説明

血小板活性化能の測定方法および抗血小板薬の評価方法

【課題】 抗血小板薬の効果を評価するため、血小板凝集の基となる血小板活性化能を、感度良く測定する方法を提供することをその主な課題とする。
【解決手段】 ヒトから採血した全血を、凝集させない状態に保つ工程;前記全血液に、血小板刺激物質を接触させる工程;前記工程により生じた活性化血小板を固定する工程;蛍光標識抗CD61抗体および蛍光標識CD62P抗体を用いて免疫反応を行う工程;およびフローサイトメトリーを使用し、CD62P値を測定する工程;を含む血小板活性化能の測定方法、および該測定方法による結果を指標とする、抗血小板薬の評価方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血小板活性化能の測定方法および抗血小板薬の評価方法に関し、詳しくは、血中P−セレクチン(CD62P)測定による血小板活性化能の測定方法、および該測定方法を用いた抗血小板薬の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年における生活習慣の欧米化に伴い、虚血性心疾患や脳血管障害などの血管障害性疾患が、我が国における死因の上位を占めるようになった。これら血管障害性疾患の発症増加には糖尿病、高脂血症、高血圧症および痛風などの生活習慣病の増加が深く関与し、社会的問題になっている。糖尿病や高脂血症では、血管内皮細胞が、高LDLコレステロールや高血糖状態下で傷害を受け、循環中の血小板を活性化し、凝集を惹起し血栓形成を促進するとされている。このように、血栓には、血小板が活性化されてできる血小板血栓のほか、凝固因子が刺激されることによりできるフィブリン血栓がある。前者にはアスピリンなどによる抗血小板療法が効果的であるとされ、後者にはワーファリンやヘパリンなどによる抗凝固療法が行われている。抗血小板療法や抗凝固療法などの血栓症の治療を行う際に、薬剤効果のモニタリングを行うことは治療効果を上げるためには必要不可欠であるが、抗血小板療法は特別なモニター無しに行われているのが現状である。佐藤らは血小板凝集能検査による抗血小板薬治療効果についてのモニタリングの必要性は高いが、血小板凝集能検査の標準化は行われておらず、その実現化の重要性について報告した(非特許文献1)。
【0003】
血小板凝集能検査には、従来から使用されている血小板凝集試験(Born法)や、近年開発されたレーザー光散乱法がある。これらの測定法の原理は、刺激物質で血小板を活性化させ、それによって生じた血小板凝集塊を検出する方法である。この方法は、血小板の活性化状態を血小板の凝集状態によって判断するため、測定には専用の機器と大量の試料が必要で、操作の煩雑性、再現性や感度に問題が多いため、広く一般病院で行われていないのが現状である。
【0004】
近年、血小板凝集を測定する方法として、分子レベルでの測定法も提案されている。特許文献1では、活性化により血小板表面に特異的に出現してくる物質を、免疫学的手法により測定することを明らかにしている。ここでは、活性化糖蛋白質IIb/IIIaに結合する抗体であるPAC−1を測定し、活性化血小板を検出する方法を示している。特許文献2では、血小板表面に出現してくるCD40Lを、免疫反応を行いウエスタンブロティング法で測定し、血小板凝集を決定する方法を明らかにしている。また、特許文献3では、膜結合および/または可溶性のP−セレクチンをモニターして抗血小板薬を評価する方法を明らかにしているが、血小板高含有血漿(PRP)あるいは血小板低含有血漿(PPP)を用いるため、試験用の血液量を多量に必要とする問題点がある。特許文献4では、全血試料を使用して、P−セレクチンの発現度を蛍光測定し、血小板活性化度を測定する方法を開示しているが、活性化刺激物質を、凝集の生じやすいクエン酸Na添加の全血に加えて、血小板の活性化度を測定する従来の活性化方法を用いており、採血した全血を活性化しない状態に保ち、活性化刺激物質でどの程度活性化するか測定する方法を明らかにしたものではない。
【0005】
微弱な血小板凝集の粒子画像を撮影し判別することにより、生体に近い状態で血小板凝集塊を測定する機器として、フローサイトメトリーが使用されている。フローサイトメトリーに導入して、前方散乱光情報と蛍光情報に基づいて特定することにより、血小板凝集と、骨髄芽球を正確に分類・計数できる測定方法(特許文献5)、フローサイトメトリーを用いて、ヒト末梢血のリンパ球表面抗原のCD4とCD8を染色して分析する方法及び装置(特許文献6)が開示されているが、活性化した血小板表面のCD62Pを検出して血小板の活性化能を測定したものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−117152号公報(表1)
【特許文献2】特表2009−516201号公報(実施例5,図2)
【特許文献3】特表2001−526774号公報(表4)
【特許文献4】特表平10−512951号公報(例7,例8)
【特許文献5】特開2007−263894号公報(実施例1,図13,図14)
【特許文献6】特開2002−310886号公報(図5,図6)
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日本検査血液学会 9:167−177,2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、抗血小板薬の効果を評価するため、血小板凝集の基となる血小板活性化能を、感度良く測定する方法を提供することをその主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、活性化された血小板表面に表出するCD62P値を検出し、血小板活性化能を感度良く測定する方法を開発した。さらに、この測定法を用いた抗血小板薬の評価方法を見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は以下の(1)〜(6)を提供する。
【0011】
(1)下記の工程(a)〜(e)を含む血小板活性化能の測定方法:
(a)ヒトから採血した全血を、凝集させない状態に保つ工程;
(b)前記全血液に、血小板刺激物質を接触させる工程;
(c)前記工程により生じた活性化血小板を固定する工程;
(d)蛍光標識抗CD61抗体および蛍光標識CD62P抗体を用いて免疫反応を行う工程;および
(e)フローサイトメトリーを使用し、CD62P値を測定する工程。
【0012】
(2)前記凝集させない状態に保つ工程が、EDTA塩を加えることにより成す工程である上記(1)に記載の測定方法。
【0013】
(3)前記血小板刺激物質が、ADP、コラーゲン、エピネフリン、リストセチン、コンバルキシン、セロトニン、バソプレシン、カルバゾクロム、血液凝固因子(FVIII、FIX)、トロンビン、イプシロン−アミノカプロン酸、トラネキサム酸、硫酸プロタミン、エタンシラート、フィトナジオン、エストロン硫酸ナトリウム、エクイリン硫酸ナトリウムから選ばれる刺激物質である上記(1)または(2)のいずれかに記載の測定方法。
【0014】
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の測定方法による結果を指標とする、抗血小板薬の評価方法。
【0015】
(5)前記抗血小板薬が、アスピリン、シロスタゾール、ジピリダモール、塩酸チクロピジン、クロフィブレート、イコサペント酸エチル、スルフィンピラゾン、クロピドグレル、ベラプロスト、トロンボモジュリン、プロスタグランジンE、抗セロトニン系薬剤、クマリン系抗凝固薬や活性プロテインCから選ばれる薬剤である上記(4)に記載の方法。
【0016】
(6)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の測定方法に使用するための試薬および容器から成るキット。
【発明の効果】
【0017】
本発明の血小板薬活性化能の測定方法は、特異性が高く、また感度の高い方法であるため、非常に少量の血液で測定を行うため、患者の負担が少なく、優れた測定方法である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】各濃度の刺激物質を添加した時のCD62Pの陽性率を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、血小板の特性である、凝集する前には、血小板が活性化されていることが必須であることを利用して、従来法とは逆に、「凝集させない状態」で、血小板が、刺激物質によりどの程度まで活性化する能力を有しているかを測定する。そして、この測定条件下で、抗血小板薬と称されている薬物が、血小板の活性化をどの程度抑制できるかを測定し、抗血小板薬を評価するものである。さらにまた、上記刺激物質の種類により、血小板が活性化するルートを予測し、抗血小板薬の選択を提案するものである。
【0020】
血小板凝集の基となる血小板活性化のメカニズムは、主に2つのルートから説明することが出来る。1つ目のルートは、コラーゲンなどのペプチド鎖による血小板の刺激により、リン脂質からホスホリパーゼによる作用で遊離したアラキドン酸に、シクロオキシゲナーゼが作用し、プロスタグランジンG2、さらにトロンボキサンA2が生合成する。トロンボキサンA2は、血小板内Ca濃度を上昇させ、血小板が活性化する。2つ目のルートは、ADPによる血小板の刺激により、アデニル酸シクラーゼが抑制され、アデノシン三リン酸(ATP)から、3‘,5’環状AMP(c−AMP)への変換が減少する。さらに、c−AMPは、ホスホジエステラーゼ(PDE)により加水分解されて減少することにより、細胞膜からのCaイオンの通過が抑制され、血小板内Ca濃度を上昇し、血小板が活性化する。
【0021】
血小板は活性化すると、血小板内のα顆粒や濃染顆粒から、さまざまな物質を放出する。CD62Pもその1つである。CD62Pは、血小板活性のマーカーとして1984年にJohnston GIらにより発見された(Johnston GI,et al,J Biol.Chem.264:1816−1823,1989)。CD62Pは、分子量140kDa膜貫通型のタイプ1の糖タンパク質であり、血小板のα顆粒や血管内皮細胞のWeibel−Palade bodyの顆粒膜に存在する。血小板の活性化により、血小板膜表面に表出して血小板の接着を促進し、血小板凝集に重要な役割を果たしている。本発明は、活性化により表出するCD62P値から血小板活性能を測定するものである。具体的には、刺激物質の有無によりCD62P値がどの程度上昇するかの上昇比率で表すことができる。
【0022】
活性化状態でのCD62P値を測定するために、本発明は、まず、最初の工程として、血小板の「凝集させない状態」を保つ。本発明の「凝集させない状態」とは、採血した血液が、採血直後の状態、すなわち凝固へ進まない状態を表し、この状態を保つ手段としては、血液にヘパリンやキレート剤などの抗凝固剤を接触させ、血小板内Ca濃度を上昇させない処置を行うこと、あるいは脱カルシウム化することである。キレート剤としては、クエン酸ナトリウムなどのクエン酸塩、エチレンジアミン4酢酸2カリウム(EDTA―2K)、エチレンジアミン4酢酸2ナトリウム(EDTA―2Na)などのエチレンジアミン4酢酸塩(EDTA)のほか、ジアミノプロパノール4酢酸塩、エチレンジアミンジプロピオン酸塩などがあげられる。血小板薬の評価に使用するキレート剤については、散乱光が安定していること、血小板の屑が出来にくいことが条件であるが、クエン酸Naやヘパリンよりも、EDTA塩を使用することが好ましい。血小板凝集を阻害するのに有効なキレート剤の使用に際しては、EDTA―2Kの場合は、血液試料に対して0.05〜1%程度、EDTA―2Naの場合は、0.1〜2%程度用いるが、EDTA―2Kを0.1〜0.5%用いることが、凝集させない状態を保つ手段として最も望ましい。
【0023】
本発明の「凝集させない状態」の全血液に、血小板刺激物質を接触させる工程は、未凝集状態の活性化血小板を生じさせるための工程である。本発明で、活性化血小板とは、「血小板の接着を促進するCD62Pが、血小板内のα顆粒から血小板膜表面に表出した血小板」をいう。血小板膜表面に表出したCD62Pを測定することにより、血小板が、血小板刺激物質でどの程度まで活性化する能力を有しているかを測定することが出来る。この場合、比較対象として、刺激物質を接触させない血液も同時に取り扱う。血小板刺激物質としては、ADP、コラーゲン、エピネフリン、リストセチン、コンバルキシン、セロトニン、バソプレシン、カルバゾクロム、血液凝固因子(FVIII、FIX)、トロンビン、イプシロン−アミノカプロン酸、トラネキサム酸、硫酸プロタミン、エタンシラート、フィトナジオン、エストロン硫酸ナトリウム、エクイリン硫酸ナトリウムなどがあげられ、該工程においては、上記刺激物質から1種類を選んで用いる。血小板を刺激するのに有効な血小板刺激物質の使用に際しては、ADPを添加する場合は、試験液に対し0.01〜10μM/L程度、コラーゲンを添加する場合は、試験液に対し0.01〜10μg/ml程度加えることが望ましい。また、これらの血小板刺激物質との反応は、5〜30分行うことが出来るが、より効果的な反応時間は10分である。
【0024】
本発明の活性化血小板を固定する工程は、前工程で生じたCD62Pを安定な状態で測定するために行う工程である。固定液としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、グリオキサールなどを、1種または、2種以上を混合して使用することが出来るが、ホルムアルデヒドとグリオキサールを混合して用いることが好ましい。これらの固定剤は、例えばPBSなどの緩衝液に、各々100mM〜2000mM/L程度に溶解して用いることが出来るが、CD62P固定剤は666mM/Lホルムアルデヒドと167mM/Lグリオキサール混合液が好ましく、固定時間は1〜10分間であるが、1〜5分間が好ましい。
【0025】
本発明は、蛍光標識抗CD61抗体および蛍光標識CD62P抗体を用いて免疫反応を行う工程を有する。当該工程は、血小板の活性化により表出したCD62P値と、全血小板に存在するCD61(血小板糖たんぱくGPIIIa)値とを蛍光免疫法で測定するが、CD62P値は、好ましくはPE(Phycoerytrin)で蛍光標識したCD62P抗体を用い、CD61値は、好ましくはFITC(fluorescent isothiocyanate)で蛍光標識したCD61抗体を用いて測定する。同時に蛍光反応を行うFITCとPEの二重標識の組み合わせは、両者とも488nmで励起され、FITCは530nm付近に緑色の蛍光を発し、PEは570nm付近の赤色の蛍光を発するので明確に区別することができる。また、CD62P値の陰性対照としては、FITCおよびPEとそれぞれに結合したマウス−イムノグロブリンG(IgG)を用いる。
【0026】
本発明は、CD62P値を測定する手段として、フローサイトメトリーを使用する。すなわち、本発明の血小板活性化能測定の最終工程は、フローサイトメトリーを使用し、上記免疫反応を行ったCD62P陽性率、CD61陽性率およびIgG陽性率の測定値をコンピューター解析することにより、CD62P値を測定する工程である。
【0027】
フローサイトメトリーとは細い流れの中に、細胞やその他の生物学的な粒子を通過させ、レーザー光を照射して発生した散乱光(前方散乱光:FSC、側方散乱光:SSC)と蛍光を電圧パルスとして測定し、粒子の物理的な性質や化学的な性質を測定する方法である。1947年、Wallace Coulterにより原理が考案され、1953年に流体による細胞数の計測器が実用化され、1969年にアルゴンレーザーを搭載したフローサイトメトリーが開発されている。
【0028】
活性化血小板の測定においては、10000〜90000個の血小板をフローサイトメトリーに供することが望ましく、得られたデータは、適したコンピューターソフトにより解析を行う。例えば、全血小板の測定パラメーターを、内部構造を反映するSSCと、サンプルの大きさを反映するFSCを2軸にとり、作成したドットプロットを、ゲーティング(制限や囲みの設定)を行うことにより、活性化血小板と、凝集塊や細胞屑を分離して解析することが出来る。陰性対照のデータから、ゲーティングを行い、次いでヒストグラムを作成する。CD62P値は、CD61陽性率の中からCD62P陽性率を測定し、CD61とCD62Pの両方が陽性である血小板率から求めることができる。すなわち、フローサイトメトリーを用いたCD62P陽性率は、血小板表面に表出するCD62P値を反映する。
【0029】
さらに、本発明は、上記CD62P値の結果を指標として、該抗血小板薬の評価方法を提供するものである。抗血小板薬の評価は以下のように行うことができる。すなわち、抗血小板薬を服用する前後に採血して下記の試験を行う。刺激物質無添加をコントロールとて、そのCD62P陽性率(A)を測定する。それと同時に血液にADPあるいはコラーゲン等の刺激物質を添加してCD62P陽性率(B)を測定する。次にB÷AからADPあるいはコラーゲン等の刺激物質添加時のCD62P陽性率の上昇比率から血小板活性化能を求め、服用前と服用後の上昇比率を比較して、有意に低値を示しているかどうかを調べる。有意に低値を示していた場合に、抗血小板薬の効果があったと評価する。また、抗血小板薬の評価方法の中には、特定の血小板刺激物質による血小板活性化能から、血小板が活性化するルートを予測し、抗血小板薬を選択することも含まれる。
【0030】
本発明の、抗血小板薬としては、アスピリン、シロスタゾール、ジピリダモール、塩酸チクロピジン、クロフィブレート、イコサペント酸エチル、スルフィンピラゾン、クロピドグレル、ベラプロスト、トロンボモジュリン、プロスタグランジンE、抗セロトニン系薬剤、クマリン系抗凝固薬や活性プロテインCが含まれる。
【0031】
本発明の、抗血小板薬を評価する試料となる血液は、対象となる抗血小板薬を服用後、効果が認められるとされる時期のヒトから採血した血液および、服用中止後、薬物の有効性が決められている間に採血した血液が対象となる。
【0032】
また、本発明の抗血小板薬の評価方法には、試料を提供したヒトに適する抗血小板薬の選択も含まれる。
【0033】
本発明はまた、血小板活性化能の測定を行うための試薬を予め組み合わせたキットを提供する。該キットには、抗体のほか、固定化担体、標識物質、標識の検出に用いられる基質化合物等の試薬の他、容器を含めることもできる。
【0034】
以下、本発明を更に詳しく説明するため、実施例をあげるが本発明はこれに限定されない。
【実施例1】
【0035】
[血液試料]
30人の健康な成人(年齢21−23歳、女性23名、男性7名)から血液を採取し、血液試料を得た。他に、アスピリン(Bayer社製)を1日当たり100mg毎日3日間服用した7人の健康な成人(年齢21−23歳、女性4名、男性3名)からも採血し、血液試料を得た。上記試験参加者は、既往症もなく他の薬物の服用もしていない。全ての試験参加者には、インフォームドコンセントを与え、この試験実施は山口大学医学部倫理委員会にて承認された。止血方法も含め、採取に関する国際的なガイドラインンに従って、血液は静脈より2mlずつ2本のチューブに採血した。最初のチューブの血液は組織等の混入があるため廃棄し、2本目を試験用の血液とした。
【実施例2】
【0036】
[CD62P値の測定]
実施例1で得られた1.5mg/mlのEDTA−2K、または0.1mol/Lのクエン酸Naを含有させた末梢血全血45μlに、血小板刺激物質ADP0.1〜100μM/Lまたはコラーゲン0.1〜100μg/ml溶液を各々5μlずつ添加し、最終濃度がADP 0.01〜10μM/Lまたはコラーゲン0.01〜10μg/mlの状態で10分間反応させ、固定液[PBS中に、666mM(2%)ホルムアルデヒド167mM(1%)グリオキサールを含有]5μlを混合して5分間固定した後にリン酸緩衝液(PBS)4mlを加えて洗浄し、3000rpmで5分間遠心する。上清PBS100μlを残すように上清PBSを吸引除去し、固定した血小板を上清PBS100μlに浮遊させ、CD62P値測定用50μlと陰性対照用50μlに分ける。CD62P値測定用には、5μl蛍光イソチオシアネート(FITC)標識抗CD61抗体(Caltag研究所製)、および20μlのCD62P結合フィコエリスリン(PE)(eBioscience研究所製)を加え20分間反応させた。陰性対照用は、50μlの血小板溶液と、マウス−イムノグロブリンG結合FITCおよびPEを反応させた。333mM(1%)のホルムアルデヒドのPBSを300μl添加して反応を止め、フローサイトメトリー(Cytomics FC500、Bechman Coulter社製)で血小板10000個を測定し、パラメーターをビジュアル統計ソフト(Stat Flex Ver.5.0、アーテック社製)を用いたコンピューター解析により、CD62P値を求めた。
【0037】
図1に、末梢血に抗凝固剤として一般的に使用されているクエン酸Naと、本発明のEDTA−2K加を添加した全血を使用して、ADPまたはコラーゲンの各3段階濃度で刺激した時の、各試料のCD62P値を反映するCD62P陽性率を示した。クエン酸Na加血は、各刺激物質添加により血小板凝集塊や血小板の屑を形成することから、それらの変化を起こさないEDTA−2K加血と比較して、CD62P陽性率が有意に低下した。
【実施例3】
【0038】
[抗血小板薬の評価]
7人の健康な成人よりアスピリン服用10日前、1日前とアスピリンの3日間服用を停止した翌日(停止1日後)、停止10日後の合計4回の採血を行い、各々直ちに試験に供した。血液はEDTA−2K採血管に採取し、実施例2と同様に免疫反応を行い、フローサイトメトリーにより、CD62P陽性率を求めた。
【0039】
結果を表1に示した。アスピリンを3日間服用し、服用停止1日後では、全ての血液でCD62P値を反映するCD62P陽性率が低下した。しかしながら、ADP刺激ではアスピリン服用前と同様なCD62P陽性率の上昇比率を示したのに対し、コラーゲン刺激の血液においては、服用前に比べてCD62P陽性率の上昇比率が低値で、抗血小板薬(アスピリン)による血小板の活性化が抑制されていることが明らかになった。さらに、アスピリン服用の効果が消滅したと考えられる服用停止10日目では服用前のCD62P陽性率及びコラーゲン刺激におけるCD62P陽性率の上昇比率は元に戻った。このことから、コラーゲンによる血小板凝集に有効だとされている抗血小板薬アスピリンの効果を、本発明の測定法により証明することが可能であることが確認された。また、チクロピジン等の抗血小板薬剤服用時には、ADP刺激におけるCD62P陽性率の上昇比率が低値になると予測される。この様に健康な成人において、アスピリン服用10日前と1日前における各CD62Pの陽性率およびCD62P陽性率の上昇比率が変わらないことから、健康な成人の陽性率を対象として、患者の血液中のCD62P陽性率及び各種刺激剤におけるCD62P陽性率の上昇比率を測定することにより、患者の血栓形成(亢進・抑制)状態を推測することも可能であると推定された。
【0040】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、全血中のCD62P値を測定することによる血小板活性化能を測定する方法であり、少量の試料で感度・再現性が優れていることから、自動血球分析機に搭載可能な検査法である。このため、抗血小板薬の患者における薬剤動態のモニタリングや、抗血小板薬の有効性の評価を行えるなど臨床検査法として有効な方法になる可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程(a)〜(e)を含む血小板活性化能の測定方法:
(a)ヒトから採血した全血を、凝集させない状態に保つ工程;
(b)前記全血液に、血小板刺激物質を接触させる工程;
(c)前記工程により生じた活性化血小板を固定する工程;
(d)蛍光標識抗CD61抗体および蛍光標識CD62P抗体を用いて免疫反応を行う工程;および
(e)フローサイトメトリーを使用し、CD62P値を測定する工程。
【請求項2】
前記凝集させない状態に保つ工程が、EDTA塩を加えることにより成す工程である請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
前記血小板刺激物質が、ADP、コラーゲン、エピネフリン、リストセチン、コンバルキシン、セロトニン、バソプレシン、カルバゾクロム、血液凝固因子(FVIII、FIX)、トロンビン、イプシロン−アミノカプロン酸、トラネキサム酸、硫酸プロタミン、エタンシラート、フィトナジオン、エストロン硫酸ナトリウム、エクイリン硫酸ナトリウムから選ばれる刺激物質である請求項1または2のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の測定方法による結果を指標とする、抗血小板薬の評価方法。
【請求項5】
前記抗血小板薬が、アスピリン、シロスタゾール、ジピリダモール、塩酸チクロピジン、クロフィブレート、イコサペント酸エチル、スルフィンピラゾン、クロピドグレル、ベラプロスト、トロンボモジュリン、プロスタグランジンE、抗セロトニン系薬剤、クマリン系抗凝固薬や活性プロテインCから選ばれる薬剤である請求項4に記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の測定方法に使用するための試薬および容器から成るキット。

【図1】
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【公開番号】特開2012−8044(P2012−8044A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−145162(P2010−145162)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り ▲1▼第11回日本検査血液学会学術集会ホームページ平成22年5月27日発表 http://accessbrain.co.jp/jslh11/ http://accessbrain.co.jp/jslh11/program.html http://accessbrain.co.jp/jslh11/program02.pdf ▲2▼日本検査血液学会、日本検査血液学会雑誌 第11巻 学術集会号 第11回日本検査血液学術集会、プログラム抄録集(S108、83)、 平成22年6月16日発行
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】