説明

血液分析装置および血液分析方法

【課題】血液中に含まれるウニ状赤血球を検出するための新規な装置および方法の提供。
【解決手段】赤血球の可視吸収スペクトルを取得し解析を行った結果、ウニ状赤血球がSorbet帯とQ帯との間の、450〜490nmの波長域に吸収ピークを伴う特徴的なスペクトルパターンを示すことを見出した。そこで、血液について取得された可視吸収スペクトルの前記吸収ピークを検出する解析部を有する血液分析装置を提供する。この装置によれば、前記吸収ピークに基づいて血液中に含まれるウニ状赤血球を検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、血液分析装置および血液分析方法に関する。より詳しくは、血液中に含まれるウニ状赤血球を検出するための血液分析装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
赤血球の表面に多数の突起を生じる過程を鋸歯状化という。ウニ状赤血球(echinocyte)は鋸歯状化の一つであり、1個のウニ状赤血球には10〜30個の突起が存する。突起の先端は尖っており、その分布と長さはほぼ均一である。
【0003】
ウニ状赤血球は健常な人の血液中にも少量存在するが、いくつかの病気の発症に伴ってウニ状赤血球の血中量が増加することが知られている。ウニ状赤血球が出現する病気として、例えば肝機能障害や尿毒症、胃癌などがある。また、免疫抑制剤服用時や保存赤血球輸血後に、血中のウニ状赤血球量が増加する場合がある。さらに、保存血に関して、抗凝固剤(EDTA)の濃度が高過ぎた場合や保存期間が長期となった場合に赤血球がウニ状化することが知られている。
【0004】
ウニ状赤血球に関連して、非特許文献1には、生体膜に二価陽イオンを選択的に透過させるイオノフォアの1種(A23187)を赤血球に処理することによってウニ状赤血球を得たことが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】"Effects of an lonophore, A23187, on the Surface Morphology of Normal Erythrocytes." American Journal of Pathology, 1974, Vol.77, No.3, pp.507-518.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本技術は、血液中に含まれるウニ状赤血球を検出するための新規な装置および方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、赤血球の可視吸収スペクトルを取得し解析を行った結果、ウニ状赤血球が波長470nm付近の吸収ピークを伴う特徴的なスペクトルパターンを示すことを見出し、本技術を完成させた。この吸収ピークはウニ状赤血球に特徴的に出現するものであるため、これに基づけば血液中に含まれるウニ状赤血球を検出することができる。
【0008】
すなわち本技術は、血液について取得された可視吸収スペクトルのSorbet帯とQ帯との間の、450〜490nmの波長域に出現するピークを検出する解析部を有する血液分析装置を提供する。
この血液分析装置は、前記ピークの検出の有無及び/又はウニ状赤血球(echinocyte)の有無の判定結果を提示する表示部を有することが好ましい。また、この血液分析装置は、前記血液に対して可視光を照射する光照射系と、血液の可視吸収スペクトルを取得する光検出系と、を備える測定部を有するものとできる。
【0009】
また、本技術は、血液について取得された可視吸収スペクトルのSorbet帯とQ帯との間に出現するピークを検出する手順を含む血液分析方法をも提供する。この血液分析方法では、前記ピークの検出の有無に基づいて血液中のウニ状赤血球(echinocyte)の有無を判定することができる。
【発明の効果】
【0010】
本技術により、血液中に含まれるウニ状赤血球を検出するための新規な装置および方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本技術に係る血液分析装置の構成を説明する模式図である。
【図2】実施例において撮像された赤血球を示す図面代用写真である。
【図3】実施例において赤血球で取得された可視吸収スペクトルを示す図面代用グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本技術を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本技術の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本技術の範囲が狭く解釈されることはない。
【0013】
本技術に係る血液分析装置は、汎用の位相差顕微鏡と二次元可視分光器とを組み合わせて構成でき、血液標本Sに対して白色光を走査して照射する光照射系と、血液標本Sを透過あるいは反射した光を検出し、血液の可視吸収スペクトルを取得する光検出系とを備える。図1に本技術に係る血液分析装置の構成を示す。光照射系11は、光源やミラー、レンズなどによって構成される。また、光検出系12は、レンズ、回折素子、スリット、ミラー、CCDやCMOS等の撮像素子などによって構成される。光照射系11および光検出系12は測定部1を構成する。
【0014】
この血液分析装置は、血液について取得された可視吸収スペクトル(測定スペクトル)のSorbet帯とQ帯との間の、450〜490nmの波長域に出現するピークを検出する解析部3を備える。検出するピークの波長は470nm付近とされることがより好ましい。この吸収ピークはウニ状赤血球に特徴的に出現するものであるため、これに基づけは血液中に含まれるウニ状赤血球を検出することができる。図中符号4は、前記吸収ピークの検出結果あるいはウニ状赤血球の検出結果を表示する表示部(ディスプレイやプリンタ等)を示す。
【0015】
測定スペクトルのウニ状赤血球特異的なピークの検出は、予め記憶された通常のディスク状の形態を備える赤血球で取得された可視吸収スペクトル(標準スペクトル)と比較により、スペクトル形状の相違として検出することができる。標準スペクトルは解析部3内に記憶、保持されていてもよく、解析部3外において解析部3へ読み出し可能に記憶、保持されていてもよい。
【0016】
本技術に係る血液分析装置は、例えば体外循環透析装置、血液ガス検査装置、血液凝固評価装置および潜血検査装置などとしての応用が可能であり、また薬物治療モニタリングのために利用できる。
【0017】
本技術に係る血液分析装置により被検者から採血された血液標本の分析を行う場合、装置には、血液標本を光照射系から白色光を照射可能な状態で保持し、かつこれを透過あるいは反射した光が光検出系に導入されるような状態で保持するサンプル保持部(図中符号13参照)を設ける。サンプル保持部13は、例えば、通常の顕微鏡に設けられ、血液を塗沫したスライドガラスを載置可能なステージなどとされる。
【0018】
また、サンプル保持部13は、例えば、血液保存バックの一部を肉薄な状態になるように抑え付けて、該部位を光検出系から照射される光が透過可能なように保持する構成としてもよい。実施例において後述するように、形態的に通常である赤血球であっても、470nm付近の吸収ピークを呈した赤血球は一定時間経過後全てウニ状赤血球に変化した。従って、本技術に係る血液分析方法を用いて保存血の分析を行えば、ウニ状赤血球の出現が形態学的に確認される前の段階で、赤血球の異常や保存血の劣化を分子レベルで検知することが可能である。
【0019】
さらに、本技術に係る血液分析装置により被験者の生体内の血液を分析する場合、装置の光照射系および光検出系は、結膜や鼻、口腔などの粘膜の毛細血管に対して白色光を照射可能であり、かつこれから反射した光を集光可能なように構成される。この構成として、例えば光ファイバにより粘膜表面に光を導光、照射して、反射光を集光する方式を採用できる。
【0020】
なお、本技術に係る血液分析装置は以下のような構成もとることができる。
(1)血液について取得された可視吸収スペクトルのSorbet帯とQ帯との間に出現するピークを検出する解析部を有する血液分析装置。
(2)前記解析部は、450〜490nmの波長域に出現するピークを検出する上記(1)記載の血液分析装置。
(3)前記解析部は、前記ピークの検出の有無に基づいて前記血液中のウニ状赤血球(echinocyte)の有無を判定する上記(2)記載の血液分析装置。
(4)前記ピークの検出の有無及び/又はウニ状赤血球(echinocyte)の有無の判定結果を提示する表示部を有する上記(2)又は(3)記載の血液分析装置。
(5)前記血液に対して可視光を照射する光照射系と、血液の可視吸収スペクトルを取得する光検出系と、を備える測定部を有する上記(1)〜(4)のいずれかに記載の血液分析装置。
【実施例】
【0021】
位相差顕微鏡(TE2000、株式会社ニコン)および二次元可視分光器(自社製品)を用いて、赤血球の観察を行った。赤血球は、上記非特許文献1記載の方法に従ってイオノフォアA23187を処置し、ウニ状化させた。赤血球を撮影した画像を図2に、取得された可視吸収スペクトルを図3に示す。なお、赤血球の懸濁に用いた緩衝液のみからは吸収ピークが検出されないことが確認された。
【0022】
図2中矢印は通常のディスク状の形態を備える赤血球を示し、図3(A)はこの通常形態を備える赤血球で取得された可視吸収スペクトルを示す。ヘモグロビン(hemoglobin)はヘム鉄錯体(heme)とグロビン(globin)からなり、ヘム鉄錯体は、鉄を取り囲むポルフィリン環に由来して、波長400nm付近のソーレー(Soret)吸収帯と550nm付近のQ吸収帯を特徴とする吸収スペクトルを示すことが知られている。図3(A)に示したスペクトルにおいても、ソーレー吸収帯(422nm)とQ吸収帯(540nm、576nm)が明らかである。
【0023】
一方、図2中矢頭はウニ状赤血球を示し、図3(B)はウニ状赤血球で取得された可視吸収スペクトルを示す。図3(B)に示すスペクトルでは、ソーレー吸収帯とQ吸収帯との間に波長472nmの特徴的な吸収ピークが出現していることが確認される。この吸収ピークは、ウニ状赤血球の突起先端部で必ず検出され、通常形態を備える赤血球でも一部検出された。しかし、吸収ピークが検出された通常形態の赤血球も、一定時間経過後には全てウニ状赤血球に変化した。
【0024】
この結果から、ソーレー吸収帯とQ吸収帯との間に出現する波長470nm付近の特徴的な吸収ピークが、ウニ状赤血球を検出するための指標となり得ることが明らかとなった。このウニ状赤血球に特異的な吸収ピークは、グロビンの構造が変化してヘム鉄錯体との配位状態が変わることにより生じるヘム構造の歪みを反映したものと推定された。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本技術によれば、血液について取得された可視吸収スペクトルから血液に含まれるウニ状赤血球を検出できる。従って、本技術は、例えば発症時にウニ状赤血球が血中に出現することが知られている各種疾患の診断や保存血の品質評価、薬物治療モニタリングなどのために利用でき、体外循環透析装置や血液ガス検査装置、血液凝固評価装置および潜血検査装置などとしての応用も可能である。
【符号の説明】
【0026】
1:測定部、11:光照射系、12:光検出系、13:サンプル保持部、3:解析部、4:表示部、S:血液標本

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液について取得された可視吸収スペクトルのSorbet帯とQ帯との間に出現するピークを検出する解析部を有する血液分析装置。
【請求項2】
前記解析部は、450〜490nmの波長域に出現するピークを検出する請求項1記載の血液分析装置。
【請求項3】
前記解析部は、前記ピークの検出の有無に基づいて前記血液中のウニ状赤血球(echinocyte)の有無を判定する請求項2記載の血液分析装置。
【請求項4】
前記ピークの検出の有無及び/又はウニ状赤血球(echinocyte)の有無の判定結果を提示する表示部を有する請求項3記載の血液分析装置。
【請求項5】
前記血液に対して可視光を照射する光照射系と、血液の可視吸収スペクトルを取得する光検出系と、を備える測定部を有する請求項1〜4のいずれか一項に記載の血液分析装置。
【請求項6】
血液について取得された可視吸収スペクトルのSorbet帯とQ帯との間に出現するピークを検出する手順を含む血液分析方法。
【請求項7】
前記ピークの検出の有無に基づいて前記血液中のウニ状赤血球(echinocyte)の有無を判定する請求項6記載の血液分析方法。


【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−36836(P2013−36836A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172741(P2011−172741)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】