説明

血小板凝集能測定方法及び装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、血小板の凝集能測定方法及び装置に関し、特に初期凝集及び低濃度凝集惹起剤による僅かな凝集形成を測定できるようにした血小板凝集能測定方法及び装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来の血小板凝集能測定装置では、血小板溶液を入れた試料セル中でスターラーバーと呼ばれる棒状の撹拌部材を通常1000rpmで一方向に回転させて血小板溶液を撹拌し、これに光を照射して、その透過光及び散乱光の強度の変化により血小板凝集能を測定している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところが、従来の技術では凝集惹起剤によって発現する血小板の変形と凝集の両方による光強度変化を測定しており、凝集による変化のみを測定していない。即ち、血小板の変形による透過光量の減少と凝集による透過光量の増加の和が測定されるため、凝集のみを測定することはできない。特に、血小板の変形は凝集に先だって生じるため、血小板の初期凝集や低濃度の凝集惹起剤による僅かな凝集変化の測定は従来技術では不可能である。実際、従来では30〜40%の血小板が凝集してもその変化を捉えることができなかった。
【0004】その原因の一つは、従来の試料撹拌方法にある。つまり、血小板溶液の撹伴は凝集惹起剤による血小板凝集を発現させるために不可欠であるが、従来では円筒ガラスセルにいれたPRP(Platelet Rich Plasma)や洗浄血小板浮遊液などの血小板を含む溶液を撹拌するために、セル内にスターラーバーを入れ、これを一方向に通常1000rpmで回転させて行っている。
【0005】ところが、血小板は偏平楕円形の血球であるため、その偏平楕円面の向きは撹拌による溶液の流れの方向に沿うので、一方向の回転撹拌では血小板が偏平楕円面を一定方向に向けて撹拌される。このため、血小板溶液をいれたガラスセルに光を照射し、その透過光量及び散乱光量を受光して測定する血小板凝集測定では、偏平楕円形の血小板が変形して球形になると、受光量は凝集による変化とは反対方向に変化することになる。
【0006】従って、血小板初期凝集や低濃度凝集惹起剤による僅かな凝集変化を測定するために受光部の測定感度を向上させても、真の凝集変化を測定することはできない。また、従来技術では回転撹拌時の受光量と撹拌停止時の受光量が異なることになる。
【0007】そこで本発明の課題は、上記のような従来技術の欠点を解消し、初期凝集及び低濃度凝集惹起剤による僅かな凝集形成を正確に測定できる血小板凝集能測定方法及び装置を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記の課題を解決するため、本発明によれば、血小板溶液を撹拌し、該溶液に光を照射して透過光及び散乱光の強度変化により血小板凝集能を測定する血小板凝集能測定方法において、前記血小板溶液の撹拌は、該溶液中の血小板の偏平楕円面の向きが不定になるように行なう方法を採用した。
【0009】また本発明によれば、血小板溶液とともに磁性体からなる撹拌部材を入れた試料セルの近傍でマグネットを駆動することにより、前記撹拌部材を動かして血小板溶液を撹拌し、該溶液に光を照射して透過光及び散乱光の強度変化により血小板凝集能を測定する血小板凝集能測定装置において、前記マグネットを駆動する駆動手段は前記マグネットを交互に正逆方向に所定角度ずつ回転駆動する、若しくは前記マグネットを振動させるように構成した。
【0010】
【作用】上記の本発明の方法によれば、血小板溶液の撹拌による血小板の偏平楕円面の向きが不定であるため、前述した血小板の変形があってもそれによる透過光及び散乱光の強度変化はない。
【0011】また上記の本発明の装置によれば、上記撹拌部材を交互に正逆方向に回転駆動する、若しくは振動させて血小板溶液を撹拌することになるので、その撹拌による血小板の溶液の流れの向きは不定、ランダムであり、前記流れによる血小板の偏平楕円面の向きも不定になる。
【0012】
【実施例】以下、図を参照して本発明の実施例を説明する。
【0013】[第1実施例]図1は本発明の第1実施例による血小板凝集能測定装置の要部の構成を示している。
【0014】図1に示すように、装置のホルダ部20に形成された穴20a内に、血小板溶液7をいれた透明な試料セル3がセットされる。試料セル3はガラスから円筒形に形成されており、その底に磁性体からなる細棒状の撹拌部材であるスターラーバー4が水平に置かれている。穴20aの両側には、血小板溶液7に光を照射する光源5と、その照射光の溶液7を透過する透過光および散乱光を受光する受光素子6が配置されている。また、ホルダ部20の下方にはDCモータ1が設けられており、その回転軸にはマグネット2が固着され、穴20aの真下に配置されている。
【0015】次に図1の構成による測定動作を説明する。測定時には、符号8で示す正負のモータ駆動パルスによりDCモータ1を周期的に交互に正逆の両方向に所定角度ずつ回転駆動する。これによりマグネット2が交互に正逆方向に所定角度ずつ回転され、その磁力によりスターラーバー4が矢印のように両方向に交互に回転し、血小板溶液7を撹拌する。この撹拌による血小板溶液7の流れはランダムつまり不定なものとなる。
【0016】そして光源5を点灯し、その照射光の血小板溶液7を透過する透過光および散乱光を受光素子6で受光してその強度を検出し、その強度変化により血小板凝集能を測定する。
【0017】ここで撹拌条件としては、(1)撹拌時と撹拌停止時とで透過光、散乱光強度に差がなく、(2)最大凝集を引き起こす濃度の凝集惹起剤、例えば、ADP(adenosin diphosphate)を2〜4マイクロモル添加して3〜5分後に80〜90%の最大凝集が発現し、(3)従来法と同じ凝集曲線が得られる、条件を選択する。
【0018】即ち、このような撹拌条件を満たすために、試料セル3の大きさ、血小板溶液7の量、スターラーバー4の大きさ、撹拌の回転角度および周期を選択する。
【0019】例えば、内径7×高さ50mmの試料セルに300μlの血小板溶液(血小板数:10の8乗個/ml)を入れ、外径1×長さ5mmのスターラーバーを用いて、撹拌の回転角度85度、周期20Hzで測定実験を行なった。それによる測定例と従来装置で一方向回転撹拌(1000rpm)による測定例の結果を図2、図3に示す。なお、これはウサギから採取した血小板の凝集の測定例であり、図2は撹拌方法の差異による血小板の偏平楕円面と変形の透過光(及び散乱光)強度に対する影響を示し、図3は凝集惹起剤トロンビンによる血小板凝集の透過光(及び散乱光)強度の変化を示している。なお両図中で(A−1)〜(A−4)は従来装置の測定例、(B−1)〜(B−4)は本実施例の測定例を示す。
【0020】図2の(A−1)から明らかなように、従来装置の測定例において、透過光強度は撹拌開始により上昇して撹拌停止により減少し、血小板の偏平楕円面が一定の向きを持って撹拌されていることがわかる。また(A−2)に示すように、EGTAを含む無Ca2+液中で凝集が生じないようにしてトロンビンを0.3unit/ml添加すると、透過光量は減少し、血小板の変形による透過光量変化が測定されていることがわかる。
【0021】一方、(B−1)に示すように、本実施例の測定例では、撹拌の開始と停止による透過光量の変化はなく、血小板の偏平楕円面の向きが不定、ランダムな状態で撹拌されていることがわかる。また(B−2)に示すように、EGTAを含む無Ca2+液中でトロンビンを作用させてもその前後で透過光量に変化はなく、血小板の変形による透過光量変化が測定されていないことがわかり、血小板の凝集による光量変化のみ測定されることが確認される。
【0022】また図3の(A−3)に示すように、従来装置ではトロンビン0.3unit/mlの添加により透過光量は減少した後に増加し、血小板の変形と凝集による変化が重なって測定されていることがわかる。
【0023】これに対し(B−3)に示すように、本実施例では、血小板凝集による凝集塊発現に伴う透過光量変化のみ測定され、且つ、従来法と同じ凝集曲線が得られることがわかる。
【0024】よって、本実施例の測定装置によれば、初期凝集発現までの遅延時間及び凝集発現の初期速度が正確に測定でき、従来技術で測定される最大凝集率と最大凝集速度を含めた多くの測定項目の測定ができるようになる。
【0025】また図3の(A−4)に示すように、低濃度トロンビン0.01unit/mlの添加により、光学顕微鏡の観察では凝集が生じているにもかかわらず、従来装置では透過光量の増加は観察されず、むしろ血小板の変形による透過光量の減少が見られる。
【0026】これに対し、(B−4)に示すように、本実施例装置では低濃度トロンビン0.01unit/mlの添加で発現する凝集による透過光量の増加が観察され、従来技術では測定できなかった僅かな凝集塊の形成による変化を測定できる。このように、より低濃度の凝集惹起剤による凝集を測定できることにより、凝集を起こし易い血小板の動態を知ることができ、臨床における血栓症などの診断や治療効果の判定に役立てることができる。
【0027】[第2実施例]次に、図4は本発明の第2実施例による血小板凝集能測定装置の要部の構成を示している。
【0028】本実施例では試料セル3中のスターラーバー4を駆動するための構成が第1実施例と異なっており、試料セル3を保持するホルダ部20の直下にマグネット11がコイルバネ12により弾性的に可動に支持されており、その下方にコイル9を鉄芯10に巻回してなる電磁石が配置されている。
【0029】このような構成により、測定時には、コイル9に所定周波数のAC電圧を印加してマグネット11を振動させ、その磁力によりスターラーバー4を振動させて血小板溶液7を撹拌させる。そして第1実施例と同様に光源5を点灯し、その照射光の血小板溶液7を透過する透過光および散乱光を受光素子6で受光してその強度を検出し、その強度変化により血小板凝集能を測定する。
【0030】この場合、スターラーバー4の振動により撹拌される血小板溶液7の流れはランダムであって血小板溶液7中の血小板の偏平楕円面の向きはランダム、不定となり、第1実施例と同様の作用効果が得られる。
【0031】
【発明の効果】以上の説明から明らかなように、本発明によれば、血小板溶液を撹拌し、該溶液に光を照射して透過光及び散乱光の強度変化により血小板凝集能を測定する血小板凝集能測定方法及び装置において、前記血小板溶液の撹拌は、該溶液中の血小板の偏平楕円面の向きが不定になるように行なうので、血小板凝集に伴なう血小板の変形による透過光及び散乱光の強度変化を除き、凝集塊形成に伴う変化のみ測定でき、特に、血小板の変形が発現するところの初期凝集変化や低濃度凝集惹起剤による僅かな凝集形成変化を正確に測定でき、臨床検査における血小板機能測定や抗血小板薬の検定などに極めて有用であるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施例による血小板凝集能測定装置の要部の機械的構成と動作を示す斜視図である。
【図2】実施例の測定装置と従来装置の撹拌方法の差異による血小板の偏平楕円面の向きと変形の透過光(及び散乱光)強度に対する影響を示した線図である。
【図3】実施例の装置と従来装置の測定例における凝集惹起剤トロンビンによる血小板凝集の透過光(及び散乱光)強度の変化を示した線図である。
【図4】第2実施例による血小板凝集能測定装置の要部の機械的構成と動作を示す説明図である。
【符号の説明】
1 DCモータ
2 マグネット
3 試料セル
4 スターラーバー
5 光源
6 受光素子
7 血小板溶液
9 コイル
10 鉄芯
11 マグネット
12 コイルばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】 血小板溶液を撹拌し、該溶液に光を照射して透過光及び散乱光の強度変化により血小板凝集能を測定する血小板凝集能測定方法において、前記血小板溶液の撹拌は、該溶液中の血小板の偏平楕円面の向きが不定になるように行なうことを特徴とする血小板凝集能測定方法。
【請求項2】 前記血小板溶液の撹拌時と撹拌停止時とで前記透過光及び散乱光の強度に差が生じない撹拌条件を選択することを特徴とする請求項1に記載の血小板凝集能測定方法。
【請求項3】 血小板溶液とともに磁性体からなる撹拌部材を入れた試料セルの近傍でマグネットを駆動することにより、前記撹拌部材を動かして血小板溶液を撹拌し、該溶液に光を照射して透過光及び散乱光の強度変化により血小板凝集能を測定する血小板凝集能測定装置において、前記マグネットを駆動する駆動手段は前記マグネットを交互に正逆方向に回転駆動するように構成したことを特徴とする血小板凝集能測定装置。
【請求項4】 血小板溶液とともに磁性体からなる撹拌部材を入れた試料セルの近傍でマグネットを駆動することにより、前記撹拌部材を動かして血小板溶液を撹拌し、該溶液に光を照射して透過光及び散乱光の強度変化により血小板凝集能を測定する血小板凝集能測定装置において、前記マグネットを駆動する駆動手段は前記マグネットを振動させるように構成したことを特徴とする血小板凝集能測定装置。

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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【特許番号】特許第3137713号(P3137713)
【登録日】平成12年12月8日(2000.12.8)
【発行日】平成13年2月26日(2001.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−41769
【出願日】平成4年2月28日(1992.2.28)
【公開番号】特開平5−240863
【公開日】平成5年9月21日(1993.9.21)
【審査請求日】平成11年2月24日(1999.2.24)
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【参考文献】
【文献】特開 昭63−12962(JP,A)
【文献】特開 昭58−187859(JP,A)
【文献】特開 昭61−116658(JP,A)
【文献】特開 昭60−113153(JP,A)
【文献】実開 昭56−43052(JP,U)
【文献】実開 昭52−43053(JP,U)