説明

血液処理用フィルター、血液処理システムおよび血液製剤の製造方法

【課題】遠心分離後の血液の界面の揺らぎ発生を抑制し、分離された各成分の十分に高い取得量を実現可能な血液製剤の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、貯留バッグと、横方向の長さXおよび縦方向の長さYを有する略長方形のフィルターと、複数の回収バッグと、これらを接続する複数のチューブとを備える血液処理システムを用いた血液製剤の製造方法であって、
A)遠心分離装置が有する深さYの遠心カップ内に血液処理システムを入れる工程と、
B)遠心分離装置によって血液を複数の成分に分離する工程と、
C)複数の成分のうち、一つまたは複数の成分をフィルターで濾過する工程と、
D)フィルターによる濾過がなされた第1の特定成分を第1の回収バッグに回収する工程とを備え、フィルターおよび遠心カップのサイズが特定の条件を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液から凝集物や白血球等の好ましくない成分を除去するための血液処理用フィルターおよびこれを用いた血液処理システムに関し、更に当該システムを用いて血液製剤を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
輸血の分野において、血液製剤中に含まれている混入白血球を除去してから血液製剤を輸血する、いわゆる白血球除去輸血が普及している。これは、輸血に伴う頭痛、吐き気、悪寒、非溶血性発熱反応などの比較的軽微な副作用や、受血者に深刻な影響を及ぼすアロ抗原感作、ウィルス感染、輸血後GVHDなどの重篤な副作用が、主として血液製剤中に混入している白血球が原因で引き起こされることが明らかにされたためである。
【0003】
白血球除去方法には、いくつかの方法がある。そのうちフィルター法は、白血球除去性能に優れていること、操作が簡便であること、およびコストが安いことなどの利点を有するため現在普及している。例えば、特許文献1には、フィルター部材を収容するハウジングが軟質樹脂製からなる白血球除去器が記載されている。
【0004】
ところで、血液を複数の成分に分離して血液製剤を製造するため、血液を貯留バッグに収容した状態で遠心分離が行われる。この貯留バッグのみならず、遠心分離後に特定成分を濾過するためのフィルターや特性成分を回収するための回収バッグを予め貯留バッグに接続し、かかる構成の血液処理システムを遠心分離装置の遠心カップに内に入れて分離処理を行うことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−342680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、上記血液処理システムを遠心カップに入れて血液の遠心分離を行う場合、遠心カップのサイズに応じて適したサイズの血液処理用フィルターを使用すべきことを見出した。まず、遠心カップに対してフィルターが大き過ぎれば、フィルターを遠心カップに入れることが困難であるから、作業効率の点からフィルターのサイズは適度なものとすべきである。これに加え、本発明者らは、適したサイズのフィルターは遠心分離後の各成分の取得量の向上にも寄与し、効率的な血液製剤の製造を可能にすることを見出した。
【0007】
従来の正方形や円形のフィルターは、遠心力が加わると遠心カップ内において血液処理システムの他の部材(貯留バッグや回収バッグ)に対して動きやすく、その動きは貯留バッグ内の成分間の界面の揺らぎを発生させる。また、遠心カップから血液処理システムを取り出す際、貯留バッグと重ねた状態で収容されていたフィルターの位置が貯留バッグに対してずれたりしても界面の揺らぎが発生する。遠心分離後の成分間の界面に揺らぎが生じて2つの成分が混ざると、これらの成分の取得量が低下する。
【0008】
本発明は、遠心分離後の血液の界面の揺らぎ発生を抑制し、分離された各成分の十分に高い取得量を実現可能な血液製剤の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、この方法に用いるのに適した血液処理システムおよび血液処理用フィルターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、血液を収容している貯留バッグと、横方向の長さXおよび縦方向の長さYを有する略長方形の血液処理用フィルターと、血液を遠心分離して得られる複数の血液成分を収容するための複数の回収バッグと、貯留バッグ、フィルターおよび複数の回収バッグを連通する複数のチューブとを備える血液処理システムを用いた血液製剤の製造方法であって、
A)遠心分離装置が有する深さYの遠心カップ内に血液処理システムを入れる工程と、
B)遠心分離装置によって血液を複数の成分に分離する工程と、
C)複数の成分のうち、一つまたは複数の成分をフィルターで濾過する工程と、
D)フィルターによる濾過がなされた一つまたは複数の成分のうちの第1の特定成分を第1の回収バッグに回収する工程と、
を備え、
フィルターおよび遠心カップのサイズが式(1)および式(2)で表される条件:
0.4≦X/Y≦0.6 …(1)
0.9≦Y/Y≦1.0 …(2)
を満たす方法を提供する。
【0010】
上記方法においては、式(1)に示すとおり、縦長の血液処理フィルターを血液処理システムに採用している。また、式(2)の条件を満たすフィルターを遠心カップ内に入れると遠心カップの開口部付近にフィルターの上部が位置することになる。このようなサイズのフィルターを使用することで、フィルターが支柱としての役割を果たし、遠心カップ内において血液処理システムの部材の位置ずれを防止して界面の揺らぎ発生を十分に抑制する。また、遠心カップ(またはそのライナー)から血液処理システムを取り出す時にもフィルターの上部をつまんでゆっくりと引き出すことにより、貯留バッグの変形や揺れによる界面の揺らぎ発生を抑制できる。従って、本発明によれば、遠心分離後の各成分の十分に高い取得量を実現できる。
【0011】
本発明においては、フィルターが支柱としての役割をより確実に果たす観点から、フィルターおよび遠心カップのサイズが式(3)で表される条件:
0.2≦X/X≦0.6 …(3)
を更に満たすことが好ましい。式中(3)中、Xは遠心カップ内部の長径を示す。
【0012】
遠心カップ内においてフィルターが貯留バッグを支持するように、上記A)工程においてフィルターと貯留バッグとを隣接させた状態にして遠心カップ内に血液処理システムを入れることが好ましい。
【0013】
上記A)工程において、遠心カップの底面にフィルターの長さXの辺が当接するまでフィルターを遠心カップ内に押し込むことが好ましい。
【0014】
上記A)工程において、遠心カップの底面とフィルターの面とのなす角度が略直角となるように、遠心カップ内に血液処理システムを入れることが好ましい。
【0015】
上記A)工程において、フィルターの横方向の中心線と、貯留バッグの横方向の中心線とが略一致するように配置して遠心カップ内に血液処理システムを入れることが好ましい。
【0016】
上記C)工程においてフィルターによる濾過がなされた成分であって第1の特定成分以外の成分を、上記D)工程において他の回収バッグに更に回収してもよい。
【0017】
本発明の方法は、E)上記C)工程においてフィルターによる濾過がなされていない成分のうちの第2の特定成分を第2の回収バッグに回収する工程を更に備えてもよい。
【0018】
本発明の方法は、F)第2の特定成分を第2の回収バッグに回収するに先立ち、当該第2の特定成分を第2の血液処理用フィルターで濾過する工程を更に備えてもよい。
【0019】
第1の特定成分は、赤血球、血小板および血漿から選ばれる一種とすることができる。また、第1の特定成分が赤血球であり、第2の特定成分が血小板または血漿とすることができる。
【0020】
本発明は、上記の血液製剤の製造方法に適した血液処理システムを提供する。すなわち、本発明の血液処理システムは、血液を収容するためのものであり長手方向の長さYを有する貯留バッグと、横方向の長さXおよび縦方向の長さYを有する略長方形の血液処理用フィルターと、血液を遠心分離して得られる複数の血液成分を収容するための複数の回収バッグと、貯留バッグ、フィルターおよび複数の回収バッグを連通するチューブとを備え、フィルターおよび貯留バッグのサイズが式(1)および式(4)で表される条件:
0.4≦X/Y≦0.6 …(1)
≧0.8×Y …(4)
を満たす。
【0021】
本発明は、上記の血液製剤の製造方法に適した血液処理用フィルターを提供する。すなわち、本発明の血液処理用フィルターは、横方向の長さXmmおよび縦方向の長さYmmを有する略長方形であり、XおよびYは式(1)および式(5)で表される条件:
0.4≦X/Y≦0.6 …(1)
110≦Y≦140 …(5)
を満たす。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、遠心分離後の血液の界面の揺らぎ発生を抑制でき、十分に高い取得量で血液製剤を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るフィルターの好適な実施形態を示す図である。
【図2】図1に示すフィルターを備えた血液処理システムを示す模式図である。
【図3】遠心分離装置および遠心カップの一例を示す斜視図である。
【図4】貯留バッグ内の血液が複数の成分に分離された状態を示す図である。
【図5】遠心カップのライナーを示す図であり、(a)は横断面図であり、(b)は縦断面図である。
【図6】遠心カップのライナー内に血液処理システムを収容した状態を示す図であり、(a)は横断面図であり、(b)は縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[血液処理用フィルター]
本実施形態に係るフィルター10は、遠心分離によって得られた血液成分から副作用の原因となる微小凝集物や白血球を除去するためのものであり、矩形扁平状の形状を有する。
【0025】
図1に示すとおり、フィルター10は、シート状の濾過材1と、これを収容する可撓性容器3と、血液処理領域R(以下、「領域R」という。)を画成する内側接合部5と、外側接合部6とを備える。
【0026】
フィルター10は、横方向の長さXmmおよび縦方向の長さYmmを有する略長方形である。XとYの比(X/Y)は0.4〜0.6(上記式(1))であり、好ましくは0.4〜0.55であり、より好ましくは0.4〜0.5である。X/Yが0.4未満であると、遠心カップに入る縦方向長さで、フィルターの有効濾過面積を確保することが困難となり、他方、0.6を越えると、巾が大きすぎて、フィルターをカップ内で血液バッグの支柱としての機能を発揮させながらカップから出し入れする際の簡便さが損なわれることとなる。縦方向の長さYは110〜140mmの範囲(上記式(5))であり、好ましくは120〜135mmであり、より好ましくは125〜135である。Yが110mm未満であると、フィルターの有効濾過面積を確保することが困難となり、他方、140mmを越えると、一般的な遠心分離装置の遠心カップの深さより大きくなりカップ内の収容が困難となる。
【0027】
容器3は可撓性シートからなり、一方面F1には入口7が設けられており、他方面F2には出口8が設けられている。入口7および出口8にはチューブ接続用のポート7a,8aがそれぞれ設けられている。フィルター10は、重力によって赤血球画分を流下させる場合、入口7から流入した血液が鉛直方向下向きに流れて出口8に至るように、入口7が上方に位置し、出口8が下方に位置するように鉛直方向に配置される。
【0028】
内側接合部5は、濾過材1と容器3とを一体的に接合している。外側接合部6は、外部環境から濾過材1をより確実に保護するため、フィルター10の厚さ方向に容器3をシールしている。外側接合部6は、矩形の容器3の外周をなすように設けられている。
【0029】
[血液処理用フィルターの製造方法]
まず、血液に含まれる凝集物や白血球を吸着する性能を有するシート状の濾過材用材料を準備し、これを所定のサイズに切断して濾過材1を得る。濾過材用材料の切断は、刃、超音波カッターまたはレーザーカッターによって実施することができる。
【0030】
濾過材用材料としては、柔軟性を有したものが好ましく、メルトブロー法などによって製造された不織布等の繊維構造物や、連続した細孔を有する多孔質体(スポンジ状構造物)、多孔膜などが挙げられる。濾過材用材料として、繊維構造物、多孔質体または多孔膜からなるもの、あるいは、これらを基材とし、その表面に化学的または物理的な改質を施したものを使用してもよい。濾過材用材料は、繊維構造物、多孔質体または多孔膜を単層で用いてもよいし、これらを組み合わせて複数層で用いてもよい。
【0031】
上記繊維構造物の素材としては、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリトリフルオロエチレン、ポリメチルメタアクリレート、ポリスチレンなどが挙げられる。濾過材1またはその基材として繊維構造物を使用する場合、繊維構造物はほぼ均一な繊維径を有する繊維からなるものであってもよいし、国際公開第97/232266号に開示されているような、繊維径の異なる、複数種の繊維が混繊された形態であってもよい。濾過後の血液の白血球数を5×10個/単位以下にまで減じるには、濾過材1を形成する繊維の平均繊維径は、好ましくは3.0μm以下であり、より好ましくは0.9〜2.5μmである。
【0032】
上記多孔質体または多孔膜の素材としては、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、セルロースアセテート、ポリビニルホルマール、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリウレタンなどが挙げられる。濾過後の血液の白血球数を5×10個/単位以下にまで減じるには、多孔質体または多孔膜の平均孔径は2μm以上10μm未満であることが好ましい。
【0033】
容器3を形成するための可撓性を有する樹脂シートまたはフィルムを準備する。容器3の素材としては、例えば、軟質ポリ塩化ビニル;ポリウレタン;エチレン−酢酸ビニル共重合体;ポリエチレンおよびポリプロピレンなどのポリオレフィン;スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体の水添物;スチレン−イソプレン−スチレン共重合体またはその水添物等の熱可塑性エラストマー;ならびに、熱可塑性エラストマーとポリオレフィン、エチレン−エチルアクリレート等の軟化剤との混合物等が挙げられる。滅菌のための高圧蒸気や電子線の透過性が良好であること、更には遠心時の負荷に耐える強靭性を有する点から、容器3の素材として、軟質塩化ビニル、ポリウレタン、ポリオレフィン、および、これらを主成分とする熱可塑性エラストマーが特に好適である。
【0034】
内側接合部5を形成することによって、濾過材1と容器3とを一体的に接合してフィルター10の領域Rを画成する。内側接合部5および外側接合部6は、例えば高周波溶着によって形成することができる。
【0035】
入口用ポート7aおよび出口用ポート8aは、容器3の所定の位置に、例えば溶着によってそれぞれ設け、入口7および出口8を通じて領域Rと外部とを連通させればよい。上記過程を経ることにより、フィルター10が製造される。
【0036】
[血液処理システム]
本実施形態に係る血液処理システム50は、図2に示すとおり、血液を収容したバッグ21、バッグ21の上側とチューブT1を介して連通する血漿画分回収用のバッグ22と、バッグ21の下側とチューブT2,T3を介して連通する赤血球画分回収用のバッグ23,24と、チューブT3の途中に配設されたフィルター10とを備える。チューブT1,T2,T3の途中にはそれぞれクランプC1,C2,C3,C4が配設されている。なお、バッグ23は、必要に応じて使用されるものであり、フィルター10による濾過に先立ち、バッグ21内の赤血球画分R(図4参照)を一旦貯留するためのものである。
【0037】
バッグ(貯留バッグ)21は、長手方向の長さYを有する。フィルター10の縦方向の長さYとバッグ21の長手方向の長さYの比(Y/Y)は、0.8以上(上記式(4))であり、好ましくは0.8〜1.6であり、より好ましくは0.8〜1.2である。図2に示すとおり、バッグ21が周囲にシール部を有する場合、長さYはシール部を除くバッグ内側の長さを意味する。バッグは、血液をバッグ内に入れると、バッグの長手方向の長さ(血液未充填時)の0.8〜0.9倍の実質的な高さ(血液充填時)となる。Y/Yが0.8未満であると、バッグの高さ方向の端にフィルターからはみ出た部分ができ、フィルターによるカップ内での支柱効果が十分とならないこととなる。なお、バッグ21の短手方向の長さXは、通常、80〜140mmであり、100〜130mmであることが好ましい。
【0038】
なお、チューブT1の途中にも血液処理用フィルターを配設し、チューブT1を通じて血漿画分Pをバッグ22に移送する際に、血漿画分Pの濾過をできるようにしてもよい。
【0039】
[血液製剤の製造方法]
本実施形態に係る血液製剤の製造方法は、図3に示す遠心分離装置60の遠心カップ62に血液処理システム50を入れて遠心分離を行う工程を有する。より具体的には、この方法は、
a)遠心分離装置60が有する深さYの遠心カップ62内に血液処理システム50を入れる工程と、
b)遠心分離装置60により、図4に示すように血液を血漿画分P、白血球を含むバフィーコートBCおよび赤血球画分Rに分離する工程と、
c)バフィーコートBCがバッグ23に入らないように赤血球画分(第1の特定成分)Rをバッグ23に移送し、その後、フィルター10が配設されたチューブT3を通じてバッグ23からバッグ24に赤血球画分Rを移送して赤血球画分Rの濾過を行う工程と、
d)フィルター10による濾過がなされた赤血球画分Rをバッグ(第1の回収バッグ)24に回収する工程と、
e)血漿画分(第2の特定成分)Pをバッグ(第2の回収バッグ)22に回収する工程と、
を備える。
【0040】
遠心分離装置60の遠心カップ62は、図3に示す外側容器62aと、この中に取り外し自在に収容されるライナー62bとによって構成される(図5参照)。ライナー62bのサイズは長径Xおよび深さYである。フィルター10の縦方向の長さYとライナー62bの深さYcの比(Y/Yc)は、0.9〜1.0(上記式(2))であり、好ましくは0.95〜1.0である。Y/Ycが0.9未満であると、フィルターがカップ内で支柱として機能する効果が不十分となり、他方、1.0を越えると、カップからフィルターの一部分がはみ出し、遠心分離装置と干渉する可能性があり、フィルターが損傷を受ける原因となる。
【0041】
フィルター10の横方向の長さXとライナー62bの長径Xの比(X/X)は、0.2〜0.6(上記式(3))であり、好ましくは0.3〜0.6であり、より好ましくは0.4〜0.5である。X/Xが0.2未満であると、有効濾過面積を確保することが困難となる上、カップ内でフィルターが支柱として機能するための構造剛性を確保することが困難となり、他方、0.6を越えると、カップ内にフィルター以外の血液バッグ等を収容する上で、フィルターの占有する領域が大きくなり、収容の作業が煩雑となり、カップから取り出す際にバッグに加わる力も大きくなる。
【0042】
なお、ライナー62bを使用しない場合は、外側容器62aが遠心カップをなし、遠心カップの長径Xおよび深さYは外側容器62aの長径および深さを意味する。また、外側容器62aまたはライナー62bの長径が深さ方向の位置によって変化する場合、長径Xはその最小値を意味する(図5参照)。
【0043】
上記a)工程においては、遠心分離後の成分間の界面Ia,Ibの揺らぎがなるべく生じないようにするため、ライナー62b内に以下のように血液処理システム50を入れることが好ましい。
【0044】
(i)図6に示すように、ライナー62b内においてフィルター10が貯留バッグ21を支持するように、フィルター10と貯留バッグ21とを隣接させた状態にしてライナー62b内に血液処理システム50を入れる。
(ii)ライナー62bの底面にフィルター10の長さXの辺が当接するまでフィルター10をライナー62b内に押し込む。
(iii)ライナー62bの底面とフィルター10の面とのなす角度が略直角となるように、ライナー62b内に血液処理システム50を入れる。
(iv)フィルター10の横方向の中心線と、貯留バッグ21の横方向の中心線とが略一致するように配置してライナー62b内に血液処理システム50を入れる。
【0045】
本実施形態によれば、所定のサイズのフィルター10を使用することで、フィルター10が支柱としての役割を果たして、ライナー62b内において血液処理システム50の部材の位置ずれを防止し、界面Ia,Ibの揺らぎ発生を十分に抑制する。また、ライナー62bから血液処理システム50を取り出す時にもフィルター10の上部をつまんでゆっくりと引き出すことにより、貯留バッグ21の変形や揺れによる界面Ia,Ibの揺らぎ発生を抑制できる。従って、本実施形態によれば、遠心分離後の赤血球画分および血漿画分を十分に高い取得量で回収できる。
【0046】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては、全血を遠心分離することによって、赤血球製剤および血漿製剤を製造する場合について例示したが、更に血小板製剤を製造する構成としてもよい。また、貯留バッグ21に全血を収容する代わりに、特定の成分を複数含有する血液製剤を収容し、これを遠心分離に供してもよい。本発明においては、第1の特定成分は、赤血球、血小板および血漿から選ばれる一種とすることができる。また、第1の特定成分が赤血球であり、第2の特定成分が血小板または血漿とすることができる。
【0047】
また、上記実施形態においては、貯留バッグ21の上側および下側から血漿画分および赤血球画分をそれぞれ抜き出す場合を例示したが、貯留バッグ21の下側から各画分を順次抜き出す構成としてもよい。この場合、最上層をなす血漿画分は貯留バッグ21内に残存させて貯留バッグ21で保存してもよいし、貯留バッグ21とは異なるバッグに移送してそのバッグで保存してもよい。
【0048】
上記c)工程において赤血球画分のみならず、赤血球画分および/またはその他の画分(例えば、血小板を多く含む画分)をフィルター10によって濾過してもよく、当該画分を、上記d)工程において他の回収バッグに更に回収してもよい。
【実施例】
【0049】
[実施例1]
繊維径12μm、目付30g/m、厚さ0.189mmのポリエステル不織布である第一のフィルター要素、および、繊維径1.2μm、目付40g/m、厚さ0.235mmのポリエステル不織布である第二のフィルター要素をそれぞれ準備した。第一のフィルター要素を血液の入口側に4枚、第二のフィルター要素を血液の出口側に26枚、第一のフィルター要素をさらに血液の出口側に4枚重ね、二種の不織布からなる濾過材用材料を得た。この濾過材用材料を切断して57.5mm×125mm(有効濾過面積:6880mm)の濾過材を得た。
【0050】
濾過材の両表面に可撓性を有する樹脂シートを配置し、高周波溶着法によって内側接合部および外側接合部を形成し、本実施例に係る縦長のフィルターを得た。
【0051】
上記縦長のフィルターを用いて図2と同様の血液処理システムを構成した。この血液処理システムを遠心カップのライナーに収容し、3000回/分の回転速度で貯留バッグ内の全血(450mL)の遠心分離を行った。なお、フィルター、遠心カップのライナー、貯留バッグのサイズは以下のとおりであった。
【0052】
【表1】

【0053】
遠心分離後、貯留バッグから回収バッグに移送することができた血漿画分の量(回収量)は290mLであった。
【0054】
[比較例1]
91mm、Y100mm(有効濾過面積:6910mm)のフィルターを使用したことの他は、実施例1と同様にして血液処理システムを構成し、全血を遠心分離して血漿画分の回収量を測定した。血漿画分の回収量は240mLであった。
【0055】
血漿画分の高い回収量を安定的に達成できるかを評価するため、1回の遠心分離装置に全血の6つのバックの製剤をセットして分離調整し、この作業を3回実施した際の平均血漿回収量およびその偏差を評価項目とした。その結果、実施例1と同様の条件では、全血450mLから得られる平均血漿回収量は283mLであり、その偏差は5mLであった。これに対し、比較例1と同様の条件では、全血450mLから得られる平均血漿回収量は240mLであり、その偏差は10mLであった。このように、実施例1は比較例1に対して血漿回収量を高めることができ、分離作業のための手技でのバラつき自体も抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、遠心分離後の血液の界面の揺らぎ発生を抑制でき、十分に高い取得量で血液製剤を製造できる。
【符号の説明】
【0057】
10…フィルター(血液処理用フィルター)、21…貯留バッグ、22,23,24…バッグ、50…血液処理システム、60…遠心分離装置、62…遠心カップ、T1,T2,T3…チューブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液を収容している貯留バッグと、横方向の長さXおよび縦方向の長さYを有する略長方形の血液処理用フィルターと、前記血液を遠心分離して得られる複数の血液成分を収容するための複数の回収バッグと、前記貯留バッグ、前記フィルターおよび前記複数の回収バッグを連通する複数のチューブとを備える血液処理システムを用いた血液製剤の製造方法であって、
A)遠心分離装置が有する深さYの遠心カップ内に前記血液処理システムを入れる工程と、
B)前記遠心分離装置によって前記血液を複数の成分に分離する工程と、
C)前記複数の成分のうち、一つまたは複数の成分を前記フィルターで濾過する工程と、
D)前記フィルターによる濾過がなされた一つまたは複数の成分のうちの第1の特定成分を第1の回収バッグに回収する工程と、
を備え、
前記フィルターおよび前記遠心カップのサイズが式(1)および式(2)で表される条件:
0.4≦X/Y≦0.6 …(1)
0.9≦Y/Y≦1.0 …(2)
を満たす方法。
【請求項2】
前記フィルターおよび前記遠心カップのサイズが式(3)で表される条件:
0.2≦X/X≦0.6 …(3)
を更に満たし、式中、Xは前記遠心カップ内部の長径を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記遠心カップ内において前記フィルターが前記貯留バッグを支持するように、前記A)工程において前記フィルターと前記貯留バッグとを隣接させた状態にして前記遠心カップ内に前記血液処理システムを入れる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記A)工程において、前記遠心カップの底面に前記フィルターの長さXの辺が当接するまで前記フィルターを前記遠心カップ内に押し込む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記A)工程において、前記遠心カップの底面と前記フィルターの面とのなす角度が略直角となるように、前記遠心カップ内に前記血液処理システムを入れる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記A)工程において、前記フィルターの横方向の中心線と、前記貯留バッグの横方向の中心線とが略一致するように配置して前記遠心カップ内に前記血液処理システムを入れる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記C)工程において前記フィルターによる濾過がなされた成分であって第1の特定成分以外の成分を、前記D)工程において他の回収バッグに更に回収する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
E)前記C)工程において前記フィルターによる濾過がなされていない成分のうちの第2の特定成分を第2の回収バッグに回収する工程を更に備える、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
F)前記第2の特定成分を前記第2の回収バッグに回収するに先立ち、当該第2の特定成分を第2の血液処理用フィルターで濾過する工程を更に備える、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の特定成分は、赤血球、血小板および血漿から選ばれる一種である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の特定成分が赤血球であり、前記第2の特定成分が血小板または血漿である、請求項8または9に記載の方法。
【請求項12】
血液を収容するためのものであり長手方向の長さYを有する貯留バッグと、
横方向の長さXおよび縦方向の長さYを有する略長方形の血液処理用フィルターと、
前記血液を遠心分離して得られる複数の血液成分を収容するための複数の回収バッグと、
前記貯留バッグ、前記フィルターおよび前記複数の回収バッグを連通するチューブと、
を備え、
前記フィルターおよび前記貯留バッグのサイズが式(1)および式(4)で表される条件:
0.4≦X/Y≦0.6 …(1)
≧0.8×Y …(4)
を満たす血液処理システム。
【請求項13】
横方向の長さXmmおよび縦方向の長さYmmを有する略長方形であり、XおよびYは式(1)および式(5)で表される条件:
0.4≦X/Y≦0.6 …(1)
110≦Y≦140 …(5)
を満たす血液処理用フィルター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−236256(P2011−236256A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2011−187831(P2011−187831)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(507365204)旭化成メディカル株式会社 (65)
【Fターム(参考)】