説明

血液成分回収用吸着材

【課題】迅速かつ高効率で未処理の血液などから線溶系成分を回収することができる血液成分回収用吸着材、血液成分回収用器材および血液成分の回収方法を提供すること。
【解決手段】線溶系成分との親和性を有するリガンドを親水性高分子化合物1gあたり50μmol以上の量で親水性高分子化合物に結合させてなり、平均粒径170μm以上を有することを特徴とする血液成分回収用吸着材、前記血液成分回収用吸着材を有する血液成分回収用器材、および前記血液成分回収用器材を用いることを特徴とする血液成分の回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液成分回収用吸着材、血液成分回収用器材および血液成分の回収方法に関する。さらに詳しくは、生体から取り出された血液から迅速に線溶系成分を回収するための血液成分回収用吸着材、血液成分回収用器材および血液成分の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血液成分の回収には、膜濾過、遠心分離、吸着などが用いられている。特に、吸着は、膜濾過および遠心分離と比べて目的の成分のみを回収することができることから、多くの研究者に利用されている。例えば、血液中の血栓溶解に関与する線溶系酵素であるプラスミノーゲンの精製には、セファロース−L−リジンを使用する方法(例えば、特許文献1参照)、リジン−ポリアクリルアミドゲルを使用する方法(例えば、特許文献2参照)などが提案されている。しかしながら、これらの方法に用いられる吸着材は、粒径が小さいために高粘度の血液を処理するときに詰まってしまい、目的の血液成分を迅速に精製することができないという欠点がある。
【0003】
また、他の血液成分回収用吸着材として、シリカビーズやセラミック媒体が提案されている(例えば、特許文献3および4参照)。しかし、これらの素材は、血液適合性における問題、すなわち血液凝固系を刺激することが一般的に知られており、血液凝固によって吸着材を使用することができなくなるおそれがある。さらに、血液凝固系の活性化に伴って血栓が生成すると同時に線溶系が活性化し、線溶系成分が消費されることから、線溶系成分の回収率が低下するため、線溶系成分の精製に適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第3,943,245号明細書
【特許文献2】米国特許第5,371,007号明細書
【特許文献3】米国特許第6,207,066号明細書
【特許文献4】米国特許第6,183,692号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、迅速かつ高効率で未処理の血液などから線溶系成分を回収することができる血液成分回収用吸着材、血液成分回収用器材および血液成分の回収方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
〔1〕線溶系成分との親和性を有するリガンドを親水性高分子化合物1gあたり50μmol以上の量で親水性高分子化合物に結合させてなり、平均粒径170μm以上を有することを特徴とする血液成分回収用吸着材;
〔2〕線溶系成分との親和性を有するリガンドがリジンである前記〔1〕記載の血液成分回収用吸着材;
〔3〕線溶系成分がプラスミノーゲンである前記〔1〕または〔2〕記載の血液成分回収用吸着材;
〔4〕血液が未処理の血液である前記〔1〕〜〔3〕いずれか記載の血液成分回収用吸着材;
〔5〕前記〔1〕〜〔4〕いずれか記載の血液成分回収用吸着材を有する血液成分回収用器材;並びに
〔6〕前記〔5〕記載の血液成分回収用器材を用いることを特徴とする血液成分の回収方法;に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の血液成分回収用吸着材、それが用いられた血液成分回収用器材および血液成分の回収方法によれば、未処理の血液などから迅速かつ高効率で線溶系成分を回収することができるという効果が奏される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明の好ましい実施態様を具体的に説明するが、本発明は、かかる態様のみに限定されるものではない。
【0009】
本明細書にいう「線溶系」とは、血液が異物と接触し、滞留することなどによって血液凝固が起こった際に、生成した血栓を溶解させるために働く生体機能のことをいう。線溶系成分としては、例えば、プラスミノーゲン、プラスミノーゲンアクチベーター、プラスミンなどが挙げられる。これらのなかでは、プラスミノーゲンは、プラスミンの前駆体であり、血液中から安定して回収することができるので、本発明において、好ましい線溶系成分である。
【0010】
本発明に用いられる親水性高分子化合物は、水、体液、血液などとの適合性に優れている。したがって、この親水性高分子化合物からなる吸着材は、血液有形成分、血漿タンパクの付着、凝血、溶血などや、血液凝固系の活性化、線溶系の活性化などを起こしがたいので、吸着材と体液、血液、血漿などとの接触により、これらが発生するのを防止するうえで好ましいものである。
【0011】
親水性高分子化合物としては、例えば、水に溶解する高分子化合物、水で膨潤する高分子化合物、水に湿潤しやすい高分子化合物などが挙げられる。これらを用いる場合には、例えば、グルタルアルデヒドなどのジアルデヒド類、トリレンジイソシアネートなどのジイソシアネート類、無水フタル酸、無水マレイン酸などの酸無水物、エチレングリコールグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルなどの多官能エポキシ化合物、あるいはエピクロロヒドリンなどの架橋剤を加えて架橋させて用いることが好ましい。
【0012】
親水性高分子化合物が有する官能基としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、第4級アミン基などの解離基を有する基、水酸基、アクリルアミド基、エーテル基などの非イオン性の親水基などが挙げられる。親水性高分子化合物における官能基の数は、目的とする血液成分をより多く吸着して回収するためには、多いことが好ましいが、その反面、多くなるにしたがって、固定化されたリガンドによる非特異的吸着を生じる傾向がある。したがって、親水性高分子化合物1gあたりの前記官能基の数は、50μmol以上、好ましくは50〜1000μmol、より好ましくは170〜500μmolであることが望ましい。
【0013】
親水性高分子化合物としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート類を重合させた親水性(メタ)アクリレート系高分子化合物;酢酸ビニルなどを重合させたポリビニルアルコール系高分子化合物;エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのエチレングリコール類を重合させたポリエチレングリコール系高分子化合物;前記ポリビニルアルコール系高分子化合物の存在下で、グリシジル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート類を重合させることによって得られた水酸基含有親水性(メタ)アクリレート系高分子化合物などが挙げられる。
【0014】
より具体的には、親水性(メタ)アクリレート系高分子化合物の例としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート−エチレングリコールジ(メタ)アクリレート共重合体、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられ、ポリビニルアルコール系高分子化合物の例としては、例えば、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体などが挙げられ、ポリエチレングリコール系高分子化合物の例としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリジエチレングリコール、式:HO(CH2CH2O)nH(式中、繰り返し単位は、あまりにも大きすぎると血液成分が粒子内の細孔部に進入しがたくなる傾向があるため、nは、好ましくは3〜500の数、より好ましくは3〜200の数、さらに好ましくは3〜100の数である)で表されるポリエチレングリコール高分子化合物などが挙げられ、また、水酸基含有親水性(メタ)アクリレート系化合物の例としては、例えば、ポリビニルアルコールの存在下で重合させることによって得られたグリシジル(メタ)アクリレート−エチレングリコールジ(メタ)アクリレート共重合体、ポリ酢酸ビニルの存在下で重合させることによって得られたグリシジル(メタ)アクリレート−エチレングリコールジ(メタ)アクリレート共重合体などが挙げられる。
【0015】
また、前記以外にも、2価のアルコールである式:HO−CmH2m-OH(式中、mは3〜6の整数であり、アルキレン基(CmH2m)は、直鎖状であってもよく分岐鎖であってもよい。OH基は、1級、2級および3級のいずれであってもよい)で表される化合物、3価のアルコールであるグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、4価のアルコールであるペンタエリスリトール、ジトリメチロールエタン、ジトリメチロールプロパン、エリスリトール、スレイトール、5価のアルコールであるリビトール、アラビニトール、キシリトール、6価のアルコールであるアリトール、ダルシトール、グルシトール、ソルビトール、マンニトール、アルトリトール、イジトールなどのアルコール類を重合させることによって得られたポリアルコール系高分子化合物が例示され、より詳細には、例えば、ポリグリセリン、ポケエリスリトール、ポリソルビトールなどが挙げられる。また、単糖類、二糖類、そしてマルチトールやラクチトールなどの二糖類を重合させることによって得られた高分子化合物が例示される。
【0016】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリ」は、「アクリ」および/または「メタクリ」を意味する。
【0017】
前記化合物は、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。これらの中では、グリシジル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート類を重合させることによって得られた親水性(メタ)アクリレート系高分子化合物;酢酸ビニルなどを重合させたポリビニルアルコール系高分子化合物;前記ポリビニルアルコール系高分子化合物の存在下で、グリシジル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート類を重合させることによって得られた水酸基含有親水性(メタ)アクリレート系高分子化合物がより好ましい。
【0018】
前記重合方法としては、例えば、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などが挙げられるが、本発明は、かかる重合法によって限定されるものではない。
【0019】
親水性高分子化合物の重量平均分子量は、高圧下や高流量下での構造破壊を防ぐ観点から、1000〜1000000、好ましくは3000〜800000であることが望ましい。
【0020】
親水性高分子化合物は、それ自体が親水性高分子化合物であってもよく、その表面が親水性材料で被覆された高分子化合物であってもよく、あるいは親水性材料を含有する高分子化合物であってもよい。
【0021】
親水性高分子化合物は、例えば、球状粒子、破砕状粒子などの任意の粒子形状で用いることができる。これらの形態の中では、吸着性を高めるには吸着物質との接触面積が大きいことが好ましいことから、球状粒子が好ましい。球状粒子には、非多孔性のゲル型のものと、多孔性のポーラス型のものとがあり、本発明ではいずれを用いることもできるが吸着物質との吸着性を高める観点から、ポーラス型のものがより好ましい。
【0022】
粒子の平均粒径は、比表面積を大きくして吸着性を高める観点および粘性の高い血漿または血液が通過するようにする観点から、170μm以上、好ましくは170〜1000μm、より好ましくは300〜900μmである。前記平均粒径は、精密粒子分布測定装置(ベックマンコールター社製、商品名:コールターマルチサイザーII)で測定した粒子の粒度分布において、粒子数が最も多い粒子の粒径を意味する。
【0023】
本発明に用いられるリガンドとしては、例えば、シリカ,珪酸などの無機化合物、ジエチルアミノエチル,トリメチルアミノメチルなどの有機化合物、塩基性アミノ酸、抗体などの生体由来物質などが挙げられる。これらの中では、生体由来物質が好ましく、塩基性アミノ酸がより好ましい。塩基性アミノ酸としては、リジン、アルギニンおよびヒスチジンが挙げられ、なかでもリジンが好ましい。
【0024】
本発明の吸着材は、リガンドを親水性高分子化合物に化学的に結合させることによって得られる。
【0025】
リガンドを親水性高分子化合物に化学的に結合させる方法としては、例えば、親水性高分子化合物に存在する反応性基、例えば、水酸基をエピクロロヒドリンでエポキシ化、無水コハク酸でカルボキシル化、あるいはN−ヒドロキシスクシンイミドでアミド化させた後、リガンド上に存在する反応性基と化学反応させる方法などが挙げられるが、本発明は、かかる方法のみに限定されるものではない。
【0026】
親水性高分子化合物に結合されるリガンドの量は、所望の血液成分をより多く吸着し、回収する観点から、親水性高分子化合物1gあたり50μmol以上、好ましくは170μmol以上であり、一方、リガンドの量が多くなるにしたがって非特異的吸着を生じる傾向があるので、親水性高分子化合物1gあたり1000μmol以下、好ましくは500μmol以下であることが望ましい。これらの観点から、親水性高分子化合物に結合されるリガンドの量は、親水性高分子化合物1gあたり50μmol以上、好ましくは50〜1000μmol、より好ましくは170〜500μmolである。
【0027】
親水性高分子化合物に結合しているリガンドの量は、例えば、リガンドがリジンである場合を例にとると、リジンの量は、第14改正日本薬局方に記載のセミミクロケルダール法により一定重量の吸着材に含有されている窒素原子の量を定量し、その定量された窒素原子の量からリジン量を算出することができる。
【0028】
かくして本発明の血液成分回収用吸着材が得られる。なお、本明細書において、血液成分とは、未処理の血液、血漿、血清などを意味し、これらのいずれの成分も本発明の吸着材を用いて処理することができるが、迅速に線溶系成分の回収を行う観点から、未処理の血液が好ましい。
【0029】
本発明の血液成分回収用吸着材は、例えば、カラムなどに充填し、該カラム内に血液や血漿などの血液成分を通過させることにより、使用に供することができる。また、本発明の血液成分回収用吸着材は、例えば、血液成分回収用器材に好適に用いることができる。
【0030】
なお、前記血液成分回収用器材は、例えば、血液成分回収用吸着材、目的成分以外の成分を洗浄するための洗浄液、目的成分を吸着材から離脱させるための溶出液、吸着材と洗浄液と溶出液とを充填するための容器、および採血用器具で構成させることができる。かかる血液成分回収用器材の例としては、本発明の血液成分回収用吸着材、該吸着材を充填した樹脂製容器、洗浄用緩衝液、血液成分溶出用薬剤を含む緩衝液、これらの溶媒を充填する注射用シリンジおよび採血用注射針付きシリンジを備えた器材である。これらの器材は、それぞれを連結させて用いることが好ましいが、連結させずに用いてもよい。また、必要に応じて、他の溶媒、容器、器具などを付加させて用いてもよい。
【0031】
前記血液成分回収用器材の具体例としては、吸着材が充填されたメス型ルアーロック口(入口)およびオス型ルアーロック口(出口)を有する樹脂製円筒型カラム、血液の凝固を防ぐ抗凝固剤を含むオス型ルアーロック口を有する採血用シリンジ、非吸着血液成分を洗浄するための洗浄液を充填したオス型ルアーロック口を有するシリンジ、吸着した血液成分を溶出するための溶出液を含むルアーロック口を有するシリンジ、カラムを通過した血液および洗浄液を廃棄するためのオス型ルアーロック口を有する廃液用シリンジ、吸着物質が含まれている溶出液から溶出用薬剤を除くための脱塩液を含むオス型ルアーロック口を有するシリンジなどから構成される。
【0032】
なお、使用に際し、本発明の血液成分回収用吸着材および血液成分回収用器材は、あらかじめ滅菌した後に使用することが好ましい。滅菌方法としては、例えば、オートクレーブによる滅菌方法、放射線の照射による滅菌方法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0033】
本発明の血液成分回収用器材を用いれば、血液成分を容易に回収することができる。
【0034】
従来、血液成分の回収方法として、吸着材を充填した開放系のガラスまたは樹脂製カラム内に、スポイドなどで少量ずつ血液、洗浄液および溶出液を注入し、目的の血液成分を回収する方法が採られている。
【0035】
これに対して、本発明の血液成分の回収方法によれば、本発明の血液成分回収用器材を用いることにより、迅速かつ簡便に、効率よく血液成分を回収することができる。
【0036】
本発明の血液成分の回収方法は、前記血液成分回収用器材を用いることによって実施することができる。より具体的には、以下のようにして行うことができる。例えば、患者から血液を採血用シリンジに採血し、この採血用シリンジを吸着材が充填されたメス型ルアーロック口(入口)およびオス型ルアーロック口(出口)を有する樹脂製円筒型カラムの入口に接続し、血液をカラムに流し、目的の血液成分をカラム内に吸着させる。その後、採血用シリンジを外し、例えば、塩化ナトリウムを含むリン酸緩衝液などの洗浄液が入った洗浄用シリンジに交換してカラム入口に接続し、洗浄液を流して目的成分以外の血液を除去する。
【0037】
次に、洗浄用シリンジを取り外して血液成分溶出用薬剤を含む溶出液、例えば、ε-アミノカプロン酸を含むリン酸緩衝液が入った溶出用シリンジをカラム入口に接続し、カラムに溶出液を流し、目的の血液成分を溶出させる。この溶出液を採取することにより、血液成分を回収することができる。
【実施例】
【0038】
次に本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0039】
なお、各実施例および各比較例で得られた吸着材のリジン固定化量は、第14改正日本薬局方〔窒素定量法(セミミクロケルダール法)〕に従って測定した。また、各実施例および各比較例で得られた吸着材の平均粒径は、精密粒子分布測定装置(ベックマンコールター社製、商品名:コールターマルチサイザーII)で測定した粒子の粒度分布において、粒子数が最も多い粒子の粒径とした。
【0040】
製造例1
グリシジルメタクリレート64.2g、エチレングリコールジメタクリレート13.0gおよび開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)1.35gを酢酸エチル128gと酢酸n−ブチル43gとの混合溶媒に添加して攪拌し、混合溶液を得た。
【0041】
一方、鹸化度88%、重合度20000のポリビニルアルコール15.2gと硫酸ナトリウム5.4gを水300gに溶解させて60℃に加温した。得られたポリビニルアルコール水溶液を攪拌しながら、この水溶液に前記混合溶液を投入し、60℃の温度を保ちつつ約15時間重合を行った。
【0042】
次に、生成した粒子をあらかじめ濾紙を敷いておいたヌッチェ上に移し、ポリビニルアルコール水溶液を濾別した。その後、粒子容量に対して10倍量のジオキサンで生成した粒子を洗浄し、得られた多孔性の粒子(水酸基含有親水性メタクリル酸エステル系高分子化合物の粒子)を回収した。
【0043】
実施例1
製造例1と同様にして得られた多孔性の粒子を分級し、粒径170μm以上の粒子を回収した(平均粒径:208μm)。回収した粒子10g、純水10gおよびエピクロルヒドリン10gを300mL容の三つ口フラスコ内に入れ、これに攪拌棒を取り付けた後、40℃に設定したオイルバスに漬けてゆっくりと攪拌し、懸濁液を得た。
【0044】
これとは別に、200mL容のフラスコ内に水酸化ナトリウム40gおよび純水60gを入れ、水酸化ナトリウムを溶解させて水酸化ナトリウム水溶液を得た。
【0045】
得られた水酸化ナトリウム水溶液をペリスタポンプを用いて前記で得られた懸濁液に1時間かけて滴下し、滴下を終了後、さらに1時間にわたって攪拌を継続し、粒子表面のエポキシ化を行った。エポキシ化の終了後、ガラスフィルタを用いて粒子を回収し、次いで純水で洗浄した。
【0046】
以上のようにして得られた平均粒径が208μmの粒子表面がエポキシ化された粒子10gを300mL容の三つ口フラスコ内に入れ、純水20gを加えて室温下で12時間攪拌した。攪拌終了後、得られた懸濁液を濾過することにより、水分を取り除いた後、このフラスコ内に50mmol/Lリジン溶液20gを加えて攪拌した後、pH試験紙を用いてそのpHを測定したところ、pHは11以上であった。
【0047】
次に、このフラスコを40℃に設定したオイルバスに漬けて一晩にわたり攪拌することにより、リジンを粒子に結合させた。その後、ガラスフィルタを用いて粒子径が170μm以上の微粒子を回収し、0.5M塩化ナトリウムを含む0.1Mトリス緩衝液(pH8.0)10mLに、この微粒子を浸漬して25℃の温度で1時間振盪した後、前記トリス緩衝液を50mMリン酸緩衝液(pH7.2)で置換することにより、吸着材(平均粒径208μm)を得た。
【0048】
得られた湿潤状態の吸着材の容量をメスシリンダーで計量した後、ポリエチレン製カラム(直径8mm、長さ25mmの円筒形、ルアー接続部を有するキャップつき)内に充填し、吸着器を得た。
【0049】
比較例1
製造例1と同様にして得られた多孔性の粒子を分級し、粒径50μm以上の粒子を回収した(平均粒径:64μm)。回収した粒子を用いて実施例1と同様の操作を行い、吸着材を得た。
【0050】
得られた湿潤状態の吸着材の容量をメスシリンダーで計量した後、前記と同様のカラム内に充填し、吸着器を得た。
【0051】
比較例2
アガロースを母体とする樹脂〔アマシャムバイオサイエンス(株)製、商品名:リジン−セファロース4B〕1mLの吸着材を50mMリン酸緩衝液(pH7.2)で置換した後、得られた湿潤状態の吸着材の容量をメスシリンダーで計量し、次いで前記と同様のカラム内に充填し、吸着器を得た。
【0052】
比較例3
シリカを母体とするエポキシ活性化シリカビーズ〔ミリポア社製、商品名:プロテイン・パック(Protein-Pack)〕を100mMリン酸緩衝液(pH8.0)に5分間浸漬し、過剰の緩衝液を取り除く操作を2回繰り返した後、シリカビーズを回収した。
【0053】
次に、溶解後の濃度が20mMとなるようにリジンを100mMリン酸緩衝液(pH8.0)に溶解させた溶液中に、前記シリカビーズを浸漬して50℃で5日間振盪した後、1Mエタノールアミンを含有する100mMリン酸緩衝液(pH8.0)に4℃の温度で48時間浸漬し、100mMリン酸緩衝液(pH8.0)で1回、1M塩化ナトリウム水溶液で4回、さらに100mMリン酸緩衝液(pH8.0)で1回洗浄することにより、吸着材を得た。
【0054】
比較例4
吸着材として、実施例1と同様の方法でリジンを固定化したポリヒドロキシメチルメタクリレート粒子(平均粒径:18μm)1mLを50mMリン酸緩衝液(pH7.2)で置換した後、湿潤状態でその樹脂の容量をメスシリンダーで計量した後、前記と同様のカラム内に充填し、吸着器を得た。
【0055】
以下の各実験例に用いる血液成分回収処理前の血漿および未処理の血液のプラスミノーゲン活性は、下記の方法で測定したところ、それぞれ、22.1、24.7であった。
【0056】
実験例1
前記実施例または比較例で得られたカラム内に、流量0.2mL/min、2.0mL/minまたは5.0mL/minで、ヒト血漿10mLまたは未処理の血液20mLを流し、カラムの出口で血漿または血液を採取した。
【0057】
採取した血漿、または採取した血液を遠心分離することによって得られた血漿200μLとストレプトキナーゼ100μLとを混合し、37℃の温度で5分間インキュベートした後、第一化学薬品(株)製、テストチーム(登録商標)品番:PLG−2キットを用いてプラスミノーゲン活性を調べた。その結果を表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
表1に示された結果から、実施例1によれば、いずれの流量においても通過血漿中のプラスミノーゲン活性(波長405nmにおける吸光度)が1.0未満と小さく、効率よくプラスミノーゲンを回収することができるとともに、未処理の血液からもプラスミノーゲンを効率よく回収することができることがわかる。
【0060】
一方、比較例1によれば、流量2mL/min以上でも通過血漿中のプラスミノーゲン活性(波長405nmにおける吸収度)が1.0未満と小さかったものの、未処理の血液では、血液が吸着材中で詰まってしまうため、吸着材を通過させることができず、プラスミノーゲンを回収することができなかった。
【0061】
比較例2、3および4では、0.2mL/min以上の流量で通過血漿中のプラスミノーゲン活性(波長405nmにおける吸収度)が高いが、未処理の血液に対しては、比較例1と同様に、血液が吸着材中で詰まってしまうため、吸着材を通過させることができず、プラスミノーゲンを回収することができなかった。
【0062】
実験例2
溶血の有無およびその程度を検討するために、実施例1および比較例1〜4で得られた吸着器内に、流量0.2mL/minで血液20mLを流し、その際の通過血液中の増加ヘモグロビン(HGB)量を測定した。その結果を表2に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
表2に示された結果から、実施例1では、通過血液中のHGB量が臨床で溶血と判断される20mg/dL以下であり、溶血が起こっていないことが示唆されていることがわかる。
【0065】
一方、比較例1〜4においては、未処理の血液では、血液が吸着材中で詰まってしまい、血液を通過させることができず、溶血ヘモグロビン(HGB)量を測定することができなかった。
【0066】
実験例3
各実施例および各比較例で得られた吸着器内に、流量2.0mL/minで血漿および血液を流した後、それぞれ同じ流量で0.5M塩化ナトリウムを含有する50mMリン酸緩衝液(pH7.2)10mL、さらに0.2Mε−アミノカプロン酸と0.1M塩化ナトリウムを含有する50mMリン酸緩衝液(pH7.2)10mLを流し、吸着器の出口で0.2Mε-アミノカプロン酸と0.1M塩化ナトリウムを含有する50mMリン酸緩衝液(pH7.2)を採取し、式:
〔回収率〕
=〔(プラスミノーゲン活性A)÷(プラスミノーゲン活性B)〕×100
(式中、プラスミノーゲン活性Aは、吸着器の出口で採取した0.2Mのε−アミノカプロン酸と0.1Mの塩化ナトリウムを含有する50mMリン酸緩衝液(pH7.2)のプラスミノーゲン活性、プラスミノーゲン活性Bは、吸着器に流した血漿または血液のプラスミノーゲン活性を示す)
に基づいて、プラスミノーゲン活性から血漿または未処理の血液中からのプラスミノーゲンの回収率を求めた。その結果を表3に示す。
【0067】
【表3】

【0068】
表3に示された結果から、実施例1では、血漿系だけでなく未処理の血液系においても50%の良好なプラスミノーゲンの回収率が示されることがわかる。一方、比較例1、2および4では、血漿系においてはほぼ同等のプラスミノーゲンの回収率が示されるものの、未処理の血液系において血液が吸着材中で詰まり、プラスミノーゲンの効率的な回収を行うことができないことがわかる。また、比較例3では、血漿系においては、吸着材の生体適合性が低いために、プラスミノーゲンが消費されて回収率が低下し、未処理の血液系においては、比較例1、2および4と同様に、血液が吸着材中で詰まり、プラスミノーゲンの効率的な回収を行うことができないことがわかる。
【0069】
なお、本発明の態様として、以下のものが挙げられる。
〔1〕 線溶系成分との親和性を有するリガンドを親水性高分子化合物1gあたり50μmol以上の量で親水性高分子化合物に結合させてなり、平均粒径170μm以上を有することを特徴とする血液成分回収用吸着材。
〔2〕 線溶系成分との親和性を有するリガンドがリジンである前記〔1〕記載の血液成分回収用吸着材。
〔3〕 線溶系成分がプラスミノーゲンである前記〔1〕または〔2〕記載の血液成分回収用吸着材。
〔4〕 親水性高分子化合物が水酸基含有親水性(メタ)アクリレート系高分子化合物である前記〔1〕〜〔3〕いずれか記載の血液成分回収用吸着材。
〔5〕 水酸基含有親水性(メタ)アクリレート系高分子化合物が親水性メタクリル酸エステル系高分子化合物である前記〔4〕記載の血液成分回収用吸着材。
〔6〕 血液が未処理の血液である前記〔1〕〜〔5〕いずれか記載の血液成分回収用吸着材。
〔7〕 前記〔1〕〜〔6〕いずれか記載の血液成分回収用吸着材を有する血液成分回収用器材。
〔8〕 前記〔7〕記載の血液成分回収用器材を用いることを特徴とする血液成分の回収方法。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の血液回収用吸着材、血液成分回収用器材および血液成分の回収方法は、いずれも、血液から迅速に線溶系成分を回収するのに有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線溶系成分との親和性を有するリガンドを親水性高分子化合物1gあたり50μmol以上の量で親水性高分子化合物に結合させてなり、平均粒径170μm以上を有することを特徴とする血液成分回収用吸着材。
【請求項2】
線溶系成分との親和性を有するリガンドがリジンである請求項1記載の血液成分回収用吸着材。
【請求項3】
線溶系成分がプラスミノーゲンである請求項1または2記載の血液成分回収用吸着材。
【請求項4】
血液が未処理の血液である請求項1〜3いずれか記載の血液成分回収用吸着材。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか記載の血液成分回収用吸着材を有する血液成分回収用器材。
【請求項6】
請求項5記載の血液成分回収用器材を用いることを特徴とする血液成分の回収方法。

【公開番号】特開2010−260052(P2010−260052A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−168247(P2010−168247)
【出願日】平成22年7月27日(2010.7.27)
【分割の表示】特願2004−328244(P2004−328244)の分割
【原出願日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(301069384)クラレメディカル株式会社 (110)
【出願人】(504417733)
【Fターム(参考)】