【0066】
第VIII因子のための発現系は、US6,358,703に記載されている。組換えおよびトランスジェニック系での第VIII因子の発現は、Blood Cells Mol Dis (2002) 28(2), 234-48に概説されている。
【0067】
第VIII因子をコードするcDNAまたはその個々の断片もしくは修飾タンパク質は、正しいリーディングフレームで適当な調節シグナルと融合させて遺伝学的構築物を生成し、その後増幅してもよく、そのような構築物は、例えば、慣習的な方法(例えばSambrookら, Molecular Cloning: A Laboratory Manual (Cold Spring Harbor Press 1989)に記載のもの)に従って、細菌(例えば大腸菌)プラスミドベクター中への調製によって生成される。増幅された構築物を、その後ベクターから切り出し、使用のために精製する。精製は当該技術分野で公知の種々の方法によって(例えば1以上のサイクルのHPLCによって)実現することができる。
【0068】
用いられる第VIII因子はまた、表1に挙げたNIBSCの標準品から選択してもよい。rFVIII BDD(99/694)はBドメインを欠く組換えFVIIIである(Bドメインは止血に対していかなる作用も有しないと考えられている)。全長組換え体はそれぞれ若干異なる方法により製造される(rFVIII FL1&2、96/598、96/590)。FL1は、チャイニーズハムスター卵巣細胞株へのFVIIIおよびvWFに対するcDNAの挿入により製造される(Lee (1999) Thromb Haemost 82: 516-524)。FL2は、仔ハムスター腎細胞株へのFVIII cDNAの挿入により製造され、どちらも同様の精製ステップを行い、安定化のためにアルブミンを必要とする。モノクローナル抗体精製高純度品(HP(Mo−Ab)1&2、96/574、95/640)は、FVIII抗体(カラム中のセファロースビーズに共有的に結合する)を用い、寒冷沈降物としてFVIIIを吸着した抗体をカラムに通し、溶出バッファーを用いてカラムからFVIIIをはずし、その後、成分をさらに精製する(Lee CA. Coagulation factor replacement therapy. In: Recent Advances in Haematology (Hoffbrand AVおよびBrenner MK, 編), No 6. Edinburgh: Churchill Livingstone. p73-88)。イオン交換精製高純度品(HP(Ion−ex)、96/600)はまず、寒冷沈降物をクロマトグラフィーで精製し、その後イオン交換樹脂を用いて吸着によりFVIIIをさらに精製することによって製造する。中間純度品(IP、96/574)はヘパリンおよびグリシン沈降により精製した(Kasper Cota e Silva (2000) In: Facts and Figures, No 6. Montreal: World Federation of Hemophilia. 2000; 5-6)。効力は、WHO濃度標準に対する発色法により測定した。
【0069】
第VIII因子のヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、データベース中で利用可能である。
【0070】
リン脂質
一般に、リン脂質の最良の供給源は、重症血友病患者から採取した富血小板血漿の形態中の血小板そのものである(Nilssonら(1957) Acta. Med. Scand. 159, 35-57)。しかしながら、大部分の研究室でこれは実際的な方法ではなく、他のリン脂質供給源を用いなければならない。
【0071】
負に荷電したリン脂質(例えばホスファチジルセリン)と荷電していないリン脂質(例えばホスファチジルコリン)の混合物は好適な試薬でありうる(ZwaalおよびHemker (1982) Haemostasis 11, 12-39)。
【0072】
いろいろな供給源のリン脂質抽出物を用いてもよく、供給源とは例えば、以下の文献中に記載のように、ウシ、ウサギまたはヒト脳である:BellおよびAlton (1954) Nature 174, 880-881;Hjortら(1955) J. Lab. Clin. Med. 46, 89-97;およびBarrowcliffeら(1982) Haemostasis 11, 96-101。
【0073】
リン脂質は実質的に精製されているか、合成リン脂質であってもよい。
【0074】
リン脂質は、単独か、他の物質(例えばホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトールおよびスフィンゴミエリン)と混合して、精製または合成リン脂質からなっていてもよい。
【0075】
リン脂質は、非極性溶媒を用いて、リン脂質に富むヒト、動物または植物組織から抽出することができる。好適な組織供給源としては、ウシ、ヒト、ブタもしくはウサギの脳、胎盤、脊髄、または血小板が挙げられ、ウシまたはヒトの脳が、リン脂質に富む特に良好な供給源である。
【0076】
組織の抽出において、必要とされるレベルでリン脂質をもたらすいかなる非極性溶媒も、この工程に用いることができる。好適な溶媒としては、限定するものではないが、塩素化アルカン(例えばクロロホルムおよびジクロロメタン)および石油エーテルが挙げられる。
【0077】
どの抽出溶媒および抽出法を選択しても、得られるリン脂質が安定な生成物であり、酸化物を最小限しか含まないのなら、好ましい。これは、好適な抗酸化剤(特にブチル化ヒドロキシアニソール)を、用いる溶媒中に組み込むことにより、最もよく達成できる。
【0078】
例えば、精製もしくは合成リン脂質を混合することまたは天然供給源からそれらの物質を抽出することによりリン脂質が得られれば、当該技術分野で公知の乳化法のいずれかを用いて、水性溶液中にリン脂質を分散してもよい。一例としては、リン脂質をメタノールまたはエタノールに溶解し、そして溶媒の大部分または全部を蒸発させ、その後に得られた固体を水または生理的食塩液に添加し十分混合することで、リン脂質乳濁液が得られる。
【0079】
好ましい実施形態では、リン脂質(91/542)をNIBSC(Potters Bar, UK)から入手する。
【0080】
治療
治療に対する本明細書中の全ての言及は、1以上の治癒的、一時的および予防的治療を包含することが理解されるべきである。好ましくは、治療の語は、少なくとも治癒的治療および/または一時的治療を包含する。
【0081】
治療は、血友病に対する他の治療と組み合わせてもよい。
【0082】
治療法
本発明の組成物は、治療薬として、すなわち治療上の適用に用いることができる。
【0083】
「治療」の語の場合と同様に、「治療法」の語は治癒的作用、緩和的作用、および予防的作用を含む。
【0084】
治療法はヒトまたは動物に対するものであってよい。
【0085】
治療法は、血友病に対する他の治療的処置と組み合わせてもよい。
【0086】
対象
本発明においては、「対象」は血友病を発症しているか有しているかもしれない、いかなる対象(例えばヒトおよび動物のような哺乳類)をも指す。
【0087】
好ましくは、本発明の対象はヒトである。
【0088】
対象は抗FVIII抗体を生じていても、生じていなくてもよい。
【0089】
抗FVIII抗体の存在は、当該技術分野で公知の種々の方法を用いて決定することができ、例えばBarrowcliffeら(1983)(J. Lab. Clin. Med. 34-43)により記載された方法によって決定される。
【0090】
一般に、10ベセスダ単位(Bethesda Unit)/ml未満の抗FVIII抗体レベルを示す対象は、高用量の第VIII因子により治療されうる。しかしながら、これが常に有効ではないことのみならず、費用がかかるものでもあることから、この治療には多くの問題が伴う。10ベセスダ単位/mlより高い抗FVIII抗体レベルを有する対象は、高用量の第VIII因子を用いた治療が有効でないため、典型的には、別の治療を要する。
【0091】
従って、本発明の組成物は、10ベセスダ単位/ml未満およびそれより高い抗FVIII抗体レベルを有する対象に対して投与することができる。
【0092】
好ましい実施形態では、本発明の組成物は、10ベセスダ単位/mlより高い抗FVIII抗体レベルを有する対象に対して投与する。
【0093】
組成物
本発明に従えば、FVIIIおよびFIXaは別々の医薬組成物として投与するか、または単一の医薬組成物として一緒に投与してもよい。
【0094】
FVIIIおよびFIXaはまた、同時に、別々に同時に、または順次的に投与してもよい。
【0095】
組成物はさらにリン脂質を含んでもよい。
【0096】
好ましくは、FIXaを含む組成物は、さらにリン脂質を含む。
【0097】
典型的には、リン脂質は水性溶液(例えば水または生理食塩液)に分散されて分散液を形成し、その後第IXa因子と混合される。
【0098】
従って、本発明の組成物は、FVIII医薬組成物およびFIXaとリン脂質の医薬組成物を含んでいてもよい。本発明の組成物はさらに、FVIII、FIXaおよびリン脂質を含む医薬組成物を含んでいてもよい。
【0099】
本発明の組成物は本質的に、FVIII医薬組成物およびFIXaとリン脂質の医薬組成物からなっていてもよい。本発明の組成物はさらに、本質的にFVIII、FIXaおよびリン脂質を含む医薬組成物からなっていてもよい。
【0100】
本発明の組成物はまた、さらなる無毒の物質(例えば天然に存在する物質)を含有してもよい。これらのさらなる物質は、一般的には血漿またはリン脂質に富む組織供給源に由来する。これらの物質の典型例は、フィブリノーゲンおよびアルブミンである。
【0101】
本発明の組成物を調製するために、1以上の成分が凍結乾燥されていてもよい。
【0102】
医薬組成物がリン脂質を含む場合、第IXa因子とリン脂質の混合物は(他の付随する物質と共に)、凍結乾燥により調製されてもよい。この場合、組成物は凍結乾燥混合物を水性溶液に添加することにより調製することができる。
【0103】
本明細書中に記載した組成物は、ヒト用および獣医用医薬品におけるヒトまたは動物への使用のためのものであってもよく、典型的には1以上の製薬上許容される希釈剤、担体、または賦形剤を含む。治療的使用のための許容される担体または希釈剤は、製薬分野で周知であり、例えばRemington's Pharmaceutical Sciences(Mack Publishing Co. (A. R. Gennaro 編 1985))に記載されている。製薬用担体、賦形剤または希釈剤の選択は、意図される投与経路および標準的な製薬上の実務に鑑みて行われうる。医薬組成物は、担体、賦形剤または希釈剤として(またはそれらに加えて)いかなる好適な結合剤、滑沢剤、懸濁化剤、コーティング剤または可溶化剤を含んでもよい。
【0104】
従って、本発明の組成物の成分はまた、意図される投与経路および標準的な製薬上の実務に鑑みて選択された1以上の好適な製薬用賦形剤、希釈剤または担体と混合されていてもよい。
【0105】
異なる送達系に応じて、異なる組成物/製剤の要件がある。例えば、本発明で有用な医薬組成物は、非経口的に投与するために製剤化されてもよく、この場合、組成物は、例えば静脈内、筋肉内または皮下経路による送達のために、注入可能な形態で製剤化される。あるいはまた、製剤はいくつかの経路によって投与されるべく設計されてもよい。
【0106】
防腐剤、安定化剤、色素およびさらに香料でさえも、医薬組成物中に提供されうる。防腐剤の例としては、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸およびp−ヒドロキシ安息香酸のエステルが挙げられる。抗酸化剤および懸濁化剤を用いることもできる。
【0107】
好ましくは、製薬上許容される希釈剤または担体は水である。しかしながら、これは他の好適な希釈剤または担体(例えば生理的塩溶液)に置き換えられてもよい。
【0108】
本発明の組成物は、錠剤、カプセル、卵形剤、エリキシル剤、溶液または懸濁液の形態で投与されてもよく、それらは香料または着色料を含んでもよく、即時放出的、遅延放出的、調節放出的、持続放出的、パルス放出的または制御放出的適用のためのものであってもよい。
【0109】
製薬が錠剤の場合、錠剤は賦形剤(例えば微晶性セルロース、ラクトース、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、第二リン酸カルシウムおよびグリシン)、崩壊剤(例えばデンプン(好ましくはトウモロコシ、ジャガイモまたはタピオカデンプン)、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスカルメロース(croscarmellose)ナトリウムおよびある種の複合ケイ酸塩)および造粒用結合剤(例えばポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、スクロース、ゼラチンおよびアラビアゴム)を含有してもよい。さらに、滑沢剤(例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、ベヘン酸グリセリルおよびタルク)を含有してもよい。
【0110】
同様のタイプの固体組成物を、ゼラチンカプセル中に充填剤として用いてもよい。この場合の好ましい賦形剤としては、ラクトース、デンプン、セルロース、乳糖または高分子ポリエチレングリコールが挙げられる。水性懸濁液および/またはエリキシル剤には、薬剤は種々の甘味料もしくは香料、着色料もしくは色素と、乳化剤および/または懸濁化剤、および希釈剤(例えば水、エタノール、プロピレングリコールおよびグリセリン)、ならびにそれらの組み合わせと混合してもよい。
【0111】
投与(送達)の経路としては、限定するものではないが、経口経路(例えば錠剤、カプセルとしてまたは内服用溶液として)、非経口経路(例えば注入可能な形態により)、筋肉内、静脈内、脳室内、皮内または皮下経路のうちの1以上を挙げることができる。
【0112】
医薬組成物は、ヒト用および獣医用医薬品におけるヒトまたは動物への使用のためのものであってもよく、典型的には1以上の製薬上許容される希釈剤、担体、または賦形剤を含む。治療的使用のための許容される担体または希釈剤は、製薬分野で周知であり、例えばRemington's Pharmaceutical Sciences(Mack Publishing Co. (A. R. Gennaro 編 1985))に記載されている。製薬用担体、賦形剤または希釈剤の選択は、意図される投与経路および標準的な製薬上の実務に鑑みて行われうる。医薬組成物は、担体、賦形剤または希釈剤として(またはそれらに加えて)いかなる好適な結合剤、滑沢剤、懸濁化剤、コーティング剤または可溶化剤を含んでもよい。
【0113】
防腐剤、安定化剤、色素およびさらに香料でさえも、医薬組成物中に提供されうる。防腐剤の例としては、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸およびp−ヒドロキシ安息香酸のエステルが挙げられる。抗酸化剤および懸濁化剤を用いてもよい。
【0114】
異なる送達系に応じて、異なる組成物/製剤が必要である。あるいはまた、製剤は多くの経路によって投与されるべく設計されてもよい。
【0115】
医薬組成物は、非経口的に、例えば静脈内、筋肉内、または皮下に注射されてもよい。非経口投与のためには、組成物は、溶液を血液と等張にするための他の物質(例えば十分な塩または単糖)を含有する滅菌水溶液の形態で用いられるのが最良であろう。
【0116】
投与量
本発明の組成物の成分の可能な投与量は、当業者により決定されうる。例えば、用いるべき成分の量は、動物研究により最適化することができる。
【0117】
第VIII因子の投与量は、当該技術分野では国際単位(IU)で表される。1IUは、正常血漿1ml中の第VIII因子の量であり、約100ngである。
【0118】
対象に投与される第VIII因子の実際の用量は、当業者には理解されるであろうが、対象の臨床状態に依存する。
【0119】
典型的には、先行技術に従って単独で投与する場合の第VIII因子の投与量は、20〜50IU/kgの範囲である。
【0120】
有利なことに、本発明の組成物に従ってFIXaおよび場合によってはリン脂質と組み合わされて投与される第VIII因子の量は、in vitroで2、4、6、8または10倍かそれ以上減少しうる。
【0121】
従って、有利なことに、本発明の組成物は20IU/kg未満、好ましくは2〜10IU/kg、有利には2〜5IU/kgでの投与量をもたらす。
【0122】
本発明に従えば、FIXaはモル濃度でFVIIIよりも高い濃度であるべきである。
【0123】
好ましくは、FIXaは、モル濃度でFVIIIの濃度の少なくとも10〜100倍であるべきである。さらに好ましくは、FIXaは、モル濃度でFVIIIの濃度の少なくとも20〜90倍であるべきである。さらに好ましくは、FIXaは、モル濃度でFVIIIの濃度の少なくとも30〜70倍であるべきである。さらに好ましくは、FIXaは、モル濃度でFVIIIの濃度の少なくとも40〜60倍であるべきである。最も好ましくは、FIXaは、モル濃度でFVIIIの濃度の少なくとも50倍であるべきである。
【0124】
本発明に従えば、リン脂質はモル濃度でFVIIIよりも高い濃度であるべきである。
【0125】
好ましくは、リン脂質は、モル濃度でFVIIIの濃度の少なくとも10〜1500倍であるべきである。さらに好ましくは、リン脂質は、モル濃度でFVIIIの濃度の少なくとも10〜1000倍であるべきである。さらに好ましくは、リン脂質は、モル濃度でFVIIIの濃度の少なくとも10〜900倍であるべきである。さらに好ましくは、リン脂質は、モル濃度でFVIIIの濃度の少なくとも10〜800倍であるべきである。さらに好ましくは、リン脂質は、モル濃度でFVIIIの濃度の少なくとも10〜700倍であるべきである。さらに好ましくは、リン脂質は、モル濃度でFVIIIの濃度の少なくとも10〜600倍であるべきである。さらに好ましくは、リン脂質は、モル濃度でFVIIIの濃度の少なくとも10〜500倍であるべきである。さらに好ましくは、リン脂質は、モル濃度でFVIIIの濃度の少なくとも10〜400倍であるべきである。さらに好ましくは、リン脂質は、モル濃度でFVIIIの濃度の少なくとも100〜400倍であるべきである。さらに好ましくは、リン脂質は、モル濃度でFVIIIの濃度の少なくとも200〜400倍であるべきである。最も好ましくは、リン脂質は、モル濃度でFVIIIの濃度の少なくとも300倍であるべきである。
【0126】
いかなる特定の患者に対しても、具体的な用量レベルおよび投与の頻度は異なりうるものであり、用いられる具体的な化合物の活性、その化合物の代謝上の安定性および作用の長さ、年齢、体重、一般健康状態、性別、食事、投与の様式および時期、排泄率、薬剤の組み合わせ、特定の病状の重症度、ならびに個々の実施中の治療などの様々な要因に依存する。
【0127】
製剤化
本発明の成分は、当該技術分野で公知の手法を用いて、例えば1以上の好適な担体、希釈剤または賦形剤と混合することにより、医薬組成物中に製剤化することができる。
【0128】
ヌクレオチド配列
本明細書中で用いる「ヌクレオチド配列」の語句は、「ポリヌクレオチド」と同義である。
【0129】
本発明の態様は、データベース中で利用可能なヌクレオチド配列の使用を含む。これらのヌクレオチド配列は、本発明の組成物の成分として用いられうるアミノ酸配列を発現するために用いることができる。
【0130】
ヌクレオチド配列は、ゲノムまたは合成もしくは組換え体起源のDNAまたはRNAでありうる。ヌクレオチド配列はセンス鎖またはアンチセンス鎖を表す二本鎖もしくは一本鎖またはそれらの組み合わせであってもよい。
【0131】
ヌクレオチド配列は、組換えDNA技術を用いることにより調製されてもよい(例えば組換えDNA)。
【0132】
ヌクレオチド配列は、天然に存在する形と同じであってもよく、またはそれらから誘導されてもよい。
【0133】
アミノ酸配列
本明細書中で用いられる「アミノ酸配列」の語句は、「ポリペプチド」の語および/または「タンパク質」の語と同義である。場合によっては、「アミノ酸配列」の語句は「ペプチド」の語と同義である。場合によっては、「アミノ酸配列」の語句は「タンパク質」の語と同義である。
【0134】
本発明の態様は、データベース中で利用可能なアミノ酸配列の使用に関わる。これらのアミノ酸配列は、本発明の組成物中で用いられうる。
【0135】
アミノ酸配列は、好適な供給源から単離されてもよく、または合成されてもよく、また組換えDNA技術を用いて調製されてもよい。
【0136】
動物試験モデル
in vivoモデルを用いて、対象における血友病Aまたは血友病Bの治療のための治療法を最適化または設計することができる。
【0137】
動物試験モデルは哺乳類であってもよく、例えばラット、ハムスター、ウサギ、モルモットまたはマウスのような非ヒト哺乳類であってもよい。
【0138】
一般的な組換えDNA技術
本発明は、別途記載がない限り、化学、生物学、分子生物学、微生物学および組換えDNA技術の慣用技術を利用し、これらは当業者の能力の範囲内である。
【0139】
このような技術は文献中で説明されている。例えば以下の刊行物を参照されたい:J. Sambrook, E. F. FritschおよびT. Maniatis, 1989, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版, 1〜3巻, Cold Spring Harbor Laboratory Press;Ausubel, F. M.ら(1995 and periodic supplements;Current Protocols in Molecular Biology,第9、13および16章, John Wiley & Sons, New York, N.Y.);B. Roe, J. CrabtreeおよびA. Kahn, 1996, DNA Isolation and Sequencing: Essential Techniques, John Wiley & Sons;M. J. Gait (編), 1984, Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, Irl Press;およびD. M. J. LilleyおよびJ. E. Dahlberg, 1992, Methods of Enzymology: DNA Structure Part A: Synthesis and Physical Analysis of DNA Methods in Enzymology, Academic Press。これらの一般書のそれぞれが、参照により本明細書中に組み込まれる。
【実施例】
【0140】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、これらは当業者が本発明を実施するのを補助するためのものであり、いかなる意味でも本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0141】
実施例1
材料および方法
試薬
TBSバッファー:50mM Tris、150mM NaCl、0.02%NaN、pH7.4、1%ヒト血清アルブミン(Zenalb, BPL, Elstree, UK)。ウシフィブリノーゲン(Diagnostic Reagents Ltd. Thame, Oxon UK)。NIBSC(Potters Bar, Herts, UK)から入手した凍結乾燥試薬:リン脂質(91/542)、組換えFIXa(97/562)、アンクロド(Ancrod)(74/581)、α−トロンビン(89/588)。FIXa試薬は、純度99%であり、第Xa因子産生システム中でFVIIIおよび組織因子の不在についてチェックした(Barrowcliffe TW, Fabregas P, Jardi M, Cancelas J, Rabaneda M,およびFeize J. Procoagulant activity of T lymphoblastoid cell due to exposure of negatively charged phospholipid. Thromb Haemost 2002; 87: 442-449)。
【0142】
FVIII濃縮物
様々な純度および製造工程の濃縮物を調べた。用いたFVIII濃縮物(表1)は、標準品である凍結乾燥物であり、これもNIBSCから入手した。rFVIII BDD(99/694)はBドメインを欠く組換えFVIIIである(Bドメインは止血に対していかなる作用も有しないと考えられている(Lee C. Recombinant clotting factors in the treatment of hemophilia. Thromb Haemost 1999; 82: 516-524))。全長組換え体はそれぞれ若干異なる方法により製造される(rFVIII FL1&2、96/598、96/590)。FL1は、チャイニーズハムスター卵巣細胞株へのFVIIIおよびvWFに対するcDNAの挿入により製造される(Lee C. Recombinant clotting factors in the treatment of hemophilia. Thromb Haemost 1999; 82: 516-524)。FL2は、仔ハムスター腎細胞株へのFVIII cDNAの挿入により製造され、どちらも同様の精製ステップを行い、安定化のためにアルブミンを必要とする。モノクローナル抗体精製高純度品(HP(Mo−Ab)1&2、96/574、95/640)は、FVIII抗体(カラム中のセファロースビーズに共有的に結合する)を用い、寒冷沈降物としてFVIIIを吸着した抗体をカラムに通し、溶出バッファーを用いてカラムからFVIIIをはずし、その後、成分をさらに精製する(Lee CA. Coagulation factor replacement therapy. In: Recent Advances in Haematology (Hoffbrand AVおよびBrenner MK, 編), No 6. Edinburgh: Churchill Livingstone. p73-88)。イオン交換精製高純度品(HP(Ion−ex)、96/600)はまず、寒冷沈降物をクロマトグラフィーで精製し、その後イオン交換樹脂を用いて吸着によりFVIIIをさらに精製することによって製造する(Lee CA. Coagulation factor replacement therapy. In: Recent Advances in Haematology (Hoffbrand AVおよびBrenner MK, 編), No 6. Edinburgh: Churchill Livingstone. 1992; 73-88)。中間純度品(IP、96/574)はヘパリンおよびグリシン沈降により精製した(Kasper CKおよびCota e Silva M. Registry of clotting factor concentrates 第2版 In: Facts and Figures, No 6. Montreal: World Federation of Hemophilia. 2000; 5-6)。効力は、WHO濃縮物標準に対する発色法により測定した。
【0143】
血漿
人工FVIII欠損血漿(Organon Teknika Corporation, Durham, USA)。この血漿は、化学的に枯渇させたものであり、正常vWFレベルを有する。正常無血小板血漿はNational Blood Service(Colindale, UK)から入手した。5回分の献血血漿を、凍結前に一緒にプールした。得られたプールは、発色アッセイで測定したところ、0.86IU/mlのFVIIIを含有していた。血友病血漿は2人の患者から得られ、一段階APTTアッセイにより測定したところ、0.01IU/ml未満のレベルであった。血漿を、血小板を除去するために2000g、4℃にて15分間遠心分離した。
【0144】
ウサギポリクローナルFVIII抗体は、Dr Ingerslevからの贈与品である。対照抗体は、Gammabulin(Baxter Hyland Immuno, Immuno Ltd, Thetford, Norfolk, UK)である。
【0145】
トロンビン産生試験は、Deca機器(Grifols, Barcelona, Spain)により行い、これは力学的終点により凝固を検出する。
【0146】
トロンビン産生試験(TGT)
血漿は、以前に記載されたのと同様に、アンクロドを用いて線維素を除いた(Houbouyan L, Padilla A, Gray E, Longstaff C,およびBarrowcliffe TW. Inhibition of thrombin generation by heparin and LMW heparins: a comparison of chromogenic and clotting methods. Blood Coagul Fibrinolysis 1996; 7: 24-30):血漿1mlあたり終濃度0.5IU、37℃にて30分間、その後、凝固物を木製の棒に絡めて取り出した。FVIII濃縮物をFVIII欠損血漿に添加し、濃度0.005〜1IU/mlとした。400μlの正常血漿または欠損血漿およびFVIII濃縮物ならびに80μlのFIXa(血漿中濃度14nM)を一緒に37℃にて1.5分間インキュベートし、リン脂質400μl(終濃度3.1μg/ml)およびCaCl400μl(終濃度7.8mM)を添加し、反応を開始させた。50μlのサンプルの一部を経時的に取り出して、2台のDeca機器上のカップ中のフィブリノーゲン200μlに加え、凝固時間を記録した。その後、α−トロンビン標準曲線を用いて、凝固時間をトロンビン単位に変換した。トロンビン産生曲線は、曲線下面積(AUC)、トロンビンピーク値、および最大半値に到達するのに要した時間(T1/2max)として定量した。個々の実験は、二重に、逆均等順(reverse balanced order)に行い、別個の実験として3回以上繰り返した。
【0147】
TGTの再現性
3ヶ月間にわたって、正常血漿を、9回の別個の実験においてそれぞれ二重にアッセイし、曲線の3つのパラメータはCVが8.9〜14.6%の範囲となった。さらに、1セット5回の繰り返し実験を、1週間にわたって3種類の異なるFVIII濃縮物について行った。CVは、0.02IU/mlにおいて5〜5.6%、0.005IU/mlにおいて9.2〜11.7%、および正常血漿(0.86IU/ml)について6.8〜12.3%の範囲となった。
【0148】
FVIII抗体実験
抗体は、FVIII抗体については1/1000の希釈で、対照抗体については10μg/mlで正常血漿および血友病血漿に添加した。血漿および抗体を37℃にて一晩インキュベートし、その後、トロンビン産生試験を前記のように行った。
【0149】
データ解析
統計学的解析は、対になっていない(unpaired)スチューデントのt−検定を用いて検討した。
【0150】
実施例2
FVIIIに対するTGTの用量−反応
HP(Mo−Ab)2濃縮物を、0.005〜1IU/mlの広範囲のFVIII濃度にわたって、化学的に枯渇させた人工FVIII欠損血漿に加え、トロンビン産生を測定した(図1A)。FVIIIの濃度が1IU/mlから0.005IU/mlに減少するにつれ、T1/2maxで表される曲線の遅滞時間は64秒から165秒に延長することが見出された。しかしながら、非常に低いFVIIIレベルにもかかわらず、トロンビンピーク値は影響されず、AUCにおける若干の減少のみが観察された。FVIII濃度0.005IU/mlにおいてさえも、AUCは正常血漿のそれよりもわずかに低いだけであり、それぞれ6287および6540iu.秒であった。濃度1IU/ml(T1/2max64秒)および0.125IU/ml(T1/2max87秒)ではトロンビンは正常血漿(T1/2max118秒)よりもより速く産生され、また濃度0.03IU/ml(T1/2max119秒)では正常血漿の場合と同様のトロンビン産生プロファイルであった。
【0151】
実施例3
FVIII濃縮物の比較
種々の異なるFVIII濃縮物を、同じFVIII:C濃度でFVIII欠損血漿に添加した場合、トロンビン産生曲線はHP(Mo−Ab)2濃縮物と同様のものが得られた(図1B、表2)。すべての濃縮物は、1IU/mlでは正常血漿よりも速く、そしてより多量にトロンビンを産生した。rFVIII BDDのT1/2max(48秒)は、他の濃縮物のそれ(54〜64秒の範囲)よりも短く、この差異は統計学的に有意であった(p<0.05)。
【0152】
実施例4
重症血友病血漿
重症血友病Aを有する2人の患者に由来する血漿は予期せぬ量のトロンビンを産生し(図2、表3)、0.01IU/ml未満のレベルにもかかわらず、AUCは正常血漿の65%および69%であった。しかしながら、トロンビン産生の開始は両方の患者で顕著に遅延した(T1/2max426秒および318秒)。FVIII抗体との一晩のインキュベーションはトロンビン産生の完全な除去をもたらし、トロンビンピーク値は22IU/mlから0.2IU/mlとなり(表3)、このことはこれらの血友病血漿により産生されたトロンビンが低レベルのFVIIIに起因するものでありうることを示している。別の血漿のサンプルを、患者HP1から注射61時間後(元のサンプルは注射37時間後)に採取し、このサンプルは最小量のトロンビン産生を示した(AUCは正常血漿の5%)。このことは、これらの条件でのトロンビン産生試験が一段階アッセイでの検出限界(すなわち<0.01IU/ml)未満のレベルを感知しうることを示唆している。
【0153】
実施例5
FIXa濃度
非常に低いFVIII濃度でのトロンビン産生に対するFIXaの影響を調べるために、FIXaの濃度を漸減させた(図3A)。14nMから減少するFIXa濃度では正常血漿の遅滞時間は次第に延長したが(T1/2max:14nMで114秒〜0.2nMで226秒)、ピーク高、またはAUCには変化がなかった(0.2nMにおいてAUCは14nMの98%)。14nMでの結果とは対照的に、0.2nMのFIXa濃度では血友病血漿中でほとんどトロンビンが産生されなかった。従って、トロンビン産生試験は少量のFVIIIに対して敏感であるが、FIXaの濃度にも依存する。実験(データは示していない)により、正常および血友病血漿は、ガラス接触活性化により高濃度FIXaと同様の量のトロンビンを産生することが示されている。
【0154】
実施例6
低濃度FIXaでのFVIIIの用量−反応
低レベルFIXaでの用量−反応を評価するために、同じHP(Mo−Ab)2濃縮物を再び用いた。濃縮物を血友病血漿で希釈し、低濃度FIXa(0.2nM)を、血漿を活性化するために用いた(図3B)。FVIII濃度が減少するにつれAUCおよびピーク高も減少し、そして遅滞時間は増加した(上記で観察されたのと同様)。高濃度FIXaとは対照的に、ピーク高およびAUCは異常なままであり、ずっと高濃度のFVIIIによってのみ正常化した。増大するFVIIIでのトロンビン産生への影響は、低いFIXa濃度においてより顕著であった。
【0155】
考察
化学的に枯渇させた血漿を用いて観察されたより速いトロンビン産生は、用いた特定の欠損血漿のアーチファクト(所産)であることが示された。同じ現象は免疫学的に枯渇させた血漿または血友病血漿では観察されなかったが、低レベルにおいて産生されたトロンビンの総量は依然多く、用いた高いFIXa濃度によることが明らかになった。
【0156】
高濃度FIXaでは、トロンビン産生試験(TGT)は低レベルのFVIIIに非常に敏感であることが見出された。FVIII欠損血漿にFVIII濃縮物を添加した人工的な状況、および2種類の重症血友病血漿の両者によって、FVIIIレベルが0.01IU/ml未満である場合に多量のトロンビンが産生された。TGTについての初期の研究は、血友病血漿においては非常に少量のトロンビンしか検出することができないが、トロンビン産生を改善するには少量の正常血漿の添加で十分であることを見出した。MacfarlaneおよびBiggs(A thrombin generation test: the application in haemophilia and thrombocytopenia. J Clin Pathol 1953; 6: 3-8)は、彼らの血漿研究において、血友病血液への0.5%の正常血液の添加が検出可能なトロンビン産生を引き起こすが、それはより延長されたものであり、また正常サンプルの平均ピーク高の3分の1にしか達しないことを示した。PitneyおよびDacieは、1%の正常血漿の添加がトロンビン産生を改善するが、トロンビン産生を正常範囲内にするためには20%かそれ以上が必要であることを見出した(Pitney WRおよびDacie JV. A simple method for studying the generation of thrombin in recalcified plasma. J Clin Pathol 1953; 6: 9-14)。血友病サンプル(HP1)でのFVIII抗体の使用により、0.01IU/ml未満で産生されたトロンビンがFVIIIによるものであることが実証された(表3)。この患者からの反復サンプルは、注射後、より長い時間をおいてから採取され、ほとんどトロンビンを産生せず、このことは、元のサンプルから産生されたトロンビンが注射に由来する残存FVIIIによるものであったことを示唆している。別の患者(HP2)由来の血漿は、注射72時間後に採取され、産生されたトロンビンは注射によるものとは考えにくく、おそらく内在性のFVIIIによるものである。最近の研究では、aPTT凝固波形解析は何人かの重症血友病患者において検出可能なFVIIIを示し、測定されたレベルは0.002〜0.01IU/mlであった(Shima M, Matsumoto T, Fukuda K, Kubota Y, Tanaka I, Nishiya K, Giles AR,およびYoshioka A. The utility of activated partial thromboplastin time (aPTT) clot waveform analysis in the investigation of hemophilia A patients with very low levels of factor VIII activity (FVIII:C). Thromb Haemost 2002; 87: 436-441)。この低レベルのFVIIIを測定することが可能であるので、このことは予防の頻度に影響する。出願人らは0.01IU/ml未満における顕著なトロンビン産生を実証し、また0.01IU/ml未満の底値レベル(trough level)でも関節出血がまれであることを示す証拠もある(Petrini P. What factors should influence the dosage and interval of prophylactic treatment in patients with severe haemophilia A and B? Haemophilia 2001; 7: 99-102)。予防ではこれ以上のレベルが維持されるべきであるということが一般に受け入れられているが、これがよりよい臨床結果をもたらすことは証明されていない(van den Berg HM, Fischer K, Mauser-Bunschoten EP, Beek FJ, Roosendaal G, van der Bom JG,およびNieuwenhuis HK. Long-term outcome of individualized prophylactic treatment of children with severe haemophilia. Br J Haematol 2001; 112: 561-565)。
【0157】
低レベルのFVIIIに対するTGTの感度は、凝固を開始するためにこのアッセイで用いるFIXaの量により説明されるかもしれない。FIXa濃度は低濃度のFVIIIがトロンビンを産生する能力にとって重要であるが、この影響はFVIIIのレベルが正常化すれば小さくなることが見出された。高濃度FIXaは初め、内在性のガラス接触活性化と同様のトロンビン産生プロファイルを示すことから選択された。Jossoら(Josso F,およびProu-Wartelle O. Interaction of tissue factor and factor VII at the earliest phase of coagulation. Thromb Diath Haemorrh Suppl 1965; 17: 35-44)は、組織因子(TF)およびFVIIがin vitroで接触活性化に対する必要条件を満たすのに十分であることを実証した。後に、TF、FVIIおよびカルシウムがFIXを活性化することが示された(Osterud B,およびRapaport SI. Activation of factor IX by the reaction product of tissue factor and factor VII. Additional pathway for initiating blood coagulation. Proc Natl Acad Sci USA 1977; 74: 5260-5264)。これは低いTF濃度でも起こることが示されており、このことはトロンビン産生における抗血友病因子の役割を説明する(Bauer KA. Activation of the factor VII-tissue factor pathway. Thromb Haemost 1997; 78: 108-111;Keularts IM, Zivelin A, Seligsohn U, Hemker HC,およびBeguin S. The role of factor XI in thrombin generation induced by low concentrations of tissue factor. Thromb Haemost 2001; 85: 1060-1065)。さらに、低濃度TFでは、総血漿FIXのうち1%未満が活性化され、0.9nMの血漿FIXa濃度をもたらす(Lawson JH, Kalafatis M, Stram S,およびMann KG. A model for the tissue factor pathway to thrombin. J Biol Chem 1994; 269: 23357-23366)。従って、これらの実験で用いられてきた0.2nMの低濃度FIXaはこれよりも低いが、凝固カスケードの開始の間に存在する生理的濃度であると考えられる。けがの後のFIXaの局所濃度は0.9nMより高くなりうるが、トロンビン産生を引き起こすために用いられた14nMというより高濃度のFIXaは、接触活性化と似てはいるが、おそらく生理的濃度よりも高いとみられる。他の研究は、TGTにおいて0.1〜1.5nMのFIXa濃度を用いている(Hoffman M, Monroe DM, Oliver JA,およびRoberts HR. Factor IXa and Xa play distinct roles in tissue factor-dependent initiation of coagulation. Blood 1995; 86: 17941-1801;Jesty J. Interactions of feedback control and product inhibition in the activation of factor X by factors IXa and VIII. Haemostasis 1991; 21: 208-218;Kumar R, Beguin S,およびHemker HC. The influence of fibrinogen and fibrin on thrombin generation- evidence for feedback activation of the clotting system by clot bound thrombin. Thromb Haemost 1994; 72: 713-721;Sekiya F, Yoshida M, Yamashita T,およびMorita T. Magnesium (II) is a crucial constituent of the blood coagulation cascade. Potentiation of coagulant activities of FIX by Mg2+ ions J Biol Chem 1996; 271: 8541-8544)。いかなる特定の学説にとらわれることも望まないが、高濃度FIXaにおいては、低濃度のFVIIIをアッセイするときに、FIXaが血友病血漿から生じるわずかなFVIIIaを分解から保護するのかもしれず(Lenting PJ, van Mourik JA, Mertens K. The life cycle of coagulation factor VIII in view of its structure and function. Blood 1998; 92: 3983-3996)、また、さらに高濃度のFIXaでは、FIXaはFVIII:C活性を増強しうる(Rick ME. Activation of factor VIII by factor IXa. Blood 1982; 60: 744-751)。
【0158】
上記の明細書中で言及したすべての刊行物は、参照により本明細書中に組み込まれる。記載された本発明の方法およびシステムの種々の改変および変形が、本発明の範囲および精神から逸脱することなく、当業者にとって明らかであろう。本発明は具体的な好ましい実施形態と関連づけて記載されているが、特許請求の範囲に記載された発明はそのような具体的な実施形態に不当に限定されるべきではないことが理解されなければならない。実際、生物学または関連分野において通常の技能を有する者には明らかな、本発明を実施するための記載された様式の種々の改変は、添付の特許請求の範囲に含まれることが意図される。
【表1】

【表2】

【表3】

【図面の簡単な説明】
【0159】
【図1】高FIXa(14nM)を用いたFVIII濃縮物によるトロンビン産生を示したグラフである。
【0160】
A.FVIII濃縮物の用量−反応。HP(Mo−Ab)2濃縮物は人工FVIII欠損血漿中に1(●)、0.125(■)、0.03(黒い三角)および0.005(×)IU/mlの濃度で希釈した。正常血漿(◆)。
【0161】
B.種々のFVIII濃縮物によるトロンビン産生の比較。FVIII濃縮物は、1IU/mlで人工FVIII欠損血漿に添加した。rFVIII BDD(○)、rFVIII FL1(■)、rFVIII FL2(黒い三角)、HP(Mo−Ab)1(×)、HP(Mo−Ab)2(*)、HP(Ion−ex)(●)、IP(+)、正常血漿(◆)。
【図2】種々のFVIII欠損血漿によるトロンビン産生プロファイルを示したグラフである。すべての欠損血漿は、<0.01IU/mlである。正常血漿(◆)、輸血4日後の患者に由来する2種類の重症血友病血漿(1(−*−)、2(--*--))、市販血友病血漿(+)、人工枯渇血漿(○)。
【図3】トロンビン産生に対するFIXaの影響を示したグラフである。
【0162】
A.トロンビン産生に対するFIXa濃度の影響。2種類の異なるFIXa濃度を、トロンビン産生を活性化するのに用いた。14nM(実線)または0.2nM(破線)の濃度のFIXaを、凝固を開始させるために添加した。正常血漿(◆)、血友病血漿(*)。
【0163】
B.低濃度FIXaでのFVIII濃縮物の用量−反応。HP(Mo−Ab)2を患者1の血友病血漿中に希釈した。トロンビン産生は、0.2nMのFIXa濃度で引き起こした。正常血漿(◆)、1(●)、0.125(■)、0.03(黒い三角)IU/ml、および血友病血漿(*)。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗FVIII抗体を生じていない対象の血友病Aまたは血友病Bの治療のための組成物の調製における、FIXaおよびFVIIIの使用。
【請求項2】
抗FVIII抗体を生じていない対象の血友病Aまたは血友病Bの治療における、同時の、同時で別々の、または順次的な使用のための、FIXaを含む組成物およびFVIIIを含む組成物。
【請求項3】
リン脂質をさらに含む、請求項1または2に記載のFIXaを含む組成物。
【請求項4】
血友病Aまたは血友病Bの治療のためのFVIIIを含む組成物の製造におけるFIXaの使用であって、FIXaの存在が、FIXaを含まない組成物と比較して前記組成物中のFVIII濃度を減少させる、前記使用。
【請求項5】
組成物が、抗FVIII抗体を生じていない対象に対して投与される、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
FVIIIおよびFIXa試薬が組換えDNA技術を用いて生成されたものである、請求項4または5に記載の使用。
【請求項7】
組成物がさらにリン脂質を含む、請求項4〜6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
組成物が、2〜10IU/kgの投与量で対象に対してFVIIIを与えるように製剤化される、請求項4〜7のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
血友病Aまたは血友病Bに罹患した対象を治療する方法であって、それを必要としている対象にFIXaおよびFVIIIを含む組成物を投与することを含み、前記対象は抗FVIII抗体を生じていない、前記方法。
【請求項10】
血友病Aまたは血友病Bに罹患した対象を治療する方法であって、それを必要としている対象にFIXaおよびFVIIIを含む組成物を投与することを含み、前記組成物はFIXaを含まない組成物を用いた前記対象の治療に必要な量よりも少ない量のFVIIIを含む、前記方法。
【請求項11】
前記組成物がさらにリン脂質を含む、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
組成物が組換えFIXaおよび組換えFVIIIを含む、請求項9〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
組成物が、2〜10IU/kgの投与量で対象に対してFVIIIを与えるように製剤化される、請求項9〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
組成物中に因子FVIIIおよびFIXaを一緒に混合するステップを含む、FVIIIを増強する方法。
【請求項15】
前記組成物がさらにリン脂質を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
組成物が組換えFIXaおよび組換えFVIIIを含む、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
対象に対してFIXaと共にFVIIIを投与することを含む、対象におけるFVIIIを含む組成物中のFVIIIの免疫原性を減少させる方法。
【請求項18】
血友病の治療のための組成物の調製におけるFIXaおよびFVIIIの使用であって、前記組成物中のFVIIIがFIXaの存在によって減少した免疫原性を有する、前記方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2006−528965(P2006−528965A)
【公表日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−530510(P2006−530510)
【出願日】平成16年5月17日(2004.5.17)
【国際出願番号】PCT/GB2004/002120
【国際公開番号】WO2004/103397
【国際公開日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(505424398)ナショナル インスティテュート フォー バイオロジカル スタンダーズ アンド コントロール(エヌアイビーエスシー) (3)
【Fターム(参考)】