説明

血小板凝集阻害組成物

本発明は、以下の(a)〜(d)の少なくとも1種のポリペプチドを有効成分として含有する医薬組成物を提供する:
(a) 配列番号:1のアミノ酸配列を含むポリペプチド、
(b) 上記(a)のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列を含み且つ血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用を有するポリペプチド、
(c) 配列番号:3のアミノ酸配列を含むポリペプチド、
(d) 上記(c)のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列を含み且つ血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用を有するポリペプチド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用を有するポリペプチドまたは該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドにより発現される発現産物(組換えポリペプチド)を有効成分として含む医薬組成物、例えば血小板凝集阻害剤に関する。
【0002】
また、本発明は、コラーゲン結合能を有するポリペプチドまたは該ポリペプチドを有効成分として含む医薬組成物に関する。
【0003】
さらに、本発明は、上記医薬組成物の有効成分の血小板凝集阻害作用を亢進する化合物(例えばアゴニスト)のスクリーニング方法に関する。更に、本発明は、血小板凝集阻害作用を有する新規なポリペプチドおよびこれをコードするポリヌクレオチドに関する。
【背景技術】
【0004】
血小板は血管内皮細胞の傷害の際や、その他の様々な因子によって凝集を引き起こす。この血小板血栓によって、冠血管が閉塞されれば心筋梗塞が、脳血管が閉塞されれば脳梗塞が、末梢血管が閉塞されれば慢性動脈閉塞症などが、それぞれ惹起される。このような血小板の活性化(凝集能の賦活)に伴われる血栓性疾患としては、動脈硬化症、虚血性脳梗塞、心筋梗塞・狭心症を始めとする虚血性心疾患、慢性動脈閉塞症、静脈血栓症などが例示される。
【0005】
血小板凝集を抑制する作用を有する薬剤は、合併症として上記のような各種の疾患を伴う虚血性疾患の予防薬として、また、高血圧症、肺高血圧症、脳梗塞、肺梗塞、クモ膜下出血後の病態の予防薬などとして使用されている。更に、上記薬剤は、冠動脈形成術(Percutaneous Transluminal Coronary Angioplasty: PTCA)や、ステント留置の際の血栓形成予防にも用いられており、ステント自体にそのような血小板の凝集を抑制する作用を有する薬剤を包接、塗布または埋め込みなどにより施工して、ステント後の再狭窄の予防剤としても使用されている。
【0006】
一方、蚊は、吸血する際に鋭利な口針を皮膚内に刺入して末梢血管に到達させるが、末梢血管を探り当てるために幾度となくプロービングとよばれる刺入出行動を繰り返す。蚊は、同時に血管拡張を促進する物質を含む唾液を分泌して、血管の感知を容易にしていると考えられている。上記プロービングによれば、しばしば末梢血管が傷つき鬱血する。一般に、血管が傷つけられると、血管内皮下組織のコラーゲンが露出し、破壊された細胞からアデノシン2リン酸(ADP)が放出され、凝固系因子が活性化されてトロンビンが形成される。トロンビンは、血小板を強く活性化し、血小板粘着、血小板凝集、顆粒放出などを惹起し、最終的にフィブリン塊形成を伴う血液凝固による強固な血栓を形成させる(止血機構)。蚊の唾液には、このような止血機構を阻害する物質が含まれることも知られている(非特許文献1参照)。
【0007】
最も研究が進んでいる蚊の唾液腺蛋白質はアピラーゼ(apyrase)である。該酵素は、ヤブカ(Aedes aegypti)の唾液で初めて同定された血小板凝集阻害物質である。アピラーゼは、傷つけられた血管内皮細胞、赤血球、粘着した血小板などから放出されるADPをAMP(アデノシン1リン酸)に分解することによって血小板の凝集を阻害し、抗止血作用を示す。蚊に限らず各種吸血虫の吸血行動を解明するためには、それらの唾液物質の機能解析が不可欠と考えられる。
【0008】
数多くの唾液物質が血小板凝集阻害に関わっていると予想され、例えばブラジルサシガメ(Triatoma infestans)由来の蛋白質について、血小板凝集阻害作用が報告されている(特許文献1および2参照)。
【0009】
また、ハマダラ蚊(Anopheles stephensi)の唾液腺由来蛋白質から、血液凝固阻害作用を有する蛋白質が同定されているが、未だその血小板凝集阻害作用を有する蛋白質は同定されていない(特許文献3参照)。
【0010】
更に、ハマダラ蚊の唾液腺のcDNAライブラリーのクローニングから、33の新規な蛋白質が報告されたが、該報告には血小板凝集阻害作用を有する蛋白質についての記載はなく、その多くは機能未知のものである(非特許文献2参照)。
【0011】
本発明者らは、先に、ハマダラ蚊の唾液腺からクローニングされたGE(Gly Glu)リッチな配列を有する蛋白質(AAPP)を報告した(非特許文献3参照)。当該蛋白質は、810塩基のオープンリーディングフレーム(ORF)を有しており、269のアミノ酸残基よりなる推定28.5kDaの蛋白質である。当該蛋白質は、その後、非特許文献2に開示された30kDaの抗原(GenBank Accession No.:AY226454)と類似するものであることが判明したが、非特許文献2および3には、該蛋白質の作用、機能(活性)については何ら触れられていない。
【特許文献1】特開2004-121091号公報
【特許文献2】特開2004-121086号公報
【特許文献3】特開2003-116573号公報
【非特許文献1】Riberio, J. M., J. Exp. Biol., 108, 1-7(1984))
【非特許文献2】Valenzuela, J.G., et. al., Exploring the salivary gland transcriptome and proteome of the Anopheles stephensi mosquito", Insect Biochemistry and Molecular Biology, 33(2003) 717-732
【非特許文献3】渡辺裕之ら、衛生動物、55 Suppl., pp41,19(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、新規な医薬組成物、特に血小板凝集阻害剤及び/又は血小板接着阻害剤を提供する。
【0013】
また、本発明は、コラーゲン結合能を有する蛋白質を有効成分として含む新規な医薬組成物を提供する。
【0014】
さらに、本発明は、該物質の血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用を測定するアゴニスト等の物質をスクリーニングする方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、本発明者らが先に報告した蛋白質(AAPP)についての研究とは、別個に、更に研究を重ねた結果、ハマダラ蚊唾液腺から新たに血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用を有する新規な蛋白質を見出し、これをコードするDNAを単離同定するに成功すると共に、当該蛋白質が血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用を有することを新たに見出した。
【0016】
本発明は、下記項1-14に示される発明を提供する。
項1. 以下の(a)〜(d)の少なくとも1種のポリペプチドを有効成分として含有する医薬組成物:
(a) 配列番号:1のアミノ酸配列を含むポリペプチド、
(b) 上記(a)のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列からなり且つ血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用を有するポリペプチド、
(c) 配列番号:3のアミノ酸配列を含むポリペプチド、
(d) 上記(c)のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列からなり且つ血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用を有するポリペプチド。
項2. 以下の(e)〜(j)の少なくとも1種のポリヌクレオチドの発現産物を有効成分として含有する医薬組成物:
(e) 配列番号:2のDNA配列またはそれらの相補鎖を含むポリヌクレオチド、
(f) 上記(e)のポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし且つ血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用を有するポリペプチドを発現可能なポリヌクレオチド、
(g) 上記(e)のポリヌクレオチドと80%以上の相同性を有するDNA配列からなり且つ血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用を有するポリペプチドを発現可能なポリヌクレオチド、
(h) 配列番号:4のDNA配列またはそれらの相補鎖を含むポリヌクレオチド、
(i) 上記(h)のポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし且つ血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用を有するポリペプチドを発現可能なポリヌクレオチド、
(j) 上記(h)のポリヌクレオチドと80%以上の相同性を有するDNA配列からなり且つ血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用を有するポリペプチドを発現可能なポリヌクレオチド。
項3. 血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用が、コラーゲンにより惹起された血小板凝集に対する阻害作用及び/又はコラーゲンに対する血小板接着に対する阻害作用である項1または2に記載の医薬組成物。
項4. 前記医薬組成物がコラーゲンに対する結合能を有する項1または項2に記載の医薬組成物。
項5. 項1に記載のポリペプチド又は項2に記載のポリヌクレオチドにより発現される発現産物を含む、血小板凝集阻害剤及び/又は血小板接着阻害剤。
項6. 被験物質の存在下または非存在下に、項1に記載のポリペプチドの血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用の程度を測定し、被験物質の存在下における測定値を被験物質の非存在下における測定値と対比して、該阻害作用を増強する被験物質をアゴニストとして選択する、血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用に対するアゴニストのスクリーニング方法。
項7. 被験物質の存在下または非存在下に、項2に記載のポリヌクレオチドにより発現された発現産物の阻害作用の程度を測定し、被験物質の存在下における測定値を被験物質の非存在下における測定値と対比して、血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用を増強する被験物質をアゴニストとして選択する、血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用に対するアゴニストのスクリーニング方法。
項8. 以下の(1)〜(4)の工程を含む、項1に記載のポリペプチドもしくは項2に記載の発現産物の血小板阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用を増強する候補物質のスクリーニング方法:
(1) 項1に記載のポリペプチドを発現する発現ベクターで形質転換した細胞または項2に記載の発現産物を含む細胞と多血小板血漿とを含む培養液を準備する工程、
(2) 被験物質の存在下または非存在下に、上記(1)の培養液中に血小板凝集惹起物質を添加して血小板凝集を惹起させる工程、
(3) 上記(2)における被験物質の存在下または非存在下における血小板凝集の程度を計測する工程、及び
(4) 被験物質の存在下における計測値が、被験物質の非存在下における計測値と比べて
大である場合に、該被験物質を候補物質として選択する工程。
項9. 多血小板血漿と、項1に記載のポリペプチドまたは項2に記載の発現産物のいずれかと、血小板凝集惹起物質とを構成成分として含有することを特徴とする、項1に記載のポリペプチドまたは請求項2に記載のポリヌクレオチドにより発現される発現産物のアゴニストをスクリーニングするためのキット。
項10. 配列番号:1のアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド。
項11. 配列番号:3のアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド。
項12. 配列番号:5のアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド。
項13. 配列番号:2のDNA配列またはその相補鎖を含むポリヌクレオチド。
項14. 配列番号:4のDNA配列またはその相補鎖を含むポリヌクレオチド。
項15. 配列番号:6のDNA配列またはその相補鎖を含むポリヌクレオチド。
【0017】
尚、前記(a)〜(d)の少なくとも1種のポリペプチド(蛋白質)を、以下「SY-001」ということがある。また、前記(e)〜(j)の少なくとも1種のポリヌクレオチドの発現産物を、以下「本発明発現産物」ということがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本明細書におけるアミノ酸、ペプチド、塩基配列、核酸などの略号による表示は、IUPAC-IUBの規定[IUPAC-IUB Communication on Biological Nomenclature, Eur. J. Biochem., 138: 9(1984)]、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン」(特許庁編)および当該分野における慣用記号に従うものとする。
【0019】
本明細書において、ポリヌクレオチド(DNA分子)とは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖という1本鎖DNAを包含する趣旨であり、またその長さに制限されるものではない。従って、SY-001をコードするポリヌクレオチドには、特に言及しない限り、ゲノムDNAを含む2本鎖DNAおよびcDNAを含む1本鎖DNA(センス鎖)並びに該センス鎖と相補的な配列を有する1本鎖DNA(アンチセンス鎖)および合成DNAとそれらの断片のいずれもが含まれる。
【0020】
また、本明細書において、ポリヌクレオチド(DNA分子)は、機能領域の別を問うものではなく、発現抑制領域、コード領域、リーダー配列、エキソンおよびイントロンのいずれか少なくともひとつを含むことができる。
【0021】
また、ポリヌクレオチドには、RNAおよびDNAが含まれる。特定アミノ酸配列を含むポリペプチドおよび特定DNA配列を含むポリヌクレオチドには、それらの断片、同族体、誘導体および変異体が含まれる。
【0022】
ポリヌクレオチドの変異体(変異体DNA)には、天然に存在するアレル変異体;天然に存在しない変異体;欠失、置換、付加および挿入がなされた変異体などが含まれる。但し、これらの変異体は、変異前のポリヌクレオチドがコードするポリペプチドの機能と実質的に同じ機能を有するポリペプチドをコードするものとする。
【0023】
ポリペプチドの変異(アミノ酸配列の改変)は、天然において生じるもの、例えば突然変異、翻訳後の修飾などにより生じるものである必要はなく、天然由来の蛋白質(例えばSY-001)を利用して人為的に生じさせたものであってもよい。上記ポリペプチドの変異体は、アレル体、ホモログ、天然の変異体などであって、変異前のポリペプチドと少なくとも80%、好ましくは95%、より好ましくは99%の相同性を有するものが含まれる。
【0024】
尚、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの相同性は、FASTAプログラムを使用した測定(Clustal, V., Methods Mol. Biol., 25, 307-318(1994))によって解析することができる。相同性解析の最も好ましく且つ簡便な方法としては、コンピューターにより読取り可能な媒体(例えば、フレキシブルディスク、CD-ROM、ハードディスクドライブ、外部ディスクドライブ、DVDなど)に配列を記憶させ、ついでその記憶された配列を使用して、よく知られた検索手段に従い既知の配列データベースを検索する方法を例示することができる。既知の配列データベースの具体例には、以下のものが含まれる。
・DNA Database of Japan(DDBJ)(http://www.ddbj.nig.ac.jp/);
・Genebank(http://www.ncbi.nlm. nih.gov/web/Genebank/Index.htlm); および
・the European Molecular Biology Laboratory Nucleic Acid Sequence Database (EMBL) (http://www.ebi.ac.uk/ebi docs/embl db.html)。
【0025】
相同性解析には多数の検索アルゴリズムが当業者に利用可能である。その一例としては、BLASTプログラムと称されるプログラムが挙げられる。このプログラムには5つのBLAST手段がある。そのうちの3つ(BLASTN、BLASTXおよびTBLASTX)は、ヌクレオチド配列の照会用に設計されたものである。残りの2つは、蛋白質配列の照会用に設計されたものである(Coulson, Trends in Biotechnology, 12:76-80(1994); Birren, et al., Genome Analysis, 1:543-559(1997))。
【0026】
更に追加的なプログラム、例えば配列アライメントプログラム、より遠縁の配列を同定するためのプログラムなどが、同定された配列の分析のために当技術分野において利用可能である。
【0027】
変異体DNAは、これによりコードされるアミノ酸についてサイレント(変異した核酸配列によってコードされるアミノ酸残基に変化がない)であるかまたは保存的である。保存的なアミノ酸置換の例を以下に示す。
元のアミノ酸残基 保存的な置換アミノ酸残基
Ala Ser
Arg Lys
Asn GlnまたはHis
Asp Glu
Cys Ser
Gln Asn
Glu Asp
Gly Pro
His AsnまたはGln
Ile LeuまたはVal
Leu IleまたはVal
Lys Arg, AsnまたはGlu
Met LeuまたはIle
Phe Met, LeuまたはTyr
Ser Thr
Thr Ser
Trp Tyr
Tyr Trp またはPhe
Val Ile またはLeu。
【0028】
一般にCys残基をコードする1またはそれ以上のコドンは、特定ポリペプチドのジスルフィド結合に影響を与える。
【0029】
蛋白質の特性に変化を与えると一般的に考えられるアミノ酸残基の置換には、以下のものが含まれる。
a) 疎水性残基の親水性残基への置換、例えばLeu、Ile、Phe、ValまたはAlaのSerまたはThrへの置換、
b) CysおよびPro以外のアミノ酸残基のCys またはProへの置換、
c) 電気的陽性側鎖を有している残基、例えばLys、Arg、Hisの、電気的陰性残基、例えば、GluまたはAspへの置換、
d) 非常に大きな側鎖を有しているアミノ酸残基、例えばPheのGlyのような側鎖を有しないアミノ酸残基への置換。
【0030】
(1) SY-001
SY-001は、(a)配列番号:1または3のアミノ酸配列を含むか若しくは配列番号:1または3のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列からなり且つ血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用(コラーゲンに対する血小板接着及び/又はコラーゲンに対する結合能を阻害する)を有するものである。
【0031】
SY-001は、遺伝子組換え技術によって後記実施例で示される大腸菌を用いた蛋白質発現系或いはバキュロウイルス(AcNPV)を用いた蛋白質発現系で発現されたポリペプチド、或いは化学合成して得られるポリペプチドであってもよい。
【0032】
SY-001のアミノ酸配列の一具体例としては、配列番号:1または3のものを例示できる。SY-001のアミノ酸配列は、この配列番号:1または3のものに限定されず、これらと一定の相同性を有するもの(相同物)であることができる。該相同物としては、特に配列番号:1または3のアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列からなり且つ血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用(コラーゲンに対する血小板接着及び/又はコラーゲンに対する結合能を阻害する)を有するポリペプチドを挙げることができる。
【0033】
SY-001の有する血小板凝集阻害作用としては、ヒトの血管内(特に冠状動脈内、大動脈内、脳動脈内)において血小板の凝集を惹起する物質が増加するかまたは該血管内において血小板の凝集能が亢進している状態、或いは血管内に障害が生じて血小板が該障害部位に過剰に凝集する状態を、阻害乃至阻止する作用を挙げることができる。
【0034】
この血小板凝集阻害作用は、イン・ビトロ試験において、多血小板血漿(PRP)中の血小板の血小板凝集惹起剤による凝集が、該血漿中にSY-001を添加することによって、阻害(抑制)されることによって、求めることができる。
【0035】
SY-001の血小板凝集阻害作用は、より詳しくは、以下の方法に従って測定することができる。即ち、まずヒトの全血から遠心分離操作によりPRPを調製した後、この調製されたPRPを、SY-001を含む溶液、例えばPBS溶液とプレインキュベーションし、更にこの溶液に血小板凝集惹起剤を添加して血小板を凝集させる。血小板凝集惹起剤には、例えばADP(アデノシン2リン酸)、コラーゲン、CRP(collagen related peptide:コラーゲン関連ペプチド)、convulxin(コンバルキシン)、TRAP(thrombin receptor activator peptide:トロンビン・レセプター・アゴニスト・ペプチド)、エピネフリン、アラキドン酸、U-46619(トロンボキサンA2アナログ:TXA2 analog)、A23187(カルシウムイオノフォア)などが包含される。得られる溶液の血小板凝集率を比濁透過光法血小板凝集計(MCM HEMA TRACER 313M:エム・シー・メディカル社製)を利用して測定し、得られる測定値から、SY-001を含まないコントロールにおける同値を基準として、SY-001の血小板凝集阻害率を算出する。かくして、SY-001の血小板凝集阻害作用を検出することができる。
【0036】
SY-001の血小板接着阻害作用は、以下の方法によっても測定することができる。
【0037】
所定濃度でSY-001を含むPBS溶液をコラーゲン溶液でコーティングされた96ウェルプレートに添加し、室温で30分間インキュベートする。インキュベーション後、血小板懸濁液をウェルに添加し、室温で45分間インキュベートする。インキュベーション後、インキュベーション溶液をウェルからピペットで除去し、ウェルをPBSで洗浄する。
【0038】
1% SDSを含むPBS溶液をウェルに添加し、ウェルを振盪及び攪拌後に空気で乾燥する。次いで、蒸留水をウェルに加え、各ウェルの蛋白質の量をDcプロテインアッセイキット(BIO-RAD Laboratories)を用いて測定する。SY-001の血小板接着阻害作用率を、SY-001を含まないコントロール値に基づき得られた測定値から計算し、血小板接着曲線からSY-001の血小板接着阻害作用を計算する。このようにして、コラーゲンに対する血小板接着を阻害するSY-001の血小板接着阻害作用が検出される。
【0039】
SY-001のコラーゲン結合能は、以下の方法によっても測定できる。
【0040】
300μlのブロッキング溶液をコラーゲンコーティングを有する又は有しない各96ウェルプレートに添加し、1時間インキュベートする。各ウェルからインキュベーション溶液を除去後、SY-001を含む所定濃度の溶液100μlを各ウェルに加え、室温で1時間インキュベートする。各ウェルからインキュベーション溶液を除去後、2%シュクロース200μlを次いで各ウェルに加え、室温で5分間インキュベートする。各ウェルからのインキュベーション溶液の除去後、ウェルを乾燥し、100μlの再構成Ni-HRP溶液(KPP: Kirkegaard & Perry Laborator, Ltd.)を各ウェルに加え、室温で30分間インキュベートする。洗浄バッファーで洗浄後、ABTSペルオキシダーゼ基質(KPL Ltd.)100μlを各ウェルに加え、該96ウェルプレートを穏やかに振盪する。
【0041】
反応の完結後、100μlの1% SDSを各ウェルに加え、該ウェルを次いでマイクロプレートリーダーを用い、405-410nmでの吸光度変化により測定する。
【0042】
所定濃度のSY-001のコラーゲン結合能は、SY-001を含まないコントロールベクターにおける値に基づき得られたOD値から計算され、そのコラーゲン結合曲線からSY-001のコラーゲン結合能を計算する。このようにして、SY-001のコラーゲン結合能を検出できる。
【0043】
SY-001の有する抗血小板作用は、下記方法によっても測定することができる。即ち、健常者から抗凝固剤入りシリンジで採血して得られる全血から遠心分離操作によりPRPを調製する。次いで、調製したPRPを適当なバッファ、例えばTyrode-Hepes (134 mM NaCl, 0.34 mM Na2HPO4 , 2.9 mM KCl, 12 mM NaHCO3, 20 mM Hepes, 5 mM グルコース, 1 mM MgCl2, pH 7.3))で希釈し、この希釈系列にSY-001を所定濃度で添加してプレインキュベートする。この液に、蛍光標識した抗P-セレクチン抗体、PAC-1(GPIIb/GPIIIa複合体を認識する抗体(Becton Dickinson社製))、フィブリノーゲン、アネキシンV等を添加した後、血小板凝集惹起剤、例えばADP、コラーゲン、TRAP等を添加して血小板を活性化させる。かくして活性化させた血小板の蛍光強度をフローサイトメトリー等で測定して、血小板活性化に対するSY-001の作用(活性化抑制作用)を評価する。この血小板活性化の抑制作用を、血小板活性化阻害作用とする。
【0044】
上記方法において、血小板と白血球とを認識する抗体の蛍光標識体を利用すれば、血小板と白血球との相互作用(血小板-白血球接着)に対する化合物の作用を評価することもできる。
【0045】
比濁透過光法血小板凝集計を利用するSY-001の有する血小板凝集阻害作用の測定法の詳細については、本発明では、例えば、Born, G.V.R., "Aggregation of blood platelets by adenosine diphosphate and its reversal", Nature, 1962, 194, 927-9およびSudo, T., et al., "Potent effects of novel anti-platelet aggregatory cilostamide analogues on recombinant cyclic nucleotide phosphodiesterase isozyme activity", Biochem. Pharmacol., 2000, 59, 347-56が参照される。また、血小板の活性化測定については、例えば、Ito, H., et al., “Cilostazol inhibits platelet-leukocyte interaction by suppression of platelet activation”, Platelets, 2004, 15, 293-301が参照される。
【0046】
従って、SY-001が血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用を有するとは、哺乳動物の血液・血管に作用して、血栓、塞栓の形成を阻害または予防することによって、血液関連疾患や合併症の発症・予防の治療薬としての可能性があるということができる。
【0047】
故に、SY-001が有する血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用によれば、血栓、塞栓などの形成が発症の原因となる疾患や合併症、例えば、心筋梗塞、脳塞栓、慢性動脈閉塞症、動脈硬化、虚血性脳梗塞、狭心症、静脈血栓症、高血圧症、肺高血圧症、脳梗塞、肺梗塞、心不全、腎炎、腎不全、クモ膜下出血後の病態などの疾患の治療または予防剤として有用であると考えられる。
【0048】
また、SY-001が有する血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用によれば、PTCAやステント留置の際の血栓形成予防に、或いはステント自体に血小板凝集を抑制する薬剤を包接、塗布または埋め込むことによりステント後の再狭窄の予防剤として有用であると考えられる。
【0049】
前記(b)および(d)として示すSY-001におけるアミノ酸残基の改変、即ち「欠失、挿入、置換または付加」の程度およびそれらの位置は、改変されたアミノ酸配列を含むポリペプチドが、配列番号:1または配列番号:3のアミノ酸を含むポリペプチドと実質的に同質の活性を有するもの(同効物)であれば、特に制限されない。上記改変は、通常1から数個程度のアミノ酸残基であるのが好ましい。
【0050】
本発明において、「複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加された」とは、2個以上から20個以下のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたことをいう。この複数個のアミノ酸は、好ましくは2個以上から10個以下、より好ましくは2個以上から7個以下、更により好ましくは2個以上から5個以下である。また、この改変されたアミノ酸配列は、配列番号:1または配列番号3のいずれかのアミノ酸配列との相同性が、例えば約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約95%以上、更により好ましくは約98%以上であるのがよい。
【0051】
本発明医薬組成物の有効成分であるポリペプチド(SY-001)の具体例は、後述する実施例に示す通りである。
【0052】
SY-001は、これに特有の血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用を有している。
【0053】
SY-001はまた、特有のコラーゲン結合能を有している。
【0054】
従って、SY-001を有効成分として含む本発明医薬組成物は、血栓、塞栓などの形成が発症の原因となる疾患や合併症、例えば心筋梗塞、脳塞栓、慢性動脈閉塞症、動脈硬化、虚血性脳梗塞、狭心症、静脈血栓症、高血圧症、肺高血圧症、脳梗塞、肺梗塞、心不全、腎炎、腎不全、クモ膜下出血後の病態などの疾患の治療または予防剤として有用である。また、本発明医薬組成物は、PTCAやステント留置の際の血栓形成予防に、或いはステント自体に適用することによって、ステント後の再狭窄の予防剤として有用である。
【0055】
(2) SY-001をコードするポリヌクレオチド(DNA分子)
SY-001をコードするポリヌクレオチド(以下、「SY-001のDNA分子」ということがある)の一具体例としては、配列番号:2または4のDNA配列またはそれらの相補鎖を含むポリヌクレオチド(DNA分子)を挙げることができる。
【0056】
SY-001のDNA分子の他の例には、上記配列番号:2または4のDNA配列の相補鎖を含むポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし且つ血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用を有するポリペプチドを発現可能なポリヌクレオチドが包含される。
【0057】
ここで「ストリンジェントな条件」としては、0.1%SDSを含む2×SSC中、50℃でハイブリダイズし、0.1%SDSを含む1×SSC中、60℃での洗浄によっても脱離しない条件を挙げることができる。
【0058】
更に、SY-001のDNA分子(ポリヌクレオチド)の他の例には、配列番号:2または4のDNA配列またはそれらの相補鎖を含むポリヌクレオチドの内の最も近いいずれかと80%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは約98%以上の相同性を有するDNA配列からなり且つ血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用を有するポリペプチドを発現可能なポリヌクレオチドが含まれる。
【0059】
これら他の例として示す所望の作用を有するポリペプチドを発現可能なDNA分子(以下、これを「改変DNA分子」ということがある)は、該DNA分子がコードするアミノ酸配列のポリペプチドが血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用(特に、コラーゲンによって惹起される血小板凝集に対する阻害作用及び/又はコラーゲンに対する血小板接着阻害作用)を発現可能であることをその必須の要件とする。該要件は、換言すれば、これらのポリヌクレオチド(改変DNA分子)を挿入した組換え体発現ベクターで形質転換した形質転換体が、その発現産物として、血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用を有する蛋白を発現できることである。
【0060】
上記改変DNA分子には、配列番号:1または3のアミノ酸配列、特に1または複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列(改変されたアミノ酸配列)をコードするDNA配列およびその相補鎖をコードするDNA配列を含むDNA分子が包含される。該改変DNAは、その利用によって改変前の本発明DNA分子が検出できるものであってもよい。
【0061】
SY-001のDNA分子に包含される、配列番号:2または4のDNA配列を含むポリヌクレオチド(SY-001またはそのDNA断片)の相同DNA分子は、前記配列番号:2または4のDNA配列と配列相同性を有し、構造的特徴並びにポリヌクレオチドの発現パターンにおける共通性および生物学的機能の類似性より、ひとつのDNA分子ファミリーと認識される一連の関連DNA分子を意味する。
【0062】
かかる相同DNA分子は、例えば天然由来のDNA分子(例えばSY-001のDNA断片)に基づいて人為的に生じさせたものであってもよい。この人為的手段としては、例えばサイトスペシフィック・ミュータゲネシス[Methods in Enzymology, 154, 350, 367-382(1987);同100, 468(1983);Nucleic Acids Res., 12, 9441(1984);続生化学実験講座1「遺伝子研究法II」、日本生化学会編, p105(1986)]などの遺伝子工学的手法;リン酸トリエステル法、リン酸アミダイト法などの化学合成手段[J. Am. Chem. Soc., 89, 4801(1967);同91, 3350(1969);Science, 150, 178(1968);Tetrahedron Lett., 22, 1859(1981);同24, 245(1983)]およびそれらの組合せ方法が例示できる。より具体的には、該DNA分子は、ホスホルアミダイト法またはホスホトリエステル法によって化学合成することもでき、市販されている自動オリゴヌクレオチド合成装置を利用して合成することもできる。二本鎖断片は、相補鎖を合成し、適当な条件下で該相補鎖を化学合成した一本鎖とアニーリングさせるか、または適当なプライマーと共にDNAポリメラーゼを用いて該相補鎖を化学合成した一本鎖に付加することによって得ることができる。
【0063】
SY-001のDNA分子の具体的一態様である配列番号:2または4のDNA配列は、配列番号:1または3に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチドの各アミノ酸残基をコードする各コドンの一つの組合せ例である。SY-001のDNA分子は、かかる特定のDNA配列を有するDNA分子に限らず、各アミノ酸残基に対して任意のコドンを組合せ、選択したDNA配列を有することも可能である。コドンの選択は、常法に従うことができる。その際には例えば利用する宿主のコドン使用頻度などを考慮することができる[Ncleic Acids Res., 9, 43(1981)]。
【0064】
(3) SY-001のDNA分子の製造
SY-001のDNA分子は、本明細書に開示されたSY-001をコードするポリヌクレオチドの核酸配列情報に基づいて合成するか、或いはSY-001のアミノ酸配列情報に基づいて該アミノ酸配列をコードする核酸配列に相当するDNA分子をそのまま合成することにより(化学的DNA合成法)、容易に製造、取得することができる。この製造には、一般的遺伝子工学的手法が適用できる[例えば、Molecular Cloning 2d Ed, Cold Spring Harbor Lab. Press(1989);続生化学実験講座「遺伝子研究法I、II、III」、日本生化学会編(1986)など参照]。
【0065】
SY-001のDNA分子をそのまま合成する化学的DNA合成法としては、フォスフォアミダイト法による固相合成法を例示することができる。この合成法には自動合成機を利用することができる。
【0066】
遺伝子工学的手法によるSY-001のDNA分子の製造は、より具体的には、SY-001のDNA分子が発現される適当な起源より、常法に従ってcDNAライブラリーを調製し、該ライブラリーからSY-001のDNA分子に特有の適当なプローブや抗体を用いて所望クローンを選択することにより実施できる[Proc. Natl. Acad. Sci., USA., 78, 6613(1981);Science, 222, 778(1983)など参照]。
【0067】
上記において、cDNAの起源としては、SY-001のDNA分子を発現する各種細胞、組織、これらに由来する培養細胞などを例示することができる。特に、吸血昆虫であるハマダラ蚊の唾液腺を起源とするのが望ましい。該起源からの全RNAの抽出および分離、mRNAの分離および精製、cDNAの取得およびそのクローニングなどは、いずれも常法に従って実施することができる。
【0068】
SY-001のDNA分子は、唾液腺mRNAを抽出・分離・精製して得られる唾液腺cDNAライブラリーを用いて製造することができる。他にも、SY-001のDNA分子は、例えば上記唾液腺mRNAを抽出後、当該RNAにポリAを付加した後、当該ポリA付加RNAを集め、逆転写酵素を用いてcDNAを製造し、当該cDNAの両端に制限酵素部位を付加後、ファージに組み込んで調製したファージライブラリーを用いても製造することができる。
【0069】
SY-001のDNA分子をcDNAのライブラリーからスクリーニングする方法も、特に制限されず、通常の方法に従うことができる。具体的方法としては、例えばcDNAによって産生される蛋白質に対する特異抗体(例えば、抗ハマダラ蚊唾液抗体)を使用した免疫的スクリーニングによって対応するcDNAクローンを選択する方法;目的のDNA配列に選択的に結合するプローブを用いるプラークハイブリダイゼーション法;コロニーハイブリダイゼーション法など;およびこれらの組合せを例示することができる。
【0070】
上記各ハイブリダイゼーション法において用いられるプローブとしては、SY-001のDNA分子のDNA配列に関する情報を基にして化学合成されたDNA断片などが一般的である。また、既に取得されたSY-001のDNA分子およびその断片も上記プローブとして有利に利用できる。更に、SY-001のDNA分子のDNA配列情報に基づき設定したセンス・プライマーおよびアンチセンス・プライマーを、上記スクリーニング用プローブとして用いることもできる。
【0071】
プローブとして用いられるDNA(ヌクレオチド)は、SY-001のDNA配列に対応する部分DNA(ヌクレオチド)であって、少なくとも15個の連続したDNA、好ましくは少なくとも20個の連続したDNA、より好ましくは少なくとも30個の連続したDNAを有するものである。前記した本発明DNA分子の製造のための陽性クローン自体もプローブとして用いることができる。
【0072】
SY-001のDNA分子の取得に際しては、PCR法[Science, 230, 1350(1985)]によるDNA/RNA増幅法が好適に利用できる。殊に、ライブラリーから全長のcDNAが得難い場合には、RACE法[Rapid amplification of cDNA ends;実験医学、12(6), 35(1994)]、特に5'-RACE法[M. A. Frohman, et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA., 8, 8998(1988)]などの採用が好適であり得る。
【0073】
PCR法に用いられるプライマーは、後記する実施例によって明らかにされたSY-001のDNA分子の配列情報に基づいて適宜設定し、常法に従って合成することができる。尚、このプライマーとしては、後記実施例に示すように、SY-001のcDNAが組み込まれたベクタープラスミドの該cDNAの両端に付加したDNA部分(SP6 プロモーター・プライマーおよびT7ターミネーター・プライマー)も使用することができる。
【0074】
尚、PCR法で増幅させたDNA/RNA断片の単離精製は、常法に従い例えばゲル電気泳動法などによって実施することができる。
【0075】
上記の如くして得られるSY-001のDNA分子或いは各種DNA断片は、常法、例えばジデオキシ法[Proc. Natl. Acad. Sci., USA., 74, 5463(1977)]、マキサム-ギルバート法[Methods in Enzymology, 65, 499(1980)]などに従って、また簡便には市販のシークエンスキットなどを用いて、その配列決定することができる。
【0076】
(4) 本発明発現産物の遺伝子工学的製造
本発明発現産物(組換え体SY-001)は、SY-001のDNA分子の配列情報を利用して、通常の遺伝子工学的手法(例えばScience, 224, 1431(1984); Biochem. Biophys. Res. Comm., 130, 692(1985); Proc. Natl. Acad. Sci., USA., 80, 5990(1983)など)に従って、DNA分子の発現産物としてまたはこれを含む蛋白質として、容易に、大量に且つ安定して製造することができる。より詳細には、所望の蛋白質をコードするDNAが宿主細胞中で発現できる組換えDNA(発現ベクター)を作成し、このベクターを用いて宿主細胞を形質転換し、該形質転換体を培養し、得られる培養物から目的蛋白質を回収することにより、本発明発現産物を得ることができる。
【0077】
本発明発現産物の製造において、宿主細胞としては、原核生物および真核生物のいずれも用いることができる。例えば原核生物の宿主は、大腸菌、枯草菌などの一般的に用いられるもののいずれでもよい。好適には大腸菌、とりわけエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)K12株を利用できる。真核生物の宿主細胞には、脊椎動物、酵母などの細胞が含まれ
る。前者としては、例えばサル由来のCOS細胞[Cell, 23: 175(1981)]、チャイニーズ・ハムスター卵巣細胞およびそのジヒドロ葉酸レダクターゼ欠損株[Proc. Natl. Acad.Sci., USA., 77: 4216(1980)]などが、後者としては、サッカロミセス属酵母細胞などが好適に用いられる。勿論、宿主細胞はこれらに限定される訳ではない。
【0078】
原核生物細胞を宿主とする場合は、該宿主細胞中で複製可能なベクターを用いて、このベクター中に本発明遺伝子が発現できるように該遺伝子の上流にプロモーターおよびSD(シャイン・アンド・ダルガーノ)配列、更に蛋白合成開始に必要な開始コドン(例えばATG)を付与した発現プラスミドを好適に利用できる。上記ベクターとしては、一般に大腸菌由来のプラスミド、例えばpET-16b、pET-32、pBR322、pBR325、pUC12、pUC13などがよく用いられる。これらに限定されず既知の各種のベクターを利用することができる。大腸菌を利用した発現系に利用される上記ベクターの市販品としては、例えばpGEX-4T(Amersham Pharmacia Biotech社)、pMAL-C2,pMAL-P2(New England Biolabs社)、pET-16、pET-32、pET-21,pET-21/lacq(Invitrogen社)、pBAD/His(Invitrogen社)などを例示できる。
【0079】
脊椎動物細胞を宿主とする場合の発現ベクターとしては、通常、発現しようとする本発明遺伝子の上流に位置するプロモーター、RNAのスプライス部位、ポリアデニル化部位および転写終了配列を保有するものが挙げられる。これらは更に必要により複製起点を有していてもよい。該発現ベクターの例としては、具体的には、例えばSV40の初期プロモーターを保有するpSV2dhfr[Mol. Cell. Biol., 1: 854(1981)]などが例示できる。上記以外にも既知の各種の市販ベクターを用いることができる。動物細胞を利用した発現系に利用されるベクターの市販品としては、例えばpEGFP-N,pEGFP-C(Clontrech社)、pIND(Invitrogen社)、pcDNA3.1/His(Invitrogen社)などの動物細胞用ベクター、pFastBac HT(GibciBRL社)、pAcGHLT(PharMingen社)、pAc5/V5-His,pMT/V5-His,pMT/Bip/V5-his(以上Invitrogen社)などの昆虫細胞用ベクターなどが挙げられる。
【0080】
昆虫細胞用ベクターの利用においては、例えばSY-001のcDNAを組み込んだバキュロウイルスベクター(Takara社)が例示できる。具体的には本発明発現産物は、SY-001のcDNAを組み込んだバキュロウイルス発現ベクターを、カイコ(Bombyx mori )の核多角体ウイルス(BmNPV)を用いて、カイコの培養細胞BmN4またはカイコの幼虫に導入して発現させ、それぞれの培養液またはカイコ体液からクロマトグラフィーにより単離できる。また、SY-001のcDNAをオートグラファカリフォルニカ(Autographa californica)の核多角体ウイルス(AcNPV)に組み込み、ヨトウムシ(Spodoptera frugiperda )のSf9細胞あるいはイラクサギンウワバ(Trichoplusia ni )のTn5細胞で発現させ、培養上清から同様にしてクロマトグラフィーにより精製することができる。
【0081】
酵母細胞を宿主とする場合の発現ベクターの具体例としては、例えば酸性ホスフアターゼ遺伝子に対するプロモーターを有するpAM82[Proc. Natl. Acad. Sci., USA., 80: 1(1983)]などが例示できる。市販の酵母細胞用発現ベクターには、例えばpPICZ(Invitrogen社)、pPICZα(Invitrogen社)などが包含される。
【0082】
プロモーターとしても特に限定なく、エッシェリヒア属菌を宿主とする場合は、例えばトリプトファン(trp)プロモーター、lppプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、PL/PRプロモーターなどを好ましく利用できる。宿主がバチルス属菌である場合は、SP01プロモーター、SP02プロモーター、penPプロモーターなどが好ましい。酵母を宿主とする場合のプロモーターとしては、例えばpH05プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターなどを好適に利用できる。動物細胞を宿主とする場合の好ましいプロモーターとしては、SV40由来のプロモーター、レトロウイルスのプロモーター、メタロチオネインプロモーター、ヒートショックプロモーター、サイトメガロウイルスプロモーター、SRαプロモーターなどを好ましく利用できる。昆虫細胞を宿主とする場合は、p10バキュロウイルスプロモーター、ポリヘドリンプロモーターなどを例示できる。
【0083】
尚、SY-001のDNA分子の発現ベクターとしては、通常の融合蛋白発現ベクターも好ましく利用できる。該ベクターの具体例としては、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)との融合蛋白として発現させるためのpGEX(Promega 社)などが挙げられる。
【0084】
成熟ポリペプチドのコード配列が宿主細胞からのポリペプチドの発現、分泌を助ける対応のポリヌクレオチド配列としては、分泌配列、リーダー配列などが例示できる。これらの配列には、細菌宿主に対して融合成熟ポリペプチドの精製に使用されるマーカー配列(ヘキサヒスチジン・タグ、ヒスチジン・タグ)、哺乳動物細胞の場合はヘマグルチニン(HA)・タグが含まれる。
【0085】
所望の組換えDNA(発現ベクター)の宿主細胞への導入法およびこれによる形質転換法としては、特に限定されず一般的な各種方法を採用することができる。
【0086】
得られる形質転換体は、常法に従い培養でき、該培養により所望のように設計したSY-001のDNA分子によりコードされる目的蛋白質(発現産物)が、形質転換体の細胞内、細胞外または細胞膜上に発現、生産(蓄積、分泌)される。
【0087】
培養に用いられる培地としては、採用した宿主細胞に応じて慣用される各種のものを適宜選択利用でき、培養も宿主細胞の生育に適した条件下で実施できる。
【0088】
かくして得られる本発明発現産物(組換え蛋白質)は、所望により、その物理的性質、化学的性質などを利用した各種の分離操作[「生化学データーブックII」、1175-1259 頁、第1版第1刷、1980年 6月23日株式会社東京化学同人発行;Biochemistry, 25(25), 8274(1986); Eur. J. Biochem., 163, 313(1987)など参照]により分離、精製できる。
【0089】
該方法としては、具体的には、通常の再構成処理、蛋白沈澱剤による処理(塩析法)、遠心分離、浸透圧ショック法、超音波破砕、限外濾過、分子篩クロマトグラフィー(ゲル濾過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などの各種液体クロマトグラフィー、透析法、これらの組合せが例示できる。特に好ましい方法としては、例えばSY-001に対する特異的な抗体を結合させたカラムを利用したアフィニティクロマトグラフィーなどを例示することができる。
【0090】
尚、SY-001をコードするポリヌクレオチドの設計に際しては、例えば配列番号:2に示されるSY-001のDNA分子のDNA配列を利用することができる。該配列は、所望により、各アミノ酸残基を示すコドンを適宜選択変更して利用することも可能である。
【0091】
SY-001のアミノ酸配列において、その一部のアミノ酸残基乃至アミノ酸配列を置換、挿入、欠失、付加などにより改変する場合には、例えばサイトスペシフィック・ミュータゲネシスなどの前記した各種方法を採用することができる。
【0092】
(5) 本発明医薬組成物の有効成分である本発明発現産物
本発明医薬組成物において有効成分とする本発明発現産物(および本発明スクリーニング方法に利用する同発現産物)は、前記(4)に示す遺伝子工学的手法により得ることができる。
【0093】
本発明発現産物の培養細胞における血小板凝集阻害作用は、前記(1)項に記載したSY-001の血小板凝集阻害作用と同義である。この阻害作用の検出は、公知の血小板凝集試験方法に従って、例えば比濁透過光法血小板凝集計を用いた多血小板血漿(PRP)凝集測定法により測定することができる。
【0094】
より詳しくは、例えばSY-001の存在および非存在下におけるヒト血液由来のPRPに対する血小板凝集惹起剤の添加による血小板凝集の程度を、比濁透過光法血小板凝集計で測定し、その血小板凝集曲線からSY-001の血小板凝集阻害率を算出することにより、本発明発現産物の血小板凝集阻害作用を測定、評価することができる。
【0095】
本発明発現産物の血小板接着阻害作用は、前記(1)項に記載したSY-001の血小板接着阻害作用(即ち、コラーゲンに対する血小板接着阻害)と同義である。この阻害作用は、公知のコラーゲンに対する血小板接着の試験方法に従って、例えばDc蛋白質アッセイキットを用いたコラーゲンに対する血小板接着の測定法により測定することができる。
【0096】
より詳しくは、例えばSY-001の存在下および非存在下においてDc蛋白質アッセイキットを用いてヒト血液から調製された血小板懸濁液を添加することにより、コラーゲンに対する血小板接着の程度を測定し、その血小板接着曲線からSY-001の血小板接着阻害作用を算出することにより、本発明発現産物の血小板接着阻害作用を測定、評価することができる。
【0097】
本発明発現産物のコラーゲン結合能は、前記(1)項に記載したSY-001のコラーゲン結合能(即ち、SY-001がコラーゲンに結合する)と同義である。このコラーゲン結合能は、公知のコラーゲン結合の試験方法に従って、例えばマイクロプレートリーダーを用い、405-410nmでの吸光度変化について測定法により測定することができる。
【0098】
より詳しくは、例えばコラーゲンの存在下および非存在下において、405-410nmでの吸光度変化についてマイクロプレートリーダーを用い、所定濃度のSY-001の添加することによりSY-001のコラーゲン結合能の程度を測定し、そのコラーゲン結合曲線からSY-001のコラーゲン結合能を計算することにより、本発明発現産物のコラーゲン結合能を測定、評価することができる。
【0099】
本発明組成物は、その有効成分として本発明発現産物を含むことに基づいて、該発現産物の有する血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用によって、血栓、塞栓などの形成が発症の原因となる疾患や合併症、例えば心筋梗塞、脳塞栓、慢性動脈閉塞症、動脈硬化、虚血性脳梗塞、狭心症、静脈血栓症、高血圧症、肺高血圧症、脳梗塞、肺梗塞、心不全、腎炎、腎不全、クモ膜下出血後の病態などの疾患の治療または予防剤として有用である。また、本発明の組成物はPTCAやステント留置の際の血栓形成予防にも有効であり、ステント自体に包接、塗布または埋め込みにより適用して、ステント後の再狭窄の予防剤としても有用である。
【0100】
(6) 本発明医薬組成物の有効成分であるSY-001の化学合成
本発明医薬組成物の有効成分であるポリペプチド(SY-001)は、例えば配列番号:1または3に示すアミノ酸配列情報に従って、一般的な化学合成法により製造することもできる。該方法には、通常の液相法および固相法によるペプチド合成法が包含される。
【0101】
ペプチド合成法は、アミノ酸配列情報に基づいて、各アミノ酸を1個ずつ逐次結合させて鎖を延長させていく所謂ステップワイズエロンゲーション法と、アミノ酸数個を含むフラグメントを予め合成し、次いで各フラグメントをカップリング反応させるフラグメント・コンデンセーション法とを包含する。SY-001の合成は、そのいずれによってもよい。
【0102】
ペプチド合成に採用される縮合法も常法に従い実施することができる。例えばアジド法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、酸化還元法、DPPA(ジフェニルホスホリルアジド)法、DCC+添加物(1-ヒドロキシベンゾトリアゾール、N-ヒドロキシサクシンアミド、N-ヒドロキシ-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシイミドなど)法、ウッドワード法などに従うことができる。
【0103】
上記ペプチド合成反応に際して、反応に関与しないアミノ酸乃至ペプチドにおけるカルボキシル基は、一般にはエステル化により、例えばメチルエステル、エチルエステル、第3級ブチルエステルなどの低級アルキルエステル、例えばベンジルエステル、p-メトキシベンジルエステル、p-ニトロベンジルエステルなどのアラルキルエステルなどとして保護することができる。
【0104】
また、側鎖に官能基を有するアミノ酸、例えばチロシン残基の水酸基は、アセチル基、ベンジル基、ベンジルオキシカルボニル基、第3級ブチル基などで保護してもよいが、必ずしもかかる保護を行う必要はない。更に、例えばアルギニン残基のグアニジノ基は、ニトロ基、トシル基、p-メトキシベンゼンスルホニル基、メチレン-2-スルホニル基、ベンジルオキシカルボニル基、イソボルニルオキシカルボニル基、アダマンチルオキシカルボニル基などの適当な保護基により保護することができる。
【0105】
保護基を有するアミノ酸、ペプチドおよび最終的に得られる本発明の医薬組成物の有効成分のポリペプチドにおけるこれら保護基の脱保護反応もまた、慣用される方法、例えば接触還元法や、液体アンモニア/ナトリウム、フッ化水素、臭化水素、塩化水素、トリフルオロ酢酸、酢酸、蟻酸、メタンスルホン酸などを用いる方法などに従って実施することができる。
【0106】
かくして得られる本発明医薬組成物の有効成分であるSY-001は、前記した各種の方法、例えばイオン交換樹脂、分配クロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー、向流分配法などのペプチド化学の分野で汎用される方法に従って、適宜精製することができる。
【0107】
(7) 本発明医薬組成物
本発明医薬組成物は、SY-001および本発明発現産物をその有効成分として含有することが重要である。該医薬組成物は、ヒト血管(特に冠状動脈、大動脈、脳動脈)内において血小板の凝集を惹起する物質が増加するかまたは該血管内において血小板の凝集能が亢進している状態、或いは血管内に障害が生じて血小板が該障害部位に過剰に凝集する状態の、阻害乃至抑制のための、医薬組成物として、特に血小板凝集阻害剤として有用である。
【0108】
該医薬組成物はまた、ヒト血管(特に冠状動脈、大動脈、脳動脈)内において血小板の接着を惹起する物質または血小板の接着能が該血管内において亢進しているコラーゲンのような凝集剤としての物質の血小板接着、或いは血管内に障害が生じて血小板が該障害部位に過剰に凝集する状態の、阻害乃至抑制のための、特に血小板接着阻害剤として有用である。
【0109】
本発明医薬組成物は、血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用を利用して、血栓、塞栓の形成が発症の原因となる疾患や合併症、例えば急性冠症候群、心筋梗塞、脳塞栓、慢性動脈閉塞症、動脈硬化、虚血性脳梗塞、狭心症、静脈血栓症、高血圧症、肺高血圧症、脳梗塞、肺梗塞、心不全、腎炎、腎不全、クモ膜下出血後の病態の治療剤または予防剤として有用である。
【0110】
該医薬組成物は、SY-001が有する血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用を期待して、PTCAやステント留置の際の血栓形成予防に、或いはステント自体に本発明医薬組成物を包接、塗布または埋め込むことによりステント留置後の再狭窄の予防に、それぞれ有用である。
【0111】
本発明医薬組成物において有効成分であるSY-001および本発明発現産物は、血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用を有しており、この作用乃至活性を利用して、標的細胞乃至組織の、血小板凝集及び/又は血小板接着に関連する疾患の治療に利用することができる。かかる血小板凝集の影響を受ける標的細胞としては、例えば血液細胞、血小板を挙げることができる。これらの細胞を含む組織としては、冠状動脈血管、脳動脈血管、頸動脈血管、動脈血管、静脈血管、末梢動脈血管、末梢静脈血管、腎臓動脈血管、肝臓動脈血管などを挙げることができる。
【0112】
本発明医薬組成物が有する血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用または標的細胞における血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用によれば、血栓、塞栓の形成が発症の原因となる疾患や合併症、例えば心筋梗塞、脳塞栓、慢性動脈閉塞症、動脈硬化、虚血性脳梗塞、狭心症、静脈血栓症、高血圧症、肺高血圧症、脳梗塞、肺梗塞、心不全、腎炎、腎不全、クモ膜下出血後の病態などの治療または予防が可能である。
【0113】
また、血小板凝集及び/又は血小板接着についてSY-001が有する血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用によれば、PTCAやステント留置の際の血栓形成予防が可能であり、またステント自体に本発明医薬組成物を包接、塗布または埋め込むことによりステント留置後の再狭窄の予防が可能である。
【0114】
上記ステント留置後の再狭窄防止のための本発明医薬組成物は、例えば、シクロデキストリン包接体として利用することができる。また、本発明医薬組成物は、ステント材料とする生体分解性樹脂に塗布するか(厚く塗るか吹き付けるか)、或いはステント自体に埋め込むことにより使用することができる。
【0115】
本発明医薬組成物において有効成分であるSY-001および発現産物には、その薬学的に許容される塩もまた包含される。かかる塩には、例えばナトリウム、カリウム、リチウムなどの無毒性アルカリ金属塩、カルシウム、マグネシウム、バリウム、アンモニウムなどのアルカリ土類金属塩及びアンモニウム塩などが包含される。これらの塩は常法に従い製造することができる。更に、上記塩には、SY-001または本発明発現産物と適当な有機酸ないし無機酸との反応により得られる無毒性酸付加塩も包含される。代表的無毒性酸付加塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、酢酸塩、蓚酸塩、吉草酸塩、オレイン酸塩、ラウリン酸塩、硼酸塩、安息香酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、p-トルエンスルホン酸塩(トシレート)、クエン酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、スルホン酸塩、グリコール酸塩、アスコルビン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、ナプシレートなどが例示される。
【0116】
本発明医薬組成物は、SY-001、本発明発現産物またはそれらの塩を活性成分として、その薬学的有効量を、適当な医薬担体ないし希釈剤と共に含有させて医薬製剤形態に調製される。
【0117】
該医薬製剤の調製に利用される医薬担体としては、充填剤、濃厚剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤などの賦形剤及び希釈剤を例示できる。これらは得られる製剤の投与単位形態に応じて適宜選択使用される。特に好ましい医薬製剤は、通常の蛋白製剤などに使用される各種の成分、例えば安定化剤、殺菌剤、緩衝剤、等張化剤、キレート剤、pH調整剤、界面活性剤などを適宜使用して調製される。
【0118】
上記において安定化剤としては、例えばヒト血清アルブミンや通常のL-アミノ酸、糖類、セルロース誘導体などを例示できる。これらは単独でまたは界面活性剤と組合せて使用できる。特にこの組合せによれば、有効成分の安定性をより向上させる場合がある。
【0119】
L-アミノ酸としては、特に限定はなく、例えばグリシン、システイン、グルタミン酸などのいずれでもよい。
【0120】
糖類としても、特に限定はなく、例えばグルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトースなどの単糖類;マンニトール、イノシトール、キシリトールなどの糖アルコール;ショ糖、マルトース、乳糖などの二糖類;デキストラン、ヒドロキシプロピルスターチ、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸などの多糖類などおよびそれらの誘導体などを使用できる。
【0121】
界面活性剤としても、特に限定はなく、イオン性および非イオン性界面活性剤のいずれも使用できる。その具体例としては、例えばポリオキシエチレングリコールソルビタンアルキルエステル系、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系、ソルビタンモノアシルエステル系、脂肪酸グリセリド系の界面活性剤が挙げられる。
【0122】
セルロース誘導体としても、特に限定はなく、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどを使用できる。
【0123】
上記糖類の添加量は、有効成分1μg当り約0.0001mg程度以上、好ましくは約0.01-10mg程度である。界面活性剤の添加量は、有効成分1μg当り約0.00001mg程度以上、好ましくは約0.0001-0.01mg程度が適当である。ヒト血清アルブミンの添加量は、有効成分1μg当り約0.0001mg程度以上、好ましくは約0.001-0.1mg程度である。L-アミノ酸の添加量は、有効成分1μg当り約0.001-10mg程度が適当である。また、セルロース誘導体の添加量は、有効成分1μg当り約0.0001mg程度以上、好ましくは約0.001-0.1mg程度の範囲とするのが適当である。
【0124】
本発明の医薬製剤中に含まれる有効成分の量は、広範囲から適宜選択される。通常、製剤中に約0.00001-70重量%、好ましくは0.0001-5重量%程度が含まれる量とするのが適当である。
【0125】
当該医薬製剤中には、また各種の添加剤、例えば緩衝剤、等張化剤、キレート剤を添加することができる。緩衝剤としては、ホウ酸、リン酸、酢酸、クエン酸、ε-アミノカプロン酸、グルタミン酸および/またはそれらの塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩や、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩)を例示できる。等張化剤としては、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、糖類、グリセリンなどを例示できる。またキレート剤としては、例えばエデト酸ナトリウム、クエン酸などを例示できる。
【0126】
医薬製剤は、溶液製剤として調製できる他に、医薬製剤を凍結乾燥し、生埋的食塩水を含む緩衝液で溶解して用時に適当な濃度に調製される凍結乾燥剤形態とすることも可能である。
【0127】
医薬製剤の投与単位形態は、治療目的に応じて適宜選択できる。その代表例には、錠剤、丸剤、散剤、粉末剤、顆粒剤、カプセル剤などの固体投与形態および溶液、懸濁剤、乳剤、シロップ、エリキシルなどの液剤投与形態が含まれる。これらは更に投与経路に応じて経口剤、非経口剤、経鼻剤、経膣剤、坐剤、舌下剤、軟膏剤などに分類され、それぞれ通常の方法に従い、調合、成形乃至調製することができる。本発明医薬製剤中には、必要に応じて着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤などや他の医薬品などを含有させることもできる。
【0128】
医薬製剤の投与方法は、特に制限がなく、各種製剤形態、患者の年齢、性別その他の条件、疾患の重篤度などに応じて決定される。例えば錠剤、丸剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤およびカプセル剤は経口投与され、注射剤は単独でまたはブドウ糖やアミノ酸などの通常の補液と混合して静脈内投与され、更に必要に応じ単独で筋肉内、皮内、皮下もしくは腹腔内投与され、坐剤は直腸内投与され、経膣剤は膣内投与され、経鼻剤は鼻腔内投与され、舌下剤は口腔内投与され、軟膏剤は経皮的に局所投与される。
【0129】
医薬製剤中の投与量は、特に限定されず、所望の治療効果、投与法、治療期間、患者の年齢、性別その他の条件などに応じて広範囲より適宜選択される。一般的には、該投与量は、有効成分量が、通常、1日当り体重1kg当り、約0.01μg-10mg程度、好ましくは約0.1μg-1mg程度とするのがよく、該製剤は1日に1-数回に分けて、或いは間歇的に投与することができる。
【0130】
(8) 血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用促進物質(アゴニスト)のスクリーニング
本発明は、血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用を促進する候補化合物をスクリーニングする方法をも提供する。
【0131】
該方法は、被験物質の存在下または非存在下に、配列番号:1または3のアミノ酸配列を含むポリペプチドまたは該配列番号:1または3のアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列からなり且つ血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用を有するポリペプチドの、血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用の程度を測定し、被験物質の存在下における測定値を被験物質の非存在下における測定値と対比して、該血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用に影響する被験物質をアゴニストとして選択することを特徴とする。
【0132】
血小板凝集阻害作用の程度は、比濁透過光法血小板凝集計を利用して得られる測定値から算出される血小板凝集阻害率によって求めることができる。より詳しくは、ヒトから抗凝固剤入りシリンジで採血し、採血した全血から遠心分離操作によりヒト多血小板血漿(PRP) を調製し、該液に予めPBSに溶解した精製SY-001溶液を加えて37℃でプレインキュベーションした後、凝集惹起剤としてコラーゲン溶液(NYCOMED社製)を添加して血小板を凝集させ、さらに所定時間インキュベート後、溶液の透光度を比濁透過光法血小板凝集計(例えばMCM HEMA TRACER 313M:エム・シー・メディカル株式会社製など)を用いて測定して、血小板凝集曲線を作成し、この曲線からSY-001またはSY-001+被験物質の各場合の血小板凝集阻害率を算出することができる。上記凝集惹起剤としては、コラーゲンの他に、ADP、CRP、コンバルキシン、TRAP、エピネフリン、アラキドン酸、U-46619、A23187などを用いることもできる。
【0133】
また、本発明は、以下の(1)〜(4)の工程を含む、SY-001の血小板凝集阻害作用を増強する候補物質のスクリーニング方法を提供する。
(1) SY-001の発現ベクターで形質転換した細胞と多血小板血漿(PRP)とを含む培養液を準備する工程、
(2) 被験物質の存在下または非存在下に、上記(1)の培養液中に血小板凝集惹起物質を添加して血小板凝集を惹起させる工程、
(3) 上記(2)における被験物質の存在下および被験物質の非存在下における血小板凝集の程度を計測する工程、
(4) 被験物質の存在下における計測値が、被験物質の非存在下における計測値と比べて大である場合に、該被験物質を候補物質として選択する工程。
【0134】
また、本発明は、以下の(1)〜(4)の工程を含む、本発明発現産物の血小板凝集阻害作用を増強する候補物質をスクリーニングする方法を提供する。
(1) 本発明発現産物を含む細胞と多血小板血漿(PRP)とを含む培養液を準備する工程、
(2) 被験物質の存在下または非存在下に、上記(1)の培養液中に血小板凝集惹起物質を添加して血小板凝集を惹起させる工程、
(3) 上記(2)における被験物質の存在下および被験物質の非存在下における血小板凝集の程度を計測する工程、
(4) 被験物質の存在下における計測値が、被験物質の非存在下における計測値と比べて大である場合に、該被験物質を候補物質として選択する工程。
【0135】
本発明は、以下の(1)〜(4)の工程を含む、SY-001の血小板接着阻害作用を決定する候補物質のスクリーニング方法を提供する。
(1) SY-001の発現ベクターで形質転換した細胞と血小板接着物質(即ちコラーゲン)とを含む培養液(ウェル上)を準備する工程、
(2) 被験物質の存在下または非存在下に、上記(1)の培養液中に血小板懸濁液を添加して血小板接着を惹起させる工程、
(3) 上記(2)における被験物質の存在下および被験物質の非存在下における血小板接着阻害の程度を計測する工程、
(4) 被験物質の存在下における計測値が、被験物質の非存在下における計測値と比べて大である場合に、該被験物質を候補物質として選択する工程。
【0136】
また、本発明は、以下の(1)〜(4)の工程を含む、本発明発現産物の血小板接着阻害作用を決定する候補物質をスクリーニングする方法を提供する。
(1) 本発明の発現産物を含む細胞と血小板接着物質(即ちコラーゲン)とを含む培養液(ウェル上)を準備する工程、
(2) 被験物質の存在下または非存在下に、上記(1)の培養液中に血小板懸濁液を添加して血小板接着を惹起させる工程、
(3) 上記(2)における被験物質の存在下および被験物質の非存在下における血小板接着阻害の程度を計測する工程、
(4) 被験物質の存在下における計測値が、被験物質の非存在下における計測値と比べて大である場合に、該被験物質を候補物質として選択する工程。
【0137】
本発明スクリーニング方法は、ハイスループットスクリーニング技術を応用して実施することができる。この技術の応用によれば、例えば、血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用の促進剤に関するスクリーニングにおいては、合成反応混合物、細胞画分、血液画分例えば多血小板血漿または血小板懸濁液のいずれかの調製物(SY-001と該ポリペプチドの標識リガンドを含む)を、スクリーニングされる被験物質の存在下または非存在下でインキュベートする。該被験物質がSY-001を作動させるかまたはSY-001の作用に拮抗するかは、該標識リガンドの結合の減少により検出される。SY-001の活性レベルの検出は、比色標識など(これに限定されるものではない)のレポーター系、ポリヌクレオチドまたはポリペプチド活性の変化に応答するレポーター遺伝子の組込みまたは当技術分野で公知の結合アッセイを用いることにより行い得る。
【0138】
SY-001または他の変異物(例えばSY-001(151-269)、SY-001(21-269))およびその他の血小板凝集阻害剤(例えば、アセチルサルチル酸、シロスタゾール)を、それらに結合する化合物と組合せる競合アッセイも、血小板凝集阻害作用促進剤としての候補化合物のスクリーニングに用いることができる。
【0139】
SY-001または他の変異物(例えばSY-001(151-269)、SY-001(21-269))およびその他の血小板接着阻害剤(例えば、チクロピジン)を、それらに結合する化合物と組合せる競合アッセイも、血小板接着阻害作用促進剤としての候補化合物のスクリーニングに用いることができる。
【0140】
本発明スクリーニング方法によってスクリーニングされる被験物質(候補化合物)は、血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用促進物質として、SY-001のアゴニストの可能性が高い。
【0141】
アゴニストは、本発明スクリーニング系において、その存在によって測定される血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用を上昇させる物質であり得る。
【0142】
これら被験物質の具体例には、例えばオリゴペプチド、蛋白質、抗体、RNA分子、siRNA、非ペプチド性化合物(合成化合物)、発酵生産物、細胞抽出液(植物抽出液、動物組織抽
出液)、血漿が含まれる。これらの物質は新たに開発されたものであっても、既知物質であってもよい。
【0143】
血小板凝集阻害物質及び/又は血小板接着阻害物質には、例えばSY-001に結合してその活性を増加させる無機または有機の低分子化合物、天然もしくは合成のペプチドおよびポリペプチド、あるいは遺伝子組換え技術により調製されたペプチドおよびポリペプチドが含まれる。また、生体内に直接にまたは組換えベクターに挿入された形態で投与される、SY-001をコードするDNA分子に対するセンスDNA分子も、上記血小板凝集阻害物質及び/又は血小板接着阻害物質に含まれる。
【0144】
本発明スクリーニング方法に従ってスクリーニングされる血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用を増強する作用を有する候補物質の評価は、次の如くして行うことができる。即ち、血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用を、コントロール(被験物質非存在)に比べて、約20%以上、好ましくは約30%以上、より好ましくは約50%以上増加または促進させる候補物質は、血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用を促進する化合物と評価することができる。
【0145】
血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用を促進する化合物は、血栓、塞栓などの形成が発症の原因となる疾患や合併症、例えば心筋梗塞、脳塞栓、慢性動脈閉塞症、動脈硬化、虚血性脳梗塞、狭心症、静脈血栓症、高血圧症、肺高血圧症、脳梗塞、肺梗塞、心不全、腎炎、腎不全、クモ膜下出血後の病態などの治療または予防剤として有用であると考えられる。
【0146】
本発明スクリーニング方法により得られる血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用を促進する物質中には、それら自身が生体内の血小板凝集惹起物質による血小板凝集を阻害する及び/又は生体内の血小板接着惹起物質による血小板接着を阻害する作用を有する物質も存在すると考えられ、これらの物質は血小板凝集阻害剤及び/又は血小板接着阻害剤として、医薬品分野をはじめとする各種の分野で有用であると考えられる。
【0147】
(9) スクリーニング用キット
本発明は、多血小板血漿、SY-001(本発明発現産物を含む)と、血小板凝集惹起物質とを構成成分として含有することを特徴とする、SY-001に対するアゴニストをスクリーニングするためのキットを提供することができる。
【0148】
本発明スクリーニング用キットは、(1)SY-001(例えば、配列番号:1または3に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド)または本発明発現産物(例えば、配列番号:2または4のDNA配列の、SY-001をコードするDNA分子の発現産物)と、(2)多血小板血漿を含む細胞培養液と、(3)血小板凝集を惹起する物質とを必須構成成分として含む。該キットは、
この種スクリーニング用キットと同様に、他の任意成分として、例えば、細胞培養液、反応希釈液、染色剤、緩衝液、固定液、洗浄剤などの各種試薬類を含むことができる。
【0149】
本発明キットの具体例としては、次の構成1-3からなるものを挙げることができる。
構成1. 細胞(SY-001発現細胞、SY-001をコードするポリヌクレオチド(DNA分子)で形質転換された大腸菌細胞や昆虫細胞を含む培養細胞)を、0.5〜1×105細胞/ウエルでEGTA-Naバッファを含むMOPS緩衝液を用いて60mmディッシュで5%炭酸ガス下に37℃で培養した培養細胞、
構成2. 血小板凝集を惹起する物質(例えばコラーゲン、ADP)、および
構成3. 多血小板血漿。
【0150】
本発明スクリーニング用キットを利用したスクリーニング方法においては、供試化合物(被験物質、薬剤候補化合物)を加えたウエル単位視野当たりの多血小板血漿における血小板凝集阻害率を検出し、供試化合物を加えていないコントロールのウエルにおける血小板凝集阻害率を検出し、前者の率と後者の率との有意差検定を行えばよい。これらの測定、評価は、常法に従って実施することができる。
【0151】
本発明は、血小板接着剤(即ち、コラーゲン)、SY-001(本発明発現産物を含む)と、血小板懸濁液とを構成成分として含有することを特徴とする、SY-001に対するアゴニストをスクリーニングするためのキットを提供することができる。
【0152】
本発明スクリーニング用キットは、(1)SY-001(例えば、配列番号:1または3に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド)または本発明発現産物(例えば、配列番号:2または4のDNA配列の、SY-001をコードするDNA分子の発現産物)と、(2)血小板接着物質(即ち、コラーゲン)と、(3)血小板懸濁液とを必須構成成分として含む。このタイプのスクリーニング用キットと同様に該キットは、他の任意成分として、例えば、細胞培養液、反応希釈液、染色剤、緩衝液、固定液、洗浄剤などの各種試薬類を含むことができる。
【0153】
本発明キットの具体例としては、次の構成1-3からなるものを挙げることができる。
構成1. 細胞(SY-001発現細胞、SY-001をコードするポリヌクレオチド(DNA分子)で形質転換された大腸菌細胞や昆虫細胞を含む培養細胞)を、0.5〜1×105細胞/ウエルでPBSバッファを用いて60mmディッシュで5%炭酸ガス下に37℃で培養した培養細胞、
構成2. 血小板接着を惹起する血小板接着物質(例えばコラーゲン、ADP)、および
構成3. 血小板懸濁液。
【0154】
本発明スクリーニング用キットを利用したスクリーニング方法においては、供試化合物(被験物質、薬剤候補化合物)を加えたウエル単位視野当たりのコラーゲンに対する血小板接着の程度を検出し、供試化合物を加えていないウエルにおける血小板接着阻害率を検出し、前者の率と後者の率との有意差検定を行えばよい。これらの測定、評価は、常法に従って実施することができる。
【実施例】
【0155】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。これらの実施例は、単なる例示であり、本発明を限定するものではない。
<実施例1>
1.ハマダラカ唾液腺cDNAライブラリー作製
羽化3〜7日後のメスハマダラカ(Anopheles stephensi:SDA500 strain)に、マウス(BALB/c系:日本クレア社より購入)を吸血させた。吸血6時間後の蚊から、羽、足、頭部および腹部を取り除き、唾液腺を含む胸部のみを液体窒素中に保存した。300匹分の胸部が集まったところで、RNeasy Midi Kit(キアゲン社)を用いてRNA抽出を行った。Poly-A付加RNAを集め、逆転写酵素を用いてcDNAをつくり、両端に制限酵素部位(EcoRIおよびHindIIIサイト)を付加し、さらにλSCREEN-1 Cloning Kits(ノバジェン社)に組み込んで、ライブラリーを作製した。
【0156】
2.唾液腺cDNAライブラリーのイムノスクリーニング
上記ライブラリーの各ファージを、大腸菌(ER-1647:Takara社製)にそれぞれ感染させ、抗ハマダラカ唾液腺抗体をプローブとしてスクリーニングした。抗ハマダラカ唾液腺抗体はハマダラカ唾液腺ホモジネートをフロイントアジュバンドとともにウサギに免疫して作製した。
【0157】
スクリーニングにより得られた陽性クローンを、ER-1647大腸菌に感染させて増幅し、ファージを取り出し、CreMediated Plasmid Excision(ノバジェン社)を用いて挿入部分をプラスミドpSCREEN-1b(+)(ノバジェン社))にクローニングした。挿入部位の塩基配列の決定は、pSCREENの両端に付加してあるDNA部分(SP6 promoter primer:配列番号:10:製品コード番号TKR3867:タカラバイオ社製およびT7 terminator primer:配列番号:11:製品コード番号NV432:Novagen社製)を利用して、ABI社310 Genetic Analyzerを用いて行った。
【0158】
塩基配列の解析の結果、クローニングした遺伝子断片には停止コドンは存在しているが、開始コドンが欠損していることがわかった。欠損しているSY-001 cDNAの5'領域を得るために、唾液腺cDNAライブラリーより抽出したλscreenファージDNAを鋳型として、プライマー、SP6 promoter primer(配列番号:10) と配列番号:12のpAnS-1 primerを用いた5’-RACE法(Frohman, M. A., et al., PNASC, 8, 8998-9002(1988)を行い、約470 bpのDNA断片をクローニングした。このDNA断片は前述のスクリーニングで得たDNA断片とオーバーラップしており、さらに開始コドンを含んでいた。2つのDNA断片を連結してSY-001をコードするDNA分子の全塩基配列を決定した。
【0159】
cDNAに見出されたORFは、269個のアミノ酸からなる推定28.5kDaの蛋白をコードしており、807bpよりなっていた。予想されるアミノ酸配列から、この蛋白はpI=3.8の酸性蛋白であり、N末端21個のアミノ酸残基は疎水性でシグナルペプチド様配列であり、C末端には膜アンカー領域がないことから、唾液として分泌されている蛋白であると予想された。
【0160】
この推定アミノ酸配列を配列番号:5に示す。また、該アミノ酸配列をコードするDNA分子の塩基配列を配列番号:6に示す。
【0161】
3. 組換え体DNAによるSY-001の発現と精製
(1) SY-001(22-269)の製造
PCRによりSY-001のアミノ酸番号の22番目から269番目(配列番号:5)をコードするDNA断片を増幅した。前記1.に示した唾液腺cDNAを鋳型とした。使用したプライマーpAnSG-F7(配列番号:13)は、5'端より3-8番目にNcoIサイト(ccatgg)を有し、使用したプライマーpAnSG-R1(配列番号:14)は、5'端より2-9番目にNotIサイト(gcggccgc)を有していた。次いで、該DNA断片をpENTR/D-TOPO(インビトロジェン社)にクローニングし、プラスミドpENTR-SY-001-Exon 1-4を構築した。
【0162】
次いで、pENTR-SY-001-Exon 1-4をNcoI/NotIで切断して得られるSY-001 DNA断片(約760 bp)を、pET32-b(+)(ノバジェン社)のNcoI/NotIサイトに挿入して、プラスミドpET32-SY-001-Exon 1-4を構築した。
【0163】
このpET32-SY-001-Exon 1-4で大腸菌BL21(DE3) (ノバジェン社)を形質転換し、得られた形質転換体をアンピシリン50μg/mLを含むLB培地(LBA) 6mL中で、37℃、15時間振盪培養した。次いで、培養液をLBA600mL中に加えて、37℃、4時間振盪培養後、培養液中に100 mM IPTGを6mL加え、更に37℃、4時間振盪培養した。培養液を6,000×gで15分間遠心して上清を除き、得られるペレットに6M塩酸グアニジン溶液40mLを加えて溶菌した。得られた菌液を30,000×gで25分間遠心して上清を回収し、これにNi-NTA(Qiagen)1.8mLを加えて、4℃で15時間撹拌した。混合物を、3,000×gで3分間遠心して上清を捨て、Ni-NTAを回収し、このものに10 mMイミダゾールを含む6M尿素-TBS溶液(6M尿素、150mM NaCl、50mM TrisHCl [pH7.5])をNi-NTAを回収するために加えた。得られる混合物を更に3,000×gで3分間遠心して上清を捨て、得られるNi-NTAをカラムに詰めた。
【0164】
該カラムからのSY-001 Exon1-4蛋白質の溶出は、次の通り行った。即ち、20mM、50mM、100mMおよび200mMイミダゾールをそれぞれ含む6M尿素-TBS溶液を2mLずつ順次カラムに流して各フラクションを回収した。その後、各フラクションの一部を12% SDS-PAGEにて電気泳動し、クマジー染色によりSY-001 Exon1-4蛋白質を含むフラクションを決定した。このフラクションをPBSで48時間透析し、蛋白質量をBCA Protein Assay Kit (PIERCE)で定量した。収量は5.0 mgであった。
【0165】
かくして得られた組換え体蛋白のアミノ酸配列は、配列番号:7に示すとおりであった。1-162番目および410-420番目のアミノ酸配列はそれぞれチオレドキシン蛋白およびHis Tag配列を含むpET32-b(+)由来のアミノ酸配列であり、本発明SY-001(22-269)のアミノ酸配列は、162-409番目に位置している。
【0166】
(2) SY-001(148-269)の製造
前記(1)で調製したpET32-SY-001 Exon1-4を鋳型として、プライマーpAnSG-F8(配列番号:15)およびpAnSG-R1(配列番号:14)を用いてPCRを行い、得られたDNA断片382 bpをpENTR/D-TOPO (Invitrogen)にクローニングして、プラスミドpENTR-SY-001 Exon 3-4を構築した。pENTR-SY-001 Exon 3-4をNcoI/NotIで切断して372bpのDNA断片を得、このものをpET32 (b)+ (Novagen)のNcoI/NotIサイトに挿入して、プラスミドpET32-SY-001 Exon 3-4を構築した。
【0167】
上記で得られたpET32-SY-001 Exon3-4を用いて大腸菌BL21(DE3) (ノバジェン社)を形質転換し、得られた形質転換体をアンピシリン50μg/mLを含むLB培地(LBA) 6mL中で、37℃、15時間振盪培養した。次いで、培養液をLBA600mL中に加えて、37℃、4時間振盪培養後、培養液中に100 mM IPTGを6mL加え、更に37℃、4時間振盪培養した。培養液を6,000×gで15分間遠心して上清を除き、得られるペレットに6M塩酸グアニジン溶液40mLを加えて溶菌した。得られた菌液を30,000×gで25分間遠心して上清を回収し、これにNi-NTA(Qiagen)1.8mLを加えて、4℃で15時間撹拌した。混合物を、3,000×gで3分間遠心して上清を捨て、Ni-NTAを回収し、このものに10 mMイミダゾールを含む6M尿素-TBS溶液(6M尿素、150mM NaCl、50mM TrisHCl [pH7.5])を加え、得られる混合物を更に3,000×gで3分間遠心して上清を捨て、得られるNi-NTAをカラムに詰めた。
【0168】
該カラムからのSY-001 Exon3-4蛋白質の溶出は、次の通り行った。即ち、20mM、50mM、100mMおよび200mMイミダゾールをそれぞれ含む6M尿素-TBS溶液を2mLずつ順次カラムに流して各フラクションを回収した。その後、各フラクションの一部を12% SDS-PAGEにて電気泳動し、クマジー染色によりSY-001 Exon3-4蛋白質を含むフラクションを決定した。このフラクションをPBSで48時間透析し、蛋白質量をBCA Protein Assay Kit (PIERCE)で定量した。収量は1.8 mgであった。
【0169】
かくして得られた組換え体蛋白のアミノ酸配列は、配列番号:8に示すとおりであり、このものは、293アミノ酸配列からなっていた。該アミノ酸配列中、1-160番目および283-293番目のアミノ酸配列はそれぞれチオレドキシン蛋白およびHis Tag配列を含むpET32-b(+)由来のアミノ酸配列であり、SY-001(148-269)のアミノ酸配列は、161-282番目に位置している。
【0170】
<実施例2>
バキュロウイルス発現系を用いた組換え体SY-001(21-269)の製造
(1) バキュロSY-001(21-269)の製造
実施例1の1.に示した唾液腺cDNAを鋳型とし、PCRによりSY-001(配列番号:1)のアミノ酸番号の21番目から269番目をコードするDNA断片を増幅した。使用したプライマーpAnSG-F10(配列番号:16)は、5'端より5-10番目のBamHIサイト(ggatcc)、12番目のgから41番目のaのFLAG配列を有し、使用したプライマーpAnSG-R1(配列番号:14)は、5'端より2-9番目にNotIサイト(gcggccgc)を有していた。該断片をpENTR/D-TOPO(インビトロジェン社)にクローニングし、プラスミドpENTR-SY-001-Exon 1-4を構築した。
【0171】
次いで、pENTR-SY-001-Exon 1-4をBamHI/NotIで切断して得られるSY-001断片(約780 bp)を、pBACgus-1(ノバジェン社)のBamHI/NotIサイトに挿入して、バキュロウィルストランスファーベクタープラスミドpBACgus-SY-001-Exon 1-4を構築した。
【0172】
組換えバキュロウイルスは、組換えバキュロウイルス作製キット (BacVector-2000 Transfection Kit、ノバジェン社)を用い、上記のバキュロウイルストランスファーベクタープラスミドpBACgus-SY-001-Exon 1-4と、BacVector-2000 DNAとをSf9細胞にコトランスフェクション(co-transfection)することにより作製した。作製した組換えバキュロウイルスは、AcNPV- SY-001-Exon 1-4と名付けた。
【0173】
即ち、Sf9細胞を150mmシャーレ1枚あたり1×107細胞になるように培養し、感染重複度約5でAcNPV- SY-001-Exon 1-4を感染させた。3-4日後、10枚の150mmシャーレから培養上清約250mLを回収し、これにNi-NTA(Qiagen)1.5mLを加えて、4℃で15時間撹拌した。混合物を、3,000×gで3分間遠心して上清を捨て、Ni-NTAを回収し、このものに10 mMイミダゾールを含むTBS溶液(150mM NaCl、50mM TrisHCl [pH7.5]) 50mlを加え、得られる混合物を更に3,000×gで3分間遠心して上清を捨て、得られるNi-NTAをカラムに詰めた。
【0174】
該カラムからのSY-001 Exon1-4蛋白質の溶出は、次の通り行った。即ち、20mM、50mM、100mMおよび200mMイミダゾールをそれぞれ含むTBS溶液を2mLずつ順次カラムに流して各フラクションを回収した。その後、各フラクションの一部を12% SDS-PAGEにて電気泳動し、クマジー染色によりSY-001 Exon1-4蛋白質を含むフラクションを決定した。このフラクションをPBSで48時間透析し、蛋白質量をBCA Protein Assay Kit (PIERCE)で定量した。収量は0.8 mgであった。
【0175】
かくして得られた組換え体蛋白SY-001(21-269)のアミノ酸配列は、配列番号:9に示すとおりであった。該配列において、1-10番目の配列はFLAG配列であり、11-259番目のアミノ酸配列がSY-001(21-269)の配列であり、260-270番目配列はHis Tag配列を含むpBACgus-1由来の配列である。
【0176】
<実施例3>
比濁透過光法血小板凝集計を用いた多血小板血漿(PRP)凝集測定によりSY-001の血小板凝集阻害作用を検討した。
【0177】
その方法の概略は次の通りである。即ち、まず、抗凝固剤入りシリンジを用いて健常人から採血を行い、採血した全血から遠心分離操作により多血小板血漿(platelet-rich plasma, PRP)を調製した。次いで、調製したPRPをSY-001溶液(実施例1の3-(1)で調製した配列番号:7に示されるアミノ酸配列のSY-001のPBS溶解液)もしくはコントロールとしてのPBSと混合してプレインキュベーションした後、血小板凝集惹起剤を添加して血小板を凝集させた。凝集惹起剤としては、ADP(SIGMA社製)、コラーゲン(NYCOMED社製)、CRP(株式会社ペプチド研究所社製)、コンバルキシン(Alexis社製)、TRAP(サワデーテクノロジー社製)、エピネフリン(第一製薬社製)、アラキドン酸(SIGMA社製)、U-46619(Cayman社製)、A23187(SIGMA社製)をそれぞれ用いた。
【0178】
そして、比濁透過光法血小板凝集計(MCM HEMA TRACER 313M:エム・シー・メデイカル社製)で5分間に亘って血小板凝集率を測定し、5分間の測定で最大凝集率を求め、下式に従って、SY-001の血小板凝集阻害率(%)を算出した。
【0179】
血小板凝集阻害率(%)=(1-As/Ac)×100
As: SY-001添加PRPの最大血小板凝集率
Ac: コントロールPRPのみの最大血小板凝集率
上記各操作の詳細は、下記(a)〜(c)の通りである。
(a)抗凝固剤としての3.8%クエン酸ナトリウム6mLを入れたシリンジを用いて、健常者から血液60mLを採血した。その後、1,100回転/分にて10分間遠心分離し、上層部分としてのヒト多血小板血漿(PRP)層を別の試験管に移した。残りの下層部分を3,000回転/分にて10分間遠心分離し、得られた上層の透明な黄色層(PPP:貧血小板血漿)を別の試験管に移した。上記で得られたPRPとPPPとを混合して、血小板数を3×108/mLに調整したものを、以下の測定に使用した。以下の測定ではこの混合物を「PRP測定サンプル」という。
【0180】
血小板凝集計の血小板凝集率の設定は、PPPの光透過率を血小板凝集率100%、PRPの光透過率を血小板凝集率0%、となるように行った。
(b)コラーゲン濃度の設定および血小板凝集阻害作用の測定
まず、SY-001を含まないPRP測定サンプル200μLを入れた凝集キュベットを血小板凝集計にセットし、37℃で2分間インキュベーションした後、コラーゲン溶液(NYCOMED GmBH社製, モリヤ産業) 22.2μLを添加して、37℃で5分間に亘って連続的に血小板凝集率を測定した。5分間の中で最も高い血小板凝集率を最大血小板凝集率とした。コラーゲン溶液は、最大血小板凝集率の70%を誘発するサブマキシマムな濃度として5〜20μg/mLの濃度を用いた(PRP測定サンプル中の最終濃度0.5〜2μg/mL)。
(c)次いで、PRP測定サンプル200μLを入れた各凝集キュベットに、(i) 30nM、100nMおよび300nMの各濃度になるように調製したSY-001(22-269)(実施例1の3-(1)で調製した配列番号:7に示されるアミノ酸配列を有するもの)、(ii) 100nM、300nMおよび1000nMに調製したSY-001 (148-269)(実施例1の3-(2)で調製した配列番号:8に示されるアミノ酸配列を有するもの)あるいは(c) コントロールのPBS(137mM NaCl, 2.7mM KCl,8.1mM Na2HPO4, 1.5mM KH2PO4)を、それぞれ添加した。各試料を血小板凝集計にセットし、37℃で2分間プレインキュベーションした後、上記のように決定した所定濃度のコラーゲン溶液22.2μLを添加し、その添加から5分間に亘る血小板凝集率を測定した。
【0181】
コラーゲン刺激によって惹起されたSY-001(22-269)の血小板凝集阻害効果の結果を図1に示す。また、コラーゲン刺激によって惹起されたSY-001(148-269)の血小板凝集阻害効果の結果を図2に示す。
【0182】
各図において、横軸はコラーゲン添加30秒前からの経過時間(−0.5-5分間)を示し、縦軸は血小板凝集率:(%)を示す。
【0183】
図1中、曲線1はSY-001(22-269)を300nMの濃度となるように添加した場合の結果であり、曲線(2)は、SY-001(22-269)100nMの結果であり、曲線(3)は、SY-001(22-269)30nMの結果であり、曲線(4)はコントロールの結果である。
【0184】
また、図2中、曲線(1)はSY-001(148-269)を1000nMの濃度となるように添加した試料の結果であり、曲線(2)は、SY-001(148-269)300nMの結果であり、曲線(3)はSY-001(148-269)100nMの結果であり、曲線(4)はコントロールの結果である。
【0185】
これらの図に示される結果から明らかなとおり、本発明のSY-001はコラーゲン刺激により誘発された血小板凝集をその添加量が増大するにしたがって減少させること、即ち血小板凝集阻害効果を奏することが判る。
【0186】
また、実施例2のバキュロウイルス発現系で製造した組換え体蛋白質SY-001(21-269)を用いて、上記と同一試験を行った結果、図1に示される結果と実質的に同一の結果が得られた。このことから、本発明SY-001は血小板凝集阻害効果を奏することが明らかである。
【0187】
上記SY-001(21-269)を用いる試験において、SY-001(21-269)を3nM〜1000nMの濃度に変化させて血小板凝集率を求め、SASソフトウェア(SAS Institute Japan, Release 8.1)を用いて、SY-001(21-269)の血小板凝集阻害作用(IC50)を回帰分析(Log-logit Analysis)した。その結果、SY-001(21-269)のIC50は、25nMと算出された。
【0188】
以上の結果から、本発明SY-001の血小板凝集阻害効果は、配列番号:5のSY-001のアミノ酸配列中、148番目から269番目の間のC末端側にそのエピトープ部分が存在すると推察される。
【0189】
<実施例4>
SY-001の変異体の合成
以下、Fmoc (9-フルオレニルメチルオキシカルボニル, 9-fluorenylmethyloxycarbonyl)法による固相合成法により、SY-001を合成する。
【0190】
活性試薬としてTBTU [2-(1H-Benzotriazole-1-yl)-1,1,3,3-tetramethyluronium tetrafluoroborate]およびHOBt [1-Hydroxybenzotriazole hydrate]を用いて、連続フロー方式で反応を行って、配列番号:5に示すアミノ酸配列のSY-001のN末端からC末端に向けて、所望のアミノ酸数の合成ポリペプチドを得ることができる。
【0191】
必要に応じて、得られる合成ポリペプチドは、ジメチルスルホキシドに溶解し、アセトニトリルにて更に希釈することができる。
【0192】
製剤例1
(1) SY-001 (配列番号:8に示されるアミノ酸配列を有するもの)100μg/mL、「ツウィーン80」(Polyoxyethylene(20)Sorbitan Monooleate; Polysorbate 80) 0.01mg/mL、デキストラン40 15mg/mL、システイン0.1mg/mLおよびHSA(ヒト血清アルブミン)1.0mg/mLを0.01Mクエン酸−クエン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)に加えて混合し、混合物を濾過(0.22μmメンブランフィルター使用)後、濾液を無菌的に1mLずつバイアル瓶に分注し、凍結乾燥して、注射用製剤形態の本発明医薬組成物を調製した。該製剤は、これを用時、生理食塩水1mLに溶解して利用することができる。
【0193】
(2) 1バイアル当たり、SY-001(配列番号:8に示されるアミノ酸配列を有するもの)10μg/0.1mL、システイン酸5mgおよびヒト血清アルブミン(HSA)1mgを注射用蒸留水に溶解し、得られる溶液を1バイアル当たり1mLずつ充填し、凍結乾燥を行って、注射用製剤形態の本発明医薬組成物を調製した。
【0194】
コラーゲンへの血小板接着についてのAAPPの作用
3, 10, 30, 100, 300, 1000または3000 nMのSY-001溶液(50μL)を、40μg/mLのコラーゲン(NYCOMED GmBH)でコーティングされた96ウェルプレートに添加し、室温で30分間インキュベートした。インキュベーション後、50μLの血小板懸濁液(6 x 108/mL細胞)を各ウェルに加え、室温で45分間インキュベートした。インキュベーション後、各ウェルの溶液をピペットを用いて除き、ウェルを200μLのPBSで洗浄した。次に、1% SDSを含有する20μLのPBSを各ウェルに加え、次いで振盪しながら攪拌し、空気中45℃で乾燥した。次に、5μLの蒸留水を各ウェルに加え、ウェル中の蛋白質濃度をDc蛋白質アッセイキット(BIO-RAD)を用いて測定した。
結果を図3に示す。
図3に示されるように、本発明のSY-001は、用量依存的にコラーゲンへの血小板接着を阻害すること、SY-001は、特に300μg/mL以上の用量で強力な血小板接着阻害作用を示すことが同定された。
【0195】
コラーゲンに対するSY-001の結合能
ブロッキング溶液(300μL)を、コラーゲンでコーティングされた96ウェルプレート(NUNC, 152038)あるいはコーティングされていない96ウェルプレート(NUNC, 260895)の各ウェルに加え、室温で1時間インキュベートした。各ウェルの溶液を除去し、3, 10, 30, 100または300 nMのSY-001蛋白質溶液100μLを各ウェルに加え、室温で1時間インキュベートした。各ウェルの溶液を除去し、200μLの2%シュクロースを各ウェルに加え、室温で5分間インキュベートした。各ウェルの溶液を除去し、ウェルを乾燥した。次いで、100μLの再構成Ni-HRP溶液(ExpressDetector Nickel-HRP KPLより供給)を各ウェルに加え、室温で30分間インキュベートした。洗浄緩衝液で洗浄後、ABTSペルオキシダーゼ基質100μlを各ウェルに加え、穏やかに振盪しながら混合した。反応の完結後、100μlの1% SDSを加え、マイクロプレートリーダーを用い、405-410nmの波長の吸光度を測定した。
結果を図4に示す。三角はコントロールとしての空のベクターの反応曲線を示す。図4に示されるように、SY-001がコラーゲンに対する結合能を有することを同定した。
【0196】
上記のように、本発明のSY-001は、血小板凝集阻害作用だけでなく、血小板のコラーゲン接着阻害作用を有することを同定し得た。本発明のSY-001は、コラーゲン結合能を有することが同定され得た。
【0197】
これらの結果から、有効成分として本発明のSY-001を含む医薬組成物は、心筋梗塞、肺塞栓、脳梗塞などの治療剤または予防剤として有用であり得る。
【0198】
組換えAAPPの血小板接着阻害作用及びコラーゲン結合能
図3:AAPPは、コラーゲンへの血小板接着を阻害する。
図4:AAPPは、コラーゲンへの結合能を有する。
【産業上の利用可能性】
【0199】
本発明によれば、SY-001または本発明発現産物を有効成分とする医薬組成物を提供することができる。本発明組成物は、SY-001およびSY-001ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(DNA分子)が関与する各種の疾患、例えば血栓、塞栓などの形成が発症の原因となる疾患や合併症、例えば急性冠症候群、心筋梗塞、脳塞栓、慢性動脈閉塞症、動脈硬化、虚血性脳梗塞、狭心症、静脈血栓症、高血圧症、肺高血圧症、脳梗塞、肺梗塞、心不全、腎炎、腎不全、クモ膜下出血後の病態などの予防剤または治療剤として有用であると考えられる。
【0200】
さらに、本発明組成物は、PTCAやステント留置の際の血栓形成予防に、またステント自体にこれを包接、塗布または埋め込みにより施工して、ステント留置後の再狭窄の予防に有用であると考えられる。
【0201】
本発明により提供されるSY-001およびSY-001をコードするDNA分子は、当該ポリペプチドまたは当該DNA分子の発現産物(本発明発現産物)に対するアゴニスト、即ち、これらの蛋白質が本来有する血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用を促進する作用を有する物質を候補化合物としてスクリーニングすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0202】
【図1】実施例1の3(1)で製造されたSY-001によるコラーゲン刺激により誘発された血小板凝集阻害作用を示す。
【図2】実施例1の3(2)で製造されたSY-001によるコラーゲン刺激により誘発された血小板凝集阻害作用を示す。
【図3】AAPPは、コラーゲンへの血小板接着を阻害する。
【図4】AAPPは、コラーゲンへの結合能を有する。
【配列表フリーテキスト】
【0203】
配列番号:10は、SP6プロモーター・プライマー配列であり、配列番号:11は、T7ターミネータープライマー配列であり、配列番号12は、pAnS-1プライマー配列であり、配列番号:13は、pAnSG-F7プライマー配列であり、配列番号:14は、pAnSG-R1プライマー配列であり、配列番号:15は、pAnSG-F8プライマー配列であり、配列番号:16は、pAnSG-F10プライマー配列である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(d)の少なくとも1種のポリペプチドを有効成分として含有する医薬組成物:
(a) 配列番号:1のアミノ酸配列を含むポリペプチド、
(b) 上記(a)のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列を含み且つ血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用を有するポリペプチド、
(c) 配列番号:3のアミノ酸配列を含むポリペプチド、
(d) 上記(c)のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列を含み且つ血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用を有するポリペプチド。
【請求項2】
以下の(e)〜(j)の少なくとも1種のポリヌクレオチドにより発現された発現産物を有効成分として含有する医薬組成物:
(e) 配列番号:2のDNA配列またはその相補鎖を含むポリヌクレオチド、
(f) 上記(e)のポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし且つ血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用を有するポリペプチドを発現可能なポリヌクレオチド、
(g) 上記(e)のポリヌクレオチドと80%以上の相同性を有するDNA配列を含み、且つ血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用を有するポリペプチドを発現可能なポリヌクレオチド、
(h) 配列番号:4のDNA配列またはその相補鎖を含むポリヌクレオチド、
(i) 上記(h)のポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし且つ血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用を有するポリペプチドを発現可能なポリヌクレオチド、
(j) 上記(h)のポリヌクレオチドと80%以上の相同性を有するDNA配列を含み且つ血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用を有するポリペプチドを発現可能なポリヌクレオチド。
【請求項3】
前記血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用が、コラーゲンにより惹起された血小板凝集に対する阻害作用及び/又はコラーゲンへの血小板接着についての阻害作用である請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記医薬組成物がコラーゲンに対する結合能を有する請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
請求項1に記載のポリペプチドまたは請求項2に記載のポリヌクレオチドにより発現された発現産物を含有する血小板凝集阻害剤及び/又は血小板接着阻害剤。
【請求項6】
被験物質の存在下または非存在下に、請求項1に記載のポリペプチドの血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用の程度を測定し、被験物質の存在下における測定値を被験物質の非存在下における測定値と対比して、該阻害作用を増強する被験物質をアゴニストとして選択する、血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用に対するアゴニストのスクリーニング方法。
【請求項7】
被験物質の存在下または非存在下に、請求項2に記載のポリヌクレオチドにより発現された発現産物の阻害作用の程度を測定し、被験物質の存在下における測定値を被験物質の非存在下における測定値と対比して、血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用を増強する被験物質をアゴニストとして選択する、血小板凝集阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用に対するアゴニストのスクリーニング方法。
【請求項8】
以下の(1)〜(4)の工程を含む、請求項1に記載のポリペプチドもしくは請求項2に記載の発現産物の血小板阻害作用及び/又は血小板接着阻害作用を増強する候補物質のスクリーニング方法:
(1) 請求項1に記載のポリペプチドを発現する発現ベクターで形質転換した細胞または請求項2に記載の発現産物を含む細胞と多血小板血漿とを含む培養液を準備する工程、
(2) 被験物質の存在下または非存在下に、上記(1)の培養液中に血小板凝集惹起物質を添加して血小板凝集を惹起させる工程、
(3) 上記(2)における被験物質の存在下または非存在下における血小板凝集の程度を計測する工程、及び
(4) 被験物質の存在下における計測値が、被験物質の非存在下における計測値と比べて
大である場合に、該被験物質を候補物質として選択する工程。
【請求項9】
多血小板血漿と、請求項1に記載のポリペプチドおよび請求項2に記載の発現産物のいずれかと、血小板凝集惹起物質とを構成成分として含有することを特徴とする、請求項1に記載のポリペプチドまたは請求項2に記載のポリヌクレオチドにより発現される発現産物のアゴニストをスクリーニングするためのキット。
【請求項10】
配列番号:1のアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド。
【請求項11】
配列番号:3のアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド。
【請求項12】
配列番号:5のアミノ酸配列を含む単離されたポリペプチド。
【請求項13】
配列番号:2のDNA配列またはその相補鎖を含むポリヌクレオチド。
【請求項14】
配列番号:4のDNA配列またはその相補鎖を含むポリヌクレオチド。
【請求項15】
配列番号:6のDNA配列またはその相補鎖を含むポリヌクレオチド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−514785(P2009−514785A)
【公表日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−519765(P2008−519765)
【出願日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際出願番号】PCT/JP2006/322417
【国際公開番号】WO2007/052841
【国際公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(505246789)学校法人自治医科大学 (49)
【出願人】(000206956)大塚製薬株式会社 (230)
【Fターム(参考)】