説明

血圧降下剤および血管柔軟性改善剤並びにこれらの機能が付与された食品

本発明によれば、イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスを有効成分として含んでなる、血圧降下剤および血管柔軟性改善剤並びにこれらの機能が付与された食品が提供される。

【発明の詳細な説明】
発明の背景
発明の分野
本発明は、血圧降下剤および血管柔軟性改善剤並びにこれらの機能が付与された食品に関する。
【背景技術】
高血圧は日常よく観察される症状であり、生活習慣病の中で最も患者数が多いといわれている。すなわちわが国の約20%にあたる2000万人以上が罹患していると言われ、血圧は、一般に加齢とともに上昇するため、将来の高齢化社会を考えるとさらに患者数は増加するものと思われる。
また、高血圧はわが国における主要死因である心血管疾患の最も重要な危険因子であり、高血圧を放置すれば、脳卒中、心不全、腎不全に至る。一方、薬物療法により血圧をコントロールすれば、これらの致死性疾患の発症を予防できることも、1960年代に行われた大規模臨床試験のVeterans Administration Cooperative Study研究以来明らかになった。更にReavenはインスリン抵抗性に起因する耐糖能障害、高血圧、高VLDL−コレステロール血症、低HDL−コレステロール血症を有するものをシンドロームXと呼び、この改善が脳血管障害、冠動脈疾患予防には重要だとしている(Diabetes 37:1595−1607,1988)。この様に糖尿病・高脂血症・高血圧などのいわゆる成人病は、一人の患者に重積しやすく、これらは脳血管障害、冠動脈疾患の原因としてマルチプルリスクファクターと呼ばれる。
高血圧では、血管内皮機能の障害を合併する場合が知られており、血圧上昇に伴う血管内皮に対するずり応力(shear stress)、体液・内分泌障害、糖代謝障害などが複雑に関与すると考えられている。この血管内皮障害は動脈硬化の始まりに深く関わっており、そのため高血圧が動脈硬化の危険因子となる可能性が指摘されている。また、高脂血症や糖尿病のような心血管疾患の主要な危険因子、あるいは心不全においても血管内皮機能の低下が認められることから、血管内皮機能の向上、改善は幅広い心血管疾患の予防に有効と考えられる。更に、腎血管性高血圧症で示されているように、血管内皮機能を改善する血管拡張剤は血流量を増加することも明らかにされており、血流を促進させる目的にも有効である(N.Engl.J.Med.346:1954−1962(2002))。
近年、測定機器が目覚しい発展を遂げ、血管内皮機能は血流依存性血管拡張反応(Flow−mediated dilatation:FMD)で非侵襲的に評価される場合が増加している。この方法による血管内皮機能の評価は、血管の柔軟性やしなやかさを測定していると解釈できる。FMDは一酸化窒素(NO)に依存しており、血管内皮細胞のendothelial NO synthase(eNOS)の活性による一酸化窒素量の増加によって増強する。これは、血管内皮細胞から産生された一酸化窒素が血管平滑筋細胞に作用して血管を弛緩させるためである。一方、細胞外のカルシウムやナトリウム濃度が低下するとFMDは減弱する(Am.J.Physiol.Heart Circ.Physiol.282:H1−H5(2002))。
高血圧の発症機構については、分子生物学の進歩とともに徐々に解明されつつあるが、原因となる因子が多岐にわたり、かつそれらが複雑に相互作用しあう多因子疾患であることから、治療に際しても様々なアプローチが必要とされる。現在高血圧症の治療には、主に薬物療法と非薬物療法の二つの治療方法がとられている。
薬物療法に使用されている薬物には、利尿薬、β−遮断薬、Ca拮抗薬、ACE阻害薬およびα−遮断薬等がある。薬物治療においては、長期にわたる治療が基本となるため、患者それぞれのQOL(Quality of life)を考慮した治療が必要である。また降圧薬を使用する場合は、降圧の幅を適正にし、過度の降圧に伴う臓器循環不全や、代謝系への副作用が生じ易い為、十分な注意が必要である。従って、食経験のある物質より、かかる効果を有する成分を見出すことは、安全性の面からも望ましい。
一方、非薬物療法は、高血圧治療の基本であり、身近な問題から治療が可能であることを認識させる上で効果がある。また、薬物は、生体にとって異物であり、副作用を念頭においた治療が必要であることからも非薬物療法は有効である。非薬物療法においては、ライフスタイルの改善が提言されている。一般に行われている非薬物治療として、肥満者における減量、アルコール制限、運動、ナトリウム制限、禁煙、飽和脂肪酸とコレステロールの制限等があげられる。日々摂取する食事による療法(食事療法)は特に重要であると考えられている。したがって、血圧降下に効果のあるすぐれた食品の開発が強く望まれている。
ホップは、ヨーロッパ原産のクワ科多年草(学名:Humulusluplus)であり、その毬果(雌花が成熟したもの)を一般にはホップと呼びビールの苦味、香りづけに用いられることで有名であり、長く人々が摂取してきている。これらの苦味、香りは、ホップのルプリン部分(毬果の内苞の根元に形成される黄色の顆粒)よりもたらされる。ホップはまた、民間薬としても用いられており、その効用は、鎮静効果、入眠・安眠効果、食欲増進、健胃作用、利尿作用など多くの生理効果が知られている。また特開昭50−70512号公報および特開昭59−59623号公報にはその抗糖尿病作用についても報告がされている。また最近では、特開2001−321166号公報および特開2001−131080号公報において、ホップ毬果よりルプリン部分を除いたホップ苞に由来するポリフェノール類に関し、リパーゼ阻害作用、体重増加抑制作用等があるとの報告もされている。しかしながら、ホップ苦味成分であるフムロン類やイソフムロン類に関して血圧降下作用を有することはこれまで知られていない。
発明の概要
本発明者らは、ホップの主要な苦味成分フムロン類の異性化物であるイソフムロン類が血圧降下作用および血管柔軟性改善作用を有することを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
本発明は、血圧降下剤および血管柔軟性改善剤並びにこれらの機能が付与された食品の提供をその目的とする。
本発明によれば、イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスを有効成分として含んでなる、血圧降下用組成物が提供される。
本発明によればまた、イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスを有効成分として含んでなる、高血圧の予防用、治療用、または改善用組成物が提供される。
本発明によれば更に、イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスを有効成分として含んでなる、血管柔軟性向上用または改善用組成物が提供される。
本発明によれば更にまた、イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスを有効成分として含んでなる、血管内皮機能向上用または改善用組成物が提供される。
本発明によれば、イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスを有効成分として含んでなる、血管拡張用または血流促進用組成物が提供される。
本発明によれば更にまた、イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスを含んでなる、血圧降下、高血圧の予防、治療、または改善、血管柔軟性向上もしくは改善、血管内皮機能向上もしくは改善、または血管拡張もしくは血流促進に用いられる食品が提供される。
薬剤による高血圧や心血管疾患の治療は長期間にわたることが多く、投与量の増大や投与の長期化による副作用の発現など種々の問題が無視できない。本発明による組成物および食品に含まれるイソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスは長年食品として用いられてきたホップに由来する。従って、本発明による組成物および食品は患者が長期間にわたって服用しても副作用が少なく、安全性が高い点で有利である。特に従来の血圧降下剤には肝障害が副作用として問題となるものがあるが、後述するように、本発明による組成物および食品では逆に肝障害予防作用も併せ持つという優れた特徴を有する。
【図面の簡単な説明】
図1は、実施例4における80mM KCl収縮に対するイソフムロン類(IHus)および媒体(Veh)の作用を示した図である。イソフロン類は80mM KClで収縮させたラット大動脈標本を濃度依存的に弛緩させた。
図2は、実施例4におけるフェニレフリン(10−6M)収縮に対するイソフムロン類(IHus)および媒体(Veh)の作用を示した図である。イソフムロン類はフェニレフリン(10−6M)で収縮させたラット大動脈標本を濃度依存的に弛緩させた。
図3は、実施例4における80mM KCl収縮(○)、およびフェニレフリン(10−6M)収縮(●)に対するイソフムロン類(IHus)の作用を示した図である。
図4は、実施例5におけるホップエキスによる血管内皮機能の改善作用を示した図である。「HE」はホップエキス摂取群、「placebo」はプラセボ摂取群である。ホップエキス投与群について有意差検定を行い、統計処理にt−検定(エクセル2000,マイクロソフト社)を用い、全て0週に対して行った。*は危険率が1%以下であることを示す。
図5は、実施例5におけるホップエキスによる血管内皮機能の改善作用を示した図である。F、H、およびJは血管内皮機能が低下している被験者である。
発明の具体的説明
有効成分およびその製造法
本発明による組成物および食品に含まれるイソフムロン類は、好ましくは、イソフムロン、イソアドフムロン、イソコフムロン、およびこれらの組み合わせからなる群から選択することができる。
イソフムロン類は、市販されているものを入手することができる。本発明による有効成分はまた、公知の方法に従って製造することができ、例えば、Developments in Food Science 27,CHEMISTRY AND ANALYSIS OF HOP AND BEER BITTER A CIDS,M.Verzele,ELSEVIERに記載の方法に従って合成することができる。本発明による有効成分は、後述する方法により得られたホップエキスあるいは異性化ホップエキスから単離、精製することにより得ることができる。
本発明による組成物および食品に含まれるホップエキスとしては、ホップのルプリン部に由来する抽出物を用いることができる。本発明による組成物および食品に含まれる異性化ホップエキスは、ホップのルプリン部に由来する抽出物を積極的に異性化することにより得ることができる。ホップは桑科に属する多年生植物であり、その毬花(未受精の雌花が熟成したもの)である。ホップのルプリン部は、ビール醸造原料であり、ビールに苦味、芳香を付与する為に用いる。またビール中の醸造過程においてホップ中のフムロン類(フムロン、コフムロン、アドフムロン、ポストフムロン、プレフムロン等)がイソフムロン類(イソフムロン、イソコフムロン、イソアドフムロン、イソポストフムロン、イソプレフムロン等)に異性化され、ビールに特有の味と香りを付与する。
ホップの抽出物は、例えば毬花やその圧縮物をそのままもしくは粉砕後、抽出操作に供することによって調製することができる。抽出方法としては、例えば、ビール醸造に用いられるホップエキスの調製法として用いられるエタノール溶媒による抽出法や超臨界二酸化炭素抽出法などがある。このうち超臨界二酸化炭素抽出はポリフェノール成分が少なく、苦味質と精油成分がより高く濃縮されるなどの特徴を有する。また、ホップ抽出法として、その他一般に用いられる方法を採用することができ、例えば、溶媒中にホップの毬花、その粉砕物などを冷浸、温浸等によって浸漬する方法;加温し攪拌しながら抽出を行い、濾過して抽出液を得る方法;またはパーコレーション法等を挙げられる。得られた抽出液は、必要に応じてろ過または遠心分離によって固形物を除去した後、使用の態様により、そのまま用いるか、または溶媒を留去して一部濃縮若しくは乾燥して用いてもよい。また濃縮乃至は乾燥後、さらに非溶解性溶媒で洗浄して精製して用いても、またこれを更に適当な溶剤に溶解もしくは懸濁して用いることもできる。更に、本発明においては、例えば、上記のようにして得られた溶媒抽出液を、減圧乾燥、凍結乾燥等の通常の手段によりホップ抽出エキス乾燥物として使用することもできる。
上記の抽出に用いられる溶媒としては、例えば、水;メタノール,エタノール,プロパノールおよびブタノール等の炭素数1〜4の低級アルコール;酢酸エチルエステル等の低級アルキルエステル;エチレングリコール、ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどのグリコール類;その他エチルエーテル、アセトン、酢酸等の極性溶媒;ベンゼンやヘキサン等の炭化水素;エチルエーテルや石油エーテルなどのエーテル類等の非極性溶媒の公知の有機溶媒を挙げることができる。これら溶媒は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて使用することもできる。
その後必要に応じて不溶物をろ過により除去し、抽出物を減圧等により濃縮し、溶媒を乾固させてもよい。また毬花を粉砕したものを超臨界二酸化炭素抽出、あるいは液化炭酸ガス抽出することも好ましい。
これら抽出した粗エキスには、フムロン類に加えその異性化物であるイソフムロン類が含有されるが、イソフムロン類を高含量含むものを得る場合にはこの粗エキスをアルカリ存在下または酸化マグネシウム存在下で加熱化し更に異性化することが好ましい。異性化によりホップ抽出物中のフムロン類はイソフムロン類に完全に変換される。
このような状態の抽出物を直接製剤化に用いても良いが、さらに有効成分を高濃度に含有する分画物を使用することが好ましい。また、種々の方法で抽出されたホップエキスおよび異性化されたエキスはビール添加物として市販されており、これらを本発明による組成物および食品に使用することもできる。例えば、ホップ毬花粉砕物から主にフムロン類とルプロン類を超臨界二酸化炭素抽出したホップエキス(例えば、CO2 Pure Resin Extract(Hopsteiner社))、ホップ毬花粉砕物の炭酸ガス抽出物を異性化したエキス(例えば、Isomerized Kettle Extract(SS.Steiner社)、イソフムロン類とルプロン類が主成分)、ホップ毬花粉砕物の炭酸ガス抽出物を異性化した後、さらにカリウム塩化して粘性の低い液体とした水溶性エキス(例えば、ISOHOPCO2N(English Hop Products社)、ISOHOP R(Botanix社)、イソフムロン類が主成分)などを用いることができる。
またこれらのエキスより、さらにイソフムロン類を高濃度に含有する分画物を前記等の方法も含め濃縮できることは言うまでもない。
用途
血管の収縮には、細胞内カルシウムイオンの上昇が重要である。高濃度のカリウムイオンによる血管収縮は、主として血管平滑筋の脱分極により膜電位依存性カルシウムチャンネルが開口し、細胞外カルシウムが細胞内に流入し、細胞内カルシウム濃度が上昇することにより惹起されていると考えられる。一方、フェニレフリンによる血管収縮は、主として受容体作動性Caチャネルを介してのCa2+流入およびIP産生に起因した筋小胞体からのCa2+遊離によって、細胞内Ca2+濃度が上昇することにより惹起されると考えられている。
イソフムロン類はラット摘出血管において、高濃度カリウムによる収縮およびフェニレフリンによる収縮のいずれも弛緩させた(実施例4参照)。従ってイソフムロン類は、両収縮に共通した収縮プロセスの抑制(細胞内Ca2+の低下あるいはCa2+感受性の低下等)に基づいて血管弛緩作用を発現している可能性が推測される。またイソフムロン類による弛緩作用はフェニレフリン収縮よりも高濃度カリウムによる収縮においてより強く発現する傾向が認められたことから、イソフムロン類は膜電位依存性Caチャネルを抑制し血管弛緩作用を発現している可能性も推測される。また後述するようにイソフムロン類は血流依存性血管拡張反応(FMD)を増強し、血流量を増大させる(実施例5参照)。
従って、イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスは、血管拡張および血流促進を目的として用いることができる。血管拡張および血流促進により、冷え性、肩こり、腰痛、手足のむくみ、および疲れを軽減あるいは解消できることが知られている。従って、これらの用途も本発明の範囲内であることは当業者に自明であろう。
また、高血圧自然発症モデル動物である自然発症高血圧ラット(SHR)に対して、異性化ホップエキスから精製したイソフムロン類の単回投与で血圧を降下させる傾向が認められた(実施例3参照)。また異性化ホップエキスを血圧の若干高めのヒトに摂取させたところ、血圧降下が認められた(実施例1参照)。
従ってイソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスは、血圧降下を目的として用いることができる。イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスはまた、高血圧の予防、治療、または改善に用いることができる。
異性化ホップエキスをヒトに長期間投与した場合、血圧の降下とともに、血中のGOT(Glutamic oxaloacetic transaminase)、GPT(Glutamic pyruvic transaminase)、γ−GTP(Glutamyl transpeptidase)、およびLDH(Lactate dehydrogenase)がいずれも減少することが観察された。GOTおよびGPTは肝臓が何らかの原因で冒されると、壊れた肝臓の細胞から血中に漏れ出てきて高値になることから、脂肪肝やアルコール性肝障害の患者においてこれらの値が高いことが知られている。γ−GTPやLDHも同様の指標として知られている。従来の血圧降下剤も含め一般に薬物療法では肝障害の副作用リスクが懸念される場合があるが、本発明による有効成分を血圧上昇の予防、治療、改善、あるいは血管内皮機能の改善や向上に用いた場合には、肝障害予防および治療作用も併せ持つという優れた効果を有する。従って本発明による組成物および食品は肝障害予防および治療作用を有する点で有利である。またイソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスは肝障害の予防、治療、または改善に用いることができる。
イソフムロン類は、ヒトにおいて摂取直後からFMDを有意に増強させた(実施例5参照)。このことから、イソフムロン類は血管内皮細胞から産生される一酸化窒素量を増加させている可能性が推定される。また、この効果は血管内皮機能が正常なヒトだけでなく、血管内皮機能が低下しているヒトにおいても認められることから(実施例5参照)、イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスには血管内皮機能の向上と改善の両効果が期待できる。更に、FMDは血管の柔軟性を評価する指標であることからイソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスには血管柔軟性の向上と改善の両効果が期待できる。
従ってイソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスは、血管柔軟性の向上および/または改善を目的として用いることができる。イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスはまた、血管内皮機能の向上および/または改善を目的として用いることができる。イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスは更に、動脈硬化等の血管内皮機能の低下に起因する血管疾患の治療、予防、または改善に用いることができる。
血管柔軟性や血管内皮機能の向上および改善の程度はFMDを指標にして評価することができる。FMDは血管の柔軟性を評価する指標であることから、この値が大きいほど血管の柔軟性が高く、低いほど血管の柔軟性が低いと言える。健常人のFMDは本測定法で約6以上であり、動脈硬化等の血管疾患患者およびその恐れがある者のFMDはそれよりも低値である。動脈硬化等の血管疾患患者およびその恐れがある者のFMDは一般的に4未満であると言われている。
本発明において血管柔軟性や血管内皮機能の「向上」および「改善」とは、健常人、並びに動脈硬化等の血管疾患患者およびその恐れがある者について、それぞれ用いられるものとする。例えば、健常人のFMD値が上昇した場合にはその者の血管柔軟性や血管内皮機能が向上したと判断することができる。また動脈硬化等の血管疾患患者およびその恐れがある者のFMD値が上昇した場合にはその者の血管柔軟性や血管内皮機能が改善されたと判断することができる。
本発明によれば、治療上または予防上有効量のイソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスを哺乳類に投与することを含んでなる血圧降下方法が提供される。
本発明によれば、治療上または予防上有効量のイソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスを哺乳類に投与することを含んでなる高血圧の予防、治療、または改善法が提供される。
本発明によれば、治療上または予防上有効量のイソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスを哺乳類に投与することを含んでなる血管柔軟性の向上または改善方法が提供される。
本発明によれば、治療上または予防上有効量のイソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスを哺乳類に投与することを含んでなる血管内皮機能向上または改善方法が提供される。
本発明によれば、治療上または予防上有効量のイソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスを哺乳類に投与することを含んでなる血管拡張または血流促進方法が提供される。
本発明によればまた、血圧降下用組成物の製造のための、イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスの使用が提供される。
本発明によれば、高血圧の予防、治療、または改善用組成物の製造のための、イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスの使用が提供される。
本発明によれば、血管柔軟性の向上または改善用組成物の製造のための、イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスの使用が提供される。
本発明によれば、血管内皮機能向上または改善用組成物の製造のための、イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスの使用が提供される。
本発明によれば、血管拡張用または血流促進用組成物の製造のための、イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスの使用が提供される。
組成物および食品
本発明による組成物を医薬組成物として提供する場合には、イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスを有効成分として薬学上許容される添加物と混合することにより製造できる。本発明による医薬組成物は、経口投与または非経口投与することができる。経口剤としては、顆粒剤、散剤、錠剤(糖衣錠を含む)、丸剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤が挙げられる。非経口剤としては、注射剤(例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤)、点滴剤、外用剤(例えば、経鼻投与製剤、経皮製剤、軟膏剤)、坐剤(例えば、直腸坐剤、膣坐剤)が挙げられる。これらの製剤は、当分野で通常行われている手法により、薬学上許容される担体を用いて製剤化することができる。薬学上許容される担体としては、賦形剤、結合剤、希釈剤、添加剤、香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤等が挙げられ、例えば、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、砂糖、ラクトース、ペクチン、デキストリン、澱粉、ゼラチン、トラガント、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、低融点ワックス、カカオバターを担体として使用できる。
製剤は、例えば、下記のようにして製造できる。
経口剤は、有効成分に、例えば賦形剤(例えば、乳糖、白糖、デンプン、マンニトール)、崩壊剤(例えば、炭酸カルシウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム)、結合剤(例えば、α化デンプン、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリビニールピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース)または滑沢剤(例えば、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール6000)を添加して圧縮成形し、次いで必要により、味のマスキング、腸溶性あるいは持続性の目的のため自体公知の方法でコーティングすることにより製造することができる。コーティング剤としては、例えばエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ポリオキシエチレングリコール、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートおよびオイドラギット(ローム社製、ドイツ、メタアクリル酸・アクリル酸共重合物)などを用いることができる。
注射剤は、有効成分を分散剤(例えば、ツイーン(Tween)80(アトラスパウダー社製、米国)、HCO60(日光ケミカルズ製)、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウムなど)、保存剤(例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン、ベンジルアルコール、クロロブタノール、フェノール)、等張化剤(例えば、塩化ナトリウム、グリセリン、ソルビトール、ブドウ糖、転化糖)などと共に水性溶剤(例えば、蒸留水、生理的食塩水、リンゲル液等)あるいは油性溶剤(例えば、オリーブ油、ゴマ油、綿実油、コーン油などの植物油、プロピレングリコール)などに溶解、懸濁あるいは乳化することにより製造することができる。この際、所望により溶解補助剤(例えば、サリチル酸ナトリウム、酢酸ナトリウム)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカイン)等の添加物を添加してもよい。
外用剤は、有効成分を固状、半固状または液状の組成物とすることにより製造することができる。例えば、上記固状の組成物は、有効成分をそのまま、あるいは賦形剤(例えば、ラクトース、マンニトール、デンプン、微結晶セルロース、白糖)、増粘剤(例えば、天然ガム類、セルロース誘導体、アクリル酸重合体)などを添加、混合して粉状とすることにより製造できる。上記液状の組成物は、注射剤の場合とほとんど同様にして製造できる。半固状の組成物は、水性または油性のゲル剤、あるいは軟骨状のものがよい。また、これらの組成物は、いずれもpH調節剤(例えば、炭酸、リン酸、クエン酸、塩酸、水酸化ナトリウム)、防腐剤(例えば、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、塩化ベンザルコニウム)などを含んでいてもよい。坐剤は、有効成分を油性または水性の固状、半固状あるいは液状の組成物とすることにより製造できる。該組成物に用いる油性基剤としては、高級脂肪酸のグリセリド〔例えば、カカオ脂、ウイテプゾル類(ダイナマイトノーベル社製)〕、中級脂肪酸〔例えば、ミグリオール類(ダイナマイトノーベル社製)〕、あるいは植物油(例えば、ゴマ油、大豆油、綿実油)が挙げられる。水性基剤としては、ポリエチレングリコール類、プロピレングリコールが挙げられる。また、水性ゲル基剤としては、天然ガム類、セルロース誘導体、ビニール重合体、アクリル酸重合体が挙げられる。
本発明による食品は、イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスを有効量含有した飲食品である。ここで「イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスを有効量含有した」とは、個々の飲食品において通常喫食される量を摂取した場合に、後述するような範囲でイソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスが摂取されるような含有量をいう。本発明による食品にはイソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスをそのままあるいは上記のような組成物の形態で、食品に配合することができる。より具体的には、本発明による食品は、イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスの少なくとも1つあるいは前述するホップの粉砕物若しくは抽出物をそのまま飲食品として調製したもの、各種タンパク質、糖類、脂肪、微量元素、ビタミン類等を更に配合したもの、液状、半液体状若しくは固体状にしたもの、一般の飲食品へ添加したものであってもよい。
本発明において「食品」とは、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、病者用食品を含む意味で用いられる。
また「食品」の形態は特に限定されるものではなく、例えば、飲料の形態であってもよい。
イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスは、血圧降下作用を有するため、日常摂取する食品やサプリメントとして摂取する健康食品や機能性食品、好適には塩分を含有する食品等に本発明の有効成分を配合することにより、高血圧の発症の予防および改善、並びに高血圧予備群の高血圧への移行防止といった機能を併せ持つ食品として提供することができる。すなわち、本発明による食品は、血圧が高めの消費者に適した食品、特に特定保健用食品、として提供することができる。
イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスはまた、血管柔軟性向上および改善作用、血管内皮機能向上および改善作用、並びに血管拡張および血流促進作用を有するため、日常摂取する食品やサプリメントとして摂取する健康食品や機能性食品、好適には脂質や糖質を含有する食品等に本発明の有効成分を配合することにより、血管柔軟性の低下や動脈硬化等の血管内皮機能の低下に起因する血管疾患の発症の予防および改善、動脈硬化予備群の動脈硬化への移行防止、並びに血流の促進といった機能を併せ持つ食品として提供することができる。すなわち、本発明による食品は、血中脂質や血糖値が高いなど心血管疾患の危険度の高い消費者に適した食品、特に特定保健用食品、として提供することができる。
かかる飲食品として具体的には、飯類、麺類、パン類およびパスタ類等炭水化物含有飲食品;クッキーやケーキなどの洋菓子類、饅頭や羊羹等の和菓子類、キャンディー類、ガム類、ヨーグルトやプリンなどの冷菓や氷菓などの各種菓子類;ウイスキー、バーボン、スピリッツ、リキュール、ワイン、果実酒、日本酒、中国酒、焼酎、ビール、アルコール度数1%以下のノンアルコールビール、発泡酒、酎ハイなどのアルコール飲料;果汁入り飲料、野菜汁入り飲料、果汁および野菜汁入り飲料、清涼飲料水、牛乳、豆乳、乳飲料、ドリンクタイプのヨーグルト、コーヒー、ココア、茶飲料、栄養ドリンク、スポーツ飲料、ミネラルウォーターなどの非アルコール飲料;卵を用いた加工品、魚介類(イカ、タコ、貝、ウナギなど)や畜肉(レバー等の臓物を含む)の加工品(珍味を含む)などを例示することができるが、これらに限定されるものではない。
茶飲料としては、例えば、紅茶、緑茶、麦茶、玄米茶、煎茶、玉露茶、ほうじ茶、ウーロン茶、ウコン茶、プーアル茶、ルイボスティー茶、ローズ茶、キク茶、ハーブ茶(例えば、ミント茶、ジャスミン茶)が挙げられる。
果汁入り飲料や果汁および野菜汁入り飲料に用いられる果物としては、例えば、リンゴ、ミカン、ブドウ、バナナ、ナシ、およびウメが挙げられる。また、野菜汁入り飲料や果汁および野菜汁入り飲料に用いられる野菜としては、例えば、トマト、ニンジン、セロリ、キュウリ、およびスイカが挙げられる。
なお、イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスは前述したように肝障害予防作用も有するが、この利点を更に積極的に生かす好ましい態様として、アルコール制限の意味で、実質的にアルコールを含有しない飲食品、即ち、非アルコール飲料等が挙げられる。
イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスあるいはホップの粉砕物または抽出物を一般食品の原料に添加配合して食品として加工して用いる場合は、ホップの苦みが飲食品の味に影響しない範囲で用いるか、あるいは苦味がマスクされるような工夫をすることが好ましい。
本発明による組成物および食品は、人類が飲食品として長年摂取してきたホップ抽出成分またはその誘導物を利用することから、毒性も低く、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、サル等)に対し安全に用いられる。本発明による有効成分の投与量または摂取量は、受容者、受容者の年齢および体重、症状、投与時間、剤形、投与方法、薬剤の組み合わせ等に依存して決定できる。例えば、本発明による有効成分を医薬として経口投与する場合、成人1人当たり0.5〜100mg/kg体重、好ましくは1〜50mg/kg体重、非経口投与する場合は0.05〜50mg/kg体重、好ましくは0.5〜50mg/kg体重の範囲で一日1〜3回に分けて投与することができる。本発明による有効成分と組み合わせて用いる他の作用機序を有する薬剤も、それぞれ臨床上用いられる用量を基準として適宜決定できる。また、食品として摂取する場合に、成人1人1日当たりイソフムロン類換算で30〜6000mgの範囲、好ましくはイソフムロン類換算で60〜3000mgの範囲の摂取量となるようイソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスを食品に配合することができる。
本発明によれば更に、イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスを含んでなる非アルコール飲料であって、イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスがイソフムロン類換算で1日当たり30mg〜6000mg、好ましくは60〜3000mg、の範囲で提供される非アルコール飲料が提供される。この非アルコール飲料は血圧降下作用や血管内皮機能向上・改善作用を有し、かつ肝障害保護作用を有する点で有利である。非アルコール飲料は、好ましくは、茶飲料であることができる。
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明がこれらの実施例に限定されないことは言うまでもない。
参考例1:異性化ホップエキスおよびイソフムロン類の調製
ホップ毬花よりフムロン類を抽出後、フムロン類をイソフムロン類に異性化しカリウム塩化して得られたイソフムロン類の異性化ホップエキス(商品名:ISOHOP R(Botanix社)、以下の例において「ホップエキス」と言う)を以下の例において用いた。このホップエキスにはフムロン類やルプロン類がほとんど含まれていないが、約30%(重量/容量)のイソフムロン類が含まれている。
ホップエキスを塩酸で中和した後、凍結乾燥を行い、凍結乾燥物3.5gをシリカゲルクロマトフラフィー(3.5cm×33cm)で分画した。カラムはヘキサン:酢酸エチル(2:1)で平衡化し、溶出した。その後、減圧乾固し、重量測定を行った後エタノールに溶解した。溶出液はHPLCで純度を確認した。HPLCの条件は、移動層:85%メタノール、15%(1%ギ酸水溶液)、カラム:YMC−ODS−AQ 25×250mm、流速:20ml/分で行った。得られたイソフムロン類には、イソフムロン48%、イソコフムロン37%、イソアドフムロン15%が含まれていた。
参考例2:カプセルの作製
ホップエキスについて、乳酸でpH7.8に調節後、凍結乾燥を行った。カプセルはプラセボ群、ホップエキス群用の2種類を準備した。ホップエキス群用については、上記凍結乾燥後のホップエキスをコーンスターチ、ショ糖脂肪酸エステルで混合した後に、カプセル充填機で充填を行った。一方、プラセボ群用については、コーンスターチにショ糖脂肪酸エステルを混合した後にカプセル充填機で充填を行った。ホップエキス群用については、1カプセルにホップエキス凍結乾燥物100mg、185mgコーンスターチ、5mgショ糖脂肪酸エステルを含むものを、一方プラセボ群用については250mgコーンスターチ、5mgショ糖脂肪酸エステルを含むものである。
実施例1:ヒト被験者に対するホップエキスの効果
被験者については、年齢は43歳〜65歳の男女20名を選定した。選定された被験者は、収縮期血圧が103〜158mmHg、空腹時血糖が110〜146mg/dl、HbA1Cが6.4〜8.0%、BMIが24〜34.4であり、生活日誌を自分で記録できるヒト、および倫理的配慮より試験開始前に試験参加に同意し、同意書に記名捺印、または署名、日付を記入したヒトである。
試験方法としては、ホップエキス群については参考例2で示したホップエキス群用のカプセルを、プラセボ群については参考例2で示したプラセボ群用のカプセルを使用した。ホップエキス群、プラセボ群のいずれも1日2回、時間をわけてそれぞれ1カプセルを摂取した。例えば、昼食後、就寝前の2回等、1日に2カプセルを摂取することとした。摂取期間は合計12週として開始時、4週、8週、12週に一晩絶食後(10時間以上の絶食状態)の翌午前中に採血、および血圧の測定を行った。これらは、全て医師の立会いのもとで実施された。12週の試験期間中に特に随伴症状は観察されなかった。採血時における測定項目としては、体重、収縮期血圧、拡張期血圧、GOT、GPT、γ−GTP、LDHの測定を行った。血液分析については自動血液分析機を用いて行った。データは平均値±SDで表した。統計処理については、Student’s paired t−検定を行った(Stat view,株式会社ヒューリンクス)。
表1に示されるように、体重はプラセボ群では変化がないのに対して、ホップエキス群では摂取8週で有意な減少が観察された(以下本実施例において有意差検定は全て0週に対して行った。*は危険率5%以下、**は危険率1%以下)。

表2に示されるように、収縮期血圧はプラセボ群では0週に比較して、4週、8週、12週のいずれにおいても変化がないのに対して、ホップエキス群は経時的な低下が観察され、いずれも有意な差であった。

表3に示されるように、拡張期血圧についてはプラセボ群、ホップエキス群のいずれについても有意な変化は観察されなかった。

表4に示されるように、GOTについては、プラセボ群では増加傾向が観察されるのに対して、ホップエキス群では減少が観察され摂取8週目において有意な差が観察された。

表5に示されるように、GPTについては、プラセボ群では変化はないのに対して、ホップエキス群では減少傾向が観察され8週においては有意な減少となった。

表6に示されるように、γ−GTPについてはプラセボ群では増加傾向が観察されるものの、ホップエキス群では減少傾向が観察され摂取8週においては有意な差であった。

表7に示されるように、LDHについてはプラセボ群では変化が観察されないのに対して、ホップエキス群では減少傾向が観察され、摂取8週目では有意な差が観察された。

実施例2:自然発症高血圧ラットに対するホップエキスの血圧降下活性
ホップエキス1g/kgを自然発症高血圧ラット(SHR)に経口投与し、血圧降下活性を測定した。また対照区として蒸留水を用いた。そして、試験区、対照区ともに1群4匹で実験を行い、血圧降下活性は次のようにして測定した。SHRの27週齢の雄(チャールズリバー社)に試料または対照をゾンデにより胃内経口投与し、一定時間ごとに38℃で10分〜20分間保温し、収縮期血圧を非観血式血圧測定装置(ソフトロン社製 BP−98A)で測定した。結果を表8に示す。対照区では血圧の変化は認められないものの、試験区では投与後4時間から血圧が降下し始め、10時間後に最大の血圧降下活性(血圧変化量として−14.0mmHg)を示し、24時間後にはもとの血圧まで復帰した。

実施例3:自然発症高血圧ラットに対するイソフムロン類の血圧降下活性
参考例1で精製を行ったイソフムロン類(イソフムロン48%、イソコフムロン37%、イソアドフムロン15%)83.8mg/kgをSHRに経口投与し、血圧降下活性を測定した。また対照区として蒸留水を用いた。また、試験区、対照区ともに1群4匹で実験を行い、22週齢のSHRを用いる以外は実施齢と同様に血圧降下活性を測定した。結果を表9に示す。対照区では血圧の変化は認められないものの、試験区では投与後4時間後と10時間後に血圧が低下し、10時間後に最大の血圧降下活性(血圧変化量として−17.4mmHg)を示し、24時間後にはもとの血圧まで復帰した。

実施例4:イソフムロン類の血管弛緩効果
5匹の雄性Wistarラットをジエチルエーテル麻酔下で放血致死させ、胸部大動脈を摘出し、約3mm長の輪状に切り出し、環状血管標本とした。標本は血管内皮を除去した後、10mLのKrebs−Ringer溶液[組成:NaCl 112mM,KCl 4.7mM,CaCl 2.2mM,NaHCO 25mM,MgCl 1.2mM,KHPO 1.2mM,グルコース 14mM]を満たした器官浴槽に懸垂した。槽内の溶液は37℃に加温し、95%O、5%COガスを通気した。標本には1.5gの静止張力を負荷し、120分間静置した。その後、槽内のKrebs−Ringer溶液を高濃度KCl溶液(80mM)あるいは10−6Mのフェニレフリンを含むKrebs−Ringer溶液に替えることにより、あらかじめ標本を収縮させた。標本の張力が安定するのを確認した後、参考例1で精製を行ったイソフムロン類溶液(イソフムロン48%、イソコフムロン37%、イソアドフムロン15%含有)あるいはその媒体(エタノール水溶液)を累積的に加えた。各標本の張力はトランスデューサーにより測定した。添加物質の弛緩作用は、各実験の最後に添加した10−4Mのパパベリンによる弛緩を100%とし、その相対比で表した。
イソフムロン類(0.003〜0.1mg/mL)は、80mM KClおよびフェニレフリン(10−6M)で収縮させたラット大動脈標本を濃度依存的に弛緩させた(図1および図2)。
また、イソフムロン類による血管弛緩反応は、フェニレフリン収縮標本よりも80mM KCl収縮標本において強く認められた(図3)。
実施例5:ヒト被験者に対するホップエキスの血管内皮機能改善作用
倫理的配慮より試験開始前に試験参加に同意が得られた健常な成人男女10名(平均年齢27.6歳)を被験者として選定した。
血管内皮機能は、異なる2日間を使って同一被験者でホップエキス摂取時とプラセボ摂取時を別々に測定した。プラセボ用ソフトカプセルと、ホップエキス用ソフトカプセルの2種類を定法にしたがって調製した。ホップエキス用カプセルは、1カプセルあたりホップエキス28.3mgを含む。
両試験ともに前日午後9時から絶食させ、水分としては精製水のみを摂取可能とした。翌午前中に、摂取前、体重10kgあたり各ソフトカプセル1錠を摂取して30分後、2時間後の血流依存性血管拡張反応(Flow mediated dilatation:FMD)を各々超音波エコー装置(HDI5000、ATL ULTRASOUND Inc.)を用いて医師が測定した。血流依存性血管拡張反応の%FMDは定法に従い算出した。すなわち、安静時の血管径を測定した後、血圧測定用のマンシェットを用いて前腕を200mmHg以上で5分間駆血、解除後の最大血管径を測定し、下記算出式によって求めた。
%FMD={(最大血管径−安静時血管径)/安静時血管径}×100
得られた結果を図4に示す。この結果から明らかなように、ホップエキス摂取時には摂取後30分後および2時間後に有意な%FMDの上昇が認められるのに対し、プラセボ摂取時には全く変化が無かった。このことから、ホップエキス摂取によって速やかに血管内皮機能が改善されたことがわかる。
健常人の%FMDは約6%以上であったが、測定の結果、今回の被験者の中には血管内皮機能が低下している被験者が3名(F、H、J)含まれていることが明らかとなった。そこで、ソフトカプセル摂取前の値が5以上の概ね正常な被験者7名に対するホップエキスの作用とそれ以下の血管内皮機能が低下している被験者に対する作用を図5に比較した。この結果からわかるように、ホップエキスは正常な被験者の血管内皮機能を向上させた。また、血管内皮機能が低下している被験者に対しても正常なレベルにまで血管内皮機能を改善させた。このことから、ホップエキスは健常なヒトの血管内皮機能をより向上させる効果をもつだけでなく、低下しているヒトの血管内皮機能を正常なレベルに改善する効果も併せもつことがわかる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスを有効成分として含んでなる、血圧降下用組成物。
【請求項2】
イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスを有効成分として含んでなる、高血圧の予防用、治療用、または改善用組成物。
【請求項3】
イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスを有効成分として含んでなる、血管柔軟性向上用または改善用組成物。
【請求項4】
イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスを有効成分として含んでなる、血管内皮機能向上用または改善用組成物。
【請求項5】
イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスを有効成分として含んでなる、血管拡張用または血流促進用組成物。
【請求項6】
イソフムロン類がイソフムロン、イソアドフムロン、イソコフムロン、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
食品の形態で提供される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
食品が飲料である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
飲料が非アルコール飲料である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
食品が、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、または病者用食品である、請求項7〜9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
医薬の形態で提供される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスを哺乳類に投与することを含んでなる、血圧降下方法。
【請求項13】
イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスを哺乳類に投与することを含んでなる、高血圧の予防、治療、または改善方法。
【請求項14】
イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスを哺乳類に投与することを含んでなる、血管柔軟性向上または改善方法。
【請求項15】
イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスを哺乳類に投与することを含んでなる、血管内皮機能向上または改善方法。
【請求項16】
イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスを哺乳類に投与することを含んでなる、血管拡張または血流促進方法。
【請求項17】
イソフムロン類がイソフムロン、イソアドフムロン、イソコフムロン、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項12〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
血圧降下用組成物の製造のための、イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスの使用。
【請求項19】
高血圧の予防用、治療用、または改善用組成物の製造のための、イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスの使用。
【請求項20】
血管柔軟性向上用または改善用組成物の製造のための、イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスの使用。
【請求項21】
血管内皮機能向上用または改善用組成物の製造のための、イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスの使用。
【請求項22】
血管拡張用または血流促進用組成物の製造のための、イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスの使用。
【請求項23】
イソフムロン類がイソフムロン、イソアドフムロン、イソコフムロン、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項18〜22のいずれか一項に記載の使用。
【請求項24】
イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスを含んでなる、血圧降下に用いられる食品。
【請求項25】
イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスを含んでなる、高血圧の予防用、治療用、または改善に用いられる食品。
【請求項26】
イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスを含んでなる、血管柔軟性向上もしくは改善に用いられる食品。
【請求項27】
イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスを含んでなる、血管内皮機能向上もしくは改善に用いられる食品。
【請求項28】
イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスを含んでなる、血管拡張または血流促進に用いられる食品。
【請求項29】
イソフムロン類がイソフムロン、イソアドフムロン、イソコフムロン、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項24〜28のいずれか一項に記載の食品。
【請求項30】
イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスが、イソフムロン類換算で1日当たり30mg〜6000mgの範囲で提供される、請求項24〜29のいずれか一項に記載の食品。
【請求項31】
飲料の形態である、請求項24〜30のいずれか一項に記載の食品。
【請求項32】
飲料が非アルコール飲料である、請求項31に記載の食品。
【請求項33】
健康食品、機能性食品、特定保健用食品、または病者用食品である、請求項24〜32のいずれか一項に記載の食品。
【請求項34】
イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスを含んでなる非アルコール飲料であって、イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスがイソフムロン類換算で1日当たり30mg〜6000mgの範囲で提供される非アルコール飲料。
【請求項35】
イソフムロン類、またはホップエキスおよび/または異性化ホップエキスがイソフムロン類換算で1日当たり60〜3000mgの範囲で提供される、請求項34に記載の非アルコール飲料。
【請求項36】
茶飲料である、請求項34または35に記載の非アルコール飲料。

【国際公開番号】WO2004/064818
【国際公開日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【発行日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−508060(P2005−508060)
【国際出願番号】PCT/JP2004/000324
【国際出願日】平成16年1月16日(2004.1.16)
【出願人】(000253503)麒麟麦酒株式会社 (247)
【Fターム(参考)】