血液、特に末梢血から成体幹細胞を増殖させるための方法及び医療分野におけるその利用
血液、特に末梢血(但しこれに限定されない)から成体幹細胞を増殖させるための方法であって、血液の幹細胞を採取直後に8〜15nMの濃度のMCSFでin vitro処理することによって増殖させる第一の段階と、増殖した幹細胞を精製する第二の段階とを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は哺乳類成体の血液、特に末梢血(但しこれに限定されない)から幹細胞を増殖させるための方法に関する。また、本発明は病変、慢性及び/又は急性の炎症性疾患並びに神経系及び神経変性疾患の治療のための医療分野、特に獣医学分野における該方法の利用に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書において、また文献において知られている通り、用語「増殖」は「細胞分裂」によって、或いは本明細書及び請求項においては「脱分化」(即ち、以後記載するように、適切なin vitro処理の後に血液中に存在する細胞を幹細胞に転換させるプロセス)によって細胞の数を増加させるプロセスを意味する。
【0003】
幹細胞を用いた治療は、以前は不治と思われていた様々な疾病の治療の成功により近年大いに認知されることとなった。しかし、今日までに知られている幹細胞を得るためのプロセスは手間がかかり且つ高価である。
【0004】
多能性幹細胞(PSC)は研究だけでなく、創薬や移植にも利用可能な素材である(Wagers A. J. et al., 2002、Griffith L. G. et al., 2002)。
【0005】
幹細胞には大きく分けて胚幹細胞と成体幹細胞の2種類がある。前者は胚、より正確には8日目の胚盤胞に由来するのに対し、成体幹細胞は主に骨髄、脂肪細胞又は筋肉細胞、更には末梢血から得ることができる。
【0006】
幹細胞の定義は常に変化しており、現時点において幹細胞の単離又は同定に関する一般的な合意や標準的な方法はない。胚幹細胞(ES細胞)と成体幹細胞、造血幹細胞(HSC)と間葉幹細胞(MSC)(Kuwana M. et al., 2003)の両方、これら全ての細胞の関する様々な遺伝子マーカー(これらのうち数種は多くの細胞型に共通である)が同定されている(Condomines M. et al., 2006、Kang W. J. et al., 2006、Zhao Y. et al., 2003、Rabinovitch M. et al., 1976)。
【0007】
特にジャオ(Zhao)Y.らは、論文「A human peripheral blood monocyte-derived subset acts as pluripotent stem cells (ヒト末梢血単球由来サブセットは多能性幹細胞として働く)」とWO 2004/043990の両方において単球由来幹細胞を調製するための方法を開示している。この方法は末梢血単球を単離し、マイトジェン成分と接触させ、その後末梢血単球を細胞増殖に適した条件下で培養する段階を含む。
【0008】
この方法は単球を単離する第一段階と培地で増殖させる第二段階とを必要とするため、数多くの幹細胞を得るためには非常に長い時間(約15〜20日間)がかかり、全能性幹細胞(即ち非特異的で、最初の採取から非常に短時間での患者への直接接種に適している細胞)を得ることができない。
【0009】
多くの科学的研究において種々異なるタイプの病変からの再生を導く幹細胞の能力が報告されている。即ち、機械的ダメージ又は種々の疾病によるダメージを受けた組織を再生する能力、疾病を生じさせる原因を根本から除去する能力、及び疾病からもたらされる結果に作用するだけに留まらない能力である。
【0010】
現在の研究においては、胚組織や胎児、臍帯から単離される幹細胞の使用がより指向されているが、これに対して種々の法律上や倫理上の問題が生じている。とりわけ今日これら細胞の使用は感染症のリスク、移植の場合は拒絶反応のリスク、ウマの場合は奇形腫発生のリスク等の種々の禁忌をもたらす。
【0011】
従ってこれらの問題を未然に防ぐため、自己の幹細胞を、好ましくは骨髄、脂肪組織又は末梢血から単離して、「in vivo」治療に使用することが考えられてきた。成体幹細胞から出発した材料を使用するこれらの方法は、特異的な分化誘導因子による幹細胞の所望の細胞系への「試験管内(in vitro)」(又は「生体外(ex vivo)」)分化の段階と、次に得られた分化細胞系の「in vivo」への移植の段階とを提供する。これらの方法は、患者に再導入される分化細胞が、in vitroで誘導された分化段階の期間に自己認識因子を失うため自己の細胞と認識されず、観察可能な拒絶現象が起こるという事実から制約を受ける。
【0012】
ヒトにおける末梢血からの幹細胞の獲得は、「アファレーシス」又は「白血球ファレーシス」と呼ばれるプロセスによる幹細胞の精製を伴う。実際には、細胞を血液から抽出し、回収し、そして化学療法又は放射線治療の直後に患者に接種する。アファレーシス(6〜8時間かかる)において、血液は腕の静脈又は頚部若しくは胸部の静脈から採取され、幹細胞を分離する機械に通される。この様にして精製された血液を患者に戻し、一方で回収された細胞を液体窒素中で凍結保存する(Condomines M. et al., 2006、Kang W. J. et al., 2006)。この技法は痛みを伴うだけでなく、患者にとって大きなストレスがかかる。更にこの技法は小型であれ大型であれ、動物には実行不可能である。とりわけこの技法では、循環している幹細胞を真に分離及び/又は精製することは不可能である。
【0013】
現在獣医学分野において、幹細胞の使用は主に腱や靱帯の病変の復元において好結果を得ている。精製のための主な技法を次に記す。
− 成長因子又は血小板由来因子(TGF−B、VEGF)を使用する。しかしこれらを抽出する費用は非常に高額である(Hou M. et al., 2006)。
− 骨髄から得られる幹細胞の単離。この手法により精製すると、抽出材料に含まれる細胞の15%しかを治療に使用することができない。
− 脂肪組織から得られる幹細胞の単離。この手法はドナー動物から前もって大量の組織を外科的に切除する必要があり、静脈注射による投与ができない。
− テンドトロフィンとして知られるIGF−1(インスリン様増殖因子1)(Fiedler J. et al., 2006)。
− UBM(膀胱マトリックス);これはブタに由来し、サイトカイン類を含み(なお有核細胞は含まない)、傷の瘢痕形成を誘導するが病変部位の再生は誘導しない(Zhang Y.S. et al., 2005)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開公報第2004/043990号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
前述の全てを考慮すると、容易に入手可能な材料から成体幹細胞を増殖、精製するための方法が必要なことは明らかであり、この方法はまた医療分野から獣医学の分野における医薬としての使用に適し、哺乳類に一旦投与すれば拒絶現象を示さず、保存容易な幹細胞を得ることができなければならない。
【0016】
また非特異的で、現在提供されるものより更に短い時間で製造でき、患者に直接接種できる多能性及び全能性の幹細胞を得る必要性も明らかである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、例えば拒絶現象や感染、奇形腫等の付随的な影響を生じず、一旦哺乳類成体に投与すれば「in vivo」で分化して多能性幹細胞として働くことが可能な幹細胞を得ることができるような、末梢血から「in vitro」で幹細胞を増殖、精製するための方法を完成させた。
【0018】
本発明者らは、この様に増殖した細胞は、一旦局所注射又は静脈注射をすれば治療を受ける動物の必要性と疾病に応じて「in vivo」(公知の技術水準の方法(Gulati R. et al., 2003、Katz R. L. et al., 2002、Okazaki T. et al., 2005)における、適切な成長因子及び/又は化学的刺激による「in vitro」とは異なる)においてマクロファージ、リンパ球、上皮細胞、内皮細胞、ニューロン及び肝細胞の形態及び化学的特徴の全てを獲得することを見出した。更に、この方法はこれまで用いられてきた幹細胞を集めるための他の方法と比べて侵襲性がより少なく、(アファレーシスと比べた場合)痛みを伴わず、経済的であり、全ての動物種(小型にも大型にも)に用いられる最適な方法である。
【0019】
最後に、これら細胞が容易に得られ、その後それらを長期間液体窒素中で凍結保存できることによって、本発明に係る方法を用いて得られる細胞は、自己移植、多くのヒトの疾病や獣医学的な疾病(種々のタイプの病変、代謝病並びに急性及び慢性の神経及び炎症性疾患)の治療又はある種の動物(例えばウマ)の競争パフォーマンスの改善に適した細胞となる。
【0020】
従って、本発明は血液、特に末梢血(但しこれに限定されない)から成体幹細胞を増殖させるための方法に特に関し、次の段階を含む。
【0021】
第一の段階は、2個のサブステップを含む。
即ち、a)第一のサブステップは、採取直後に8〜15nMの濃度、好ましくは10nM濃度のMCSF(マクロファージコロニー刺激因子)を用いてin vitro処理することによって、血液、特に末梢血(但しこれに限定されない)の幹細胞を増殖させる。この増殖段階はin vitro処理が実施される条件に応じた時間で行うことができる。本発明者らは、マーカーのCD90、CD34、CD90/CD34混合体が同時に存在することを同定することによって、24〜96時間、有利には48〜72時間のMCSFのin vitro処理期間が、増殖の安定化をもたらすということを実験的に証明した。この条件が最適と考えられる。
【0022】
「直ちに」とは、細胞が採取されてからin vitro処理を開始するまでの時間が可能な限り短いことを意味し、どのケースにおいても10分以内、有利には5分以内である。
【0023】
b)第一のサブステップの後、好ましくはフィコール勾配上で分画することによって第二のサブステップである精製を行う。
【0024】
この精製段階は基本的に赤血球を破壊し、マクロファージと単球をプレート上で培養することを目的とする。
【0025】
従って、技術水準とは異なり、本発明は第一に例えば適切な試験管内でMCSFや可能な抗凝固性産物と接触させることによる細胞の増殖段階を提供する。この増殖段階は、患者から血液細胞を採取した後サンプルから特定部分を単離せず、また培地を用いず直ちに行われる。
【0026】
精製段階の後、他の段階が提供される。
即ち、c)段階b)で精製された血液、特に末梢血(但しこれに限定されない)の幹細胞を、35〜55nM、好ましくは50nM、より好ましくは45nMの濃度のMCSFでin vitro処理することによる更なる増殖である。
【0027】
この段階もまた、24〜96時間、好ましくは48〜72時間の様々な期間をかけることができる。
【0028】
55nMより高濃度(即ち70nM)のMCSFを用いると、24時間後に細胞はもはや多能性幹細胞の表現型を維持しない(図12参照)。特に、血液採取直後にMCSFと懸濁する前増殖の段階a)は、単球とマクロファージの個数に対する幹細胞の割合を増加させることができる(図13参照)。次の段階で、拒絶現象や感染を引き起こすことなくin vivoで直接分化する多能性幹細胞を得ることができる。
【0029】
本発明はまた、病変を治療する医薬の調製のための、前述の増殖方法に従って得られる成体幹細胞の使用に関する。治療可能な病変は、哺乳類における皮膚病変、腱の病変、靱帯の病変、骨の病変及び粘膜の病変が属する群の病変又は骨折である。
【0030】
本発明はまた、哺乳類における、クッシング病、ヘッドシェイキング、ウォーブラー症候群、呼吸困難及び肢の不全麻痺からなる群から選択される神経系又は神経変性疾患;蹄葉炎、骨膜炎、胃炎、関節症並びにウイルス性、細菌性、寄生生物性又は真菌性の病原体によってもたらされる各種炎症から選択される急性又は慢性の炎症;及び胃拡張−胃捻転を治療するための医薬品の調製のための、前記方法に従って得られる成体幹細胞の使用に関する。
【0031】
本発明はまた、雌ウマの不妊症及び雄の仔ウマの早熟の治療及び哺乳類の競争パフォーマンスの改善のための、本発明に係る方法で得られる幹細胞の使用に関する。本発明はまた、有効主成分としての前記増殖方法に従って得られる成体幹細胞と、薬理学的に許容されるアジュバント及び/又は賦形剤とを含む医薬組成物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
以下、特に添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【図1】雌ウマの中足骨と第一指骨との間のクロストリジウムによる20cmの病変と伸筋腱破壊。
【図2】本発明の幹細胞を局所投与して3ヶ月後の図1と同じ雌ウマ。
【図3】処置6ヶ月後の前記雌ウマ。
【図4】表面屈筋腱の80%が病変であるウマの超音波スキャン像。
【図5】本発明の幹細胞で局所処置約3ヶ月半後の前記ウマの超音波スキャン像。
【図6】幹細胞で局所処置約3ヶ月半後のウマの超音波スキャン像。
【図7】局所処置約4ヶ月後の前記ウマの超音波スキャン像。ほぼ完全な腱の再生と、瘢痕組織の消失が見られる。
【図8】小さい腱の病変(直径1cm未満)を有する雌ウマの超音波スキャン像。
【図9】局所処置1ヶ月後の図7と同じ雌ウマの超音波スキャン像。
【図10】本発明の幹細胞で処置する前に疝痛の手術をした、全身虚弱の17歳齢のウマ。
【図11】本発明の幹細胞で静脈注射処置1年後の前記17歳齢のウマのパフォーマンス。
【図12】異なる量のMCSFで処理した末梢血から単離された培養細胞のレプリカ。15nM(破線、十字)、25nM(破線、逆三角形)、35nM(破線、三角形)、50nM(破線、黒丸)、60nM(破線、白四角)及び70nM(破線、白丸)。結果は末梢血の3サンプルから計測された細胞数の平均である。
【図13】末梢血から単離された培養細胞のレプリカ。MCSFで前処理(破線、黒点)、MCSF処理なし(破線、十字)。結果は末梢血の3サンプルから計測された細胞数の平均である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
特に好ましい実施形態おいては、前記定義の方法に従って得られ、活性成分として使用される成体幹細胞は、90〜250×103細胞/mLの濃度、好ましくは150×103細胞/mLの濃度で、薬理学的に許容されるアジュバント及び/又は賦形剤と共に組成物中に存在する。この組成物は静脈注射用である。
【0034】
他の実施形態においては、前記定義の増殖方法に従って得られ、活性成分として使用される成体幹細胞は、4〜40×106細胞/mLの濃度で薬理学的に許容されるアジュバント及び/又は賦形剤と共に組成物中に存在する。この組成物は局所投与用(外傷の場合も局所投与用)である。
【0035】
本発明の特に好適な実施形態によれば、前述の医薬組成物はまた、活性成分としての抗生物質を5〜15nMの濃度、好ましくは10nMの濃度で含むことができる。該抗生物質はゲンタマイシン又はアミカシンであることが好ましい。
【0036】
本発明はまた、前記定義の医薬組成物(即ち抗生物質有無に拘わらず局所投与に適する)の、哺乳類の皮膚病変、腱の病変、靱帯の病変、骨の病変及び粘膜の病変からなる群から選択される病変の治療のための医薬品としての使用に関する。
【0037】
他の特徴としては、本発明は前記定義の医薬組成物(即ち抗生物質の有無に拘わらず局所投与に適する)の、哺乳類の骨折を治療するための医薬品としての使用に関する。
【0038】
本発明はまた、前記定義の医薬組成物(即ち静脈投与に適する)の、哺乳類におけるクッシング病、ヘッドシェイキング、ウォーブラー症候群、呼吸困難及び肢の不全麻痺からなる群から選択される神経系又は神経変性疾患を治療するための医薬品としての使用に関する。
【0039】
他の実施形態においては、本発明は前記定義の医薬組成物(即ち静脈投与に適する)の、哺乳類の蹄葉炎、骨膜炎、胃炎、関節症並びにウイルス性、細菌性、寄生生物性及び真菌性の病原体に起因する炎症から選択される急性又は慢性の炎症性疾患を治療するための医薬品としての使用に関する。
【0040】
本発明はまた、前記定義の医薬組成物(即ち静脈投与に適する)の、哺乳類の胃拡張−胃捻転症候群を治療するための医薬としての使用に関する。本発明による医薬組成物はまた、胆嚢疾患、心血管疾患、鬱病に至るストレス、更に、繁殖においては雌ウマの不妊症と雄の仔ウマの早熟、また動物の競争活動の改善のために使用可能である。
【0041】
本発明の好適な実施形態においては、医療分野における使用は獣医学分野における使用が好ましく、治療される哺乳類はウマ、イヌ、ネコ及びヒトから選択される。
【実施例】
【0042】
実施例1:末梢血からの成体幹細胞の増殖及び精製並びにその医療における使用
末梢血から単離される細胞は、本発明による増殖の後「in vivo」で多能性幹細胞(PSC)として働き、古典的な手法及び/又は薬剤では治癒しないか、或いは治癒に時間がかかる病変や疾病を数カ月の期間で治癒させることができる。
【0043】
材料と方法
サンプル採取
末梢血の各サンプルは約5〜7mLからなり、ウマやイヌの下肢から採取され、例えばヘパリン(150U)とMCFS(10nM)を含む試験管に直ちに加えた。
【0044】
一方、ヘパリンは他の適切な抗凝固剤と交換可能である。
【0045】
精製
血液サンプル(5〜7mL)をNH4Cl(200mM)含有PBS(リン酸緩衝食塩水)で1:5に希釈することにより赤血球を溶解させ、10,000Gで遠心分離し、PBSで2回洗浄し、200Gで再度遠心分離した。得られた有核細胞を37℃で7〜12時間、好ましくは10〜12時間インキュベートし、フィコール勾配上での分画により精製した後分離し、RPMI1640培地(ライフテクノロジーズ、ニューヨーク、グランドアイランド)で3回洗浄した。精製した後、単球を約95%含む(FACScan、フローフォトメーター、ベクトンディッキンソン社を用いたサイトフルオロメトリーにより決定)細胞を50ng/mLのMCSF(45nM)中で更に24時間インキュベートし、その後局所処置に必要な数の細胞が得られるよう増殖させるか、或いは10,000Gで遠心分離処理し、約90×103細胞/mLの濃度になるようPBSに再懸濁して、静脈注射用とした。
【0046】
細胞培養
細胞を1プレート当たり約2〜3×105細胞になるよう15cmプレートに播き、37℃(8%CO2)で8〜12時間、好ましくは10〜12時間インキュベートした。次に非接着細胞を除去するため培地で洗浄し、その後10%FBS、ペニシリン(100ユニット/mL)、ストレプトマイシン(100mg/mL)、L−グルタミン(2mM)及びMCFS(マクロファージ走化因子、50ng/mL)を含むRPMI培地(10mL)で更に48時間インキュベートした。幹細胞と共に単離された細胞の一部はMCFSとインキュベートしたとき細長い形態を示し、繊維芽細胞と思われる(Zhao Y. et al., 2003)。特に断らない限り、使用された製品は全てシグマアルドリッチ社から入手した。細胞懸濁液は既に開示されている通り(Rabinovitch M. et al., 1976)、2%リドカイン(シグマ)PBS溶液で5〜8分間インキュベートした後ピペッティングすることにより得られた。分離した細胞をPBSで2回洗浄し、2,000gで5分間(5’)遠心分離し、ゲンタマイシン(10nM)を添加し、最終濃度5〜7×106、好ましくは6×106細胞/mL(より高濃度が必要とされる場合を除く)になるよう希釈した。
【0047】
予備実験では、Randall et al., 1998が既に報告した技法によって、細胞の一部をマーカーCD34(造血幹細胞の主要マーカーの1種)で試験した。
【0048】
免疫染色
細胞の表現型パターンを決定するため、細胞をPBSで洗浄し、スライド上に4%ホルムアルデヒドPBS溶液で20℃20分間固定した。
【0049】
細胞内タンパク質を同定するため、細胞を0.5%TritonX−100で20℃5分間パーミエートした後、1%BSA含有PBSで希釈した1次抗体で1時間インキュベートした(非特異的抗原部位をブロックするため)。3回連続洗浄した後、スライドを最適の蛍光色素(FITC、イソチオシアン酸テトラメチルローダミンB(TRITC)又はCy5)を結合した2次抗体で45分間インキュベートした。
【0050】
全ての2次抗体は、ジャクソンイムノリサーチによってロバをホスト動物に用いて作製された。免疫細胞化学実験は飽和湿度環境下4℃の温度で行った。3回洗浄の後、「gelvatol−PBS」を用いてスライドをマウントした。グリセルアルデヒド3−リン酸脱水素酵素に対する免疫蛍光(ヒツジポリクローナル抗体、コーテックス・バイオケム社製、カルフォルニア州、サンリアンドロ)を内部標準として用いた蛍光顕微鏡によって蛍光像を得た。ネガティブコントロールとして、更に蛍光バックグラウンドのレベルを校正するために、関連するサンプルと同様のアイソタイプの非特異的抗体とインキュベートしたスライドを用いた。
【0051】
位相差顕微鏡を用いて細胞を観察し、得られた画像はナイルレッドで染色した脂質の蛍光像やDAPI(4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール)で染色した核の像と重ね合わせた。参照バーは40μmを表す。相対蛍光強度は定量比イメージングマイクロスコピー(quantitative ratio imaging microscopy)により、MCSF処理細胞とマクロファージとの間で測定された。
【0052】
上述の方法を用いて、試験した全マーカー(CD90、CD34、CD90/CD34)を同定した。
【0053】
結果
局所使用
外傷の場合、細胞を直接塗布した。これに対して、特に断らない限り、腱や靱帯の病変、骨折の場合、病変の程度に応じて最終濃度5〜10×106細胞/mLの細胞を病変部位に直接接種した。病変に正確に細胞を挿入できない場合、次の方法が用いた。
・側副靱帯の病変には、第二、第三指骨間に注射した。
・舟状骨の病変には、手根管に注射した。
・仙腸関節の病変とウォーブラーの場合、第五、第六子宮頚部間又は第六、第七子宮頚部間に注射した。
【0054】
皮膚病
中足骨と第一指骨との間に創傷(直径20cm、伸筋腱を含む下方組織を破壊するクロストリジウム合併症を発症)を持つ雌ウマの症例(図1)。事故1年後、ケロイドを取り除く2回の外科手術の後第1回目の投与を行い、更に3回の投与を15日間間隔でゲンタマイシン含有生理溶液に再懸濁した10〜400×106細胞を用いて繰り返した。100日後傷は完全に治癒し(図2)、6ヶ月後創傷領域の70%に毛が再生した(図3)。
【0055】
腱
約300×106細胞で処置して3ヶ月経過後の表面屈筋腱の80%の病変を処置した3頭のウマは、超音波テストで低エコー帯が見られなくなり、一方腱の厚み(歩行困難と炎症のプロセスの後増加した)は、図4〜7に示す超音波スキャン像から分かるように、目に見えて80%減少した。
【0056】
腱の小病変(直径1cm)を有する他のウマは、処置後1ヶ月で病変が見られなくなった(図8、9)。
【0057】
靱帯
処置した病変の中には、その結果歩行困難になった後足の膝下に提靱帯(suspender ligament)を挿入したものがあった。局所接種後3ヶ月未満で、該当のウマは歩行困難なく再び動き始め、1年後には再発も見られなかった。
【0058】
処置した他のウマは、前後堤靱帯の枝部分と中心部分との間に病変を有していたが、全て完全回復した。
【0059】
骨折
処置した骨折の中には、大腿骨を骨折し、外科手術後4ヶ月経っても骨カルスを形成しないイヌの症例があった。10×106細胞を局所投与したところ、30日間で完全に回復した。
【0060】
粘膜
粘膜の病変の治癒に関して、種々の慢性潰瘍を処置した。最も驚くべき症例は、既に2回形成外科手術を受けた、口に数個の潰瘍を有する馬場馬術用のウマであった。手術後、4×105細胞で局所処置した3日後にはウマの出血は止まった。15日後には病変は完全治癒した。
【0061】
結論として、腱、靱帯、関節及び骨折への本発明の方法で富化された単離細胞の局所投与は、80%を超える症例が数週間以内、長くても4ヶ月で完全に解決したことを示した。残り20%の症例はいずれにしてもかなりの改善を示した。現在の獣医学分野においてこれら症例に対して通常用いられる方法では、処置後約6〜15ヶ月で60%以下の症例で良好な結果が得られ、改善したのは5%の症例のみである。
【0062】
静脈使用
次の疾病において、細胞は静脈経由(1投与=150×103細胞)で用いられる:
【0063】
クッシング病:下垂体中葉の肥大と、視床下部のドーパミン生産減少による疾病で、ヒトのパーキンソン病と非常に類似している。
【0064】
クッシング病に冒されたポニーに処置を行った。このポニーはクッシング病特有の症状の他、赤血球溶血を伴う免疫防御の低下を示した。処置一回当たり150×103細胞を5日間間隔で3回処置した後、改善が見られた。40日間間隔で4サイクル繰り返した後、症状が完全に消滅した。同様の方法で処置した他の4頭のウマも、同様の結果を得た。
【0065】
ヘッドシェイキング:連続的な首振りと光恐怖症の問題をもたらす、三叉神経の二次合併症を伴う中枢神経系の神経病。処置を受けたウマは、これらの症状をそれまで6ヶ月間示していた。処置は150×103細胞を1週間間隔で5週間を1サイクル行った。第3週目には既に症状が消滅した。同様のプロトコールで処置した他の2頭のウマも、同様の結果を示した。
【0066】
ウォーブラーの3症例:先天性の子宮頚部の神経的圧迫である。1週間間隔で3回の投与(静脈と局所)により処置した症例では処置後、症状が完全に寛解した。
【0067】
本発明の方法を用いて増殖、精製した幹細胞の静脈経由での使用は、どのようにこれら細胞が、神経組織を冒し既に最初の症状を発現させている疾病を、一週間の処置で「in vivo」で解決することができるかを示した。
【0068】
血管再構築:蹄葉炎(足の末梢血管新生が破壊され、その結果非常な痛みを伴う、例えば動けなくなるような歩行困難になる)に冒されたウマでは、指の血管に接種する1回の投与の後、12〜24時間で痛みは殆ど消滅した。同様の結果が、同様の疾病に罹ったウマの他の2症例で得られた。
【0069】
細胞を静脈投与する他の一般的な症例:
− 舟状骨骨折のウマは、深部屈筋腱と舟状骨との間の末梢血管、舟状骨嚢及び関節面に同時に幹細胞を投与した後、競争活動を再開した。
− 骨膜炎を患うウマの症例は、2回の静脈投与で歩行困難が改善した。
− 疝痛の手術の後、持続的な全身衰弱状態のため競争活動が続けられなくなり放牧地に入れられた17歳齢のウマの症例。5日毎に3回投与を4サイクル行った後、ウマは再び競争活動を始め、競技に参加して以前は得られなかったような結果を出した(図10、11)。
− 脳虚血の疑いがあり、その結果3本の肢の協調を失った20歳齢のウマの症例は、コルチゾン誘導体に基づいた薬理学的処置の後も不確実で千鳥足の歩調を続けた。1週間間隔で2回の投与の後、この動物はもういかなる症状を呈することもなく通常の活動を再開した。
− 21歳齢で妊娠し、授乳期を終えた23歳齢の雌ウマの症例は、細胞を静脈投与で2回投与の処置を受けた。処置の後、雌ウマは完全に競争活動を再開した(ウマは20歳齢で競走馬としては年齢が高すぎるとみなされる)。
− 骨盤を骨折したウマの症例は、細胞を2回投与した後、国際的な競争活動を再開した;
− 呼吸困難で神経過敏な15歳齢のウマの症例は、2回投与の後少しの呼吸困難もなく国際的なレベルの競争を再開した。
− 第一、第二指骨間の側副靱帯を断裂した結果、2年を超える重度の歩行困難になったウマ2頭の症例。この疾病は75%の症例で元に戻らないと考えられている。3ヶ月間3回投与の処置をしたところ、処置した2頭は共に通常の競争に戻った。
− 7歳齢で疝痛の手術をし、12歳齢で去勢した13歳齢のウマの症例。2回目の手術の後、この動物は抗生物質と抗炎症薬で処置したにもかかわらず、寛解しない(non?emittent)細菌性合併症を発症した。更にこの動物は慢性胃炎を患っていることが胃鏡検査法で証明された。1週間間隔で4投与の後、このウマを再度胃鏡検査したところ、胃粘膜の完全な再生が見られた。同様の結果が他の10頭のギャロップ用のウマで得られた。
− 全収縮期心雑音と心臓聴診での多くの異常心雑音を示し、血液検査で神経の障害とバランスを失う原因となるヘルペスウィルス1の活性型が陽性のウマの症例。この症例では、静脈投与3回を5日間隔で3回行い、続いて4回目の投与を脊椎のレベルに行った。2ヶ月後には既にウマは再び動き始め、ほぼ完全にバランスを回復した。
− 全身の肉体的衰えのため競争活動をほぼ完全に引退した19歳齢のウマの症例では、200×103細胞を1週間間隔で2回投与を繰り返し処置した後、3ヶ月後にはこの馬種の種目(ジャンプ競技で1.35〜1.40mの高さのジャンプ)としてはベストを出して復帰した。
【0070】
同様のタイプの処置を非常に高齢のイヌに適用し、同様の結果を得た。イヌにおいて次の疾病の処置が行われた。
− 胃捻転のイヌの2症例:第1の症例は、外科手術を受けたが1週間後に再発し、そのため再度手術を受けた6歳齢のグレートデンであって、150×103細胞の第1の投与の後、イヌは再び餌を摂り始め、1週間間隔で2回の投与の後、通常の活動に戻った。第2の症例は、関節症を患い、糖尿病と診断され、子宮摘出−卵巣摘出をした10歳齢の雌のグレートデンであって、手術4ヶ月後、胃が捻転し、続く外科手術をしても顕著な改善は見られなかった。この時点において、1週間間隔で2回の投与を更に4サイクルを次の4ヶ月間に行った。現在、最後のサイクルの後8ヶ月になるが、イヌは通常の血糖値を維持するだけでなく、歩行能力が80%改善した。
− 13歳齢雄の雑種イヌの症例は、後肢の不全麻痺と失禁を示した。その当時までこのイヌはコルチゾンで処置するだけで、評価できる結果は得られていなかった。コルチゾンを停止して15日後細胞を採取し、イヌは1週間間隔で2投与1サイクルを受けた。最後の処置から6日後、イヌは肢の自由を再び得ただけでなく、排尿と排便を普通に行うようになった。
【0071】
現時点では多能性細胞を提供する「in vivo」技法が存在しないという事実に鑑み、本発明による方法で得られた結果はこの手続きを非常に用途の広いものにしている。更に、これまで報告された全ての症例において、投与後いかなる拒絶も感染も示さないことから、この技法は自己移植の手順に適したものである。
【技術分野】
【0001】
本発明は哺乳類成体の血液、特に末梢血(但しこれに限定されない)から幹細胞を増殖させるための方法に関する。また、本発明は病変、慢性及び/又は急性の炎症性疾患並びに神経系及び神経変性疾患の治療のための医療分野、特に獣医学分野における該方法の利用に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書において、また文献において知られている通り、用語「増殖」は「細胞分裂」によって、或いは本明細書及び請求項においては「脱分化」(即ち、以後記載するように、適切なin vitro処理の後に血液中に存在する細胞を幹細胞に転換させるプロセス)によって細胞の数を増加させるプロセスを意味する。
【0003】
幹細胞を用いた治療は、以前は不治と思われていた様々な疾病の治療の成功により近年大いに認知されることとなった。しかし、今日までに知られている幹細胞を得るためのプロセスは手間がかかり且つ高価である。
【0004】
多能性幹細胞(PSC)は研究だけでなく、創薬や移植にも利用可能な素材である(Wagers A. J. et al., 2002、Griffith L. G. et al., 2002)。
【0005】
幹細胞には大きく分けて胚幹細胞と成体幹細胞の2種類がある。前者は胚、より正確には8日目の胚盤胞に由来するのに対し、成体幹細胞は主に骨髄、脂肪細胞又は筋肉細胞、更には末梢血から得ることができる。
【0006】
幹細胞の定義は常に変化しており、現時点において幹細胞の単離又は同定に関する一般的な合意や標準的な方法はない。胚幹細胞(ES細胞)と成体幹細胞、造血幹細胞(HSC)と間葉幹細胞(MSC)(Kuwana M. et al., 2003)の両方、これら全ての細胞の関する様々な遺伝子マーカー(これらのうち数種は多くの細胞型に共通である)が同定されている(Condomines M. et al., 2006、Kang W. J. et al., 2006、Zhao Y. et al., 2003、Rabinovitch M. et al., 1976)。
【0007】
特にジャオ(Zhao)Y.らは、論文「A human peripheral blood monocyte-derived subset acts as pluripotent stem cells (ヒト末梢血単球由来サブセットは多能性幹細胞として働く)」とWO 2004/043990の両方において単球由来幹細胞を調製するための方法を開示している。この方法は末梢血単球を単離し、マイトジェン成分と接触させ、その後末梢血単球を細胞増殖に適した条件下で培養する段階を含む。
【0008】
この方法は単球を単離する第一段階と培地で増殖させる第二段階とを必要とするため、数多くの幹細胞を得るためには非常に長い時間(約15〜20日間)がかかり、全能性幹細胞(即ち非特異的で、最初の採取から非常に短時間での患者への直接接種に適している細胞)を得ることができない。
【0009】
多くの科学的研究において種々異なるタイプの病変からの再生を導く幹細胞の能力が報告されている。即ち、機械的ダメージ又は種々の疾病によるダメージを受けた組織を再生する能力、疾病を生じさせる原因を根本から除去する能力、及び疾病からもたらされる結果に作用するだけに留まらない能力である。
【0010】
現在の研究においては、胚組織や胎児、臍帯から単離される幹細胞の使用がより指向されているが、これに対して種々の法律上や倫理上の問題が生じている。とりわけ今日これら細胞の使用は感染症のリスク、移植の場合は拒絶反応のリスク、ウマの場合は奇形腫発生のリスク等の種々の禁忌をもたらす。
【0011】
従ってこれらの問題を未然に防ぐため、自己の幹細胞を、好ましくは骨髄、脂肪組織又は末梢血から単離して、「in vivo」治療に使用することが考えられてきた。成体幹細胞から出発した材料を使用するこれらの方法は、特異的な分化誘導因子による幹細胞の所望の細胞系への「試験管内(in vitro)」(又は「生体外(ex vivo)」)分化の段階と、次に得られた分化細胞系の「in vivo」への移植の段階とを提供する。これらの方法は、患者に再導入される分化細胞が、in vitroで誘導された分化段階の期間に自己認識因子を失うため自己の細胞と認識されず、観察可能な拒絶現象が起こるという事実から制約を受ける。
【0012】
ヒトにおける末梢血からの幹細胞の獲得は、「アファレーシス」又は「白血球ファレーシス」と呼ばれるプロセスによる幹細胞の精製を伴う。実際には、細胞を血液から抽出し、回収し、そして化学療法又は放射線治療の直後に患者に接種する。アファレーシス(6〜8時間かかる)において、血液は腕の静脈又は頚部若しくは胸部の静脈から採取され、幹細胞を分離する機械に通される。この様にして精製された血液を患者に戻し、一方で回収された細胞を液体窒素中で凍結保存する(Condomines M. et al., 2006、Kang W. J. et al., 2006)。この技法は痛みを伴うだけでなく、患者にとって大きなストレスがかかる。更にこの技法は小型であれ大型であれ、動物には実行不可能である。とりわけこの技法では、循環している幹細胞を真に分離及び/又は精製することは不可能である。
【0013】
現在獣医学分野において、幹細胞の使用は主に腱や靱帯の病変の復元において好結果を得ている。精製のための主な技法を次に記す。
− 成長因子又は血小板由来因子(TGF−B、VEGF)を使用する。しかしこれらを抽出する費用は非常に高額である(Hou M. et al., 2006)。
− 骨髄から得られる幹細胞の単離。この手法により精製すると、抽出材料に含まれる細胞の15%しかを治療に使用することができない。
− 脂肪組織から得られる幹細胞の単離。この手法はドナー動物から前もって大量の組織を外科的に切除する必要があり、静脈注射による投与ができない。
− テンドトロフィンとして知られるIGF−1(インスリン様増殖因子1)(Fiedler J. et al., 2006)。
− UBM(膀胱マトリックス);これはブタに由来し、サイトカイン類を含み(なお有核細胞は含まない)、傷の瘢痕形成を誘導するが病変部位の再生は誘導しない(Zhang Y.S. et al., 2005)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開公報第2004/043990号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
前述の全てを考慮すると、容易に入手可能な材料から成体幹細胞を増殖、精製するための方法が必要なことは明らかであり、この方法はまた医療分野から獣医学の分野における医薬としての使用に適し、哺乳類に一旦投与すれば拒絶現象を示さず、保存容易な幹細胞を得ることができなければならない。
【0016】
また非特異的で、現在提供されるものより更に短い時間で製造でき、患者に直接接種できる多能性及び全能性の幹細胞を得る必要性も明らかである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、例えば拒絶現象や感染、奇形腫等の付随的な影響を生じず、一旦哺乳類成体に投与すれば「in vivo」で分化して多能性幹細胞として働くことが可能な幹細胞を得ることができるような、末梢血から「in vitro」で幹細胞を増殖、精製するための方法を完成させた。
【0018】
本発明者らは、この様に増殖した細胞は、一旦局所注射又は静脈注射をすれば治療を受ける動物の必要性と疾病に応じて「in vivo」(公知の技術水準の方法(Gulati R. et al., 2003、Katz R. L. et al., 2002、Okazaki T. et al., 2005)における、適切な成長因子及び/又は化学的刺激による「in vitro」とは異なる)においてマクロファージ、リンパ球、上皮細胞、内皮細胞、ニューロン及び肝細胞の形態及び化学的特徴の全てを獲得することを見出した。更に、この方法はこれまで用いられてきた幹細胞を集めるための他の方法と比べて侵襲性がより少なく、(アファレーシスと比べた場合)痛みを伴わず、経済的であり、全ての動物種(小型にも大型にも)に用いられる最適な方法である。
【0019】
最後に、これら細胞が容易に得られ、その後それらを長期間液体窒素中で凍結保存できることによって、本発明に係る方法を用いて得られる細胞は、自己移植、多くのヒトの疾病や獣医学的な疾病(種々のタイプの病変、代謝病並びに急性及び慢性の神経及び炎症性疾患)の治療又はある種の動物(例えばウマ)の競争パフォーマンスの改善に適した細胞となる。
【0020】
従って、本発明は血液、特に末梢血(但しこれに限定されない)から成体幹細胞を増殖させるための方法に特に関し、次の段階を含む。
【0021】
第一の段階は、2個のサブステップを含む。
即ち、a)第一のサブステップは、採取直後に8〜15nMの濃度、好ましくは10nM濃度のMCSF(マクロファージコロニー刺激因子)を用いてin vitro処理することによって、血液、特に末梢血(但しこれに限定されない)の幹細胞を増殖させる。この増殖段階はin vitro処理が実施される条件に応じた時間で行うことができる。本発明者らは、マーカーのCD90、CD34、CD90/CD34混合体が同時に存在することを同定することによって、24〜96時間、有利には48〜72時間のMCSFのin vitro処理期間が、増殖の安定化をもたらすということを実験的に証明した。この条件が最適と考えられる。
【0022】
「直ちに」とは、細胞が採取されてからin vitro処理を開始するまでの時間が可能な限り短いことを意味し、どのケースにおいても10分以内、有利には5分以内である。
【0023】
b)第一のサブステップの後、好ましくはフィコール勾配上で分画することによって第二のサブステップである精製を行う。
【0024】
この精製段階は基本的に赤血球を破壊し、マクロファージと単球をプレート上で培養することを目的とする。
【0025】
従って、技術水準とは異なり、本発明は第一に例えば適切な試験管内でMCSFや可能な抗凝固性産物と接触させることによる細胞の増殖段階を提供する。この増殖段階は、患者から血液細胞を採取した後サンプルから特定部分を単離せず、また培地を用いず直ちに行われる。
【0026】
精製段階の後、他の段階が提供される。
即ち、c)段階b)で精製された血液、特に末梢血(但しこれに限定されない)の幹細胞を、35〜55nM、好ましくは50nM、より好ましくは45nMの濃度のMCSFでin vitro処理することによる更なる増殖である。
【0027】
この段階もまた、24〜96時間、好ましくは48〜72時間の様々な期間をかけることができる。
【0028】
55nMより高濃度(即ち70nM)のMCSFを用いると、24時間後に細胞はもはや多能性幹細胞の表現型を維持しない(図12参照)。特に、血液採取直後にMCSFと懸濁する前増殖の段階a)は、単球とマクロファージの個数に対する幹細胞の割合を増加させることができる(図13参照)。次の段階で、拒絶現象や感染を引き起こすことなくin vivoで直接分化する多能性幹細胞を得ることができる。
【0029】
本発明はまた、病変を治療する医薬の調製のための、前述の増殖方法に従って得られる成体幹細胞の使用に関する。治療可能な病変は、哺乳類における皮膚病変、腱の病変、靱帯の病変、骨の病変及び粘膜の病変が属する群の病変又は骨折である。
【0030】
本発明はまた、哺乳類における、クッシング病、ヘッドシェイキング、ウォーブラー症候群、呼吸困難及び肢の不全麻痺からなる群から選択される神経系又は神経変性疾患;蹄葉炎、骨膜炎、胃炎、関節症並びにウイルス性、細菌性、寄生生物性又は真菌性の病原体によってもたらされる各種炎症から選択される急性又は慢性の炎症;及び胃拡張−胃捻転を治療するための医薬品の調製のための、前記方法に従って得られる成体幹細胞の使用に関する。
【0031】
本発明はまた、雌ウマの不妊症及び雄の仔ウマの早熟の治療及び哺乳類の競争パフォーマンスの改善のための、本発明に係る方法で得られる幹細胞の使用に関する。本発明はまた、有効主成分としての前記増殖方法に従って得られる成体幹細胞と、薬理学的に許容されるアジュバント及び/又は賦形剤とを含む医薬組成物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
以下、特に添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【図1】雌ウマの中足骨と第一指骨との間のクロストリジウムによる20cmの病変と伸筋腱破壊。
【図2】本発明の幹細胞を局所投与して3ヶ月後の図1と同じ雌ウマ。
【図3】処置6ヶ月後の前記雌ウマ。
【図4】表面屈筋腱の80%が病変であるウマの超音波スキャン像。
【図5】本発明の幹細胞で局所処置約3ヶ月半後の前記ウマの超音波スキャン像。
【図6】幹細胞で局所処置約3ヶ月半後のウマの超音波スキャン像。
【図7】局所処置約4ヶ月後の前記ウマの超音波スキャン像。ほぼ完全な腱の再生と、瘢痕組織の消失が見られる。
【図8】小さい腱の病変(直径1cm未満)を有する雌ウマの超音波スキャン像。
【図9】局所処置1ヶ月後の図7と同じ雌ウマの超音波スキャン像。
【図10】本発明の幹細胞で処置する前に疝痛の手術をした、全身虚弱の17歳齢のウマ。
【図11】本発明の幹細胞で静脈注射処置1年後の前記17歳齢のウマのパフォーマンス。
【図12】異なる量のMCSFで処理した末梢血から単離された培養細胞のレプリカ。15nM(破線、十字)、25nM(破線、逆三角形)、35nM(破線、三角形)、50nM(破線、黒丸)、60nM(破線、白四角)及び70nM(破線、白丸)。結果は末梢血の3サンプルから計測された細胞数の平均である。
【図13】末梢血から単離された培養細胞のレプリカ。MCSFで前処理(破線、黒点)、MCSF処理なし(破線、十字)。結果は末梢血の3サンプルから計測された細胞数の平均である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
特に好ましい実施形態おいては、前記定義の方法に従って得られ、活性成分として使用される成体幹細胞は、90〜250×103細胞/mLの濃度、好ましくは150×103細胞/mLの濃度で、薬理学的に許容されるアジュバント及び/又は賦形剤と共に組成物中に存在する。この組成物は静脈注射用である。
【0034】
他の実施形態においては、前記定義の増殖方法に従って得られ、活性成分として使用される成体幹細胞は、4〜40×106細胞/mLの濃度で薬理学的に許容されるアジュバント及び/又は賦形剤と共に組成物中に存在する。この組成物は局所投与用(外傷の場合も局所投与用)である。
【0035】
本発明の特に好適な実施形態によれば、前述の医薬組成物はまた、活性成分としての抗生物質を5〜15nMの濃度、好ましくは10nMの濃度で含むことができる。該抗生物質はゲンタマイシン又はアミカシンであることが好ましい。
【0036】
本発明はまた、前記定義の医薬組成物(即ち抗生物質有無に拘わらず局所投与に適する)の、哺乳類の皮膚病変、腱の病変、靱帯の病変、骨の病変及び粘膜の病変からなる群から選択される病変の治療のための医薬品としての使用に関する。
【0037】
他の特徴としては、本発明は前記定義の医薬組成物(即ち抗生物質の有無に拘わらず局所投与に適する)の、哺乳類の骨折を治療するための医薬品としての使用に関する。
【0038】
本発明はまた、前記定義の医薬組成物(即ち静脈投与に適する)の、哺乳類におけるクッシング病、ヘッドシェイキング、ウォーブラー症候群、呼吸困難及び肢の不全麻痺からなる群から選択される神経系又は神経変性疾患を治療するための医薬品としての使用に関する。
【0039】
他の実施形態においては、本発明は前記定義の医薬組成物(即ち静脈投与に適する)の、哺乳類の蹄葉炎、骨膜炎、胃炎、関節症並びにウイルス性、細菌性、寄生生物性及び真菌性の病原体に起因する炎症から選択される急性又は慢性の炎症性疾患を治療するための医薬品としての使用に関する。
【0040】
本発明はまた、前記定義の医薬組成物(即ち静脈投与に適する)の、哺乳類の胃拡張−胃捻転症候群を治療するための医薬としての使用に関する。本発明による医薬組成物はまた、胆嚢疾患、心血管疾患、鬱病に至るストレス、更に、繁殖においては雌ウマの不妊症と雄の仔ウマの早熟、また動物の競争活動の改善のために使用可能である。
【0041】
本発明の好適な実施形態においては、医療分野における使用は獣医学分野における使用が好ましく、治療される哺乳類はウマ、イヌ、ネコ及びヒトから選択される。
【実施例】
【0042】
実施例1:末梢血からの成体幹細胞の増殖及び精製並びにその医療における使用
末梢血から単離される細胞は、本発明による増殖の後「in vivo」で多能性幹細胞(PSC)として働き、古典的な手法及び/又は薬剤では治癒しないか、或いは治癒に時間がかかる病変や疾病を数カ月の期間で治癒させることができる。
【0043】
材料と方法
サンプル採取
末梢血の各サンプルは約5〜7mLからなり、ウマやイヌの下肢から採取され、例えばヘパリン(150U)とMCFS(10nM)を含む試験管に直ちに加えた。
【0044】
一方、ヘパリンは他の適切な抗凝固剤と交換可能である。
【0045】
精製
血液サンプル(5〜7mL)をNH4Cl(200mM)含有PBS(リン酸緩衝食塩水)で1:5に希釈することにより赤血球を溶解させ、10,000Gで遠心分離し、PBSで2回洗浄し、200Gで再度遠心分離した。得られた有核細胞を37℃で7〜12時間、好ましくは10〜12時間インキュベートし、フィコール勾配上での分画により精製した後分離し、RPMI1640培地(ライフテクノロジーズ、ニューヨーク、グランドアイランド)で3回洗浄した。精製した後、単球を約95%含む(FACScan、フローフォトメーター、ベクトンディッキンソン社を用いたサイトフルオロメトリーにより決定)細胞を50ng/mLのMCSF(45nM)中で更に24時間インキュベートし、その後局所処置に必要な数の細胞が得られるよう増殖させるか、或いは10,000Gで遠心分離処理し、約90×103細胞/mLの濃度になるようPBSに再懸濁して、静脈注射用とした。
【0046】
細胞培養
細胞を1プレート当たり約2〜3×105細胞になるよう15cmプレートに播き、37℃(8%CO2)で8〜12時間、好ましくは10〜12時間インキュベートした。次に非接着細胞を除去するため培地で洗浄し、その後10%FBS、ペニシリン(100ユニット/mL)、ストレプトマイシン(100mg/mL)、L−グルタミン(2mM)及びMCFS(マクロファージ走化因子、50ng/mL)を含むRPMI培地(10mL)で更に48時間インキュベートした。幹細胞と共に単離された細胞の一部はMCFSとインキュベートしたとき細長い形態を示し、繊維芽細胞と思われる(Zhao Y. et al., 2003)。特に断らない限り、使用された製品は全てシグマアルドリッチ社から入手した。細胞懸濁液は既に開示されている通り(Rabinovitch M. et al., 1976)、2%リドカイン(シグマ)PBS溶液で5〜8分間インキュベートした後ピペッティングすることにより得られた。分離した細胞をPBSで2回洗浄し、2,000gで5分間(5’)遠心分離し、ゲンタマイシン(10nM)を添加し、最終濃度5〜7×106、好ましくは6×106細胞/mL(より高濃度が必要とされる場合を除く)になるよう希釈した。
【0047】
予備実験では、Randall et al., 1998が既に報告した技法によって、細胞の一部をマーカーCD34(造血幹細胞の主要マーカーの1種)で試験した。
【0048】
免疫染色
細胞の表現型パターンを決定するため、細胞をPBSで洗浄し、スライド上に4%ホルムアルデヒドPBS溶液で20℃20分間固定した。
【0049】
細胞内タンパク質を同定するため、細胞を0.5%TritonX−100で20℃5分間パーミエートした後、1%BSA含有PBSで希釈した1次抗体で1時間インキュベートした(非特異的抗原部位をブロックするため)。3回連続洗浄した後、スライドを最適の蛍光色素(FITC、イソチオシアン酸テトラメチルローダミンB(TRITC)又はCy5)を結合した2次抗体で45分間インキュベートした。
【0050】
全ての2次抗体は、ジャクソンイムノリサーチによってロバをホスト動物に用いて作製された。免疫細胞化学実験は飽和湿度環境下4℃の温度で行った。3回洗浄の後、「gelvatol−PBS」を用いてスライドをマウントした。グリセルアルデヒド3−リン酸脱水素酵素に対する免疫蛍光(ヒツジポリクローナル抗体、コーテックス・バイオケム社製、カルフォルニア州、サンリアンドロ)を内部標準として用いた蛍光顕微鏡によって蛍光像を得た。ネガティブコントロールとして、更に蛍光バックグラウンドのレベルを校正するために、関連するサンプルと同様のアイソタイプの非特異的抗体とインキュベートしたスライドを用いた。
【0051】
位相差顕微鏡を用いて細胞を観察し、得られた画像はナイルレッドで染色した脂質の蛍光像やDAPI(4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール)で染色した核の像と重ね合わせた。参照バーは40μmを表す。相対蛍光強度は定量比イメージングマイクロスコピー(quantitative ratio imaging microscopy)により、MCSF処理細胞とマクロファージとの間で測定された。
【0052】
上述の方法を用いて、試験した全マーカー(CD90、CD34、CD90/CD34)を同定した。
【0053】
結果
局所使用
外傷の場合、細胞を直接塗布した。これに対して、特に断らない限り、腱や靱帯の病変、骨折の場合、病変の程度に応じて最終濃度5〜10×106細胞/mLの細胞を病変部位に直接接種した。病変に正確に細胞を挿入できない場合、次の方法が用いた。
・側副靱帯の病変には、第二、第三指骨間に注射した。
・舟状骨の病変には、手根管に注射した。
・仙腸関節の病変とウォーブラーの場合、第五、第六子宮頚部間又は第六、第七子宮頚部間に注射した。
【0054】
皮膚病
中足骨と第一指骨との間に創傷(直径20cm、伸筋腱を含む下方組織を破壊するクロストリジウム合併症を発症)を持つ雌ウマの症例(図1)。事故1年後、ケロイドを取り除く2回の外科手術の後第1回目の投与を行い、更に3回の投与を15日間間隔でゲンタマイシン含有生理溶液に再懸濁した10〜400×106細胞を用いて繰り返した。100日後傷は完全に治癒し(図2)、6ヶ月後創傷領域の70%に毛が再生した(図3)。
【0055】
腱
約300×106細胞で処置して3ヶ月経過後の表面屈筋腱の80%の病変を処置した3頭のウマは、超音波テストで低エコー帯が見られなくなり、一方腱の厚み(歩行困難と炎症のプロセスの後増加した)は、図4〜7に示す超音波スキャン像から分かるように、目に見えて80%減少した。
【0056】
腱の小病変(直径1cm)を有する他のウマは、処置後1ヶ月で病変が見られなくなった(図8、9)。
【0057】
靱帯
処置した病変の中には、その結果歩行困難になった後足の膝下に提靱帯(suspender ligament)を挿入したものがあった。局所接種後3ヶ月未満で、該当のウマは歩行困難なく再び動き始め、1年後には再発も見られなかった。
【0058】
処置した他のウマは、前後堤靱帯の枝部分と中心部分との間に病変を有していたが、全て完全回復した。
【0059】
骨折
処置した骨折の中には、大腿骨を骨折し、外科手術後4ヶ月経っても骨カルスを形成しないイヌの症例があった。10×106細胞を局所投与したところ、30日間で完全に回復した。
【0060】
粘膜
粘膜の病変の治癒に関して、種々の慢性潰瘍を処置した。最も驚くべき症例は、既に2回形成外科手術を受けた、口に数個の潰瘍を有する馬場馬術用のウマであった。手術後、4×105細胞で局所処置した3日後にはウマの出血は止まった。15日後には病変は完全治癒した。
【0061】
結論として、腱、靱帯、関節及び骨折への本発明の方法で富化された単離細胞の局所投与は、80%を超える症例が数週間以内、長くても4ヶ月で完全に解決したことを示した。残り20%の症例はいずれにしてもかなりの改善を示した。現在の獣医学分野においてこれら症例に対して通常用いられる方法では、処置後約6〜15ヶ月で60%以下の症例で良好な結果が得られ、改善したのは5%の症例のみである。
【0062】
静脈使用
次の疾病において、細胞は静脈経由(1投与=150×103細胞)で用いられる:
【0063】
クッシング病:下垂体中葉の肥大と、視床下部のドーパミン生産減少による疾病で、ヒトのパーキンソン病と非常に類似している。
【0064】
クッシング病に冒されたポニーに処置を行った。このポニーはクッシング病特有の症状の他、赤血球溶血を伴う免疫防御の低下を示した。処置一回当たり150×103細胞を5日間間隔で3回処置した後、改善が見られた。40日間間隔で4サイクル繰り返した後、症状が完全に消滅した。同様の方法で処置した他の4頭のウマも、同様の結果を得た。
【0065】
ヘッドシェイキング:連続的な首振りと光恐怖症の問題をもたらす、三叉神経の二次合併症を伴う中枢神経系の神経病。処置を受けたウマは、これらの症状をそれまで6ヶ月間示していた。処置は150×103細胞を1週間間隔で5週間を1サイクル行った。第3週目には既に症状が消滅した。同様のプロトコールで処置した他の2頭のウマも、同様の結果を示した。
【0066】
ウォーブラーの3症例:先天性の子宮頚部の神経的圧迫である。1週間間隔で3回の投与(静脈と局所)により処置した症例では処置後、症状が完全に寛解した。
【0067】
本発明の方法を用いて増殖、精製した幹細胞の静脈経由での使用は、どのようにこれら細胞が、神経組織を冒し既に最初の症状を発現させている疾病を、一週間の処置で「in vivo」で解決することができるかを示した。
【0068】
血管再構築:蹄葉炎(足の末梢血管新生が破壊され、その結果非常な痛みを伴う、例えば動けなくなるような歩行困難になる)に冒されたウマでは、指の血管に接種する1回の投与の後、12〜24時間で痛みは殆ど消滅した。同様の結果が、同様の疾病に罹ったウマの他の2症例で得られた。
【0069】
細胞を静脈投与する他の一般的な症例:
− 舟状骨骨折のウマは、深部屈筋腱と舟状骨との間の末梢血管、舟状骨嚢及び関節面に同時に幹細胞を投与した後、競争活動を再開した。
− 骨膜炎を患うウマの症例は、2回の静脈投与で歩行困難が改善した。
− 疝痛の手術の後、持続的な全身衰弱状態のため競争活動が続けられなくなり放牧地に入れられた17歳齢のウマの症例。5日毎に3回投与を4サイクル行った後、ウマは再び競争活動を始め、競技に参加して以前は得られなかったような結果を出した(図10、11)。
− 脳虚血の疑いがあり、その結果3本の肢の協調を失った20歳齢のウマの症例は、コルチゾン誘導体に基づいた薬理学的処置の後も不確実で千鳥足の歩調を続けた。1週間間隔で2回の投与の後、この動物はもういかなる症状を呈することもなく通常の活動を再開した。
− 21歳齢で妊娠し、授乳期を終えた23歳齢の雌ウマの症例は、細胞を静脈投与で2回投与の処置を受けた。処置の後、雌ウマは完全に競争活動を再開した(ウマは20歳齢で競走馬としては年齢が高すぎるとみなされる)。
− 骨盤を骨折したウマの症例は、細胞を2回投与した後、国際的な競争活動を再開した;
− 呼吸困難で神経過敏な15歳齢のウマの症例は、2回投与の後少しの呼吸困難もなく国際的なレベルの競争を再開した。
− 第一、第二指骨間の側副靱帯を断裂した結果、2年を超える重度の歩行困難になったウマ2頭の症例。この疾病は75%の症例で元に戻らないと考えられている。3ヶ月間3回投与の処置をしたところ、処置した2頭は共に通常の競争に戻った。
− 7歳齢で疝痛の手術をし、12歳齢で去勢した13歳齢のウマの症例。2回目の手術の後、この動物は抗生物質と抗炎症薬で処置したにもかかわらず、寛解しない(non?emittent)細菌性合併症を発症した。更にこの動物は慢性胃炎を患っていることが胃鏡検査法で証明された。1週間間隔で4投与の後、このウマを再度胃鏡検査したところ、胃粘膜の完全な再生が見られた。同様の結果が他の10頭のギャロップ用のウマで得られた。
− 全収縮期心雑音と心臓聴診での多くの異常心雑音を示し、血液検査で神経の障害とバランスを失う原因となるヘルペスウィルス1の活性型が陽性のウマの症例。この症例では、静脈投与3回を5日間隔で3回行い、続いて4回目の投与を脊椎のレベルに行った。2ヶ月後には既にウマは再び動き始め、ほぼ完全にバランスを回復した。
− 全身の肉体的衰えのため競争活動をほぼ完全に引退した19歳齢のウマの症例では、200×103細胞を1週間間隔で2回投与を繰り返し処置した後、3ヶ月後にはこの馬種の種目(ジャンプ競技で1.35〜1.40mの高さのジャンプ)としてはベストを出して復帰した。
【0070】
同様のタイプの処置を非常に高齢のイヌに適用し、同様の結果を得た。イヌにおいて次の疾病の処置が行われた。
− 胃捻転のイヌの2症例:第1の症例は、外科手術を受けたが1週間後に再発し、そのため再度手術を受けた6歳齢のグレートデンであって、150×103細胞の第1の投与の後、イヌは再び餌を摂り始め、1週間間隔で2回の投与の後、通常の活動に戻った。第2の症例は、関節症を患い、糖尿病と診断され、子宮摘出−卵巣摘出をした10歳齢の雌のグレートデンであって、手術4ヶ月後、胃が捻転し、続く外科手術をしても顕著な改善は見られなかった。この時点において、1週間間隔で2回の投与を更に4サイクルを次の4ヶ月間に行った。現在、最後のサイクルの後8ヶ月になるが、イヌは通常の血糖値を維持するだけでなく、歩行能力が80%改善した。
− 13歳齢雄の雑種イヌの症例は、後肢の不全麻痺と失禁を示した。その当時までこのイヌはコルチゾンで処置するだけで、評価できる結果は得られていなかった。コルチゾンを停止して15日後細胞を採取し、イヌは1週間間隔で2投与1サイクルを受けた。最後の処置から6日後、イヌは肢の自由を再び得ただけでなく、排尿と排便を普通に行うようになった。
【0071】
現時点では多能性細胞を提供する「in vivo」技法が存在しないという事実に鑑み、本発明による方法で得られた結果はこの手続きを非常に用途の広いものにしている。更に、これまで報告された全ての症例において、投与後いかなる拒絶も感染も示さないことから、この技法は自己移植の手順に適したものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液、特に非限定的ではあるが末梢血から成体幹細胞を増殖させるための方法であって、
a)採取直後に、8〜15nMの間を含む濃度のMCSFでin vitro処理することによる、血液の幹細胞を増殖させる第一の段階と、
b)増殖した幹細胞を精製する第二の段階と、を含む方法。
【請求項2】
MSCFを用いる前記in vitro段階の時間が24〜96時間であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
MSCFを用いる前記in vitro段階の時間が48〜72時間であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
サンプルが採取されてから10分以内、有利には5分以内にin vitro処理を開始することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
更にc)35〜55nMの濃度のMCSFで24〜72時間in vitro処理することによる、段階b)で精製した血液の幹細胞の増殖の段階を提供することを特徴とする、先の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
段階a)における該MCSF濃度が好ましくは10nMである、先の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
段階c)における該MCSF濃度が好ましくは50nM、より好ましくは45nMである、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
段階a)及び/又は段階c)におけるMCSFを用いるin vitro処理が24〜48時間、好ましくは45〜48時間続く、先の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
精製段階b)がフィコール勾配上における分画により行われる、先の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
哺乳類における皮膚病変、腱の病変、靱帯の病変、骨の病変及び粘膜の病変からなる群から選択される病変、又は骨折の治療のための医薬品の調製のための、請求項1〜9に記載の方法に従って得られる成体幹細胞の使用。
【請求項11】
哺乳類におけるクッシング病、ヘッドシェイキング、ウォーブラー症候群、呼吸困難及び肢の不全麻痺からなる群から選択される神経系又は神経変性疾患を治療するための医薬品を調製するための、請求項1〜9に記載の方法に従って得られる成体幹細胞の使用。
【請求項12】
哺乳類における蹄葉炎、骨膜炎、胃炎、関節症及びウイルス性、細菌性、寄生生物性又は真菌性の病原体に起因する炎症から選択される急性又は慢性の炎症性疾患の治療のための医薬品の調製のための、請求項1〜9に記載の方法に従って得られる成体幹細胞の使用。
【請求項13】
哺乳類における胃拡張−胃捻転症候群の治療のための医薬品の調製のための、請求項1〜9に記載の方法に従って得られる成体幹細胞の使用。
【請求項14】
雌ウマの不妊症又は雄の仔ウマの早熟の治療のための医薬品、或いは哺乳類の競争活動の改善のための医薬品の調製のための、請求項1〜9に記載の方法に従って得られる成体幹細胞の使用。
【請求項15】
請求項1〜9に記載の方法に従って得られる成体幹細胞を活性成分として含むと共に、薬理学的に許容されるアジュバント及び/又は賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項16】
請求項1〜9に記載の方法に従って得られる成体幹細胞を活性成分として90〜250×103細胞/mL、好ましくは100〜120×103細胞/mLの濃度で含むと共に、薬理学的に許容されるアジュバント及び/又は賦形剤を含み、静脈注射剤として調製される医薬組成物。
【請求項17】
請求項1〜9に記載の方法に従って得られる成体幹細胞を活性成分として4〜40×106細胞/mL、好ましくは7×106細胞/mLの濃度で含むと共に、薬理学的に許容されるアジュバント及び/又は賦形剤を含み、局所投与用に調製される医薬組成物。
【請求項18】
活性成分としての抗生物質を5〜15nM、好ましくは10nMの濃度で更に含む、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
抗生物質がゲンタマイシンである、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
哺乳類における皮膚病変、腱の病変、靱帯の病変、骨の病変及び粘膜の病変からなる群から選択される病変の治療のための医薬品としての、請求項15及び17〜19のいずれかに記載の医薬組成物の使用。
【請求項21】
哺乳類における骨折の治療のための医薬品としての、請求項15及び17〜19のいずれかに記載の医薬組成物の使用。
【請求項22】
哺乳類におけるクッシング病、ヘッドシェイキング、ウォーブラー症候群、呼吸困難及び肢の不全麻痺からなる群から選択される神経系又は神経変性疾患を治療するための医薬品としての、請求項15及び16のいずれかに記載の医薬組成物の使用。
【請求項23】
哺乳類における蹄葉炎、骨膜炎、胃炎、関節症及びウイルス性、細菌性、寄生生物性又は真菌性の病原体に起因する炎症から選択される急性又は慢性の炎症性疾患の治療のための医薬品としての、請求項15及び16のいずれかに記載の医薬組成物の使用。
【請求項24】
哺乳類における胃拡張−胃捻転症候群の治療のための医薬品としての、請求項15及び16のいずれかに記載の医薬組成物の使用。
【請求項25】
雌ウマの不妊症又は雄の仔ウマの早熟の治療のための医薬品、或いは哺乳類の競争活動の改善のための医薬品としての請求項15及び16のいずれかに記載の医薬組成物の使用。
【請求項26】
該組成物が150×103細胞/mLに相当する濃度で得られる成体幹細胞を含み、1週間に1度静脈投与される、請求項20〜24のいずれかに記載の使用。
【請求項27】
該哺乳類がヒト、ウマ、ネコ及びイヌから選択される、請求項9〜26のいずれかに記載の使用。
【請求項1】
血液、特に非限定的ではあるが末梢血から成体幹細胞を増殖させるための方法であって、
a)採取直後に、8〜15nMの間を含む濃度のMCSFでin vitro処理することによる、血液の幹細胞を増殖させる第一の段階と、
b)増殖した幹細胞を精製する第二の段階と、を含む方法。
【請求項2】
MSCFを用いる前記in vitro段階の時間が24〜96時間であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
MSCFを用いる前記in vitro段階の時間が48〜72時間であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
サンプルが採取されてから10分以内、有利には5分以内にin vitro処理を開始することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
更にc)35〜55nMの濃度のMCSFで24〜72時間in vitro処理することによる、段階b)で精製した血液の幹細胞の増殖の段階を提供することを特徴とする、先の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
段階a)における該MCSF濃度が好ましくは10nMである、先の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
段階c)における該MCSF濃度が好ましくは50nM、より好ましくは45nMである、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
段階a)及び/又は段階c)におけるMCSFを用いるin vitro処理が24〜48時間、好ましくは45〜48時間続く、先の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
精製段階b)がフィコール勾配上における分画により行われる、先の請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
哺乳類における皮膚病変、腱の病変、靱帯の病変、骨の病変及び粘膜の病変からなる群から選択される病変、又は骨折の治療のための医薬品の調製のための、請求項1〜9に記載の方法に従って得られる成体幹細胞の使用。
【請求項11】
哺乳類におけるクッシング病、ヘッドシェイキング、ウォーブラー症候群、呼吸困難及び肢の不全麻痺からなる群から選択される神経系又は神経変性疾患を治療するための医薬品を調製するための、請求項1〜9に記載の方法に従って得られる成体幹細胞の使用。
【請求項12】
哺乳類における蹄葉炎、骨膜炎、胃炎、関節症及びウイルス性、細菌性、寄生生物性又は真菌性の病原体に起因する炎症から選択される急性又は慢性の炎症性疾患の治療のための医薬品の調製のための、請求項1〜9に記載の方法に従って得られる成体幹細胞の使用。
【請求項13】
哺乳類における胃拡張−胃捻転症候群の治療のための医薬品の調製のための、請求項1〜9に記載の方法に従って得られる成体幹細胞の使用。
【請求項14】
雌ウマの不妊症又は雄の仔ウマの早熟の治療のための医薬品、或いは哺乳類の競争活動の改善のための医薬品の調製のための、請求項1〜9に記載の方法に従って得られる成体幹細胞の使用。
【請求項15】
請求項1〜9に記載の方法に従って得られる成体幹細胞を活性成分として含むと共に、薬理学的に許容されるアジュバント及び/又は賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項16】
請求項1〜9に記載の方法に従って得られる成体幹細胞を活性成分として90〜250×103細胞/mL、好ましくは100〜120×103細胞/mLの濃度で含むと共に、薬理学的に許容されるアジュバント及び/又は賦形剤を含み、静脈注射剤として調製される医薬組成物。
【請求項17】
請求項1〜9に記載の方法に従って得られる成体幹細胞を活性成分として4〜40×106細胞/mL、好ましくは7×106細胞/mLの濃度で含むと共に、薬理学的に許容されるアジュバント及び/又は賦形剤を含み、局所投与用に調製される医薬組成物。
【請求項18】
活性成分としての抗生物質を5〜15nM、好ましくは10nMの濃度で更に含む、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
抗生物質がゲンタマイシンである、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
哺乳類における皮膚病変、腱の病変、靱帯の病変、骨の病変及び粘膜の病変からなる群から選択される病変の治療のための医薬品としての、請求項15及び17〜19のいずれかに記載の医薬組成物の使用。
【請求項21】
哺乳類における骨折の治療のための医薬品としての、請求項15及び17〜19のいずれかに記載の医薬組成物の使用。
【請求項22】
哺乳類におけるクッシング病、ヘッドシェイキング、ウォーブラー症候群、呼吸困難及び肢の不全麻痺からなる群から選択される神経系又は神経変性疾患を治療するための医薬品としての、請求項15及び16のいずれかに記載の医薬組成物の使用。
【請求項23】
哺乳類における蹄葉炎、骨膜炎、胃炎、関節症及びウイルス性、細菌性、寄生生物性又は真菌性の病原体に起因する炎症から選択される急性又は慢性の炎症性疾患の治療のための医薬品としての、請求項15及び16のいずれかに記載の医薬組成物の使用。
【請求項24】
哺乳類における胃拡張−胃捻転症候群の治療のための医薬品としての、請求項15及び16のいずれかに記載の医薬組成物の使用。
【請求項25】
雌ウマの不妊症又は雄の仔ウマの早熟の治療のための医薬品、或いは哺乳類の競争活動の改善のための医薬品としての請求項15及び16のいずれかに記載の医薬組成物の使用。
【請求項26】
該組成物が150×103細胞/mLに相当する濃度で得られる成体幹細胞を含み、1週間に1度静脈投与される、請求項20〜24のいずれかに記載の使用。
【請求項27】
該哺乳類がヒト、ウマ、ネコ及びイヌから選択される、請求項9〜26のいずれかに記載の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公表番号】特表2010−504083(P2010−504083A)
【公表日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−528679(P2009−528679)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【国際出願番号】PCT/EP2007/059531
【国際公開番号】WO2008/034740
【国際公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(509076649)セールス・エンジニアリング・アクチェンゲゼルシャフト (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【国際出願番号】PCT/EP2007/059531
【国際公開番号】WO2008/034740
【国際公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(509076649)セールス・エンジニアリング・アクチェンゲゼルシャフト (2)
【Fターム(参考)】
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