説明

血液分析システム及び血液分析プログラム

【課題】血球計数装置の計数データと免疫測定装置の免疫測定データとを自動で同一か否か判断して、識別IDのみに頼った検体血液の同一性判断を不要にする。
【解決手段】血球成分の数値、及び、ヘマトクリット値又はヘモグロビン濃度を含む計数データと、免疫測定項目、及び、前記血液検体のヘマトクリット値又はヘモグロビン濃度を含む免疫測定データとを取得して、計数データ及び免疫測定データそれぞれに含まれるヘマトクリット値又はヘモグロビン濃度を互いに比較し、この比較結果が一致又は略一致する場合に、計数データの血液検体と免疫測定データの血液検体とが同一であると判断する血液検体判断部32とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血球計数装置及び免疫測定装置を組み合わせて構成される血液分析システム及びこれに用いる血液分析プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の血液分析装置としては、血液検体中の血球成分の個数(例えば白血球数、赤血球数、血小板数など)を測定する血球計数装置(特許文献1)と、血液検体のC−反応性蛋白(CRP)を測定する免疫測定装置(特許文献2)とがある。
【0003】
そして同一の血液検体を前記血球計数装置及び免疫測定装置で分析した場合には、それら装置により得られた測定結果をまとめて管理する必要がある。ここで、別々の測定装置で得られた血液検体の測定結果を1つにまとめる際には細心の注意を払う必要があり、従来は間違い防止のための識別IDを測定前に付与及び入力することが行われている。そして各測定結果に関連付けられた識別IDを参照することによって測定結果を1つにまとめるようにしている。
【0004】
しかしながら、測定前に1つ1つ血液検体に識別IDを付与するとともに、装置にそれらの識別IDを入力する必要がある。これらの作業は煩雑で手間となり、識別IDの付与ミス又は入力ミスの可能性もある。また、血液検体に識別IDが付与されていないものにおいては、識別IDを参照できずにユーザの判断のみで、各測定結果を1つにまとめることになり、間違いを防止することが難しい。
【0005】
ここで、特許文献3に示すように、白血球又は血小板の数を計数する第1の検査装置と、この第1の検査装置とは別の箇所において目視を伴う白血球分類(又は血小板数)を行う第2の検査装置とを検査する血液検査装置がある。そして演算処理部が第1の検査装置により得られた白血球数と、第2の検査装置により得られた同一検体番号の目視による概算の白血球数とを比較して一致するかどうかを判断している。
【0006】
しかしながら、演算処理部は予め付与された識別IDである検体番号を参照して、第1の検査装置により得られた測定結果と、第2の検査装置により得られた測定結果とに着目して、それらの測定結果が一致するか否かを判断するものである。つまり、この血液分析装置では、測定前に1つ1つ血液検体に検体番号を付与するとともに、装置にそれらの検体番号を入力する必要がある。つまり、上記と同様に、これらの作業が煩雑で手間となるという問題及び検体番号の付与ミスの問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−21801号公報
【特許文献2】特開2002−55069号公報
【特許文献3】特開昭54−107396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、血球計数装置の計数データと免疫測定装置の免疫測定データとを自動で同一か否か判断して、識別IDのみに頼った検体血液の同一性判断を不要にすることをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明に係る血液分析システムは、血液検体の血球成分の数値(例えば血球成分の個数(計数値)や割合等)、及び、前記血液検体のヘマトクリット値又はヘモグロビン濃度を測定する血球計数装置と、血液検体の免疫測定項目、及び、前記血液検体のヘマトクリット値又はヘモグロビン濃度を測定する免疫測定装置と、前記血球成分の数値、及び、ヘマトクリット値又はヘモグロビン濃度を含む計数データと、前記免疫測定項目、及び、前記血液検体のヘマトクリット値又はヘモグロビン濃度を含む免疫測定データとを取得して、前記計数データ及び前記免疫測定データそれぞれに含まれるヘマトクリット値又はヘモグロビン濃度を互いに比較し、この比較結果が一致又は略一致する場合に、前記計数データの血液検体と前記免疫測定データの血液検体とが同一であると判断する血液検体判断部とを備えることを特徴とする。
【0010】
このようなものであれば、血球計数装置及び免疫測定装置それぞれによって得られたヘマトクリット値又はヘモグロビン濃度を比較して血液検体を同一か否かを判断しているので、血球計数装置で分析した血液検体と免疫測定装置で分析した血液検体との同一性を確実かつ自動で判断することができる。これにより、それら装置で血液検体を分析する際に、間違い防止等のための識別IDを必ずしも付与及び入力する必要が無い。したがって、識別IDの付与及び入力作業を不要とすることができ、ユーザの負担を軽減できるとともに、血液計数装置及び免疫測定装置の測定結果を1つにまとめる等のユーザの処理作業を簡易又は不要にすることができる。
【0011】
血球計数装置で分析した血液検体と免疫測定装置で分析した血液検体とを取り違えるといった問題を軽減するための注意喚起をユーザにするためには、前記血液検体判断部の比較結果により前記計数データ及び前記免疫測定データそれぞれに含まれるヘマトクリット値又はヘモグロビン濃度が一致又は略一致しない場合に、ユーザにその旨を報知する報知部を有することが望ましい。
【0012】
前記血液検体判断部が、前記計数データ及び前記免疫測定データそれぞれに含まれるヘマトクリット値又はヘモグロビン濃度を互いに比較し、この比較結果が一致又は略一致する場合に、前記計数データ及び前記免疫測定データを結合してメモリに格納するものであることが望ましい。これならば、別々の測定装置で得られたばらばらの測定結果を1つにまとめることができるとともに、結合されて1つのデータとされた測定結果をメモリから読み込むことで以後の利用を可能にすることができる。
【0013】
また本発明に係る血液分析プログラムは、血液検体の血球成分の数値、及び、ヘマトクリット値又はヘモグロビン濃度を含む計数データと、血液検体の免疫測定項目、及び、前記血液検体のヘマトクリット値又はヘモグロビン濃度を含む免疫測定データとを取得して、前記計数データ及び前記免疫測定データそれぞれに含まれるヘマトクリット値又はヘモグロビン濃度を互いに比較し、この比較結果が一致又は略一致する場合に、前記計数データの血液検体と前記免疫測定データの血液検体とが同一であると判断する血液検体判断部としての機能をコンピュータに備えさせることを特徴とする。これならば、既存の別々の血球計数装置の計数データ及び免疫測定装置の免疫測定データを取得した場合にそれらの血液検体が同一か否かを自動で判断できるようにすることができる。
【発明の効果】
【0014】
このように構成した本発明によれば、血球計数装置の計数データと免疫測定装置の免疫測定データとを自動で同一か否か判断して、識別IDのみに頼った検体血液の同一性判断を不要にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態の血液分析システムの構成を概略的に示す全体概略図。
【図2】同実施形態における情報処理装置の機器構成図。
【図3】同実施形態における情報処理装置の機能構成を主として示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明に係る血液分析システムの一実施形態について図面を参照して説明する。
【0017】
本実施形態に係る血液分析システム100は、図1に示すように、血球計数測定を行う血球計数装置1と、この血球計数装置1と離間した別の位置に配置された免疫測定を行う免疫測定装置2と、前記血球計数装置1の測定結果及び前記免疫測定装置2の測定結果を血液検体毎に1つにまとめる情報処理装置3とを備えている。そして、この血液分析システム100を用いて血液検体の分析を行う場合、ユーザは、血液検体を収容した採血管等の収容管Tを、血球計数装置1又は免疫測定装置2の一方における測定終了後、血球計数装置1又は免疫測定装置2の他方に移動させる。
【0018】
血球計数装置1は、例えば電気抵抗法によって、血液検体の血球成分の数値である個数(具体的にはWBC(白血球数)、RBC(赤血球数)、PLT(血小板数))、MCV(赤血球容積)及びHct(ヘマトクリット値)を測定するものである。またこの血球計数装置1は、シアンメトヘモグロビン法における吸光光度法によって、Hgb(ヘモグロビン濃度)等をそれぞれ測定するように構成されている。そして、血球計数装置1により測定された前記各測定項目の測定結果は、血球計数装置1に設けられたディスプレイ上に表示される。
【0019】
具体的に血球計数装置1は、WBC/Hgb血球計数測定セルと、RBC/PLT血球計数測定セルとを備えている。WBC/Hgb血球計数測定セルには、WBCを測定するための測定電極及びHgbを測定するための光照射部及び受光部が設けられている。また、RBC/PLT血球計数測定セルには、RBC及びPLT測定するための測定電極が設けられている。
【0020】
なお、ヘマトクリット値とは、血液検体(全血)からその中の血球を所定の容積まで押し詰めた容積比率、つまり「押し詰めた血球容積」/「血液検体全体」のことである。またこのヘマトクリット値は、電気抵抗法によって電気伝導度から直接得る方法の他、シアンメトヘモグロビン法やSDS法(ドデシル硫酸ナトリウムを用いる方法)等における吸光光度法で得たHgbをHctに換算する方法を用いても良いし、RBCとMCVとからHctを求めても良い。
【0021】
免疫測定装置2は、CRP(急性期蛋白であるC−反応性蛋白)を測定するように構成されている。なお、この免疫測定装置2は、前記血球計数装置1と同様に、例えば電気抵抗法によってHctを測定するように構成されている。そして免疫測定装置2により測定されたCRP等は、免疫測定装置2に設けられたディスプレイ上に表示される。
【0022】
具体的に免疫測定装置2は、CRPを測定するために形成される試薬受容セルと、光照射部及び光検出部を備えるとともに、前記試薬受容セルにフロー測光セル流路を介して一連に連なって設けられたフロー測光セルと、CRP測定に用いられる試薬を収容した試薬容器とを備えている。試薬容器にはそれぞれ、溶血試薬、緩衝液、抗ヒトCRP感作ラテックス免疫試薬が収容されている。
【0023】
情報処理装置3は、前記血球計数装置1により得られた計数データと前記免疫測定装置2により得られた免疫測定データとを取得して、それら計数データ及び免疫測定データを血液検体毎に1つにまとめるものである。具体的にこの情報処理装置3は、図2に示すように、CPU301、メモリ302、入出力インタフェース303、AD変換器304、ディスプレイ305、報知部306等を備えた汎用乃至専用のコンピュータである。そして、この情報処理装置3は、前記メモリ302の所定領域に記憶させた血液分析プログラムにしたがってCPU301、周辺機器等を協働させることにより、図3に示すように、データ受付部31、血液検体判断部32、結合データ格納部D1等としての機能を発揮する。
【0024】
データ受付部31は、血球計数装置1から血球成分の個数(WBC等)及びHctを含む計数データを受け付けるとともに、免疫測定装置2から免疫測定項目(CRP)及びHctを含む免疫測定データを受け付ける。本実施形態では、データ受付部31は、血球計数装置1が1つの血液検体を分析して1つの計数データを取得する度に、その計数データを受け付ける。またデータ受付部31は、免疫測定装置2が1つの血液検体を分析して1つの免疫測定データを取得する度に、その免疫測定データを受け付ける。
【0025】
血液検体判断部32は、前記データ受付部31により受け付けられた計数データ及び免疫測定データを取得して、その計数データの血液検体及び免疫測定データの血液検体が同一検体か否かを判断する。
【0026】
具体的に血液検体判断部32は、計数データに含まれるHct及び免疫測定データに含まれるHctとの値を比較して、それらの値が一致しているか否かを判断する。ここで計数データに含まれるHct及び免疫測定データに含まれるHctの値を比較においては、それらの値が完全一致している場合の他、それらの値の差が予め定めた範囲内であれば一致していると判断する。
【0027】
また、血液検体判断部32は、上記の比較により計数データに含まれるHct及び免疫測定データに含まれるHctが一致する場合に、計数データの血液検体と前記免疫測定データの血液検体とが同一であると判断する。そして、その計数データ及び免疫測定データを結合して1つの測定結果データ(結合データ)として、メモリ302内に設定された結合データ格納部D1に格納する。また本実施形態の血液検体判断部32は、その測定結果データを情報処理装置3のディスプレイ305上に表示する。ここで結合データは、計数データと免疫測定データとを関連付けてなるデータとしても良いし、計数データの情報及び免疫測定データの情報を含む新しく生成されたデータとしても良い。
【0028】
一方、血液検体判断部32は、上記の比較により計数データに含まれるHct及び免疫測定データに含まれるHctが一致しない場合に、ユーザにその旨を報知すべく、情報処理装置3に設けられた報知部306に報知信号を出力する。この報知信号を取得した報知部306は、ユーザにその旨を報知するために光又は音等を用いて報知する。報知部306としては、点滅するLED表示器や警告音を発するスピーカ等を用いることもできるし、情報処理装置3のディスプレイ305を用いて構成して、ディスプレイ305上にその旨表示するように構成しても良い。
【0029】
<本実施形態の効果>
このように構成した本実施形態に係る血液分析システム100によれば、血球計数装置1及び免疫測定装置2それぞれによって得られたHctを比較して血液検体を同一か否かを判断しているので、血球計数装置1で分析した血液検体と免疫測定装置2で分析した血液検体との同一性を確実かつ自動で判断することができる。これにより、それら装置で血液検体を分析する際に、間違い防止等のための識別IDを必ずしも付与及び入力する必要が無い。したがって、識別IDの付与及び入力作業を不要とすることができ、ユーザの負担を軽減できるとともに、血液計数装置1及び免疫測定装置2の測定結果を1つにまとめる等のユーザの処理作業を簡易又は不要にすることができる。
【0030】
また、報知部306により、ユーザに注意喚起を促して、血球計数装置1で分析した血液検体と免疫測定装置2で分析した血液検体とを取り違えるといった問題を一層軽減することができる。
【0031】
<その他の変形実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0032】
例えば、前記実施形態では情報処理装置3を血球計数装置1及び免疫測定装置2とは別体に設けているが、情報処理装置3を血球計数装置1と一体に設けても良いし、或いは免疫測定装置2と一体に設けても良い。一体に設ける場合には、情報処理装置3を物理的に血球計数装置1又は免疫測定装置2と一体に構成することの他、血球計数装置1又は免疫測定装置2に内蔵された情報処理部に血液検体判断部32等の機能を備えさせることが考えられる。
【0033】
また、前記実施形態では、情報処理装置3が血球計数装置1の計数データ及び免疫測定装置2の免疫測定データを1つ1つ受け付けるものであったが、その他、複数の血液検体から得られた複数の計数データ又は複数の血液検体から得られた複数の免疫測定データを取得して、それらデータを一度メモリ302に格納した後に、それらデータ同士を突き合わせて一致か否か判断して、血液検体毎の1つの測定結果データ(結合データ)とするように構成しても良い。
【0034】
さらに、免疫測定装置がHgb(ヘモグロビン濃度)を測定する機能を有するものであれば、計数データに含まれるHgb及び免疫測定データに含まれるHgbとの値を比較して、
計数データの血液検体と前記免疫測定データの血液検体とが同一か否かを判断するように構成しても良い。
【0035】
その上、免疫測定項目として、CRP以外に、抗原抗体反応を利用した各種腫瘍マーカーの値やインフルエンザ菌等の細菌の数値などを測定するようにしても良い。
【0036】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0037】
100・・・血液分析システム
1 ・・・血球計数装置
2 ・・・免疫測定装置
3 ・・・情報処理装置
32 ・・・血液検体判断部
306・・・報知部
302・・・メモリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液検体の血球成分の数値、及び、前記血液検体のヘマトクリット値又はヘモグロビン濃度を測定する血球計数装置と、
血液検体の免疫測定項目、及び、前記血液検体のヘマトクリット値又はヘモグロビン濃度を測定する免疫測定装置と、
前記血球成分の数値、及び、ヘマトクリット値又はヘモグロビン濃度を含む計数データと、前記免疫測定項目、及び、前記血液検体のヘマトクリット値又はヘモグロビン濃度を含む免疫測定データとを取得して、前記計数データ及び前記免疫測定データそれぞれに含まれるヘマトクリット値又はヘモグロビン濃度を互いに比較し、この比較結果が一致又は略一致する場合に、前記計数データの血液検体と前記免疫測定データの血液検体とが同一であると判断する血液検体判断部とを備える血液分析システム。
【請求項2】
前記血液検体判断部の比較結果により前記計数データ及び前記免疫測定データそれぞれに含まれるヘマトクリット値又はヘモグロビン濃度が一致又は略一致しない場合に、ユーザにその旨を報知する報知部を有する請求項1記載の血液分析システム。
【請求項3】
前記血液検体判断部が、前記計数データ及び前記免疫測定データそれぞれに含まれるヘマトクリット値又はヘモグロビン濃度を互いに比較し、この比較結果が一致又は略一致する場合に、前記計数データ及び前記免疫測定データを結合してメモリに格納するものである請求項1又は2記載の血液分析システム。
【請求項4】
血液検体の血球成分の数値、及び、ヘマトクリット値又はヘモグロビン濃度を含む計数データと、血液検体の免疫測定項目、及び、前記血液検体のヘマトクリット値又はヘモグロビン濃度を含む免疫測定データとを取得して、前記計数データ及び前記免疫測定データそれぞれに含まれるヘマトクリット値又はヘモグロビン濃度を互いに比較し、この比較結果が一致又は略一致する場合に、前記計数データの血液検体と前記免疫測定データの血液検体とが同一であると判断する血液検体判断部としての機能をコンピュータに備えさせる血液分析プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−88255(P2012−88255A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236993(P2010−236993)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】