説明

血流遮断カテーテル

【課題】 血管を切開することなくバルーンカテーテルを血管内に容易に挿入でき、血流を一時的に遮断可能な血流遮断カテーテルを提供することである。
【解決手段】 血管に穿刺可能な穿刺針20を先端に有する穿刺針部2と、該穿刺針部2をカバーするシース3と、前記穿刺針部2の内ルーメンに挿脱可能であり、先端部に膨張可能とされて血流を遮断可能なバルーン5を有するバルーンカテーテル4を備える構成の血流遮断カテーテル1とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管外科手術において、血流を一時的に遮断するために用いられる血流遮断カテーテルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、血管内に挿入・留置するカテーテルを介して、血管内に薬液や栄養を注入したり、血液を採取して検査したり、血液を体外に循環させて血液を透析するなどの医療行為が広く行われてきた。
【0003】
また、カテーテルの形状としては、単管構造のカテーテルや、2本又はそれ以上の管を複合させた構造のカテーテルなど、その医療の目的に応じて種々の構造のものが使用されている。
【0004】
さらに、血管外科手術において、鉗子を用いて血流を一時的に遮断した血管吻合手技が行われているが、動脈壁に高度の石灰化がある例や再手術で動脈壁と周囲組織との間に硬度の癒着がある例などでは、しばしば鉗子での遮断に困難を極める病態がある。このような例に対して、手技の簡略化と低侵襲化のためバルーンカテーテルを用いた血流遮断が行われているが、そのカテーテルの挿入には動脈切開を行う必要があり、大・中動脈では挿入自体に難渋することが多く、容易に挿入可能な器具の開発が求められてきた。
【0005】
現在のところ、このような、切開部からバルーンカテーテルを挿入してバルーンを膨張させて血流を遮断する臨床応用としては、小動脈吻合、特に冠状動脈のバイパス手術において動脈の一部を切開してバルーンカテーテルを挿入し、切開部の中枢および末梢の両側を、バルーンを拡張膨張させて切開部の血流を停止させるとした血流停止カテーテルが既に公開されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平10−127772号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、バルーンカテーテルを血管内に挿入するために動脈の一部を切開する方法では冠動脈のような小動脈では可能であるが、大・中動脈では遮断バルーンが大きく、バルーンカテーテル挿入時には、それに見合う大きな切開を加える必要があり、切開口からの大量出血とそれに伴う挿入困難が重なり、必ずしも手術手技の簡略化・低侵襲化につながっていない。このような問題から大血管においても、抜き取った後の血管縫合が必要となり、手術時間の増加の原因となるだけでなく、患者に与える負荷が増大するという問題を生じる。
【0008】
このように、動脈を切開してバルーンカテーテルを挿入する方法では、バルーンカテーテル挿入時の問題と、バルーンカテーテル抜き取り後の問題との両方の問題があり、バルーンカテーテルを容易に挿入し、容易に抜き取ることが可能な血流遮断カテーテルの開発が求められている。
【0009】
本発明の目的は、上記問題を解決するために、血管を切開することなくバルーンカテーテルを血管内に容易に挿入でき、血流を一時的に遮断可能な血流遮断カテーテルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために請求項1に係る発明は、血管に穿刺可能な穿刺針を先端に有する穿刺針部と、該穿刺針部をカバーするシースとを備え、さらに、前記穿刺針部の内ルーメンに挿脱可能であり、先端部に血流を遮断可能なバルーンを有するバルーンカテーテルを備えた血流遮断カテーテルとしたことを特徴としている。
上記の構成を有する請求項1に係る発明によれば、血管に穿刺針を穿刺するだけで、バルーンカテーテルを血管内に挿入可能となり、血管を大きく切開する必要がない。また、血管内で容易にバルーンを膨張可能となるので、手術手技の簡略化と低侵襲化を図ることができる。
請求項2に係る発明は、前記バルーンを複数とし、各バルーンをそれぞれ個別に膨張可能としたことを特徴としている。
上記の構成を有する請求項2に係る発明によれば、例えば、二段階に膨張したバルーンを設けることで、一方が破裂しても残る他方のバルーンで血流を遮断することができ、安全な血流遮断カテーテルとなる。
請求項3に係る発明は、前記穿刺針部の内ルーメンに挿脱可能であると共に、前記穿刺針の先端形状に合致した角度のカット面を有する内芯を備えていることを特徴としている。
上記の構成を有する請求項3に係る発明によれば、太い穿刺針であっても、この内芯を装着した状態で穿刺針を血管に穿刺することで、血管に孔を空けずに穿刺針を挿脱することができる。
請求項4に係る発明は、前記穿刺針部の基端部、前記シースの基端部のそれぞれに、血液のリークを防止する逆止弁を設けていることを特徴としている。
上記の構成を有する請求項4に係る発明によれば、穿刺針を血管に穿刺しても、血液が外部に漏れない血流遮断カテーテルとなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、穿刺針部と、該穿刺針部をカバーするシースと、前記穿刺針部の内ルーメンに挿脱可能であり、先端部に血流を遮断可能なバルーンを有するバルーンカテーテルを備える構成としたので、血管を大きく切開することなくバルーンカテーテルを血管内に容易に挿入してバルーンを膨張することができる。そのためにバルーンカテ−テルによる一時的な血流遮断を容易に行うことができ、手術手技の簡略化と低侵襲化を図ると共により安全に短時間で血管吻合手術を行うことが可能となる血流遮断カテーテルを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る血流遮断カテーテルの実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0013】
図1は、本発明に係る血流遮断カテーテルの全体平面図である。図2は、本発明の一構成品であるバルーンカテーテルの一例を示す平面図である。図3は、図2におけるバルーンカテーテルのバルーンを拡張させた状態を示す平面図である。図4は、バルーンカテーテルの他の実施例を示す平面図である。また、図5〜図8は、本発明に係る血流遮断カテーテルを用いた血流遮断術の説明図である。
【0014】
図9には血流遮断カテーテルの別実施形態を示しており、(a)は全体平面図であり、(b)は本実施形態に適用される内芯の拡大説明図であり、(c)は本実施形態の血流遮断カテーテルを用いた血流遮断術の説明図である。また、図10には穿刺針の大きさと内芯の関係を示しており、(a)は内芯を用いない小さな径の穿刺針の説明図であり、(b)は内芯を用いる大きな径の穿刺針の説明図であり、(c)は内芯の概略説明図である。
【0015】
図1〜図4に示すように、本発明に係る血流遮断カテーテル1は、穿刺針部2とシース部3とバルーンカテーテル4を備えている。穿刺針部2は、穿刺針20とこの穿刺針基端部21に取り付けられた逆止弁付コネクタ22を有している。シース部3は、シース30とこのシース基端部31に取り付けられた逆止弁付コネクタ32を有しており、バルーンカテーテル4は、シャフト40とこのシャフトの先端部に取り付けられたバルーン5、シャフトの基端部41に取り付けられたコネクタ42及び二方活栓を有している。穿刺針部2の穿刺針20は、シース内に挿入可能であり、またバルーンカテーテル4のシャフト40及びバルーン5は穿刺針の内ルーメンに挿入可能である。
【0016】
穿刺針20は、血管への穿刺が可能な硬さを有しており、その先端は鋭利にカットされたテーパ状の先端形状となっている。また、断面形状は真円もしくはそれに近い形状をしており、サイズは望ましくは外径1.9〜5.9mmである。穿刺針20の形成材料としては、ステンレスや真鍮等の金属材料、ポリオレフィンやポリアミド、ポリエステル、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン等のプラスチック、天然ゴム、プラスチックやステンレスを組み合わせたブレイドチューブ等が採用可能である。
【0017】
シース30は、血管の損傷を起こさない程度の硬さを有しており、その断面形状が真円もしくはそれに近い形状をしており、サイズは望ましくは外径2〜6mmである。シース30の形成材料としては、ポリオレフィンやポリアミド、ポリエステル、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン等のプラスチック、天然ゴム、ステンレス、プラスチックやステンレスを組み合わせたブレイドチューブ等が採用可能である。
【0018】
バルーンカテーテル4のシャフト40は、前記穿刺針部2の内ルーメンに挿脱可能であり、先端部に血流を遮断可能なバルーン5を備えている。そのために、シース30や穿刺針20を介して血管内に挿入可能である。また、血管を損傷しない程度の硬さと材質とされている。シャフト40は真円もしくはそれに近い断面形状をしており、サイズは望ましくは外径1.5〜5.5mmである。シャフト40にはバルーン5を拡張させる生理食塩水を送るためのルーメン(図示していない)が設けられており、ルーメンの数は必要に応じて決められる。シャフト40は、ガイドワイヤや液体中入用のルーメン(図示していない)を設けたダブルルーメンやトリプルルーメン、二重管や三重管であってもよい。シャフトの形成材料としては、ポリオレフィンやポリアミド、ポリエステル、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン等のプラスチック、天然ゴム、ステンレス、プラスチックやステンレスを組み合わせたブレイドチューブ等が採用可能である。
【0019】
バルーン5は、血流を遮断する(血管を閉塞する)ことができる大きさまで拡張可能であり(図3参照)、対象となる血管径の最大が40mmであることから、その外径は2〜6mmが望ましく、拡張時の伸びは、約5〜8倍になるものが望ましい。また、図4に示す例のように、バルーンの破裂による血液の漏れ(リーク)を防止するために、予めバルーン5を2つ(5A、5B)設けてもよい。尚、バルーンを3個以上としてもよい。このようなバルーン5の形成材料としては、シリコーンゴム、ポリイソプレン等の合成ゴムや天然ゴム等の伸縮自在な素材が採用可能である。
【0020】
バルーン5のシャフト40への取り付けは、バルーン5の両端を例えばシアノアクリレート系やシリコーン系の接着剤を用いて接着することにより行うことができる。また、バルーン5の穿刺針部内への挿入においては、バルーンを十分に陰圧にした状態が望ましい。
【0021】
次に、本発明に係る血流遮断カテーテルを用いた血流遮断術について、図面(図5〜図8)を用いて説明する。まず、図1に示すような血流遮断カテーテル1を用意し、穿刺針20の先端をシース30から出した状態で血管6へ穿刺を行う(図5参照)。シース先端の血管内への挿入を確認した後、穿刺針20を引き戻す(図6参照)。続いてバルーンカテーテル4の先端を血管内に挿入して、バルーン5を血管内の所定位置に配置する(図7参照)。それから、バルーン5内に例えば造影剤を含んだ生理食塩水を注入して、バルーン5の拡張を行い、血管内部を閉塞するまで膨張させ血流を遮断する(図8参照)。血液を流しておく必要があれば、別にバイパス路を設けておくことは明らかである。その後、図示しないが、血流遮断下で施術部の血管の吻合を行い、カテーテルを抜去して、血流を再開させて手技終了となる。
【0022】
この時に、穿刺針20が細い径であれば、テーパ状にカットされた鋭利な先端部をそのまま血管に穿刺しても、切口を形成するだけであって血管に孔が穿孔されることはない。ただし、穿刺針20が太い径であれば、先端の孔部により血管が穿孔されてしまう虞が生じる。そのために、前記穿刺針部の内ルーメンに挿脱可能であると共に、前記穿刺針の先端形状に合致した角度のカット面を有する内芯を装着することで、中実のムクの穿刺針先端とし、太い径の穿刺針20を血管に穿刺しても、血管が穿孔されない構成とすることが可能となる。
【0023】
例えば図9(a)に示すように、太い径のシース30A内に中実の内芯7を装着した血流遮断カテーテル1Aを用いることで、太い径の穿刺針20Aを血管に突き刺しても、血管に孔を生じることがない。
【0024】
図9(b)に示す内芯7の先端は、前記穿刺針20Aの先端形状に合致した角度のカット面70とされている。また、内芯7の基端部71には逆止弁付コネクタ72が設けられている。そのためにこの内芯7を太い径のシース30A内に挿入して、前記カット面70を前記穿刺針20Aのテーパ状先端と合致させると、中実の鋭角な針先を形成する。この状態の血流遮断カテーテル1Aを図9(c)に示すように太い血管6Aに突き刺すと、血管表面には半円形の裂傷が形成されるだけであって、孔状に穿孔されることはない。
【0025】
そのために、内芯7を装着した太い径のシース30Aを血管内に挿入した後で前記内芯7を抜き取り、前述したバルーンカテーテルを血管内に挿入して所要の施術終了後に、血管6Aから血流遮断カテーテル1Aを引き抜く操作を行っても、血管表面の裂傷が速やかに塞がり、血管が短時間に回復する。
【0026】
内芯7は、シースと同じ材質のプラスチック製でも金属製でもよく、特に限定されるものでなく、シース内部を滑らかに摺動するものであればよい。
【0027】
このように太い穿刺針20Aであっても、この内芯7を装着した状態で穿刺針20Aを血管に穿刺すると、血管に孔を空けずに穿刺針を挿脱することができる。
【0028】
図10(a)に示す小さな径の穿刺針20は、針の穴を塞ぐ内芯を装着しなくても、血管表面に丸孔が形成されない。しかし、図10(b)に示す太い径の穿刺針20Aの場合は、突き刺す血管表面に丸孔が穿孔されてしまう虞がある。そのために、図10(c)に示すカット面70を有する内芯7を穿刺針20A内に装着することで、針先を突き刺す際に生じる穿孔を防止することが可能となる。
【0029】
もちろん、小さな径の穿刺針20の内ルーメンに所定サイズの内芯を装着してもよく、穿刺針部の内ルーメンに挿脱可能であると共に、前記穿刺針の先端形状に合致した角度のカット面を有する内芯を用いればよい。
【0030】
また、前記穿刺針部の基端部、前記シースの基端部、内芯の基端部のそれぞれに、血液のリークを防止する逆止弁を設けているので、穿刺針を血管に穿刺しても、血液が外部に漏れない血流遮断カテーテルとなる。
【0031】
上記したように本発明によれば、穿刺針部と、該穿刺針部をカバーするシースと、前記穿刺針部の内ルーメンに挿脱可能であり、先端部に血流を遮断可能なバルーンを有するバルーンカテーテルを備える構成としたので、大血管であっても、血管を切開することなくバルーンカテーテルを血管内に容易に挿入することができる。また、血管内で容易にバルーンを膨張可能となるので、大きく血管を切開することなくバルーンカテーテルを血管内に容易に挿入しバルーンカテ−テルによる一時的な血流遮断を容易に行うことができ、手術手技の簡略化と低侵襲化を図ることができる。このように、本発明によれば、より安全に短時間で血管吻合手術を行うことが可能となる血流遮断カテーテルを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る血流遮断カテーテルを示す全体平面図である。
【図2】本発明の一構成品であるバルーンカテーテルの一例を示す平面図である。
【図3】図2におけるバルーンカテーテルのバルーンを拡張させた状態を示す平面図である。
【図4】バルーンカテーテルの他の実施例を示す平面図である。
【図5】本発明に係る血流遮断カテーテルを用いた血流遮断術の説明図である。
【図6】本発明に係る血流遮断カテーテルを用いた血流遮断術の説明図である。
【図7】本発明に係る血流遮断カテーテルを用いた血流遮断術の説明図である。
【図8】本発明に係る血流遮断カテーテルを用いた血流遮断術の説明図である。
【図9】血流遮断カテーテルの別実施形態を示しており、(a)は全体平面図であり、(b)は本実施形態に適用される内芯の拡大説明図であり、(c)は本実施形態の血流遮断カテーテルを用いた血流遮断術の説明図である。
【図10】穿刺針の大きさと内芯の関係を示しており、(a)は内芯を用いない小さな径の穿刺針の説明図であり、(b)は内芯を用いる大きな径の穿刺針の説明図であり、(c)は内芯の概略説明図である。
【符号の説明】
【0033】
1 血流遮断カテーテル
2 穿刺針部
3 シース部
4 バルーンカテーテル
5 バルーン
6 血管
7 内芯
20 穿刺針
70 カット面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管に穿刺可能な穿刺針を先端に有する穿刺針部と、該穿刺針部をカバーするシースとを備え、さらに、前記穿刺針部の内ルーメンに挿脱可能であり、先端部に血流を遮断可能なバルーンを有するバルーンカテーテルを備えていることを特徴とする血流遮断カテーテル。
【請求項2】
前記バルーンを複数とし、各バルーンをそれぞれ個別に膨張可能としたことを特徴とする請求項1に記載の血流遮断カテーテル。
【請求項3】
前記穿刺針部の内ルーメンに挿脱可能であると共に、前記穿刺針の先端形状に合致した角度のカット面を有する内芯を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の血流遮断カテーテル。
【請求項4】
前記穿刺針部の基端部、前記シースの基端部のそれぞれに、血液のリークを防止する逆止弁を設けていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の血流遮断カテーテル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−172273(P2009−172273A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−16008(P2008−16008)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【出願人】(505210115)国立大学法人旭川医科大学 (17)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】