説明

血圧調整剤及びこの血圧調整剤を含有した医薬品

【課題】カテキン類を利用する血圧調整剤の提供。
【解決手段】エステル型カテキン、特に下記一般式で示され、緑茶又は包種茶から抽出して得られるメチル化カテキンを含有する血圧調整剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エステル型カテキンを有効成分として含有する血圧調整剤及びこの血圧調整剤を含有した医薬品に関する。
【背景技術】
【0002】
高脂血症、高血糖、高血圧などの生活習慣病は増加の一途をたどっており、いまや国民病とされる。高血圧は腎臓病・内分泌疾患・血管系疾患など原因となる疾患のはっきりしている二次性高血圧と、はっきりした原因を特定出来ない本態性高血圧の二つに分けられる。二次性高血圧はその原因疾患を治療することによって治すことができる。しかし高血圧の人の大部分は原因の分っていない本態性高血圧である。本態性高血圧は遺伝的素因と生活習慣が複雑に絡み合って発症すると考えられているが、まだ詳しい事はわかっていない。この解決が強く求められている現状にある。特定保健用食品の中でも血圧が高いというリスクの生活者に対する飲食品が多数出されており、食品メーカーでも盛んに開発されているところである。
【0003】
この問題を解決するために、食品又はこれに準ずる天然物から様々な有用物質が見出され、その生理機能を生かした機能性食品の研究が盛んに行なわれている。機能性食品は、健常な人が日常的に摂取することで血液脂質、血糖値、血圧等の改善が期待され、簡便な健康増進・疾病予防手段を提供するものである。中でも特に、肥満の予防もしくは改善作用が期待される素材としてはポリフェノール類が注目を集めつつあり、中でも緑茶由来のカテキン類は最も研究が進んでいる素材に数えられる。
【0004】
カテキン類とは緑茶特有のタンニン又はポリフェノールの一種であり、緑茶の味を決める主成分の一つである。このカテキン類は、抗酸化作用、動脈硬化抑制作用、血糖上昇抑制作用等、多様な作用があることが実証されているため、茶葉の粉末等を健康食品の原料に用いることによって、基礎代謝を向上させ、脂肪の燃焼を促進させることによって肥満を予防する方法が知られている(非特許文献1参照)。
【0005】
茶成分では、従来緑茶中のエピガロカテキンガレート(EGCG)及び紅茶中のテアフラビンジガレートが血圧降下作用をもつという報告がある。これらのポリフェノールは、血圧上昇酵素であるアンジオテンシンI転換酵素を阻害し、昇圧物質であるアンジオテンシンIIの生成を阻害することがわかっている(非特許文献2参照)。また、緑茶ポリフェノールが腎性高血圧ラットの血圧を降下させるのは、カリクレイン・キニン系の降圧系ペプチドに影響を与えることによることも報告されている(非特許文献3参照)。
【非特許文献1】村松敬一郎編 「茶の科学」朝倉書店(2000)
【非特許文献2】原征彦ら 「栄食誌」 61,803(1987)
【非特許文献3】T Yokozawa et al., Biosci. Biotechnol. Biochem., 58, 855 (1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら上記のポリフェノールにおいて、作用機作がレニン・アンジオテンシン転換酵素阻害の場合、その経路をたどらない血圧上昇には効果が期待できなかった。また、レニン活性の亢進では二次性高血圧症が疑われ、本態性高血圧症には効果がない。また、カリクレイン・キニン系についてもはっきりとした作用機作が確認されていない。
【0007】
本発明は以上のような課題に鑑みてなされたものであり、エステル型カテキンを有効成分として含有する血圧調整剤及びこの血圧調整剤を含有した医薬品や飲食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、ある種の茶葉中に含有されるエステル型カテキン、特にメチル化カテキンが血圧上昇抑制作用を有することを見出し、以下のような本発明を完成するに至った。
【0009】
より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0010】
(1) エステル型カテキンを有効成分量含有する血圧調整剤。
【0011】
(2) 前記エステル型カテキンは、下記の一般式(1)で示され、緑茶又は包種茶を抽出して得られるメチル化カテキンを含有する(1)に記載の血圧調整剤。
【化1】

・・・(1)
[式中、R,R,R,R,R,Rは、それぞれ独立に水素原子、ヒドロキシル基、メチル基のいずれかである。]
【0012】
(3) 前記エステル型カテキンは、「べにふうき」、「べにふじ」、「べにほまれ」、「やえほ」、「するがわせ」、「ゆたかみどり」、「かなやみどり」、「やぶきた」、「さやまかおり」、「さえみどり」、「あさつゆ」、「おおいわせ」、「おくむさし」、「めいりょく」、「ふうしゅん」、「おくゆたか」、「青心大パン」、「青心烏龍」、「大葉烏龍」、「鳳凰単叢」、「鳳凰水仙」、「白葉単叢水仙」、「黄枝香」、「武夷水仙」、「紅花」、「べにひかり」、「やまかい」、「やまとみどり」、「からべに」、「香駿」、及び「おくみどり」からなる群から選ばれる少なくともいずれか1種以上の茶葉由来のものである(1)又は(2)に記載の血圧調整剤。
【0013】
(4) 血圧の上昇を抑制するために用いられる旨の表示、及び/又は血圧上昇抑制剤として有効成分量含有する旨の表示を付したものである(1)から(3)いずれかに記載の血圧調整剤。
【0014】
(1)から(4)いずれかに記載の血圧調整剤を、一製剤あたり2mgから500mg含有する医薬品。
【0015】
平滑筋では、構造的にも機能的にもトロポニンCに類似しているカルモジュリンと、ミオシン軽鎖のリン酸化酵素が、収縮、弛緩の制御の中心的役割をしている。ミオシン分子は分子量200kDの2本の重鎖と、20kDと17kDの2本ずつの軽鎖からなる。血管作動性物質により、細胞内のCa2+濃度が上昇すると、Ca2+はカルモジュリンと結合し、このCa2+/カルモジュリン複合体は次に、ミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)の触媒サブユニットに結合し、MLCKを不活性型から活性型に変換する。
活性型MLCKは、20kDのミオシン軽鎖の19番目のセリンをリン酸化し、その結果、ミオシン頭部に存在するMg2+−ATPaseの、アクチンによる活性化が引き起こされ、収縮がおこる。Ca2+濃度がおよそ100nM以下になると、Ca2+はカルモジュリンから解離し、MCLKは不活性化し、弛緩する。これに加えて、ミオシン軽鎖フォスファターゼ(MLCP)が優位になり、ミオシンは脱リン酸化され、アクチンフィラメントから離れる。そのため、ミオシン軽鎖のリン酸化を抑制することにより、収縮が抑制され、これが要因となる高血圧(原因のわからない本態性高血圧症)を抑制することにつながると考えられる。
【0016】
エステル型カテキン、特にメチル化カテキンを血圧調整剤に有効成分量含有したことによって、血圧の上昇を抑制することが可能となる。上述のように、カテキン類には、抗酸化作用、動脈硬化抑制作用、血圧上昇抑制作用、血糖上昇抑制作用、殺菌作用、抗菌作用、消臭作用等様々な効果を有する。
【0017】
本発明では、メチル化カテキンをはじめとするエステル型カテキンが、ミオシン軽鎖のリン酸化について強い阻害効果を有するため、このエステル型カテキンを血圧調整剤としたことによって心筋弛緩作用による血圧調節が可能となる。
【0018】
また、「有効成分量」とは、血圧の上昇を抑制する効果を奏する有効成分が、十分な効果を奏すると判断される場合の含有量をいう。具体的には、製剤1g中に、本発明に係る血圧調整剤を2mgから500mg含有することをいう。また、この血圧調整剤2mgから500mg中には、2mgから500mgのエステル型カテキンが含有されていることが好ましい。
さらに、本発明における「エステル型カテキン」とは、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート、メチル化カテキン等をいう。さらに「メチル化カテキン」とは、下記の一般式(1)で示されるものであり、メチル化されたカテキン及び精製の際の不可避成分をいう。
本発明におけるメチル化カテキンは主として、エピガロカテキン−3−O−(3−O−メチル)ガレート(以下、EGCG3”Meという)、エピカテキン−3−O−(3−O−メチル)ガレート(以下、ECG3”Meという)、エピカテキン−3−O−(4−O−メチル)ガレート(以下、ECG4”Meという)、エピガロカテキン−3−O−(4−O−メチル)ガレート(以下、EGCG4”Meという)、3’−O−メチル−エピガロカテキン−3−O−ガレート(以下、EGCG3’Meという)、3’−O−メチル−エピカテキン−3−O−ガレート(以下、ECG3’Meという)、4’−O−メチル−エピカテキン−3−O−ガレート(以下、ECG4’Meという)、4’−O−メチル−エピガロカテキン−3−O−ガレート(以下、EGCG4’Meという)、エピガロカテキン−3−O−(3,4−O−ジメチル)ガレート、(以下、EGCG3”,4”diMeという)、エピガロカテキン−3−O−(3,5−O−ジメチル)ガレート(以下、EGCG3”,5”diMeという)、、エピカテキン−3−O−(3,4−O−ジメチル)ガレート(以下、ECG3”,4”diMeという)、エピカテキン−3−O−(3,5−O−ジメチル)ガレート(以下、ECG3”,5”diMeという)、3’−O−メチル−エピガロカテキン−(3−O−メチル)ガレート、(以下、EGCG3’,3”diMeという)、3’−O−メチル−エピカテキン−(3−O−メチル)ガレート、(以下、ECG3’,3”diMeという)、3’−O−メチル−エピガロカテキン−(5−O−メチル)ガレート、(以下、EGCG3’,5”diMeという)、3’−O−メチル−エピカテキン−(5−O−メチル)ガレート、(以下、ECG3’,5”diMeという)、及びこれらの異性化体を含むことが好ましい。
なお、上記のメチル化カテキンと、下記の一般式との対応関係は、以下の通りである。

【表1】

【化2】

・・・(1)
[式中、R,R,R,R,R,Rは、それぞれ独立に水素原子、ヒドロキシル基、メチル基のいずれかである。]
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る血圧調整剤によれば、血圧の上昇を抑制し、眠気などの副作用を誘発することの少ない医薬品を提供することが可能となる。また、この血圧調整剤は、茶葉由来の成分であるため、食品に添加しても風味を損なうことなく、万人向けの風味を有する飲食品を提供することが可能となる。これにより、飲食品を摂取するという日常的な行為により、高血圧症の生活習慣病を予防することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0021】
[血圧調整剤及び医薬品の製造]
本発明に係る血圧調整剤は、所定の茶葉由来のメチル化カテキン成分を含むエステル型カテキンを有効成分量含有する。
【0022】
本発明に係る血圧調整剤は、所定の茶葉からエステル型カテキンを従来公知の方法を用いて抽出して得られる。所定の茶葉としては、「べにふうき」、「べにふじ」、「べにほまれ」、「やえほ」、「するがわせ」、「ゆたかみどり」、「かなやみどり」、「やぶきた」、「さやまかおり」、「さえみどり」、「あさつゆ」、「おおいわせ」、「おくむさし」、「めいりょく」、「ふうしゅん」、「おくゆたか」、「青心大パン」、「青心烏龍」、「大葉烏龍」、「鳳凰単叢」、「鳳凰水仙」、「白葉単叢水仙」、「黄枝香」、「武夷水仙」、「紅花」、「べにひかり」、「やまかい」、「やまとみどり」、「からべに」、「香駿」、及び「おくみどり」からなる群から選ばれる少なくともいずれか1種以上の茶葉等が挙げられる。これらの茶葉を単一種又は複数種混合して用いてもよい。
【0023】
また、抽出溶剤としては毒性の無いものであればよく、エタノール、水、もしくはこれらの混合溶液であることが好ましく、抽出物中のカテキン類の回収率を考慮すると、エタノールが含有されている溶剤を用いることがより好ましい。また、抽出温度としては30℃から60℃で抽出することが好ましく、50℃以下で行なうことが更に好ましい。60℃以上であるとカテキン類の熱異性化が開始してしまうためである。抽出は、一度抽出した後の残渣を回収して複数回行なっていてもよい。
【0024】
また抽出は、化学分離精製手法として一般的に用いられる方法を使用してもよい。例えば、液−液分配、薄層クロマトグラフィー、吸着カラムクロマトグラフィー、分配カラムクロマトグラフィー、ゲルろ過カラムクロマトグラフィー、イオン交換カラムクロマトグラフィー、電気泳動や高速液体クロマトグラフィーなどを用いることができる。また、必要に応じこれらの分離精製手段を組み合わせて行なってもよい。
【0025】
上記の方法により得られた抽出物は、抽出物をそのまま、あるいは水等で適宜希釈して、血圧調整剤として投与することができる。さらに、これらを通常用いられる医薬用担体と共に製剤化して医薬品に調製することができる。例えば、上記の抽出物等をシロップ剤などの経口液状製剤として、又はエキス,粉末などに加工し、薬学的に許容される担体と配合して錠剤,カプセル剤,顆粒剤,散剤等の経口固形製剤とすることができる。
ここで、薬学的に許容できる担体としては、製剤用素材として慣用されている各種の有機あるいは無機の担体物質が用いられ、固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤や液状製剤における溶剤、賦形剤、懸濁化剤、結合剤等として配合される。その他、必要に応じて抗酸化剤、防腐剤、着色料、甘味剤などの添加物を用いることができる。
【0026】
上記の製剤用素材は、通常使用されているものが用いられ、賦形剤としては、例えばショ糖、乳糖、デンプン、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸などがあり、滑沢剤としては、例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、コロイドシリカなどがある。また、結合剤としては、例えばセルロース、ショ糖、デキストリン、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。次に、崩壊剤としては、例えばポリエチレングリコール、D−マンニトール、安息香酸ベンジル、エタノール、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどがあり、液剤としては、例えば精製水、エタノール、プロピレングリコールなどがある。懸濁化剤としては、例えばラウリル硫酸ナトリウム、レシチン、モノステアリン酸グリセリンなどの界面活性剤やポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロースなどの親水性高分子が挙げられる。また、抗酸化剤としては、例えば亜硫酸塩、アスコルビン酸などが挙げられ、防腐剤としては、例えばパラオキシ安息香酸エステル酸、ベンジルアルコール、ソルビン酸などがあり、着色料としては、各種食用色素が挙げられる。
【0027】
本発明に係る血圧調整剤は、使用目的を考慮して適量を用いればよいが、一製剤あたり2mgから500mg含有するよう用いることが好ましく、50mgから100mg用いることがさらに好ましい。この中でも、メチル化カテキンの含有量は、一製剤あたり、2mgから500mgであり、より好ましくは50mgから100mgであり、最も好ましくは70mgから150mgである。なお、いずれの場合においても、1日1回もしくは数回に分けて使用することができる。
【0028】
[飲食品の製造]
本発明に係る血圧調整剤は、飲食品に含有することが可能である。
上記の方法により得られた抽出物は、そのまま飲食品に添加してもよいが、精製物又は上記方法により得られた血圧調整剤を添加してもよい。抽出物の精製は、上述と同様、化学分離精製手法として一般的に用いられる方法を使用することが好ましい。この抽出物又は血圧調整剤の添加量としては、飲料中100ml中、2mgから100mgであることが好ましく、50mgから150mgであることが更に好ましい。
このような添加量とすることによって、渋みが少なく、飲みやすい飲料を提供することが可能となる。また、抽出物が100mg以上であると「苦渋味」が増加するため、飲料に適さない。また、2mg以下であると十分な効果を奏することができない。
【0029】
さらに、食品に添加する場合は、飲料に添加するよりも多いことが好ましい。具体的には、抽出物又は血圧調整剤を食品100g中に100mgから5000mg添加することが好ましい。含有量が5000mg以上であると「苦渋味」が増加するため、口腔にて摂取するには適さない。また、2mg以下であると十分な効果を奏することができない。
【0030】
なお、飲料及び食品中で、上記のエステル型カテキン、メチル化カテキンが十分な血圧降下作用を奏するために酸化防止剤、香料、各種エステル類、有機酸類、有機酸塩類、無機酸類、無機酸塩類、無機塩類、色素類、乳化剤、保存料、調味料、甘味料、酸味料、果汁エキス類、野菜エキス類、花蜜エキス類、pH調整剤、品質安定剤などの添加剤を単独、あるいは併用して配合してもよい。
【0031】
例えば甘味料としては、砂糖、ぶどう糖、果糖、異性化液糖、グリチルリチン、ステビア、アスパルテーム、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖等が挙げられる。酸味料としては、天然成分から抽出した果汁類のほか、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸、フマル酸、リン酸が挙げられる。クエン酸もしくはリンゴ酸を飲料中に0.1g/Lから5g/L、好ましくは0.5g/Lから2g/L含有するのがよい。酸化防止剤としては、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、があげられる。飲料中に、0.005質量%から0.5質量%、好ましくは0.01質量%から0.1質量%含有するのがよい。
【0032】
飲料に使用される容器は、一般の飲料と同様にポリエチレンテレフタレートを主成分とする成形容器(いわゆるPETボトル)、金属缶、金属箔やプラスチックフィルムと複合された紙容器、瓶などの通常の形態で提供することができる。
【0033】
また、上記の容器は例えば、金属缶のように容器に充填後、加熱殺菌できる場合にあっては食品衛生法に定められた所定の殺菌条件で製造される。PETボトル、紙容器のようにレトルト殺菌できないものについては、あらかじめ上記と同等の殺菌条件、例えばプレート式熱交換器などで高温短時間殺菌後、一定の温度まで冷却して、容器に充填する等の方法が採用される。また無菌下で、充填された容器に別の成分を配合して充填してもよい。さらに、酸性下で加熱殺菌後、無菌下でpHを中性に戻すことや、中性下で加熱殺菌後、無菌下でpHを酸性に戻すなどの操作も可能である。
【0034】
また、食品に使用する場合は、特定保健用食品、特殊栄養食品、栄養補助食品、健康食品などに食品添加物として配合することができる。添加対象の食品としては、各種食品に可能である。飲料としては、特定保健用食品、特殊栄養食品、栄養補助食品としての飲料やその他の栄養飲料、健康飲料、各種の健康茶、その他の飲料などに配合できる。他の食品としては、菓子類、パン、麺類、大豆加工品、乳製品、卵加工品、練り製品、油脂、調味料等が挙げられる。
【実施例】
【0035】
<実施例1>
[細胞及び細胞培養]
ヒト白血病細胞株KU812は、Japanese Collection of Research Bioresourcesより入手した。10%ウシ胎児血清(FBS)、(バイオソースインターナショナル社)、添加RPMI−1640培地(日水製薬株式会社)で、37℃、水蒸気飽和した5%CO条件下で継代、維持した。RPMI−1640培地中には100U/mLペニシリン(明治製菓株式会社)、100μg/mLストレプトマイシン(明治製菓株式会社)、12.5mM,NaHCO(和光純薬工業株式会社)、10mM HEPES(和光純薬工業株式会社)を添加した。細胞を継代するにあたり、細胞密度2.0×10cells/mLで10mLのプラスチックディッシュ(株式会社イナ・オプティカ)に藩種し、3日毎に培地交換を行い細胞密度2.0×10cells/mLを超えないよう対数増殖期で培養維持した。
【0036】
[試薬及び試薬の調製]
エピガロカテキン(EGC)、エピカテキン−3−O−ガレート(ECG)、エピガロカテキン−3−O−ガレート(EGCG)、エピアフゼレキン―3−O−ガレート(epiafzelechin−3−O−gallate:EAG)、エピガロカテキン−3−O−(3−O−メチル)ガレート(EGCG3”Me)、エピガロカテキン−3−O−(4−O−メチル)ガレート(EGCG4”Me)、ガロカテキン−3−O−ガレート(GCG)、ガロカテキン−3−O−(3−O−メチル)ガレート(GCG3”Me)、4’−O−メチル−エピガロカテキン−3−O−ガレート(EGCG4’Me)、エピガロカテキン−3−O−(3,4−O−ジメチル)−ガレート(EGCG3”4”Me)、4’−O−メチル−エピガロカテキン−3−O−(4−O−メチル)−ガレート(EGCG4’4”Me)、エピガロカテキン−3−O−(3,5−O−ジメチル)−ガレート(EGCG3”5”diMe)の各ポリフェノールは、独立行政法人農業研究機構野菜茶業研究所より入手した。
【0037】
これらを各々5mMから10mMになるように超純水又はリン酸バッファー塩(PBS;1.37mM,NaCl,8.1mM,NaHPO・7HO,2.68mM,KCl,1.47mM,KHPO)に溶解し、使用直前まで−80℃で保存した。カルシウムイオノファ(和光純薬工業株式会社:商品名A23187)はジメチルスルホキシドに10mMとなるように溶解し、−20℃で保存して使用直前にTyrode緩衝液(137mM,NaCl、2.7mM,KCl、1.8mM,CaCl、1.1mM,MgCl、11.9mM,NaHCO、0.4mM,NaHPO,pH7.2)で希釈した。
抗リン酸化ミオシン軽鎖抗体((Goat anti−phospho−MRLC(Thr18/Ser19)polyclonal antibody),horseradish peroxidase(HRP)−conjugated anti−goat IgG antibody)は、サンタクルズバイオテクノロジー社(Santa Cruz Biotechnology)から購入し、3%BSA−TTBS(3%bovine serum albumin,0.1%Tween20,20mM,Tris−HCl(pH7.6),138mM,NaCl)で、それぞれ1000倍、20000倍に希釈して用いた。
【0038】
[細胞のカテキンによる処理]
細胞をTyrode緩衝液(137mM,NaCl、2.7mM,KCl、1.8mM,CaCl、1.1mM,MgCl、11.9mM,NaHCO、0.4mM,NaHPO,pH7.2)で洗浄後、Tyrode緩衝液に細胞密度2.0×10cells/mLとなるように再懸濁した。1.5mLのマイクロテストチューブ(Eppendorff社、ドイツ)に、100μLの10mM CaCl、100μLの500μM 各種カテキン、500μLの細胞懸濁液(1.0×10cells)、200μLのTyrode緩衝液を添加し20分間、37℃でインキュベートした。その後、100μLの50μM,カルシウムイオノフォア(商品名:A23187)を添加して20分間、37℃でインキュベートした。これらの条件は脱顆粒刺激と同じである。300xgで5分間遠心し、回収した細胞を次項のウエスタンブロット解析に供した。実施例1に記載の方法で得られた精製物2gと、べにふうき茶葉粉末78gと澱粉及び乳糖をそれぞれ10g均一に混合し、常法に従って散剤とした。
【0039】
[ミオシン軽鎖リン酸化の解析]
細胞を細胞溶解バッファー(50mM,Tris−HCl(pH7.5),150mM,NaCl,1%Triton−X100,1mM,EDTA,50mM,NaF,30mM,Na,1mM,フェニルメタンスルフォニルフルオライド(PMSF),2.0μg/mlのaprotininと、1mMのpervanadate)に懸濁させ、4℃、30minローテータで転倒攪拌した。その後、この細胞溶解液を15000xgで30min遠心し、上清をSDS−PAGEサンプルバッファー(57mM,Tris−HCl(pH6.8),9.1%glycerol,1.8%SDS,0.02%ブロモフェノールブルーと、650mM2−メルカプトエタノール)で2倍に希釈し、5分間煮沸後、硫酸ドデシルナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)のサンプルとした。
【0040】
このサンプルを12%SDS−PAGEゲルに供し、電気泳動を行った。次に、このゲル中のタンパク質を30分間、100Vの電圧をかけることでニトロセルロース膜に転写した。つぎに、この膜を3%BSA−TTBS(3%bovine serum albumin,0.1% Tween20,20mM,トリス−塩化水素(pH7.6),138mM,NaCl)を用いて室温で1時間のブロッキング反応を行った。
その後、3%BSA−TTBSで希釈した抗リン酸化ミオシン軽鎖抗体で4℃、オーバナイト反応を行った後、3%BSA−TTBSで希釈した二次抗体のHRP−conjugated anti−goat IgGを室温で1時間反応させた。TTBS(0.1%Tween20,20mMトリス−塩化水素(pH7.6),138mM,NaCl)で膜を洗浄した後、ECLキット(アマシャムバイオサイエンス株式会社)を用いてリン酸化ミオシン軽鎖の検出を行った。
【0041】
[結果]
図1から3は、リン酸化ミオシン軽鎖レベルに及ぼすポリフェノール(カテキン類)の影響を示した電気泳動の結果を示した図である。
具体的な測定方法としては、KU812細胞をTyrode緩衝液に、細胞密度2.0×10cells/mlとなるように調製し、EGC(エピガロカテキンガレート),ECG(エピカテキンガレート),EGCG(エピガロカテキンガレート)等の上記に記載の各種ポリフェノール50μMを添加して、20分間、37℃でインキュベートした。その後5μMのカルシウムイオノフォアA23187を添加して20分間、37℃でインキュベートした後に、12%SDS−PAGEゲルに供し、電気泳動を行った。
【0042】
試験に供したポリフェノールにおいて、EAG,ECG,EGCG,EGCG3”Me,GCG,GCG3”Me,EGCG4’Me,EGCG3”5”diMeにおいて、ミオシン軽鎖のリン酸化レベル低下作用が認められた(図1から3参照)。
これに対して、EGC,EGCG4”Me,EGCG3”4”diMe,EGCG4’4”diMeにはミオシン軽鎖のリン酸化レベル低下作用は認められなかった。以上の結果から、エステル型カテキンであるECGならびにEGCG及びその異性化体、メチル化体に、ミオシン軽鎖のリン酸化レベル低下作用があることが明らかとなった。一方、ガロイルの4位にメチル基を有するエステル型カテキンにはそうした作用がないことが明らかとなった。
【0043】
<実施例2>
本発明に係る血圧調整剤の降圧効果を高血圧症患者で検証した。
高血圧患者の選択基準としては、日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン2004の、成人における血圧値の分類で、正常高値血圧(収縮期血圧130mmHgから139mmHg、又は拡張期血圧85mmHgから89mmHg)、又は軽症高血圧(収縮期血圧140mmHgから159mmHg、又は拡張期血圧90mmHgから99mmHg)の患者であって、20歳以上、65歳未満の患者10人を選択した。
なお、上記の患者の中でも下記の事項に該当する者は除外した。
1.降圧剤、降圧効果のうたわれている特定保健用食品等を服用している者
2.重篤な合併症のある者
3.妊娠中又は試験中に妊娠を希望する者
4.試験食品の摂取が不可能な者
5.その他、担当医師により試験への参加が不適切と判断された者
【0044】
血圧調整剤としては、べにふうき緑茶(ティーバック:2g)を90℃で3分間抽出した抽出液150ml及びさらに繰り返して90℃で3分間抽出した抽出液150mlを加えた300mlを用いた。この血圧調整剤中の各エステル型カテキンの含有量は、下記の表2に示す通りである。なお、表中の数値は茶葉100g当たりの数値である。
【表2】

【0045】
この血圧調整剤を、一日2回朝食後に摂取させ、試験開始前、試験開始後4週間後、8週間後の血圧、脈拍等、下記の事項の検査項目について診断・測定した。
1.診察:選択・除外・中止の各基準の確認、有害事象の確認
2.血圧、脈拍数の測定
3.尿検査:タンパク、pH、糖、潜血、Na、K、Cl、クレアチニン等について測定
4.身長、体重の測定(BMI算出)
5.日誌の記入:試験品の摂取状況
【0046】
摂取4週間後、及び8週間後の血圧の変化を図4,5に示す。なお、図4は収縮期の血圧値に対し、図5は拡張期の血圧値を示す。図4中のアスタリスク(*)は、摂取前と摂取8週間後の有意差(p<0.05)を表す。
これより、4週間目で収縮期血圧、拡張期血圧において平均値での低下(初期値からの)が認められ、(収縮期血圧で平均−5.6mmHg、拡張期血圧で平均−3.4mmHg)、8週間目においては収縮期血圧で、平均8.65mmHg、危険率5%での有意な低下が確認された。また、拡張期血圧でも有意差は確認されなかったものの3.4mmHgの低下が認められた。
【0047】
尿中のクレアチニン、ナトリウム、カリウム、塩素組成、体重の変化、及び脈拍数については、試験開始前と試験開始後8週間後とで、それほど大きな差異は、確認されなかった。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】リン酸化ミオシン軽鎖レベルに及ぼすポリフェノールの影響を示した図である。
【図2】リン酸化ミオシン軽鎖レベルに及ぼすポリフェノールの影響を示した図である。
【図3】リン酸化ミオシン軽鎖レベルに及ぼすポリフェノールの影響を示した図である。
【図4】摂取4週間後、及び8週間後の収縮期の血圧の10人の平均値の変動を示した図である。
【図5】摂取4週間後、及び8週間後の拡張期の10人の平均値の変動を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エステル型カテキンを有効成分量含有する血圧調整剤。
【請求項2】
前記エステル型カテキンは、下記の一般式(1)で示され、緑茶又は包種茶を抽出して得られるメチル化カテキンを含有する請求項1に記載の血圧調整剤。
【化1】

・・・(1)
[式中、R,R,R,R,R,Rは、それぞれ独立に水素原子、ヒドロキシル基、メチル基のいずれかである。]
【請求項3】
前記エステル型カテキンは、「べにふうき」、「べにふじ」、「べにほまれ」、「やえほ」、「するがわせ」、「ゆたかみどり」、「かなやみどり」、「やぶきた」、「さやまかおり」、「さえみどり」、「あさつゆ」、「おおいわせ」、「おくむさし」、「めいりょく」、「ふうしゅん」、「おくゆたか」、「青心大パン」、「青心烏龍」、「大葉烏龍」、「鳳凰単叢」、「鳳凰水仙」、「白葉単叢水仙」、「黄枝香」、「武夷水仙」、「紅花」、「べにひかり」、「やまかい」、「やまとみどり」、「からべに」、「香駿」、及び「おくみどり」からなる群から選ばれる少なくともいずれか1種以上の茶葉由来のものである請求項1又は2に記載の血圧調整剤。
【請求項4】
血圧の上昇を抑制するために用いられる旨の表示、及び/又は血圧上昇抑制剤として有効成分量含有する旨の表示を付したものである請求項1から3いずれかに記載の血圧調整剤。
【請求項5】
請求項1から4いずれかに記載の血圧調整剤を、一製剤あたり2mgから500mg含有する医薬品。

【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−70338(P2007−70338A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−152291(P2006−152291)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】