説明

血液または臓器の保存剤と保存方法

【課題】 各種臓器や血液の長期保存においても細胞損傷を抑制して生存能力を維持することができ、安定性、そして取扱い性にも優れている新しい血液または臓器の保存剤とこれを用いた保存方法を提供する。
【解決手段】 フラーレン類のうちの1種以上を保存有効成分として含有している血液または臓器保存剤、保存剤が少なくともその構成の一部とされている血液または臓器の保存のための袋体もしくは容器、上記保存剤を用いて血液または臓器の低温保存を行う血液または臓器の保存方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、血液または臓器の新しい保存剤とこれを用いた保存方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の臓器保存剤としては、ユーロコリンズ液やウイスコンシン液などが挙げられるが、ユーロコリンズ液は、腎臓以外の各種臓器に対して保護効果が十分ではなくなり、ウイスコンシン液は製剤としての安定性が不充分であるという欠点を有して、その他の臓器保存剤も溶解度が悪いといった欠点を有していた。
【0003】
これらの臓器保存剤とともに各種の物質を用いての工夫が様々に試みられている。例えばグリコシル−L−アスコルビン酸またはその塩を含む臓器保存剤(特許文献1)や、プリフェノールを添加してなる臓器保存剤(特許文献2、3)、レシチン化スーパーオキシドジスムターゼを含有する臓器保存液(特許文献4)などが提案されている。
【0004】
しかしながら、従来の場合には、長期保存であっても細胞傷害が発生が抑制され、安定性に優れ、取扱いも容易であるとの作用効果は実用的に充分なものとしては実現されていなかった。
【0005】
一方、血液は、有形成分である赤血球・白血球・血小板と、これを浮遊させている液体成分である血漿とから成り立っており、体細胞の生活に不可欠の媒質であり、その性状はほとんど恒常に保たれている。外科手術などの際には血液またはその成分輸血をする必要があるが、輸血するまでの間血液およびその成分の生機能を維持させなければならない。
【0006】
これらの目的のため、エネルギー源として糖類、pHおよび浸透圧調整のため無機塩類および血中ATP(アデノシン三リン酸)、ADP(アデノシン二リン酸),AMP(アデノシン−リン酸)などの消費を防止するためアデニンなどが従来の血液保存剤において主に用いられている。しかしながら、これら保存剤は、血球成分の生存指標である血中ATPレベルを充分維持できないほど、長期にわたって満足すべき血液保存効果があるとは言い難い。
【0007】
このような問題を解決するものとして、たとえば、リン酸ジエステル化合物もしくはその塩を用いることが提案されている(特許文献5)が、その保存効果については依然として満足できるものではない。
【特許文献1】特開2000−191401号公報
【特許文献2】特開2000−344602号公報
【特許文献3】特開2003−267801号公報
【特許文献4】特開2002−60301号公報
【特許文献5】特開平6−166624号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本願発明は、上記のとおりの背景から、各種臓器や血液の長期保存においても細胞損傷を抑制して生存能力を維持することができ、安定性、そして取扱い性にも優れている新しい血液または臓器の保存剤とこれを用いた保存方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明は、上記の課題を解決するものとして以下のことを特徴としている。
【0010】
第1:フラーレン類のうちの1種以上を保存有効成分としていることを特徴とする血液または臓器保存剤。
【0011】
第2:請求項1の保存剤が少くともその構成の一部とされていることを特徴とする血液または臓器の保存のための袋体もしくは容器。
【0012】
第3:上記保存剤を用いて血液または臓器の低温保存を行うことを特徴とする血液または臓器の保存方法。
【発明の効果】
【0013】
上記のとおりの本願発明によれば、各種臓器や血液の長期保存においても細胞損傷を抑制して生存能力を維持することができ、安定性、そして取扱い性にも優れている新しい血液または臓器の保存剤とこれを用いた保存方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本願発明の血液または臓器の保存剤においては、前記のとおり、フラーレン類を保存有効成分としている。
【0015】
そこで、まず、この脱臭有効成分としてのフラーレン類について説明する。
【0016】
本願発明のフラーレン類には、まず、フラーレン、フラーレン含酸素誘導体、並びに有機化合物により修飾もしくは包接された前記のフラーレンまたはフラーレン含酸素誘導体、そしてそれらの塩類のうちの少なくとも1種からなるものが含まれる。
【0017】
この場合のフラーレンについては、C60、C70あるいはこれらの混合物をはじめとして各種のものであってよい。たとえばこの出願の発明のフラーレンには、メチレン鎖等のアルキレン鎖を介して複数のフラーレンが結合したものや、アルキレン鎖が、フラーレン骨格の異なる位置の炭素原子に結合するもの等であってよい。フラーレン60の誘導体としては、フラーレン分子一個に対して修飾基が1個から40個結合していればよく、たとえばフラーレン70の誘導体としては、フラーレン分子一つに対して修飾基が1個から50個結合していればよく、この修飾基は、各々独立に水酸基またはその水酸基と無機もしくは有機酸とのエステル基または糖との配糖体基、もしくは水酸基とケトンとのケタール基もしくはアルデヒドとのアセタール基であればよく、このフラーレン修飾化合物またはその塩及びそこから選択される少なくとも一種であればよい。さらにこの出願の発明のフラーレンは、C60フラーレン、C70フラーレン又はナノチューブフラーレンでもよく、それらから選択させる一種以上の混合物でも良い。また、フラーレンの未生成物であるカーボンブラック(フラーレン類を含むすす)が残存したフラーレンでもよく、フラーレン中のカーボンブラックの濃度が0〜98%重量のものであればよい。
【0018】
また、本願発明に使用できるフラーレン類の例として以下の化学式で表されるフラーレン類を使用することができる。
【0019】
R1m−F−R2m
(式中、FはCn(Cは炭素原子、nは32以上の整数)で示されるフラーレン、カーボンナノチューブ、及びそれらの多量体、開裂体、分裂体もしくはそれらの混合物であり、R1mは、Cnに結合するm個の置換基であり、それぞれ独立して、同一又は別異に、水酸基、その水酸基と無機酸もしくは有機酸とのエステル基、その水酸基と糖との配糖体基、その水酸基とケトンとのケタール基又はその水酸基とアルデヒドのアセタール基を示す。R1mは、Cnに結合するm個の原子であり、それぞれ独立して、同一又は別異に、又は1つの原子が2箇所以上の異なる炭素に結合していることを示す。mは0又は1以上の整数を示す。)
さらにまた、本願発明に使用できるフラーレン類は、フラーレンの多量体、カーボンナノチューブ、及びそれらの誘導体及びそれらの塩類から選択される1種以上の単体又は混合物、これらを修飾もしくは包接する有機化合物であってよい。
【0020】
フラーレンの多量体の例としては、例えば次式のものが例示される。すなわち、京大の小松らのグループが青酸カリと粉砕用鉄球を鋼鉄のカプセルに入れて、毎分3500回の高速振動を与え合成に成功した、C60の二量体(C120)、や三量体(C180)、Rubin らの合成したC62、Wudlらが合成したフラーレンの窒素原子結合体(C59N)2、等がある。
【0021】
そして、フラーレン類の誘導体の例としてはフッ素をフラーレンに作用させたC60F、C6018などがある。
【0022】
また、本願発明にはグラファイトの粉に金属を混ぜ込みレーザーを当てて蒸発させて合成される、金属内包フラーレンも使用することができる。本発明に使用できる金属内包フラーレンの具体例としてはスカンジウム、ランタン、セシウム、チタン内包フラーレン等があるがこれらに限定されない。
【0023】
これらの金属の種類によって、脱臭効果はより増大されることも可能となる。
【0024】
本願発明のフラーレン類には、原子内包フラーレンも使用することができる。
【0025】
具体例としては、Sc3NやSc22などを取り込んだ(Sc3N)@C80や(Sc22)@C84などがある。
【0026】
本願発明のフラーレン類は、フラーレンの開裂体、フラーレンの分裂体、及びそれらの誘導体及びそれらの塩類から選択される1種以上の単体又は混合物であってもよい。
【0027】
開裂フラーレンの例としては、Rubin らによって作り出されたオープンケージフラーレン、小松らによって合成された穴あきフラーレンなどがある。
【0028】
本願発明に使用できるフラーレン類には、フラーレンを修飾もしくは包接、錯体化する有機化合物との複合体も含まれる。この有機化合物としては、有機オリゴマー、有機ポリマーおよび包接化合物または包接錯体が形成可能なシクロデキストリン(CD)やクラウンエーテルもしくはそれらの類縁化合物の1種または2種以上のものが好適なものとして例示される。
【0029】
有機オリゴマーや有機ポリマーとしては、たとえば、カルボン酸エステル、アルコール類、糖類、多糖類、多価アルコール類、ポリエチレングリコール、ブチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、等のポリアルキレングリコール又は多価アルコール類の重合体、デキストラン、プルラン、デンプン、ヒドロキシエチルデンプン及びヒドロキシプロピルデンプンのようなデンプン誘導体を含む非イオン性水溶性高分子、アルギン酸、ヒアルロン酸、キトサン、キチン誘導体、並びにこれらの高分子のアニオン性又はカチオン性誘導体及びこれらの高分子グリセリン及び脂肪酸類、油類、炭酸プロピレン、ラウリルアルコール、テトキシル化ひまし油、ポリソルベート類、及びこれらのエステル類又はエーテル類、及びこれらの重合体、及びこれらのポリエステル重合体類、ポリビニルピロリドン等のピロリドン重合体類、不飽和アルコール重合体類のエステルまたはエーテル類およびポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロック共重合体等のものがフラーレン又はその誘導体に結合したものが好ましく、それらの一種以上の混合物であってもよい。なかでも、ポリエチレングリコール(PEG)等のポリアルキレングリコール、PVP、等の各種のものが好ましいものとして例示される。PEG、PVP等のポリマーの場合には、その平均分子量については、一般的には、2000〜10,000程度が好ましい、フラーレンまたはフラーレン含酸素誘導体との比率としては、モル比として10/1以下程度とする事が考慮される。
【0030】
また、本発明に使用できるフラーレン類には、例えばシクロデキストン等の包摂体やBoydらが合成したポルフィリン錯体(ジョーズポルフィリン)、二重ナノリングシクロファンフラーレン錯体、中村らが合成したフラーレン−フェロセン誘導体やフラーレン−フェニル誘導体Ph560、フラーレン−ビフェニル誘導体等も含まれる。
【0031】
また、本発明で使用できるフラーレン誘導体には、フラーレン骨格の炭素原子に直接的に、あるいはアルキレン鎖等の炭素鎖を介して酸素原子が結合するものが考慮される。たとえば水酸化率が50/モル・フラーレン以上の−OH基が直接結合した水酸化フラーレン等が例示される。
【0032】
フラーレンの開裂体、分裂体としては、フラーレン類の開裂体、分裂体またはその構造を内在する分子の単体又は複合体であればよい。
【0033】
その構造を内在する分子又は複合体においては、フラーレン骨格構造を形成している炭素原子に、n個の置換基Rwを有していてもよく、この場合の置換基Rは、それぞれ独立して、同一又は別異に、水素原子、炭素原子、酸素原子、窒素原子、リン原子、水酸基、その水酸基と無機酸もしくは有機酸とのエステル基、その水酸基と糖との配糖体基、その水酸基とケトンとのケタール基又はその水酸基とアルデヒドのアセタール基等であってよい。
【0034】
さらに本発明に使用可能な分裂フラーレンの例としては、例えばC60フラーレンの断片構造を有するコランニュレン(C2010)などがある。
【0035】
本願発明の保存剤においては以上のような保存脱臭有効成分としてのフラーレン類を基材に含有させるか、あるいは基材に担持させることができる。この場合の基材は、液状体でもよいし固体でもよい。固体の場合には、保存液中に存在させることができるものとして、その形状、構造は様々であってよく、たとえば粉粒体、繊維状体、織布、不織布、フィルム、シート、さらにはその他各種の三次元成形体であってよい。これらの固体の基材への含有については、たとえば基体成分との混合、接着等を介しての賦形により一体化することが考慮される。混練後の造粒や、押出し成形、注型成形、射出成形、繊維化等の手段によるものである。
【0036】
一方の固形基材への担持についても種々の方法により可能とされる。たとえば、多孔質基材や微小空隙をもつ織布基材等を、フラーレン類の溶液あるいは分散液中に浸漬し、空孔や微小空隙内にフラーレン類を付着担持させる方法や、噴霧や流下あるいはその他各種手段による塗布による方法での付着担持等が考慮される。
【0037】
このような固体基材については血液や臓器の細胞に損傷を与えことのないものであれば、その種類に特に限定はなく、たとえばそれ自身が脱臭作用を有する炭素材や、シリカ、アルミナ、マグネシア、ベイナイト、ゼオライト、リン酸カルシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄等の無機材やセラミックス、ステンレスやニッケル、チタン等の金属や合金、さらには天然あるいは合成のポリマーの各種のものが考慮されてよい。
【0038】
たとえば繊維としての綿、絹、ウール、麻等をはじめ、繊維、フィルム、シート、その他成形体としてのポリオレフィン樹脂、弗素樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテル樹脂、エポキシ樹脂、スルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂等である。
【0039】
これらのポリマーは硬化体でもよいし、ゲル体であってもよい。
【0040】
もちろん以上の固形基材成分は、2種以上のものが混合ないし複合化されていてもよいことは言うまでもない。
【0041】
以上のような固形基材に含有ないし担持させたフラーレン類、あるいは液状体に溶解ないし分散させたフラーレン類は、いずれの場合も、通常に用いられている臓器保存用液に加えることで保存効果を実現することができる。血液においては、固形基材に含有ないし担持させたフラーレン類を血液中で用いることで保存効果を実現することができる。
【0042】
臓器保存用液としては公知のものであってよく、たとえば生理食塩水、リンガー液、ユーロコリンズ液やウイスコンシン液などであってよい。これらの培養液あるいは保存用液中でのフラーレン類の存在割合としては、一般的には0.1〜2×105ppm、好ましくは103〜5×104ppmの範囲とすることが考慮される。空気をバブリングさせない条件下で保存用液を臓器の周囲一面に微弱流動速度で定常循環させることが好ましい。また、血液中への存在割合としては、通常は、0.1〜2×105ppm、好ましくは102〜104ppmの範囲とすることが考慮される。空気バブリングさせない条件での血液の微弱なワーリングやミキシングを行うことが好ましい。
【0043】
本願発明のフラーレン類保存成分は、これらの臓器保存用液に溶解させてもよく、その際には溶解助剤を使用したり、あるいはPEG、シクロデキストリン、PVP(ポリビニルピリドン)等との複合体や包接体として溶解容易としてもよい。もちろん、前記のような基材との一体化によって固形状として分散あるいは浸漬して使用してもよい。
【0044】
本願発明は、フラーレン類は、これを臓器保存や血液の保存に際して使用すると、特に低温保存において、その細胞損傷が防御され生存能力が長期間にわたって維持されるというこれまでに知られていない新しい知見に基づいている。フラーレン類は、熱、紫外線、酸素などによって分解され難く、安定性が高く、取り扱いも容易である。
【0045】
本願発明の保存対象の臓器は各種のものであってよく、ヒト並びに非ヒト動物の皮膚、血管、角膜、腎臓、心臓、肝臓、腸、神経、肺、胎盤、すい臓などが例示される。
【0046】
また血液の場合には、予め液剤の形にしておいてもよく、あるいは固形剤として用時に液剤として用いてもよい。固形剤は、たとえば精製水や整理食塩液などに溶解、懸濁または乳化させるのがよい。固形剤としては、錠剤、顆粒剤や散剤などが挙げられ、これらは公知の方法により適宜製造することができる。場合によってはこれら固形剤を直接血液または血液成分中に含有させてもよい。
【0047】
本発明の血液保存剤には、本発明の目的に反しない限り、通常血液保存剤に用いられる成分、たとえば抗血液凝固剤、栄養剤、等張化剤、pH調整剤、防腐剤、溶解剤、粘性剤などを通常用いられる量適宜含有させてもよい。それらの成分としては、たてば糖類、塩類、アミノ酸、核酸塩基や有機酸などが例示される。糖類としては、ショ糖、ブドウ糖、乳糖、デキストロース、マンニトールが例示される。塩類としては、塩化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、リン酸ナトリウムなどが挙げられる。アミノ酸としては、グリシン、グルタミン酸、リジンが例示される。核酸塩基としては、アデニンが例示される。さらに、有機物としてはクエン酸、酢酸、乳酸が例示される。
【0048】
本発明の血液保存剤には、本発明の目的に反しない限り、その他の薬効成分、たとえば抗生物質や肝障害抑制剤などを適宜配合させてもよい。
【0049】
本発明の血液保存剤および血液保存方法は、血液成分を損傷することなくその生体能を長期間維持するので、血液および赤血球・白血球・血小板などの血液成分の保存に有利に用いることができる。
【0050】
また、本発明の保存剤を用いる方法においては、フラーレン類のさらなる安定化や活性増大等を目的として以下のような物質を転嫁してもよい。
【0051】
メトラゾール、エトプシド、コール酸類、ジメチルサルフォキシド、アデソシンリン酸類、ポリエチレングリコール類、ポリブチレングリコール類等の水溶性高分子化合物類、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム等の無機の塩類、クエン酸、リンゴ酸、リン酸、エデト酸シュウ酸、乳酸、酪酸、アスコルビン酸、エリソルビン酸、シアル酸、アミノ酸等の有機酸類及びこれらの有機酸塩類、またはプロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類から選択される1種又は2種以上の混合物を挙げることができる。
【0052】
前記、コール酸類とは、胆汁酸、デヒドロコール酸、デオキシコール酸又はそのナトリウム、カリウム等のアルカリ土類金属塩から選択される。前記アデノシンリン酸とは、アデノシン−5′3リン酸、アデノシン5′2リン酸、アデニル酸等のアデノシンのリン酸エステル類より選択される。
【0053】
さらにまた、抗酸化剤を添加することで、さらなる効果の向上を図るおとも考慮される。
【0054】
抗酸化剤としては、ビタミンB、L−アスコルビン酸、トコフェロール及びL−アスコルビン酸−2−リン酸やその他のサッカロ−L−アスコルビン酸の様な抗酸化ビタミン誘導体、ユビキノン、尿酸、システイン、グルタチオン、グルタチオンペルオキシターゼ、SOD、クエン酸類、リン酸類、ポリフェノール類、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、チオジプロピオン酸ジラウリル、コトコリエノール、リポ酸、トリルビグアナイド、ノルジヒドログアヤレチン酸、パラヒドロキシアニゾール、ブチルヒドロキシシアニゾール、ジブチルヒドロキシトルエン、ステアリン酸アスコルビル、パルミチン酸アスコルビル、没食子酸オクチル、没食子酸プロピル、カロチノイド、フラボノイド、タンニン、リグナン、サポニン、リンゴエキスやチョウジエキス等、核酸類、漢方薬類、海草類、無機物および日本薬局法に抗酸化機能を保持する記述がある既存の抗酸化剤より選択される1種又は2種以上の混合物を併用して添加することもできる。

本願発明によれば、たとえばフラーレン、PVP−fullurene等は赤血球の活性酸素による破壊を防御し、この効果は、既存保存剤のユーロコリンズ液、ウイスコンシン液、6−アミノプリン、トレハロース、グリコシル−L−アスコルビン酸を凌駕する。
【0055】
また、フラーレンやPVP−fullurene等の誘導体は、摘出した肝臓の低温保存において、ユーロコリンズ液、ウイスコンシン液、6−アミノプリン、トレハロース、グリコシル−L−アスコルビン酸を凌駕する細胞死抑制率を示す。
【0056】
そこで以下に実施例を示す。もちろん以下の例によって発明が限定されることはない。
【実施例】
【0057】
赤血球の保存を以下の手順で行い、その効果を検証した。
<A>血液の調製
1.緬羊無菌保存血液(株式会社日本生物材料センター)を瓶から2ml分取し、
2.1500rpm、10min、4℃で遠心処理した。
【0058】
3.上清を捨ててPBSを2ml加えた。
【0059】
4.上記2と3項の操作を3回繰り返した。
【0060】
5.PBSをさらに2ml加えて元の量の倍の量に希釈した。
【0061】
6.さらに二倍希釈して合計8mlの血液(血球原液)を調製した。
<B>試料の調製
1.PBS 290μl、上記の調製された血液(血球原液)500μl、フリーラジカル発生剤AAPH 160μlの混合組成物を調製した。
【0062】
2.上記混合組成物に、重量平均分子量60,000のPVPを用い、C60フラーレンが含有量0.70重量%となるようにしたPVP/フラーレン複合体を、40μM、80μMの割合で各々添加して試料とした。
【0063】
3.一方、PVP/フラーレン複合体を添加しないもの、並びに上記のPVPのみ40μM、80μMの割合で各々添加したものを比較試料とした。
<C>検証
インキュベータ内に上記の試料および比較試料を静置し、120分後に取出して濾過した後に、800nm〜400nmまでの吸光スペクトルを分光光度計(日本分光株式会社)で測定した。この結果を図1に示した。
【0064】
また、625nmと570nmのピークの高さを測定し、百分率として相対比を示したものが図2である。
【0065】
フリーラジカル発生剤AAPHによる膜変性によって赤血球からヘモグロビンが放出されるので、その鉄−プロトポルフィリン(メチン基とピロール環とが4つずつ交互に環状結合した中央に鉄が配位した有色物質)に基づく吸光スペクトルが溶血に相応するが、以上の結果からは、これがPVP/フラーレンによって顕著に抑制されることが確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】実施例における吸光スペクトル図である。
【図2】図1の625nmと570nmのピーク高さを百分率として相対比を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラーレン類のうちの1種以上を保存有効成分としていることを特徴とする血液または臓器保存剤。
【請求項2】
請求項1の保存剤が少くともその構成の一部とされていることを特徴とする血液または臓器のための袋体もしくは容器。
【請求項3】
請求項1の保存剤を用いて血液または臓器の低温保存を行うことを特徴とする血液または臓器の保存方法。


【図1】
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【図2】
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