説明

血小板活性試験のための対照及びキット

【課題】全血血小板の機能試験用の対照物質を提供する。
【解決手段】血小板機能測定方法のための対照を調製するためのキットであって、a.正常血小板機能を有する第一の対照を調製するための第一の凍結乾燥品であって、少なくとも、生理的pHを維持するための緩衝物質及び凍結乾燥用の補助物質を含む凍結乾燥品、並びに、b.異常に低下した血小板機能を有する第二の対照を調製するための第二の凍結乾燥品であって、少なくとも、生理的pHを維持するための緩衝物質、凍結乾燥用の補助物質及び血小板凝集直接阻害剤を含む凍結乾燥品、を含有するキット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝固診断の分野における発明であり、血小板機能の測定試験法に使用する対照を調製するためのキット及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
第一に循環器系における血液の流動性を確実なものとし、第二に血餅形成による血管外への血液喪失の回避を確かなものとする、生理過程は、止血という用語で表される。止血の制御には、多数のタンパク因子及び更には細胞成分、例えば、血小板(小板)、が関与する。血管が傷ついた場合、先ず、内皮下コラーゲンへの血小板付着が起こる。この付着は、フォンビルブランド因子(VWF)等の接着性タンパク質によって媒介される。接着過程において、血小板が活性化されて、それらの顆粒からメディエーターを放出し、更なる血小板の凝集と活性化の増強とを誘発する。このことは、一次血管壁の閉塞(一次止血)をもたらすが、この閉塞は、血漿性凝固系(二次止血)の更なる反応によってのみ安定化される。これらの過程が制御不能になると、血栓形成傾向又は出血性素質となることがあり、その重篤度によっては、生命を脅かす結果となる。
【0003】
凝固診断においては、種々の方法及びシステムが知られており、これらにより、患者の血液が適切に凝固し得るか又は凝固欠陥が存在するかを決定することが可能である。凝固欠陥がある場合には、最適の治療対策を選択し得るように、存在する欠陥の原因についてより詳細な情報を得ることが、しばしば、必要である。特異的に試験し得る凝固系の重要な副機能は、一次止血であり、この機能は、実質的に血小板の機能効率に左右される。
【0004】
血小板機能の既知の試験方法は、出血時間を測定する方法である。この方法は、一次止血を捕捉するインビボの包括的テストである。出血時間は、患者に小さな切開又は穿刺傷を作り、出血が停止するまでの時間を測定することにより、決定される。この方法は、特に、緊急事態状況において一次止血の概略を把握するために使用される、標準化することが難しい大雑把な試験法である。白血球凝集阻害剤の服用は、出血時間を長引かせる。出血時間測定法の不利な点は、出血時間が正常な場合には、有り得る血小板機能の欠陥を除外できないことである。
【0005】
インビトロ法は、実質的に血小板機能欠陥のより鋭敏な検出を可能にする。典型的には、これらの方法において、血小板の凝集は、全血サンプル又は血小板に富む血漿(PRP)サンプルに活性化因子を添加することにより誘発され、凝集反応が測定される。血小板凝集を誘発するために最も一般的に使用される活性化因子は、ADP(アデノシン5’−二リン酸)、コラーゲン、エピネフリン(アドレナリン)、リストセチン及びこれらの種々の組み合わせ、並びにトロンビン、TRAP(トロンビン受容体活性化タンパク質)又はセロトニンである。
【0006】
先行技術においては、インビトロで血小板機能を試験する種々の方法が知られている。
【0007】
ボーン血小板凝集法とも呼ばれる光透過血小板凝集測定法の場合、血小板に富む血漿中の血小板の凝集能は、血小板凝集計において、凝集誘発物質の存在下に、光学的に測定される。凝集体の形成により、PRPサンプルの光透過率が増加するので、光透過率を測定することにより、例えば、凝集体形成速度を測定することが可能である。光透過血小板凝集測定法を用いれば、医学的に使用された血小板凝集阻害剤の治療効果を把握することも可能である。光透過血小板凝集測定法の不利な点は、サンプル材料として血小板に富む血漿しか使用できないことである。血小板に富む血漿は、血液の重要な構成成分、例えば、赤血球細胞及び白血球細胞、を欠くのみならず、時間が掛かり失敗することの多いサンプル調製を必要とする。
【0008】
ベリファイナウ(VerifyNow;登録商標)システム(アキュメトリックス;Accumetrics)は、光透過血小板凝集測定法を更に発展させたもので、全血サンプル中の血小板機能の試験を可能とする。このシステムにおいて、血小板の凝集反応は、フィブリノーゲン被覆微粒子の添加により、増幅される。
【0009】
血小板機能を測定するための別の試験原理は、血小板機能アナライザーシステム、略称PFAシステム(PFA−100(登録商標)、PFA−200、シーメンス ヘルスケア ダイアグノスティクス プロダクツ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング、マールブルグ、ドイツ)として、知られるものである。PFAシステムを使用すると、一次止血が、全血サンプルにおいて、流動条件下、従って、高せん断力の存在下に、測定される。
【0010】
比較的小さな動脈血管において優勢な流動条件とせん断力とを模擬実験するために、PFA分析装置に挿入したPFA測定セルに約−40ミリバールの負圧を生じさせ、サンプル貯蔵部位に位置するクエン酸塩添加全血を、直径約200μmの毛細管を介して、流す。この毛細管は、隔壁要素、例えば膜、により遮断される測定チャンバー中に開口するが、その隔壁要素は中心毛細管開口部を有し、前記負圧により、この開口部を通して血液が流れる。殆どの場合に、少なくとも開口部周囲の領域にある膜は、血小板凝集を誘発する1種以上の活性化因子を含むので、その結果、通流する血液は、開口部領域の凝集誘発物質と接触する。誘発された血小板の接着及び凝集の結果、開口部分の領域において、血小板の栓(血栓)が形成され、これが膜の開口部を閉鎖して血流を止める。このシステムにおいて、膜開口部の閉鎖までの時間を測定する。この“閉鎖時間”は、血小板の機能効率と相関する。典型的に使用される測定セルは、コラーゲン(Col)で、更にADP又はエピネフリン(Epi)で、被覆された膜を備えている。P2Y(12)アンタゴニスト、例えば、クロピドグレル(clopidogrel)、の群から選ばれる抗血栓剤、を測定するために取り分け適切なその他の測定セルは、ADP及びプロスタグランジンE1を含む膜を有する(特許文献1)。
【0011】
血小板機能を決定するための別の試験原理は、マルチプレート(Multiplate;登録商標)システム(ヴェルム ディアグノスティカ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング、ミュンヘン、ドイツ)である。マルチプレートシステムを使用することにより、インピーダンス血小板凝集測定法に基づき、全血サンプル中で一次止血が測定される。この目的のために、それぞれ2本の平行なセンサワイヤからなり特別の測定セル中に配置されている、2つのセンサユニットを、全血サンプル中に浸漬する。血小板活性化因子、例えば、ADP、コラーゲン又はアラキドン酸、を添加すると、血小板の凝集が誘発される。血小板は、センサワイヤの表面に付着し、センサワイヤ間の電気抵抗を増大させる。電気抵抗の測定値増大は、血小板機能と相関する。
【0012】
これまで、全血中の血小板機能試験における対照又は標準として有用な、目的に合致し且つ長期間安定な、対照又は標準物質を調製することは不可能であった。
【0013】
特許文献2及び特許文献3には、取り分け、血液細胞の数、形状及びサイズが保証される調製方法であることから、血球計算における使用に適する血液学的対照物質を調製する方法が記載されている。しかし、これらの調製方法は、固定剤及びその他の細胞膜を変化させる物質で細胞を処理するため、血小板機能の試験には適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1850134A1号明細書
【特許文献2】米国特許第4,338,564号明細書
【特許文献3】米国特許第4,358,394号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って、本発明の目的は、全血血小板機能試験用の対照物質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的は、血小板機能試験の実施者が、簡単な方法で、標準化された対照を調製することを可能にする保存可能なキットを提供することにより、達成される。
【0017】
従って、本発明は、血小板機能測定方法のための対照を調製するためのキットであって、正常な血小板機能を有する第一の対照を調製するための少なくとも1つの第一凍結乾燥品及び異常に低下した血小板機能を有する第二の対照を調製するための第二凍結乾燥品を含有するキット、を提供する。
【0018】
対照を調製するために、各凍結乾燥品を、正常な血小板機能を示す全血に、溶解させる。
【0019】
本発明によるキットの各凍結乾燥品は、生理的pHを維持するための少なくとも1種の緩衝物質及び凍結乾燥のための少なくとも1種の補助物質を含む。
【0020】
血液の生理的pHは、典型的には、およそ、7.35と7.45との間である。生理的pHを維持するための好適な緩衝物質は、HEPES(2−[4−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン−1−イル]エタンスルホン酸)、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)、OVB(オウレンス−ヴェロナール(Owren’s Veronal)緩衝液)、MES(2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸)、PIPES(ピペラジン−N,N’−ビス(2−エタンスルホン酸))、TAPS(N−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]−3−アミノプロパンスルホン酸)、CHES(2−(シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸)、CAPS(N−シクロヘキシル−3−アミノプロパンスルホン酸)、Tris(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)又はMOPS(3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸)である。
【0021】
凍結乾燥用の好適な補助物質は、スクロース、ラクトース、トレハロース及びマルトースを始めとする二糖の群から選ばれる物質、並びに、アルコール、好ましくはポリエチレングリコール、マンニトール及びソルビトール、から選ばれる物質である。これらの物質は、対凍結保護効果又は対凍結乾燥保護効果を有する。即ち、これらの物質は、凍結及び凍結乾燥に際して、製剤の他の構成成分を保護する。
【0022】
正常な血小板機能を有する対照を調製するための凍結乾燥品は、血小板機能に影響を与える物質を含まない。
【0023】
異常に低下した血小板機能を有する対照を調製するための凍結乾燥品は、更に、少なくとも1種の、血小板凝集直接阻害剤を含んでいる。血小板凝集直接阻害剤とは、例えば、血小板ADP受容体を遮断し、血小板シクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害し、又は血小板GP IIb/IIIa受容体を遮断することにより、血小板機能に直接の影響を与える物質を意味する。血小板凝集直接阻害剤は、抗凝固剤と区別しなければならない。抗凝固剤は、トロンビン又は第Xa因子等の血漿凝固因子を阻害することにより、その凝固阻害効果を発揮し、その結果、血小板機能に対して間接的効果を及ぼし得るものである。抗凝固剤とは対照的に、血小板凝集直接阻害剤は、例えば、血漿中での凝固テストにおいて、凝固時間を引き延ばすことはない。
【0024】
適切な血小板凝集直接阻害剤は、例えば、チロフィバン(tirofiban)、アブシキシマブ(abciximab)、エプチフィバチド(eptifibatide)、アセチルサリチル酸、MRS2395、AR−C66096、カングレラー(cangrelor)、チカグレラー(ticagrelor)、シロスタゾール、ジピリダモール、プロスタグランジンE1(PGE1)、プロスタサイクリン、イロプロスト(iloprost)、シカプロスト(cicaprost)、フォルスコリン(forskolin)、2−MeSAMP(2−メチルチオアデノシン5’−モノリン酸)、C1330−7(N1−(6−エトキシ−1,3−ベンゾチアゾール−2−イル−2−(7−エトキシ−4−ヒドロキシ−2,2−ジオキソ−2H−2−6−ベンゾ[4,5][1,3]チアゾロ[2,3−c][1,2,4]チアジアジン−3−イル)−2−オキソ−1−エタンスルホンアミド)、MRS2179(2’−デオキシ−N6−メチルアデノシン3’,5’−二リン酸ジアンモニウム塩)、MRS2279((N)−メタノカルバ−N6−メチル−2−クロロ−2’−デオキシアデノシン3’,5’−二リン酸)、MRS2500(2−ヨード−N6−メチル−(N)−メタノカルバ−2’−デオキシアデノシン 3’,5’−二リン酸)、A2P5P(アデノシン2’,5’−二リン酸)、A3P5P(アデノシン3’,5’−二リン酸)及びA3P5PS(アデノシン3’−リン酸5’−ホスホ硫酸)である。
【0025】
異常に低下した血小板機能を有する対照を調製するための凍結乾燥品は、正常血小板機能の約50%〜約80%の、特に好ましくは約70%の、血小板機能を示す対照を得ることができるような量で、少なくとも1種の血小板凝集直接阻害剤を含む。
【0026】
好適なキットは、異常に低下した血小板機能を有する対照を調製するための複数の異なる凍結乾燥品を含む。これらの異なる凍結乾燥品は、同じ血小板凝集直接阻害剤を含んでいてもよいが、その量は異なる。或いは、凍結乾燥品は、異なる血小板凝集直接阻害剤を含んでいてもよい。
【0027】
特に好適なテストキットは、正常なヒト血漿を更に含む凍結乾燥品を含む。このことは、対照物質の調製時に、その中に凍結乾燥品が溶解される全血サンプル中の血漿構成成分の欠損を補償するという、利点を有する。特定の血漿構成成分の濃度が低いこと、例えば、フォンビルブランド因子(VWF)の濃度が低いこと、は、血小板活性の定量に影響を与える可能性がある。正常ヒト血漿の形状で当該構成成分を添加することは、全ての血漿成分が少なくとも最小濃度で存在することを保証し、これにより、対照中の血小板機能が安定化され、従って、試験結果の標準化が改善されることとなる。本発明によるテストキットの凍結乾燥品は、それを全血に溶解した後に、約2〜約20容量%の正常ヒト血漿を含む対照が得られるような量の、正常なヒト血漿を含むことが好ましい。
【0028】
更に特に好適なテストキットは、単離されたヒトフォンビルブランド因子(VWF)を更に含む凍結乾燥品を含む。このことは、対照物質の調製時に、その中に凍結乾燥品が溶解される全血サンプル中のVWFの欠損を補償するという、利点を有する。これにより、対照中の血小板機能が安定化され、従って、試験結果の標準化が改善されることとなる。本発明によるテストキットの凍結乾燥品は、それを全血に溶解した後に、約0.1〜約10IU/mLのVWF、特に好ましくは0.1〜約1.0IU/mLのVWF、更に特に好ましくは0.1〜約0.5IU/mLのVWF、を含む対照が得られるような量の、フォンビルブランド因子、好ましくは、単離されたヒトフォンビルブランド因子、を含むことが好ましい。
【0029】
“凍結乾燥品”という用語は、凍結乾燥の最終生成物を意味する。
【0030】
本発明によるキットの凍結乾燥品を調製するためには、典型的には、先ず、所望濃度で所望の物質を含む水溶液を調製する。この溶液の一部を、容器、好ましくはガラスバイアル、に入れ、次いで、凍結乾燥する。次いで、この無水の微粉残留物を気密封入することにより、数か月間、又は要すれば何年も、保存することができる。
【0031】
本発明によるテストキットは、様々な凍結乾燥品を気密封入した複数の容器、好ましくは複数のガラス又はプラスチックのバイアル、を含むことが好ましい。
【0032】
本発明は、更に、血小板機能を測定する方法に用いる対照を調製する方法を提供する。この対照は、様々な凍結乾燥品を含有する本発明によるキットを使用することにより調製する。正常血小板機能を有する全血に、様々な凍結乾燥品を溶解する。全血は、健常な供与者からの新鮮な全血サンプルであることが好ましい。全血は、クエン酸塩、ヒルジン、PPACK(D−フェニルアラニル−L−プロリル−L−アルギニン クロロメチルケトン)、BAPA(ベンジルスルホニル−D−Arg−Pro−4−アミジノベンジルアミド)及びヘパリンからなる群から選ばれる物質で、抗凝固化されることが好ましい。
【0033】
全血に該凍結乾燥品を溶解することによる対照の調製は、血小板機能の測定方法の実施者が実施することが好ましい。
【実施例】
【0034】
以下の例示としての実施態様は本発明を説明するためのものであり、限定するものと解釈すべきではない。
【0035】
実施例1:本発明によるテストキットの調製及び血小板機能測定法に用いる対照の調製
特に、血小板機能アナライザーシステム(PFA−100(登録商標)、PFA−200、シーメンス ヘルスケア ダイアグノスティクス プロダクツ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング、マールブルグ、ドイツ)として知られるシステムの試験原理に従う、血小板機能試験における使用に適する対照の調製のためにテストキットを調製した。
【0036】
PFAシステムを使用して、流動条件下、従って、高せん断力の存在下で、一次止血を全血サンプルにおいて、測定する。このシステムにおいては、血小板機能の尺度として、特別の測定セルにおける膜開口部の閉鎖までの時間(閉鎖時間)を測定する。異なる膜型を有する測定セルを用いることにより、血小板の異なる機能の測定が可能となる。使用する測定セルは、コラーゲン(Col)及びADPのコーティング(Col/ADP)を有する膜、又はコラーゲン(Col)及びエピネフリン(Epi)のコーティング(Col/Epi)を有する膜、又はADP及びプロスタグランジンE1のコーティング(インノバンス;INNOVANCE(登録商標);PFA P2Y)を有する膜を備えている。
【0037】
上記3種全ての測定セルに、正常血小板機能を与える対照(正常対照、レベル1)を備えさせることを企図した。更に、3種全ての測定セルに異常に低下した血小板機能を与える対照(異常対照、レベル2)を備えさせることを企図した。更に、Col/Epi測定セルのみに異常に低下した血小板機能を与えるが、他の2種の測定セルには正常血小板機能を与える対照(異常対照Col/Epi、レベル2)を備えさせることを企図した。更に、異常に低下した血小板機能をインノバンス(INNOVANCE(登録商標))PFA P2Y測定セルのみに与えるが、他の2種の測定セルには正常血小板機能を与える対照(異常対照P2Y、レベル2)を備えさせることを企図した。
【0038】
様々な対照の所望の血小板機能を、表1にまとめて示す。
【0039】
【表1】

【0040】
表2は、凍結乾燥品を調製するために使用した物質のリストである。最初に、表に示した濃度で、蒸留水を用いて、原液を調製した。
【0041】
【表2】

【0042】
各対照について、定義された量の所望物質の原液を、ピペットで、ガラスバイアル(GW5)に入れる。ピペットで加えるべき原液の量は、所望最終濃度の物質が調製対照中に存在するように計算した。各事例において、2mL容量の全血を加えることによって対照を調製することを企図した。様々な完成した対照中の物質の最終濃度を、表3にまとめて示す。
【0043】
GW5バイアル中の液状混合物は、次いで、以下のプログラム:40%減圧下に、−40℃で4時間の凍結、次いで、+20℃で8時間の乾燥、に従って、凍結乾燥ユニット中で凍結乾燥した。
【0044】
【表3】

【0045】
表3に記載した対照の凍結乾燥品は、それぞれの事例において、健常血液供与者からのクエン酸塩添加全血2mLに、室温で約10分間、溶解させた。
【0046】
実施例2:本発明により調製した対照の、PFAシステムでの血小板機能測定法における、使用
実施例1に従って調製した対照の血小板機能を、3種全ての又は個々の、PFA測定セルを備えたPFA分析装置により、二重測定で測定した。同時に、凍結乾燥品を溶解するために使用した同じ全血サンプルについても、それらの未変性の状態で(即ち、凍結乾燥品を添加することなく)測定した。
【0047】
3種の異なる測定セルについて、正常血小板機能と異常に低下した血小板機能との間の差別化を可能とする閉鎖時間(秒単位)のカットオフ値を、予め測定しておいた。異常に低下した血小板機能を有するサンプルは、カットオフ値を超える、延長された閉鎖時間を示す。それぞれ異なる測定セルのカットオフ値を、表4にまとめて示す。
【0048】
【表4】

【0049】
正常対照(レベル1)(HEPES+マンニトール)
凍結乾燥したHEPESとマンニトールとを全血中に溶解して調製した正常対照(レベル1)は、3種全ての測定セルについて、僅かに長引くが、未変性の全血サンプルに比べると正常な閉鎖時間を示す。表5は、様々な測定セルにおける正常対照(レベル1)の平均閉鎖時間と比較した未変性全血サンプルの平均閉鎖時間を示す(全血サンプルは、合計14名の健常供与者から得た)。
【0050】
【表5】

【0051】
異常対照(レベル2)(HEPES+マンニトール+チロフィバン)
チロフィバンは、血小板の活性化されたGP IIB/IIIa受容体を遮断するので、活性化様式及び測定セルに関係なく、血小板の凝集を防止する。従って、当初の試験は、最も強力に活性化するCol/ADP測定セルについてのみ、実施された。全血中に凍結乾燥したHEPES、マンニトール及びチロフィバンを溶解させることにより調製した異常対照(レベル2)は、Col/ADP測定セルについては、未変性の全血サンプルに比較して、また、正常対照(レベル1)に比較して、明確に延長された異常閉鎖時間を示し、その閉鎖時間は、カットオフ値を超えている。表6は、Col/ADP測定セルにおける未変性全血サンプル及び正常対照(レベル1)の平均閉鎖時間を、異常対照(レベル2)の平均閉鎖時間と比較して示す(全血サンプルは、合計14名の健常供与者から得た)。
【0052】
【表6】

【0053】
異常対照Col/Epi(レベル2)(HEPES+マンニトール+アセチルサリチル酸+プロスタグランジンE1)
全血中に凍結乾燥したHEPES、マンニトール、アセチルサリチル酸及びPGE1を溶解させることにより調製したCol/Epi−特異的異常対照Col/Epi(レベル2)−は、Col/Epi測定セルについて、未変性の全血サンプルに比較して、また、正常対照(レベル1)に比較して、明確に延長された異常閉鎖時間を示し、その閉鎖時間は、カットオフ値を超えている。表7は、Col/Epi測定セルにおける未変性全血サンプル及び正常対照(レベル1)の平均閉鎖時間を、異常対照Col/Epi(レベル2)の平均閉鎖時間と比較して示す(全血サンプルは、合計10名の健常供与者から得た)。
【0054】
【表7】

【0055】
異常対照P2Y(レベル2)(HEPES+マンニトール+AR−C66096)
全血中に凍結乾燥したHEPES、マンニトール及びAR−C66096を溶解させることにより調製したインノバンスPFA P2Y−特異的異常対照P2Y(レベル2)−は、インノバンスPFA P2Y測定セルについて、未変性の全血サンプルに比較して、また、正常対照(レベル1)に比較して、明確に延長された異常閉鎖時間を示し、その閉鎖時間はカットオフ値を超えている(表4参照)。表8は、インノバンスPFA P2Y測定セルにおける未変性全血サンプル及び正常対照(レベル1)の平均閉鎖時間を、異常対照P2Y(レベル2)の平均閉鎖時間と比較して示す(全血サンプルは、合計4名の健常供与者から得た)。
【0056】
【表8】

【0057】
表9は、3種の異なるPFA測定セルにおける、未変性全血サンプルの、並びにそれを用いて本発明に従って調製した正常及び異常対照の、平均閉鎖時間を示す(全血サンプルは、合計4名の健常供与者から得た)。本発明に従って調製した対照は、所望の血小板活性を示す(表1と比較)。
【0058】
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
血小板機能測定方法のための対照を調製するためのキットであって、前記キットが、以下の成分:
a.正常血小板機能を有する第一の対照を調製するための第一の凍結乾燥品であって、少なくとも以下の成分を含む凍結乾燥品:
− 生理的pHを維持するための緩衝物質、及び
− 凍結乾燥用の補助物質;並びに
b.異常に低下した血小板機能を有する第二の対照を調製するための第二の凍結乾燥品であって、少なくとも以下の成分を含む凍結乾燥品:
− 生理的pHを維持するための緩衝物質、
− 凍結乾燥用の補助物質、及び
− 血小板凝集直接阻害剤;
を含有するキット。
【請求項2】
各凍結乾燥品が更に正常なヒト血漿を含む請求項1に記載のキット。
【請求項3】
各凍結乾燥品が更にヒトフォンビルブランド因子を含む請求項1に記載のキット。
【請求項4】
生理的pHを維持するための前記緩衝物質が、HEPES、PBS、OVB、MES、PIPES、TAPS、CHES、CAPS、Tris及びMOPSからなる群から選択されるものである請求項1〜3のいずれか1項に記載のキット。
【請求項5】
凍結乾燥用の前記補助物質が、二糖、好ましくは、スクロース、ラクトース、トレハロース及びマルトースからなる群から選ばれる二糖、である請求項1〜4のいずれか1項に記載のキット。
【請求項6】
凍結乾燥用の前記補助物質が、アルコール、好ましくは、ポリエチレングリコール、マンニトール及びソルビトールからなる群から選ばれるアルコール、である請求項1〜5のいずれか1項に記載のキット。
【請求項7】
前記第二の凍結乾燥品が、チロフィバン、アブシキシマブ、エプチフィバチド、アセチルサリチル酸、MRS2395、AR−C66096、カングレラー、チカグレラー、シロスタゾール、ジピリダモール、プロスタグランジンE1、プロスタサイクリン、イロプロスト、シカプロスト、フォルスコリン、2−MeSAMP、C1330−7、MRS2179、MRS2279、MRS2500、A2P5P、A3P5P及びA3P5PSからなる群から選ばれる血小板凝集直接阻害剤を含む請求項1〜6のいずれか1項に記載のキット。
【請求項8】
前記第二の凍結乾燥品が、正常血小板機能の約50%〜約80%の、好ましくは約70%の、血小板機能を示す対照が得られるような量で、血小板凝集直接阻害剤を含む請求項1〜7のいずれか1項に記載のキット。
【請求項9】
異常に低下した血小板機能を有する少なくとも1種の更なる対照を調製するための少なくとも1種の更なる凍結乾燥品を更に含み、該少なくとも1種の更なる凍結乾燥品が、第二の凍結乾燥品が含むものと同種であるが異なる量の血小板凝集直接阻害剤を含むか、又は該少なくとも1種の更なる凍結乾燥品が第二の凍結乾燥品が含むものとは異種の血小板凝集直接阻害剤を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載のキット。
【請求項10】
血小板機能の測定方法のための対照の調製方法であって、請求項1〜9のいずれか1項に記載のキットを使用し、該キットに含まれる凍結乾燥品のそれぞれを正常な血小板機能を有する全血に溶解することを特徴とする調製方法。
【請求項11】
正常な血小板機能を有する全血が、健常供与者からの全血サンプルである請求項10に記載の調製方法。
【請求項12】
前記全血が、クエン酸塩、ヒルジン、PPACK、BAPA又はヘパリンにより抗凝固化されたものである請求項10又は11に記載の調製方法。