説明

血栓性疾患予防食品

【課題】簡便かつ日常的に摂取することにより血栓性疾患の発症を有効に予防し得る食品を提供すること。
【解決方法】コーンスターチを含む澱粉をアミラーゼで加水分解した糖化物を培地用基材とし、これに野菜汁および窒素源としてイーストを添加して発酵用培地を調整し、この培地に納豆菌であるバチルス・ズブチリスAK(受託番号:FERM P−18291)および乳酸菌を含む発酵菌を接種し、発酵および熟成させた後、生成した液状成分を分取した成分を有効成分として含む血栓性疾患予防食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、健康補助食品などとして簡便に摂取可能な血栓性疾患予防食品、より詳細には特定の微生物による発酵物を有効成分として含む血栓性疾患予防食品に関する。
【背景技術】
【0002】
厚生労働省発表の傷病分類別の診療医療費をみると、高血圧性疾患、虚血性疾患および脳血管疾患からなる循環器系の疾患の診療医療費が一番多く、診療医療費全体の21.2%を占めている。そして、これらの疾患はいずれも血管における血栓の異常な形成が関与している。
【0003】
血液には凝固系と線溶系の2つの作用がある。血管壁が損傷すると血小板が凝集し、一次止血が起こり、その後凝固系因子であるトロンビンは血中フィブリノーゲンに働くことでフィブリンが形成され止血が完了する。一方、このように血管内で形成されたフィブリンを血管内皮細胞から分泌される線溶系因子である組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)が血中に存在する酵素源であるプラスミノーゲンをプラスミンに変換し、そのプラスミンがフィブリンを分解する。凝固系と線溶系のバランスの破綻は脳梗塞や心筋梗塞などの血栓性疾患の原因となることが知られており、新たな線溶系亢進物質の開発はこれらの疾患の予防・治療に大きく貢献し得ると考えられる。
【0004】
本発明者らは、納豆菌類を培養することにより産出される酵素や微量成分を安定した状態にまで可逆的に低分子化した物質に関する製法の特許権(特許文献1)を取得している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3902015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、tPA活性を亢進させると共に血管内皮細胞からのtPAの放出を惹起させることにより血栓性疾患を予防する機能性食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、かかる課題の下に、納豆菌類が産生する酵素や微量成分を安定した状態まで可逆的に低分子化した低分子ペプチド成分を血管内皮培養細胞に添加したところ培養液中のtPA活性が亢進し、また、マウスに経口摂取させたところ血中のtPA活性が亢進することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
[1] 澱粉をアミラーゼで加水分解した糖化物を培地用基材とし、これに酵母エキスを添加して発酵用培地を調製し、この培地に納豆菌であるバチルス・ズブチリスAK(受託番号:FERM P−18291)を接種し、発酵および熟成させた後、生成した液状成分を分取した成分を有効成分として含む血栓性疾患予防食品;
[2] 発酵が、pH4.5〜6.5、28〜32℃の条件で2ヶ月以上行なう発酵である前記[1]記載の血栓性疾患予防食品;
[3] 熟成が、pH4.0〜6.0、13〜17℃の条件で4ヶ月以上行なう熟成である前記[1]または[2]に記載の血栓性疾患予防食品;
[4] 血栓性疾患が、深部静脈血栓症、門脈血栓症、腎静脈血栓症、頚静脈血栓症、バッド・キアリ症候群、腋窩-鎖骨下静脈血栓症、脳静脈洞血栓症および肺血栓塞栓症よりなる群から選択される1またはそれを超える静脈血栓症、または脳梗塞、心筋梗塞、腸間膜動脈血栓症、下肢急性動脈血栓症、肝動脈血栓症、腎動脈血栓症、脾動脈血栓症および閉塞動脈硬化症よりなる群から選択される1またはそれを超える動脈血栓症である前記[1]ないし[3]のいずれか1に記載の血栓性疾患予防食品;および
[5] 有効成分を食品全体の重量に対して0.05〜100重量%含む前記[1]ないし[4]のいずれか1に記載の血栓性疾患予防食品
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、日常生活において簡便に経口摂取が可能な血栓性疾患予防食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の有効成分の分子量分布を示すグラフである。
【図2】プラスミン特異的切断部位を有する合成基質S-2251を用いて測定した、本発明の有効成分によるtPA活性の亢進効果を示すグラフである。
【図3】フィブリン平板を用いて測定した、本発明の有効成分によるtPA活性の亢進効果を示す写真(A)およびグラフ(B)である。
【図4】マウス脳血管内皮由来細胞 bEnd.3を用いて測定した、培養液中のtPA活性を示す写真(A)および細胞内tPAの遺伝子発現量を示すグラフ(B)である。
【図5】生体分子間相互作用解析装置(IASYS)を用いて測定した、tPAに対する本発明の有効成分の結合性を示すグラフである。
【図6】本発明の有効成分をマウスに摂取させ、その2時間後に採血した血中のtPA活性を示した写真とグラフである。
【図7】本発明の有効成分をマウスに摂取させた場合のマウス血中におけるtPA活性の亢進効果を示した写真およびグラフである。
【図8】乳酸菌発酵エキスをマウスに摂取させ、その2時間後に採血した血中のtPAおよびuPA活性の亢進効果を示した写真である。
【図9】納豆菌発酵エキスをマウスに摂取させ、その2時間後に採血した血中のtPAおよびuPA活性の亢進効果を示した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の食品に有効成分として含まれるのは、コーンスターチを含む澱粉をアミラーゼで加水分解した糖化物を培地用基材とし、これに窒素源として酵母エキスを添加して発酵用培地を調製し、この培地に納豆菌であるバチルス・ズブチリスAK(受託番号:FERM P−18291)を接種し、発酵および熟成させた後、生成した液状成分を分取した成分である。
【0012】
ここに、発酵用培地の基材として用いる糖化物は、トウモロコシ子実から分離、精製したコーンスターチをアミラーゼで加水分解したものを用いることができるが、精製したものの代わりに粗精製のコーンスターチを使用することもできる。また、コーンスターチのほかに、大豆粉や米糠またはこれらの混合物を加水分解したものを培地用基材として使用することができる。
【0013】
発酵用培地の窒素源として使用する酵母エキスは、ビール酵母(Saccharomyces cerevisiae Meyen)の菌体を消化して抽出した水溶性成分を乾燥したものなど、一般的に細菌培養に窒素源として添加するものを使用することができる。
【0014】
本発明の食品の有効成分の製造に用いる発酵用培地には、上記した糖化物および酵母エキスのほか、必要に応じてタンパク質等の有機物や無機塩類などを配合することができる。有機物としては大豆タンパク質やその他の植物性タンパク質が挙げられ、無機塩類としては塩化カルシウム、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0015】
また、培地用基材としての澱粉をアミラーゼで加水分解した糖化物に対して、さらに糖分を添加することも好ましく、これらの糖分には、例えばショ糖(グラニュー糖)、グルコース(ブドウ糖)、水飴などが挙げられる。
【0016】
上述したように調製した発酵用培地に接種する発酵菌は、納豆菌であるバチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)AKであり、バチルス・ズブチリスAKは、独立行政法人 産業技術総合研究所に「(受託番号)FERM P−18291」として寄託されている。また、所望により、バチルス・ズブチリスAKの増殖を阻害しない、乳酸桿菌であるラクトバチルス(Lactobacillus)や乳酸球菌であるストレプトコッカス(Streptococcus)、酵母(Saccharomyces cerevisiae)や麹菌(Aspergillus oryzae)の菌体、菌抽出物または菌発酵エキスをバチルス・ズブチリスAKに加えて接種することができる。さらに、本発明の食品の有効成分の製造に用いる発酵用培地には、所望により、バチルス・ズブチリスAKの増殖を阻害しない、ハクサイ、キャベツ、ニンジン、薬用ニンジン、パセリ、セロリ、タマネギなどの植物抽出物を添加することができる。
【0017】
バチルス・ズブチリスAKは、通常の納豆菌であるバチルス・ズブチリスを、紫外線、X線照射、高・低温環境(100℃、0℃)、乳酸菌との競合、芽胞を作りやすい培地[肉エキス5.0重量%、ペプトン10.0重量%、塩化ナトリウム5.0重量%、寒天15.0重量%、野菜(キャベツ、ニンジン、セロリ、パセリ)圧搾汁65.0重量%]などの諸条件に付して発見した耐性菌を継代培養を繰り返し選抜して得たものである。
【0018】
このようにして得られたバチルス・ズブチリスAK菌株は、以下のような菌学的性質を有する。
(a)形態学的性質
1 細胞の形および大きさ
桿菌 1.0〜1.2×3.0〜50μm
2 細胞の多形性の有無
無し
3 運動性の有無
有り (周毛性の鞭毛)
4 芽胞の有無
有り 楕円 菌体のほぼ中央
(b)培養的性質
1 肉汁寒天平板培養
円形集落 白濁
2 肉汁液体培養
上部または下部 菌凝体
(c)生化学的性質
1 グラム染色 陽性
2 硝酸塩の還元 陽性
3 MRテスト 陰性
4 VPテスト 陽性
5 インドールの生成 陰性
6 硫化水素の生成 陰性
7 クエン酸の利用 陽性
8 カタラーゼ 陽性
9 生育の範囲
pH 5.5〜7.0
温度 25℃〜40℃
【0019】
バチルス・ズブチリスAK菌株は、所望により乳酸菌を含む他の発酵菌と共に、上記した発酵用培地上、約4.5〜6.5のpH、約28〜32℃の条件で2ヶ月以上発酵する。これらの領域より低いpH域や温度域では、2ヶ月以上発酵させても、この発明に用いる所定の納豆菌が効率よく糖および窒素源を資化しないと推定され、得られるtPA放出亢進物質に所期した効果が充分得られない。一方、上記の領域より高いpH域や温度域では、発酵不充分で所定の納豆菌が効率よく糖および窒素源を資化せず、得られるtPA放出亢進物質に所期した効果が充分得られない。
【0020】
発酵につづいて、菌類は、同培地上、約4.0〜6.0のpH、約13〜17℃の条件で4ヶ月以上熟成する。これらの領域より低いpH域や温度域では、4ヶ月以上熟成させても、発酵生産物として各種の活性を有するアミノ酸、リポ蛋白、リポ多糖(リポポリサッカライド)、リピッドなどが充分に低分子量化しないと推定され、得られるtPA放出亢進物質に所期した効果が充分得られない。一方、上記の領域より高いpH域や温度域では、活性が低下すると推定され、得られるtPA放出亢進物質に上記同様に所期した効果が充分得られない。
【0021】
発酵および熟成段階を経て生成した液状成分を分取するには、濾過または遠心分離など周知の分離手段を採用することができ、分取した食品用原液は、そのまま、または濃縮もしくは希釈して本発明の血栓性疾患予防食品の有効成分として使用することができる。
本発明の血栓性疾患予防食品の有効成分としては、例えば、株式会社エンザミン研究所により製造されたエンザミン原液(ENM)やその20倍濃縮エキスであるエンザミン濃縮液(ENM-HL)を配合することができる。
【0022】
因みに、このようにして得られる有効成分の構成成分としては、生体内酵素合成を容易にするための物質、すなわち発酵によって得られる酵素を可逆的に切断して活性アミノ酸残基としたフラグメントを含み、その他にアデニン、グアニン、シトシン、チミン、ウラシルのような生体内で活用できる有用物質を含有する。このような有用物質は、ベスレッカ(Besredka)の提唱したアンチビールスの組織活性因子、フィラトフ(Filatov)の説明する生命源刺激素を含み、これらを生物化学的反応によって組み合わせ、安全かつ有効に作用するように処理した培養濾液であると考えられる。
【0023】
このような有効成分を含む本発明の血栓性疾患予防食品は、血液による線溶作用という生命現象を刺激し、凝固系と線溶系とのバランスを適正に調節することによって血栓性疾患の発症を予防する。
【0024】
本発明の血栓性疾患予防食品により予防し得る血栓性疾患は、血栓に起因して生じる疾患であれば特に限定されるものではないが、例えば、深部静脈血栓症、門脈血栓症、腎静脈血栓症、頚静脈血栓症、バッド・キアリ症候群、腋窩-鎖骨下静脈血栓症、脳静脈洞血栓症および肺血栓塞栓症よりなる群から選択される静脈血栓症、または脳梗塞、心筋梗塞、腸間膜動脈血栓症、下肢急性動脈血栓症、肝動脈血栓症、腎動脈血栓症、脾動脈血栓症および閉塞動脈硬化症よりなる群から選択される動脈血栓症などが挙げられる。
【0025】
本発明の血栓性疾患予防食品は、上記のようにして調製した有効成分と食品分野で慣用的に使用されている賦形剤(例えば、澱粉あるいはデキストリン、セルロース、乳糖、麦芽糖、還元乳糖、還元麦芽糖、ソルビトール、マンニトール、エリスリトール、キシリトール等)や補助剤(例えば、溶媒、分散媒質、被覆剤、安定剤、希釈剤、保存剤、防腐剤、殺菌剤、抗真菌試薬、等浸透圧試薬、吸収抑制試薬、崩壊剤、乳化剤、結合剤、潤滑剤、色素等)と混合して、食品分野で慣用的に使用されている製剤方法によって、例えば、錠剤、カプセル、顆粒、粉末、抽出液、溶液、シロップ、懸濁液、乳濁液の形態に製造し得る。
【0026】
本発明の血栓性疾患予防食品は、有効成分として菌によって生成した液状成分を、それ自体に換算して、食品全体の重量に対して約0.05〜100重量%、好ましくは約0.1〜90重量%、より好ましくは約1〜85重量%、さらに好ましくは約5〜80重量%、最も好ましくは約10〜50重量%含有することができる。
【0027】
また、本発明は、その他の態様として、上記した血栓性疾患予防食品を製造するための、コーンスターチを含む澱粉をアミラーゼで加水分解した糖化物を培地用基材とし、これに窒素源として酵母エキスを添加して発酵用培地を調製し、この培地に納豆菌であるバチルス・ズブチリスAK(受託番号:FERM P−18291)を接種し、発酵および熟成させた後、生成した液状成分を分取した成分の使用、血栓性疾患予防食品を製造するためのバチルス・ズブチリスAKの使用、血栓性疾患予防食品を摂取することを特徴とする血栓性疾患の予防または治療方法にも関する。
【0028】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
イエローコーンスターチ2.3kg、大豆ペプトン0.5kg、米糠汁0.5kg、塩化カルシウム80g、食塩150gに精製水50kgを加え、加熱して溶解した。ついでこれを冷却し、アミラーゼ50gを加えて充分に糖化させた。糖化終了後、グラニュー糖1.5kg、グルコース(ブドウ糖)1.5kg、酵母エキス(日本製薬(株))450g、米飴1.5kg、リン酸ナトリウム80g、野菜の圧搾汁(キャベツ、ニンジン、セロリ、パセリ)5kg、および精製水を加えて全量を150kgにした。
【0030】
そして、水酸化ナトリウムを添加してpHを7.2〜7.6の範囲内に調整し、これを培養缶に入れて120℃で20分間高圧滅菌した。これを冷却した後、バチルス・ズブチリスAK株を接種し、温度30±2℃の恒温室でpH4.5〜6.5で60日間発酵させ、次いで温度15±2℃の恒温室でpH4.0〜6.0の条件下で120日間熟成させた。その上澄みを110℃で20分間滅菌し、自然放冷させて培養液を透明化させた。これをペーパーフィルター濾過した後、クエン酸によってpH3.5-3.7に調整し、さらに95℃で殺菌した後、90℃以上の温度で5ガロン缶に詰めた。このようにして、125リットルの液状の食品用原液(ENM)を得た。
【0031】
得られた食品用原液(ENM)100g中の一般分析結果を以下の表1中に示す。
また、上記の食品用原液について、東ソー社製カラム(TSKgel G2500PWXL)を用い、移動相を水、アセトニトリルおよびトリフルオロ酢酸の55:45:0.1混合液とする液体高速クロマトグラム(Shodex社製:GPC SYSTEM-21)でサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を測定し、そのときの検出器感度(紫外分光光度計:mV)を分子量既知の標準品の溶出時間と比較して分析した分子量分布を図1に、また、この図における分子量画分の面積が全体に占める割合(百分率)を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
つぎに、得られた食品用原液(ENM)に含まれる低分子物質が熱により変性や分解を生じないかを評価した。
121℃にて30分間加熱したENMの分子量分布を、TSK gel G2500PWXLカラム(東ソー株式会社製)を用いたサイズ排除クロマトグラフィーにより測定した。併せて、高温にさらしていない同ロットのENM(対照ENM)の分子量分布を同様にして測定した。それらの結果を表2に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
分子量分布測定の結果、ENMは高温条件にさらしても低分子組成の分子量分布に変化が認められないことから、ENMは熱に対して耐性があることが判明した。
【0036】
また、得られた食品用原液(ENM)に含まれる低分子物質が強酸条件に付された場合に、変性や分解を生じないかを評価した。
ENM(pH3.7)を37℃に保ちながら攪拌し、塩酸を加えてpHを1.2とした。15分放置後、水酸化ナトリウムで元のpH3.7に戻した試料の分子量分布を、TSK gel G2500PWXLカラム(東ソー株式会社製)を用いたサイズ排除クロマトグラフィーにより測定した。併せて、強酸にさらしていない同ロットのENM(対照ENM)の分子量分布を同様にして測定した。それらの結果を表3に示す。
【0037】
【表3】

【0038】
分子量分布測定の結果、ENMは強酸条件にさらしても低分子組成の分子量分布にほとんど変化が認められないことから、ENMは強酸に対しても耐性があり、経口接種した際にも胃酸に対して耐性があることが示された。
【0039】
以上の結果から、ENMは高温や強酸性条件に対して安定した原料であることが証明され、食品加工や経口摂取した場合にも高温や酸性条件に影響を受けず、様々な加工処理や利用が可能であることが判明した。
【0040】
つぎに、調製済みのENMを濃縮装置に入れて40℃以下の温度で真空度20−60cmHgの一次濃縮にかけ、90℃で30分間で滅菌し、再度、濃縮装置に入れて40℃以下の温度で真空度20−60cmHgの二次濃縮にかけて濃縮比20倍に調整したENM−HLを得た。
【0041】
合成基質S-2251を用いたENM-HLのプラスミン活性に及ぼす効果の検討
次に本発明者らは、ENM-HL(株式会社エンザミン研究所製)の組織型プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)によるプラスミン活性に対する効果を直接検討するため、プラスミンによる特異的切断部位をもつ合成基質S-2251を用いて検討を行った。ENM-HLを生理食塩水で段階希釈し(100〜0.13容量%)、サンプルとして用いた。
このサンプル10μlに、tPA(10IU/m1)90μlと、Glu-plasminogen(200μg/ml)20μlおよびS-2251(1mM)100μlを加えて反応させ、450nmの吸光度を2.5分おきに2時間測定し、その増加度(ΔA450nm)を算出し、tPA活性を評価した。
その結果、ENM-HLによるtPA活性の有意な亢進が認められた(図2)。
【実施例2】
【0042】
フィブリン平板を用いたENM-HLのtPA活性に及ぼす効果の検討
次に本発明者らは、フィブリン平板法を用いてENM-HLのtPA活性に対する効果の検討を行った。ENM-HLを生理食塩水で段階希釈し(100〜0.35容量%)、サンプルとして用いた。サンプル10μlにtPA(25IU/ml)10μlを加えたものをフィブリンプレートに添加し、24時間反応させて、tPA活性を評価した。
その結果、フィブリン平板法においてもENM-HLによるtPA活性亢進効果が確認された(図3)。
【実施例3】
【0043】
血管内皮細胞におけるtPAの活性および産生に及ぼすENM-HLの効果の検討
次に本発明者らは、ENM-HLが血管内皮細胞におけるtPA活性およびtPA産生能に及ぼす効果の検討を行った。血管内皮細胞として、マウス脳血管内皮由来細胞bEnd.3細胞を用いた。24ウェルプレートにbEnd.3細胞を2×105 cell/wellで播種し、コンフルエントに達して2日後にENM-HLを0.001〜0.1容量%の濃度で無血清培地に添加し、6時間、12時間、24時間培養した。培養液中のtPA活性をfibrin zymographyにて評価を行った。
また、培養24時間後のbEnd.3細胞からRNAを抽出してcDNAを合成し、リアルタイムPCR法にてtPA mRNAの発現量を検討した。内因性コントロールとしてGAPDH mRNA発現量を測定し補正を行った。
ENM-HLの添加により、培養上清中のtPA活性は培養6時間後、12時間後、24時間後において亢進が認められた(図4A)。また、ENM-HLによってtPA mRNA発現量の増加は認められなかったことから、血管内皮細胞のtPA産生には影響を与えないことが示唆された(図4B)。
【実施例4】
【0044】
生体分子間相互作用解析装置(IASYS)を用いたENM-HLのtPAに対する結合性の検討
本発明者らは、ENM-HL中にtPAに直接作用する物質が含まれていると考え、生体分子間相互作用解析装置(IASYS)を用いてENM-HLのtPAに対する結合性の検討を行った。tPAをキュベットに固相化して、ENM-HL(1〜20容量%)を加えて、その結合性を評価した。
その結果、ENM-HLの濃度依存的にtPAに対する強い結合性が認められた(図5)。このことからENM-HL中にはtPAに強く結合する物質が含まれていることが示唆された。
【実施例5】
【0045】
マウスの血中におけるENM-HLのtPA活性に対する効果の検討
次に本発明者らは、生体内におけるENM-HLの効果を検討するため、C57BL6/Jマウスを用いて検討を行った。雄性C57BL6/Jマウス(12週齢、体重25±3g、各群3匹)にENM-HL(0.008〜25容量%)0.3mlを経口投与し、2時間後に採血を行い、血漿を採取してユーグロブリン分画を単離した。その分画のtPA活性をfibrin zymography法で評価した。
その結果、ENM-HL 1容量%、0.1容量%の濃度においてtPA活性の亢進が認められた(図6)。
【0046】
マウスの血中におけるENM-HLのtPA活性に対する持続効果の検討
次に、生体内におけるtPA活性亢進効果の持続効果を検討するため、tPA活性亢進が認められた1%濃度のENM-HLをC57BL6/Jマウスに経口投与し、1、2、3、4時間後に採血を行い、ユーグロブリン分画を単離してfibrin zymography法でtPA活性を評価した。
その結果、tPA活性の亢進効果は2時間後を最高値として、4時間以上保持されることが認められた(図7)。
【0047】
以上のような実験結果から、ENM-HLは血中のtPA活性を亢進し、しかもその効果が比較的長時間保持されることが示された。
【実施例6】
【0048】
マウスの血中における培地添加成分のtPA活性に対する効果の検討
(1)乳酸菌発酵エキス
次に本発明者らは、生体内における他の菌発酵エキスの効果の検討を行った。雄性C57BL6/Jマウス(12週齢)に生理食塩水で希釈した乳酸菌発酵エキス(原液、1〜50容量%)を300μl経口投与し、2時間後に採取した血漿からユーグロブリン分画を単離した。その分画のtPAおよびuPAの活性をfibrin zymography法にて評価した。
その結果、乳酸菌発酵エキスにはtPAおよびuPAの活性を増強する効果は認められなかった(図8)。
(2)納豆菌発酵エキス
次に本発明者らは、生体内における他の培地添加成分の効果の検討を行った。雄性C57BL6/Jマウス(12週齢)に生理食塩水で希釈した納豆菌発酵エキス(20倍濃縮液、0.2〜25容量%)を300μl経口投与し、2時間後に採取した血漿からユーグロブリン分画を単離した。その分画のtPAおよびuPAの活性をfibrin zymography法にて評価した。
その結果、納豆菌発酵エキスにはtPAおよびuPAの活性を増強する効果は認められなかった(図9)。
【産業上の利用可能性】
【0049】
tPAは脳梗塞などの血栓性疾患の治療薬としても用いられており、その活性亢進(活性増強)は、これら血栓性疾患の治療および予防に有効であると考えられる。今回、納豆菌由来の低分子ペプチドである成分が生体内でtPAの活性を増強することを明らかにした。この成分はすでに保健栄養食品とされていることから、食品として摂取することで血栓性疾患の予防につながることが期待される。
本発明の血栓性疾患予防食品は、栄養機能食品、栄養補助食品、健康補助食品、特定保健用食品、特に健康補助食品の分野に属するものである。本発明の血栓性疾患予防食品は、従来より食品等に利用されてきて安全性が確認されている微生物培養物を有効成分とするものであり、簡便に摂取することができる。本発明の血栓性疾患予防食品は、簡便かつ日常的に摂取することにより血栓性疾患の発症を有効に予防し、血栓性疾患に関連する多大な医療費を削減することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉をアミラーゼで加水分解した糖化物を培地用基材とし、これに酵母エキスを添加して発酵用培地を調製し、この培地に納豆菌であるバチルス・ズブチリスAK(受託番号:FERM P−18291)を接種し、発酵および熟成させた後、生成した液状成分を分取した成分を有効成分として含む血栓性疾患予防食品。
【請求項2】
発酵が、pH4.5〜6.5、28〜32℃の条件で2ヶ月以上行なう発酵である請求項1記載の血栓性疾患予防食品。
【請求項3】
熟成が、pH4.0〜6.0、13〜17℃の条件で4ヶ月以上行なう熟成である請求項1または2に記載の血栓性疾患予防食品。
【請求項4】
血栓性疾患が、深部静脈血栓症、門脈血栓症、腎静脈血栓症、頚静脈血栓症、バッド・キアリ症候群、腋窩-鎖骨下静脈血栓症、脳静脈洞血栓症および肺血栓塞栓症よりなる群から選択される1またはそれを超える静脈血栓症、または脳梗塞、心筋梗塞、腸間膜動脈血栓症、下肢急性動脈血栓症、肝動脈血栓症、腎動脈血栓症、脾動脈血栓症および閉塞動脈硬化症よりなる群から選択される1またはそれを超える動脈血栓症である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の血栓性疾患予防食品。
【請求項5】
有効成分を食品全体の重量に対して0.05〜100重量%含む請求項1ないし4のいずれか1項に記載の血栓性疾患予防食品。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−143187(P2012−143187A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3856(P2011−3856)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(593045798)
【出願人】(511010440)株式会社エンザミン研究所 (1)
【Fターム(参考)】