説明

血圧降下材およびその製造方法、ならびに血圧降下作用を有する食品組成物および医薬組成物

【課題】 乳酸発酵卵白を含む血圧降下材およびその製造方法、ならびに血圧降下作用を有する食品組成物および医薬組成物を提供すること。
【解決手段】 本発明の血圧降下材は、乳酸発酵卵白を含む。本発明の血圧降下作用を有する食品組成物は、乳酸発酵卵白を含む。本発明の血圧降下作用を有する医薬組成物は、乳酸発酵卵白を有効成分として含む。本発明の血圧降下材の製造方法は、卵白水溶液に乳酸菌を添加して発酵させる工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸発酵卵白を含む血圧降下材およびその製造方法、ならびに血圧降下作用を有する食品組成物および医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、わが国の高血圧患者は3000万人を越えるといわれている。生活習慣病として位置付けられる高血圧症は、脳梗塞や心筋梗塞等生命の危険に関与する疾病のリスクを向上させるため、大きな医療問題の一つとなっている。脳梗塞や脳血栓症に高血圧症が加わることで、脳内出血のリスクが高まり、生命を脅かす要因となる。また心筋梗塞や心不全等循環器疾患に高血圧症が加わることで、原疾患の増悪を助長し、糖尿病による眼底出血や腎機能障害を重症化する原因となる。高血圧の要因として、遺伝と環境の複合要因が挙げられるが、過度のストレスや偏った食生活、慢性的な運動不足等現代特有の日常生活の習慣が要因となっているため、今後も高血圧患者数は年々増加するものと推察される。
【0003】
そこで、様々な医薬品や食品を経口摂取することにより、血圧を降下させる方法が知られている。例えば医薬品では血管の収縮を緩和する働きのある降圧剤としてカルシウム拮抗剤やアンジオテンシン変換酵素阻害剤やアンジオテンシンII受容体拮抗薬が、交換神経の緊張を緩和する働きのある降圧剤としてα遮断薬やβ遮断薬が、また体内ナトリウムを排泄する作用のある利尿薬が知られている。また、天然物として大豆、乳、魚介類やその分解物、リンゴやバナナ等果物類、しいたけ等キノコ類等多くの食品の特有成分が降圧作用を有することが周知である。例えば特公平6−47551号公報には乳酸桿菌菌体の水抽出物、特にその低分子量領域に降圧作用を有する有効成分が含有されていることが開示されている。しかしこのような天然物の微量成分が有効成分である場合、有効量たる一定量を継続的に摂取することは困難であり、また特殊な微生物により得られる生理活性成分はこれまで食経験がなく、特殊な方法以外では入手しづらく、高価なものであることが多い。
【0004】
そこで、特許文献1、特許文献2には卵白を酵素分解することにより降圧作用を有する活性成分を得られることが開示されている。しかし、有効なペプチドは特定されておらず、有効成分を特異的に抽出する方法は記載されていない。そのため降圧効果を期待する有効量を得るのが困難と想定される。また特許文献3にはヨーグルトを特定の方法で乳酸発酵する際、血圧降下に有効なγ‐アミノ酪酸を効率よく生産する方法が開示されている。しかしγ‐アミノ酪酸は神経伝達抑制に対し緩和的に作用するため、その降圧効果は弱く、充分なものではない。またヨーグルト特有の風味から広く食品に用いることは困難である。そこで、日々無理なく摂取できる一般的な食品素材であり、しかも臨床的に血圧降下作用を有する食品の発明が期待される。
【特許文献1】特開平3−280835号公報
【特許文献2】特許第3031693号公報
【特許文献3】特開平10−295394号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、摂食により、収縮期血圧を持続的に低下させる作用を有し、しかも風味に優れ、また食品に添加した際食品の風味を損なうことなく調製することが可能な、乳酸発酵卵白を含む血圧降下材を提供することである。
【0006】
また、本発明の目的は、前記血圧降下材を含む、血圧降下作用を有する食品組成物および医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記目的を達成すべく、卵白の乳酸発酵物の生理機能について鋭意研究を重ねた結果、意外にも収縮期血圧を持続的に低下させる作用を有し、しかも風味に優れた組成物が調製可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
(1)本発明の血圧降下材は、乳酸発酵卵白を含む。
【0009】
ここで、上記本発明の血圧降下材において、前記乳酸発酵卵白は、卵白および乳酸菌資化性糖類を含む水溶液に乳酸菌を添加して発酵させることにより得ることができる。
【0010】
(2)本発明の血圧降下作用を有する食品組成物は、上記本発明の血圧降下材を含む。
【0011】
ここで、上記本発明の血圧降下作用を有する食品組成物において、「血圧が降下する」旨を表示に付すことができる。
【0012】
(3)本発明の血圧降下作用を有する医薬組成物は、上記本発明の血圧降下材を有効成分として含む。
【0013】
(4)本発明の血圧降下材の製造方法は、卵白および乳酸菌資化性糖類を含む水溶液に乳酸菌を添加して発酵させる工程を含む。
【0014】
ここで、上記本発明の血圧降下材の製造方法において、前記発酵させる工程を行なう前に、前記水溶液を加熱する工程をさらに含むことができる。
【0015】
また、ここで、上記本発明の血圧降下材の製造方法において、前記発酵させる工程により得られた発酵物を均質化する工程をさらに含むことができる。
【0016】
また、ここで、上記本発明の血圧降下材の製造方法において、前記水溶液はさらに、卵黄を0.05〜5質量%含むことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の血圧降下材は、収縮期血圧を持続的に低下させる作用を有し、しかも風味に優れることより、有用な血圧降下材を得ることができる。また、本発明の血圧降下材を用いることにより、無理なく摂食または摂取可能な食品組成物または医薬組成物を得ることができる。
【0018】
本発明の食品組成物および医薬組成物は安全性が高く、食感および風味に優れており、かつ、優れた血圧降下作用を有する。本発明の食品組成物または医薬組成物を摂食または摂取することにより、高血圧症を予防または改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明について説明する。なお、本発明において、「%」は「質量%」を意味する。
【0020】
1.血圧降下材およびその製造方法
1.1.血圧降下材
本発明の血圧降下材は、乳酸発酵卵白を含む。すなわち、乳酸発酵卵白は血圧降下材として使用可能である。本発明において、乳酸発酵卵白は、卵白および乳酸菌資化性糖類を含む水溶液に乳酸菌を添加して発酵させることにより得られる。
【0021】
乳酸発酵卵白は、収縮期血圧を持続的に低下させる作用を有する。そのうえ、乳酸発酵卵白は卵特有の臭いが少なく、食感が良くかつ美味である。
【0022】
本発明において、卵白とは、鶏等鳥類の卵を割卵し卵黄を分離したものであり、工業的に得られるもの、またこれを殺菌、凍結したもの、濃縮または希釈したもの、特定の成分、例えばリゾチームやアビジンを除去したもの、乾燥させたものを水戻ししたもの、等を含む。効果に影響を及ぼさない程度に卵黄やその他の卵由来の成分を含んでいても差し支えない。
【0023】
本発明において、乳酸発酵とは、乳酸菌を1mLあたり好ましくは10〜10、さらに好ましくは10〜10供し発酵することをいう。これに供される乳酸菌は特に限定されず、ヨーグルトやチーズ製造に利用されるラクトバチルス属(例えば、Lactobacillus bulgaricus等)、ストレプトコッカス属(例えば、Streptococcus thermophilus, Streptococcus diacetylactis等)、ラクトコッカス属(例えば、Lactococcus lactis等)、ロイコノストック属(例えば、Leuconostoc cremoris等)、エンテロコッカス属(例えば、Enterococcus faecalis等)等が例示できる。
【0024】
本発明において、乳酸発酵卵白が収縮期血圧を持続的に低下させる作用を有する作用機序は明らかではないが、卵白が乳酸発酵の際血圧降下作用を有するペプチドが生成する可能性が示唆される。しかし、卵白蛋白質は乳酸菌に資化される率は極めて低いことが知られており、得られるペプチドが降圧効果に著効を示す可能性は低いと考えられる。そこで乳酸発酵された卵白が摂取され消化管内において、著効を示す生理活性物質が分解生成されるのではないかと考えられる。また、乳酸菌の降圧効果が強い相乗効果を奏することにより、結果的に有効に降圧効果を発揮できるものと推察される。
【0025】
一方、例えば特開平6−40944号公報、特開平6−197786号公報、特許第3364579号公報には、特定のペプチドを含有する培地で培養した乳酸菌により降圧作用を有するアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害ペプチドを生成する方法が開示されている。ACEは組織細胞内に存在し、レニンにより分解したアンジオテンシンIに作用してC末端よりジペプチドを遊離させ、強力な血圧上昇作用を有するアンジオテンシンIIを生成させる。また、この酵素は、降圧作用を有するブラジキニンを分解し、不活性化する作用を合わせ持つ。このようにACEは、昇圧ペプチド(アンジオテンシンII)を生じさせると共に、一方では降圧ペプチド(ブラジキニン)を分解、不活性化するので、結果として血圧を上昇させる作用を示す。従って、この酵素活性を阻害することにより、血圧上昇が抑制させる。上記の特定のペプチドはACE阻害作用により血圧上昇を抑制すると考察している。また特許2676250号公報、特許2687229号公報には乳酸菌やビフィズス菌生菌体の熱水可溶成分に有効成分が存在していると考察している。中でも比較的高分子の糖、蛋白質、核酸等に有効性が存在するものと考察している。
【0026】
すなわち、ペプチドに存在する特定のアミノ酸配列や乳酸菌が産生する特定の高分子物質が降圧作用を示すと考えられる。
【0027】
これに対して、本発明にかかる乳酸発酵卵白の摂取による血圧降下作用は、特定ペプチドを精製単離することなしに、また菌体生成物を生成単離することなしに、通常食される卵白を原料として、食品製造法として一般的な乳酸発酵法により得られる通常の食品形態にて、非常に降圧効果の高い、しかも持続性のある効果を得ることができた。これは、乳酸発酵卵白が、単なる微量生成するペプチドや乳酸菌体成分のみの効果ではないと考えられる。
【0028】
すなわち、乳酸発酵卵白の摂取による血圧降下作用は、生理活性ペプチドや乳酸菌体のみの摂取による同効果の作用機序とは異なる作用機序によるものと推察される。
【0029】
本発明において、本発明の血圧降下材は種々の形態(例えば、マイクロコロイド状、粉末状、クリーム状、ペースト状、ゼリー状)を有することができる。すなわち、乳酸発酵卵白を用途に応じて適切な形態に加工することにより、血圧降下材を種々の形態にて得ることができる。
【0030】
例えば、卵白および乳酸菌資化性糖類を含む水溶液に乳酸菌を添加して発酵させた後、均質化することにより、マイクロコロイド状の乳酸発酵卵白を得ることができる(詳しくは後述する)。このマイクロコロイド状の乳酸発酵卵白を用いて後述する食品組成物または医薬組成物を製造することにより、食品組成物または医薬組成物中に乳酸発酵卵白を均一に分散させることができる。
【0031】
あるいは、例えば、このマイクロコロイド状の乳酸発酵卵白を乾燥(例えば、凍結乾燥,噴霧乾燥,真空乾燥)することにより、本発明の乳酸発酵卵白を粉末として得ることもできる。粉末状の乳酸発酵卵白は重量が軽いため、取り扱いが容易である。また、食品組成物または医薬組成物中に粉末状の乳酸発酵卵白を添加することにより、乳酸発酵卵白を均一に分散させることができる。
【0032】
本発明の血圧降下材は、食品、医薬品、飼料等の配合成分の一つとして使用してもよく、あるいはそのまま食品、医薬品、飼料等として使用してもよい。
【0033】
すなわち、本発明の血圧降下材は、後述する食品組成物や医薬組成物の成分として使用することができる。また、上述したように、乳酸発酵卵白は卵特有の臭いが少なく、食感が良くかつ美味であるため、後述する食品組成物や医薬組成物の成分として使用することにより、摂食時に食感や臭いに違和感を生じさせたり、他の成分の風味を害したりすることがない。
【0034】
本発明の血圧降下材が使用可能な食品組成物および医薬組成物のpHは特に限定されない。また、本発明の血圧降下材を用いた食品組成物および医薬組成物は、ヒトおよびヒト以外の動物に摂取させることにより使用可能である。
【0035】
1.2.本発明の血圧降下材の製造方法
本発明の血圧降下材の製造方法は、卵白および乳酸菌資化性糖類を含む水溶液に乳酸菌を添加して発酵させる工程を含む。この工程により乳酸発酵卵白を得ることができる。
【0036】
上記発酵工程において、乳酸発酵の温度は25〜50℃が好ましく、使用する乳酸菌の培養至適温度がさらに好ましい。また、乳酸発酵の程度は、発酵終了時の乳酸酸度が0.3〜2%である程度が好ましい。
【0037】
卵白を乳酸発酵させる際、乳酸菌資化性糖類を添加することにより、発酵効率を改善させることができる。乳酸菌資化性糖類としては、例えば、単糖類(グルコース、ガラクトース、フルクトース、マンノース、N−アセチルグルコサミンなど)、二糖類(ラクトース、マルトース、スクロース、セルビオース、トレハロースなど)、オリゴ糖類(特に3〜5個の単糖類が結合しているもの)、ブドウ糖果糖液糖を単独でまたは2種以上を組み合わせて添加することができる。乳酸菌資化性糖類の添加量は水溶液の1〜15%が好ましく、2〜10%がさらに好ましい。1%未満では乳酸菌資化性糖類不足により発酵が十分には進行しない場合があり、一方、15%を超えると浸透圧上昇により発酵が進行しにくくなる場合がある。
【0038】
また、卵白および乳酸菌資化性糖類を含む水溶液はさらに、卵黄を0.05〜5質量%含むことができ、0.5〜2質量%含むことがより好ましい。前記水溶液において卵黄の含有量が0.05〜5質量%であることにより、乳酸発酵をさらに促進させることができる。卵黄の質量が5質量%を超えると風味が損なわれる場合があり、一方、卵黄の質量が0.05質量%未満であると、乳酸発酵を促進させるのに十分ではない場合がある。
【0039】
さらに、前記水溶液に他の発酵促進物質を添加して乳酸発酵させてもよい。発酵促進物質としては、発酵を促進するための成分、例えば、ビタミン(ニコチン酸、パントテン酸、ビオチンなど)、アミノ酸、または核酸を含んでいるものであれば特に限定されない。発酵促進物質の例としては、酵母エキス、肉エキス、カゼイン加水分解物、ビタミン類、補酵素類、ミネラル類を挙げることができる。
【0040】
さらに、上記発酵させる工程を行なう前に、卵白および乳酸菌資化性糖類を含む水溶液を加熱する工程をさらに含むことができる。前記加熱工程により、微生物増殖抑制因子(乳酸菌の増殖および/または発酵を抑制する因子)を失活させることができる。
【0041】
加熱工程における温度は、60〜110℃が好ましく、70〜95℃がさらに好ましい。60℃未満では卵白中に存在する微生物増殖抑制因子の失活が不十分で発酵不十分となる場合があり、110℃を越えると熱変性が進みすぎ、褐変や焦げ付きにより工業的利用が困難になる場合がある。
【0042】
前記加熱工程において、例えば60〜110℃で10〜60分間加熱することにより、卵白を加熱変性させることができる。ここで、卵白の加熱変性とは、卵白の物性に変化を与えることをいい、例えば卵白の凝集または凝固などのことをいい、高温であればあるほど加熱時間は短くてよい。卵白を加熱変性させることにより、リゾチーム等の乳酸菌増殖抑制因子を失活させ、乳酸発酵を円滑に促進する効果がある。
【0043】
さらに、上記発酵させる工程により得られた発酵物を均質化する工程を含むことができる。本発明において「均質化」とは、卵白および乳酸菌資化性糖類を含む水溶液を乳酸発酵させて発酵物を得、この発酵物に物理的な外力を付加することにより、該発酵物中の成分を均質に分散することをいう。
【0044】
物理的な外力を付加する方法としては、特に限定されないが、例えば、ストレーナーによる裏漉しやポンプ等による攪拌、高圧ホモジナイザー等による加圧等が例示できる。中でも、高圧ホモジナイザーによる加圧破砕が工業的に好ましく、その圧力は10〜80MPaが好ましく、30〜60MPaがさらに好ましい。
【0045】
均質化処理により得られる乳酸発酵卵白の平均粒径は30μm以下であることが好ましく、15μm以下であることがより好ましい。平均粒径が30μm以下であることにより、食品組成物または医薬組成物中に乳酸発酵卵白を均一に分散させることができ、かつ、滑らかな食感に調製することが可能となる。
【0046】
本発明の血圧降下材の代表的な製造方法を以下に示す。卵白タンパク質2〜8%、乳酸菌資化性糖類1〜15%、および発酵促進物質0.5〜10%を水に加え、乳酸を用いてpH5〜7.5にpH調整する。得られた仕込み液を60〜110℃で10分間加熱した後、Lactobacillus bulgaricus およびStreptococcus thermophilusを含む乳酸菌スターターを1mLあたり10〜10になるよう添加し、25〜50℃で8〜48時間発酵する。発酵終了後、高圧下で発酵物を均質化処理する。具体的には、発酵物を10〜80MPaの圧力にてホモゲナイズ処理することにより均質化処理を行ない、クリーム状の乳酸発酵卵白を得る。
【0047】
2.食品組成物
本発明の血圧降下作用を有する食品組成物(以下、単に「食品組成物」ともいう)は、本発明の血圧降下材を含む。すなわち、本発明の食品組成物は乳酸発酵卵白を含む。本発明の食品組成物に添加する乳酸発酵卵白の形態は、用途に応じて選択することができる。
【0048】
また、本発明の食品組成物には、「血圧が降下する」旨を表示に付すことができる。すなわち、本発明の食品組成物は、厚生労働省から許可される特定保健用食品としての利用可能性を有する。
【0049】
本発明の食品組成物の態様は特に限定されないが、例えば、加工食品であることができる。加工食品としては、例えば、菓子類、豆類の調製品、マヨネーズ、ドレッシング類、酪農製品(乳飲料、発酵乳、乳酸菌飲料、乳製品乳酸菌飲料など)、加工卵製品、調理食品、飲料(清涼飲料など)等が挙げられる。
【0050】
また、本発明の食品組成物を有効成分として、食品製剤(サプリメント)を調製することができる。この場合、種々の食品素材または飲料品素材を添加することによって、例えば、粉末状、錠剤状、カプセル状、液状(ドリンク剤など)などの形態の食品製剤とすることができる。また、この食品製剤には、基材、賦形剤、添加剤、副素材、増量剤などを適宜添加してもよい。
【0051】
本発明の食品組成物は、他の血圧降下材を含有する食品の摂食中に摂取してもよいし、あるいは他の血圧降下材を含有する食品の摂食前または摂食後に摂取してもよい。または、他の血圧降下材を含有する食品の摂取前に、該食品と混合してからともに摂食してもよい。
【0052】
3.医薬組成物
本発明の血圧降下作用を有する医薬組成物(以下、単に「医薬組成物」ともいう)は、血圧降下材を有効成分として含む。すなわち、本発明の血圧降下作用を有する医薬組成物は、乳酸発酵卵白を有効成分として含む。
【0053】
本発明の医薬品組成物の投与形態は特に限定されないが、例えば、経口投与、経管投与などが挙げられる。投与時期は例えば、食前、食後、食間のいずれかであってもよい。また、投与回数は例えば1日1〜数回である。
【0054】
本発明の組成物の剤型は特に限定されないが、経口剤であることができる。例えば、上述した本発明の血圧降下材を含む材料を下記剤型に加工することができる。
【0055】
経口剤としては、例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、液剤、シロップ剤、ドリンク剤などの内服剤が挙げられる。この場合、本発明の医薬組成物は、本発明の血圧降下材とともに、結合剤、賦形剤、膨化剤、滑沢剤、甘味剤、香味剤などを含むことができる。ここで、錠剤は、シェラックまたは砂糖で被覆することもできる。また、カプセル剤は、上記の材料にさらに油脂などの液体担体を含有させることができる。シロップ剤およびドリンク剤には、甘味剤、防腐剤、色素香味剤などを含有させてもよい。
【0056】
4.実施例
次に、本発明を実施例及び試験例に基づき、さらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、マイクロコロイド状の乳酸発酵卵白中の粒子の粒径は以下の方法にて測定した。
測定方法:粒子にレーザ光を照射した時の回折/散乱光の光強度分布パターンから粒子の大きさおよび粒度分布を解析した。
測定装置:島津レーザ回折式粒度分布測定装置SALD−200V((株)島津製作所)
【0057】
4.1.実施例1
液卵白34%、ショ糖6%、卵黄0.5%、酵母エキス0.05%、50%乳酸0.15%、および水59.3%からなる水相3kgを攪拌してクリームミックスを調製した。得られたクリームミックスを75℃で10分間加熱した後、乳酸菌スターター0.01%(Lactobacillus bulgaricus 、Streptococcus thermophilus)を添加し、42℃で24時間発酵を行なった後、70〜90℃で加熱殺菌することにより、pH4.2のヨーグルト様の芳香成分を含む発酵物を得た。この乳酸酸度は0.7%であった。この発酵物を、高圧ホモジナイザーを用いて30MPaの圧力で加圧破砕し、平均粒経0.1〜2.0μmのマイクロコロイド状の乳酸発酵卵白を得た。
【0058】
4.2.実施例2
液卵白50%、ぶどう糖果糖液糖9%、酵母エキス0.05%、脱脂粉乳0.5%、50%乳酸0.15%、および水40.3%からなる水相3kgを攪拌してクリームミックスを調製した。得られたクリームミックスを75℃で10分間加熱した後、乳酸菌スターター0.01%(Lactococcus lactis subsp. lactis、Leuconostoc mesenteroides subsp. cremoris、Streptococcus diacetylactis、Lactococcus lactis subsp. cremoris)を添加し、30℃で24時間発酵を行なった後、70〜90℃で加熱殺菌することにより、pH4.2〜4.5のサワークリーム様の芳香成分を含む発酵物を得た。この乳酸酸度は0.6%であった。この発酵物を、高圧ホモジナイザーを用いて50MPaの圧力で加圧破砕し、平均粒経0.1〜2.0μmのマイクロコロイド状の乳酸発酵卵白を得た。
【0059】
4.3.試験例1
次に、実施例1で得られた乳酸発酵卵白を凍結乾燥し、動物実験の試料に供し、血圧降下作用を確認した。以下、試験方法、評価項目および測定方法、ならびに試験結果を示す。
【0060】
4.3.1.試験方法
4.3.1−1.試験動物
ラット:高血圧発症ラット(SHR)、雄、試験時15〜16週齢、日本エスエルシー(株)より購入
【0061】
4.3.1−2.試験試料
乳酸発酵卵白:実施例1にて得られた乳酸発酵卵白を凍結乾燥したものを用いた(乾燥減量2.4%)。
陽性対照:「アミールS(ハンディタブ)」(カルピス(株)社製)
上記陽性対照は乳由来のトリペプチド「Val-Pro-Pro」および「Ile-Pro-Pro」を有効成分とし、高血圧改善を謳った特定保健用食品認可の固形状(錠剤の形態)食品である。
【0062】
4.3.1−3.試験群
(A)対照群:56.9mg/gのグルコース溶液を10g/kg Body Weight(以下BW)投与した群…10匹
(B)陽性対照群:100mg/gに調製したアミールS水溶液を10g/kg BW投与した群…10匹
(C)乳酸発酵卵白群:100mg/gに調製した乳酸発酵卵白溶液を10g/kg BW投与した群…10匹
【0063】
4.3.1−4.試料の調製
乳酸発酵卵白およびアミールSを100mg/gとなるように蒸留水に懸濁し、投与試料とした。また、乳酸発酵卵白には56.9%の炭水化物が含まれているため、56.9mg/gとなるように蒸留水に溶解したグルコース溶液を乳酸発酵卵白の対照試料とした。
【0064】
4.3.2.試験内容
4.3.2−1.血圧の測定
ラットを搬入後、約1ヵ月間、環境および血圧測定操作に馴化させた。その後、試料投与の4時間前(7:00)から絶食させ、乳酸発酵卵白溶液を10g/kg BWずつ5匹のラットに胃ゾンデを用いて胃内投与し0、2、4、6、8時間目の血圧を測定した。対照群には同量のグルコース溶液を胃内投与した。
【0065】
血圧の測定には、無加温型非観血式血圧測定装置(BP MONITOR FOR MICE&RATS MODEL MK-200;室町機械(株))を使用し、収縮期血圧を尾部で測定した。3日後に投与試料をクロスオーバーさせて同様の試験を行った(各群計10匹)。
【0066】
4.3.2−2.評価方法
測定値はそれぞれ平均値±標準誤差で示した。
【0067】
群間の比較については測定時間ごとに3群内で一元配置分散分析を行い、有意差が認められた場合にはTukeyによる多重比較検定を行った。またP<0.05をもって有意差ありとした。
【0068】
4.3.3.試験結果
4.3.3−1.血圧の経時的測定結果
表1に0、2、4、6、8時間目の血圧を測定結果を、表2には0時間目を0とした血圧の変化を示した。またこれを図1および図2にグラフとして表した。
【0069】
表1および表2によれば、(C)乳酸発酵卵白群は(A)対照群および(B)陽性対照群の間で、5%以内の危険率で有意差が認められた。
【0070】
【表1】

【0071】
【表2】

【0072】
以上のように高血圧モデルであるSHRを用いた単回投与の試験結果より、発酵卵白群は、対照群さらには陽性対照群に比べ、収縮期血圧を持続的に低下させる効果を有することが確認できた。
【0073】
4.4.応用例1
実施例1で得られたマイクロコロイド状の乳酸発酵卵白を凍結乾燥し、適量の乳糖と混合したものを打錠機にてタブレット状に製し、医薬組成物を調製した。
【0074】
4.5.応用例2
応用例1で得られたタブレットにコーティングパンを用い、常法で糖衣し、糖衣錠タイプの高血圧対応食品を得た。この包装表面に「血圧上昇を抑制する食品」である旨、および「継続的に摂取することにより高血圧症状を改善する作用がある」旨を付記した。
【0075】
4.6.応用例3
以下の配合により、実施例1で得られた乳酸発酵卵白を配合したゼリーを調製した。
【0076】
(組成)
乳酸発酵卵白 5%
洋梨果汁(濃縮還元) 10%
ぶどう糖・果糖液糖 8%
甘味料 0.1%
酸味料 0.3%
ゲル化剤 0.7%
洋梨香料 0.1%
上記成分に清水を添加することにより、上記成分の合計質量を100%とした。これを120mL容のプリンカップにホットパック(充填温度95℃)し、密封シール後冷却することにより、本応用例の乳酸発酵卵白配合ゼリーを得た。本応用例の乳酸発酵卵白配合ゼリーを試食したところ、風味・食感が良好であった。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】(A)対照群(B)陽性対照群と(C)乳酸卵白群における、試料投与後2時間置きに測定した収縮期血圧(mmHg)(*:p<0.05)
【図2】(A)対照群(B)陽性対照群と(C)乳酸卵白群における、試料投与前を0とした時の収縮期血圧の変化量(mmHg)(*:p<0.05)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸発酵卵白を含む、血圧降下材。
【請求項2】
請求項1において、
前記乳酸発酵卵白は、卵白および乳酸菌資化性糖類を含む水溶液に乳酸菌を添加して発酵させることにより得られる、血圧降下材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の血圧降下材を含む、血圧降下作用を有する食品組成物。
【請求項4】
請求項3において、
「血圧が降下する」旨が表示に付された、血圧降下作用を有する食品組成物。
【請求項5】
請求項1または2に記載の血圧降下材を有効成分として含む、血圧降下作用を有する医薬組成物。
【請求項6】
卵白および乳酸菌資化性糖類を含む水溶液に乳酸菌を添加して発酵させる工程を含む、血圧降下材の製造方法。
【請求項7】
請求項6において、
前記発酵させる工程を行なう前に、前記水溶液を加熱する工程をさらに含む、血圧降下材の製造方法。
【請求項8】
請求項6または7において、
前記発酵させる工程により得られた発酵物を均質化する工程をさらに含む、血圧降下材の製造方法。
【請求項9】
請求項6ないし8のいずれかにおいて、
前記水溶液はさらに、卵黄を0.05〜5質量%含む、血圧降下材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−273744(P2006−273744A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−94186(P2005−94186)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000001421)キユーピー株式会社 (657)
【Fターム(参考)】