説明

血液分離容器および血液分離方法

【課題】血球と血漿または血清とを精度良く分離した状態で、かつ、簡易な操作で回収する。
【解決手段】一端が閉塞された筒状の遠心分離容器2と、該遠心分離容器2内に挿脱可能に挿入される両端が開放された筒状の内部筒体3とを備え、該内部筒体3の内部空間が、長手方向の途中位置に配置された血液分離剤4によって長手方向に区画されている血液分離容器1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、血液分離容器および血液分離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、血液から、血球もしくは血漿または血清を採取する方法として、血液を遠心分離などにより血球の層と血漿または血清の層とに分離して、各層を別々に回収する方法が用いられている。血球を採取したいときは、容器内から先に血漿層または血清層を排出してから残った血球層を回収する。
【0003】
また、血液中から赤血球を採取するために、赤血球を保持可能な保持層に血液を導入して保持層内から血漿または血清を吸収層により吸収して除去し、保持層に残された赤血球を回収する赤血球採取方法および装置が知られている(特許文献1参照。)。採取された赤血球は、例えば、糖尿病の合併症を診断するためソルビトノールの測定に用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2005/012557号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、血液を層分離させて血球を採取する場合、血漿または血清を完全に除去するのは困難であり、血球とその層の上に残った血漿または血清が再混合されやすい。したがって、このような採取方法では、ソルビトノール測定のように赤血球内の含有濃度を測定したい場合、測定試料に血漿または血清成分が混在して正確な測定結果を得ることができないという問題がある。
【0006】
また、血球層と血漿層または血清層との混合を防ぐために、血球と血漿または血清との間の比重を有し、遠心分離により血球層と血漿層または血清層との間に隔壁を形成する分離剤が用いられている。しかし、分離剤は血球層の上方に配置されるため、吸引管を挿入して吸引により血球を採取しようとすると吸引管内に分離剤が詰まり、血球を吸引することができないという不都合がある。
【0007】
また、特許文献1の場合、血漿または血清は回収されないので、血球と同時にこれらを分析等に用いることができないという問題がある。また、保持層に残された赤血球は、保持層ごと精製水内に移して採取される。しかし、自動で作業を行う検査装置等の場合、試料が固体状であると試料の輸送や精密な操作が困難である。したがって、装置による大量の検体検査等には用いることができないという課題がある。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、血球と血漿または血清とを精度良く分離した状態で、かつ、簡易な操作で回収することができる血液分離容器および血液分離方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、一端が閉塞された筒状の遠心分離容器と、該遠心分離容器内に挿脱可能に挿入される両端が開放された筒状の内部筒体とを備え、該内部筒体の内部空間が、長手方向の途中位置に配置された血液分離剤によって長手方向に区画されている血液分離容器を提供する。
【0010】
本発明によれば、遠心分離容器内に内部筒体を挿入し、内部筒体内に全血を導入すると、全血は、内部筒体内の血液分離剤上に貯留されるが、この状態で遠心分離容器および内部筒体を遠心分離容器の底部が半径方向外方に向かうようにして回転させることにより、比重の大きな血球成分が血液分離剤を透過して遠心分離容器の底部側に貯留され、比重の小さい血漿成分が血液分離剤を挟んで血球成分とは逆側に分離される。これにより、血液分離剤によって血球成分から完全に分離された血漿成分については血球成分と再混合されることなく回収することができる。また、その後に、遠心分離容器内から血液分離剤とともに内部筒体を取り出すことにより、遠心分離容器内に血球成分を残留させることができる。これにより、血液分離剤によって吸引管を詰まらせることなく血球成分を回収することができる。
【0011】
上記発明においては、前記血液分離剤が、チキソトロピー性ゲル状血液分離剤であってもよい。
このようにすることで、遠心力によってチキソトロピー性ゲル状血液分離剤を流動させて、血球成分と血漿成分との間に配置させ、血球成分と血漿成分とをより容易にかつ確実に分離することができる。
【0012】
また、上記発明においては、前記内部筒体の一端に、前記遠心分離容器内に挿入された状態で前記遠心分離容器の開放端に突き当たって、前記内部筒体の他端を前記遠心分離容器の底部に対して隙間をあけた位置に配置する突当て部を有していてもよい。
このようにすることで、遠心分離容器内に内部筒体を挿入すると内部筒体の一端に設けられた突当て部が、遠心分離容器の開放端に突き当たり、内部筒体の他端が遠心分離容器の底部に対して隙間をあけた位置に配置される。これにより、遠心分離容器と内部筒体との間に形成された筒状の隙間を介して内部筒体の先端側の空間が外部に連絡するので、遠心分離容器から内部筒体を取り出す際の内部筒体を引き上げる力によって、内部筒体の先端の空間が負圧になることを防止して、血液分離剤の脱落を防止することができる。
【0013】
また、上記発明においては、前記遠心分離容器が、その開放端に向かって漸次広がるテーパ状の拡管部を有していてもよい。
このようにすることで、遠心分離容器内への内部筒体の挿入を容易にすることができる。また、内部筒体にも開放端に向かって漸次広がるテーパ状の拡管部が設けられていてもよい。このようにすることで、全血の導入や血漿成分を吸引するための吸引管の挿入を容易にすることができる。
【0014】
また、上記発明においては、前記遠心分離容器の内径寸法が、6mm以下であることが好ましい。
このようにすることで、全血量が少量でも、血液分離剤によって分離される血漿成分および血球成分の深さ寸法を大きく確保することができ、血漿成分の自動吸引を容易にすることができる。
【0015】
また、上記発明においては、前記遠心分離容器の開放端側に配置される前記内部筒体の開放端に着脱可能に取り付けられた採血針を有していてもよい。
このようにすることで、内部筒体の開放端に取り付けた採血針を静脈に穿刺して血圧にて内部筒体内に全血を容易に導入することができる。全血を採血するためのシリンジが不要となり、作業が容易で、全血量が少量でも無駄にすることなく分離することができる。また、シリンジ等の医療廃棄物も削減することができる。
【0016】
また、本発明は、一端が閉塞された筒状の遠心分離容器内に、両端が開放されてその長手方向の途中位置に配置された血液分離剤によって長手方向に区画された内部筒体を挿入した状態で、内部筒体内に全血を導入する全血導入工程と、全血を収容した前記内部筒体および前記遠心分離容器を、その底部が半径方向外方に向かうように回転させる遠心分離工程と、前記血液分離剤の上方に分離された血漿成分を吸引して回収する血漿回収工程と、前記遠心分離容器内から前記内部筒体を取り出す内部筒体除去工程と、前記遠心分離容器内に残留する血球成分を回収する血球回収工程とを含む血液分離方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、血球と血漿または血清とを精度良く分離した状態で、かつ、簡易な操作で分離することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る血液分離容器を示す縦断面図である。
【図2】図1の血液分離容器の内部筒体内に全血を導入した状態を示す縦断面図である。
【図3】図1の血液分離容器内に導入された全血を遠心分離した状態を示す縦断面図である。
【図4】図3において血液分離容器内に分離された血漿成分を吸引回収する工程を説明する縦断面図である。
【図5】図3において血漿成分を吸引し終えた後に内部筒体を遠心分離容器内から引きだした状態を示す縦断面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る血液分離方法を説明するフローチャートである。
【図7】図1の血液分離容器の変形例を示す縦断面図である。
【図8】図1の血液分離容器の他の変形例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態に係る血液分離容器1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る血液分離容器1は、図1に示されるように、一端が閉塞され他端が開放された略円筒状(有底円筒状)の遠心分離容器2と、該遠心分離容器2内に挿脱可能に挿入され、両端が開放された略円筒状の内部筒体3とを備えている。
【0020】
遠心分離容器2および内部筒体3は、いずれもガラスあるいはポリエチレンテレフタレート等の透明材料によって構成されている。
内部筒体3には、その一端に遠心分離容器2の開放端2aに突き当たる外鍔状の突当て部3aが備えられている。遠心分離容器2の内側に内部筒体3を挿入してその突当て部3aを開放端2aに突き当てると、内部筒体3の他端3bが遠心分離容器2の底部2bから隙間をあけて配置されるようになっている。
【0021】
内部筒体3内には、その長手方向の途中位置に、チキソトロピー性ゲル状血液分離剤4が配置され、内部筒体3の内部空間がそのチキソトロピー性ゲル状血液分離剤4によって長手方向に2つに区画されている。チキソトロピー性ゲル状血液分離剤4は、全血A(図2参照。)内に含まれる血球成分B(図3参照。)より小さく、血漿成分C(図3参照。)より大きい比重を有している。
【0022】
このように構成された、本実施形態に係る血液分離容器1を用いた本実施形態に係る血液分離方法について以下に説明する。
本実施形態に係る血液分離方法は、図6に示されるように、遠心分離容器2内に内部筒体3を挿入した状態で、内部筒体3内に全血Aを導入する全血導入工程S1と、全血Aを収容した内部筒体3および遠心分離容器2を、その底部2bが半径方向外方に向かうように回転させる遠心分離工程S2と、チキソトロピー性ゲル状血液分離剤4の上方に分離された血漿成分Cを吸引して回収する血漿回収工程S3と、遠心分離容器2内から内部筒体3を取り出す内部筒体除去工程S4と、遠心分離容器2内に残留する血球成分Bを回収する血球回収工程S5とを含んでいる。
【0023】
すなわち、本実施形態に係る血液分離容器1を用いて全血Aから血球成分Bおよび血漿成分Cを分離回収するには、図1に示されるように、遠心分離容器2内に内部筒体3を挿入し、その突当て部3aを遠心分離容器2の開放端2aに突き当てておく。この状態で、図2に示されるように、内部筒体3内に遠心分離容器2の開放端2a側の開口から全血Aを導入する。
【0024】
内部筒体3内はチキソトロピー性ゲル状血液分離剤4によって上下に区画されているので、導入された全血Aはチキソトロピー性ゲル状血液分離剤4の上方の空間に貯留される。この状態で、遠心分離容器2を内部筒体3ごと図示しない遠心分離機に装着して遠心分離容器2の底部2bが半径方向外方に向かうように回転させることにより、全血Aに遠心分離容器2の底部2b側に向かう遠心力を作用させる。
【0025】
これにより、全血A内の比重の大きい血球成分Bが遠心分離容器2の底部2b側に移動し、それよりも比重の小さいチキソトロピー性ゲル状血液分離剤4、さらに比重の小さい血漿成分Cの順に内部筒体3内に底部2b側から分離される。
【0026】
すなわち、内部筒体3内には、チキソトロピー性ゲル状血液分離剤4を介して血球成分Bから完全に分離された状態の血漿成分Cが貯留されるので、図4に示されるように内部筒体3内に吸引管5を挿入して吸引することで、血球成分Bが混入していない血漿成分Cを分離回収することができる。
【0027】
血漿成分Cが分離回収された後に、図5に示されるように、遠心分離容器2内から内部筒体3を静かに引き出すことにより、内部筒体3がチキソトロピー性ゲル状血液分離剤4とともに遠心分離容器2内から取り出され、遠心分離容器2内には、血漿成分Cを含まない血球成分Bが残留状態に分離される。したがって、図示しない吸引管によって吸引することにより、血球成分Bについても、血漿成分Cを含まない状態で容易に分離回収することができる。
【0028】
この場合において、本実施形態によれば、突当て部3aを遠心分離容器2の開放端2aに突き当てることにより、内部筒体3の先端3bが遠心分離容器2の底部2bに接触しない位置に配置されるので、内部筒体3の先端3bと遠心分離容器2の底部2bとの間に密閉された空間ができることを防止でき、遠心分離容器2から内部筒体3を取り出す際に、その空間が負圧とならないようにすることができる。負圧が発生した場合には、その負圧に引かれてチキソトロピー性ゲル状血液分離剤4が内部筒体3から遠心分離容器2内に脱落してしまう不都合が発生する可能性があるが、負圧を発生させないことで、そのような不都合の発生を未然に防止することができる。
【0029】
なお、本実施形態においては、血液分離剤としてチキソトロピー性ゲル状血液分離剤4を採用したが、これに代えて、他の任意の血液分離剤を採用することにしてもよい。
また、遠心分離容器2および内部筒体3をそれぞれ円筒状としたが、これに限定されることなく、他の任意の断面形状の筒状に形成してもよい。
【0030】
また、本実施形態においては、遠心分離容器2および内部筒体3のいずれも直管状に形成したが、これに代えて、図7に示されるように、開放端2a側に向かって漸次広がるテーパ状の拡管部2c,3cを有するものを採用してもよい。このようにすることで、底部2b側の直管状部分の内径寸法を小さくしても、全血Aの導入や血漿成分C、血球成分Bを吸引するための吸引管5の導入を容易にすることができる。
【0031】
そして、この場合に直管状部分の内径寸法を小さくすること、例えば、遠心分離容器2の内径寸法を6mm以下に設定することにより、内部筒体3内に貯留される血漿成分Cおよび遠心分離容器2内に残留する血球成分Bが微量であったとしてもその深さ寸法を大きく確保することができる。その結果、吸引管5の挿入および吸引を自動化しても、確実に血球成分Bおよび血漿成分Cを吸引回収することができるという利点がある。
【0032】
また、本実施形態においては、図8に示されるように、遠心分離容器2に挿入された状態の内部筒体3に採血針6を着脱可能に取り付けることにしてもよい。
このようにすることで、内部筒体3に取り付けた採血針を患者あるいは動物の静脈に穿刺することにより、静脈内の血圧によって採血針6を介して内部筒体3内に全血Aを容易に導入することができる。
【0033】
その後、採血針6を取り外して、遠心分離および吸引を行うことにより、血漿成分Cおよび血球成分Bを相互に混合されないようにして分離回収することができる。
すなわち、このようにすることで、採血用のシリンジを別途用意する必要がなく、採血された血液がシリンジ内に残留して無駄になることを防止でき、少ない量しか採血できない場合においても、血液の無駄をなくして効果的に血球成分Bおよび血漿成分Cを分離回収することができるという利点がある。
【0034】
また、シリンジによる採血作業、内部筒体3内への移し替え作業が不要となり、作業量を大幅に削減して、簡易かつ短時間に血液の分離を行うことができる。また、シリンジを使用しないので医療廃棄物を削減することができるという利点もある。
【符号の説明】
【0035】
1 血液分離容器
2 遠心分離容器
2a 開放端
2b 底部
2c 拡管部
3 内部筒体
3a 突当て部
4 チキソトロピー性ゲル状血液分離剤(血液分離剤)
6 採血針
A 全血
B 血球成分
C 血漿成分
S1 全血導入工程
S2 遠心分離工程
S3 血漿回収工程
S4 内部筒体除去工程
S5 血球回収工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が閉塞された筒状の遠心分離容器と、
該遠心分離容器内に挿脱可能に挿入される両端が開放された筒状の内部筒体とを備え、
該内部筒体の内部空間が、長手方向の途中位置に配置された血液分離剤によって長手方向に区画されている血液分離容器。
【請求項2】
前記血液分離剤が、チキソトロピー性ゲル状血液分離剤である請求項1に記載の血液分離容器。
【請求項3】
前記内部筒体の一端に、前記遠心分離容器内に挿入された状態で前記遠心分離容器の開放端に突き当たって、前記内部筒体の他端を前記遠心分離容器の底部に対して隙間をあけた位置に配置する突当て部を有する請求項1に記載の血液分離容器。
【請求項4】
前記遠心分離容器が、その開放端に向かって漸次広がるテーパ状の拡管部を有する請求項1に記載の血液分離容器。
【請求項5】
前記遠心分離容器の内径寸法が、6mm以下である請求項1に記載の血液分離容器。
【請求項6】
前記遠心分離容器の開放端側に配置される内部筒体の開放端に着脱可能に取り付けられた採血針を有する請求項1に記載の血液分離容器。
【請求項7】
一端が閉塞された筒状の遠心分離容器内に、両端が開放されてその長手方向の途中位置に配置された血液分離剤によって長手方向に区画された内部筒体を挿入した状態で、内部筒体内に全血を導入する全血導入工程と、
全血を収容した前記内部筒体および前記遠心分離容器を、その底部が半径方向外方に向かうように回転させる遠心分離工程と、
前記血液分離剤の上方に分離された血漿成分を吸引して回収する血漿回収工程と、
前記遠心分離容器内から前記内部筒体を取り出す内部筒体除去工程と、
前記遠心分離容器内に残留する血球成分を回収する血球回収工程とを含む血液分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−169543(P2010−169543A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−12573(P2009−12573)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】