血流画像の形成方法
【課題】高分解能の皮膚構造の画像中に血管網を観察することができ、かつその血管網における血流量の変化も観察できる皮膚構造画像を形成する。
【解決手段】皮膚のレーザー顕微鏡画像を動画で撮り、該動画のフレーム同士の輝度差画像を複数形成し、それら輝度差画像を加算することにより血流画像を形成する。さらに、血流画像と、該血流画像と同一部位の反射型共焦点レーザー顕微鏡画像とを合成することにより、皮膚構造中に血流画像を示す。
【解決手段】皮膚のレーザー顕微鏡画像を動画で撮り、該動画のフレーム同士の輝度差画像を複数形成し、それら輝度差画像を加算することにより血流画像を形成する。さらに、血流画像と、該血流画像と同一部位の反射型共焦点レーザー顕微鏡画像とを合成することにより、皮膚構造中に血流画像を示す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚の血管網を示す血流画像の形成方法及びその形成システムに関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の毛細血管の循環構造は加齢変化する。そこで、皮膚の毛細血管の循環構造から皮膚の加齢度を評価し、その皮膚に適した化粧料を選択できるようにすることが望まれる。
【0003】
皮膚の毛細血管の観察方法としては、キャピラリースコープとよばれるビデオマイクロスコープにより皮膚最上層の毛細血管形態を可視光で観察する方法がある。R.I.Kellyらは、この方法を用いて、画像上でドット様に観察される血管(キャピラリーループ)が加齢により減少すること等を明らかにした(非特許文献1)。しかしながら、ビデオマイクロスコープによる画像は、皮膚表面上からの観察像であるため、深さに関する情報がなく、観察された血管網の深度の評価が不正確となる。また、血管構造のみの評価にとどまり、血流量に関する情報を得られない。
【0004】
血流量を評価する方法としては、レーザードップラー血流計が標準的な評価法である。しかしながら、レーザードップラー血流計は空間分解能が低く、皮膚全体の平均的な血流を評価するため、皮膚表層に存在するキャピラリーループの血流を評価することができない。
【0005】
深さ方向の分解能をもつ血流計としては光音響断層法が知られているが(非特許文献2)、空間分解能が低いために微細な血管構造を検出できないという課題がある。また、皮膚における血管の位置や血管周囲の状態の把握を可能とすべく、光音響断層法と、超音波診断機あるいは光干渉断層法との複合機が開発されている(非特許文献3)。しかしながら、装置の複雑化が大きな問題となる。
【0006】
高分解能の観察装置としては、反射型共焦点レーザー顕微鏡を用いた生体皮膚用の顕微鏡が市販されている(商品名Vivascope、米国 Lucid社)。この反射型共焦点レーザー顕微鏡は、表皮及び真皮上層の構造を非侵襲的に細胞レベルの分解能で動画(ビデオレート)観察することを可能とする。Altintasらは、反射型共焦点レーザー顕微鏡で血流を動画記録し、皮膚微小血管を通過する血球数をカウントすることにより、血流のダイナミックな変化を定量計測しており、温度や喫煙に対する血流の応答反応も計測している(非特許文献4、5、6)。しかしながら、微小血管内には赤血球、白血球、血小板などの形状やサイズの異なるさまざまな血球成分が存在するだけではなく、それぞれの移動速度が異なり、さらに、赤血球は扁平で回転しながら進むために画像上での血球の反射輝度は著しく変化する。したがって、血球数を正確にカウントすることは難しい。また、真皮上層のコラーゲンの散乱により、より深部の血球を個々に観察することは難しく、この方法で血流量の変化を観察できるのは皮膚表面の最も近い真皮乳頭の頂部に存在するキャピラリーループの一部にすぎない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J Am Acad Dermatol. 1995 Nov;33(5 Pt 1):749-56.The effects of aging on the cutaneous microvasculature. Kelly RI, Pearse R, Bull RH, Leveque JL, de Rigal J, Mortimer PS.
【非特許文献2】Lsers Surg Med. 2004;35(5):354-62. Imaging of small vessels using photoacoustics: an in vivo study. Siphanto RI, Kolkman RG, Huisjes A, Pilatou MC, de Mul FF, Steenbergen W, van Adrichem LN.
【非特許文献3】Optics Express. 2009 Sep;17(19):16450-16455. Three-dimensional combined photoacoustic and optical coherence microscopy for in vivo microcirculation studies. Li L, Maslov K, Ku G, Wang LV.
【非特許文献4】Microsc Res Tech. 2009 Apr;72(4):347-50. Reflectance confocal-laser-scanning microscopy in vivo assessments of cigarette-induced dynamic alterations of cutaneous microcirculation on histomorphological level. Altintas MA, Altintas AA, Guggenheim M, Gohritz A, Meyer-Marcotty M, Vogt PM.
【非特許文献5】Comput Med Imaging Graph. 2009 Oct;33(7):532-6. Epub 2009 May 28. In vivo reflectance-mode confocal microscopy provides insights in human skin microcirculation and histomorphology.Altintas MA, Meyer-Marcotty M, Altintas AA, Guggenheim M, Gohritz A, Aust MC, Vogt PM
【非特許文献6】J Digit Imaging. 2009 Jun 10. Insight in Human Skin Microcirculation Using In Vivo Reflectance-Mode Confocal Laser Scanning Microscopy.Altintas MA, Altintas AA, Guggenheim M, Steiert AE, Aust MC, Niederbichler AD, Herold C, Vogt PM.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の従来技術に対し、本発明は、高分解能の皮膚構造の画像中に血管網を観察することができ、かつその血管網における血流量の変化も観察できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、血球の移動や回転に伴う血流の画像上の輝度変化は、皮膚断層動画のフレーム間の輝度差として捉えられること、フレーム同士の輝度差をとった輝度差画像を複数形成し、これらを加算すると血管網構造や血流量等の微小循環情報を有する血流画像を得られること、さらに、この血流画像を同一部位の皮膚断層画像と合成すると、血管網構造が位置する部位の表皮、メラニン、細胞外マトリックスなどの皮膚構造の情報も得られることを見いだした。
【0010】
即ち、本発明は、皮膚の反射型共焦点レーザー顕微鏡画像を動画で撮り、該動画のフレーム同士の輝度差画像を複数形成し、複数の輝度差画像を加算する血流画像の形成方法を提供する。
【0011】
特に、血流画像と、この血流画像と同一部位の反射型共焦点レーザー顕微鏡画像とを合成することにより、皮膚構造中に示された血流画像を形成する血流画像の形成方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、上述の血流画像の形成システムとして、皮膚の反射型共焦点レーザー顕微鏡画像を動画で撮る反射型共焦点レーザー顕微鏡、及び反射型共焦点レーザー顕微鏡が撮った動画に基づいて皮膚構造中の血流画像を形成する演算装置を備え、演算装置が、反射型共焦点レーザー顕微鏡画像の動画のフレーム同士の輝度差画像を複数形成し、複数の輝度差画像を加算して血流画像を形成する血流画像形成システムを提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の血流画像の形成方法あるいは形成システムによれば、血流画像が、反射型共焦点レーザー顕微鏡による動画のフレーム同士の輝度差画像の加算により形成されるため、表皮から真皮上層に至る血管網が強調表示された画像となる。このため、真皮上層のコラーゲン等の散乱にかかわらず、血管網が鮮明に観察され、血流量の変化の観察も可能となる。したがって、温熱刺激や薬剤刺激等に対する血流変化の観察も可能となる。
【0014】
特に、血流画像が、反射型共焦点レーザー顕微鏡画像による皮膚構造中に示されるようにした本発明の態様によれば、血管網構造が位置する部位のメラニン、細胞外マトリックスなどの皮膚構造、その皮膚表面の凹凸構造などの情報を得ることが可能となる。したがって、例えば、観察している血管が、毛穴や汗腺部分の血管なのか、それ以外の通常組織の血管なのか等を容易に判断することが可能となる。
【0015】
また、これらの画像の形成に使用する光学系は、一般的な反射型共焦点レーザー顕微鏡のみで足り、血流測定装置と皮膚構造測定装置とを複合化させることは不要である。したがって、血流画像を簡単な装置構成で低コストに形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の血流画像形成システムにおける画像処理の流れの概略図である。
【図2A】図2Aは、実施例1の反射型共焦点レーザー顕微鏡画像のフレームである。
【図2B】図2Bは、実施例1の反射型共焦点レーザー顕微鏡画像のフレームである。
【図3】図3は、実施例1の輝度差画像である。
【図4A】図4Aは、実施例2の血流画像(測定深度50μm)である。
【図4B】図4Bは、実施例2の血流画像(測定深度70μm)である。
【図4C】図4Cは、実施例2の血流画像(測定深度90μm)である。
【図5】図5は、実施例2の三次元血流画像である。
【図6】図6は、実施例2のフレーム平均画像(測定深度50μm)である。
【図7】図7は、実施例2の皮膚構造画像である。
【図8】図8は、虚血再還流における血流画像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ本発明を詳細に説明する。
本発明の血流画像表示システムは、反射型共焦点レーザー顕微鏡による皮膚画像中に、皮膚の血管網と血流量の観察を可能とする血流画像を形成するものである。この血流画像表示システムは、概略、反射型共焦点レーザー顕微鏡画像を動画で撮る反射型共焦点レーザー顕微鏡と、反射型共焦点レーザー顕微鏡が撮った動画に基づいて皮膚構造中の血流画像を形成する演算装置を備える。演算装置には、血流画像や皮膚構造の画像を表示するディスプレイ、プリンタ等の表示手段、これらの画像情報をインターネット等の通信回線に送る送信手段等が接続される。図1は、血流画像表示システムにおける画像処理の流れの概略図である。
【0018】
本システムでは、動画記録が可能な反射型共焦点レーザー顕微鏡を使用することができる。この顕微鏡としては市販のものを使用することができる。
【0019】
反射型共焦点レーザー顕微鏡の光源としては、皮膚表面からより深部までを観察できるように、近赤外光を使用することが好ましく、より具体的には、波長830nmのGaAsレーザー等を使用することができる。
レーザーのパワーは0.5〜50mWが好ましい。このパワーが小さすぎるとS/N比が大きくなり、大きすぎると生体にダメージを与える可能性がある。また、レーザー顕微鏡で動画を撮るにあたり、フレームレートは、4〜100frame/秒が好ましい。フレームレートが低すぎると、血流に起因する画像の輝度変化に対する、微細な体動に起因する画像全体の輝度変化が大きくなりS/N比が悪くなる。高すぎると血流画像を構築するための画像処理に多大な時間を要する。
【0020】
図1に示すように、演算装置は反射型共焦点レーザー顕微鏡と接続し、反射型共焦点レーザー顕微鏡から送られてきた皮膚の所定深度の観察部位の動画の画像信号を記憶し、時系列的にフレーム画像に変換し、所定時間間隔のフレーム同士の輝度差をとった輝度差画像を形成する。同図に、反射型共焦点レーザー顕微鏡により得られる動画と、そのフレームと、フレーム同士(フレーム間隔0.125秒)の輝度差画像の一例を示す。この輝度差画像は、血球の動きなどによる輝度変化が画像上に現れたものである。輝度差画像を形成するフレーム同士の時間間隔は、好ましくは0.01〜0.5秒間隔である。この間隔が短すぎると血流の動きに起因する輝度変化はほとんどなく輝度差画のコントラストが得られず、長すぎると血流に起因する画像の輝度変化に対して、微細な体動に起因する画像全体の輝度変化が大きくなりS/N比が悪くなる。
【0021】
また、輝度差画像を形成するに際し、所定時間間隔のフレームと、基準とする特定のフレームとの輝度差をとってもよい。ただし、個々の血管における血流速度あるいは血流量は絶えず変化するので、特定のフレームを基準フレームとすると、その基準フレームを取得した瞬間の、偶然の血流状態が最終的な結果に反映される。この偶然性を排除するためにも、所定時間間隔で隣り合うフレーム同士の輝度差をとることが好ましい。
【0022】
演算装置において、輝度差画像は複数形成され、それらが互いに加算されて血流画像が形成される。この輝度差画像の加算により血流が強調された血流画像が得られる。加算する輝度差画像の数は、皮膚構造による光の散乱の程度などにもよるが、通常5〜50とすることが好ましい。なお、輝度差画像を加算して血流画像を形成する前に、個々の輝度差画像又はフレームにノイズ除去処理が行われるようにしてもよい。ノイズ除去処理としては、例えば、細かくランダムなスペックルノイズの除去等が行なわれる。
【0023】
レーザー顕微鏡から深度の異なる複数の動画が送られてきた場合、演算装置は、深度ごとに輝度差画像を形成し、深度ごとに血流画像を形成する。この場合、深度が深くなるに従い動画輝度が低下するので、動画から作成された血流画像のコントラストも低下してしまう。これを補正するためには、血流画像を反射型共焦点レーザー顕微鏡画像あるいはその動画のフレーム平均画像などで除算し規格化すると良い。この画像処理により、レーザーパワーや皮膚の光学的な性状によらず安定した血流画像のコントラストを得ることができる。
【0024】
また、演算装置は、深度の異なる血流画像同士を合成することにより、血流網の三次元画像を形成する。なお、本システムにおいて血流の三次元画像は、任意の方向から見た断層画像として表示させることができ、例えば、皮膚表面に水平な断層画像や皮膚表面に垂直な断層画像を表示させることができる。
【0025】
血流画像の形成後、演算装置は、血流画像と同一部位の反射型共焦点レーザー顕微鏡画像を、その血流画像と合成する。これにより、皮膚構造中に血流画像が示された皮膚構造画像を得ることができる。ここで、血流画像と合成する同一部位の反射型共焦点レーザー顕微鏡としては、血流画像の形成に使用した動画の任意の一フレームを使用してもよく、複数のフレームの平均画像を使用してもよく、別個に撮った画像を使用してもよい。なお、血流以外の測定部の動きは、血流画像では大きなノイズとして現れるが、フレームの平均画像ではピントのずれたようになるため、動画データの質をチェックする上で、フレームの平均画像を使用することが好ましい。
【0026】
反射型共焦点レーザー顕微鏡画像の動画のフレームへの変換は公知の画像解析ソフト(ImageJ、アメリカ国立衛生研究所製等)を用いて行うことができ、輝度差画像の形成、ノイズ除去処理、輝度差画像の加算、血流画像と反射型共焦点レーザー顕微鏡画像との合成などの画像処理も公知の画像処理ソフト(Photoshop、アドビ・システムズ等)を用いて行うことができる。
【0027】
以上のようにして得られる皮膚構造中に血流画像が示された画像は、血流画像が輝度差画像の加算により形成されているので、血流が強調表示されたものとなる。画像処理前の反射型共焦点レーザー顕微鏡画像では、真皮上層の乳頭下血管叢構造は、真皮上層のコラーゲンの散乱により観察することができないが、本発明によれば、真皮上層の乳頭下血管叢構造も観察することが可能となる。したがって、本発明は、血管形態、血管数などから加齢度を判断したり、末梢血管系の状態から高血圧等の成人病の有無を判断したりする際に有用となる。特に、本発明により得られる血流画像を複数の被験者から得ておき、各血流画像における血管形態、血管数と年齢とを関係づけたデータベースを構築し、そのデータベースを演算装置が使用できるようにしておくことにより、本発明の血流画像表示システムは、任意の被験者の血流画像からその被験者の加齢度を評価する加齢度評価装置としても使用することが可能となる。
【0028】
さらに、本発明の血流画像は血流量を反映したものとなるため、本発明によれば、皮膚への温熱刺激、薬剤刺激などに対する血流量の変化を観察することが可能となる。この場合、血管網の周囲の表皮構造、細胞外マトリクス、メラニンなどの皮膚構造の変化も観察することができるから、本発明は化粧料が皮膚の血流や組織に及ぼす影響を評価する場合にも有用となる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。
実施例1
(1)血流画像形成システム
反射型共焦点レーザー顕微鏡(CLSM)(商品名Vivascope3000、Lucid社, Rochester, NY)を用いた。この反射型共焦点レーザー顕微鏡は、波長830nmのGaAsレーザーを光源し、視野は500μm×500μm、分解能は0.4μm(水平方向)、1.9μm(垂直方向)であり(カタログ値)、フレームレート8frame/秒での動画記録が可能である。
【0030】
画像解析ソフト(ImageJ、Photoshop等)を搭載したパーソナルコンピュータに、上述のレーザー顕微鏡とディスプレイを接続し、血流画像形成システムとした。
【0031】
(2)反射型共焦点レーザー顕微鏡画像の取得
健康な40代男性の前腕部を測定部位とした。
測定部位にオイルを10μL滴下した後、反射型共焦点レーザー顕微鏡のプローブを接触させ、測定深度を皮膚表面から50μmに合わせ、各深度で約1〜2秒間にわたり動画記録(AVIファイル)した。
【0032】
(3)画像解析
(2)で得た動画(AVIファイル)を画像解析ソフト(ImageJ)で読み取り、これを測定深度ごとに0.125秒間隔のTIFF形式画像群(時系列静止画像)に変換し、各画像群から連続した11枚の画像(元画像)を選定した。そして、測定深度ごとに、0.125秒間隔の10組の画像から10枚の輝度差画像を形成した。元画像の1枚を図2Aに示し、その0.125秒後の画像を図2Bに示し、これらの輝度差画像を図3に示す。図3の輝度差画像では、血球の動きなどにより、フレーム間で輝度が変化した部位を観察することができる。
【0033】
測定深度ごとに、10枚の輝度差画像のそれぞれにスペックルノイズ除去処理を行った後、これら輝度差画像を加算し、さらに、フレーム平均画像で血流画像を除算し加算画像のコントラストを規格化し血流画像を形成した。
【0034】
実施例2
(1)血流画像の取得、及び血流画像の3次元的表示
健康な30代女性の前腕部を測定部位とした。測定部位にオイルを10μL滴下した後、反射型共焦点レーザー顕微鏡のプローブを接触させ、測定深度を皮膚表面から50、70、90μmに合わせ、各深度で約1〜2秒間にわたり動画記録(AVIファイル)した。
【0035】
動画のフレームを用いて、前述の(2)と同様にして各深度の血流画像を取得し、それぞれ赤、緑、青の疑似カラーを付与し、これらを合成して三次元の血流画像を形成した。この測定深度ごとの血流画像を図4A、図4B、図4Cに示し、これらを合成した三次元の血流画像を図5に示す。
【0036】
(2)血流画像と皮膚構造画像との合成
元動画のフレーム平均画像(深さ50μm)を作成し(図6)、このフレーム平均画像と、前述の三次元血流画像(図5)を合成することにより、皮膚構造中に血流画像が示されている皮膚構造画像を得た。これを図7に示す。
【0037】
図4A〜図4Cから、測定深度の変化に伴い血流画像が変化しているのがわかる。即ち、測定深度50μm(図4A)では、ドット状のキャピラリーループが観察され、90μmでは個々のキャピラリーループを結合するように皮膚表面に平行して走行する血管網が観察された。このように、本発明において、測定深度を変えて血流画像を形成すると、皮膚の血管構造を立体的に理解することができる。
【0038】
さらに、図5の血流画像と図6の元動画のフレーム平均画像とを合成した図7の皮膚構造画像によれば、皮溝、皮丘、真皮乳頭等の表皮構造、メラニン分布状態を把握しつつ、その中を走行する血管網を理解できることがわかる。汗腺、毛孔などの皮膚付属器官の周囲には血管網が発達していること知られており、血流状態も他部位と異なると推測される。したがって、本発明によれば、観察された血管構造が皮膚のどの部位のものかを把握し、それを踏まえて血管構造を評価できることがわかる。
【0039】
実施例3:虚血再還流
実施例1と同じ被験者の上腕にカフを巻きつけ圧迫(140mmHg)することで、心臓からみて遠位である前腕部(測定部位)の皮膚血流を一時的とめた(虚血)。約10秒後、圧迫をやめ皮膚血流を戻した(再還流)。虚血前、虚血中、再還流直後それぞれについて、上述と同様に、反射型共焦点レーザー顕微鏡を使用し、深度50μmとして、血流画像を得た。これらの結果を図8に示す。
【0040】
図8から、虚血することにより血流が停止し、再還流後の血流増加がわかる。このように、本発明によれば虚血再還流による血流量の変化を観察することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚の血管網を示す血流画像の形成方法及びその形成システムに関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の毛細血管の循環構造は加齢変化する。そこで、皮膚の毛細血管の循環構造から皮膚の加齢度を評価し、その皮膚に適した化粧料を選択できるようにすることが望まれる。
【0003】
皮膚の毛細血管の観察方法としては、キャピラリースコープとよばれるビデオマイクロスコープにより皮膚最上層の毛細血管形態を可視光で観察する方法がある。R.I.Kellyらは、この方法を用いて、画像上でドット様に観察される血管(キャピラリーループ)が加齢により減少すること等を明らかにした(非特許文献1)。しかしながら、ビデオマイクロスコープによる画像は、皮膚表面上からの観察像であるため、深さに関する情報がなく、観察された血管網の深度の評価が不正確となる。また、血管構造のみの評価にとどまり、血流量に関する情報を得られない。
【0004】
血流量を評価する方法としては、レーザードップラー血流計が標準的な評価法である。しかしながら、レーザードップラー血流計は空間分解能が低く、皮膚全体の平均的な血流を評価するため、皮膚表層に存在するキャピラリーループの血流を評価することができない。
【0005】
深さ方向の分解能をもつ血流計としては光音響断層法が知られているが(非特許文献2)、空間分解能が低いために微細な血管構造を検出できないという課題がある。また、皮膚における血管の位置や血管周囲の状態の把握を可能とすべく、光音響断層法と、超音波診断機あるいは光干渉断層法との複合機が開発されている(非特許文献3)。しかしながら、装置の複雑化が大きな問題となる。
【0006】
高分解能の観察装置としては、反射型共焦点レーザー顕微鏡を用いた生体皮膚用の顕微鏡が市販されている(商品名Vivascope、米国 Lucid社)。この反射型共焦点レーザー顕微鏡は、表皮及び真皮上層の構造を非侵襲的に細胞レベルの分解能で動画(ビデオレート)観察することを可能とする。Altintasらは、反射型共焦点レーザー顕微鏡で血流を動画記録し、皮膚微小血管を通過する血球数をカウントすることにより、血流のダイナミックな変化を定量計測しており、温度や喫煙に対する血流の応答反応も計測している(非特許文献4、5、6)。しかしながら、微小血管内には赤血球、白血球、血小板などの形状やサイズの異なるさまざまな血球成分が存在するだけではなく、それぞれの移動速度が異なり、さらに、赤血球は扁平で回転しながら進むために画像上での血球の反射輝度は著しく変化する。したがって、血球数を正確にカウントすることは難しい。また、真皮上層のコラーゲンの散乱により、より深部の血球を個々に観察することは難しく、この方法で血流量の変化を観察できるのは皮膚表面の最も近い真皮乳頭の頂部に存在するキャピラリーループの一部にすぎない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J Am Acad Dermatol. 1995 Nov;33(5 Pt 1):749-56.The effects of aging on the cutaneous microvasculature. Kelly RI, Pearse R, Bull RH, Leveque JL, de Rigal J, Mortimer PS.
【非特許文献2】Lsers Surg Med. 2004;35(5):354-62. Imaging of small vessels using photoacoustics: an in vivo study. Siphanto RI, Kolkman RG, Huisjes A, Pilatou MC, de Mul FF, Steenbergen W, van Adrichem LN.
【非特許文献3】Optics Express. 2009 Sep;17(19):16450-16455. Three-dimensional combined photoacoustic and optical coherence microscopy for in vivo microcirculation studies. Li L, Maslov K, Ku G, Wang LV.
【非特許文献4】Microsc Res Tech. 2009 Apr;72(4):347-50. Reflectance confocal-laser-scanning microscopy in vivo assessments of cigarette-induced dynamic alterations of cutaneous microcirculation on histomorphological level. Altintas MA, Altintas AA, Guggenheim M, Gohritz A, Meyer-Marcotty M, Vogt PM.
【非特許文献5】Comput Med Imaging Graph. 2009 Oct;33(7):532-6. Epub 2009 May 28. In vivo reflectance-mode confocal microscopy provides insights in human skin microcirculation and histomorphology.Altintas MA, Meyer-Marcotty M, Altintas AA, Guggenheim M, Gohritz A, Aust MC, Vogt PM
【非特許文献6】J Digit Imaging. 2009 Jun 10. Insight in Human Skin Microcirculation Using In Vivo Reflectance-Mode Confocal Laser Scanning Microscopy.Altintas MA, Altintas AA, Guggenheim M, Steiert AE, Aust MC, Niederbichler AD, Herold C, Vogt PM.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の従来技術に対し、本発明は、高分解能の皮膚構造の画像中に血管網を観察することができ、かつその血管網における血流量の変化も観察できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、血球の移動や回転に伴う血流の画像上の輝度変化は、皮膚断層動画のフレーム間の輝度差として捉えられること、フレーム同士の輝度差をとった輝度差画像を複数形成し、これらを加算すると血管網構造や血流量等の微小循環情報を有する血流画像を得られること、さらに、この血流画像を同一部位の皮膚断層画像と合成すると、血管網構造が位置する部位の表皮、メラニン、細胞外マトリックスなどの皮膚構造の情報も得られることを見いだした。
【0010】
即ち、本発明は、皮膚の反射型共焦点レーザー顕微鏡画像を動画で撮り、該動画のフレーム同士の輝度差画像を複数形成し、複数の輝度差画像を加算する血流画像の形成方法を提供する。
【0011】
特に、血流画像と、この血流画像と同一部位の反射型共焦点レーザー顕微鏡画像とを合成することにより、皮膚構造中に示された血流画像を形成する血流画像の形成方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、上述の血流画像の形成システムとして、皮膚の反射型共焦点レーザー顕微鏡画像を動画で撮る反射型共焦点レーザー顕微鏡、及び反射型共焦点レーザー顕微鏡が撮った動画に基づいて皮膚構造中の血流画像を形成する演算装置を備え、演算装置が、反射型共焦点レーザー顕微鏡画像の動画のフレーム同士の輝度差画像を複数形成し、複数の輝度差画像を加算して血流画像を形成する血流画像形成システムを提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の血流画像の形成方法あるいは形成システムによれば、血流画像が、反射型共焦点レーザー顕微鏡による動画のフレーム同士の輝度差画像の加算により形成されるため、表皮から真皮上層に至る血管網が強調表示された画像となる。このため、真皮上層のコラーゲン等の散乱にかかわらず、血管網が鮮明に観察され、血流量の変化の観察も可能となる。したがって、温熱刺激や薬剤刺激等に対する血流変化の観察も可能となる。
【0014】
特に、血流画像が、反射型共焦点レーザー顕微鏡画像による皮膚構造中に示されるようにした本発明の態様によれば、血管網構造が位置する部位のメラニン、細胞外マトリックスなどの皮膚構造、その皮膚表面の凹凸構造などの情報を得ることが可能となる。したがって、例えば、観察している血管が、毛穴や汗腺部分の血管なのか、それ以外の通常組織の血管なのか等を容易に判断することが可能となる。
【0015】
また、これらの画像の形成に使用する光学系は、一般的な反射型共焦点レーザー顕微鏡のみで足り、血流測定装置と皮膚構造測定装置とを複合化させることは不要である。したがって、血流画像を簡単な装置構成で低コストに形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の血流画像形成システムにおける画像処理の流れの概略図である。
【図2A】図2Aは、実施例1の反射型共焦点レーザー顕微鏡画像のフレームである。
【図2B】図2Bは、実施例1の反射型共焦点レーザー顕微鏡画像のフレームである。
【図3】図3は、実施例1の輝度差画像である。
【図4A】図4Aは、実施例2の血流画像(測定深度50μm)である。
【図4B】図4Bは、実施例2の血流画像(測定深度70μm)である。
【図4C】図4Cは、実施例2の血流画像(測定深度90μm)である。
【図5】図5は、実施例2の三次元血流画像である。
【図6】図6は、実施例2のフレーム平均画像(測定深度50μm)である。
【図7】図7は、実施例2の皮膚構造画像である。
【図8】図8は、虚血再還流における血流画像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ本発明を詳細に説明する。
本発明の血流画像表示システムは、反射型共焦点レーザー顕微鏡による皮膚画像中に、皮膚の血管網と血流量の観察を可能とする血流画像を形成するものである。この血流画像表示システムは、概略、反射型共焦点レーザー顕微鏡画像を動画で撮る反射型共焦点レーザー顕微鏡と、反射型共焦点レーザー顕微鏡が撮った動画に基づいて皮膚構造中の血流画像を形成する演算装置を備える。演算装置には、血流画像や皮膚構造の画像を表示するディスプレイ、プリンタ等の表示手段、これらの画像情報をインターネット等の通信回線に送る送信手段等が接続される。図1は、血流画像表示システムにおける画像処理の流れの概略図である。
【0018】
本システムでは、動画記録が可能な反射型共焦点レーザー顕微鏡を使用することができる。この顕微鏡としては市販のものを使用することができる。
【0019】
反射型共焦点レーザー顕微鏡の光源としては、皮膚表面からより深部までを観察できるように、近赤外光を使用することが好ましく、より具体的には、波長830nmのGaAsレーザー等を使用することができる。
レーザーのパワーは0.5〜50mWが好ましい。このパワーが小さすぎるとS/N比が大きくなり、大きすぎると生体にダメージを与える可能性がある。また、レーザー顕微鏡で動画を撮るにあたり、フレームレートは、4〜100frame/秒が好ましい。フレームレートが低すぎると、血流に起因する画像の輝度変化に対する、微細な体動に起因する画像全体の輝度変化が大きくなりS/N比が悪くなる。高すぎると血流画像を構築するための画像処理に多大な時間を要する。
【0020】
図1に示すように、演算装置は反射型共焦点レーザー顕微鏡と接続し、反射型共焦点レーザー顕微鏡から送られてきた皮膚の所定深度の観察部位の動画の画像信号を記憶し、時系列的にフレーム画像に変換し、所定時間間隔のフレーム同士の輝度差をとった輝度差画像を形成する。同図に、反射型共焦点レーザー顕微鏡により得られる動画と、そのフレームと、フレーム同士(フレーム間隔0.125秒)の輝度差画像の一例を示す。この輝度差画像は、血球の動きなどによる輝度変化が画像上に現れたものである。輝度差画像を形成するフレーム同士の時間間隔は、好ましくは0.01〜0.5秒間隔である。この間隔が短すぎると血流の動きに起因する輝度変化はほとんどなく輝度差画のコントラストが得られず、長すぎると血流に起因する画像の輝度変化に対して、微細な体動に起因する画像全体の輝度変化が大きくなりS/N比が悪くなる。
【0021】
また、輝度差画像を形成するに際し、所定時間間隔のフレームと、基準とする特定のフレームとの輝度差をとってもよい。ただし、個々の血管における血流速度あるいは血流量は絶えず変化するので、特定のフレームを基準フレームとすると、その基準フレームを取得した瞬間の、偶然の血流状態が最終的な結果に反映される。この偶然性を排除するためにも、所定時間間隔で隣り合うフレーム同士の輝度差をとることが好ましい。
【0022】
演算装置において、輝度差画像は複数形成され、それらが互いに加算されて血流画像が形成される。この輝度差画像の加算により血流が強調された血流画像が得られる。加算する輝度差画像の数は、皮膚構造による光の散乱の程度などにもよるが、通常5〜50とすることが好ましい。なお、輝度差画像を加算して血流画像を形成する前に、個々の輝度差画像又はフレームにノイズ除去処理が行われるようにしてもよい。ノイズ除去処理としては、例えば、細かくランダムなスペックルノイズの除去等が行なわれる。
【0023】
レーザー顕微鏡から深度の異なる複数の動画が送られてきた場合、演算装置は、深度ごとに輝度差画像を形成し、深度ごとに血流画像を形成する。この場合、深度が深くなるに従い動画輝度が低下するので、動画から作成された血流画像のコントラストも低下してしまう。これを補正するためには、血流画像を反射型共焦点レーザー顕微鏡画像あるいはその動画のフレーム平均画像などで除算し規格化すると良い。この画像処理により、レーザーパワーや皮膚の光学的な性状によらず安定した血流画像のコントラストを得ることができる。
【0024】
また、演算装置は、深度の異なる血流画像同士を合成することにより、血流網の三次元画像を形成する。なお、本システムにおいて血流の三次元画像は、任意の方向から見た断層画像として表示させることができ、例えば、皮膚表面に水平な断層画像や皮膚表面に垂直な断層画像を表示させることができる。
【0025】
血流画像の形成後、演算装置は、血流画像と同一部位の反射型共焦点レーザー顕微鏡画像を、その血流画像と合成する。これにより、皮膚構造中に血流画像が示された皮膚構造画像を得ることができる。ここで、血流画像と合成する同一部位の反射型共焦点レーザー顕微鏡としては、血流画像の形成に使用した動画の任意の一フレームを使用してもよく、複数のフレームの平均画像を使用してもよく、別個に撮った画像を使用してもよい。なお、血流以外の測定部の動きは、血流画像では大きなノイズとして現れるが、フレームの平均画像ではピントのずれたようになるため、動画データの質をチェックする上で、フレームの平均画像を使用することが好ましい。
【0026】
反射型共焦点レーザー顕微鏡画像の動画のフレームへの変換は公知の画像解析ソフト(ImageJ、アメリカ国立衛生研究所製等)を用いて行うことができ、輝度差画像の形成、ノイズ除去処理、輝度差画像の加算、血流画像と反射型共焦点レーザー顕微鏡画像との合成などの画像処理も公知の画像処理ソフト(Photoshop、アドビ・システムズ等)を用いて行うことができる。
【0027】
以上のようにして得られる皮膚構造中に血流画像が示された画像は、血流画像が輝度差画像の加算により形成されているので、血流が強調表示されたものとなる。画像処理前の反射型共焦点レーザー顕微鏡画像では、真皮上層の乳頭下血管叢構造は、真皮上層のコラーゲンの散乱により観察することができないが、本発明によれば、真皮上層の乳頭下血管叢構造も観察することが可能となる。したがって、本発明は、血管形態、血管数などから加齢度を判断したり、末梢血管系の状態から高血圧等の成人病の有無を判断したりする際に有用となる。特に、本発明により得られる血流画像を複数の被験者から得ておき、各血流画像における血管形態、血管数と年齢とを関係づけたデータベースを構築し、そのデータベースを演算装置が使用できるようにしておくことにより、本発明の血流画像表示システムは、任意の被験者の血流画像からその被験者の加齢度を評価する加齢度評価装置としても使用することが可能となる。
【0028】
さらに、本発明の血流画像は血流量を反映したものとなるため、本発明によれば、皮膚への温熱刺激、薬剤刺激などに対する血流量の変化を観察することが可能となる。この場合、血管網の周囲の表皮構造、細胞外マトリクス、メラニンなどの皮膚構造の変化も観察することができるから、本発明は化粧料が皮膚の血流や組織に及ぼす影響を評価する場合にも有用となる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。
実施例1
(1)血流画像形成システム
反射型共焦点レーザー顕微鏡(CLSM)(商品名Vivascope3000、Lucid社, Rochester, NY)を用いた。この反射型共焦点レーザー顕微鏡は、波長830nmのGaAsレーザーを光源し、視野は500μm×500μm、分解能は0.4μm(水平方向)、1.9μm(垂直方向)であり(カタログ値)、フレームレート8frame/秒での動画記録が可能である。
【0030】
画像解析ソフト(ImageJ、Photoshop等)を搭載したパーソナルコンピュータに、上述のレーザー顕微鏡とディスプレイを接続し、血流画像形成システムとした。
【0031】
(2)反射型共焦点レーザー顕微鏡画像の取得
健康な40代男性の前腕部を測定部位とした。
測定部位にオイルを10μL滴下した後、反射型共焦点レーザー顕微鏡のプローブを接触させ、測定深度を皮膚表面から50μmに合わせ、各深度で約1〜2秒間にわたり動画記録(AVIファイル)した。
【0032】
(3)画像解析
(2)で得た動画(AVIファイル)を画像解析ソフト(ImageJ)で読み取り、これを測定深度ごとに0.125秒間隔のTIFF形式画像群(時系列静止画像)に変換し、各画像群から連続した11枚の画像(元画像)を選定した。そして、測定深度ごとに、0.125秒間隔の10組の画像から10枚の輝度差画像を形成した。元画像の1枚を図2Aに示し、その0.125秒後の画像を図2Bに示し、これらの輝度差画像を図3に示す。図3の輝度差画像では、血球の動きなどにより、フレーム間で輝度が変化した部位を観察することができる。
【0033】
測定深度ごとに、10枚の輝度差画像のそれぞれにスペックルノイズ除去処理を行った後、これら輝度差画像を加算し、さらに、フレーム平均画像で血流画像を除算し加算画像のコントラストを規格化し血流画像を形成した。
【0034】
実施例2
(1)血流画像の取得、及び血流画像の3次元的表示
健康な30代女性の前腕部を測定部位とした。測定部位にオイルを10μL滴下した後、反射型共焦点レーザー顕微鏡のプローブを接触させ、測定深度を皮膚表面から50、70、90μmに合わせ、各深度で約1〜2秒間にわたり動画記録(AVIファイル)した。
【0035】
動画のフレームを用いて、前述の(2)と同様にして各深度の血流画像を取得し、それぞれ赤、緑、青の疑似カラーを付与し、これらを合成して三次元の血流画像を形成した。この測定深度ごとの血流画像を図4A、図4B、図4Cに示し、これらを合成した三次元の血流画像を図5に示す。
【0036】
(2)血流画像と皮膚構造画像との合成
元動画のフレーム平均画像(深さ50μm)を作成し(図6)、このフレーム平均画像と、前述の三次元血流画像(図5)を合成することにより、皮膚構造中に血流画像が示されている皮膚構造画像を得た。これを図7に示す。
【0037】
図4A〜図4Cから、測定深度の変化に伴い血流画像が変化しているのがわかる。即ち、測定深度50μm(図4A)では、ドット状のキャピラリーループが観察され、90μmでは個々のキャピラリーループを結合するように皮膚表面に平行して走行する血管網が観察された。このように、本発明において、測定深度を変えて血流画像を形成すると、皮膚の血管構造を立体的に理解することができる。
【0038】
さらに、図5の血流画像と図6の元動画のフレーム平均画像とを合成した図7の皮膚構造画像によれば、皮溝、皮丘、真皮乳頭等の表皮構造、メラニン分布状態を把握しつつ、その中を走行する血管網を理解できることがわかる。汗腺、毛孔などの皮膚付属器官の周囲には血管網が発達していること知られており、血流状態も他部位と異なると推測される。したがって、本発明によれば、観察された血管構造が皮膚のどの部位のものかを把握し、それを踏まえて血管構造を評価できることがわかる。
【0039】
実施例3:虚血再還流
実施例1と同じ被験者の上腕にカフを巻きつけ圧迫(140mmHg)することで、心臓からみて遠位である前腕部(測定部位)の皮膚血流を一時的とめた(虚血)。約10秒後、圧迫をやめ皮膚血流を戻した(再還流)。虚血前、虚血中、再還流直後それぞれについて、上述と同様に、反射型共焦点レーザー顕微鏡を使用し、深度50μmとして、血流画像を得た。これらの結果を図8に示す。
【0040】
図8から、虚血することにより血流が停止し、再還流後の血流増加がわかる。このように、本発明によれば虚血再還流による血流量の変化を観察することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚の反射型共焦点レーザー顕微鏡画像を動画で撮り、該動画のフレーム同士の輝度差画像を複数形成し、複数の輝度差画像を加算する血流画像の形成方法。
【請求項2】
血流画像と、該血流画像と同一部位の反射型共焦点レーザー顕微鏡画像とを合成することにより、皮膚構造中に示された血流画像を形成する請求項1記載の血流画像の形成方法。
【請求項3】
血流画像と合成する反射型共焦点レーザー顕微鏡画像として、該血流画像の形成に用いた反射型共焦点レーザー顕微鏡画像のフレーム平均画像を使用する請求項2記載の血流画像の形成方法。
【請求項4】
請求項1記載の血流画像の形成システムであって、皮膚の反射型共焦点レーザー顕微鏡画像を動画で撮る反射型共焦点レーザー顕微鏡、及び反射型共焦点レーザー顕微鏡が撮った動画に基づいて皮膚構造中の血流画像を形成する演算装置を備え、演算装置が、反射型共焦点レーザー顕微鏡画像の動画のフレーム同士の輝度差画像を複数形成し、複数の輝度差画像を加算して血流画像を形成する血流画像形成システム。
【請求項5】
演算装置が、血流画像と該血流画像と同一部位の反射型共焦点レーザー顕微鏡画像とを合成し、皮膚構造中に示された血流画像を形成する請求項4記載の血流画像形成システム。
【請求項6】
皮膚の血流画像における血管構造と年齢との関係を蓄積したデータベースを備え、演算装置が、該データベースに基づき、被験者の皮膚の血流画像における血管構造に対応する加齢度を出力する請求項4又は5記載の血流画像形成システム。
【請求項1】
皮膚の反射型共焦点レーザー顕微鏡画像を動画で撮り、該動画のフレーム同士の輝度差画像を複数形成し、複数の輝度差画像を加算する血流画像の形成方法。
【請求項2】
血流画像と、該血流画像と同一部位の反射型共焦点レーザー顕微鏡画像とを合成することにより、皮膚構造中に示された血流画像を形成する請求項1記載の血流画像の形成方法。
【請求項3】
血流画像と合成する反射型共焦点レーザー顕微鏡画像として、該血流画像の形成に用いた反射型共焦点レーザー顕微鏡画像のフレーム平均画像を使用する請求項2記載の血流画像の形成方法。
【請求項4】
請求項1記載の血流画像の形成システムであって、皮膚の反射型共焦点レーザー顕微鏡画像を動画で撮る反射型共焦点レーザー顕微鏡、及び反射型共焦点レーザー顕微鏡が撮った動画に基づいて皮膚構造中の血流画像を形成する演算装置を備え、演算装置が、反射型共焦点レーザー顕微鏡画像の動画のフレーム同士の輝度差画像を複数形成し、複数の輝度差画像を加算して血流画像を形成する血流画像形成システム。
【請求項5】
演算装置が、血流画像と該血流画像と同一部位の反射型共焦点レーザー顕微鏡画像とを合成し、皮膚構造中に示された血流画像を形成する請求項4記載の血流画像形成システム。
【請求項6】
皮膚の血流画像における血管構造と年齢との関係を蓄積したデータベースを備え、演算装置が、該データベースに基づき、被験者の皮膚の血流画像における血管構造に対応する加齢度を出力する請求項4又は5記載の血流画像形成システム。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2012−113191(P2012−113191A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263221(P2010−263221)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】
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