説明

血液凝固第VIII因子C2ドメインタンパク質の製造方法

【課題】大腸菌を宿主とした遺伝子組換え技術を用いたFVIIIC2タンパク質の製造において、簡便、かつ効率的に前記タンパク質を製造すること。
【解決の手段】血液凝固第VIII因子C2ドメイン遺伝子を含むポリヌクレオチドを導入した組換え大腸菌の菌体内に血液凝固第VIII因子C2ドメインタンパク質を発現させた後の菌体内可溶性画分に対し、尿素を1Mから3Mの範囲内で加え、その後1Mから3Mの範囲内の尿素存在下で金属キレートクロマトグラフィーを行ない、前記タンパク質を精製することで、簡便、かつ効率的に前記タンパク質を製造することを実現した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大腸菌を宿主とした遺伝子組換え技術を用いたヒト血液凝固第VIII因子C2ドメインタンパク質の製造方法に関するものであり、より詳しくは、前記タンパク質を組換え大腸菌で発現させた後の菌体内可溶性画分、及び精製に用いる緩衝液に、適切な濃度の尿素を加えて精製することを特徴とする、簡便、かつ効率的な前記タンパク質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト血液凝固第VIII因子(FVIII)は血液凝固系においてFIXaの補助因子としてはたらく重要なタンパク質であり、これが欠乏した場合には血友病Aを発症する。統計的には男子の5千人にひとりが遺伝的にこの因子を欠失しており、FVIII製剤の投与が必要な患者は全世界で40万人以上にのぼると推定されている。FVIIIは永らく血液製剤のひとつとしてヒトの血液から分離精製されてきたが、HIV、HCV、プリオンなど様々な病原体の混入が懸念された。そこで、遺伝子工学的な手法を用いたFVIIIの製造方法について研究され、その結果、1990年代初頭には遺伝子組換え体の製品が臨床現場で使われはじめ、現在では血液製剤と遺伝子組換え体の両者が市場に流通している。しかしながら、FVIIIは血液中の含量が少なく、遺伝子工学的な手法を用いても生産性が高くないため、FVIII精製法の改良が求められている。FVIII精製法の先行技術としては、製造プロセスにも採用されているマウスモノクローナル抗体をリガンドとしたアフィニティークロマトグラフィー、及びファージディスプレーを用いて見出された低分子の親和性ペプチドをリガンドとしたアフィニティークロマトグラフィー(非特許文献1及び2)があげられるが、必ずしも十分な精製法とはいえず、技術開発の余地が大きい。
【0003】
FVIIIは分子量28万から30万の大きな糖タンパク質であり、A1−A2−B−A3−C1−C2という6つのドメインから構成されている(非特許文献3)。このうちC末端に位置するC2ドメイン(以下FVIIIC2と略記する)は血液中のフォン・ヴィルブラント因子(vWF)に結合し、また中和抗体(インヒビター)の標的になっていることが多く(非特許文献4)、生理的な血液凝固過程においてもまた血友病Aの治療においても重要なドメインとして認識されている。またFVIIIC2はホスファチジルセリンに富んだ酸性細胞膜(活性化血小板細胞膜のモデル)に結合する領域を有し(非特許文献5)、他のドメインと構造的にも機能的にも分離していることから(非特許文献3)、抗凝固剤のターゲットとしての利用、及びFVIIIを精製するためのアフィニティークロマトグラフィー用リガンドのターゲットとしての利用が期待される。しかしながら、前述したように、FVIIIは血液中の含有量が低く、きわめて高価であるため、FVIIIを原料としてFVIIIC2を調製することは経済的な負担が大きい。そこで遺伝子工学的な手法を用いたFVIIIC2の製造方法についてこれまで研究されてきた。
【0004】
遺伝子工学的な手法を用いたFVIIIC2の製造としては、大腸菌(非特許文献6)あるいはピキア酵母(特許文献1、非特許文献7)を宿主とした製造が開示されているが、FVIIIC2には糖鎖が付加しないため、ピキア酵母よりも大腸菌を用いて生産するほうが簡便である。組換え大腸菌を用いてFVIIIC2の細胞内発現を行なった非特許文献6では、遺伝子発現誘導剤であるIPTGを添加した後に培養温度を37℃から16℃に下げ、16から20時間培養して菌体を集める方法が開示されている。前記操作が必要な理由は開示されていないが、37℃で培養すると凝集体が生成するものと推測できる。しかしながら16℃という温度では大腸菌の生育が大幅に抑制されるため、長時間培養しても菌体密度が十分に上昇しないこと、及び培養中にFVIIIC2の分解が進行するため、高い生産性を得ることは困難である。
【0005】
【特許文献1】米国公開特許公報2006/0293505号
【非特許文献1】Nord K.ら、Europan Journal of Biochemistry、268、4269−4277、2001
【非特許文献2】Kelly B.D.ら、Journal of Chromatography A、1038、121−130、2004
【非特許文献3】Stoilova−McPhie S.ら、Blood、99(4)、1215−1223、2002
【非特許文献4】Zhong D.ら、Blood、92(1)、136−142、1998
【非特許文献5】Lewis D.A.ら、Blood Coagulation and Fibrinolysis、14、361−368、2003
【非特許文献6】Spigel P.C.ら、Chemistry and Biology、11、1413−1422、2004
【非特許文献7】Pratt K.P.ら、Nature、402、439−442、1999
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
血液凝固第VIII因子C2ドメイン(FVIIIC2)は前述のような有用性があるため、経済的かつ簡便な製造方法が望まれている。本発明は大腸菌を宿主とした遺伝子組換え技術を用いたFVIIIC2タンパク質の製造において、簡便、かつ効率的に前記タンパク質を製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明では遺伝子組換え大腸菌で発現させた血液凝固第VIII因子C2ドメイン(FVIIIC2)タンパク質について、精製条件を詳細に検討することにより、前記タンパク質を簡便、かつ効率的に得る方法を見出した。
【0008】
即ち本発明は、以下の発明を包含する:
第一の発明は、FVIIIC2遺伝子を含むポリヌクレオチドを導入した組換え大腸菌を用いた、FVIIIC2タンパク質の製造方法において、前記組換え大腸菌の菌体内にFVIIIC2タンパク質を発現させた後の菌体内可溶性画分に対し、尿素を1Mから3Mの範囲内で加え、その後1Mから3Mの範囲内の尿素存在下で金属キレートクロマトグラフィーを行なうことで、前記タンパク質を精製することを特徴とする、FVIIIC2タンパク質の製造方法である。
【0009】
第二の発明は、前記組換え大腸菌の菌体内にFVIIIC2タンパク質を発現させた後の菌体内可溶性画分に対し、さらに、イミダゾールの初期濃度を20から50mMの範囲内、最終濃度を200から500mMの範囲内とする濃度勾配をかけることで、金属キレートクロマトグラフィー担体から前記タンパク質を溶出させて精製することを特徴とする、第一の発明に記載のFVIIIC2タンパク質の製造方法である。
【0010】
第三の発明は、前記FVIIIC2遺伝子を含むポリヌクレオチドが、FVIIIC2遺伝子の5’末端側に少なくともヒスチジンタグ配列を付加したものであることを特徴とする、第一または第二の発明に記載のFVIIIC2タンパク質の製造方法である。
【0011】
第四の発明は、前記FVIIIC2遺伝子を含むポリヌクレオチドが、配列番号1からなるポリヌクレオチドであることを特徴とする、第一または第二の発明に記載のFVIIIC2タンパク質の製造方法である。
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明における、FVIIIC2遺伝子は、ヒトのFVIIIの遺伝子配列が公知であるため(GenBank accession No.NM_019863)、これをもとにFVIIIC2に相当する領域を化学合成して遺伝子を調製することができる。また、市販のヒトcDNAライブラリーやcDNAクローンを用いて、より簡便に前記遺伝子を調製することも可能であり、一例としてインビトロジェン社製のUltimateTM Human ORF CLONEがあげられる。
【0014】
本発明における、FVIIIC2遺伝子を含むポリヌクレオチドは、FVIIIC2遺伝子のポリヌクレオチドに5’末端側または3’末端側に1から40アミノ酸をコードするポリヌクレオチドを付加したポリヌクレオチドを指す。前記FVIIIC2遺伝子の5’末端側または3’末端側に付加するポリヌクレオチドとしては、ヒスチジンタグ、Sタグ、GSTタグ、インテインタグといったタグ配列をコードするポリヌクレオチドが例示できるが、特に本発明におけるポリヌクレオチドは、融合タンパク質の生産性、融合タンパク質の精製効率、融合タンパク質の安定性、クロマトグラフィー担体の入手容易性、及び経済性から、FVIIIC2遺伝子の5’末端側に少なくともヒスチジンタグをコードするポリヌクレオチドを付加するのが好ましい。さらに好ましくは、FVIIIC2遺伝子を含むポリヌクレオチドが、FVIIIC2遺伝子の5’末端側にpET28a(ノバジェン社)の有するヒスチジンタグ領域のポリヌクレオチド114塩基を付加した、配列番号1からなるポリヌクレオチドである。
【0015】
本発明における、FVIIIC2タンパク質を発現させる組換え大腸菌株は特に限定はなく、K12系統ではHB101、JM109、DH5α、C600及びこれらの誘導体を、B系統ではBL21及びその誘導体を、それぞれあげることができ、さらに生産させるタンパク質あるいはそのポリヌクレオチドとの相性に応じてより細かく選択することができる。実施例では、組換え大腸菌株の好ましい一例である、BL21−CodonPlusTM(DE3)−RIPL(ストラタジーン社製)を組換え大腸菌株として選択したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0016】
本発明における、組換え大腸菌の培養に用いる培地の種類については特に限定はなく、天然培地であるLB培地や2×YT培地、合成培地であるM9培地が例示できる。組換え大腸菌を培地に植菌後、遺伝子発現誘導剤を添加するまでの培養温度は特に限定はなく、好ましい一例として、大腸菌の至適生育温度である37℃があげられる。遺伝子発現誘導剤の添加時期としては、組換え大腸菌の対数増殖期に実施するのが好ましく、特に菌体密度がO.D.600で1.0から1.2に達した時点で遺伝子発現誘導剤を添加するのが好ましい。遺伝子発現誘導剤の種類には特に限定はなく、IPTGやアラビノースを例示することができる。遺伝子発現誘導剤を添加後、組換え大腸菌の菌体内にFVIIIC2タンパク質を発現させる際の、培養温度については、実施例4より、37℃で培養すると発現したFVIIIC2タンパク質の大部分が不溶化すること、及び25℃で培養するとFVIIIC2タンパク質の発現量が少ないことから、26℃から35℃の温度条件で培養するのが好ましい。さらに、実施例4において29℃、及び32℃で培養するとFVIIIC2タンパク質が主に可溶性タンパク質として大量に発現していることから、29℃から32℃にて培養するのが特に好ましい。また、FVIIIC2タンパク質発現後の組換え大腸菌を破砕する際に用いる緩衝液には、その後の精製操作におけるカラムへの非特異的な吸着を抑制するために低濃度(好ましくは20から50mM)のイミダゾールを添加するのが好ましい。
【0017】
本発明におけるFVIIIC2タンパク質の製造方法は、組換え大腸菌の菌体内にFVIIIC2タンパク質を発現させた後の菌体内可溶性画分に対し、尿素を1Mから3Mの範囲内で加え、その後1Mから3Mの範囲内の尿素存在下で金属キレートクロマトグラフィーを行なうことで、前記タンパク質を精製することを特徴としている。金属キレートクロマトグラフィー担体としてはGEヘルスケア社のNi Sepharose 6 Fast Flow、Ni Sepharose High Performance、キアゲン社のNi−NTA Agaroseを、担体を充填したカラムとしてはGEヘルスケア社のHisTrap HP、HisTrap FF、His SpinTrap、キアゲン社のNi−NTA Spin Columnを例示できる。菌体内可溶性画分、及び精製に用いる緩衝液に添加する尿素の濃度としては、尿素によるタンパク質の非可逆的な変性が軽微で、かつ、非特異的な相互作用を抑えることができる、前記範囲の濃度が好ましく、2Mの尿素を添加して精製を行なうのがさらに好ましい。また、前記濃度の尿素を菌体内可溶性画分、及び精製に用いる緩衝液に添加することで、ヒスチジンタグの溶媒への露出促進効果、及び菌体抽出物中に存在する各種プロテアーゼの作用抑制効果も期待できる。特に金属プロテアーゼの阻害剤であるEDTAのようなキレート剤は金属キレートクロマトグラフィーにおいて用いることができないため、尿素添加による効果が高い。
【0018】
本発明における、FVIIIC2タンパク質精製のさらに好ましい態様は、前記条件に加え、前記タンパク質を金属キレートクロマトグラフィー担体に吸着させた後、低濃度のイミダゾールを含む緩衝液をカラム容量の10倍以上通液させることで非特異的に吸着したタンパク質を有効に取り除いた後、高濃度のイミダゾールを添加、あるいは緩衝液のpHを低下させることで目的とするタンパク質を回収する精製法である。イミダゾールの添加、あるいは緩衝液のpHの低下は一段階で行うことが多いが、より精密な精製のためには勾配をかけて溶出するほうが好ましい。しかしながら、一般にpHの勾配を制御することは困難であるため、イミダゾールの濃度勾配をかけて溶出させるほうがさらに好ましい。イミダゾールの初期濃度と最終濃度は目的とするタンパク質と夾雑タンパク質の分離状況に応じて設定すればよいが、本発明における最も好ましいイミダゾール濃度は初期濃度が20から50mM、最終濃度200から500mMである。溶出したタンパク質はそのまま用いることもできるが、透析やゲル浸透クロマトグラフィー担体を用いて高濃度の尿素やイミダゾールを除いてから使用するのが好ましい。前記操作により尿素で弱く変性されたタンパク質の立体構造と活性の回復が図られる。
【0019】
本発明の製造方法で得られたFVIIIC2タンパク質の評価には、結合活性が知られている化合物を用いることが好ましく、抗体や化学合成ペプチドを例示できる。抗体としてはFVIIIのアフィニティー精製に用いられているもののうち、その結合ターゲットがC2ドメインであるという知見が得られているものや、FVIIIC2を抗原として調製したポリクローナルあるいはモノクローナル抗体を例示できる。化学合成ペプチドとしては非特許文献1及び2にあげたペプチドやその類縁体を例示できる。FVIIIC2タンパク質の活性測定の方法としては表面プラズモン共鳴(SPR)解析、ELISA、等温滴定カロリメトリー(ITC)を例示できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、大腸菌を宿主とした遺伝子組換え技術を用いた血液凝固第VIII因子C2ドメイン(FVIIIC2)タンパク質の製造において、前記タンパク質を組換え大腸菌で発現させた後の菌体内可溶性画分、及び精製に用いる緩衝液に、適切な濃度の尿素を加えて精製することを特徴とする。本発明の製造方法により得られたFVIIIC2タンパク質は、生理的な血液凝固過程、及び血友病Aの治療において重要なドメインであるため、血友病をはじめとする凝固系の疾患の治療、診断、あるいは研究に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に本発明を更に詳細に説明するために実施例を示すが、これら実施例は本発明の一例を示すものであり、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0022】
実施例1 血液凝固第VIII因子C2ドメイン(FVIIIC2)遺伝子組換え大腸菌の調製(その1)
UltimateTM Human ORF CLONE IOH10704(インビトロジェン社)よりPlasmid Miniprep Kit I(Omega BIO−TEK社製)を用いてプラスミドDNAを抽出/精製し、これを鋳型に用いて、配列番号3で示したプライマーF8C2F4と配列番号4で示したプライマーF8C2R2Xを用いてPCRを行ない、ヒトFVIIIC2遺伝子を含んだDNAを増幅した。PCRにはPrimeSTAR HS DNA polymerase(タカラバイオ社製)を用いた。増幅したDNAをSacIとXhoIで処理し、SacIとXhoIで処理したクローニングベクターpET28a(ノバジェン社製)に組み込み、大腸菌JM109のコンピテントセル(タカラバイオ社製)をヒートショック法で形質転換することにより組換え大腸菌JM109/pF8C2_11を得た。
【0023】
実施例2 FVIIIC2遺伝子組換えプラスミドの塩基配列解析
実施例1で得られた組換え大腸菌JM109/pF8C2_11よりPlasmid Miniprep Kit I(Omega BIO−TEK社製)を用いてプラスミドpF8C2_11を抽出し、これを鋳型に用いて、配列番号5で示したプライマーT7 terminatorからジデオキシヌクレオチド法により塩基配列の決定を行ない、その結果、配列番号1の塩基配列を得た。
【0024】
実施例3 FVIIIC2遺伝子組換え大腸菌の調製(その2)
実施例1で得られたpF8C2_11を用いて大腸菌BL21−CodonPlusTM(DE3)−RIPLのコンピテントセル(ストラタジーン社製)をヒートショック法で形質転換することにより組換え大腸菌BL21(DE3)−RIPL/pF8C2_11を得た。
【0025】
実施例4 FVIIIC2遺伝子組換え大腸菌からのFVIIIC2タンパク質の発現
実施例3で得られた、組換え大腸菌BL21(DE3)−RIPL/pF8C2_11を用いて以下の方法に従い、FVIIIC2タンパク質を発現させた。
(1)BL21(DE3)−RIPL/pF8C2_11を、カナマイシンとクロラムフェニコールをそれぞれ20μg/mL含むLB培地(40mL)中37℃で菌体密度がO.D.600で1.0から1.2になるまで振とう培養した。
(2)(1)の培養物にIPTGを1mMになるように添加し、以下の条件で振とう培養することでFVIIIC2タンパク質を発現させた。
【0026】
a)25℃で5時間
b)29℃で4時間
c)33℃で3時間
d)37℃で3時間
(3)各条件で培養後、培養物を氷冷し、それぞれを4℃冷却下で遠心分離(10000rpm、10分間)して培養液を除いた。
(4)培養液の除去を完全にするため遠心分離を繰り返した後、菌ペレットを5mLのLysis緩衝液(組成:20mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.0)/200mM NaCl/40mM イミダゾール)で懸濁し、4℃冷却下超音波破砕機で菌を破砕した。
(5)菌破砕液を4℃冷却下で遠心分離(14000rpm、10分間)して上清と沈殿を分離し、沈殿は5mLのイオン交換水で再懸濁した。
(6)上清と沈殿の懸濁物の一部を還元剤存在下で熱処理した後、SDS−ポリアクリルアミド(15%アクリルアミド)ゲル電気泳動(SDS−PAGE)に等量アプライして分析した。
【0027】
SDS−PAGEの結果を図1に示す。培養温度が25℃の時はFVIIIC2タンパク質に相当する23kDaのバンドは上清画分(可溶性タンパク質)、沈殿画分(不溶性タンパク質)いずれも明瞭には観察されなかった。培養温度が29℃、32℃、37℃の場合は、上清画分、沈殿画分、いずれも23kDaのバンドが観察されたが、培養温度が37℃の場合は沈殿画分の割合が高く、培養温度が29℃と32℃では上清画分の割合が高かった。不溶性タンパク質として発現すると、可溶化など煩雑な作業を必要とするため、簡便、かつ効率的にタンパク質を製造するには、可溶性タンパク質として発現するのが好ましい。そのため、組換え大腸菌からFVIIIC2タンパク質を発現させる際の培養温度としては、26℃から35℃が好ましいといえる。特に、29℃と32℃で培養した場合は、可溶性タンパク質を大量に発現したことから、29℃から32℃で培養するのがさらに好ましいといえる。
【0028】
また、本実施例における、FVIIIC2タンパク質を発現させる際の培養時間は3から4時間と、従来技術(16℃で16から20時間培養、非特許文献6)と比較して短時間であるため、FVIIIC2タンパク質の分解も抑えることができる。
【0029】
実施例5 FVIIIC2タンパク質の精製
実施例3で得られた、組換え大腸菌BL21(DE3)−RIPL/pF8C2_11を用いて以下の方法に従って、FVIIIC2タンパク質を精製した。
(1)BL21(DE3)−RIPL/pF8C2_11を、カナマイシンとクロラムフェニコールをそれぞれ20μg/mL含むLB培地(2L)中37℃で菌体密度がO.D.600で1.2になるまで振とう培養した。
(2)(1)の培養物にIPTGを1mMになるように添加し、30℃で3時間振とう培養することでFVIIIC2タンパク質を発現させた。
(3)培養物を氷冷して4℃冷却下で遠心分離(8000rpm、30分間)して培養液を除いた。
(4)菌ペレットを30mLのLysis緩衝液で懸濁した後、4℃冷却下で遠心分離(8000rpm、30分間)して上清を除き、菌ペレットを120mLのLysis緩衝液で再懸濁した。これを4℃冷却下超音波破砕機で菌を破砕した。
(5)菌破砕液を4℃冷却下で遠心分離(9000rpm、40分間)して上清を得た。
(6)上清に等容量の4M 尿素を添加し、溶媒組成を10mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.0)/100mM NaCl/20mM イミダゾール/2M 尿素とした。
(7)金属キレートクロマトグラフィー充填カラムHisTrap HP 5mL(GEヘルスケア社製)を吸着/洗浄緩衝液(組成:20mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.0)/500mM NaCl/40mM イミダゾール/2M 尿素)で平衡化しておき、これに(6)で調製された菌抽出液全量を通液し、しかる後に吸着/洗浄緩衝液70mLを通液することによりカラムを洗浄し、非特異的な吸着物を除去した。
(8)溶出緩衝液(組成:20mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.0)/500mM NaCl/400mM イミダゾール/2M 尿素)を用意し、溶出緩衝液の割合を0から100%にする直線濃度勾配をかけて溶出されるタンパク質をモニタリングした。この操作にはGEヘルスケア社製の中低圧クロマトグラフィーシステムであるAKTAPrimeを用いた(図2)。
(9)溶出されたタンパク質のピーク画分を還元条件下のSDS−PAGE(15%アクリルアミド)で分析し(図3)、純度の高い部分(図3中36から41番目の画分)を集めて透析緩衝液(組成:10mM Tris−塩酸緩衝液(pH7.5)/1mM EDTA、100mM NaCl)に対して透析し、最終標品とした。最終標品は分注して−80℃で保存し、またBSAを標準タンパク質としてBradford法により濃度検定した(タンパク質濃度:0.7mg/mL)。なお、最終標品タンパク質のアミノ酸配列を配列番号2に示す。
【0030】
実施例6 FVIIIC2タンパク質の確認(その1)
実施例5で得られたタンパク質標品を非還元条件下でSDS−PAGE(15%アクリルアミド)を用いて分析した。ゲルにアプライする前に98℃で5分間の熱処理を行なった場合には2本の、熱処理を行なわなかった場合には1本のバンドが検出された(図4)。前者において上側の薄いバンドは還元条件下でのバンドの位置に一致した。この結果は、実施例5で得られたタンパク質標品は2つのシステイン残基(配列番号2の40番目と192番目のシステイン)の間でジスルフィド結合しており、この結合が熱処理で部分的に還元的に開裂したものと解釈できる。
【0031】
実施例7 FVIIIC2タンパク質の確認(その2)
非特許文献2を参考にして図5の構造を有するFVIIIC2結合性ペプチドを化学合成した(林化成社に合成委託)。合成には通常の固相ペプチド合成法を用い、N末端をアセチル基で保護し、N末端から7番目と14番目のシステイン残基をジスルフィド結合させた。標品の同定は質量分析(HP 1100 series LC/MSD:ヒューレット・パッカード社製)、純度検定はHPLC(Shiseido capcell pak C18カラム:資生堂社製)で行ない、純度99%以上を確認した。このペプチドをDMSOに溶解し、SPR解析装置であるBIACORE2000のCM5センサーチップにアミンアップリング法で固定化し、実施例5で得られたタンパク質標品をHBS−EPで3.0μMに希釈してアナライトとして分析することにより、図6に示すセンサーグラムを得た。これをBIAEvaluationプログラムで解析することにより両者の相互作用を表す解離定数(KD)として1.0×10−7Mを得た。本結果より、本発明の方法で製造したFVIIIC2タンパク質は、天然のFVIIIC2タンパク質と同等の親和性を有していることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】各培養温度におけるFVIIIC2の発現と局在性を示すSDS−PAGE分析。図中のSは上清画分(可溶性タンパク質)を、Pは沈殿画分(不溶性タンパク質)を、矢印はFVIIIC2タンパク質(23kDa)に相当するバンドを、それぞれ示す。
【図2】イミダゾール濃度勾配でのタンパク質溶出プロファイル。
【図3】図2における各画分のSDS−PAGE分析。図中の矢印はFVIIIC2タンパク質(23kDa)に相当するバンドを示す。
【図4】非還元条件下での精製FVIIIC2タンパク質のSDS−PAGE分析。
【図5】FVIIIC2結合性ペプチドの構造。
【図6】FVIIIC2結合性ペプチドと精製FVIIIC2標品の相互作用解析結果(BIACOREセンサーグラム)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液凝固第VIII因子C2ドメイン遺伝子を含むポリヌクレオチドを導入した組換え大腸菌を用いた、血液凝固第VIII因子C2ドメインタンパク質の製造方法において、前記組換え大腸菌の菌体内に血液凝固第VIII因子C2ドメインタンパク質を発現させた後の菌体内可溶性画分に対し、尿素を1Mから3Mの範囲内で加え、その後1Mから3Mの範囲内の尿素存在下で金属キレートクロマトグラフィーを行なうことで、前記タンパク質を精製することを特徴とする、血液凝固第VIII因子C2ドメインタンパク質の製造方法。
【請求項2】
前記組換え大腸菌の菌体内に血液凝固第VIII因子C2ドメインタンパク質を発現させた後の菌体内可溶性画分に対し、さらに、イミダゾールの初期濃度を20から50mMの範囲内、最終濃度を200から500mMの範囲内とする濃度勾配をかけることで、金属キレートクロマトグラフィー担体から前記タンパク質を溶出させて精製することを特徴とする、請求項1に記載の血液凝固第VIII因子C2ドメインタンパク質の製造方法。
【請求項3】
前記血液凝固第VIII因子C2ドメイン遺伝子を含むポリヌクレオチドが、血液凝固第VIII因子C2ドメイン遺伝子の5’末端側に少なくともヒスチジンタグ配列を付加したものであることを特徴とする、請求項1または2に記載の血液凝固第VIII因子C2ドメインタンパク質の製造方法。
【請求項4】
前記血液凝固第VIII因子C2ドメイン遺伝子を含むポリヌクレオチドが、配列番号1からなるポリヌクレオチドであることを特徴とする、請求項1または2に記載の血液凝固第VIII因子C2ドメインタンパク質の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−183250(P2009−183250A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−29107(P2008−29107)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【出願人】(000173762)財団法人相模中央化学研究所 (151)
【Fターム(参考)】