説明

血液分析装置および血液分析方法

【課題】血液の品質を評価するための新規な装置および方法の提供。
【解決手段】赤血球の紫外可視吸収スペクトルを取得し解析を行った結果、異なる赤血球であるいは同一赤血球でも異なる時間で、ヘムとその分解性生物であるビリベルジンおよびビリルビンのスペクトルにそれぞれ対応する複数のスペクトルパターンが検出されることを見出した。そこで、赤血球について取得された測定スペクトルを、ヘムおよびビリベルジン、ビリルビンの標準スペクトルと比較してそのいずれかに帰属させる解析部を備える血液分析装置を提供する。この装置によれば、赤血球について取得された測定スペクトルがこれらいずれのスペクトルと一致するかによって当該赤血球中のヘムの分解程度を評価し、赤血球の経時劣化の指標とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、血液分析装置および血液分析方法に関する。より詳しくは、赤血球中のヘモグロビンの分解過程を指標として血液の品質を評価するための血液分析装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
輸血用赤血球をはじめとした血液製剤は臨床医療に不可欠であり、限られた血液資源を有効に活用するため、血液の長期保存を実現することは重要な課題である。赤血球の寿命や酸素運搬機能には、ATPと2,3−ビスホスホグリセリン酸(2,3−BPG)という2つの代謝物質が関与している。血液中のこれらの物質の濃度は、血液の保存中に急激に減少してしまうことが知られており、保存血の品質を評価するための指標として利用されてきた。
【0003】
本技術に関連して、特許文献1には、ヘモグロビンを含む血液特性を測定する方法および装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2003−508765号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】"A direct relationship between adenosine triphosphate-level and in vivo viability of erythrocytes." Nature, 1962, Vol. 194, Issue 4831, pp.877-878.
【非特許文献2】"Red blood cell function and blood storage." Vox Sanguinis, 2000, Vol.79, No.4, pp.191-197.
【非特許文献3】"UV-VIS and CD-spectroscopic investigations of intermolecular interactions of bile pigments with small proteins." Monatshefte fur Chemie / Chemical Monthly, 1989, Vol.120, No.2, pp.163-168.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本技術は、血液の品質を評価するための新規な装置および方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、赤血球の紫外可視吸収スペクトルを取得し解析を行った結果、赤血球毎に複数のスペクトルパターンが検出されること、同様のスペクトルパターンが同一赤血球の経時測定においても出現することを見出した。さらに、本発明者らは、これらのスペクトルパターンがヘムとその分解生成物であるビリベルジンおよびビリルビンの紫外可視吸収スペクトルに一致することを明らかにした。本技術は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
【0008】
すなわち、本技術は、赤血球について取得された測定スペクトルを、ヘムおよびビリベルジン、ビリルビンの標準スペクトルと比較してそのいずれかに帰属させる解析部を備える血液分析装置を提供する。赤血球中のヘムはビリベルジンに分解され、ビリベルジンはビリルビンに分解される。従って、赤血球について取得された測定スペクトルがこれらいずれのスペクトルと一致するかによって当該赤血球中のヘムの分解程度を評価し、赤血球の経時劣化の指標とすることができる。
この血液分析装置において、前記解析部は、一つの赤血球の複数の領域から取得された測定スペクトルのそれぞれを前記標準スペクトルと比較し、ヘムの標準スペクトルに帰属された測定スペクトルと、ビリベルジンの標準スペクトルに帰属された測定スペクトルと、ビリルビンの標準スペクトルに帰属された測定スペクトルとの数を算出するように構成されることが好ましい。より好ましくは、前記解析部は、ヘムの標準スペクトルに帰属された測定スペクトルに対する、ビリベルジンおよび/またはビリルビンの標準スペクトルに帰属された測定スペクトルの数比を算出するよう構成される。
これらの数あるいは数比は赤血球の経時劣化の指標となり得る。そのため、この血液分析装置は、所定期間にわたって赤血球について取得された前記測定スペクトル、および/または、所定期間にわたって算出された、ヘム、ビリベルジンまたはビリルビンの標準スペクトルに帰属された該測定スペクトルの数あるいは数比、を前記赤血球の経時劣化情報として記憶する記憶部をさらに備えることが好ましい。
さらに、この血液分析装置は、赤血球について取得された測定スペクトル、および/または、ヘム、ビリベルジンまたはビリルビンの標準スペクトルに帰属された該測定スペクトルの数あるいは数比、に基づいて前記赤血球の由来細胞を判定する機能を有していてもよい。
【0009】
また、本技術は、赤血球について取得された測定スペクトルを、ヘムおよびビリベルジン、ビリルビンの標準スペクトルと比較してそのいずれかに帰属させる手順を含む血液分析方法をも提供する。
この血液分析方法では、一つの赤血球の複数の領域から取得された測定スペクトルのそれぞれを前記標準スペクトルと比較し、ヘムの標準スペクトルに帰属された測定スペクトルと、ビリベルジンの標準スペクトルに帰属された測定スペクトルと、ビリルビンの標準スペクトルに帰属された測定スペクトルとの数あるいは数比を算出し、算出された数あるいは数比に基づいて血液の品質を評価することができる。
この血液分析方法では、赤血球についての測定スペクトルを所定期間取得し、および/または、ヘム、ビリベルジンまたはビリルビンの標準スペクトルに帰属された該測定スペクトルの数あるいは数比を所定期間算出することにより、これらに基づいて前記赤血球の経時劣化を評価することができる。また、赤血球について取得された測定スペクトル、および/または、ヘム、ビリベルジンまたはビリルビンの標準スペクトルに帰属された該測定スペクトルの数あるいは数比、に基づいて前記赤血球の由来細胞を判定することもできる。
【0010】
本技術において、「赤血球」には、生体由来の赤血球に加えて、iPS細胞(induced Pluripotent Stem Cell: 人工多能性幹細胞)やES細胞(Embryonic Stem Cell)などの多能性幹細胞を起源として分化誘導技術によって得られた人工赤血球も包含される。なお、iPS細胞の樹立については、例えばTakahashi, K. and Yamanaka, S., Cell, 126: 663-676 (2006)に開示の樹立方法を用いて、多能性幹細胞からの赤血球の分化については例えばShi-Jiang Lu, Qiang Feng, Jeniffer S. Park, Loyda Vida, Bao-Shiang Lee, Michael Strausbauch, Peter J. Wettstein, George R. Honig, Robert Lanza, blood, 112: 4475-4484 (2008)に開示の分化誘導方法を用いて行うことが可能である。
【発明の効果】
【0011】
本技術により、血液の品質を評価するための新規な装置および方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本技術に係る血液分析装置の構成を説明する模式図である。
【図2】実施例において赤血球で取得された紫外可視吸収スペクトルを示す図面代用グラフである。
【図3】実施例において一つの赤血球の複数の領域から取得された紫外可視吸収スペクトルをマトリクス状に示す図面代用グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本技術を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本技術の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。
【0014】
本技術に係る血液分析装置は、汎用の位相差顕微鏡と二次元紫外可視分光器とを組み合わせて構成でき、血液標本Sに対して紫外域および可視光域の光を走査して照射する光照射系と、血液標本Sを透過あるいは反射した光を検出する光検出系とを備える。図1に本技術に係る血液分析装置の構成を示す。光照射系11は、光源やミラー、レンズなどによって構成される。また、光検出系12は、レンズ、回折素子、スリット、ミラー、CCDやCMOS等の撮像素子などによって構成される。光照射系11および光検出系12は測定部1を構成する。図中符号13は、血液標本Sが載置されるサンプル保持部を示す。サンプル保持部13は、光照射系11から光が照射され、かつこれを透過あるいは反射した光が光検出系12に導入されるような状態で血液標本Sを保持する。
【0015】
サンプル保持部13内は、光学測定に影響を及ぼすダスト等が外部から侵入しないように密閉環境に保たれることが望ましい。サンプル保持部13には、血液標本Sの薬物耐性等をモニタリングするために薬物投与口を設けたり、血液標本Sの劣化状態に応じて特定の標本を選別するための鉗子等の器具を取り付けたりしてもよい。サンプル保持部13は、測定環境と目的に応じて当業者に周知の技術・技法を組み合わせて使用されることを妨げないものとする。
【0016】
本実施形態においては、血液標本Sを静的なin vitro環境に保持して分析を行う場合を詳述する。ただし、他の実施形態として、血液標本Sを外部から導入しながら分析を行うこともできる。この場合、例えば、可視光領域を遮断しないカテーテル等を用いて、体内血液品質の評価が必要な被験者からサンプル保持部13内に血液を導出した上で、本実施形態に開示の分析環境を適用する。この際、血液の体外から体内への再循環を保つことにより、被験者に負担を与えることなく血液品質の動的な評価が可能となる。
【0017】
この血液分析装置は、赤血球について取得された紫外可視吸収スペクトル(測定スペクトル)を、予め記憶されたヘムおよびビリベルジン、ビリルビンの標準スペクトルと比較してそのいずれかに帰属させる解析部3を備える。標準スペクトルは、記憶部5において解析部3へ読み出し可能に記憶、保持されていてもよく、解析部3内に記憶、保持されていてもよい。
【0018】
測定スペクトルをいずれかの標準スペクトルに帰属させるアルゴリズムとしては、従来公知のものを応用できるが、例えば以下を採用できる。測定スペクトルの(波長650nmにおける吸光度)/(波長380nmにおける吸光度)の値が1/4以上であれば、ビリベルジンの標準スペクトルに帰属させる。(波長650nmにおける吸光度)/(波長380nmにおける吸光度)の値が1/4未満であり、かつ(波長550nmにおける吸光度)/(波長420nmにおける吸光度)の値が1/100以上であればヘムの標準スペクトルに帰属させる。(波長550nmにおける吸光度)/(波長420nmにおける吸光度)の値が1/100未満であればビリルビンに帰属させる。なお、スペクトル帰属のためのアルゴリズムはこれに限定されない。
【0019】
解析部3は、一つの赤血球の複数の領域から取得された複数の測定スペクトルのそれぞれを標準スペクトルと比較し、ヘムの標準スペクトルに帰属された測定スペクトルと、ビリベルジンの標準スペクトルに帰属された測定スペクトルと、ビリルビンの標準スペクトルに帰属された測定スペクトルとの数あるいはそれらの数比を算出する。算出された数あるいは数比は、表示部4(ディスプレイやプリンタ等)に出力され表示される。
【0020】
解析部3は、取得された測定スペクトル、および/または、ヘム、ビリベルジンまたはビリルビンの標準スペクトルに帰属された該測定スペクトルの数あるいは数比に基づいて血液の品質を判定する。ヘムはビリベルジンおよびビリルビンに順次分解される。このため、ヘムの標準スペクトルに帰属された測定スペクトルに対してビリベルジンおよび/またはビリルビンの標準スペクトルに帰属された測定スペクトルの数が多いほどあるいはその数比が大きいほど、赤血球中のヘムの分解が進行し、血液(あるいは赤血球)が劣化していると判断できる。逆に、上記数あるいは上記数比が小さいほど、赤血球中のヘムが温存され、血液が新鮮であると判断できる。
【0021】
解析部3による血液品質の判定結果も表示部4に出力され表示される。この際、実施例において後述するように、血液の劣化状態に関わる情報を二次元情報(図3参照)として表示させることにより、劣化分布や評価対象領域における劣化率を作業者が瞬時にあるいは経時的に把握できる。そして、作業者が、表示部4に解析画像として表示された二次元情報に基づいて血液標本Sの劣化分布を確認しながら、サンプル保持部13内に導入した器具を用いて任意の劣化状態の赤血球を血液標本S中から選別し、サンプル保持部13外に取り出すことも可能となる。
【0022】
記憶部5は、所定期間にわたって赤血球について取得された測定スペクトル、および/または、所定期間にわたって算出された、ヘム、ビリベルジンまたはビリルビンの標準スペクトルに帰属された該測定スペクトルの数あるいは数比、を赤血球の経時劣化情報として記憶する。経時劣化情報は、所定期間にわたって連続的あるいは断続的に取得あるいは算出されたものとできる。
【0023】
経時劣化情報として記憶された測定スペクトル、および/または、ヘム、ビリベルジンまたはビリルビンの標準スペクトルに帰属された測定スペクトルの数あるいは数比に基づけば、より詳細に赤血球の挙動としての経時劣化過程を定点観測的に追跡することができる。これにより、メトヘモグロビン血症等の、鉄酸化異常に起因するヘモグロビン異常症などの診断や、遺伝的ヘモグロビン異常症由来赤血球の機能解析などへの応用が可能となる。
【0024】
この場合、作業者の熟練程度に拠らず診断が可能となるように、解析部3あるいは記憶部5に、特定疾患に固有に出現するスペクトルパターンやヘム、ビリベルジンまたはビリルビンの標準スペクトルに帰属されるスペクトルの数あるいは数比を記憶させておく。そして、解析部3がこれらを読みだして、測定データと比較することにより、病状を判定し、その結果が表示部4に出力されるように構成する。
【0025】
また、解析部3には、赤血球について取得された測定スペクトル、および/または、ヘム、ビリベルジンまたはビリルビンの標準スペクトルに帰属された測定スペクトルの数あるいは数比、に基づいて赤血球の由来細胞を判定する機能を持たせてもよい。この場合も、解析部3あるいは記憶部5に、特定細胞由来の赤血球に出現するスペクトルパターンやヘム、ビリベルジンまたはビリルビンの標準スペクトルに帰属されるスペクトルの数あるいは数比を記憶させておく。そして、解析部3がこれらを読みだして、測定データと比較することにより、由来細胞を判定し、その結果が表示部4に出力されるように構成する。
【0026】
なお、本技術に係る血液分析装置においては、生体由来赤血球とiPS細胞分化赤血球とについて、浸透圧・pH・酸素濃度等を調整した様々なストレス環境に曝露した際の細胞変形と、細胞変形に伴うヘモグロビン変性とを捉えて両赤血球間での比較を行うことで、iPS細胞分化赤血球の物性を評価することもできる。
【0027】
本技術に係る血液分析装置は以下のような構成をとることもできる。
(1)赤血球について取得された測定スペクトルを、ヘムおよびビリベルジン、ビリルビンの標準スペクトルと比較してそのいずれかに帰属させる解析部を備える血液分析装置。
(2)前記解析部は、一つの赤血球の複数の領域から取得された測定スペクトルのそれぞれを前記標準スペクトルと比較し、ヘムの標準スペクトルに帰属された測定スペクトルと、ビリベルジンの標準スペクトルに帰属された測定スペクトルと、ビリルビンの標準スペクトルに帰属された測定スペクトルとの数を算出する上記(1)の血液分析装置。
(3)前記解析部は、ヘムの標準スペクトルに帰属された測定スペクトルに対する、ビリベルジンおよび/またはビリルビンの標準スペクトルに帰属された測定スペクトルの数比を算出する上記(1)または(2)の血液分析装置。
(4)所定期間にわたって赤血球について取得された前記測定スペクトル、および/または、所定期間にわたって算出された、ヘム、ビリベルジンまたはビリルビンの標準スペクトルに帰属された該測定スペクトルの数あるいは数比、を前記赤血球の経時劣化情報として記憶する記憶部をさらに備える上記(1)〜(3)のいずれかの血液分析装置。
(5)前記解析部は、赤血球について取得された測定スペクトル、および/または、ヘム、ビリベルジンまたはビリルビンの標準スペクトルに帰属された該測定スペクトルの数あるいは数比、に基づいて前記赤血球の由来細胞を判定する機能を有する上記(1)〜(4)のいずれかの血液分析装置。
【0028】
また、本技術に係る血液分析方法は以下のような構成をとることもできる。
(1)赤血球について取得された測定スペクトルを、ヘムおよびビリベルジン、ビリルビンの標準スペクトルと比較してそのいずれかに帰属させる手順を含む血液分析方法。
(2)一つの赤血球の複数の領域から取得された測定スペクトルのそれぞれを前記標準スペクトルと比較し、ヘムの標準スペクトルに帰属された測定スペクトルと、ビリベルジンの標準スペクトルに帰属された測定スペクトルと、ビリルビンの標準スペクトルに帰属された測定スペクトルとの数あるいは数比を算出し、算出された数あるいは数比に基づいて血液の品質を評価する上記(1)の血液分析方法。
(3)赤血球についての測定スペクトルを所定期間取得し、および/または、ヘム、ビリベルジンまたはビリルビンの標準スペクトルに帰属された該測定スペクトルの数あるいは数比を所定期間算出し、これらに基づいて前記赤血球の経時劣化を評価する上記(1)または(2)の血液分析方法。
(4)赤血球について取得された測定スペクトル、および/または、ヘム、ビリベルジンまたはビリルビンの標準スペクトルに帰属された該測定スペクトルの数あるいは数比、に基づいて前記赤血球の由来細胞を判定する上記(1)〜(3)のいずれかの血液分析方法。
【実施例】
【0029】
位相差顕微鏡(TE2000、株式会社ニコン)および二次元可視分光器(自社製品)を用いて、赤血球の観察を行った。取得された紫外可視吸収スペクトルを図2に示す。なお、赤血球を懸濁した緩衝液のみからは吸収ピークが検出されないことが確認された。
【0030】
図2(A)〜(C)はそれぞれ異なる赤血球で取得された紫外可視吸収スペクトルを示す。これらのスペクトルは、赤血球に紫外線を照射し続け、経時的に同一の赤血球の紫外可視吸収スペクトルを測定した場合にも出現し、当初は(A)に示すスペクトルが、続いて(B)あるいは(C)に示すスペクトルが観察された。
【0031】
ヘモグロビン(hemoglobin)はヘム鉄錯体(heme)とグロビン(globin)からなり、ヘム鉄錯体は、鉄を取り囲むポルフィリン環に由来して、波長400nm付近のソーレー(Soret)吸収帯と550nm付近のQ吸収帯を特徴とする吸収スペクトルを示すことが知られている。図2(A)に示した紫外可視吸収スペクトルは、還元型ヘモグロビンのスペクトルに一致し、ヘムの紫外可視吸収スペクトルに対応すると考えられた。また、図2(B)および(C)に示した紫外可視吸収スペクトルは、それぞれ上記非特許文献3記載のビリルビンおよびビリベルジンのスペクトルに一致した。
【0032】
紫外線の照射により劣化が進行している赤血球の紫外可視吸収スペクトルが、当初のヘムのスペクトル(図2(A))からビリルビンあるいはビリベルジン(図2(B)、(C))のスペクトルに変化したことは、赤血球の紫外可視吸収スペクトルに基づいて赤血球中のヘムの分解程度を評価し、赤血球の経時劣化の指標とできることを示すものである。
【0033】
図3は、一つの赤血球の複数の領域から取得された紫外可視吸収スペクトルを示すマトリクスである。各領域でヘム、ビリベルジンあるいはビリルビンに対応するスペクトルが検出されている。この結果から、ヘムに対応するスペクトルと、ビリベルジンあるいはビリルビンに対応する測定スペクトルの数あるいはそれらの数比に基づけば、一つの赤血球中のヘムの分解程度を精度良く判定できることが分かる。また、このように、ヘムの分解程度により血液の劣化状態に関わる情報を二次元情報として入手することで、劣化分布や評価対象領域における劣化率を瞬時にあるいは経時的に把握できることが分かった。
【0034】
なお、図3では、一つの赤血球を拡大観察して得た紫外可視吸収スペクトルのマトリクスを例示したが、観察倍率を低くして複数の赤血球から紫外可視吸収スペクトルをそれぞれ取得してマトリクス化することも可能である。この場合、血液標本に含まれる複数の赤血球の劣化分布や劣化率を瞬時にあるいは経時的に把握可能な二次元情報を得ることができ、ヘムの分解程度により血液標本全体の劣化状態に関わる情報を入手可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本技術によれば、赤血球について取得された紫外可視吸収スペクトルから赤血球中のヘムの分解程度を評価し、赤血球の経時劣化の指標を得ることができる。従って、本技術は、例えば、保存血の品質評価や薬物治療モニタリングなどのために利用でき、体外循環透析装置や血液ガス検査装置、血液凝固評価装置および潜血検査装置などとしての応用も可能である。
【符号の説明】
【0036】
1:測定部、11:光照射系、12:光検出系、13:サンプル保持部、3:解析部、4:表示部、5:記憶部、S:血液標本

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤血球について取得された測定スペクトルを、ヘムおよびビリベルジン、ビリルビンの標準スペクトルと比較してそのいずれかに帰属させる解析部を備える血液分析装置。
【請求項2】
前記解析部は、一つの赤血球の複数の領域から取得された測定スペクトルのそれぞれを前記標準スペクトルと比較し、
ヘムの標準スペクトルに帰属された測定スペクトルと、ビリベルジンの標準スペクトルに帰属された測定スペクトルと、ビリルビンの標準スペクトルに帰属された測定スペクトルとの数を算出する請求項1記載の血液分析装置。
【請求項3】
前記解析部は、ヘムの標準スペクトルに帰属された測定スペクトルに対する、ビリベルジンおよび/またはビリルビンの標準スペクトルに帰属された測定スペクトルの数比を算出する請求項2記載の血液分析装置。
【請求項4】
所定期間にわたって赤血球について取得された前記測定スペクトル、および/または、所定期間にわたって算出された、ヘム、ビリベルジンまたはビリルビンの標準スペクトルに帰属された該測定スペクトルの数あるいは数比、を前記赤血球の経時劣化情報として記憶する記憶部をさらに備える請求項3記載の血液分析装置。
【請求項5】
前記解析部は、赤血球について取得された測定スペクトル、および/または、ヘム、ビリベルジンまたはビリルビンの標準スペクトルに帰属された該測定スペクトルの数あるいは数比、に基づいて前記赤血球の由来細胞を判定する機能を有する請求項3記載の血液分析装置。
【請求項6】
赤血球について取得された測定スペクトルを、ヘムおよびビリベルジン、ビリルビンの標準スペクトルと比較してそのいずれかに帰属させる手順を含む血液分析方法。
【請求項7】
一つの赤血球の複数の領域から取得された測定スペクトルのそれぞれを前記標準スペクトルと比較し、
ヘムの標準スペクトルに帰属された測定スペクトルと、ビリベルジンの標準スペクトルに帰属された測定スペクトルと、ビリルビンの標準スペクトルに帰属された測定スペクトルとの数あるいは数比を算出し、
算出された数あるいは数比に基づいて血液の品質を評価する請求項6記載の血液分析方法。
【請求項8】
赤血球についての測定スペクトルを所定期間取得し、および/または、ヘム、ビリベルジンまたはビリルビンの標準スペクトルに帰属された該測定スペクトルの数あるいは数比を所定期間算出し、これらに基づいて前記赤血球の経時劣化を評価する請求項7記載の血液分析方法。
【請求項9】
赤血球について取得された測定スペクトル、および/または、ヘム、ビリベルジンまたはビリルビンの標準スペクトルに帰属された該測定スペクトルの数あるいは数比、に基づいて前記赤血球の由来細胞を判定する請求項7記載の血液分析方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−36832(P2013−36832A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172736(P2011−172736)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】