説明

血液分析装置及び血液分析方法

【課題】測定精度を担保しながらも、ランニングコストや被験者の負担を軽減でき、全血中のヘモグロビン濃度及び血漿中のCRP濃度を迅速かつ簡便に測定できる血液分析装置を提供する。
【解決手段】全血に溶血試薬及び免疫試薬を供給して第1試料を生成する試薬供給手段20と、第1試料に光を照射する第1光源30と、第1試料を透過した光の強度を示す第1光強度信号を出力する第1光検出手段40と、第1試料に希釈液を供給して、第1試料を所定倍率に希釈し、第2試料を生成する希釈手段60と、第2試料に光を照射する第2光源70と、第2試料を透過した光の強度を示す第2光強度信号を出力する第2光検出手段80と、第2光強度信号の値に基づいて、ヘモグロビン濃度を算出するHgb算出部51と、第1光強度信号の値及びヘモグロビン濃度に基づいて血漿中のC−反応性蛋白質濃度を算出するCRP算出部50とを具備するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全血を用いて、全血中のヘモグロビン濃度と、血漿中のC−反応性蛋白質(C−reactive protein、以下CRPともいう)濃度とを測定する血液分析装置及び血液分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の血液分析装置には、特許文献1に示すように、ヘモグロビン濃度を測定するためのHgbセル(WBCセルに相当する)、及びCRP濃度を測定するためのCRPセルそれぞれに、全血と溶血試薬を含む各測定に必要な試薬とを供給して、各測定用の試料を生成し、前記各試料に光を照射して、各セルを透過した光の光強度から各濃度を算出するものがある。なお、本出願において、溶血とは赤血球の細胞膜が破壊される現象を指す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−101798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、各測定用の試料をそれぞれ別途生成するようにしているので、試料等の供給回数が多くなり、しかも供給のたびに供給に用いるノズルを洗浄するようにしているので、測定時間の短縮が難しく、手間もかかってしまう。
【0005】
さらに、測定精度を担保するためには、各測定用の試料をそれぞれ一定量以上用意する必要がある。そのため、試薬の使用量を減らしてランニングコストを低減したり、血液の採取量を減らして血液を採取される被験者の負担を軽減したりすることが難しいという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、上記の問題を解決すべく図ったものであり、測定精度を担保しながらも、ランニングコストや被験者の負担を軽減でき、全血中のヘモグロビン濃度及び血漿中のCRP濃度を迅速かつ簡便に測定できる血液分析装置を提供することをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明に係る血液分析装置は、全血に溶血試薬及び免疫試薬を供給して第1試料を生成する試薬供給手段と、前記第1試料に光を照射する第1光源と、前記第1光源から射出されて前記第1試料を透過した光を受光し、その強度を示す第1光強度信号を出力する第1光検出手段と、前記第1試料に希釈液を供給して、前記第1試料を所定倍率に希釈し、第2試料を生成する希釈手段と、前記第2試料に光を照射する第2光源と、前記第2光源から射出されて前記第2試料を透過した光を受光し、その強度を示す第2光強度信号を出力する第2光検出手段と、前記第2光強度信号の値に基づいて、ヘモグロビン濃度を算出するHgb算出部と、前記第1光強度信号の値及び前記ヘモグロビン濃度に基づいて血漿中のC−反応性蛋白質濃度を算出するCRP算出部とを具備することを特徴とするものである。
【0008】
このようなものであれば、CRP濃度の測定に用いた後の第1試料を希釈して第2試料を生成し、その第2試料を用いてヘモグロビン濃度を測定するようにしているので、試薬等の供給回数及び供給に用いるノズルの洗浄回数を減らすことができ、測定時間を短縮できるとともに、手間を軽減することができる。また、ヘモグロビン測定用の試料と、CRP測定用の試料とを別々に一定量以上確保しなくとも良いので、測定精度を担保しながらも、試薬の使用量を減らしてランニングコストを低減できる。また、血液の採取量を減らして血液を採取される被験者の負担を軽減することも可能である。
【0009】
また、全血に免疫試薬を供給すると、例えば全血中のCRPと免疫試薬中の免疫成分とが免疫反応するので、この反応物を利用してCRP濃度が測定される。一方、前記反応物は、ヘモグロビン濃度の測定においては測定の妨げとなってしまうという問題がある。これに対し、第1試料を所定倍率に希釈して第2試料を生成してあるので、例えば前記反応物のような免疫試薬の影響を可及的に低減して、ヘモグロビン濃度を精度良く測定することができる。
【0010】
また、従来の装置では、採血した全血を収容する採血容器を、前記装置にセットしてから、前記全血を複数のセルそれぞれに供給するまで、前記採血容器を取り外すことができず、その間オペレータが待機しなければならないという問題がある。これに対し、このようなものであれば、前記採血容器から全血を1回採取するだけで前記採血容器を除去することができ、待機時間を格段に減らすことができる。
【0011】
上述した免疫試薬の影響としては、第2試料が免疫試薬を含むこと自体による影響と、免疫試薬と第2試料中のCRPとの免疫反応の影響とが挙げられる。前者の免疫試薬そのものの影響をさらに低減して、より正確にヘモグロビン濃度を算出するためには、前記希釈液によって所定倍率に希釈した前記免疫試薬に対し、前記第2光源又は前記第2光源からの光の波長域を含む光を射出する光源から光を照射したときの透過光強度に関連する値である第1関連値を記憶する第1関連値記憶部をさらに具備し、前記Hgb算出部が、前記第1関連値及び前記第2光強度信号の値に基づいて、ヘモグロビン濃度を算出するものが望ましい。
【0012】
一方、後者の免疫反応の影響の大きさは、本出願の発明者の鋭意検討により、全血中のCRP濃度に依存することが見いだされた。従って、免疫反応の影響をさらに低減して、より正確にヘモグロビン濃度を算出するためには、全血中のC−反応性蛋白質濃度が既知である全血に、溶血試薬及び免疫試薬を供給して生成した基準試料に対し、前記第2光源又は前記第2光源からの光の波長域を含む光を射出する光源から光を照射したときの透過光強度に関連する値である第2関連値を記憶する第2関連値記憶部をさらに具備し、前記Hgb算出部が、第2関連値と、前記第1光強度信号の値と、前記第2光強度信号の値とに基づいて、ヘモグロビン濃度を算出するものが望ましい。このヘモグロビン濃度の算出方法の具体的な一例としては、前記Hgb算出部が、前記第2関連値と、前記第1光強度信号の値から算出した全血中のC−反応性蛋白質濃度とから補正値を算出し、該補正値及び前記第2光強度信号の値に基づいてヘモグロビン濃度を算出するものを挙げることができる。
【0013】
なお、各関連値には、透過光強度、光透過率又は吸光度を示す値だけでなく、透過光強度等に基づいて算出した検量線を示す値等が含まれる。
【0014】
この血液分析装置に用いられる血液分析方法もまた、本発明の1つである。すなわち、本発明に係る血液分析方法は、全血に溶血試薬及び免疫試薬を供給して第1試料を生成する試薬供給ステップと、前記第1試料に光を照射し、前記第1試料を透過した光を受光し、その強度を示す第1光強度を測定する第1光強度測定ステップと、前記第1試料に希釈液を供給して、前記第1試料を所定倍率に希釈し、第2試料を生成する希釈ステップと、第2試料に光を照射し、前記第2試料を透過した光を受光し、その強度を示す第2光強度を測定する第2光強度測定ステップと、前記第2光強度に基づいて、全血中のヘモグロビン濃度を算出するHgb算出ステップと、前記第1光強度及び前記ヘモグロビン濃度に基づいて血漿中のC−反応性蛋白質濃度を算出するCRP算出ステップとを具備することを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0015】
上述した構成の本発明によれば、測定精度を担保しながらも、ランニングコストや被験者の負担を軽減でき、全血中のヘモグロビン濃度及び血漿中のCRP濃度を簡便かつ迅速に測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態における血液分析装置の模式的機器構成図。
【図2】同実施形態における血液分析装置の動作手順を示すフローチャート。
【図3】同実施形態における血液分析装置を用いて算出した吸光度とヘモグロビン濃度との相関性を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施形態に係る血液分析装置100について、図面を参照して説明する。本実施形態に係る血液分析装置100は、例えば人血や動物血等の全血を用いて、全血中のヘモグロビン濃度及び血漿中のCRP濃度とを測定するものである。具体的にこの血液分析装置100は、図1に示すように、大きくは、測定機構110及びその測定機構110に係る演算処理を行う演算機構120からなる。なお、全血とはヒトや動物から採取した血液であって、血球成分と血漿成分とを含んでいるものであり、抗凝固剤や希釈液などをさらに含むものであってもよい。
【0018】
前記測定機構110は、試料を収容するセル10と、前記セル10に試薬を供給する試薬供給手段20と、前記セル10に収容された試料に光を照射する第1光源30と、前記第1光源30から射出されて試料を透過した光を受光し、その強度を示す第1光強度信号を出力する第1光検出手段40とを具備している。
【0019】
各部を詳述する。前記セル10は、試料を収容する内部空間を有する容器である。前記内部空間における、光が入射する入射窓及び光が射出する射出窓は、互いに平行に向かい合っており、前記内部空間の底面中央部には、試料を排出する排出口(図示しない)が設けられている。このセル10には、前記全血を収容する採血容器(図示しない)から、全血供給ノズル(図示しない)によって、所定量の全血が供給される。
【0020】
試薬供給手段20は、溶血試薬と、緩衝試薬と、免疫試薬とを収容する試薬容器21と、前記各試薬を前記セル10に供給する試薬供給ノズル22と、該試薬供給ノズル22を所定量の前記各試薬が通過するように、弁体の開度を調整する電磁弁(図示しない)とを具備する。前記試薬供給手段20は、前記セル10に収容された全血に、溶血試薬(例えば溶血性サポニン類溶液)、緩衝試薬、及び免疫試薬(例えばCRP−X2(デンカ生研))を順次供給して第1試料を生成する。この免疫試薬には、前記第1試料中のCRPと免疫反応を起こして凝集する免疫成分(ここでは抗CRP抗体感応性のラテックス)を含む。
【0021】
第1光源30は、前記セル10に臨んで配置されており、ピーク波長が600nm以上である光を射出するLEDであり、ここではピーク波長は660nmである。
【0022】
第1光検出手段40は、前記セル10を挟んで、前記第1光源30に対向して配置されたものであり、ここではフォトダイオードである。
【0023】
演算機構120は、汎用又は専用のコンピュータであり、メモリに所定のプログラムを格納し、当該プログラムに従ってCPUやその周辺機器を協働動作させることによって、CRP算出部50及び制御部(図示しない)としての機能を発揮する。CRP算出部50は、前記第1光強度信号の値及び後述するヘモグロビン濃度に基づいて、血漿中のCRP濃度を算出するものであり、ここではラテックス免疫比濁法を用いて算出している。具体的には、第1試料に免疫試薬を供給すると、第1試料中のCRPと前記免疫試薬中の免疫成分とが免疫反応して徐々に凝集していくので、その凝集過程での前記第1光強度信号の値の時間変化量を測定する。この時間変化量と全血中のCRP濃度との間には相関性があり、この相関性を示す検量線を、全血中のCRP濃度が既知である全血を用いて予め算出して、CRP算出部50に記憶させておく。CRP算出部50は、測定された第1光強度信号の値の時間変化量を、前記検量線に代入して、全血中のCRP濃度を算出する。さらに全血中のCRP濃度を、後述するヘモグロビン濃度を用いて補正して、血漿中のCRP濃度を算出する。制御部は、この血液分析装置100の各部が、測定開始から所定時間経過後に動作するように、指令を出力するものである。
【0024】
さらに、本実施形態に係る血液分析装置100は、CRP濃度の測定に用いた後の第1試料を利用して、ヘモグロビン濃度を測定するための構成を具備する。具体的には前記測定機構110が、前記セル10に希釈液を供給する希釈手段60と、前記セル10に光を照射する第2光源70と、前記第2光源70から射出されて試料を透過した光を受光し、その強度を示す第2光強度信号を出力する第2光検出手段80とを具備している。
【0025】
前記希釈手段60は、セル10に収容された第1試料に希釈液を供給して第1試料を所定倍率(150〜400倍であり、ここでは306倍である。以下、希釈倍率ともいう)に希釈し、第2試料を生成するものである。希釈手段60は、前記試薬供給手段20と同様に、希釈液を収容する希釈液容器61と、前記希釈液を前記セル10に供給する希釈液供給ノズル62と、該希釈液供給ノズル62を所定量の希釈液が通過するように弁体の開度を調整する電磁弁(図示しない)とを具備する。
【0026】
第2光源70は、セル10に臨んで配置されており、ピーク波長が500〜550nmである光を射出するLEDであり、ここではピーク波長は510nmである。
【0027】
第2光検出手段80は、前記セル10を挟んで前記第2光源70に対向して配置されたものであり、ここではフォトダイオードである。
【0028】
また、前記演算機構120は、Hgb算出部51及びHct換算部57としての機能を有する。Hgb算出部51は、第2光強度信号の値に基づいてヘモグロビン濃度を算出するものであり、前記第2光強度信号の値を補正するための補正値を算出する補正値算出部52と、該補正部が算出した補正値及び第2光強度信号の値に基づいて、ヘモグロビン濃度を算出するHgb算出部本体53とを有する。
【0029】
補正値算出部52は、予め定められた第1関連値を記憶する第1関連値記憶部54と、予め定められた第2関連値を記憶する第2関連値記憶部55と、前記第1関連値、前記第2関連値、及び測定された第1光強度信号の値に基づいて補正値を算出する補正値算出部本体56とを具備する。
【0030】
補正値及び各関連値について説明する。ヘモグロビン濃度は、第2光強度信号の値に基づいて算出されるが、この第2光強度信号の値は、免疫試薬を含む第2試料を用いて測定されるので、免疫試薬の影響を受けてしまう。従って、その免疫試薬の影響の大きさを示す値である補正値を、前記第2光強度信号の値から差し引いて、前記第2光強度信号の値を補正するようにしている。前記補正値は、免疫試薬そのものの影響の大きさを示す第1補正値と、免疫試薬と第2試料中のCRPとの免疫反応の影響の大きさを示す第2補正値との和である。
【0031】
第1補正値は、予め定められた第1関連値に基づいて算出される値であり、ここでは第1関連値に等しい。第1関連値は、ヘモグロビン濃度等の測定に先立って、前記希釈液によって所定倍率に希釈した(ここでは前記第2試料と概略同じ所定倍率に希釈してある)前記免疫試薬を生成し、前記セル10に収容した免疫試薬に対し、第2光源70から光を照射したときの透過光強度に関連する値(ここでは透過光強度を示す値)である。
【0032】
一方、第2補正値は、全血中のCRP濃度に依存することが本願発明者の鋭意検討により見いだされており、全血中のCRP濃度を変数とする検量線に、全血中のCRP濃度を代入して算出される。前記第2関連値は前記検量線を示す値(ここでは多項式である検量線の係数)である。より詳しくは、第2関連値は、ヘモグロビン濃度等の測定に先立って全血中のCRP濃度が既知であり、その濃度が互いに異なる複数種類の全血に、溶血試薬及び免疫試薬を供給して複数種類の基準試料を生成し、セル10に収容した各基準試料に対し、前記第2光源から光をそれぞれ照射したときの複数の透過光強度に関連する値であり、ここでは、前記複数の透過光強度を示す値に基づいて算出した、透過光強度と全血中のCRP濃度との関係を示す検量線を示す値である。
【0033】
また、第2関連値はこれに限られるものではなく、第2関連値を検量線を示す値とした場合の他の例について言えば、第2関連値記憶部55が、前記複数の透過光強度を示す値を第2関連値として記憶し、補正値算出部本体56が、その複数の値から全血中のCRP濃度に応じて1つの値を選び出し、その値を第2補正値として算出するようにしたものを挙げることができる。
【0034】
Hgb算出部本体53は、第2光検出手段80から受け付けた第2光強度信号の値と、前記補正値との差分を算出して、第2光強度信号の値を補正する。また、Hgb算出部本体53は、ヘモグロビン濃度が既知である全血を用いて予め算出しておいた、前記ヘモグロビン濃度と前記差分との関係を示す検量線を記憶しており、その検量線に算出した差分を代入して、ヘモグロビン濃度を算出する。
【0035】
Hct換算部57は、前記Hgb算出部51で算出したヘモグロビン濃度を、予め定められた換算式を用いてヘマトクリット値に換算するものである。
【0036】
次に、この血液分析装置100の動作手順について図2のフローチャートを参照しながら説明する。まず、前記全血供給ノズルの先端に前記採血容器中の全血が浸かるように、前記採血容器を近づけた状態で、オペレータが測定開始スイッチを入れると(ステップS1)、前記制御部からの指令を受けて、前記全血供給ノズルが、所定量の全血をセル10に供給する(ステップS2)。次に、試薬供給手段20が、セル10に収容された全血に溶血試薬、緩衝試薬、及び免疫試薬を順次供給して第1試料を生成する(ステップS3)。さらに、第1光源30が前記第1試料に光を照射し(ステップS4)、第1光検出手段40が、第1試料を透過した光の強度を示す第1光強度信号を測定して出力する(ステップS5)。
【0037】
さらに、前記制御部からの指令により、前記セル10の排出口から第1試料の一部を排出して、前記セル10に所定量の第1試料を残す(ステップS6)。希釈手段60は、セル10に残された第1試料に所定量の希釈液を供給して、前記第1試料を所定倍率に希釈し、第2試料を生成する(ステップS7)。
【0038】
前記制御部からの指令により、第2光源70が前記第2試料に光を照射し(ステップS8)、第2光検出手段80が、第2試料を透過した光の強度を示す第2光強度信号を測定して出力する(ステップS9)。
【0039】
CRP算出部50は、前記第1光強度信号の値の時間変化量を、予め算出しておいた検量線に代入して全血中のCRP濃度を算出する(ステップS10)。補正値算出部52の補正値算出部本体56は、全血中のCRP濃度を、第2関連値記憶部55が記憶している第2関連値を係数とする検量線に代入して、前記第2補正値を算出する一方、第1関連値記憶部54が記憶している第1関連値を、前記第1補正値として受け付け、第1補正値と第2補正値との和である補正値を算出する(ステップS11)。Hgb算出部本体53は、前記第2光検出手段80から受け付けた前記第2光強度信号の値と、前記補正値との差分を算出し、その差分を予め算出しておいた検量線に代入して、ヘモグロビン濃度を算出する(ステップS12)。
【0040】
Hct換算部57は、Hgb算出部51で算出した前記ヘモグロビン濃度を、予め定められた換算式を用いてヘマトクリット値に換算する(ステップS13)。CRP算出部50は、前記全血中のCRP濃度及びヘマトクリット値に基づいて、血漿中のCRP濃度を算出する(ステップS14)。プリンタのような出力手段が、算出されたヘモグロビン濃度や血漿中のCRP濃度を出力する(ステップS15)。
【0041】
本実施形態に係る血液分析方法によって補正した第2光強度信号の値(前記差分)を用いて算出した吸光度と、ヘモグロビン濃度との相関性を示すグラフを図3に示す。相関係数の平均値は0.988であり、相関性は十分高く、本実施形態に係るヘモグロビン濃度の測定方法は十分に精度が高いことが分かる。
【0042】
本実施形態によれば、CRP濃度の測定に用いた後の第1試料を希釈して第2試料を生成し、その第2試料を用いてヘモグロビン濃度を測定するようにしているので、試薬等の供給回数及び供給に用いるノズルの洗浄回数を減らすことができ、測定時間を短縮できるとともに、手間を軽減することができる。また、ヘモグロビン測定用の試料と、CRP測定用の試料とを別々に一定量以上確保しなくとも良いので、測定精度を担保しながらも、試薬の使用量を減らしてランニングコストを低減できる。また、血液の採取量を減らして血液を採取される被験者の負担を軽減することも可能である。
【0043】
また、全血に免疫試薬を供給すると、例えば全血中のCRPと免疫試薬中の免疫成分とが免疫反応するので、この反応物を利用してCRP濃度が測定される。一方、前記反応物は、ヘモグロビン濃度の測定においては測定の妨げとなってしまうという問題がある。これに対し、第1試料を所定倍率に希釈して第2試料を生成してあるので、例えば前記反応物のような免疫試薬の影響を可及的に低減して、ヘモグロビン濃度を精度良く測定することができる。
【0044】
また、Hgb測定及びCRP測定に同一のセル10を用いているので、測定の種類ごとに異なるセルを設ける必要がなく、製造コストを抑えることができる。さらに、全血をセル10に供給する際には、前記全血供給ノズルに、前記採血容器中の全血を短時間接触させるだけでよいので、前記採血容器を保持しておくホルダ等を省略することができる。
【0045】
また、全血を用いた測定では、血漿中のCRP濃度を算出するために、ヘマトクリット値を用いる必要がある。従来、ヘマトクリット値は、電気抵抗法により算出されているため、電極等を設ける必要があり、製造コストがかかってしまう。これに対し、本発明の発明者は鋭意検討により、前記ヘモグロビン濃度からヘマトクリット値を精度良く換算できることを見出した。この換算を本実施形態の血液分析装置100で用いているため、電極等を省略でき、製造コストを抑えることができる。
【0046】
加えて言えば、CRP測定に用いられた第1試料全てを希釈するのではなく、第1試料の一部を希釈して第2試料を生成するようにしているので、希釈液の消費を抑えることができ、ランニングコストを抑えることができる。
【0047】
なお、本発明はこれらの実施形態に限られるものではない。例えば、CRP測定に用いられた第1試料全てを希釈して、第2試料を生成するようにしてもよい。
【0048】
また、ヘモグロビン濃度からヘマトクリット値を算出し、ヘマトクリット値及び全血中のCRP濃度に基づいて、血漿中のCRP濃度を算出するようにしたが、ヘマトクリット値を算出するという工程を経ずに、ヘモグロビン濃度及び全血中のCRP濃度に基づいて、血漿中のCRP濃度を算出するようにしてもよい。また、ヘモグロビン濃度を算出せず、第1光強度信号の値及び第2光強度信号の値から血漿中のCRP濃度を算出するようにしてもよい。
【0049】
また、第1光強度信号の値の時間変化量から、全血中のCRP濃度を算出するようにしたが、第1光強度信号の値から算出するようにしてもよい。同様に、第2光強度信号の値からヘモグロビン濃度を算出するようにしたが、第2光強度信号の値の時間変化量から算出するようにしてもよい。
【0050】
さらに、試薬供給手段についていえば、1つの試薬供給ノズルによって、各試薬を第1セルに供給するようにしてもよいし、各試薬に対応する複数の試薬供給ノズルを設けて、各試薬を供給するようにしてもよい。また、溶血試薬供給手段と、緩衝試薬供給手段と、免疫試薬供給手段とは一体で設けられるものとしたが、それぞれ別体で設けてもよい。同様に、試薬供給手段と希釈手段とは一体で設けても良いし、別体で設けても良い。
【0051】
第1光源及び第2光源はLEDのようなピークを有する光を射出する単波長光源としたが、例えばXeランプのような連続スペクトル光を射出する連続スペクトル光源と、所定の波長範囲の光だけを透過させ、その他の波長範囲の光を遮光する光学フィルタとを具備する光源装置であってもよい。また、同一の連続スペクトル光源に対して、異なる光学フィルタを用いることにより、第1光源及び第2光源を構成してもよい。
【0052】
また、第1光検出手段及び第2光検出手段は別体で設けられるものとしたが、一体で設けられてもよい。
【0053】
前記第1関連値は、前記第2試料と同じ希釈倍率(以下、基準倍率ともいう)に希釈した免疫試薬及びヘモグロビン測定に用いるセル(以下、このセルのセル長を基準セル長ともいう)を用いて測定した透過光強度を示す値としたが、基準倍率とは異なる希釈倍率に希釈した前記免疫試薬や、基準セル長とは異なるセル長のセルを用いて測定した透過光強度を示す値としてもよい。その場合、第1補正値は、第1関連値に所定値αを乗じた値とすればよく、その所定値αは、基準倍率に対する希釈倍率の比率や、基準セル長に対するセル長の比率に応じて定めた値(例えば、各比率が1である場合はα=1)とすればよい。
【0054】
さらに、複数の希釈倍率やセル長が選択できる場合には、複数の希釈倍率に希釈した免疫試薬及び複数のセル長のセルを用いて透過光強度をそれぞれ測定し、測定した複数の透過光強度を示す値を第1関連値として記憶しておき、その中から前記選択に応じて1つを選び出し、第1補正値としてもよい。
【0055】
また、例えば複数の選択肢から希釈倍率やセル長を選ぶのではなく、所定範囲内の任意の希釈倍率やセル長を選択することができる場合には、検量線を用いることが望ましい。具体的には、複数の希釈倍率に希釈した免疫試薬及び複数のセル長のセルを用いて透過光強度をそれぞれ測定し、透過光強度と、前記セル長又は希釈倍率との関係を示す検量線を算出し、その検量線を示す値(例えば多項式である検量線の係数)を第1関連値とする。そして、前記セル長及び希釈倍率を、第1関連値を係数とする検量線に代入して、第1補正値を算出すればよい。
【0056】
第2関連値についても、第1関連値と同様に、希釈倍率やセル長を考慮した値としてもよい。例えば希釈倍率やセル長に応じて、透過光強度と全血中のCRP濃度の関係を示す検量線(具体的には多項式である検量線の係数)を選び出すものを挙げることができる。より具体的には、上述した第1関連値と同様に、複数組の係数を第2関連値として第2関連値記憶部に記憶しておき、その複数組の係数から希釈倍率及びセル長の選択に応じて1組を選び出し、前記検量線の係数としてもよい。また、希釈倍率又はセル長と、検量線の係数との関係式を算出しておき、その関係式の係数を第2関連値として第2関連値記憶部に記憶しておいてもよい。
【0057】
また、各関連値又は各補正値は、希釈倍率やセル長だけではなく、各試薬や希釈液の種類、各試薬及び希釈液の供給量、各試薬や希釈液同士の比率等に応じて算出されるものとしてもよい。
【0058】
一方、全血中のCRP濃度があまり変動しないことが見込まれる場合のような、全血中のCRP濃度が第2補正値に与える影響が実質的に変化しない場合には、第2補正値を、例えば全血中のCRP濃度が所定値(例えば平均値)である全血に、溶血試薬及び免疫試薬を供給して生成した基準試料に対し、前記第2光源から光を照射したときの透過光強度を示す値を第2関連値としてもよい。
【0059】
前記各関連値は、第2光源を用いて得た透過光強度に関連する値としたが、例えば第2光源からの光の波長域を含む光を射出する光源のような、前記第2光源と同等の光源を用いて得た透過光強度に関連する値としてもよい。また、各関連値は、透過光強度、光透過率又は吸光度を示す値であってもよい。
【0060】
前記制御部は、この血液分析装置100の各部が、測定開始から所定時間経過後に動作するように、指令を出力するものとしたが、免疫試薬や希釈液の供給のような所定動作から所定時間経過後に、前記各部が動作するように指令を出力するものとしてもよい。その他、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0061】
100・・・血液分析装置
10・・・セル
20・・・試薬供給手段
30・・・第1光源
40・・・第1光検出手段
50・・・CRP算出部
51・・・Hgb算出部
60・・・希釈手段
70・・・第2光源
80・・・第2光検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象である全血に溶血試薬及び免疫試薬を供給して第1試料を生成する試薬供給手段と、
前記第1試料に光を照射する第1光源と、
前記第1光源から射出されて前記第1試料を透過した光を受光し、その強度を示す第1光強度信号を出力する第1光検出手段と、
前記第1試料に希釈液を供給して、前記第1試料を所定倍率に希釈し、第2試料を生成する希釈手段と、
前記第2試料に光を照射する第2光源と、
前記第2光源から射出されて前記第2試料を透過した光を受光し、その強度を示す第2光強度信号を出力する第2光検出手段と、
前記第2光強度信号の値に基づいて、ヘモグロビン濃度を算出するHgb算出部と、
前記第1光強度信号の値及び前記ヘモグロビン濃度に基づいて前記全血における血漿中のC−反応性蛋白質濃度を算出するCRP算出部とを具備することを特徴とする血液分析装置。
【請求項2】
前記希釈液によって所定倍率に希釈した前記免疫試薬に対し、前記第2光源又は前記第2光源からの光の波長域を含む光を射出する光源から光を照射したときの透過光強度に関連する値である第1関連値を記憶する第1関連値記憶部をさらに具備し、
前記Hgb算出部が、前記第1関連値及び前記第2光強度信号の値に基づいて、ヘモグロビン濃度を算出するものである請求項1記載の血液分析装置。
【請求項3】
全血中のC−反応性蛋白質濃度が既知である全血に、溶血試薬及び免疫試薬を供給して生成した基準試料に対し、前記第2光源又は前記第2光源からの光の波長域を含む光を射出する光源から光を照射したときの透過光強度に関連する値である第2関連値を記憶する第2関連値記憶部をさらに具備し、
前記Hgb算出部が、第2関連値と、前記第1光強度信号の値と、前記第2光強度信号の値とに基づいて、ヘモグロビン濃度を算出するものである請求項1記載の血液分析装置。
【請求項4】
前記Hgb算出部が、前記第2関連値と、前記第1光強度信号の値から算出した全血中のC−反応性蛋白質濃度とから補正値を算出し、該補正値及び前記第2光強度信号の値に基づいてヘモグロビン濃度を算出するものである請求項3記載の血液分析装置。
【請求項5】
全血に溶血試薬及び免疫試薬を供給して第1試料を生成する試薬供給ステップと、
前記第1試料に光を照射し、前記第1試料を透過した光を受光し、その強度を示す第1光強度を測定する第1光強度測定ステップと、
前記第1試料に希釈液を供給して、前記第1試料を所定倍率に希釈し、第2試料を生成する希釈ステップと、
第2試料に光を照射し、前記第2試料を透過した光を受光し、その強度を示す第2光強度を測定する第2光強度測定ステップと、
前記第2光強度に基づいて、全血中のヘモグロビン濃度を算出するHgb算出ステップと、
前記第1光強度及び前記ヘモグロビン濃度に基づいて血漿中のC−反応性蛋白質濃度を算出するCRP算出ステップとを具備することを特徴とする血液分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−127916(P2012−127916A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281969(P2010−281969)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】