説明

血液分離フィルタ装置

【課題】血漿または血清だけでなく、全血試料も容易に提供でき、1つの血液分離フィルタ装置で血漿または血清と全血の双方を提供することを可能とする血液分離フィルタ装置を得る。
【解決手段】第1の開口3aと、第2の開口3bとを有し、血液が流れる流路が形成されている流路形成部材3の流路の一部に、導かれた血液を血球成分と血漿または血清とに分離する血液分離フィルタ部材5と、導かれた全血を貯留するための全血収容部材6とが備えられている、血液分離フィルタ装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液を血球と血漿または血清とに分離するための血液分離フィルタ部材が備えられた血液分離フィルタ装置に関し、より詳細には、単時間で、血液から血漿または血清を分離し得るだけでなく、例えば血球検査等に必要な全血をも採取することを可能とする血液分離フィルタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、臨床検査等においては、血液を、血球成分と血漿もしくは血清とに分離するための血液分離フィルタ装置が広く用いられている。例えば、下記の特許文献1には、この種の血液分離フィルタ装置の一例が開示されている。ここでは、血液が流れる流路を有する流路形成部材が備えられている。流路形成部材の流路に、血液を血球成分と血漿または血清とに分離する血液分離フィルタ部材が配置されている。さらに流路内においては、血液分離フィルタ部材の下流側に、血球成分の混入を防止する血球停止フィルタ部材が配置されている。加えて、血液分離フィルタ部材の下流に、血漿または血清に接触すると膨潤し、流路を閉塞する水膨潤性ポリマーからなる流路閉塞部材が配置されている。
【特許文献1】特許第3809457号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に記載の血液分離フィルタ装置を用いた場合には、煩雑な遠心分離操作を必要とすることなく、ヘマトクリット値や粘度が異なる様々な血液から、血漿や血清を確実に分離することができる。分離完了後に一定時間放置され、血液分離フィルタ部材や血球停止フィルタ部材に捕捉されている赤血球が破壊し、溶血が生じたとしても、上記水膨潤性ポリマーにより流路が閉塞されているので、溶血により生じた赤血球内の成分が血漿または血清へ混入しない。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の血液分離フィルタ装置では、上記のように、血液から血漿または血清を分離し、検体として採取することは可能であるが、全血試料を同時に取り出すことはできなかった。従って、特許文献1に記載のような従来の血液分離フィルタ装置を用いた場合、臨床検査に必要な全血試料を得るには、血液分離フィルタ装置以外に、別途全血試料を得るための血液試料採取容器を用意しなければならず、操作も煩雑にならざるを得なかった。
【0005】
本発明の目的は、上述した従来技術の現状に鑑み、血漿または血清だけでなく、血糖値や血球などの検査に必要な全血試料も提供することができ、ひとつの血液分離フィルタ装置で、血漿または血清と全血試料との双方を提供することを可能とする血液分離フィルタ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る血液分離フィルタ装置は、血液の入口である第1の開口と血液の出口である第2の開口とを有し、かつ血液が流れる流路が形成されている流路形成部材と、前記流路形成部材の前記流路の一部に配置されており、導かれた血液を血球成分と血漿または血清とに分離する血液分離フィルタ部材と、前記流路形成部材の流路の一部に配置されており、導かれた全血を貯留するための全血収容部材とを備えることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る血液分離フィルタ装置では、好ましくは、全血収容部材が上記血液分離フィルタ部材の上流側に配置されている。この場合には、まず流路形成部材の流路に導かれた血液の一部が全血収容部材により収容され、残りの血液が下流側の血液分離フィルタ部材側に導かれ、血液から血漿または血清が分離されることになる。従って、血液分離フィルタ部材に接触する前の清浄な全血を全血収容部材内に収容することができる。
【0008】
また、本発明に係る血液分離フィルタ装置では、血液収容部材が血液分離フィルタ部材の側方に、血液分離フィルタ部材及び全血収容部材が流路の横断面を満たすように配置されていてもよい。この場合においても、流路に導かれた血液のうち、血液分離フィルタ部材に導かれる血液とは別に、清浄な全血を全血収容部材に採取することができる。そして、血液分離フィルタ部材を通過もしくは到達していない清浄な全血から血漿または血清を分離することができる。
【0009】
本発明に係る血液分離フィルタ装置では、好ましくは、全血収容部材が流路形成部材の流路に取り外し可能に配置されている。従って、流路形成部材の流路が全血が収容された全血収容部材が取り出すことにより、検体としての全血を容易に提供することができる。
【0010】
本発明に係る血液分離フィルタ装置では、好ましくは、全血収容部材内に抗凝固剤が収容されており、この場合には、全血収容部材における血液の凝固を確実に防止することができる。
【0011】
本発明に係る血液分離フィルタ装置では、好ましくは、血液分離フィルタ部材の下流側に血球停止フィルタ部材が設けられ、該血球停止フィルタ部材により、血球成分の通過が防止される。従って、分離された血漿もしくは血清への血球の混入を防止することができる。
【0012】
本発明に係る血液分離フィルタ装置では、好ましくは、一端に開口を有し、かつ他端に底部を有する有底の管状容器がさらに備えられ、前記流路形成部材の前記第1の開口が管状容器の前記開口側となるように前記流路形成部材が前記管状容器に収容されており、流路形成部材の第1の開口及び管状容器の開口が栓体により気密封止されており、かつ内部が減圧にされている。この場合には、内部の減圧を利用して、流路形成部材の流路に血液分離フィルタ装置の外部から血液を速やかに導き、かつ血液分離フィルタ部材における分離を行うことができる。そして、血液分離フィルタ部材に容易に分離された血漿もしくは血清が、有底の管状容器の底部に採取され、全血収容部材には全血が収容される。従って、分離後には、上記流路形成部材を管状容器から取り出すことにより、全血収容部材に収容された全血を検体として容易に提供することができ、かつ管状容器の底部に採取された血漿または血清を同様に検体として容易に提供することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る血液分離フィルタ装置では、流路形成部材の流路内において、血液分離フィルタ部材だけでなく、全血収容部材が配置されているので、血液分離フィルタ部材の作用により、分離された血漿もしくは血清だけでなく、全血収容部材に収容された全血をも検体として提供することが可能となる。従って、一つの血液分離フィルタ装置を用意するだけで、血漿または血清だけなく、全血をも検体として提供することかできる。よって、血漿または血清と全血とを検体として用意する必要がある場合に、用意する器具の数を低減することができ、しかも血漿または血清とを全血とを検体として用意する作業を簡略化することができる。従って、血液検査の大幅なコストダウンを図ることができ、かつ検査従事者の業務の負担を軽減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0015】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る血液分離フィルタ装置を示す正面断面図である。
【0016】
血液分離フィルタ装置1は、有底の管状容器2を有する。管状容器2は、後述の適宜の合成樹脂またはガラス等の保形性を有する材料からなり、好ましくは内部を観察し得るため透明な材料で構成される。
【0017】
管状容器2は、一端に開口2aを有し、他端が閉じられている。他端の閉じられている部分、すなわち底部が血漿または血清を収容する検体収容部を構成している。
【0018】
管状容器2内には、流路形成部材3が挿入されている。流路形成部材3は、本実施形態では、筒状の形状を有し、上方に第1の開口3aを有する。第1の開口3aは、血液が導かれる側の入口を構成している。他端に、第2の開口3bが設けられている。開口3bは、分離された血漿もしくは血清の出口である。本実施形態では、第2の開口3bは、流路形成部材3の下方部分に設けられた底板部3cの中央から下方に突出形成された突出部3d内において上下方向に貫通している中空流路の下端により形成されている。すなわち、該中空流路が下端に開口している部分が第2の開口3bとされている。
【0019】
流路形成部材3は、管状容器2と同様に、適宜の合成樹脂またはガラスなどの保形性を有する材料からなる。本実施形態では、合成樹脂成形品からなる。もっとも、流路形成部材3は、合成樹脂成形品に限らず、複数の部材を接合すること等により形成されていてもよい。
【0020】
なお、本実施形態では、流路形成部材3は横断面が円形の形状を有する。そして、第1の開口3a及び管状容器2の開口2aを気密封止するように、栓体4が取り付けられている。栓体4は、ゴムまたはエラストマーなどの弾性材料からなる。栓体4は、大径部4aと、大径部4aよりも径の小さな中径部4bと、中径部4bよりも径の小さな小径部4cと、小径部4cよりもさらに径の小さい先端部4dとを有する。中径部4bが管状容器2の開口2a側から圧入されて、管状容器2内が気密封止され、かつ小径部4cが流路形成部材3の開口3a側から圧入されて、流路形成部材3の開口3aが気密封止されている。
【0021】
他方、流路形成部材3は、上記第1の開口3aと、第2の開口3bとの間に血液が流れる流路を形成している。この流路内において、血液分離フィルタ部材5が流路の一部において、横断面の全領域を占めるように配置されている。血液分離フィルタ部材5の上流側に、全血収容部材6が配置されている。また、血液分離フィルタ部材の下流側に血球停止フィルタ部材7が配置されている。
【0022】
血液分離フィルタ部材5は、導かれた血液を移動速度差により、血球成分と、血漿もしくは血清とに分離するように作用する適宜のフィルタ材料からなる。このような血液分離フィルタ部材5を構成する材料については後述する。
【0023】
全血収容部材6は、上記血液分離フィルタ部材5の上流側において、本実施形態では、血液分離フィルタ部材5の上流側端部5aと所定の間隙を隔てて配置されている。全血収容部材6は、本実施形態では、上方に開いた開口6aを有する筒状部6bを有する。この筒状部6は、略円筒状の形状を有し、開口6aに、栓体4の先端部4dが圧入され、開口6aが気密封止されている。
【0024】
従って、全血収容部材6は、栓体4の先端部4dが開口6a側から圧入されることにより、栓体4に一定かつ固定されている。
【0025】
筒状部6bの下端には、底板部6cが設けられている。底板部6cの中央において、筒状部6bの内部に向かって、すなわち上方に突出するように、筒状突出部6dが形成されている。筒状突出部6dは、中空貫通流路6eを有する。中空貫通流路6eは筒状突出部6dを貫通している。
【0026】
上記筒状突出部6dは、底板部6cの中央において上方に突出するように設けられている。従って、筒状突出部6dと、筒状部6bの内壁との間に、平面形状がドーナツ状の空間が形成される。このドーナツ状の空間が全血収容部6fである。
【0027】
上記全血収容部材6は、後述する適宜の合成樹脂またはガラス等により形成される。
【0028】
本実施形態では、全血収容部材6の底板部6cの下面は、血液分離フィルタ部材5の上端5aと間隙を隔てて配置されているが、血液分離フィルタ部材5の上流側端部5aに接触されていてもよい。もっとも、血液分離フィルタ部材5の端部5aにおいて、導かれた血液を端部5aの全領域に渡り導くには、本実施形態のように、端部5aが底板部6cの下面と間隙を隔てられていることが望ましい。
【0029】
また、全血収容部材6は、1つの筒状突出部6dを有するが、複数の筒状突出部6dを設け、各筒状突出部の側方の空間を全血収容部としてもよい。
【0030】
血球停止フィルタ部材7は、特許文献1に記載の血球停止フィルタ部材と同様に、赤血球などの血球成分の通過を防止する適宜のフィルタ材料からなる。血球停止フィルタ部材7は、本実施形態では、平坦なシート状の形状を有し、血液分離フィルタ部材5の下面に接触配置されている。なお、血液分離フィルタ部材5と血球停止フィルタ7は必ずしも接触している必要はなく、間隙が設けられていても良い。また、血球停止フィルタ7の下面は、底板部3cに接触している。すなわち、血球停止フィルタ部材7及び血液分離フィルタ部材5が、流路形成部材3内にこの順序で挿入され、底板部3c上に配置されている。ただし、血球停止フィルタ7の下面が底板部3cに完全に密着していると血清または血漿の流れ性を悪化するため、底板部に凹凸を設けるなどの適度な隙間を設けることが好ましい。
【0031】
次に、上記血液分離フィルタ装置1の各部材を構成する材料について説明する。
【0032】
管状容器2、流路形成部材3及び全血収容部材6は、前述したように、適宜の合成樹脂またはガラスなどにより形成することができる。このような材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、アクリロニトリル−スチレン共重合体もしくはエチレン−ビニルアルコール共重合体等の熱可塑性樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂もしくはエポキシ−アクリレート樹脂等の熱硬化性樹脂、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、エチルセルロース、エチルキチン等の変性天然樹脂、さらにソーダ石灰ガラス、リンケイ酸ガラスもしくはホウケイ酸ガラス等のケイ酸塩ガラスまたは石英ガラスなどのガラス及びこれらの一種を主成分とするもの、あるいはこれらの二種以上を組み合わせたもの等、従来公知のものが挙げられる。
【0033】
また、栓体4を構成する弾性材料としては、内部を気密封止し得る限り特に限定されず、天然ゴム、合成ゴムなどの各種ゴムまたは熱可塑性エラストマーを挙げることができる。なお、弾性材料の外表面を、金属箔、例えばアルミニウム箔などにより被覆してもよく、またアルミ蒸着シート等により被覆してもよい。
【0034】
血液分離フィルタ部材5は、前述したように、移動速度差により、血液から血球成分と、血漿もしくは血清とを分離する適宜の材料からなる。このような血液分離フィルタ部材5を構成する材料としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ウレタン、アクリル、レーヨン、ガラス等が挙げられる。
【0035】
血液分離フィルタ部材5としては、例えば上記素材を成形した繊維を不織布状に集積させたもの、上記素材を用いて連続孔が形成された連続気泡発泡体などの成形体、上記素材を成形した略球形の微粒子を細密充填構造となるように集積したもの、あるいはこの集積したものを焼結することにより一体成形したもの、上記素材を成形したフィルムに貫通孔を形成させたもの、あるいはフィルムの片面ないし両面にコロナ放電やプレス加工によりシボ加工したシートを多数枚積層したもの等が挙げられる。
【0036】
血液分離フィルタ部材5の平均孔径としては、移動速度差により血球成分と血漿若しくは血清との分離を可能とし、血球成分への障害、すなわち赤血球の破壊を防止するため、2〜10μmの範囲が好ましく、より好ましくは3〜8μmの範囲である。平均孔径が2μmよりも小さいと、血液分離フィルタ部材5に血球が目詰まりして濾過が阻害されたり、濾過時に血球成分への抵抗が大きくなり赤血球が破壊され易くなる。平均孔径が10μmを超えると、血球成分と、血漿若しくは血清との移動速度差が小さくなり、血球成分が短時間で流路閉塞部材に至り易くなる。平均孔径は、バブルポイント試験法(JIS K 3832)や電子顕微鏡による拡大画像を用いた実測法などにより計測される。
【0037】
血液分離フィルタ部材5の空隙率としては、実用可能な濾過時間を確保し得るためには、20〜97%の範囲にあることが好ましく、より好ましくは30〜95%の範囲である。空隙率が20%よりも低いと、濾過に長時間を要し、赤血球の破壊が生じ易くなる。空隙率が97%よりも高いと、血液分離フィルタ部材5の保形性が低下し、濾過時の圧力で血液分離フィルタ部材5が変形して孔径が変化することがあり、血液の分離が安定に行われないことがある。
【0038】
上記血球停止フィルタ部材7を構成する材料についても、赤血球の通過をし得る適宜のフィルタ材料を用いることをできる。このような材料としては、特に限定されないが、例えば、ポリビニリデンジフルオライド、ポリテトラフルオロエチレン、酢酸セルロース、ニトロセルロース、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ガラスファイバー、ボロシリケート、塩化ビニルまたは銀等を挙げることができる。
【0039】
血球停止フィルタ部材5が多孔質物質を用いて構成されていると、血漿または血清の通過が可能である。血球停止フィルタ部材5を構成する多孔質物質としては、赤血球の通過を防止できる範囲の孔径を有するものであれば、特に限定されるものではない。赤血球の通過を防止するためには、孔径は2μm以下であることが好ましい。孔径が小さいと、血液中のタンパク成分などにより目詰まりを起こす可能性があるため、孔径は0.05μm以上であることが好ましい。赤血球の通過を効果的に防止するためには、孔径は0.1〜1.5μmの範囲にあることがより好ましい。
【0040】
濾過の流速を高めるために、血球停止フィルタ部材5の表面は親水処理されていてもよい。親水処理の方法としては、プラズマ処理、親水性高分子によるコーティング等が挙げられるが、これらの方法に限定されず、他の方法を用いてもよい。
【0041】
血液分離フィルタ装置1内は、好ましくは減圧されており、内部の圧力は5〜90kPa程度とされている。従って、後述する使用方法から明らかなように、真空採血法により血液を血液分離フィルタ装置1内に速やかに導き、血液分離フィルタ部材5により濾過することができる。内部圧力が5kPaよりも低いと、圧力差が大きくなりすぎ、赤血球が破壊し、導かれた血液が溶血するおそれがあり、90kPaを超えると、圧力差による濾過が速やかに行われない可能性がある。
【0042】
なお、好ましくは、上記全血収容部材6の全血収容部6fには、抗凝固剤が収容されていることが望ましい。抗凝固剤としては、特に限定されないが、ヘパリン塩、エチレンジアミン四酢酸塩などの公知の抗凝固剤を用いることができる。このような抗凝固剤を収容する形態についても特に限定されず、全血収納部材6の全血収容部に抗凝固剤を散布したり、あるいは全血収容部材6の表面に抗凝固剤を付着させておく方法などを用いることができる。なお、血球検査に必要な全血試料が求められる場合には、抗凝固剤としてエチレンジアミン四酢酸塩を収容することが望ましいが、全血試料を用いた検査内容に応じて適宜の抗凝固剤を用いればよい。
【0043】
本実施形態では、上記全血収容部材6は、前述したように栓体4に固定され、一体化されているが、流路形成部材3に対しては、取り外し可能に配置されている。従って、本実施形態の血液分離フィルタ装置1によれば、血液から血漿もしくは血清と、全血とを検体として容易に採取することができる。これを図2の使用方法を参照しつつ説明することとする。
【0044】
図2(a)に示すように栓体4に中空針8を刺通し、血液を血液分離フィルタ装置1の流路形成部材3内に導く。中空針8は、真空採血針の血管に挿入される側の中空針とは反対側に位置している中空針であってもよく、あるいはシリンジ等に装着された中空針であってもよい。すなわち、シリンジに採取された血液を中空針8から血液分離フィルタ装置1に導いてもよく、真空採血法により直接血液を流路形成部材3内に導いてもよい。血液は流路形成部材3の血液の入口である開口3a側から導かれる。この場合、中空針8が、図2(b)に示すように、筒状突出部6dの貫通流路の上方に位置している場合、血液はまず貫通流路6eを経由して下方に流れ、血液分離フィルタ部材5の端部5a上に導かれる。
【0045】
図2(b)に示すように、さらに多くの血液が中空針8から導かれると、全血収容部材6の全血収容部6fにも血液が収容される。必要量の血液を流入させた後、一旦中空針8を抜去り、新たに別の中空針8を刺通することによって、栓体4と上流側端部5aの間の空間を大気圧にする。この操作によって血液分離フィルタ5の上流側と下流側に圧力差が生じ、濾過が進行する。
【0046】
その結果、図2(c)に示すように血漿または血清Aが血液分離フィルタ部材5及び血球停止フィルタ部材7を通過し、下方に採取されていく。他方、全血試料が上記全血収容部材6に収容されることとなる。図3(a)に示すように濾過が終了すると、下方の管状容器2の検体収容部に血漿もしくは血清Aが収容されて、上方の全血収容部材6の全血収容部6fに全血Bが収容されることとなる。
【0047】
しかる後、中空針8を引き抜き、次に図3(b)に示すように栓体4の中径部4bを管状容器2の開口2aから引き抜き、栓体4と共に流路形成部材3を取り外す。しかる後、図4(a)に示すように流路形成部材3の第1の開口3aから栓体4の小径部4cを引き抜く。その結果、栓体4と一体化されている全血収容部材6が栓体4と一体化した状態で分離される。よって、次に栓体4を全血収容部材6の開口6aから取り外すことにより、図4(b)に示すように、全血Bが全血収容部6fに収容された全血収容部材6を得ることができる。よって、全血を全血収容部材6の開口6aから容易に取り出し、血球検査等に提供することができる。他方、血漿もしくは血清Aについては、図3(b)に示したように管状容器2の下方の検体収容部に収容されているため、血漿または血清Aもまた、分析サンプルとして容易に取り出すことができる。
【0048】
図5(a)は、本発明の第2の実施形態に係る血液分離フィルタ装置11の正面断面図であり、(b)は(a)中のX−X線に沿う断面図である。血液分離フィルタ装置11は、第1の実施形態で用意した管状容器2と同様の構造の管状容器12を有する。管状容器12の開口12aには、栓体14が圧入されている。栓体14は、第1の実施形態の栓体4と同様の弾性材料からなる。栓体14は、大径部14aと、大径部14aよりも径の小さな中径部14bと、中径部14bよりも径の小さな小径部14cとを有する。
【0049】
管状容器12の開口12aに中径部14bが圧入されて、管状容器12の開口12a側が気密封止されている。また、流路形成部材13が、第1の実施形態の流路形成部材3と同様に、上方に第1の開口13aを有する。この開口13aに栓体14の小径部14cが圧入されて、第1の開口13a側が気密封止されている。
【0050】
流路形成部材13は、第1の実施形態で用いられている流路形成部材3と同様に筒状部材からなり、上方に上記第1の開口13aを有し、下端に底板部13cを有する。底板部13cの中央から下方に突出するように、突出部13dが設けられており、突出部13dには、上下方向に貫通している中空流路が設けられており、中空流路の下端開口が第2の開口13bとされている。ここまでは、流路形成部材13は、流路形成部材3と同様に形成されている。異なるところは、流路形成部材13では、底板部13cから上流側に延びるように仕切壁13eが形成されていることにある。仕切壁13eは、底板部13cの上面から上流側に延ばされているが、栓体14の小径部14cの下面には至らないように形成されている。仕切壁13eにより、仕切壁13eの一方側の空間と他方側の空間に流路が区分されている。そして、一方側の空間に、血液分離フィルタ部材15が配置されており、他方側の空間に全血収容部材16が配置されている。すなわち、血液分離フィルタ部材の側方に全血収容部材16が配置されている。仕切壁13eが設けられている流路部分において、横断面視した全領域を血液分離フィルタ部材15と、全血収容部材16とが占めるように形成されている。すなわち、仕切壁13eの一方側の空間では、導かれた血液の全てが血液分離フィルタ部材15の上流側の端部15a側に導かれ、他方側の空間では、全血収容部材16内に導かれるように構成されている。言い換えれば、血液が全血収容部材16を通過せずに、かつ血液分離フィルタ部材15を通過せずに、下方に流下することがないように構成されている。
【0051】
全血収容部材16は、流路形成部材13に対して取り外し可能に取り付けられている。
【0052】
全血収容部材16は、合成樹脂の成形品からなるが、合成樹脂またはガラスなどの適宜の材料からなる。
【0053】
血液分離フィルタ部材15の下面には、血球停止フィルタ部材17が配置されている。
【0054】
血液分離フィルタ部材15及び血球停止フィルタ部材17を構成する材料は、前述した実施形態の血液分離フィルタ部材5及び血球停止フィルタ部材7を構成する材料と同様である。全血収容部材16を構成する材料についても、前述した実施形態の全血収容部材6を構成する材料と同様に構成され得る。全血収容部材16は、本実施形態では、上方に開口16aを有する有底の筒状体からなる。従って、開口16a側から、全血が導かれ、内部に全血が収容されることとなる。
【0055】
本実施形態の血液分離フィルタ装置11の使用方法を図6〜図9を参照して説明する。まず、図6(a)に示すように図2(a)の場合と同様に、中空針8を栓体14に刺通し、血液を内部に導く。血液の一部は、全血収容部材16の開口16aから直ちに全血収容部材16内に導かれ、採取される。
【0056】
血液分離フィルタ装置11は、内部が5〜90kPa程度に減圧されている。従って、血液分離フィルタ部材15の上面に導かれた血液は、圧力差により濾過される。その結果、図6(b),(c)に示すように、濾過が進行し、血漿または血清Aが管状容器2の底部の検体収容部に採取される。
【0057】
しかる後、図7に示すように、管状容器12から栓体14の中径部14bを引き抜くことにより、栓体4と共に、流路形成部材13を取り外すことができる。従って、管状容器2内の血漿または血清Aを直ちに検体として提供することができる。
【0058】
しかる後、流路形成部材から栓体14を引き抜く。その結果、図8に示すように流路形成部材16の開口16aが開口される。しかる後、内部の全血収容部材16を引き抜けばよい。その結果、図9に示すように、全血収容部材16に収容されている全血Bを検体として提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る血液分離フィルタ装置の正面断面図である。
【図2】(a)〜(c)は、第1の実施形態の血液分離フィルタ装置の使用方法を説明するための各正面断面図である。
【図3】(a),(b)は、第1の実施形態の血液分離フィルタ装置の使用方法を説明するための各正面断面図である。
【図4】(a),(b)は、第1の実施形態の血液分離フィルタ装置の使用方法を説明するための各正面断面図である。
【図5】(a),(b)の第2の実施形態に係る血液分離フィルタ装置の正面断面図及び(a)中のX−X線に沿う断面図である。
【図6】(a)〜(c)は、第2の実施形態の血液分離フィルタ装置の使用方法を説明するための各正面断面図である。
【図7】第2の実施形態の血液分離フィルタ装置の使用方法を説明するための正面断面図である。
【図8】第2の実施形態の血液分離フィルタ装置の使用方法を説明するための正面断面図である。
【図9】第2の実施形態の血液分離フィルタ装置の使用方法を説明するための正面断面図である。
【符号の説明】
【0060】
1…血液分離フィルタ装置
2…管状容器
2a…開口
3…流路形成部材
3a,3b…第1,2の開口
3c…底板部
3d…突出部
4…栓体
4a…大径部
4b…中径部
4c…小径部
4d…先端部
5…血液分離フィルタ部材
5a…上流側端部
6…全血収容部材
6a…開口
6b…筒状部
6c…底板部
6d…筒状突出部
6e…中空貫通流路
6f…全血収容部材
7…血球停止フィルタ部材
8…中空針
11…血液分離フィルタ装置
12…管状容器
12a…開口
13…流路形成部材
13a…第1の開口
13b…第2の開口
13c…底板部
13d…突出部
13e…仕切壁
14…栓体
14a…大径部
14b…中径部
14c…小径部
15…血液分離フィルタ部材
15a…端部
16…全血収容部材
16a…開口
17…血球停止フィルタ部材
A…血漿もしくは血清
B…全血

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液の入口である第1の開口と血液の出口である第2の開口とを有し、かつ血液が流れる流路が形成されている流路形成部材と、
前記流路形成部材の前記流路の一部に配置されており、導かれた血液を血球成分と血漿または血清とに分離する血液分離フィルタ部材と、
前記流路形成部材の流路の一部に配置されており、導かれた全血を貯留するための全血収容部材とを備えることを特徴とする、血液分離フィルタ装置。
【請求項2】
前記全血収容部材が、前記血液分離フィルタ装置よりも前記流路において上流側に配置されている、請求項1に記載の血液分離フィルタ装置。
【請求項3】
前記流路形成部材の前記流路において、前記血液分離フィルタ部材の側方に前記全血収容部材が該流路の横断面を血液分離フィルタ部材及び前記全血収容部材が満たすように配置されている、請求項1に記載の血液分離フィルタ装置。
【請求項4】
前記全血収容部材が、前記流路形成部材に対して取り外し可能に前記流路内に配置されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の血液分離フィルタ装置。
【請求項5】
前記全血収容部材内に抗凝固剤が収容されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の血液分離フィルタ装置。
【請求項6】
前記血液分離フィルタ部材の下流側に配置されており、血球成分の通過を防止する血球停止フィルタ部材をさらに備える、請求項1〜5のいずれか1項に記載の血液分離フィルタ装置。
【請求項7】
一端に開口を有し、他端が閉じられた底部である有底の管状容器をさらに備え、前記流路形成部材の前記第1の開口が前記管状容器の前記開口側となるように前記流路形成部材が前記管状容器内に収容されており、
前記流路形成部材の第1の開口及び前記管状容器の開口を気密封止する栓体をさらに備え、内部が減圧されていることを特徴とする、血液分離フィルタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−279195(P2008−279195A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−128195(P2007−128195)
【出願日】平成19年5月14日(2007.5.14)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】