説明

血液処理カラム

【課題】血漿分離材料と選択的吸着材料を同一カラムに充填した血液処理カラムであって、さらに、除去ターゲット物質の吸着効率を減少させる原因となるアルブミンを被処理血液から分離することにより、吸着効率を向上させることを可能とする血液処理カラムを提供すること。
【解決手段】分子量67000のデキストランのふるい係数が0.3未満である中空糸形態を有した血漿分離材料4、6、8により、吸着効率を低下させるアルブミンを除去し、さらに選択的吸着材料5、7、9と同一カラムに充填した血液処理カラムを提供することにより、除去ターゲット物質を効率的に除去することで病態の改善効果が得られることが考えられ、血漿分離材料と選択的吸着材料とを同一カラムに充填することによって、循環血液量の少ない未熟児や幼児ならびに循環動態の不安定な患者にも血液浄化が施行することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療分野に使用される血液処理カラムに関し、特に、血漿分離材料と選択的吸着材料を同一カラムに充填した血液処理カラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、全身性炎症反応症候群(Systemic inflammatory response syndrome)(以下SIRSと略す)という概念で示される病態、敗血症、敗血性ショック、急性呼吸器窮迫症候群(Acute respiratory distress syndrome )急性肺障害(Acute lung injury)、重症急性膵炎、胆管炎、乾癬、全身性エリテマトーデス、ライム病、川崎病、慢性関節リウマチ、膠原病、潰瘍性大腸炎、クローン病、MPO−ANCA関連腎炎、急速進行性糸球体腎炎、子宮内膜症、子宮内感染症、脳室周囲白質軟化症において血液中の炎症性サイトカインや抗炎症性サイトカインを低下させることによる治療効果が示されている。また、血中に過剰のビリルビンが存在することによって発症する黄疸、特に新生児黄疸などで、血中のビリルビンを低下させる治療方法が行われている。これらの病因物質を血中から除去する治療方法の1つとして血液浄化療法があるが、従来からの血液浄化療法として、血液を直接選択性吸着カラムに通過させて、病因物質を除去する血液吸着(Direct Hemoperfusion)や血漿分離カラムを用い、全血液から血漿を分離し、得られた血漿をさらに二次濾過として、血漿分画カラムを用いる二重濾過血漿分離交換法(Double filtration plasmapheresia)や、血漿交換カラムを用い、全血液から血漿を分離した後に選択的血漿成分吸着剤を用いる、いわゆる2つのカラムを用いて血液浄化を行う技術がある。しかし、カラムを2つ用いることにより、循環血液量の少ない未熟児、新生児ならびに幼児や、敗血性ショックや肺障害などを呈した循環動態が不安定な患者に使用した場合、体外に循環される血液量が多くなり、血圧の低下など循環動態を不順にするおそれがある。また、使用するカラムの本数が増えると、血液浄化時の操作が煩雑になるともに、細菌やウイルスなどに感染する機会も増える。また、カラムを接続する回路や血液浄化を行う循環装置も必要になり医療費も高額化する。そこで、血漿分離材料と選択的吸着材料を1つのカラムに充填した血液処理カラムについて開発がされている(特許文献1、2、3)。しかしながら、血漿分離材料として用いられている材料は単に中空糸様と規定されているだけである。通常血漿分離に用いられている中空糸の平均孔径は0.2〜0.3μmであり、血漿分離したものには分子量の大きい物質やタンパクなどが含まれて、このような物質が血漿中に存在すると、吸着材料と接した際のインターロイキン類またはビリルビンなどの除去ターゲット物質の吸着効率は低くなる傾向があった。
【特許文献1】特開昭63−040563号公報
【特許文献2】特開平8−164202号公報
【特許文献3】特開2000−167044号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明においては、血漿分離材料と選択的吸着材料を同一カラムに充填した血液処理カラムであって、さらに、除去ターゲット物質の吸着効率を減少させる原因となる物質を特定して、これを被処理血液から分離することにより、これらの吸着効率を向上させることを可能とする血液処理カラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記課題を達成するため、本発明の血液処理カラムは以下の構成からなる。
1.分子量67000のデキストランのふるい係数が0.3未満である中空糸形態を有する血漿分離材料と選択的吸着材料とが同一カラムに充填されたことを特徴とする血液処理カラム。
2.前記血漿分離材料のアルブミンのふるい係数が0.3未満であることを特徴とする前記1記載の血液処理カラム。
3.前記選択的吸着材料が水素結合形成可能な官能基を二種以上有し、該官能基のうち少なくとも一種が含窒素官能基であることを特徴とする前記1または2に記載の血液処理カラム。
4.前記含窒素官能基が尿素結合、チオ尿素結合、アミド結合、アミノ基、ピリジル基、ピリミジル基およびイミダゾール基のうち少なくとも一種から選ばれることを特徴とする前記1〜3のいずれかに記載の血液処理カラム。
5.前記選択的吸着材料がインターロイキン−1、インターロイキン−6、インターロイキン−8、トランスフォーミング・グロウス・ファクター・ベータ1およびビリルビンのうち少なくとも一種を吸着する用途に用いるものであることを特徴とする前記3または4記載の血液処理カラム。
6.前記選択的吸着材料がLogP値が2.5以上の化合物を固定してなることを特徴とする前記1〜5のいずれかに記載の血液処理カラム。
7.前記選択的吸着材料が繊維、ビーズ、フェルト、スポンジ、ネットの少なくとも1種類の形状を有することを特徴とする前記1〜6のいずれかに記載の血液処理カラム。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、血漿分離材料と選択的吸着材料を同一カラムに充填した血液処理カラムにおいて、除去ターゲット物質の吸着効率を減少させるアルブミンを被処理血液から分離することにより、これらの吸着効率を向上させる血液処理カラムを得ることが可能となる。特に、血液を血漿分離材料により濾過した血漿は、血中に高濃度に存在するアルブミンやグロブリンの濃度が減少しているため、その血漿中の除去ターゲット物質をその周囲に配された選択的吸着材料により、効率よく除去することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明においては、血漿分離材料と選択的吸着材料とを同一カラムに充填することを特徴としており、被処理血液を選択的吸着材料に接触させる前に血漿分離材料に接触させる構成態様が好ましい。かかる構成態様の意義は、除去ターゲット物質の吸着効率を上げることにある。つまり、本発明においては、除去ターゲット物質の吸着効率を減少させる物質としてアルブミンに着目し、血漿分離材料のふるい係数を規定することで、濾過される血漿のアルブミン含有濃度を調製できることを見いだし、かかる血漿中のアルブミン濃度が低いとき、吸着材料と接した際のインターロイキン類またはビリルビンなどの除去ターゲット物質の除去効率は高くなることを見いだしたものである。すなわち、カラムに配され血漿分離材料に最初に血液を流すと、血漿分離材料の外側に血漿が濾過により分離され、周囲に充填された選択的吸着材料と接触する。このとき、分離される血漿中のアルブミン濃度を低くすることにより、インターロイキン類またはビリルビンなどの除去ターゲット物質の除去効率を高くすることが可能となる。さらに、除去ターゲット物質が除去された血漿は、精製された血漿として得ることもでき、または、血漿分離材料の内側を通って排出される血球に再度合流させることもできる。本発明においては、血漿分離材料のアルブミンの透過性の指標として、分子量67000のデキストランのふるい係数を用いる。血漿分離材料の上記のデキストランのふるい係数は、0.3未満がよい。さらにデキストランより粒子経の小さいアルブミン(ストークス半径3.5nm)のふるい係数を0.3未満と規定することにより、除去ターゲット物質の吸着効率が高くなり、凝固因子等の分子量の大きい有用性物質の漏出も抑制することが可能となる。デキストランのふるい係数は0.3以上の場合は材料の孔径が大きく、アルブミンの透過が大きくなり、選択的吸着材料による吸着効率を低下させる。したがって、デキストランのふるい係数は0.3未満がよく、アルブミンのふるい係数が0.3未満の場合が好ましい。一方、血漿分離材料の孔径の下限としては、アルブミンのふるい係数が0.1未満であると、除去するターゲット物質が中空糸の間を通過せず、体外に除去することが困難である。
【0007】
分子量67,000のデキストランふるい係数またはアルブミンのふるい係数の測定方法は、以下の通りである。
【0008】
選択透過性分離膜である中空糸膜をプラスチック製等のカラムケースに挿入し、両末端をエポキシ系樹脂等で固定してミニモジュールを作成し、分子量1000〜300,000の範囲で、すくなくとも35,000と67,000を含む分子量分布を有するデキストランをそれぞれ所定の濃度になるように限外濾過水に溶解する。この溶液を37℃の温度に加熱、保温し、血液側(中空糸内側)にポンプを用いて所定の流量(例えば、10ml/min)で流し、透析液等を濾過側(中空糸外側)に所定の濾過流量(例えば、2ml/min)で流して一定時間膜を馴染ませた後、血液側入口、血液側出口(いずれも中空異と内側)、濾過側出口(中空糸外側)から流れる溶液をサンプリングし、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いてかかるサンプリング液のデキストラン濃度を測定し、分子量とデキストラン濃度とから得られる検量線から分子量67,000のデキストランふるい係数を下記式より算出する。また、アルブミン(ストークス半径3.5nm)のふるい係数についても下記式より算出する。
【0009】
ふるい係数=2C/(CBi+CBo)
ここでCBi:モジュール血液側入口濃度、CBo:モジュール血液側出口濃度、C:モジュール濾過側出口濃度(mg/mL)を示す。
【0010】
血漿分離材料の素材は、特に限定されるものではなく、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、ポリスルホン、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリビニルアルコール、ポリテトラフルオロエチレンなどの合成高分子材料や、セルロース、コラーゲン、キトサン及びその誘導体を含む天然高分子材料が挙げられ、単独もしくは、組み合わせて用いることができる。また、血漿分離材料の形態としては、表面積の大きな中空糸膜の形態で用いられる。
【0011】
選択的吸着材料とは、血漿中の物質の中より、アルブミン等の有用物質に比べ、血液に存在する生理活性物質を選択的に吸着できるものであり、特に限定はなく、公知の技術も用いることが可能である。中でも、インターロイキン−1、インターロイキン−6、インターロイキン−8、トランスフォーミング・グロウス・ファクター・ベータ1およびビリルビンのうち、少なくとも1種類の除去ターゲット物質を選択的に吸着させる材料は好適に用いられる。
【0012】
本発明における選択的吸着材料の形状としては特に限定はないが、ビーズ状、繊維(複合繊維、中空繊維、糸束、ヤーン等)、スポンジ状、ネット状、編地、織物等として用いられるが、表面積が大きく、流路抵抗が小さいことを考慮すると、繊維(特に中空繊維や複合繊維)、編地、織物が好ましく用いられる。基材あるいは担体がポリマであれば、その多くは繊維形成能を有するため容易に繊維状とすることができるが、カラム充填材として使用するには強度不足の場合には、他のポリマとの複合繊維とすることや、他の繊維と混繊、混編、混織する等により改良が可能である。例えば、ポリスチレン/ポリプロピレン海島繊維は、ポリスチレンの修飾のしやすさと、ポリプロピレンによる強度補強による扱い易さを持つためより好ましい態様である。被覆材料の場合は、編織物あるいはフィルム等の形状が好ましい。
【0013】
本発明において、血漿分離材料と選択的吸着材料を同一カラムに充填する意義は、体外に循環される血液量を少なくすることが可能になり、循環血液量の少ない未熟児、新生児ならびに幼児に使用した場合でも循環動態に悪影響を及ぼすことがなく、安全に施行できることにある。特に未熟児ならびに新生児における血液浄化療法は近年普及が進み、体重が1,000g以下の患者においても治療を積極的に実施する動きがある。ただ、たとえば、1,000gの患者では循環血液が約80mLと非常に少量であり、循環動態も不安定である。しかし、血漿分離材料と選択的吸着材料を同一カラムに充填することで、体外に循環される血液量を少なくすることが可能になる。また、血漿分離材料により血漿中のアルブミンを除去することにより、効率的に除去ターゲット物質を吸着除去することが可能となり、早期の病状改善効果が期待できる。さらに、未熟児ならびに新生児における治療では血液浄化療法にかかる時間も短縮され、患者の負担を軽減できるものである。また、血漿分離材料と選択的吸着材料をそれぞれのカラムに充填して施行する場合、使用するカラムの本数が増え、血液浄化時の操作が煩雑になるともに、細菌やウイルスなどに感染する機会も増え、衛生面でも問題がある。特に、血液浄化療法を実施する上で、カラムや回路内に細菌やウイルスなどの感染を発症させてしまうと敗血症を誘発し、患者の予後に危険を及ぼすものであり、そのような感染のリスクを軽減することは重要である。
【0014】
血漿分離材料と選択的吸着材料の充填は、従来の人工腎臓等の中空糸モジュールに中空糸束を収納する方法と同様の糸束の挿入操作でも行える。またこれらの材料の充填方法には特に規定はなく、血液が血漿分離材料により分離された後に選択的吸着材料により処理される構造や配置を有していればよい。例えば、中心に血漿交換材料を充填し、血漿分離材料を囲むように繊維、編地、織物、フェルト、スポンジ、ビーズまたはネットなどの選択的吸着材料を充填する方法や、血漿分離材料を充填し、血漿が濾過される側に選択的吸着材料を充填する方法もある。また、個々の血漿分離材料と血漿分離材料の間に選択的吸着材料を充填する方法もある。
【0015】
さらに、選択吸着材料の種類はひとつまたは複数の選択吸着材料を充填することが可能であり、かかる吸着材料の外側にネット等を充填する方法もある。
【0016】
本発明における選択吸着材料は材料に水素結合形成可能な官能基を有するものであることが好ましい。水素結合形成可能な官能基とは水素結合が形成可能な官能基であれば特に限定はなく、例えば、尿素結合、チオ尿素結合、アミド基、アミノ基、ピリジル基、ピリミジル基、イミダゾール基、水酸基、カルボキシル基、アルデヒド基、メルカプト基などが挙げられるが、含窒素官能基が好ましく、尿素結合、チオ尿素結合あるいはアミド結合、アミノ基、ピリジル基、ピリミジル基、イミダゾール基のうちの少なくとも一種であることが好ましい。なお、前記の水素結合形成可能な官能基には、それに続いた構造を有していてもよい。水素結合形成可能な官能基に続く構造としては特に限定はなく、プロパン、ヘキサン、オクタン、ドデカンなどの脂肪族化合物やシクロヘキサン、シクロペンタンのような脂環族化合物を用いることができるが、親和性の高さを考慮するとベンゼン、ナフタレン、アントラセン等の芳香族化合物がより好ましく用いられる。ブロモヘプタン、クロロシクロヘキサン、メチルベンゼン、クロロベンゼン、ニトロベンゼン、ジフェニルメタン、クロロナフタレン等の誘導体も好適に用いられる。
【0017】
また、本発明においては、水素結合形成可能な官能基を二種以上有することがより好ましく、そのうち少なくとも一種が上述の含窒素官能基であることが好ましい。特に、含窒素官能基のうち少なくとも一種が尿素結合、チオ尿素結合あるいはアミド結合を複数有する官能基から選ばれることが好ましい。この場合、基材に異なる水素結合形成可能な官能基をそれぞれ結合させてもよいし、ある水素結合形成可能な官能基に、それに続く構造として別の種類の水素結合形成可能な官能基を結合させた態様でもよい。特に尿素結合、チオ尿素結合あるいはアミド結合に続く構造として例えば、アミノ基、水酸基、カルボキシル基等の水素結合形成可能な官能基をさらに有する構造が好ましく用いられる。例えばアミノ基を有する構造としては、アミノヘキサン、モノメチルアミノヘキサン、ジメチルアミノヘキサン、アミノオクタン、アミノドデカン、アミノジフェニルメタン、1−(3−アミノプロピル)イミダゾール、3−アミノ−1−プロペン、アミノピリジン、アミノベンゼンスルホン酸、トリス(2−アミノエチル)アミン等や、より好ましくは、ジアミノエタン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジプロピレントリアミン、ポリエチレンイミン、N−メチル−2,2’−ジアミノジエチルアミン、N−アセチルエチレンジアミン、1,2−ビス(2−アミノエトキシエタン)等のようなアミノ基を複数有する化合物(ポリアミン)が用いられる。また、水酸基を有する構造としては、ヒドロキシプロパン、2−エタノールアミン、1,3−ジアミノ−2−ヒドロキシプロパン、ヒドロキシブタノン、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシピリジン等や、グルコース、グルコサミン、ガラクトサミン、マルトース、セルビオース、スクロース、アガロース、セルロース、キチン、キトサン等の単糖、オリゴ糖、多糖等の糖質あるいはそれらの誘導体を用いることができる。さらに、カルボキシル基を有する構造としては例えば、β−アラニン、n−カプロン酸、イソ酪酸、γ−アミノ−β−ヒドロキシ酪酸等を用いることができる。本発明の最も好ましい態様は、尿素、チオ尿素あるいはアミド基に続く構造として芳香族化合物と水素結合形成可能な化合物の両方を有するものである。かかる官能基を有する選択吸着材料は、インターロイキン−1、インターロイキン−6、インターロイキン−8、トランスフォーミング・グロウス・ファクター・ベータ1およびビリルビンのうち少なくとも一種を吸着する用途に用いることが可能である。
【0018】
さらに、尿素結合、チオ尿素結合あるいはアミド結合を分子構造内に複数個有するような、ポリ尿素、ポリチオ尿素、ポリアミドも本発明材料の基材あるいは担体として用いることができる。これらの場合にも、尿素結合、チオ尿素結合、アミド結合に続く構造として上記構造のいずれも用いることができるが、最も好ましくは、水酸基、アミノ基、カルボキシル基を有する化合物(糖質あるいはその誘導体を含む)、あるいは芳香族化合物が用いられる。
【0019】
また、本発明における基材あるいは担体としては、モノマ、オリゴマ、ポリマのいずれでもよく、ポリアミド、ポリメチルメタクリレート、ポリスルホン、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリビニルアルコール、ポリテトラフルオロエチレンなどの合成高分子や、セルロース、コラーゲン、キチン、キトサンおよびそれらの誘導体を含む天然高分子などが好適に用いられる。つまり、単独重合、共重合あるいはブレンドされたこれら合成高分子や天然高分子などに、水素結合形成可能な官能基を導入することが好適に行われる。さらに、金属、セラミック、ガラスなどの無機材料を基材として適当な高分子で被覆したり、表面を直接修飾したものも好適に用いられる。特にポリスチレン、ポリスルホン、ポリメチルメタクリレート等は、表面修飾が容易に行えるため、好ましく用いられる。
【0020】
上記官能基を有する場合において、選択的吸着材料の素材は、特に限定されるものではなく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリアミド等の合成高分子及びその複合体あるいはセルロース、アガロース、デキストラン、キトサン、ポリアミノ酸あるいはそれらの複合体等の天然高分子あるいはその誘導体、金属、ガラス、セラミクス等の無機材料のいずれもが使用可能である。
【0021】
本発明における選択吸着材料は、LogP値が2.5以上の化合物、好ましくはLogP値が2.8以上、さらに好ましくは3.0以上の化合物を有するものであることが好ましい。ここでいうLogPとはオクタノール水系での分配係数をいう。これらの化合物を有する場合、インターロイキン−1、インターロイキン−2、インターロイキン−6およびインターロイキン−8が高率に吸着する。LogP値が2.5以上の化合物とは特に限定されるものではなく、LogP値が2.5以上の化合物の中でも不飽和炭化水素、アルコール、アミン、チオール、カルボン酸およびその誘導体、ハロゲン化物、アルデヒド、ヒドラジド、イソシアナート、グリシジルエーテルなどのオキシラン環含有化合物、ハロゲン化シランなどのように担体への結合に利用できる官能基を有する化合物が好ましい。
【0022】
上記官能基を有する場合において、選択的吸着材料の素材は、対象とする物質の種類に応じて選択するものであり、その他特に限定はないが、モノマ、オリゴマ、ポリマのいずれでも良く、ポリアミド、ポリメチルメタクリレート、ポリスルホン、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリビニルアルコール、ポリテトラフルオロエチレンなどの合成高分子や、セルロース、コラーゲン、キチン、キトサンおよびそれらの誘導体を含む天然高分子などが好適に用いられる。つまり、単独重合、共重合、架橋あるいはブレンドされたこれら合成高分子や天然高分子などに、水素結合形成可能な官能基を導入することや、logP値が2.5以上の化合物の固定が好適に行われる。
【0023】
除去率の算出方法は、以下の式の通りとした。
除去率(%)=(CBi−(CBo+CFo)/2)/CBi×100
CBi:カラム入口のサイトカインまたは総ビリルビン濃度
CBo:カラム出口のサイトカインまたは総ビリルビン濃度
CFo:濾液側出口のサイトカインまたは総ビリルビン濃度
【実施例】
【0024】
実施例1
血漿分離材料として、ポリスルホン中空糸は以下のような手順で作製した。ポリスルホン(アモコ社 Udel−P3500)18重量部、ポリビニルピロリドン(BASF K90)3重量部、ポリビニルピロリドン(BASF K30)6重量部をジメチルアセトアミド72重量部、水1重量部に加え、製膜原液とした。この原液を温度50℃の紡糸口金部へ送り、環状スリット部分の外径0.35mm、内径0.25mmの2重スリット管から芯液としてジメチルアセトアミド55重量部、水45重量部からなる溶液を内側の管より吐出させ中空糸膜を形成させた後、温度30℃、露点28℃に調湿したドライゾーン雰囲気を有する長さ250mmの空間を経て、ジメチルアセトアミド20wt%、水80wt%からなる温度40℃の凝固浴を通過させて中空糸膜を得た。その後、80℃の水で20秒行う水洗工程、グリセリンによる保湿工程を経て得られた中空糸膜を巻き取り束とした。血漿分離材料として100本束ね、中空糸の中空部を閉塞しないようにエポキシ系ポッティング剤で両末端を内径5mmφのカラムケースに固定しミニカラムを作成した。該カラムの有効長(カラム長手方向における、エポキシ系ポッティング剤で封止された両末端を除いた部分の長さ)は10cmであり、一般的な中空糸膜型透析器同様に透析液ポートを2個有しており、その透析液側の一方を閉塞し、他方はシリコーンチューブをつなぎ、循環ポンプに接続し濾過可能とした。次に、5%人血清アルブミン溶液(分子量66,458、バイエル薬品株式会社)を用いて、この溶液を37℃に加熱、保温し、血液側(中空糸内側)にポンプを用いて流量2ml/minで流し、濾過流量を1.5ml/minとして20分間膜を馴染ませた後、血液側入口、血液側出口、濾過側出口(中空糸外側)から流れる溶液をサンプリングし、ふるい係数を算出した。次にポリスルホン膜製中空糸ならびにポリメチルメタクリレート膜製中空糸の外側に、下記のサイトカインならびにビリルビン吸着繊維を充填し、血漿分離材料と吸着材料とを一体化したカラムを作製した。すなわち、サイトカインならびにビリルビン吸着繊維の作製方法は以下の通りである。65重量比の海成分(ポリスチレン)と35重量比の島成分(ポリプロピレン)とからなる海島型複合繊維(強度:1.0g/d、伸度:47.7%、太さ:132デニール、島の数:16)30gを、60gのN−メチロール−α−クロロアセトアミド、400gのニトロベンゼン、400gの98質量%硫酸、0.86gのパラホルムアルデヒドの混合溶液と20℃で1時間反応させた。反応後、繊維をニトロベンゼンで洗浄し、その後メタノールにより反応を停止させた後、さらにメタノールで洗浄することによりα−クロロアセトアミドメチル化架橋ポリスチレン繊維(以下AMPSt繊維と略す)を得た。
【0025】
次に、AMPSt繊維を、テトラエチレンペンタミン20.0gを溶解したジメチルスルホキシド(以下DMSOと略す)500mlに添加し、反応を30℃で3時間行った。さらにその繊維を1.9gの4−クロロフェニルイソシアネートを溶解したDMSO1000mlの溶液に添加し、反応を30℃で1時間行った。その後、ガラスフィルター上でDMSO1000mlを用いて洗浄し、さらに蒸留水1000mlを用いて洗浄し、尿素結合を導入したAMPSt繊維(UAMP繊維と略す)を得た。
【0026】
次に、健康成人より血液50mLを採取し、ヘパリンを10 IU/mlになるように添加した。さらに、その血液にヒトインターロイキン1β、6、8、TGFβ1およびビリルビンを添加した。このように調製した血液を上記カラムに4時間流し、同時に濾過も行った。その際に、血液側入口、血液側出口、濾過側出口(中空糸外側)から流れる溶液をサンプリングし、アルブミン濃度およびサイトカインならびにビリルビン濃度を測定した。サイトカインならびにビリルビン濃度より除去率を算出した。アルブミン濃度は、Human Albumin ELISA Quantitation Kit (BETHYL社製)にて測定した。ヒトインターロイキン1β、6および8は、Human, ELISA Kit(ENDOGEN社製)にて、TGFβ1はHuman, ELISA Kit(R&D社製)にて測定した。ビリルビン濃度は、ジアゾ化反応により、富士ドライケム(富士写真フィルム(株)製)を使用して行った。その結果を表1に示した。
【0027】
【表1】

【0028】
実施例2
血漿分離材料として、芯液の組成をジメチルアセトアミド60重量部、水40重量部からなる溶液に変更した以外は、実施例1と同様にしてミニカラムを作成した。次に、分子量分布の異なる6種類のデキストラン(FULKA社製 平均分子量1,200(No.31394),6,000(No.31388),15,000〜20,000(No.31387),40,000(No.31389),56,000(No.31397),222,000(No.31398))をそれぞれ濃度が0.5mg/mlになるように限外濾過水に溶解した。この溶液を37℃に加熱、保温し、血液側(中空糸内側)にポンプを用いて流量2ml/minで流し、濾過流量を1.5ml/minとして20分間膜を馴染ませた後、血液側入口、血液側出口、濾過側出口(中空糸外側)から流れる溶液をサンプリングし、東ソー社製ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いてかかるサンプリング液のデキストラン濃度を測定し、分子量67,000のデキストランふるい係数を算出した。次にポリスルホン膜製中空糸の外側に、実施例1記載の吸着材料を充填して一体化し、血液処理カラムを作製した。
【0029】
その後の吸着材料の作成、操作ならびに評価は実施例1と同様とした。その結果を表2に示す。
【0030】
【表2】

【0031】
比較例1
エチレンビニルアルコール膜製中空糸(プラズマフロー、OP−05W:旭メディカル(株))を100本束ね、中空糸の中空部を閉塞しないようにエポキシ系ポッティング剤で両末端をカラムケースに固定しミニカラムを作成した。その後の吸着材料の作成、操作ならびに評価は実施例1と同様とした。その結果を表3に示す。
【0032】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、血液浄化療法に限らず、血液の微量の病因物質を検出する方法などにも応用することができるが、その応用範囲が、これらに限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】血液処理カラムの概略断面図である。
【図2】血漿分離材料および選択的吸着材料の充填方法。
【符号の説明】
【0035】
1.血液処理カラム
2.血液ポンプ
3.濾過ポンプ
4.血漿分離材料
5.選択的吸着材料(繊維)
6.血漿分離材料
7.選択的吸着材料(ビーズ)
8.血漿分離材料
9.選択的吸着材料(フェルト)
10.ネット
11.濾過側

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量67000のデキストランのふるい係数が0.3未満である中空糸形態を有する血漿分離材料と選択的吸着材料とが同一カラムに充填されたことを特徴とする血液処理カラム。
【請求項2】
前記血漿分離材料のアルブミンのふるい係数が0.3未満であることを特徴とする請求項1記載の血液処理カラム。
【請求項3】
前記選択的吸着材料が水素結合形成可能な官能基を二種以上有し、該官能基のうち少なくとも一種が含窒素官能基であることを特徴とする請求項1または2に記載の血液処理カラム。
【請求項4】
前記含窒素官能基が尿素結合、チオ尿素結合、アミド結合、アミノ基、ピリジル基、ピリミジル基およびイミダゾール基のうち少なくとも一種から選ばれることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の血液処理カラム。
【請求項5】
前記選択的吸着材料がインターロイキン−1、インターロイキン−6、インターロイキン−8、トランスフォーミング・グロウス・ファクター・ベータ1およびビリルビンのうち少なくとも一種を吸着する用途に用いるものであることを特徴とする請求項3または4記載の血液処理カラム。
【請求項6】
前記選択的吸着材料がLogP値が2.5以上の化合物を固定してなることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の血液処理カラム。
【請求項7】
前記選択的吸着材料が繊維、ビーズ、フェルト、スポンジ、ネットの少なくとも1種類の形状を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の血液処理カラム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−237893(P2008−237893A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−41111(P2008−41111)
【出願日】平成20年2月22日(2008.2.22)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】