説明

血液凝固能の検査方法および血液凝固能の検査装置

【課題】 血液凝固能を少量の血液で簡便に評価するための方法及び装置を提供する。
【解決手段】 基板に流路が設けられたマイクロチップの流路に血液を毛細管現象によって浸入させ、流路内での血液の浸入速度または浸入距離に基づいて血液の凝固能を検査することを特徴とする血液凝固能の検査方法、および該方法に使用される装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液凝固能を簡便に検査するための血液凝固能の検査方法および血液凝固能の検査装置に関し、具体的には、マイクロチップに設けられた流路に毛細管現象によって血液を浸入させ、その浸入速度または浸入距離に基づいて血液凝固能を簡便に検査するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
動脈硬化などの血栓性疾患や血友病などの血液凝固異常を検査するために、血液の凝固能が検査される。血液の凝固能を検査するための方法としては、部分活性化トロンボプラスチン時間、トロンボプラスチン時間、全血凝固時間、トロンボエラストグラフ等の凝固能検査が行われている。
しかしながら、これらの方法は、多量の血液を必要とし、高価な装置または、検査する人間の手技を必要とする方法であり、より単純な指標でより簡便に、高価な装置等を必要とせず血液の凝固能を検査する方法が求められていた。
【0003】
一方、少量の血液で簡便に血液性状を検査するための方法としては、マイクロチップ上に設けられた流路の血液注入口に採取された血液を注入し、毛細管現象によって血液を流路から測定部に到達させ、そこで検査用試薬と反応させて血液成分を分析することが行われている。
例えば、特許文献1には、血液中のグルコースをグルコースオキシダーゼなどの酵素と空気中の酸素を利用して酸化し、生成する過酸化水素を測定することによって血糖値を測定する方法および装置が提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、血液のどろどろ、さらさらといった血液の粘性度を簡便な手段で測定する血球診断システムが提案されている。
しかしながら、これらの方法は血液中の成分を分析するための方法であり、より単純な指標でより簡便に血液の凝固能を検査することはできなかった。
【特許文献1】特開平8−294639号公報
【特許文献2】特開2005−164296号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、血液の凝固能を高価な装置や検査する人間の手技を必要とすることなく、少ない血液でより簡便に測定するための方法および装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明の発明者は、鋭意検討した結果、マイクロチップを採用することで極微量の血液で、かつ簡便に検査を行うことができるとの知見を得て本発明はなされたのである。
すなわち、本発明は、血液性状を検査する方法であって、例えば、合成樹脂製の基板に溝を形成し、平板状の蓋で覆う等の手段で流路が設けられたマイクロチップ(以下、単に「チップ」という場合がある。)の該流路に血液を毛細管現象によって浸入させ、流路内での血液の浸入速度または浸入距離に基づいて血液の凝固能を検査することを特徴とする方法を提供する。
本発明の血液凝固能の検査方法においては、抗凝固処理された血液を、抗凝固処理を解除した後、または、解除しながら流路に浸入させて血液の凝固能を測定することが好まし
い。また、抗凝固処理された血液に抗凝固処理を解除する薬剤と内因系又は外因系の凝固カスケードを活性化して血液凝固を促進する薬剤を混合し流路に浸入させることが好ましい。
ここで、抗凝固処理がクエン酸による処理であることが好ましく、カルシウムを添加してクエン酸で抗凝固処理された血液の抗凝固処理を解除することが好ましい。また、抗凝固処理がヘパリンによる処理であることが好ましく、ヘパリナーゼを添加してヘパリンで抗凝固処理された血液の抗凝固処理を解除することが好ましい。
そして、この検査は、血液の温度を一定に保った状態で検査を行うことが好ましい。
【0007】
また、本発明は、基板に流路が設けられたマイクロチップの流路に血液を毛細管現象によって流路に浸入させ、流路内での血液の浸入速度または浸入距離に基づいて血液の凝固能を検査する検査装置であって、前記マイクロチップの流路の少なくとも一部に内因系又は外因系の凝固カスケードを活性化して血液凝固を促進する素材を用いることを特徴とする血液凝固能の検査装置を提供する。
ここで、内因系又は外因系の凝固カスケードを活性化して血液凝固を促進する素材がガラス又はコラーゲンをコートした素材であることが好ましい。
また、本発明の血液凝固能の検査装置においては、流路が蛇行するように設置されていることが好ましく、マイクロチップに血液凝固能の評価を示す指標が付されていることが好ましい。そして、検査する血液の温度を一定に保つためのヒーターを有するものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の血液凝固能の検査方法によれば、基板に流路が設けられたマイクロチップの流路に血液を毛細管現象によって浸入させ、流路内での血液の浸入速度または浸入距離に基づいて血液の凝固能を検査することができるため、ごく少量の血液で簡便に血液の凝固能の検査を行うことができるので、被験者への負担を軽減して被験者の血栓性疾患、血液凝固異常の危険性・有無や抗凝固剤による治療効果を調べることができる。場合によっては、被験者自身で検査を行うことも可能である。
本発明の血液凝固能の検査方法において、抗凝固処理された血液を、抗凝固処理を解除した後、または、解除しながら流路に侵入させて血液の凝固能を測定すると、採血直後の血液でなくとも正確に凝固能が測定できる。さらに、抗凝固処理された血液に抗凝固処理を解除する薬剤と内因系又は外因系の凝固カスケードを活性化して血液凝固を促進する薬剤を混合し流路に侵入させると、凝固能の測定時間を短縮することができる。
ここで、抗凝固処理された血液の凝固能を測定する場合、クエン酸で血液を抗凝固処理したり、カルシウムで抗凝固処理を解除したりすると、クエン酸やカルシウムの入手が容易で好ましい。また、ヘパリンで血液を抗凝固処理したり、ヘパリナーゼで抗凝固処理を解除したりすると、血液本来のカルシウム濃度を反映した検査が可能となる。
検査に際して、血液の温度を一定に保った状態で検査を行うと、より正確に検査を行うことができる。
【0009】
また、本発明の血液凝固能の検査装置は、基板に流路が設けられたマイクロチップの流路に血液を毛細管現象によって流路に浸入させ、流路内での血液の浸入速度または浸入距離に基づいて血液の凝固能を検査する検査装置であるため、ごく少量の血液で簡便に血液凝固能の検査を行うことができる。
本発明の血液凝固能の検査装置においては、マイクロチップの流路の少なくとも一部に内因系又は外因系の凝固カスケードを活性化して血液凝固を促進する素材が用いられているので、血液凝固を活性化する試薬を混合せずとも凝固能の測定時間を短縮することが可能であり、血液凝固を促進する素材がガラス又はコラーゲンをコートした素材であると、入手が容易である。
ここで、本発明の装置においては、流路が蛇行するように設置されていると、より装置
の小型化が図ることができる。
また、本発明の装置においては、マイクロチップに血液性状の評価を示す指標が付されていると、より容易に血液凝固能の評価を行うことができる。
さらに、本発明の装置が検査する血液の温度を一定に保つためのヒーターを有するものであると、より正確な検査が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、最良の形態に基づき、図面を参照して本発明の血液凝固能の検査方法及び検査装置を説明する。
図1は本発明の血液凝固能の検査装置の第1の形態例を示す概念図である。
【0011】
図1に示すように、本形態例に係る血液凝固能の検査装置1は、血液注入口10、流路11、排出口12、表示部13を備えたマイクロチップからなる。
血液注入口10に血液を注入すると、毛細管現象により血液が流路11内に浸入し、このときの侵入速度または侵入距離を測定することで血液の凝固能を測定することができる。
【0012】
マイクロチップ1を形成する素材は、血液が毛細管現象により流路11内に入り、流路11内を通過しうる素材であればよい。そのような素材としては、親水性の素材であることが好ましい。また、そのような素材は、射出成形等で高速かつ安価に成形できる合成樹脂が好ましい。そのような合成樹脂としては、具体的には、特開2006−183060号公報に記載されるポリプロピレン系樹脂と、一般式X−Y(X:ポリプロピレン系樹脂に相溶しないポリマーブロック、Y:共役ジエンのエラストマー性ポリマーブロック)で表記されるブロックコポリマーの水素添加誘導体とを含有する樹脂組成物が挙げられる。特に好ましくは、ポリプロピレン(ホモポリマーまたはランダムコポリマー)に水添ポリスチレン・ビニルーポリイソプレン・ポリスチレンブロック共重合体を添加してなる樹脂組成物が挙げられる。なお、疎水性の樹脂であってもプラズマ等の表面処理やポリビニルラクトンアミド(PVLA)やポリ2メトキシエチルアクリレート(PMEA)等の抗血栓性や血液適合性を有する親水性のコーティング材にてコートすることで親水化して用いる事が可能である。
【0013】
流路11の断面は、特に制限はなく、その幅や径は、血液が毛細管現象により流路11内を通過しうる大きさであればよいが、細すぎると血球が詰まったりし、太すぎると浸入速度や浸入距離の測定時に差がでにくく、血液凝固能の評価が難しくなることがあるため、10〜500μmが好ましく、50〜300μmがより好ましい。流路11の深さも同様に、10〜500μmが好ましく、50〜300μmがより好ましい。
流路11の形状は、直線状であってもよいし、分岐していてもよい。また、流路11を長くして、かつチップ1の小型化を図るという観点から図1に示されるように蛇行するような形状でもよい。あるいは、レコードの溝のように引き回される形状であってもよい。
注入口10や排出口12、あるいは、後述する抗凝固解除剤添加口は、チップ1の端面に露出する流路11の断面であっても良いが、図1に示されるように蓋に流路11の断面よりも大きめの孔を開け血液を一時的に貯留できる皿状の凹部を有する構造であることが好ましい。この場合、基板にもすり鉢状の窪みを設けると、血液が流路11に浸入しやすくことが好ましい。
流路11、血液注入口10、排出口12等は射出成形等の樹脂成形やレーザー光による掘削など公知の手法に従ってチップ1上に設置することができる。同一パターンを大量に製作する場合は、射出成形等の樹脂成形が好ましい。
【0014】
本発明において、血液の浸入距離とは、血液が排出口12まで達することなく流路内で止まる場合に、注入口10からその止まった位置までの浸入距離を意味し、血液の浸入速
度とは、血液が排出口12まで達する場合と達しない場合を含み、単位時間あたりの浸入量を意味する。本発明の方法および装置は、これらの浸入距離や浸入速度で血液の凝固能を評価する。
本発明の血液の凝固能検査装置は、血液の浸入速度または浸入距離を目視で確認し、評価できるようにするため、チップ1の少なくとも一部が透明な素材で構成されることが好ましい。
本発明においては、浸入した血液の血球の活性化による凝集に応じて流路が狭くなり、血液の浸入が遅れる性質を利用して血液の凝固能を調べる。したがって、浸入速度が遅いまたは浸入距離が短い場合に血液の凝固能が高いと判定することができる。逆に、浸入速度が速いまたは浸入距離が長い場合に血液の凝固能が低いと判定することができる。血液の凝固能を測定することにより、被験者の動脈硬化などの血栓性疾患や血友病などの血液凝固異常の危険性・有無、抗凝固剤による治療効果などについて検査することができる。
【0015】
なお、より簡便に判定するために、図1に示すようにチップ1上に血液凝固能を目視で判定するための指標13を設けてもよい。
具体的には、指標13として、例えば、チップ1上に目盛りを設けて、目盛りに基づいて凝固能が正常、要注意、または異常であるというように判定することができる。
あるいは、直接、「正常」、「要注意」、もしくは「異常」というようなマークをチップ上に付してもよいし、図1のように、○、△、×というようなマークを付し、○のときは正常、△は要注意、×は異常というように判定できるようにしてもよい。
【0016】
血液注入口10に注入する血液はごく少量でよく、例えば、10〜500μl、好ましくは50〜100μlとすることができる。注入する血液は、全血、多血小板血漿または血漿などを用いることができる。
採血直後の血液の凝固能を測定するときは、特に抗凝固処理しなくてもよいが、採血後、検査に供するまでの時間が必要な場合は、あらかじめ血液を抗凝固処理することが好ましい。抗凝固処理した血液の凝固能を検査する場合は、血液注入口10に注入する直前に、抗凝固処理された血液に抗凝固解除剤を混合して抗凝固処理を解除し、その直後に血液注入口10に注入して流路11に侵入させることで、凝固能を調べることができる。この場合も、浸入距離が短い場合に凝固能が高いと判定することができ、逆に、浸入距離が長い場合に凝固能が低いと判定することができる。この場合も、チップ1に指標13を付して、指標に基づいて判定することもできる。
血液の凝固能を測定することにより、被験者の血栓性疾患、血液凝固異常や抗凝固剤による治療効果などについて検査することができる。
【0017】
抗凝固処理に用いる抗凝固処理剤としては、クエン酸ナトリウムまたはカリウムなどのクエン酸塩、シュウ酸ナトリウムまたはカリウムなどのシュウ酸塩、ACD(Acid Citrate Dextrose)、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)塩などを挙げることができる。このような抗凝固処理剤は、粉末、凍結乾燥品、水溶液などの溶液として使用することができる。これらのうち、既存の3.2%クエン酸ナトリウム水溶液が容易に入手できることから好ましい。この場合、血液9容に対して抗凝固処理剤1容とするのが好ましい。
抗凝固処理剤により抗凝固処理を解除するためには、カルシウム等の抗凝固解除剤の添加を行う。この場合、抗凝固処理された血液に抗凝固解除剤を、血液注入口10に注入する直前に混合して抗凝固処理を解除し、その後に流路11内に侵入させる。あるいは、図2に示すチップ1を用いて、抗凝固解除剤をチップ1上の抗凝固解除剤添加口14から供給し、流路11内で抗凝固処理を解除しつつ侵入させてもよい。
【0018】
ところで、抗凝固処理剤としてカルシウムを用いると、血液本来のカルシウム濃度を反映した検査ができない。したがって、血液本来のカルシウム濃度を反映した検査を行う場
合は、カルシウム以外の抗凝固処理剤を用いることが好ましい。その様な抗凝固処理剤としては、へパリン、ヒルジン、ヒルログ(ヒルジンC末端領域ペプチド)、アプロチニン、抗トロンビン抗体、トロンビンアプタマー、コーン由来トリプシンインヒビター(1977. J.Biol.Chem 252.8105)等の利用が可能である。これらは、血液凝固因子を阻害することで凝固カスケードを阻害し、血液凝固を阻害するものである。これらの中ではヘパリンが好ましい。ヘパリンによる抗凝固処理を解除する場合は、ヘパリナーゼなどによって解除することができる。この場合も、抗凝固処理された血液に抗凝固解除剤を、血液注入口10に注入する直前に混合して抗凝固処理を解除し、その後に流路11内に侵入させる。あるいは、図2に示すチップ1を用いて、抗凝固解除剤をチップ1上の抗凝固解除剤添加口14から供給し、流路11内で抗凝固処理を解除しつつ侵入させてもよい。
【0019】
抗凝固処理した血液を得る方法としては、シリンジ又は真空採血管に予め抗凝固処理剤を入れて採血を行う方法、又は採血直後の血液に抗凝固処理剤を速やかに加える等の方法で抗凝固血液を得ることができる。また、ヘパリンを含む真空採血管等で採血した後、へパリナーゼなどの抗凝固処理剤を加え、へパリンを分解させ、別の抗凝固処理剤と置き換えることも可能である。この方法によれば、血液の凝固能を検査する目的に合わせて自由に抗凝固処理剤を選択して抗凝固処理した血液を採血することが可能である。
【0020】
血液凝固能を検査する場合、検査時間を短縮する為に、内因系血液凝固カスケード又は外因系血液凝固カスケードを活性化する薬剤を血液に添加しても良い。
この場合、内因系血液凝固カスケードの活性化にはエラジン酸、外因系凝固カスケードの活性化には組織トロンボプラスチンなどを用いることが好ましい。
【0021】
特に、本発明の血液凝固能の検査装置は、マイクロチップ1の流路11の少なくとも一部に内因系又は外因系の凝固カスケードを活性化して血液凝固を促進する素材を用いる。好ましくは、チップ1の少なくとも一部、例えば、基板の溝を形成する部分や蓋にガラス又はコラーゲンをコートした素材などを用いる。これにより、血液凝固を活性化する薬剤を混合しなくても凝固能の測定時間を短縮することが可能である。
具体的には、例えば、チップ1の蓋をガラス又はコラーゲンをコートしたガラスやコラーゲンをコートしたプラスチック等の素材で形成する。あるいは、チップ1の基板の溝を、コラーゲンをコートしたプラスチック等の素材で形成する。そして、蓋と基板を接合して、少なくとも一部にガラス又はコラーゲンをコートした素材を用いて流路11としたチップ1が得られる。
【0022】
ガラスを用いて流路11を形成した場合には、血液がガラスと接触しながら流れることでエラジン酸等の内因系の血液凝固を活性化する薬剤を混合した場合に近い効果が得られる。コラーゲンをコートした素材を用いて流路11を形成した場合には、血小板や赤血球が短時間にてコラーゲンに接着し、活性化されて、細胞表面にリン脂質膜や組織因子等により血液凝固が促進される。
【0023】
また、コラーゲンをコートした素材やガラスを用いて流路11を形成したチップ1にクエン酸やヘパリンによって抗凝固処理された血液を抗凝固処理の解除を行わずに侵入させることで、血小板及び白血球の接着機能を検査することが可能である。この場合も血球の活性化による凝集に応じて流路11が狭くなり、血液の浸入が遅れるので、血液の浸入速度を指標に検査することが可能である。
【0024】
なお、より精度よく検査するために検査する血液の温度を一定に保って測定することが好ましく、より生体に近い条件で測定を行うために、血液を30〜40℃、特に好ましくは37℃に保った状態で測定することが好ましい。検査する血液の温度を一定に保って測
定するには、付帯設備を含めて血液凝固能の検査装置全体を温めて測定してもよいが、マイクロチップ1のみを温めてもよい。具体的には、恒温槽にマイクロチップ1を入れて測定する態様や恒温プレート上にマイクロチップ1を載せて測定する態様などが例示される。
【0025】
図2は本発明の血液凝固能検査の方法及び装置の第2の態様について示す。
この態様では、流路11がY字型に形成されており、抗凝固処理された血液を血液注入口10に注入する。一方、抗凝固解除剤を抗凝固解除剤添加口14に添加して流路11内で血液の抗凝固処理を解除しつつ侵入させて血液の凝固能を測定するものである。
この場合も抗凝固剤および抗凝固処理解除剤は、上述したものが使用できる。この場合も浸入距離が短い場合に凝固能が高いと判定することができ、逆に、浸入距離が長い場合に凝固能が低いと判定することができる。この場合も、チップ1に指標を付して、指標に基づいて判定することもできる。
血液の凝固能を測定することにより、被験者の血栓性疾患、血液凝固異常や抗凝固剤による治療効果などについて検査することができる。
【0026】
また、抗凝固解除剤添加口14に抗凝固解除剤とともに内因系又は外因系の凝固カスケードを活性化して血液凝固を促進する薬剤として抗血栓薬を同時に添加して抗血栓薬の薬効の評価を行うこともできる。
なお、図2では流路はY字型に形成されており、抗凝固解除剤と混合された後の血液流路は直線であるが、この部分の流路11を図1と同様に蛇行させてもよい。
なお、図2では表示部は省略されているが、この態様においても表示部を設けてもよいことは言うまでもない。
【0027】
以下に、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0028】
[実施例1]
全血90容量%に対して10容量%となるように3.2%クエン酸ナトリウム水溶液によって抗凝固処理した全血300μlに血液凝固解除剤として下記の血液凝固開始剤Aを6μl添加し、血液凝固解除剤添加30秒後に、図3に示される流路が設けられたリッチェル社製マイクロチップナチュラルフローII型(製品名)に50μl注入した。各ポイント(指標)までの到達時間を秒で表1のA欄に示す。
血液凝固開始剤A; in-tem試薬(Pentapharm社;組成 エラジン酸+ウサギ脳由来リン脂質)100μlに2M塩化カルシウム溶液60μlを混和した溶液
【0029】
[実施例2]
実施例1で用いた抗凝固処理した全血に0.5単位/mlの未分画へパリンを加えた後、凝固開始剤Aを添加したこと以外は実施例1と同様の試験を行った。各ポイントまでの浸入時間を秒で表1のB欄に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1からヘパリンによって抗凝固処理されて凝固能が抑えられた実施例2の血液(B)の方が、ポイント8までの到達時間が短いので、浸入速度が高く、凝固能が低いことが判る。また、例えば、検査を5分で打ち切れば、実施例1の血液(A)は、ポイント6と7の間までしか到達しないが、実施例2の血液(B)は、ポイント7と8の間まで到達した状態を目視で観測することができる。この様にすれば、測定治具を用いなくても実施例2の血液(B)の方が、凝固能が低いことが判る。
【0032】
以上、本発明を好適な実施の形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の実施例や形態例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。例えば、本発明の血液凝固能の測定装置は、マイクロチップからなるが、他の付属品、例えば、血液や各種薬剤注入や血液の排出を補助する治具や装置、あるいは、浸入速度や浸入距離の測定を補助する治具や装置等を備えていてもよいものである。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の装置および方法は、被験者の血液の凝固能を簡便に測定することができ、被験者の血栓性疾患や血液凝固異常の危険性や有無、さらには抗凝固剤による治療効果の確認などを簡便に評価するために好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1の形態例に係る血液の凝固能検査装置を示す概念図である。
【図2】本発明の第2の形態例に係る血液の凝固能検査装置を示す概念図である。
【図3】実施例2に係る血液の凝固能検査装置の流路を簡略化して示した図である。
【符号の説明】
【0035】
1…血液凝固能の検査装置(マイクロチップ)、10…血液注入口、11…流路、12…排出口、13…表示部、14…抗凝固解除剤添加口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に流路が設けられたマイクロチップの流路に血液を毛細管現象によって浸入させ、流路内での血液の浸入速度または浸入距離に基づいて血液の凝固能を検査することを特徴とする血液凝固能の検査方法。
【請求項2】
抗凝固処理された血液を、抗凝固処理を解除した後、または、解除しながら流路に浸入させて血液の凝固能を測定する、請求項1に記載の血液凝固能の検査方法。
【請求項3】
抗凝固処理された血液に抗凝固処理を解除する薬剤と内因系又は外因系の凝固カスケードを活性化して血液凝固を促進する薬剤を混合し流路に浸入させる、請求項1に記載の血液凝固能の検査方法。
【請求項4】
抗凝固処理がクエン酸による処理である、請求項2または3に記載の血液凝固能検査方法。
【請求項5】
カルシウムを添加することによってクエン酸による抗凝固処理を解除する、請求項4に記載の血液凝固能の検査方法。
【請求項6】
抗凝固処理がヘパリンによる処理である、請求項2または3に記載の血液凝固能の検査方法。
【請求項7】
ヘパリナーゼを添加することによってヘパリンによる抗凝固処理を解除する、請求項6に記載の血液凝固能の検査方法。
【請求項8】
血液の温度を一定に保った状態で検査を行う、請求項1ないし7のいずれかに記載の血液凝固能の検査方法。
【請求項9】
基板に流路が設けられたマイクロチップの流路に血液を毛細管現象によって流路に浸入させ、流路内での血液の浸入速度または浸入距離に基づいて血液の凝固能を検査する検査装置であって、前記マイクロチップの流路の少なくとも一部に内因系又は外因系の凝固カスケードを活性化して血液凝固を促進する素材を用いることを特徴とする血液凝固能の検査装置。
【請求項10】
内因系又は外因系の凝固カスケードを活性化して血液凝固を促進する素材がガラス又はコラーゲンをコートした素材である、請求項9に記載の血液凝固能検査装置。
【請求項11】
流路が蛇行するように設けられた、請求項9または10に記載の血液凝固能の検査装置。
【請求項12】
前記マイクロチップに血液凝固能の評価を示す指標が付された、請求項9ないし11のいずれかに記載の血液凝固能の検査装置。
【請求項13】
さらに、検査する血液の温度を一定に保つためのヒーターを有する、請求項9ないし12のいずれかに記載の血液凝固能の検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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