説明

血液分析装置

【課題】異常反応を検知し、使用者に誤った測定結果を出さずに、短時間で測定結果を算出することのできる血液分析装置を提供する。
【解決手段】検体と試薬を混合する混合手段8と、前記混合された混合物の反応を検出する検出手段9と、検出手段9から得られる電流、電圧、吸光度、蛍光強度の少なくともいずれか1つの変化から、前記検体中の特定の成分量を測定する測定手段10とを有する血液分析装置において、検出手段9によって得られた測定データを用いて最小二乗法により近似式を求める第1の処理工程111と、前記近似式から求めた値と前記測定データの値を比較して乖離度を求める第2の処理工程112と、前記乖離度が規定値以上であるときは、測定結果が誤り又は要注意結果であることを出力する第3の処理工程113と、を含む判定手段11を備えていることを特徴とする血液分析装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液分析装置に関わり、特に、測定データに異常が発生した場合のデータ処理に特徴を有する血液分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、マイクロチップを用いた生化学分析装置の開発が進み、実用化が進んでいる。これらの装置の中には、マイクロチップ内に取り込んだ微量の血液と試薬との反応を、光を用いて検出する技術が知られている。このような技術としては、例えば、特許文献1に記載の生化学分析装置が知られている。
【0003】
このような生化学分析装置等の自動分析装置においては、反応過程の乱れを平滑化し、データの信頼性の向上や、分析結果が不備な場合に警告を発生する等、データ処理についても種々の検討がなされている。このような技術としては、例えば、特許文献2に記載の自動分析装置・自動分析方法が知られている。同装置・方法によれば、次のような処理によってデータ処理を行っている。
【0004】
最初に、反応で得られた測定データの集合から複数点を選択し、選択された点から求まる近似式を算出する。次に、選択する測定データの組み合わせを変えて、同様に近似式を求める。このようにして求めた複数の近似式の中から、測定データとの偏差が規定より小さいものをデータ処理用の近似式として採用する。次に、採用された近似式と、演算に使用する測定データとの間で、偏差が規定値より大きくなるかをチェックし、警告を発生する等の処理を行う。
【0005】
引用文献2の図5には、上記の手順をフローチャートにしたものが記載されている。同フローチャートによれば、はじめに、反応式をAbs=Ae−kt+Bと仮定し、反応終了付近のデータから、未知数Bを仮に決定する。次に、測定データを3つの領域に区分し、それぞれの領域から(t、Abs)のデータを代入する。次に、これらの式から未知数A、kの候補を算出し、得られた各候補での近似式と測定データとの偏差の2乗値及び分散が規定値以下であるかどうかを判定し、近似式候補とする。これらを全てのデータの組み合わせで行い、最も結果の良いものを近似式と決定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−322208号公報
【特許文献2】特開2006−33125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に開示されているデータ処理法では、データ処理に時間がかかるばかりでなく、反応初期から反応終了までの長時間に亘る一連のデータを取得する必要がある。例えば、特許文献2の段落0016に記載のBの値は反応終了後でなければ類推することができない、といった問題がある。更には、初期値として類推される値(B)を用いて近似される結果は、常に最適解が得られるわけではないといった問題もある。一方、マイクロチップを用いた「医療現場での臨床検査の装置」(Point of Care:POCT装置)によれば、ベットサイド等での迅速な測定が求められており、反応が完全に終了する前に、測定データから演算処理結果を算出する必要がある。更には、マイクロチップを用いた反応では、表面張力の影響等が大きくなり、結果として注入された血液に対して反応領域が小さく、試薬と血液等の検体との混合が難しくなり、反応開始から測定開始までの時間が長くなる、といった問題があった。
【0008】
本発明の目的は、上記の問題点に鑑み、マイクロチップ等を用いた血液分析装置において、異常反応を検知し、使用者に誤った測定結果を出さずに、短時間で測定結果を算出することを可能にした血液分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するために、請求項1記載の発明は、検体と試薬を混合する混合手段と、前記混合された混合物の反応を検出する検出手段と、該検出手段から得られる電流、電圧、吸光度、蛍光強度の少なくともいずれか1つの変化から、前記検体中の特定の成分量を測定する測定手段とを有する血液分析装置において、前記検出手段によって得られた測定データを用いて最小二乗法により近似式を求める第1の処理工程と、前記近似式から求めた値と前記測定データの値を比較して乖離度を求める第2の処理工程と、前記乖離度が規定値以上であるときは、測定結果が誤り又は要注意結果であることを出力する第3の処理工程と、を含む判定手段を備えていることを特徴とする血液分析装置である。
請求項2記載の発明は、請求項1の記載において、前記第1の処理工程は、前記検体と前記試薬との混合期間を経た、前記反応の開始から終了までの全期間に対する一部期間において行うことを特徴とする血液分析装置である。
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2の記載において、前記第2の処理工程における乖離度は、前記近似式から求めた値と前記測定データの値との残差平方和であることを特徴とする血液分析装置である。
請求項4記載の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれか1つの請求項の記載において、前記近似式は、多項式であることを特徴とする血液分?装置である。
請求項5記載の発明は、請求項1ないし請求項4のいずれか1つの請求項の記載において、前記検体と試薬との混合及び前記混合物の反応は、マイクロチップにおいて行われることを特徴とする血液分析装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の血液分析装置によれば、測定データの演算処理を最小二乗法により近似計算を行うので、測定結果としての最適解を得ることができ、異常な測定に対して、測定誤りを確実に把握することができる。更に、最小二乗法により測定データ処理を行うので、測定誤りを短時間の測定で正確に把握することができ、測定全体を短時間で処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る血液分析装置の一例を示す外観図である。
【図2】本実施形態に係る血液分析装置の機能構成を示す図である。
【図3】CRP(C反応性蛋白)測定が行われた場合の、混合完了後の吸光度変化を示す正常および異常な測定データとそれに対応する近似式の例を示す図である。
【図4】本実施形態に係る血液分析装置における処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
はじめに、本発明の血液分析装置の概要について説明する。本発明の血液分析装置は、検体と試薬を混合し、混合物から得られる吸光度等の変化から、検体の特定の物質量を測定する装置であって、血液凝固等検体の不具合や、試薬やチップの保管不良、または測定装置の異常等の測定手段に起因する不具合等によって、誤った測定結果が出力されることを防ぐことを目的として、得られた反応過程を近似式で近似し、近似結果とそれに対応する実際の測定データの差の総和(残差平方和)が規定値以上であれば異常反応であるとして測定誤りを出力する装置である。
【0013】
次に、本発明の一実施形態を図1〜図4を用いて説明する。
図1は、本実施形態に係る血液分析装置の一例を示す外観図である。
同図に示すように、この血液分析装置は、装置カバー5と、装置カバー5内に設けられたチップカバー6と、チップカバー6の中にあるチップホルダー7とを備え、チップホルダー7に検体を入れた不図示のマイクロチップがセットされる。装置カバー5の横には操作部3及び表示部4が設けられている。また、測定結果をプリントアウトするプリンター2が配置されている。同装置への電源入力は側面に設けられた電源スイッチ1をオンにすることにより装置全体を起動状態とすることができる。
【0014】
この血液分析装置における具体的な操作手順は、以下の通りである。まず、同装置の装置カバー5及びチップカバー6を開け、チップホルダー7に検体を入れたマイクロチップをセットする。次に、操作部3のスタートボタンを押すことにより、マイクロチップ内に注入された検体(微量血液)を遠心力等を利用し試薬と混合する。この混合により、検体(微量血液)と試薬との反応が開始され、反応物の測定が開始される。測定終了後、プリンター2および表示部4に測定結果が出力される。
【0015】
図2は、本実施形態に係る血液分析装置の機能構成を示す図である。
同図に示すように、この血液分析装置は、検体と試薬を混合する混合手段8と、混合された混合物の反応を検出する検出手段9と、検出手段9から得られる電流、電圧、吸光度、蛍光強度の少なくともいずれか1つの変化から、検体中の特定の成分量を測定する測定手段10とを有し、更に、測定手段10は、検出手段9によって得られた測定データを用いて最小二乗法により近似式を求める第1の処理工程111と、前記近似式から求めた値と前記測定データの値を比較して乖離度を求める第2の処理工程112と、前記乖離度が規定値以上であるときは、測定結果が誤り又は要注意結果であることを出力する第3の処理工程113とを含む判定手段11を備えている。
【0016】
以下に、本実施形態に係る血液分析装置の機能構成の処理手順について説明する。
例えば、CRP(C反応性蛋白)測定の場合、混合手段8における検体(血液)への試薬の混入後、検体(血液)と試薬が混合される混合期間は約1分間である。混合期間の経過後、検体(血液)と試薬との混合物の反応が開始され、検出手段9において反応が検出される。反応開始から約1分間、測定手段10によって収集された測定データに基づいて、判定手段11の第1の処理工程111において、最小二乗法により多項式、例えば、2次式、からなる近似式を計算する。次に、判定手段11の第2の処理工程112において、近似式から求めた値と前記測定データの値を比較して乖離度、例えば、近似式から求めた値と測定データの値との残差平方和を求める。次に、判定手段11の第3の処理工程113において、前記乖離度(残差平方和)が規定値以上であるときは、測定結果が誤り又は要注意であることを出力する。
なお、前記反応が完全に終了するまでには、通常10分以上の時間を要するが、できるだけ短時間で測定結果を出すために、上述のような測定を行う。また、反応による変化の割合を測定するためには、反応初期のデータを収集するのが好ましいが、均一な混合を行うためには、1分間程度の混合時間を要する。
【0017】
なお、残差平方和Eは、実際に測定された測定データの組を(x、y)、近似式をy=ax+bx+c とした場合、E=Σ(y−ax−bx−c)で表すことができる。残差平方和Eが最小となる定数a、b、cを決定する最小二乗法を用いて、この両辺を偏微分することで得られる正規方程式を解くことによりa、b、cを求めることができる。
【0018】
図3(a)は、CRP(C反応性蛋白)測定が行われた場合の、混合完了後の吸光度変化を示す正常な測定データと近似式の例を示す図であり、図3(b)は、CRP(C反応性蛋白)測定が行われた場合の、混合完了後の吸光度変化を示す異常な測定データと近似式の例を示す図である。
ここでは、測定データを最小二乗法により2次式で近似し、測定データとの残差平方和を求めている。図3(a)によれば、残差平方和は2.74である。一方、図3(b)における異常な測定データは、異常サンプルの一例として凝固血液を測定した場合のデータであり、残差平方和は666.9である。正常と異常とでは残差平方和に大きな差がでるので、適当な値を閾値(規定値)とし、残差平方和と閾値(規定値)とを比較して、測定データの誤りの判定を行うことが可能となる。誤りと判定された場合は、測定結果は誤りであるとして結果を出力しないようにする。具体的には、例えば、CRP(C反応性蛋白)を測定する場合、残差平方和が閾値(規定値)10以上であれば異常、閾値(規定値)10以下であれば正常に測定されたと判断する。
なお、正常な測定データが取得されたときは、例えば、CRP(C反応性蛋白)濃度の測定の場合は、測定データのあらかじめ決めておいた2点間の吸光度から、吸光度変化量を算出する。例えば、測定開始から10点目と59点目の2点を抽出し、吸光度変化量を算出する。次に、算出された吸光度変化量を記憶されている検量情報(既知のCRP濃度に対応した吸光度変化量を予め測定し、変化量とCRP濃度との関係を収集したデータベース)からCRP濃度に換算を行う。こうして得られた測定結果は、表示部に出力されるとともに、プリンターで印字される。
【0019】
図4は、本実施形態に係る血液分析装置における、例えば、CRP濃度等の測定対象物質の濃度算出の処理手順を示すフローチャートである。
ステップS1においては、検体と試薬を混合する。ステップS2においては、検体と試薬の混合後の所定の混合期間を経て、検体と試薬との混合物の反応開始とともに、測定データを取得する。ステップS3では、取得された測定データから、最小二乗法により近似式を計算する。ステップS4では、近似式により算出された近似値と測定データの残差平方和を算出する。ステップS5では、残差平方和が規定値以下か否かを判定し、規定値以下でないときは、ステップS6において、測定結果に誤りがあるとして表示及び印字を行う。ステップS5において、残差平方和が規定値以下と判定されたときは、ステップS7において、測定データから吸光度の変化量を算出する。更に、ステップS8において、検量線から測定結果を算出する。最後に、ステップS9において、測定結果を表示及び印字する。
【符号の説明】
【0020】
1 電源スイッチ
2 プリンター
3 操作部
4 表示部
5 装置カバー
6 チップカバー
7 チップホルダー
8 混合手段
9 検出手段
10 測定手段
11 判定手段
111 第1の処理工程
112 第2の処理工程
113 第3の処理工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体と試薬を混合する混合手段と、前記混合された混合物の反応を検出する検出手段と、該検出手段から得られる電流、電圧、吸光度、蛍光強度の少なくともいずれか1つの変化から、前記検体中の特定の成分量を測定する測定手段とを有する血液分析装置において、
前記検出手段によって得られた測定データを用いて最小二乗法により近似式を求める第1の処理工程と、前記近似式から求めた値と前記測定データの値を比較して乖離度を求める第2の処理工程と、前記乖離度が規定値以上であるときは、測定データが誤り又は要注意であることを出力する第3の処理工程と、を含む判定手段を備えていることを特徴とする血液分析装置。
【請求項2】
前記第1の処理工程は、前記検体と前記試薬との混合期間を経た、前記反応の開始から終了までの全期間に対する一部期間において行うことを特徴とする請求項1に記載の血液分析装置。
【請求項3】
前記第2の処理工程における乖離度は、前記近似式から求めた値と前記測定データの値との残差平方和であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の血液分析装置。
【請求項4】
前記近似式は、多項式であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1つの請求項に記載の血液分析装置。
【請求項5】
前記検体と試薬との混合及び前記混合物の反応は、マイクロチップにおいて行われることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1つの請求項に記載の血液分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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